ただ側にいてあげるだけで

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 当たり前のようにくろめが復活して和解してますがそういうものだと思って受け入れてください。



Dear me and you

 

 

「ただいま」

「おかえり」

 

 くろめが言って、うずめが返す。

 かつて存在をかけて殴り合った者たちとは思えないほど、朗らかな雰囲気のやり取りだった。

 

「今生の別れみたいな感じでねぷっちについてって旅に出た割には、数ヶ月おきに帰ってくるよな【オレ】」

「ネプテューヌがオレに気を利かせてね。気にしなくていいとは言ってるんだけど」

「大きいねぷっち、割と気を遣いすぎるとこあるよな」

「でも、気の遣い方が下手なんだよ。別にオレの里帰りのために寄るって言えば良いのに、久しぶりにみんなの顔が見たくなった、とか言ってね。それも本当なんだろうけど」

「はは、ねぷっちらしい」

 

 口を動かしながら、うずめは帰ってきたくろめの分の紅茶も淹れていく。

 くろめもうずめも席につき、紅茶を啜りながら話を続ける。

 

「……で、好きなのか? ねぷっちのこと」

「はぁ……」

 

 茶化すような、もしくは浮いた話題を求めるようなうずめの物言いに、わざとらしくため息を吐くくろめ。

 

「オレと彼女はそういうんじゃないよ。まぁでも、好きが嫌いかといえば好きだけど」

「好きなんじゃねーか」

「でなければ一緒に旅なんてしないさ」

 

 憎しみに囚われていた頃では想定もつかないような穏やかな笑みを浮かべるくろめ。

 あまり感情を表に出すタイプではないのだが、それほどまでにネプテューヌとの旅を気に入っているのだろう。

 

「ま、楽しそうでなによりって感じだな」

「楽しいよ。楽しくてたまらない……けど、これだけオレはネプテューヌから貰っているのに、オレからネプテューヌにしてあげられることなんて何もないことに、少しだけ思うことがあったりする……かな」

 

 少しだけ、くろめの表情が曇った。

 

「そんなことないだろ」

 

 うずめは、くろめの言葉をはっきり否定した。

 

「別に、無理して何かしようなんてしなくても、【オレ】が横にいてやるだけでいいんじゃねーのか?」

「かもね。オレが勝手に悲しくなっているだけ、なのはわかってるさ」

「そういうことじゃ……いや、なんでもない」

「なんだよ、言えよ」

「まぁ何かしたいってなら何でもしてみりゃいいじゃん? なんか買ってあげたり、みたいな? 何もしないよりは良いだろうし、ねぷっちのことだから喜んでくれると思うぜ?」

「……プリンでも、買ってあげようかな」

「この次元でならやめとけ、大きい方だけに買うと小さい方のねぷっちがいじけるから」

「それもそうだな」

 

 曇っていたくろめの表情は、既に元に戻っていた。

 解決したい悩み事というよりは、誰かに話して楽になりたいことだったのだろう。おまけに、ちょっとした解決策も得ることができた。

 

「……さて、オレはそろそろ行くよ。ネプテューヌも飽きてまた旅に出たくなる頃だろうし」

「そうか。【オレ】のことだから心配いらないけど、気をつけてな」

「あぁ。それと紅茶、おいしかったよ。中々淹れるのが上手くなってきたじゃないか」

「現役から引いた女神って割と暇だから、こういうのに凝るんだよな……」

「老人みたいなこと言うなよ。じゃあ、行ってくる」

「あぁ、行ってらっしゃい」

 

 「ただいま」と「おかえり」、「行ってくる」と「行ってらっしゃい」。うずめとくろめは、このやりとりをなんとなく大事にしていた。

 うずめは、出て行ったくろめの背中が見えなくなるまで見送る。

 

「……【オレ】が側にいてやるだけで、ねぷっちには何かしてあげられてるんだよな。ま、これは本人に言うわけにはいかないか」

 

 くろめの悩みを聞いたうずめは、大きい方のネプテューヌが旅に出る直前に、二人きりの時に言われたことを思い出す。

 

『わたし、誰かを守るとか、何かを救うとか、できる限りはしたいと思うけど、女神でもないからできることはやっぱり限られてるし、その中で見捨ててきたものだって沢山あるんだよね』

 

『猛争事変の最後に、うずめが帰ってきてくれたのはとっても嬉しかったけど、少しだけ切なくもなったんだ。くろめも、わたしにとっては見捨てちゃった中の一人になるんだな、って少し悲しくなってたんだ』

 

『だから、うずめがくろめのことを消さないでくれたことは嬉しかったし、みんなと和解したくろめが、わたしの旅についてきてくれるって言った時、本当に嬉しかったんだよね。わたしが伸ばした腕が、ちゃんと届いたんだって、くろめが側にいてくれるとそう思えるんだ』

 

『だから、ありがとううずめ。くろめにまた会えるようにしてくれて』

 

「……礼を言うのはこっちの方だよ、ねぷっち。【オレ】のこと、ありがとうな」

 

 誰にも聞こえない独り言を呟きながら、旅立つ自らの片割れと親友の幸せを祈り込めるうずめなのだった。

 





 くろめが大人ネプテューヌのことを「ねぷっち」ではなく「ネプテューヌ」と呼ぶ理由は、猛争事変の時にネプテューヌの裏切りを悟り始末しようとした時までくろめは大人ネプを「ネプテューヌ」と呼んでいて、始末しようとした瞬間に「ねぷっち」呼びに変わったことからきています。
 これは自分の勝手な解釈なのですが、うずめの「〜っち」呼びが親しみを込めているなら、くろめのは敵対心の現れなのではないか、と。
 というわけで、和解した後には呼び方を元に戻し「ネプテューヌ」と呼んでいることにしました。
 作中では描写しなかったのですが、大人ネプも二人きり(クロワールがいるから三人きりか)の時はくろめを「うずめ」と呼びます。
 


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