つまり揺るがぬ不動の信念があればいいんだね?
大義のための大量殺人者なら手を取り合えるんだろう?
人に戻りたいと切実に願えば何万殺しても同情してくれんだろう?
殺された人間達は無視して、今を生きてる者達のことを優先するんだろう?
俺にもくれよ、愛しい殺人許可証を!
立花響の趣味は人助けである。
困っているなら誰でも助ける。木から降りれなくなってる猫でも。
結果自分が降りれなくなったが………。
「うう、どうしよう………」
「よお、大丈夫かい嬢ちゃん?」
「え?」
と、不意に下から声がかかる。視線を向けると大柄な男がこちらを見上げていた。
「あ、えっと………その、降りれなくなっちゃって」
「そうか………ところでパンツ見えてるぞ?」
「うえ!? あ!」
「ふみゃあ!?」
ボッと顔を赤くして、バランスを崩し猫がと落ちる。
「はは、大丈夫か嬢ちゃん?」
地面にぶつかる、と目を閉じていたが衝撃は来ず、かけられた言葉に目を開くと、先程の男性の腕にすっぽり収まっていた。所謂お姫様抱っこだ。
「ふにゃああああ!?」
「はは、何だよ元気だな!」
あっはっは、と豪快に笑う男性。男の人に初めてお姫様抱っこされ顔を赤くして混乱する響。カオスだ。
それが、響と彼の出会い。その後学校に遅刻寸前だったことを思い出し、自己紹介もせずに別れてしまった。
だけど偶然とは意外なもので、思いがけず再会し自己紹介。歳の離れた友達になれた、そう思っていた。
彼はしかし、敵だった。
ノイズを操る少女と共に青銅の鎧を纏った巨漢。それこそ彼だったのだ。
特異災害対策機動部の職員を殺し、デュランダルを奪おうとした。
フィーネに見捨てられたクリスを彼もまた見捨てた。
月を破壊しようとするフィーネを、最後まで守ろうとした。
次に会った時は組織としての『フィーネ』に仕えていた。『あの時は結局力になれなかった』そう言っていたらしい。
その事件の最後には共闘しネフィリムをバビロニアの宝物庫に落とした。
その後はまた姿をくらまし、今度は世界を分解しようとする少女に身を寄せていた。
少女が消えた後、少女が残した少女の分身とも言える存在を一目見て去っていった。
そのまま暫く姿を消し、再び姿を表した時はライブで7万以上の命を奪った。
人に戻ることを夢見る怪物に堕ちた少女達のために戦う彼は神に破れ、眠りにつき起きた頃には全て終わっていた。彼が人に戻そうとした少女達はもう居ない。
「なのに、どうして!?」
燃え盛る街。
人の燃える匂いと悲鳴が充満するおぞましき地獄に佇むは青銅の鎧を纏った巨漢。
「どうしてまた、こんな事を………!? また、誰かのために戦ってるんですか!?」
『誰かのため、ねえ………』
響の必死の訴えに、男は面倒くさそうに言葉を紡ぐ。
『なあ立花響、お前の目には俺がどう映っている?』
問いかけに返される問いかけ。どう映るか、そんなもの……
『最初はこうだったろう。月を落とさんとする古代の亡霊に忠実な犬っころ! 残虐なる破滅の使徒──おお、なんと恐ろしや!』
『その次は、恐らくこうだ。破壊と力に酔い痴れた戦闘狂。残忍で好戦的で、しかし闘争の美学を有し嘗ての主のぎりを果たす硬骨漢……』
『そして次には、子供のためなら何でもしてやれる優しさを持った者。悪鬼に見せかけ、少女が背負うはずだった汚名を己から背負ってやろうとする不器用者!』
『最後は、己の境遇に重なるであろう少女達のために神にすら挑む、悪になりきれぬ悪人………そんな所じゃなかったかい?』
確かに、当たらずとも遠からず。彼の行動には常に誰か別の目的を持つ者への助力だった。
愛する人に再び会うことを求め続けた先史文明の巫女。
その巫女の名を騙ってこそいれ、世界を己のやり方で救わんとした少女達。
父を拒絶した世界を憎み続け拒み続け破壊しようとした錬金術師。
無理やり怪物にされた挙げ句失敗作と蔑まれ、人に戻りたがった三人の少女。
己を極悪と称しながらも誰かを助けるために行動している。そんな風に感じた時は何度もある。
『まあ当然だな。つまりはその錯誤こそ物語という虚飾……人間が信じたがり、見たがるものの正体だ。経験上から断言するが、
ならばこそ、それを利用して一切の理由もなく殺人鬼と化した男は、嗤いを滲ませそう語る。
『人間というのは、物事に意味や理由がないと不安になるのさ。突き詰めればそれは、何故自分が生まれ生きているのかということにも繋がるからな。だから求める。不安から目を逸らすため『きっとそうだろう』という憶測や裏付けを。もはやそれは絶対の願望と言っていい』
嘲笑っている。人を、人々を、どうしょうもないほどにおかしな奴等だと。
『よって俺は
振るわれる槍がアスファルトを捲りあげ、ビルの瓦礫を吹き飛ばす。
同じく神の持っていたとされる槍由来の力とはいえ、完全聖遺物と欠片では出力がまるで違う。
『これは何だ? 暴力だ。本質を剥き出せばそれだけのものでしかない。しかし人は、そこに虚飾を乗せるのが好きで好きでたまらないんだよ。頭のおかしな眼鏡が月を落とそうとすりゃ許さねえくせに、愛に生き続けた美女がやれば仕方ないと思えるんだろう? どちらも大量虐殺には変わらんのになァ』
攻撃を必死に避ける響を追う暴走機関車の如き鎧。まだ原型を保っていた民家が砕け、生きていた子供が轢き潰される。
『ところで、俺がここで『実は語るも辛い過去があってな……』とか告白しだしたらどうする? あるいは『死んだ彼奴と約束したんだッ』とかそれっぽい決意を示したら? 『本当はやりたくない』『仕方なかった』とか、不可抗力に訴えるパターンもあったかね』
語られる、響達が一度でも想像したもしもの彼の事情を、彼自身が嘲るように口にする。
『皆のために? 彼奴は守る? 報いるために? 慈悲の死を? なぁなぁなぁなぁ──どれがいい?』
喜悦を孕んだ青銅巨人の語りは、死体と瓦礫の数に比例して熱を帯びていく。彼は今、間違いなくこの行為に激しい達成感を覚えている。
『そういう意味や理由があれば、殺人もまたやむ無しと………程度の差こそあれ思う輩は多いだろうよ。間違いなく、
事実彼等はソロモンの杖起動者にして、特異災害対策機動部にノイズをけしかけたクリスを、テロ行為を行った調、切歌はもちろん殺人を行ったマリア、本来ならその知識をどんな手を使っても調べるべき世界の破壊者の記憶を継ぐエルフナインを仲間として迎えている。
『情状酌量? 殺された人間に訊いてみるんだな。相手は哀しい生い立ちだから仕方ないんです、無垢な少女だから許してくださいってなァ!』
巨人の哄笑は止まらない。死と破壊の空気を満喫しながら、殺しの美酒に酔い痴れている。そして指摘しているそれは、恐らく抗いがたい人類の悪癖だ。
愛のためならば、大義の為の犠牲を記憶しているなら殺人を犯しても許すという風潮。
凄惨な過去を持つならやり返してもいいというお目溢し。すなわち
逆全てが正しい判決でも、納得できなければ必死に否定するのと同じ。愛しているか否かは事実関係な真実をいとも容易く踏みにじる。
物語において、美形なら何をしても許されるというように……
彼はそれを現実でやってみせた。肯定されたなら認められるという理論の下、哀しい過去を持つ者達に力を貸す悪態を溢し、独りを放っておけない、そんなキャラクターを演じて人気取りを続けてきた。目的は無論、一人でも多く殺すために。
そして丁度いい隠れ蓑を待つのに飽きた………
『なぁこの俺はどうだ? 強いか? 格好いいか? 揺るがぬ不動の信念とやらを、それっぽい口調のどこかで勝手に描いて妄想してたか? あるわけねえだろ、そんなものッ!』
完全聖遺物『アレースの青銅鎧』『アレースの大槍』
アヌンナキが使用した正真正銘神の鎧。何で扱えるから本人も解らない。
圧倒的な防御力と破壊力を持つ。ただし神の鎧なので使用者に『神属性』を与え『神殺し』を弱点とする。哲学的な『神属性』なので『神の力』は使えない。
マレス(仮)
元々は考古学者気取りの浮浪者。
殺しを肯定する英雄譚を嘲ながら羨望を抱いていた。たまたま完全聖遺物を見つけ、異端技術の世界へ。地頭が良く、自分で起動方法を見つけ初起動時研究仲間も上司も部下もフォニックゲイン要員も纏めて殺した。大変楽しかった。
殺した理由? ねえよんなもん。殺したかっただけだ。