VERSUS 悪役令嬢   作:米ビーバー

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 中央広場に悲喜交々の声がこだまする中、アンナ=フリーデンは虚ろな目で首枷を嵌められた自信を見下ろし、空を見上げ、遥か高みでこちらを見下ろす王子と令嬢を見た。



 その瞳には羨望も、嫉妬も、【何も残っていなかった】。






 ―――そうして、処刑台のロープが断ち切られ―――





 ごとりと、首が転がった。







後編:アフター『 ひっくり返った一天地六 』

 

 

 「―――いや、終わらんのだが!?」

 

 

 エンディングより早1ヵ月。世界は変わることなく、私――“イザベラ=トーレス”は王子の婚約者として王宮の一区画に自室を用意されていた。

 帝王学を学び王政を引き継ぐ王子を補佐する立場として同じように面倒にもほどがある勉強をこなしてきたこれまでと同じく、むしろより厳しい学習の日々が続いていて、気づいたら1ヵ月経過してて「あれ?エンディング越えたよな我」とはたと気づくに至った。

 

 

 なお明日は婚約発表のためのデビュタント。所謂『お披露目』の日である。

 

 

それが終わったら婚約発表とともに婚姻式のための準備に取り掛かり、花嫁が純潔であることを御前で証明する。

 

 

 要はアレだ―――“立会人に見られながらのセクロス”である

 

 

 ありえないんだけど?と言うなかれ。王権神授説で国が確立され保証されてる時代の王の血筋に異物が混じって後の世にアレなことになるのはリアルの世界でも稀によくある事件であり、花嫁の潔白はそのために必要な犠牲である。真っ当な初夜というニッポンポン人の常識は犠牲になったのだ。犠牲の犠牲にな(うちは感)

 実際のところは初夜をガン見されるわけではなく初夜を終えた後ベッドのシーツに残った血痕で処女の判別をするらしいのだが……。花嫁が交換されないように部屋に立会人は居座ってる中で公開セクロスなのは変わりなかったりする。

 

 めっちゃ余談ではあるが“膜”と呼ばれるあれは両サイドの壁がくっついてる状態で、こじ開けられた後使われなかったら時間経過とともに閉じる場合があるらしく、一回こじ開けられたそれが再び“膜”になるまで放置されてたらまたこじ開けられたときに血が出るモノらしい。らしいってのは又聞き情報だからなんだが。

 

 

 

 

 

 いや現実から逃げている場合ではなかった。どうにかしなければ……

 

 

 

 

 

 

 私が無理くりにアンナを排してクリアを目指したのはその結果『現実に戻れる可能性』があったからだ。むしろぶっ殺され続けてそのたび強制的に【まだだ!!】されてきた身としては『そうでなきゃおかしいだろ』という感じなのだ。っつーかそろそろ終わらせてくれよと嘆くに値するだろう。

 

 初めて意識が『私』になったのは学園入学時―――つまりゲーム開始時だ。

 

 それからわずか3年くらいしか生きていないが……3年間で数限りなくぶっ殺され、その度に開始時まで時間をループしてきた。人生3年だが実際の人生の長さで言うならその十倍は生きていて、その長さに比例するだけ死んでいるのだ。

 

 そんな独白に近い自己整理を終えて『私』は瞳を開く。貴族によくありがちな天蓋のあるベッドに腰かけた状態で視界が開けると、大きな窓の向こうには天然自然の森林と、その向こうに僅かに街明かりが見えた。

 

 

 

 

 ―――そろそろ現実を見よう。このまま明日になれば『婚約』は免れまい。

 

 

 

 ―――そうなると当然その後は『初夜』の話になる。

 

 

 

 

ここで死ぬほど面倒な問題にぶち当たることになる。

 

 

 

 ―――『私』が今の『私』になる前の性別である。

 

 

 

この世界と酷似した元ゲーム『隣り合わせの白と黒』は“男性向けの恋愛シミュレーション”ジャンルである。勘のいいガキはすでに気づいてしまって【お前の様な勘のいいガキは~】されてたかもしれない。

 

 

 

 お判りいただけているだろうか……?【俺】が前世?でどうだったのか。

 

 

 

 元々の性別の方で女体に免疫がなかったわけではないので憑依した直後にエロゲや漫画みたいなDT臭い反応こそしなかったがめっちゃ動揺したし唐突にJK年齢に憑依した結果月々やってくるモノへの戸惑いに最初めっちゃ焦ったりした。

 この御令嬢に憑依?した時点で御令嬢の生きてきた年月分の積み重ねと前世の人生が融合した結果、男性とも女性ともつかないことになっているが―――それで抵抗が全くなくなったというわけでもない。

 

 

 野郎に抱かれる想像だけで逆に殴り倒す未来がありありと浮かぶのだ。

 

 

 そんなことをしたら王子殺害未遂の現行犯。最悪その場で【オレァクサムヲヌッコロス!】してしまって逃亡生活に入る可能性すらある(迫真) だからこそ「ゲームクリア条件を達成したらその場でもとの世界へ」的な展開を妄想していたという部分もある。故に、今の状況に軽く絶望を憶えていたりする……と、自己分析終わり。

 っていうかでなきゃ「何度死んでもスタートからやり直し」というあの状況が不明すぎるんだよなぁ……憑依?転生?を行った神様がいるとしたら一体『私』に何をさせたいというのか……?

 

 

 そんな風なことを考えていたら、就寝時刻を告げる鐘の音が鳴った。これ以降は寝ている民が起き出さないように、非常時以外の鳴り物は禁止されている。同時に、消灯を確認するために使用人が各部屋を回り、火災事故を防ぐために火を消して回る。

 

 

 なるようにしかならないとベッドに入ろうと上掛けを外そうとしたところ、テーブルの上にあった見慣れないモノが目に入った。

 

 

 

 それは、1枚の黒いコインだった。

 

 

 

 金貨銀貨銅貨というお決まりの貨幣制度における「色」の区分けというのはこの国でも徹底されていて、その中に「黒」という色のコインは存在しない。加えて言うなら近代の貨幣鋳造技術のように細かい意匠を凝らしたコインなどもそうそう量産できるものではない。

 だというのにこのコインには美しい少女の横顔が描かれていた。

 

 

 

 

 

 “コインをひっくり返しますか?” “はい” “いいえ”

 

 

 

 

 

 唐突に空中に浮かんだ選択肢に声を上げそうになった自分を抑え込む。この状況で悲鳴でも上げようものなら大騒ぎだ。ゆっくりと選択肢を眺める。

 

 コインをひっくり返しますか? これは『2周目』への突入時の選択肢。

 

 コインをひっくり返す を選ぶと全設定を引き継いで次の周回へ向かう。ひっくり返さないを選ぶと改めてニューゲームとなる。

 『私』の思案に対応するように、空中に文字が浮かぶ。

 

 

 

 “2周目をクリアすることができれば、本当のクリアとなります”

 

 

 

 これもゲーム内での文言。このゲームは2週目になると敵の強さもNPCのアルゴリズムも、ライバルの強さも強化され難易度が跳ね上がる。そしてそれをクリアすることで真のエンディングへのルートが開けるようになる―――と、言われている。

 

 『私』の前世ですらクリアまで至れなかったルートなのだ。

 

 だがしかし―――本当のクリアに元の世界への帰還方法があるとしたら……?

 

 

 

 

 

 『私』は震える手で――――“はい” を指さした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずい、まずい、まずい、まずい、まずい―――!!

 

 脳裏に浮かぶ【バッドエンドの光景】に心臓を掴まれるような感覚を憶えて『私』は身をすくませた。

 

アンナ=フリーデン辺境伯令嬢。新たな周回で憑依した『私』は学園に入学する手前で目を覚ました。それまでの彼女の経歴とミックスされた結果、いくつかの情報は抜け落ちてしまったが、このゲームの展開は覚えている。

 

 

 今が二周目という事も―――これをクリアすれば【真のクリア=現実に戻る】という可能性についても。

 

 

 だが―――強すぎる。というか、エグすぎる―――!!

 

 こちらの打つ手を先んじてすべて潰してくる。サブヒロインの令嬢を攻略している間に相手はこちらの手札を潰している。基点をツブして回ることにためらいもなければこちらの手を一つ一つ丁寧に丁寧に磨り潰してくるやり口にじわじわと真綿で首を絞められていくように、果てしなく遠回りをしながらこちらを確実に殺しに来ている。

 

 

 

 二周目は一周目と違い【死に戻ることはできない】。

 

 

 

 ゲーム開発者の考え方としては「二周目は一周目と違って様々な情報が出そろってるんだから難易度高くても大丈夫でしょ」という意図なのだろう。しねばいいのに。

 現実的に考えて【詰み】に近い。が、【詰み】に近いだけで詰みそのものではない。【今はまだ】

 

 

 

 そう考えて、『私』はちらりと卓上に乗ったままの水差しを盗み見た。

 

 

 

 【レテの水差し】と呼ばれるそれは本来主人公――王子様が二周目に持っているアイテムである。二周目の王子様にコンテニュー機能はない。詰んだら二周目の開始まで巻き戻ってやり直しになる。そしてそこから手を変え品を変え問答無用で相手が詰ませてくるのが二周目であり、その「救済措置」がこのアイテムなのだ。

 

 レテの川から汲んできた水が品質を損なうことなく保管されているこの水差しの水を飲み乾すことで、【二周目をあきらめて一周目からやり直すことができる】

 

 このアイテムは二周目をクリアしようと意気込んだけどまだ自分には無理だった!と心が折れたプレイヤーが一周目に戻るための救済措置なのだ。それが手元にあることが、『私』の最後の砦となっている。

 

 いつでも諦めることはできる。なら―――どこまでも足掻いて勝利を引き寄せて見せる。

 

 

 最悪の対戦相手―――イザベラ=トーレス伯爵令嬢を引きずり下ろし、『私』はこのゲームをクリアして現実に戻るのだ。

 

 

 さしあたって男爵令嬢を口説き落とす様子を見せながら、伝手を使って一年上の子爵令嬢に声をかけて見よう。相手の指し手を想像して、そのさらに上を征かねばならない。

 

 

 

 

 

 どうしようもなくなった時、その時には水差しの水を呷り、やり直すしかない。それまでは決してあきらめない。這いずってでも勝利を掴む―――!!

 

 





以上。完に御座います。
おあとがよろしいようで……



長編になったらまぁ―――トゥルーエンドもございます とだけ()
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