賢者の冒険   作:賢者さん

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ダイジェストでお送りします。


アランの冒険3

 

 

竜の騎士バランとその妻ソアラ姫、そして愛息子であるディーノくんがカール王国にやってきてから10年を超える月日が流れました。その間に大魔王が動き出すような事もなく、カール王国についてだけならば至って平和な時間と言えるでしょう。

 

赤ん坊だったディーノくんも立派な少年となり、舌っ足らずな甘えん坊だったシンシア王女も快活な少女として成長しています。2人の少年少女は立派な両親や身近な人物たちの教育の甲斐あってか、聡明で純粋ながらもお茶目な子供として成長しました。

 

武術の面ではバランを筆頭にアバンやヒュンケルなどがおり、教養の面ではアバンやフローラ女王、そしてソアラ姫など見本となる人物がすぐ近くにいるため困ることがありません。そしてお茶目な面ではアランという抜きん出た見本がいたため、はっちゃけ賢者の真似をした行動で両親たちを驚かせる事も多々ありました。

 

そんなお茶目な見本となった賢者アランはこの10年……もはや見つからないダーマ神殿やアッサラームを探すのは一旦置いておいて、子供たちの世話をしたりヨミカイン遺跡で調べ物をしたりあっちこっちで色々やっていました。これには各国を回った事でもう地上にはダーマ神殿などは存在しないのかもしれないと判断した事と、既に様々な呪文を習得し使用できている事で探す意味が薄いという理由もあります。

 

途中宮廷魔道士としてパプニカのお城にいたはずのマトリフから突然呼び出されて『真の賢者は誰だ?賢者の賢者による賢者だらけのナンバー1決定戦』っぽいものをやってアランが優勝した事が原因なのか結果的に宮廷魔道士を辞したり、その後マトリフの引っ越しを手伝ったりと様々なイベントがあったりもしましたが概ねいつも通りでした。

 

その間に勇者のみが使用できると伝えられているライデインやギガデインをアバンではなくバランが使える事が判明したりするのですが、それを知ったアランはバランを大魔王討伐の仲間に加えるのではなくアバンに「お前もギガデイン使えるように頑張れ」と現実的に不可能な発破をかけていました。

 

そんな無茶振りをされているアバンはというとフローラ女王の夫として国政に携わりながら子育てに勤しみ、更にはいずれ来る大魔王討伐のために自身のレベルアップという忙しい毎日を過ごしています。城内を離れられない時はバランに手合わせを頼んだり、外遊という名の破邪の洞窟で修行だったり各地に伝わる伝承などを調べたりと平和な時間を長引かせるため日々鍛えながらその優秀な頭脳をフル稼働させていました。

 

かつて地底魔城で地獄の騎士バルトスに託されたヒュンケルは年齢を重ねるごとに剣の腕も上達していき、騎士団では相手にならなくなりアバンすらも認めるほどになっています。周囲は「もう騎士団長くらいしか太刀打ちできないのでは…」と思っていましたが、しかしそこで登場したのが竜の騎士バランでした。

 

アランに誘われたためカール王国で暮らすことになったものの本当に何も求められず妻と子供を見守る日々を送っていたバランなのですが、流石に何もしないというのも気が引けたのかアバンに「何か手伝えることはないのか?」と申し出ました。特に何も要求する気がなかったアバンでしたが、そのありがたい申し出に自身の教え子が日々上達している様子からバランにそれを伝え、アバン自身との手合わせやヒュンケルへの手ほどきをしてやってほしいという事などを頼む事にしたのです。

 

ここ最近はアバンらとも対等に近いくらいには立ち合えると自信を深めていたヒュンケルにとってバランの登場は驚愕と喜びというに相応しいものでした。それもそのはず、脈々と受け継がれる竜の騎士の技術は並の人間が生涯かかっても辿り着けるか怪しいほどに卓越したものです。そしてそれらを目の当たりにして折れるような精神をヒュンケルは持っていませんでした。

 

今はカール王国にてアバンの庇護下に置かれ剣の腕を上げる事に楽しさを覚えているヒュンケルではありますが、決して父の仇を討つという事を忘れていません。これがもし父の仇をアバンだと思っていたのであれば復讐という憎悪の気持ちで過ごしていたでしょう。ただアランによって聞かされた「復讐する相手は大魔王」という言葉を信じているため、そして自分が敵わないと思わせてくれる相手が周囲にいたため素直に上に向かって突き進めたのです。

 

もしアバンを仇として憎んだままで、更に剣術以外にも暗黒闘気の扱いを教える闇の師的な存在がいたりすれば、光と闇の闘気を操ることで不死身性を身に着けた魔剣戦士になっていたかもしれません。しかし今のヒュンケルの周囲には光の闘気を扱う者はいても暗黒闘気など話に出てくる程度です。

 

そして何よりもヒュンケルの心に憎悪の感情を芽吹かせることなく暖かさを齎したのはフローラ女王やソアラ姫の存在でした。それぞれが王族であるというのは言うまでもないのですが、この2人はそこに『勇者(アバン)の伴侶』と『竜の騎士(バラン)の伴侶』という肩書がついてくるのです。つまり王宮にいる侍女などと違い、そしてただの王族とも違いヒュンケルにとってアバンやバランの妻というのは比較的身近な存在となるため話しやすいのでした。共に母親なため母性たっぷりの2人の存在はヒュンケルに闇の道など進ませることを許しません。

 

そんなヒュンケルの存在はバランにとっても良いものとなりました。目の前にいる少年の腕に感心し、相手をしてやれば日々上達が見て取れるというのはとても楽しいものです。今はまだ赤子ながらもいずれは自分の愛する息子にも剣を教えてやりたいという気持ちを持っているバランにとって、ヒュンケルに稽古を付け剣士として育てるというのはこういう気持ちか…と、子育てとは違う別の楽しみを見出していました。

 

そしてそんなバランの気持ちに応えたわけではありませんが、赤子から少年へと成長したディーノくんが剣に興味を持つのは必然だったのかもしれません。子供というものは少し目を離すと消えたようにどこかに行ってしまいます。アランが城にいる時はいつも一緒に遊んでいるのですが、この日は不在のため1人でウロウロしていました。探検気分で彷徨っているうちに訓練場まで来ており、そこで剣の特訓をしている己の父親と兄のような存在の人物を見かけたのです。

 

2人の剣舞はディーノくんの目にはとてもカッコよく映り、自分もやってみたいと考えるのに時間はかかりませんでした。しかし普通に「やってみたい」と言ってももしかしたら「危ないからダメ」と言われかねないため、ディーノくんが頭を捻って考え出したのは説得してくれる味方を作ることでした。

 

基本的にディーノくんの周囲にいる人物は怒るような者はいませんが、止められる時は優しく諭されてしまいます。しかし大人の人たちが止めるような事でも「大丈夫大丈夫!(ホイミもザオリクもあるし)やりたい事はやっちまえ!」と背中を押してくれる賢者の友人がディーノくんの身近にいたのです。

 

「ねぇアラン、おれも父さんたちみたいに剣を振ってみたい」

 

「お?ついにやる気になったな。それじゃあ頑張って強くなって将来大魔王を一緒に倒そうぜ!」

 

「うん!」

 

こんな会話があり、父親であるバランも剣に興味を持ってくれた事を聞いて大層喜んでいたらしくディーノくんの剣術修行が開始されることになりました。ちなみにディーノくんは今まで自分の事を「ぼく」と言っていたのですが、子守兼友達のアランの影響のせいなのかいつからか「おれ」と呼ぶようになってしまっています。

 

そしてそんなディーノくんの様子を見て自分も何かをやりたいとシンシア王女が言い出すのもまた更に時間の問題だったのです。

 

勇者アバンとフローラ女王という攻撃呪文も回復呪文も使用できる2人の子供であるシンシア王女も当然の事ながら呪文の才能は持っていました。そしてシンシア王女の子守兼友人であるアランは大賢者と自ら名乗るほどに様々な呪文を使いこなす人物でもあります。

 

両親から優しく呪文の手ほどきを受けたり、アランに連れられてモンスターを退治したりと経験を積みまくった王女様はぐんぐんとその腕を上げていきます。もちろんディーノくんも一緒に連れ出して3人でモンスターと戦ったりと真似事のような遊び感覚で実践経験を積んでいく2人の子供にアランも満足気でした。

 

10歳にも満たない王族の少年少女を勝手に連れ出してモンスターと戦わせていたと周囲にバレた時はさすがに説教の危機だったりしたのですが、楽しそうに「こんな事ができるようになった」や「こんなモンスターを倒せるようになった」と嬉しそうに語る子供たちを見て苦言に留められ事なきを得たりもしました。

 

もしかしたらディーノくんやシンシア王女もどこかの怪物島で言葉を話せる心優しい鬼面道士的なモンスターと出会ったりしていれば「モンスターは敵ばかりじゃない」という考え方も浮かんだかもしれません。しかし子供たちを率いるのは「モンスターは倒すもの」を地で行くアランのため、遭遇したモンスターは全てなぎ倒されてしまっています。

 

そんな子供たちの成長を見守ってきたフローラ女王とソアラ姫は相変わらず美しいままです。フローラ女王は国王としての政務が忙しい事もありますが、優秀な夫のアバンに助けられ国内外でその手腕を讃えられていました。

 

もともとカール王国の国内では魔王軍が侵略していた頃から勇敢な姫として人望のあったフローラ女王ですし、更に近年出回っている『勇者とお姫様の恋物語』という本も人気に拍車をかけていました。そこに追加されるように国外の人気が出たのは魔王討伐後から各国を行き来するようになったアランのせいです。

 

その立場上他国へ赴けば国賓として迎えられる事の多いアランが大袈裟に吹聴していった結果『勇者が魔王を討伐できたのはその裏で献身的な姫の存在があったからだ』という噂が出回ることになったのです。その噂が尾ひれや背びれを付けて世界中に広まるのに時間はかからず、他国の使者からその話を聞いたフローラ女王が頭を痛めたのは言うまでもありません。

 

ある日フローラ女王からそんな愚痴を聞かされたソアラ姫は「アラン様らしいですね」と笑っていました。ソアラ姫自身はカール王国に亡命まがいの事をしてからも周囲の尽力で穏やかな日々を家族や友人と共に過ごし、本人はまさに幸せいっぱいといった状況だったのですが…実はそんなソアラ姫の知らない間に祖国であったアルキード王国は存亡の危機に瀕していたのです。

 

アランが巡っている国の中には当然アルキード王国も含まれていました。魔王を討伐した後に赴いた際には普通に歓待を受けていたのですが、状況が一変している今ではカール王国の使者など「どの面下げて…」と憎々しく思う相手でしかないのです。アルキード王国からすればカール王国という国は自国の王女であり後継者であったソアラ姫を奪った国なのです。

 

そのため例え使者が魔王を倒し世界に平和を齎した1人である賢者といえど態度を変えるわけにはいきません。普通の使者ならば王の1人娘であり次期女王を奪われた憎悪に針のむしろと言っても過言ではないほどに萎縮してしまうであろう状況でありながら、しかしその場にいるアランにとっては何も気にした様子はありません。

 

アランにとってソアラ姫たちを助けたのは良い事をしたと思っているため「ソアラ姫を返せ」というアルキード側の主張など聞く耳も取り付く島もありません。恋の魔法使いとしては騎士と姫の小さな恋を守るためならば他国であろうと戦う事も辞さないほどです。

 

その結果なぜか「どうしてもソアラちゃんが欲しかったらこの俺を倒してみろ!」という普通なら父親であるアルキード王がバランに言わないといけないセリフをアランが言い、相手が賢者といえども1人だと戦力を見誤ったアルキード側がソアラ姫を取り返す好機とそれを受けてしまったのでした。

 

まず『賢者』とは一般的にパプニカ王国が多く輩出している事で有名な魔法戦闘のエキスパートの事を指します。アルキード王国もパプニカの賢者の事はもちろん知っており、後塵を拝するわけにはいかないとアルキード王国の国王も重臣たちも賢者と戦う対策は持っていました。魔法使いを相手にする時も賢者を相手にする時もそれは変わりません。彼らは体力が低く近接戦闘能力はそこまで高くないため、逆にこちらは戦士たちによる近距離戦で挑めば十分に勝機はある…というのがアルキード王国側の作戦でした。

 

そこでアルキードの重臣たちは「魔王を倒すほどの賢者様なのですから、我々が複数人で対峙してもきっと簡単に対処してしまわれるのでしょうな」と煽るような事を言い、アランも特に気にせず了承してしまいます。これにはアルキード王含め重臣たちは自分たちの策の通りに物事が進んでいると内心笑みを浮かべていました。

 

その結果アラン対アルキード兵30人という…『複数人』という言葉で言質を取り、その利点を存分に活かした戦いとなったのでした。これがもしパプニカ王国の賢者含め普通の魔法使いたちであれば即時敗北となっていたでしょうが、残念なことにそこにいるのは武神と大魔道士から教えを叩き込まれた武闘派の賢者です。

 

アルキード王国の兵士たちは近接戦なら勝てると勇んで斬りかかりますが武神流の前にはまったく歯が立たず、まるで風に乗る葉っぱのようにヒラリヒラリと避けながら殴り飛ばされたり投げ飛ばされてしまいました。その間もずっと「ほらほらどうした?その程度でソアラちゃんを返せなんて笑わせてくれるな」と逆に煽られており、アルキード国王も重臣たちも魔王を倒した本物の賢者の強さを見せつけられるだけとなりました。

 

しかも姫を連れ去り「返してほしければ倒してみろ」というかつての魔王ハドラーのような事を仕出かしておいて、自分が魔王ポジションである事ですっかりテンションの上がってしまったアランはメドローアまで大盤振る舞いしてしまったのです。

 

 

これによってアルキード城に大きな風穴が空きました。

 

 

このメドローアによる結果はアルキード兵だけでなく国王たちも含め絶大な効果を齎しました。精鋭と呼ばれる兵士たちを子供のように軽く蹴散らし、一部とはいえ城を破壊ではなく消滅させるというあまりの結果に文句を言う気概もなくなったのか…この一件以降アルキード王国からカール王国に文句などを言ってくることもなくなり、ソアラ姫たちは暗黙の了解ながら晴れて堂々とカール王国で過ごせるようになるのでした。しかしその代わりアランがアルキード王国へ出入り禁止になったのは当然の結果と言えます。

 

そこまでやっておいてアランが思った事は「やっと認める気になったか」というものでした。アルキード王国の騎士だったバランと姫であったソアラ王女の密やかな恋の邪魔をした代償だと勝手に考えているだけに悪いとはまったく思っていません。これが国籍不明の騎士と一国の王女の逢瀬でアルキード側の主張がごもっともだったとわかった時にはアランはどうするつもりなのでしょうか。

 

既に子供も生まれていてアランも可愛がっているため何も変わらないのでしょう。ディーノくんは物心付いた時からカール王国で育っていますし、バランもアルキード王国に対して思い入れはありません。唯一肉親のいるソアラ姫だけは母国の事を気にするかもしれませんが、今回アルキード王国に来てちゃんと認めさせたしそれを伝えれば問題ないだろうと判断しました。

 

 

各自がそんな平穏な年月を過ごしていましたが…しかし、魔王を倒し15年もの間破られる事のなかった平和はついに破られることとなるのでした。

 

 

 

 

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