賢者の冒険   作:賢者さん

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アランの冒険7

 

 

かつて勇者アバンに破れ、大魔王バーンの力によって復活を遂げたハドラー。

 

ハドラーは魔軍司令として新たに与えられた力と集結したモンスターたちによって今度こそ地上を侵略するために、そして自分を倒した勇者アバンへ復讐する事を決めていました。6つの軍団とそれを指揮する軍団長たち…かつての魔王軍幹部よりも更に大きな力はハドラーに自信を与え、そしてその己の力を過信しすぎた行動は新生魔王軍を指揮することも、アバンと戦うという事さえ果たされずに消えていくこととなります。

 

これにより魔王軍が混乱に陥ったのは言うまでもありません。

 

ハドラーがカール王国を訪れ返り討ちに遭い、それによりハドラーに禁呪法で生み出された軍団長の一角であった氷炎将軍フレイザードが消滅してしまいました。思ってもみない形で司令塔と軍団長を失った魔王軍…更に各国を侵略していた軍勢も次々と撃破されてしまい、軍団長として残ったのはミストバーンと呼ばれるトンガリローブとザボエラと呼ばれる魔族の老人のみとなってしまいます。

 

更にザボエラから百獣魔団を指揮していたクロコダインの裏切りを聞き、鬼岩城の場所も人間たちに知られただろうと判断した大魔王バーン。自身に刃が届き得ると考える竜の騎士やハドラーを倒した人間の勇者などが集まるカール王国を鬼岩城で襲わせる事にしました。

 

 

 

当然ながら大魔王は冥竜王ヴェルザーを倒した竜の騎士の存在を甘く見てはいません。そして本来であればそんな大魔王の策謀によって竜の騎士は自身の配下として動いていたはずだったのです。

 

当時、冥竜王ヴェルザーを打ち倒した当代竜の騎士バランは瀕死の重傷を負って地上へと戻っていました。その結末を知った大魔王が瀕死とはいえどそのまま放っておくわけもなく、自身の秘める計画の邪魔になるであろう唯一の男を打ち倒して懸念を晴らそうとするのは自然な事です。

 

しかし大魔王が見つけた時、バランは1人の人間に出会いまるで人間のように生活していたのです。

 

もちろん傷が癒えきっていない今ならすぐに討ち倒すことは可能だったでしょう。しかし大魔王にとって神々の造り出した兵器といえど、冥竜王を倒すほどの力を消してしまうのは惜しくも感じたのでした。

 

これにより大魔王の中で1つの計画が閃く事になります。それは『人間への失望をもって神々の兵器に地上を焼き払わせる』というものでした。大魔王にとって地上など魔界の蓋程度にしか考えておらず、その邪魔な蓋を神々の作り上げた兵器である竜の騎士に取り払わせるという余興を思いついたのです。

 

それと同時に自身に届き得る力を持つ男を配下に収めることができるという事にもなり、近い将来眠りから醒めるであろうハドラーと合わせて駒として利用するには十分な価値を持っています。そして当然ながらその計画は順調に進みました。人間の心に不信という種を蒔き、そしてその不和の心が成長すれば周囲へと伝染していくのに時間はかかりませんでした。

 

竜の騎士が人間たちのもとを離れようとした時は声のかけ時かと考えましたが、その後その国の王女と共に人里離れた森の中でまるで人間の父親の真似事をしている様子は大魔王の目には滑稽な演目にしか見えません。しかしそれは大魔王の計画を次の段階へと進める仕込みができた事にもなりました。王女を連れ去った国に蒔いた種は勝手に憎悪という花を咲かせ、後は人間の醜さを見せつけるだけで良かったのです。

 

しかしここで大魔王も予想し得ない事態が起こる事になります。

 

ある日、たまたま訪れていたという人間が突然竜の騎士たちを連れて行ってしまったのでした。これには竜の騎士を引き入れるためにそれなりに緻密な計画を立て、遂行していた大魔王もビックリの展開です。そして更に困った事に改めて人間たちに不和の種を蒔こうにも、ハドラーを倒したという地上の勇者たちがいる国にそこまでの危険を冒したとしても成功する確率が高くないのはわかりきったことでした

 

アバンとしては仮に突然大臣が「あの男は魔王軍の生き残りかもしれない」などと言い出してもそれを真に受けるような事はありません。竜の騎士の話も聞いていますしバランの内に秘める優しさやソアラ王女を大切にする様子を見ればそんな疑いなど出るはずもないのです。

 

それどころかそんな話がアランの耳に入ってしまったら「メダパニでもかかってるのか?とりあえず頭冷やせ」などと言ってマヒャドで氷漬けにしてしまいかねません。

 

これにより大魔王が余興の1つであり神々の兵器を手中に収めるという計画は頓挫しました。

 

 

 

神々への痛烈な皮肉として竜の騎士を配下にしておきたかったのは事実ですしその力は決して侮れるものではないとはいえど、大魔王は自分が竜の騎士に敗れるなどと思ってもいません。

 

そして確実な方法として自身の配下であるミストバーンに指揮権を与え鬼岩城を動かし、更には軍団長が敗れた事で散り散りとなっていた配下のモンスターたちも集め総攻撃をかけるという判断を下したのです。如何に竜の騎士といえど背後の人間たちを守りながら戦う事は容易ではないでしょう。ヴェルザーとの戦いの時は魔界が戦地であり、ひたすら敵を倒すだけで良かった事も竜の騎士が勝利を収めた1つの要因であると大魔王は考えていました。

 

事実もしヴェルザーやその配下の魔界のモンスターたちが地上に出てきて暴れていた場合はハドラーなど簡単に飲み込まれてしまっていたでしょう。そしてヴェルザーの軍勢が地上全土を戦場とした場合、竜の騎士はその強大な力を好き勝手に振るうわけにはいきません。人間たちを守り、そして熾烈な戦いに巻き込まぬようにしなければならないという大きな枷がかかる事になってしまうのです。そうなってしまった場合は竜の騎士であろうとヴェルザーが負けることはなかっただろうというのが大魔王の大凡の見解でした。

 

翻ってそれならば現在はどうなのか…戯れであれ組織した軍団が半壊の状態になっていようと戦場は魔界ではなく地上であり、気にかけるべき竜の騎士は背中に守るべき者たちが数多く存在している状況です。

 

 

そのまま人間たちを守りながら力尽きるも良し、人間の勇者らと共に襲いかかる脅威を跳ね返し自分に挑むも良し…大きな節目となるこの戦いの行く末を、大魔王は遠く離れた地で楽しみに眺めているのでした。

 

 

……

………

 

 

「報告します!各地でモンスターたちの襲撃が活発化しているとの事です!」

 

「テランの方向から巨大な物体がこちらに向かってきているということです!」

 

「各地より伝令!」「海からもモンスターたちが…」「町が…」「村が…」

 

クロコダインから敵の本拠地を聞き、かつての地底魔城の時のように乗り込もうとしていたアバンたちへ伝令を受けた兵士たちが次々とやってきてモンスターの侵攻を報告してきました。それらはかつてハドラー率いる魔王軍の襲撃よりも、そして今回のカール王国を襲っていた襲撃よりも範囲も規模も遥かに大きなものだったのです。

 

海からも山からも、どこからともなく現れ襲いかかる多種多様なモンスターたち。わかりやすいその軍勢を目にした人々は祈るしか術を持たず、その祈りも届かないだろうと思わせるだけの視覚効果を持っていました。

 

「城下や近隣の人たちを城に集めてください!そして騎士団は城の護衛を!決して深追いせず防衛に専念してください!」

 

アバンはすぐに城下町周辺の人々を城へと集める事にし、そして騎士団には城の護衛を通達します。しかし普通に考えれば籠城だと思われるその判断は、決して最後の抵抗などではなく反撃のための準備だったのです。

 

現在カール王国騎士団はロカの後任としてロカの前の騎士団長だったコバルトの息子のホルキンスが務めています。彼は剣の腕だけであればバランやヒュンケルとも打ち合える剣豪です。知名度で言えばアバンやアランがずば抜けているためそこまで知られているわけではありませんが、ホルキンスもまた騎士団を統率し国を守るという覚悟を持った戦士だったのです。そのためアバンの判断の真意をしっかり理解しておりながら、それでも尚アバンに言い募る若さも持っていたのでした。

 

「アバン殿、騎士団各位には王城周辺の守護を言い渡してあります。そして私もお供させてください!」

 

「いいえ、ホルキンス君には守りの要となってもらいます。魔王軍は私たちに任せてください」

 

「しかし…!」

 

ホルキンスはロカともアバンとも幼少の頃から面識がありました。ロカの前に騎士団長を務めていたコバルトが幼いホルキンスに訓練をさせていたため会う機会はそこそこあったのです。そんな幼少の頃に魔王を倒すために旅に出たアバンとロカ(+アラン)を羨望の眼差しで見てしまうのは子供だからなのか男の子だからなのか……

 

そしてロカの勇退と共に自身が騎士団長となり、更には魔王軍が攻めてきて勇者アバンは打って出ると言うのですから共に戦いたいと思うのは仕方ない事なのでしょう。

 

ホルキンスが知る限りアバンの周りには賢者として共に魔王を倒したアランや、子供ながらに光るものを持っておりこの10年で見違えるほどの剣腕を身に着けたヒュンケルがいます。それに何より豪剣だけでなく伝説の雷の呪文まで使いこなす…一体どう修行すれば辿り着く事ができるのかわからないほどの戦闘力を持ったバランもいるのです。

 

ホルキンスも当然バランとは何度も剣を合わせており、バランがどこまで高みにいるのか知りたくなったホルキンスが「本気を見せてほしい」と頼んだこともあったのです。その結果バランの実力を自分の身をもって知ることができ、危うく命を落とすところだったという一幕もありました。

 

ここで言う『本気』とは『全力』とは違うため竜の騎士のマックスバトルフォームまで見せたわけではありません。そしてバランも手合わせしているホルキンスを相手に殺傷能力の高い技や呪文を使ったりしないため、ホルキンスの希望に完全には沿わないと理解していながらもライデインを纏わせた一撃を見せたのでした。

 

更にはそんなアバンやバランの子供たちもまた、ホルキンスから見ても有り得ないと思わせるほどの成長を見せています。しかしそれでも絶対数で劣る以上少しでも力になりたい…それもまたホルキンスが秘める本当の気持ちに変わりありませんでした。

 

「君の気持ちはよくわかっています。しかし君まで抜けてしまっては騎士団の皆さんに不安な気持ちが生まれてしまうでしょう。どうかフローラ様やみんなを守ってくれませんか?」

 

ここまで言われてしまってはホルキンスも引き下がるしかありません。事実、騎士団長が不在となってしまえば騎士たちに影響は少なからず出てしまう事を理解しているのです。とはいえ仮にホルキンスも迎撃に出た場合でもフローラ女王が前に出るだけなので、実はカール王国は土台のしっかりした上に簡単には崩せない強国だったりします。

 

王女時代から病床の国王に代わり国の柱として支え続けてきたフローラ女王の現役(?)を知る騎士たちもまだまだ在籍していますし、そこに魔王を倒し王女と一緒になった勇者。更にはその勇者と共に魔王を倒した賢者がいるというのは騎士たちだけでなく国民たちにとっても「まだこの世界は終わりじゃない」と思わせるには十分な希望なのでした。

 

 

……

………

 

 

「さて、みなさん聞いていたと思いますが…どうやら魔王軍はこの国に総攻撃をかけてきたようですね」

 

「この国に集中するという事は、他の国は手薄になるという事…アバン、あなたの考えていた通りになりましたね」

 

騎士団のほうは慌ただしく城下の人々を誘導したり城を守るために動き回っている中、アバンたちはこれからの動きを話し合う事にしました。そしてアバンが話を切り出したと同時に、フローラ女王からアバンの予想通りだという旨が告げられます。

 

そうです。この形勢となることを見越してアバンは作戦を立てていたのでした。

 

かつてアバンはハドラーが魔王として世界を侵略していた際に、数百年に1度の皆既日食のその時を狙ってハドラーを誘き寄せた事がありました。当時はまだ自身の必殺剣が完成しておらず凍れる時間の秘法を保険としていたための作戦でしたが、その日その時間を指定し魔王ハドラーとの決戦に及ぶ事ができたのはアバンの知謀あっての事です。

 

今現在世界中の人々が一丸となり魔王軍と渡り合えれば良いのですが、現実問題としてそう簡単な事ではありません。そして各国にアバンやアランやバランといった1人で戦局を左右できるような人物など都合良く存在するはずもないのです。信頼できる仲間としてはパプニカにはマトリフが、ロモスにはブロキーナやロカ夫妻などがいますが、彼らがその力を十二分に発揮するためには同等の力を持った仲間がフォローする必要がありました。

 

そこでアバンは幸運にもカール王国に揃った頼れる仲間たちに賭けることにしたのです。

 

共に戦った仲間でありその強さは蘇ったハドラーすら瞬殺してしまったアラン、アランが偶然にも連れてきた伝説の竜の騎士バラン、逞しく成長してくれた剣士ヒュンケル、自身の子でありアランによって武神流の賢者という強さを持つシンシア王女、バランの子であり戦闘力で言えば十分な強さを持っているディーノくん…アバンは仲間たちを信じて各国の救援と同時に魔王軍にとってそれだけの脅威が集まっているカール王国を釣り餌としたのでした。

 

当然魔王軍のほうはそれだけの戦力が集まっているカール王国をただの1軍団でどうこうできるとは思わないでしょう。それなりの戦力か、もしくは大魔王自身を誘き寄せる事ができるだろうとアバンは考えたのです。自国に大魔王やそれだけの数のモンスターたちを引き込むというのはかなり危険な判断であり、場合によっては自国を滅ぼすつもりだと言われても仕方ないほどの決断でした。

 

あまりにもハイリスクな事に悩むアバンでしたが、その背中を優しく押したのは伴侶でありカール王国の王でもあるフローラ女王でした。自国のみを守るのであればとても簡単な事かもしれませんが、これは世界の存亡を懸けた戦いです。そこに自分の国さえ良ければというような考えはフローラ女王にはありません。共に戦う仲間を信じているからこそ、夫であるアバンの事を信じているからこそフローラ女王には迷いなどなかったのです。

 

何よりもその作戦を皆に話した際、誰も反対どころか弱音や心配の声すらも聞こえてきませんでした。「そのほうが余計な心配が減ってちょうど良い」「纏めて叩き潰せば良いのだからウロチョロされるより楽だな」といった具合に誰もが自信の笑みを浮かべているくらいでした。一緒に話を聞いていた子供たちですら心配そうな顔を見せないのは一体誰の影響なのでしょうか。

 

「ところでお父様、先程からアランが見当たらないのですが…」

 

「アランですか…」

 

この作戦を考えた時の事を思い出していた中でシンシア王女によってその場にアランがいない事を問われますが、これはアバンの作戦ではありません。アバンが考えた作戦ではアランとシンシア王女とディーノくんを1つのチームにするつもりだったのです。各国を回っていたペアでも良かったのですが、バランもヒュンケルも子供たちを気にしながら戦うよりも単独のほうが力を発揮できるという判断でした。

 

そしてシンシア王女もディーノくんもアランと一緒に出かけてはモンスターを倒してくるという事を繰り返していたため、3人一緒のほうが子供たちも思い切り戦えるだろうという配慮でもありました。アランがよく言っている「怪我しても死んでも大丈夫だから思いっきりやってみな」という言葉は子供たちにとって「何があっても大丈夫」という安心を齎し持てる力を存分に発揮できるのでしょう。本当に死なれると困るのですが…と思いながらもアバンはそれを激励だと考えているので、アランが本当に回復呪文も蘇生呪文もあるから言葉通りに『怪我をしても死んでも大丈夫』だと思って言っているとまでは見抜けませんでした。

 

これはアランが蘇生呪文を使う機会が少なくアバンたちがそれを見ることがなかったのが原因です。基本的にゲーム脳でパーティメンバーくらいしか蘇らせるつもりのないアランは、仮に立ち寄った町や村で死者が出たとしても「モンスターにやられちゃったのか」くらいにしか思いません。「まぁ世界征服されそうになってる世界だしね」と割り切っているというよりもそういう世界だと認識している弊害がありました。

 

アバンやロカなどが戦いの中で死ぬ事があればすぐに蘇生呪文で叩き起こしたのですが、幸運にも魔王ハドラーの時も今回もアランの仲間たちに死者は出ていないため見せるような機会はなかったのです。

 

そしてだからこそリンガイア王国でノヴァくんを蘇らせた事が大きな影響を及ぼすのですが、占い師でも預言者でもないアバンはそんな事まで知る事はできないのでした。

 

 

 

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