賢者の冒険   作:賢者さん

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アランの冒険4

 

 

世界中で大人しかったはずのモンスターたちが再び暴れ出すようになり、そして世界中の国では魔王が復活したのではという不安の感情が溢れていました。そんな人々の心配は的中しているとばかりにモンスターたちは徒党を組み各地の町や村を襲い出しているのです。

 

そういった不安はカール王国においても変わりません。国民が不安を口にすれば大臣たちも同じように魔王復活の可能性を示唆していますが、それらの報告を受けてもフローラ女王もアバンも慌てる様子はありません。魔物たちが暴れだしたというのであれば…それはつまり『大魔王を倒す時が来た』だけなのですから…

 

遂にまた旅に出る時が来たか…とアバンが静かに覚悟を決めている中、カール王国にわざわざ魔王ハドラーが挨拶に来てくれます。

 

「クックックッ、久しいなアバン。貴様がオレを倒し手に入れた平和な時間は満喫できたか?」

 

「やはり復活していましたか…魔王ハドラー!」

 

「もはやオレは魔王ではない…偉大なる大魔王バーン様の力で復活し新たに魔王軍を率いる事になった、魔軍司令ハドラーだ!」

 

魔軍司令となったハドラーは「ラスボスは大魔王バーンだよ。あと各国に自慢の軍団を差し向けたからね!」とアバンに教えに来てくれたのでした。魔王として地上を侵略していた頃は4名の幹部を擁していましたが、今回は6つの軍団とそれを束ねる軍団長を組織しているため負けるはずがないという確信を持っています。ハドラーとしてはそうやって自分よりも上の存在を教える事で絶望させ、その上で自分を一度倒したアバンに復讐するために単身カール王国までやってきたのです。

 

「ククク…まずは人間どもの希望である貴様を葬ってくれ…」

 

まだ口上の途中だったにも関わらず、意気揚々とアバンに向かって話していたハドラーに向かって一条の光が放たれてしまいました。まさかそんな不意打ちをしてくるなどと思ってもいない魔軍司令ハドラーはそのまま光に飲み込まれ消え去ってしまいます。

 

「相変わらず容赦ないですね…アラン」

 

「話してるからって攻撃しちゃいけないって言われてないもん」

 

アランの不意打ちメドローアによって魔軍司令ハドラーは倒されました。もしかしたらハドラーの体内には魔界の超爆弾的な物が埋め込まれていたかもしれませんが、凍れる時間の秘法すら打ち破る大魔道士の秘奥をもってすれば全て消滅してしまうのは仕方のない事なのです。

 

更に魔王(ボス)から大魔王の手先(中ボス)へとグレードダウンしたハドラーなど、アランにとってはバラモスゾンビと似たようなものとしか認識していないのでした。復活して瞬殺されにわざわざカール王国までやってきてくれたハドラーに少々の憐憫の情を覚えつつも、アバンはあれだけ苦戦したかつての魔王をここまで容易く倒してしまう仲間を頼もしく感じています。

 

本当なら大魔王を討伐するために旅立ちたいところではあるのですが、ハドラーによって齎された情報によれば各国が魔王軍によって襲われているという事…ならばまずは各国の危機を取り払い安全を確保してから大魔王と対峙するほうが良いとアバンは考えました。

 

幸いカール王国には勇者アバン、賢者アラン、竜の騎士バラン、そして剣士であるヒュンケルがいます。ちなみにアバンの考える戦力の中にディーノくんやシンシア王女は入っていません。子供たちも十分に戦えるほどに成長しているのは間違いないと認めた上で、それでも子供たちには戦わせたくないという気持ちがあるのでしょう。

 

「それじゃ大魔王を倒しに行くとしますか」

 

「ええ、しかしまずは魔王軍に襲われている国を助けましょう」

 

「え?そんなの自分たちで何とかするんじゃないの?」

 

まずは各国を襲っている魔王軍を何とかしようと考えていたアバンと違い、アランはそれらを無視して大魔王を倒しに行くつもりです。更に魔王軍に襲われている国には自分たちで対処しろという無理難題を押し付けようとしていました。アランは魔王が倒された事で平和がやってきたと思っている国と、大魔王と戦うために日々研鑽を積んできたアバンたちでは心構えから違うという事を認識していません。

 

「それに大魔王がどこにいるのか知っているのは魔王軍の幹部だけじゃないですか?」

 

「ハドラーは何か言ってなかった?」

 

「何か言う前にあなたが倒してしまったでしょう」

 

わざわざ倒されに来てくれたハドラーから大魔王の居場所を聞く事ができなかったのはアランのせいなのは間違いないでしょう。そんなアランは内心で「報連相をちゃんとしないなんて使えないヤツだなー」と自分で瞬殺しておいてハドラーに文句を言っていますが、これをハドラーが聞いたらきっと鼻水たらして罵詈雑言が飛んでくるでしょう。

 

そんな話し合いの結果…以前の魔王ハドラー討伐の旅の時は各地を巡ってレベルアップしつつ情報を集めて本拠地を割り出したので、今回は『各国を攻めてきている魔王軍の幹部を倒して本拠地を聞く』という方針になりました。

 

地上の危機再びという事態に集まった面々を前にして「各国を同時に侵攻しているのであれば、まずはそれぞれの国を手分けして向かったほうが得策だろう」というアバンの作戦が立てられます。これは一騎当千の戦力が集まっているカール王国だからこそ考えられるものであり、またアバンの頭の中にある戦略の1つでもありました。

 

それぞれの国にどれほどの戦力が投入されているのかはわかりませんが、過去の魔王軍幹部の強さなども鑑みて少なくともアバンやアラン、そしてバランとヒュンケルに至っては単身でも敵を討ち倒す事は問題ないと考えられています。そこにそれぞれの国の兵士たちなどの戦力を加味すれば、倒しきれなくても少なくとも撃退する事は可能だろうという判断でした。

 

しかしここで思わぬ「待った」がかかってしまいます。そしてその声を上げたのは軍議という経験を積ませるために同席していたディーノくんとシンシア王女でした。

 

「おれもみんなを助けるために一緒に行きたい!」

 

「私も同じくですわ!」

 

「ダメです」「ダメよ」「ダメだ」「危ないからダメよ」

 

2人の子供の両親2組からほぼ同時に却下されるディーノくんとシンシア王女。まさかここまで即断で否定されるとは思っていなかったのでしょう。両親たちから突きつけられた「ダメ」コールに、2人の子供は唯一味方になってくれそうな友人に目を向け助けを求めました。ちなみに大人4人からはそれに合わせるように「ダメって言え」という無言の圧力がかけられています。

 

アランとしては子供たちだけというのは反対しても、一緒に連れてってあげるのは良いんじゃないかと思っているのですが…どうやら子供たちの親はそうは思っていなかったようです。

 

「別に誰かと一緒に行くのなら良いと思うんだけど…何なら俺が連れてってあげてもいいよ?」

 

少しだけ考えてみた結局、思った事をそのまま口にすることにしたアラン。大人4人の視線よりも子供2人の期待の視線のほうが重かったのかは定かではありませんが、これを聞いた2人の子供たちはこの援護を受けて改めて両親たちを期待の籠もった目で見つめていました。

 

これを受けてどうしたものかと詰まってしまったのは父親たちでした。

 

アバンとバランの父親2人は子供たちの精神的な成長も鑑みて「まだ早い」と思っていたため反対したのです。もしこれが本当に初陣であったならば何があっても反対を貫いたかもしれません。しかしアランに連れ出され度々モンスターと戦っているという事もあり、それならば恐怖で動けないという事もないだろうし「きちんと自分たちが守ればいい」という軟化した考えに変わりました。これは大局を見た判断であり、決して「お父さん嫌い」が怖いわけではありません。

 

「んじゃアバン、ちょっと行ってくるから留守番よろしくねー」

 

最終的に母親2人の理解も得られ誰がどこに行くかとなった段階で、アランから軽く言い渡された自身は待機という内容に仕方ないながらも口惜しい思いのアバン。しかしこれは当然の事だったのです。戦力たちが全員カール王国を出てしまってはカール王国を守るのは騎士団たちだけになってしまいます。

 

ハドラーがこの国にやってきたように、新生魔王軍でも警戒されているであろう自国を放って他国を救いに行くわけにもいきません。そうなれば勇者としてではなく女王の伴侶としてアバンがこの国を守るのが一番だというのは自明の理と言えます。

 

アランは騎士であるバランに「ソアラちゃんのついでに国も守ってね」と留守番を任せるという案も考えましたが、ディーノくんが行くのだから子供だけを送り出す事を子煩悩なバランが許すはずもないだろうとアバンに任せる事にしました。

 

そういったやり取りがあり、アバンは考えていた1つの作戦を皆に伝えたのです。

 

それによりアランが単身で、バランとディーノくんがペアで、ヒュンケルとシンシア王女がペアで行動することが決まりました。ヒュンケルは1人でも大丈夫だと言い張っていましたが、回復手段も移動手段もない以上それを有するアランかシンシア王女と組むしかありません。ここでアランと組んでシンシア王女を単身で向かわせるなど有り得ないということになり、その結果ヒュンケルとシンシア王女が一緒に行動することになったのです。

 

既にヒュンケルは剣の腕と闘気の扱いはかなりの域に達していると言えます。そこに賢者としての才能を持ち、アランによってその才能を伸ばされたシンシア王女というのは理想的な組み合わせと言えるでしょう。何よりも勇者と賢者と竜の騎士は遠近戦闘が可能で攻撃も回復もできるため、足りないところを補うというパーティの在り方の逆を行っているような存在たちなのです。

 

それぞれが向かう先を決め、子供たちも母親たちから激励の言葉を受け取っていました。

 

「ディーノ、シンシアちゃん。ちゃんとバランとヒュンケルの言う事を良く聞いて行動しなければいけませんよ?」

 

「ヒュンケル、この子の事を頼みますね」

 

「お任せください。シンシア姫には傷1つ付けさせません」

 

「私の事よりも民草の安全のほうが大事ですわ。お母様もそんなに心配なさらずとも、私だってアランから戦う術は授かっておりますわ」

 

フローラ女王からシンシア王女の面倒を頼まれたヒュンケルはともかく、シンシア王女のほうはその言葉に納得していない様子です。このあたりの気性はフローラ女王譲りなのでしょう。その様子を見てアバンは、かつて魔王ハドラーが侵略してきていた頃の勇敢なフローラ王女を思い出していました。

 

きっと昔のフローラ王女が目の前にいて同じ立場だったとしても一緒の事を言っただろうと、そしてそんな娘が母親と同じようにまっすぐ育ってくれた事に感慨深い思いをしていました。そこまではとても子供の成長を感じられて良かったのですが、その後に続いた言葉には思うところしかありません。

 

「これでもお父様とお母様の娘です。攻撃呪文だって回復呪文だって使えますし、相手が侮って襲いかかってきても武神流の前には敵ではありませんわ!」

 

「ちょっと待ってください。シンシア、あなた武神流を学んでいたんですか…?」

 

「ええ、剣は触らせてもらえなかったですし、アランからも『勇者の子たるもの魔王の1匹や2匹倒せなくてどうする』ということで教えられましたけれど…?」

 

「……アラン?」

 

いよいよ出発という時になって、シンシア王女の失言(?)によって実は武神流まで教えられていた事が周囲に判明してしまいます。アラン本人は悪い事だと思っていないどころか、隠しておいていざという時に開示するほうがカッコいいと思っていたため言っていなかったのでした。都合よく新たな力に覚醒してくれればいいのですが、実際にそうなるとも限らないのでしっかりと魔改造と言っても良いくらいにシンシア王女を強化していたのです。

 

しかし残念ながら子供というものは自慢したい事は親に話してしまうものです。今まで言っていなかったのは他に言う事がたくさんあったからなだけだったようで、言った本人も「あら?言っていませんでしたっけ?」といった表情でキョトンとしていました。

 

アバンとしても別に娘が武神流を学んでいたのは悪いわけではありません。ただ教えているのならそれを言ってくれないというのはどうなのかと思っているだけです。ちなみにそれを聞いていたフローラ女王のほうは「アランだし仕方ないわね」と深く考えていませんが、それはつまり既に小さなアランと言っても問題ないくらいにはシンシア王女はレベルアップしていたということでした。

 

「武神流を少々と、たまに魔導図書館に連れてって呪文の契約したりしたくらいだよ。もうちょっと魔力の扱いがうまくなったらメドローアを教えようかと思ってたところだけど…」

 

「あなたはシンシアをどうしたいんですか…」

 

我が子の思わぬ予想外の成長に少々驚かされたわけですが、言葉とは裏腹に嬉しい誤算でもありました。やはり一度は魔王軍と戦っていた身としてはまだ少女と言える年齢の娘を危険に晒すような事はしたくないのでしょうけれど、世界の危機にそうも言っていられないと考え直しているのかもしれません。大体にしてアバンたちだってハドラー討伐の旅をしていたのは十代だったわけですから、ここで年齢を理由に出したところでブーメランでしかないのです。

 

当初はディーノくんとシンシア王女は戦いに巻き込まないという前提でしたが、ここまできて今更文句を言うような事はありません。それぞれが「十分に気をつけて」というような言葉を子供たちにかけていくため、アランもまた2人の小さな友人に激励の言葉を贈りました。

 

「ディーノくん、シンシアちゃん。いつも通りにやればいいからね?怪我したって死んだって俺が何とかしてやるから心配すんな!」

 

「「うん!」」

 

「オレがいるのにシンシア姫が怪我などするはずがないだろう」

 

「ディーノもだ。私がいるのだから万に一つも有り得ん」

 

アランからの激励は保護者役の2人には不評だったようです。子供たちはアランの事をよくわかっているからか元気な返事をしていますが、ヒュンケルとバランは眉間にシワを寄せ「自分たちが守り切るのだから怪我などしないというのに何を言ってるんだ」と言いたいようでした。

 

そんな一幕がありましたが、それぞれが担当する国へと移動していき…アランはひとまずオーザム王国へ行ってからリンガイア王国へ南下するという順番で向かう事にします。そしてそのままアルキード王国へと向かうという予定になっていました。本来はオーザムとリンガイアという遠方だけを担当するはずだったのですが、現在アルキード王国はカール王国とあまり交流が盛んではないのです。

 

理由はもちろんソアラ姫を連れて行った上にダメ押しでアランが暴れたためです。

 

アラン的には『あれだけ威勢がいいんだから自分たちで何とかするだろ』と思って別に行かなくてもいいんじゃね?と考えていたのですが、そこは祖国の心配をするソアラ姫やアルキード王国だけ助けに行かないわけにはいかないというアバンたちの考えもあり、それならばせめて出入り禁止になっていようと自分が行くと手を上げたのです。

 

さすがに姫と一緒に国を飛び出したバランに行かせるわけにもいきませんし、ヒュンケルとシンシア王女に行かせるのもなぁ…という消去法的な考えで自分が行くしかないだろうという判断でした。そのためひとまず北側から巡っていき、最後にアルキードにも顔を出す事にしたのです。助けなんて必要ないと言われればそのまま帰ればいいだけですし、出禁を言い渡しておいて助けを求めるのなら助けてやればいい…アランはそんな程度の軽い気持ちでまずはオーザム王国へとルーラで移動するのでした。

 

 

 

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