百獣の海王シ・シャーク 【B級サメ小説シリーズ】   作:?がらくた

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今まで見た映画の中で一番つまらなかったのが、伝説の映画デビル・シャークでした。
なので、皆さんにも視聴をおすすめします!



第3話 サメがロクにでないのが、B級サメ映画

次の日

 

 

 

シ·シャークを始末した翌日、斬人の銀行口座には、きっちりと報酬が振り込まれていた。

本当にこれで、白鰐団地の問題が片付いたのか。

一抹の不安があったものの、気持ちに区切りをつけるべく、斬人とシャーコは事務所で食事会を開いていた。

 

「結局シ・シャークは、遺伝子操作で生まれたみたいダネ。隣町の研究所から脱走したらしいヨ」

「……また遺伝子操作かよ。だいたい遺伝子操作とか、成長ホルモンとか、密輸中に脱走とかで、サメの化け物が野に放たれるんだろ。もう慣れたわ。B級映画のお約束だし」

「斬人からしたら、あ、これB級映画で見た展開だ、って感じなのカナ?」

 

シャーコの一言に、斬人は肯定するように頷く。

 

「世の中、マッドサイエンティストが多すぎるんだよ。ま、そのお陰で食いはぐれることはないけどよ」

「私たちにとってはありがたいネ。犠牲者の人には申し訳ないケド」

「まぁいいや、焼肉食おうぜ」

 

テーブルの上には、スーパーで買いこんだ肉がずらりと並ぶ。

夏も間近に迫り、食欲が日に日に減退してくる。

けれどこういう時こそ肉で精をつけて、明日への活力を養うべきなのだ。

 

「うわ、安物のオニクは脂身がすごいネ……」

「いつも食いたいもん好きなだけ食ってるのに、脂身とか気にすんなよ。お前が食わねぇなら、俺様一人で平らげるぞ」

「それもそっか。ね、食べる時くらい腰の刀、いらないんじゃないノ?」

「いや、ダメだ。いつサメが出てくるかわからないし」

「神経質ダネ。斬人は」

 

プレートに置かれた肉は、ジュウジューと音を立てて焼けていく。

部屋中に香ばしい匂いが漂うと、ただでさえ暑い室内に、更に熱気がこもる。

斬人はたまらず、クーラーの温度を下げた。

 

「オニク、早く焼けろーっ」

 

待ち切れないシャーコは、隙間なくプレートに並んだ肉を凝視しながら呟く。

斬人はそんな彼女を生暖かい眼で見つめつつ、落ち着くように諭す。

 

「シャーコ。物事を楽しんだりするのは待つ時間が大事なんだ。ゲームも発売日まで情報集めする時間が楽しいし、カレーも寝かせた方が旨いだろ?」

「それ、寝かせてる間に雑菌が繁殖するから止めた方がいいヨ。夏場は食中毒、怖いモン」

「え、マジで? 俺様は雑菌を食べてたの?」

「マジ」

 

衝撃の事実を聞かされた斬人は黙りこむ。

雑菌の温床と化したカレーを食べてきても、今のところ体に問題はないが、彼女に言われ不安になった。

今までに食べたカレーのことを彼が考えていると、シャーコの割り箸が根こそぎ奪い取る。

 

「オニクもーらいっ!」

「俺様の動揺を誘い、肉を奪うとは。やるな、シャーコ。好き嫌いせず野菜も食えよ」

「エー、嫌ダ。斬人が食べてヨ」

「毎回、俺様を野菜担当にするのやめろや。ったく……」

 

斬人はプレートに残った僅かな肉を、タレで満たされた小皿に入れる。

焼き肉のタレを直接ご飯にぶっかけるのも、品はないが白米を食べるのに悪くない食べ方だ。

だが焼いた肉の肉汁と脂が溶け込んだタレをつけてこそ、焼き肉に合うご飯は完成する。

黄金色に染まった白米を勢いよく搔き込むと、斬人は頬をハムスターのように膨らませた。

 

「うんめぇ~。やっぱ肉には白米だな。サメ映画とポップコーンくらい、鉄板の組み合わせだ」

「yes!」

「そういや忘れてたんだけどよ。飯のお供に欠かせないものといえば……」

「生ビール、それともチューハイ?」

「ジュラシック・ツインヘッド・デビルシャーク~悪魔の巨大双頭サメ~。やっぱこれでしょ~」

 

パッケージには食欲も2倍?! サメ界に地獄の番犬オルトロス参戦! という文言が書かれていた。

煽り文句には、その手の映画が好きな人々が好みそうな腐臭を漂っている。

そのDVDを見るや否や、シャーコは落胆の溜め息を漏らす。

 

「……ハァ」

「なんか言えよ、シャーコ。ありがとうございます、斬人様くらい言えるだろ。最低限の礼儀も教わってねーのか?」

「食欲が失せたヨ。ここまで馬鹿とは思わなかったケド」

「俺様は酒が飲めないからないぞ。自腹で買ってこい……と言いたいところだが、お前が飲むかと思って、1本だけな」

 

さすがに焼き肉に酒も飲めないのは、味気ないだろう。

ぶっきらぼうにビールを彼女に差し出すと、シャーコは瞳に涙を浮かべて、彼を見つめた。

 

「……斬人ーーーっ!」

「うおっ、ちょっ、やめろ! バカヤロー、シャーコ! 命が惜しくないのか!!!」

 

シャーコが斬人に抱き着いた刹那―――ガラス窓を突き破って二匹、フローリングから一匹、サメが斬人とシャーコに向かって、飛びかかってきた。

このままだと、二人とも食われてしまう。

 

「サメよ。時に悪魔の化身と一体となって海の生きとし生けるもの、捕らえん。究極呪文―――アルバ=トロス!」

 

呪文を叫ぶと、タコの触手が襲ってきた三体のサメを背後から捕らえ、二人はなんとか事なきを得る。

突然のサメの強襲に、シャーコはうずくまりながら、彼に問いたずねた。

 

「な、なんで急にサメが四方八方から出てきたノ?」

「知らないのか、男女がイチャついたらサメが寄ってくるんだって。クリスマスとバレンタインにサメの雨が降るのは、この国の常識だぞ」

 

四方を海に囲まれた島国である日本も当然、サメに支配されていた。

一説では国会議員や警察官僚、裁判官の約半数が、サメと人間のハーフだと言われている。

 

「ふーん、そんな国に住んでるのに動じないジャップはすごいネ」

「自分を生み出したマッドサイエンティストや、仲のいい男女カップルを優先的に食い殺す。それがサメの習性だ。サメは人を襲わないとか血に寄ってくるとか、研究者どもの嘘っぱちだからな。俺様の言うことが全て正しい。俺様が神様だ」

「斬人が神様だったら、地球の生物が全部サメにナリソウ」

「これでわかったろう。日本は安全な国じゃないんだ。シャーコも胸に刻んでおけ。それより壁とフローリング、また修理しねーといけないな」

 

斬人の視線の先には、ガラスの破片があちこちに散らばっている。

フローリングにできた大きな穴を覗き込むと、深い闇がどこまでも続いていた。

しかし、こんな生活にも慣れた斬人は別段動じることなく、胡坐を組み直すと、シャーコに声を掛ける。

 

「邪魔が入ったけど、とにかく仕切り直しだ。まずは飯、食おう」

「イエーイ、オニク―」

 

クーラーの送風音に掻き消されぬよう、いつもよりテレビの音量を大きめにして、斬人はDVDを再生する。

だが開始10分以上経過しても、パッケージに描かれたサメは現れなかった。

物語の掴みの部分でサメが出なかったら、いつサメが出てくるというのか。

苦虫を嚙み潰したように液晶画面を眺め続ける二人の口数は、作品のつまらなさと反比例するように増えていく。

 

「この映画、ずっと森の中を歩いてるヨ。あと、たまに女優の人がゲロ吐いてるネ。ゲイジュツ作品?!」

「……浅い。お前はまだまだ、B級映画界隈(このせかい)の本質をわかってないな。退屈な時間があってこそ、サメが出てきた瞬間が輝くんだ。一晩寝かせたカレーのように」

「腐りきっててこの映画、食えたもんじゃないヨ。ゲテモノ食いは一人で楽しんでネ」

 

質問するシャーコを見下したように斬人が口角を吊り上げるも、至極まっとうな正論に斬人は顔を歪めた。

 

「そう焦るな、楽しめよ。これだから時間に囚われた現代人は……」

「でもサメ映画なんだから、サメが出ないとツマラナイヨ」

「お前はなにか勘違いしてるな。サメ映画にサメはほとんど出ない。何故ならサメ映画だからだ!」

「哲学カナ? 本当に斬人は常識外れのシャークバカダネ」

 

斬人の意味不明な発言に、シャーコも困惑を隠せない。

 

「サメ映画なんだから、サメはロクに出ないに決まってるだろ。大半が人間同士のくだらない言い争いと、痴話げんかだぞ。これみたいに延々、環境映像を見せられるパターンもある」

「そっか。予算不足だから薄い内容を、80分近くまで引き伸ばしてるんダネ!」

「まぁ……お前じゃわからないか。このZ級映画界隈(レベル)の話は」

「わからない方が、幸せに生きられるのはわかったヨ。もうクソみたいな映画の話しないデネ」

 

水を得た魚のように映画の話を続けようとした斬人との会話を、シャーコは一方的に打ち切った。

サメの頭が2つになったから、なんだというのか。

サメが悪魔になる必然性が、物語にあるのか。

太古のサメ、メガロドンが蘇っても、それが作品の面白さに繋がらないのなら無意味ではないか。

シャーコの冷徹な瞳は、Z級映画の666箇所以上ある粗の一つ一つを、これでもかと酷評していた。

 

「……シャーコ、怖い顔するなよ。今度から一人で観るから……って、急になんだ」

 

彼女と会話していると、突然電話が鳴った。

電話の主は、猫田少年の父親からだ。

 

「鮫島です。振り込み、ありがとうございます。また何かご用で……」

「ま、また人が化け物に殺されましたよ。鮫島さん、化け物はいなくなったんじゃないんですか?! 鮫島さん! 鮫島さん!」

「えっ、それは本当ですか?」

 

まくしたてるように、猫田父が話す。

荒い息遣いで、動揺がこちらにまで伝わってきて、斬人は最低限の相槌だけ返して、最後まで彼の話を黙って聞く。

 

「……まだ終わってなかった」

 

電話が切れると斬人は、シャーコに向けて呟いた。

 

「一から説明シテ?」

「ずっと引っかかってたんだ。メモを見比べていた時、A棟とC棟で、ほとんど同時刻に被害が発生していたことがな」

「それ、どういうコト?」

「最初は1匹だけだと考えてたが―――シ・シャークは1匹じゃなかったんだ。白鰐団地の連中が危ないな。今日の夜に残ったサメども、まとめて仕留めるぞ」

「でも報酬はもらったし、後はどうでもよくナイ? わざわざそこまでしなくテモ」

 

彼女の言うとおり嘘偽りなく依頼を遂行したのだから、自分たちは自分なりに仕事を全うしたと胸を張って言える。

命を賭けてまで、依頼者に下らない義理立てをする必要もない。

―――だが、それでも。

 

(依頼を完璧にこなせなかったら、俺様の名前に傷がつくだろうがよ。シ·シャーク、待ってやがれ)

 

彼の中で、既に結論は決まっていた。

 

「確かに既に済んだ問題だ。シャーコは好きにすればいい。つまんねぇプライドが、俺様の凡ミスを許さねぇだけだからよ」

「しょうがないな。最後まで乗りかかった泥舟、付き合うヨ!」

「いい相方を持ったな、俺は。食い終わったら、白鰐団地にいくぞ!」

 

そういうと二人は、食べるというよりも吸い込むとしか形容できない早食いで、プレートの上の肉や野菜を片付けていくのだった。


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