賢者の冒険   作:賢者さん

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アランの冒険8

 

 

「ピギィ!」「グオオオォォ…」「ギャッ!」

 

「…よし、次いこうっと」

 

アバンがカール王国を餌とした『魔王軍引き寄せ一網打尽作戦』を展開していた中、アランは「だったら俺は西側のいっぱいいるヤツ退治してくるね」と止められる間もなく飛び出して行き、作戦通り集まってきているモンスターたちを片っ端から打ち倒していました。これは独断専行という理由ではなく、アランは自分が今どこまで戦えるのかの確認や試したい事などを行っていたのです。

 

とはいえアランの頭の中では今回の襲撃で大魔王が直接やって来るとは考えていません。

 

ラスボスである大魔王が「愚かな人間どもよ…漆黒の闇に消えるがいい」などと言いながらわざわざやって来られても拍子抜けというものです。そんなフットワークの軽い大魔王なんて大魔王じゃない、という様式美的な認識を抱いているアランにとってハドラーは魔王足り得なかったのかもしれません。

 

過去にハドラーはアバンに向かって「世界の半分やるから部下になれ」と言った事もありました。言っている事はとても立派な魔王だっただけにそこは良かったのですが、わざわざやってきて自己アピール過剰なのは頂けない…などと思われていたとは、既にこの世にいないハドラーも思いもしないでしょう。

 

モンスターを打ち倒しつつもそんな他愛も無い事を考えるアラン…現在カール王国に向かって東側からやってきているという巨大ゴーレムと戦うことも考えたのですが、さすがにここはアバンの出番だろ…という考えの結果、慎ましく辞退することにしたのでした。

 

カール王国に迫る危機…それを覆すのは魔王を倒した勇者だった。そうなるのがベストで、その期待に応えてこそ勇者なのです。そこに仲間であるとしても賢者が出しゃばってしまってはいけません。妻であるフローラ女王だってきっと見たことのないアバンの勇姿を見たいはずですし、子供たちだって勇者の戦いというものを見たがっているはずです。

 

かつてアバンは言っていました。大地を斬り、海を斬り、空を斬り、そしてすべてを斬るのがアバンストラッシュだと…つまり今こそアバンストラッシュの出番ということです。アバンストラッシュが襲い来る巨大ゴーレムを斬り裂き、人々の未来を切り開くのです。

 

まさかアバンも自分を巨大ゴーレムと戦わせるために、アランが西側のモンスターを一掃しているとは思いもしないでしょう。アラン本人的には善意で良いところを譲ってあげているつもりなのですが、このアランの多々発生する丸投げという名の信頼は重くないのでしょうか…

 

そんな理由で最後の戦いに向けて大量に襲い来るモンスターを相手に戦うことで、アランは自身の大凡のレベルやステータスなどの目安を知ろうとも考えていました。フローラ女王だけでなく、各国を巡るついでに「次のレベルまでの経験値わかる?」と聞いて回っていたアラン…その時には全員から漏れなく「こいつは何を言っているんだ?」という目を向けられることになり、アランはアランで「使えない王様だな…」と失礼極まりない事を感想として抱いていたのでどっちもどっちかもしれません。

 

しかし王様たちの反応は至極当然のものであり、ある意味とてもふわっとした回答ながらもきちんと答えたフローラ女王がすごいのです。

 

結局どの国でもそういった結果だったため、アランは最終的に自分で大体のレベルを計る事にしたのでした。少なくともイオナズンもザオリクも使用できる事は確認しているので、アランの考えではレベル38を超えているのは間違いありません。更にヨミカイン遺跡で引きこもって修行していたり、アバンが固まっている間マトリフから地獄の特訓を受けたりしているので魔法力の扱いについては右に出る者はいない熟練度を持っていました。

 

そこに拳聖ブロキーナから武神流を余す事なく伝授されており、しかも魔王を倒して平和な世界となってからもディーノくんやシンシア王女を巻き込んでまでモンスターと戦う機会を作っていたため腕が鈍ることはありません。アバンやヒュンケルも含め自己研鑽では考えられないほどのレベルアップを平和になっても更に行う様子は、事情を知らなければ他国に攻め入るつもりなのかと勘ぐられても仕方ないほどでした。

 

それもこれもアランの知らない設定がたくさん出てきていたのが原因です。知らない呪文があったり闘気などの知らない戦い方があったりしたため『もしかしたら8ビットの世界では描ききれなかっただけで、実は練に練り込まれた壮大な詳細設定があるのかな?』と明後日の方向に解釈していました。

 

ちなみにこの世界ではモンスターを倒してもお金を落とすことがないため、魔王討伐の頃から今に至るまで金銭的なものはすべてアバンに寄生していたのは現在進行系なのに良い思い出です。隠居状態のマトリフとブロキーナも合わせて考えると勇者パーティは大半がお金に無頓着な者で構成されているとは誰も思わないでしょう。アバンの仲間たちの中でしっかりしていたのは僧侶のレイラくらいのものです。

 

むしろお城で生活している人たちの中で一番情けない生活をしているんじゃ…という不安が頭を過ったアランは、大魔王を倒すことで有耶無耶にしてしまおうという名案を思いつきながら襲いかかってくるモンスターを返り討ちにしていきました。

 

 

「クカカカカッ、たかが人間が調子に乗ってるじゃねぇか」

 

「ん?」

 

ひたすらモンスターを倒し続けていると、スカイドラゴンに乗った鳥人っぽいモンスターがやってきます。どうやらここらのモンスターを束ねて町を襲っていた小ボス的な存在なのでしょう。スカイドラゴンの口には襲われたであろう人間が咥えられており、そのモンスターの秘める残虐性をわかりやすく示していました。

 

きっと今までは空を飛べない人間を相手に空中から甚振るように攻めていたのでしょう。スカイドラゴンに乗りこちらを見下ろす鳥人の目には明らかに嘲りの色が見て取れます。ハドラーなどもそうですが、自分の優位を信じて疑わないあまり油断しすぎているのです。その油断の結末は鳥人もスカイドラゴンも一撃で叩き落された上に瀕死の状態で地面に這い蹲る事になりました。

 

「グガッ……このオレが…人間なんぞに…」

 

「まぁそういうもんだ。心配しなくても残りのモンスターもちゃんと退治しておくよ。とりあえずあのドラゴンからにするか」

 

「なっ…頼む!ルードはオレの兄弟なんだ…だから見逃してくれ!」

 

もはや勝ち目がないと悟ったのか、それとも油断させるための方便なのか…鳥人は身動きできない状態で突然スカイドラゴンの命乞いを始めました。これがアバンたちであれば効果があったのでしょう。どれだけ残酷なモンスターであっても、瀕死となり命乞いをしている相手に止めを刺すのは憚られるのものです。

 

しかし鳥人にとって唯一の不幸だったのは、そんな命乞いがまったく効果がない相手が目の前にいたことでした。もしアランに『倒した後に起き上がって仲間になりたそうにこちらを見ている』というモンスターが仲間となるシステムなどの知識があったら違ったかもしれません。しかしそんな知識のないアランにとってモンスターの命乞いなど逃げようとしているモンスターと変わらないのでした。

 

鳥人もスカイドラゴンもしっかりと息の根を止め、それを見た事で逃げ出そうとしているモンスターすら打ち倒していくアランはモンスター側から見れば魔王っぽく見えるかもしれません。

 

そしてそんなアランの様子を悪魔の目玉が静かに見つめているのですが、元々モンスターの気配なんて読めない上に辺り一面モンスターだらけなので気付く事はできませんでした。

 

「ほう…人間にしては研究し甲斐のありそうなモルモットがいるな」

 

「ん?」

 

見られているとも思わずに暴れまわっていたアランの前に1人の魔族が現れます。その魔族は自らを「妖魔士団長ザボエラの子で妖魔学士ザムザ」と名乗り、超魔生物学という学問を研究しているということです。なぜ研究員がわざわざ出てきたのかと思えば、モンスターと戦えるような強靭な肉体を持った人間を研究材料に欲しいからということでした。そしてこの魔王軍の総攻撃をちょうど良い機会だと思い、この戦いで少しでも抵抗できた戦士を集めて素体にしようと出てきたのです。

 

ここまで説明されればアランとて理解できます。つまりアランの肉体を研究に利用したい…ザムザと名乗った魔族はそう言っているのです。

 

そこまで言われて納得するはずもなく、また逃してしまえば誘拐事件が多発しそうな気がしたアランはザムザをさっさとこの場で始末することを決めました。ザムザは本人の申告通り研究者らしい戦闘に慣れていない身のこなしなのでボコボコにされていたのですが、突然自慢気に語りだしたかと思えばその身を魔獣の姿へと変えていったのです。

 

「これこそが100種類以上の怪物の長所ばかりを取り入れた究極の魔獣の力だ!!」

 

ザムザが言うにはこれが超魔生物というものらしく、外傷もすぐに治癒するすごい能力を持っているという事でした。なぜか「変身すると呪文が使えなくなる」というデメリットもわざわざ教えてくれるのは研究者として語らずにはいられない性のようなものなのでしょう。

 

「へぇ…それはまた丁度いいヤツが来てくれたもんだ」

 

しかしザムザは狙う相手を間違えてしまっており、そしてアランにとってはザムザは都合の良い相手だったのです。相手が魔法を使用できず巨体で外傷を治癒できるということは大きなサンドバッグでしかないのです。

 

アランが今回のもう1つの目的である試したいこと…アランが魔道図書館で本を漁っている中に『生命力』に関するものがあったのです。メガンテは自身の全生命エネルギーを使用し爆発させるこという事は以前アバンから聞いた事がありました。そしてそれと同時に生命エネルギーとは闘気であるとも聞いた事があります。つまり魔法力と生命エネルギーは別物という事になります。

 

現在アランが考えている超必殺技があるのですが、今のところ戦闘で実用するには非常に大きな難点があったのです。

 

試行錯誤の末に現在はほんの少し使用できるようになっているのですが、やはりそれを十全に実現するには並大抵どころではありません。そこで着目したのが生命力だったのです。メガンテのように一度に全てではなく、それでいて生命エネルギーも使用できるようになれば……そんな思惑もあり、そしてどれだけの威力があるのかを試したりするのに超魔生物のザムザは格好の実験相手なのでした。

 

 

……

………

 

 

アランがカール王国の西部で超魔生物ザムザを相手に大暴れしている頃…カール王国の東側、テラン王国の方から巨大なゴーレムが姿を現しました。そしてその姿を見たクロコダインから、そのゴーレムが鬼岩城と呼ばれる敵の本拠地であることを知らされます。

 

クロコダインからの情報ではこの本拠地はギルドメイン山脈の奥深くに存在していたという事でした。しかしその本拠地が実は移動要塞で、歩いてカール王国までやってきたのだということは…ギルドメイン山脈とカール王国の間にあったテラン王国も無事では済まないということです。それだけでなくランカークスなどの周囲に存在していた町や村も踏み潰されていると考えるのが妥当かもしれません。

 

もし仮にこの移動要塞のゴーレムがパプニカを目指していれば…移動は海を渡ることになり、海岸沿いで迎撃したりすることもできたのです。例えばパプニカ王国で各国の首脳を集めてサミットを開いている時に奇襲されたとしても、局所的な戦闘によってそこまで大きな被害にはならなかったかもしれません。しかし現在この移動要塞は大陸を横断してきているため、その道中の被害は計り知れないのでした。

 

その大きさはカールの王城を軽く見下ろすほどであり、もしそのゴーレムが襲いかかってきた場合は王城などひとたまりもないでしょう。いくら強固な守りの王城といえど遥かに大きなゴーレムからの攻撃など想定していないのだから当然です。これには王城を守護する騎士団の面々も恐れ慄き諦めの表情を浮かべる者が出てしまうのも仕方のない事でした。

 

そしてこの巨大なゴーレムの登場は、魔王軍を引き寄せる作戦を立てたアバンも予想外の事でした。

 

モンスターの軍勢や強力な力を持った敵の登場は考えていましたが、まさかこれほどの巨体を持った本拠地が直接歩いて来るなど想像の超えた事態だったのです。自身の考えが甘かった事を悔いながらも何か方法はないか必死に考えるアバン…流石に相手が大きすぎてはアランのメドローアであっても消し飛ばすには時間がかかってしまうだろうという判断でした。

 

まさかアランからアバンストラッシュで倒すことを期待をされているなどと思いもしません。迫り来る巨大ゴーレムへ対抗するため何か手はないか、今の状況で何ができるかをその明晰な頭脳で思案していました。

 

「アバン殿、アレは私に任せておけ」

 

「…バランさん」

 

そんなアバンの考えなど関係ないとばかりに巨大なゴーレムを相手に名乗りを上げたのは竜の騎士バランでした。バランからしてみれば目の前に迫る巨大ゴーレムなど、かつて死闘を繰り広げた冥竜王ヴェルザーやその一族たちに比べれば人形も同然という感想です。もちろんここは地上であり自身の後ろには愛する妻を含め人間たちがたくさんいるのですが、だからこそ『守る』という事を強く意識したバランは一歩も通さないという覚悟をもって戦う決意をしていました。

 

竜の騎士はその性質上単独戦闘に秀でており、また人間にどうにかできるようなレベルではない強大な敵を相手取ってきた歴史があります。それらの戦いの中にはもちろん共闘なども無いことはなかったのでしょうが、地上有数の実力者たちが集まり無辜の民を守りながら共に戦うというのは竜の騎士の歴史上でもバランが初めてかもしれません。

 

「あなた…」

 

「ソアラ、心配は無用だ」

 

そして何よりも違うのは自分の妻である女性が見守っているのです。竜の騎士だからとかそういった理由ではなく、1人の男として愛する女性に良いところを見せたいというのは男の性といっても過言ではないでしょう。そして妻の前で、息子の前で格好悪いところなんて見せるわけにはいかない夫であり父親である男の意地でもあるのです。

 

それだけではなく、そこには息子と一緒に成長していくところを見てきた…息子と同じくらい可愛がってきた女の子がいたり、直接の弟子というわけではありませんが剣を教え少年の頃から見守ってきた青年もいたりもします。

 

つまり何が何でも負けられないし、決して情けないところなど見せられないのです。

 

大魔王が読み違えたとすれば…この『人の心』というものだったのでしょう。森の中で妻と息子と静かに暮らしていれば決して得る事のできなかったものを、バランはこの10年で数々経験してきています。それは自身の息子の慣れない子育てだけでなく、更に未経験にも程がある小さな女の子の世話や妻のママ友との会話など多岐に渡りました。

 

2人の子供にせがまれたことでアランの真似をして細心の注意を払いながらトベルーラで空の散歩をしたり、呪文の練習で失敗して泣き出す女の子を必死に宥めたり、幼いためまだ呪文を使えない息子を慰めたり…そして大きくなっていくに連れて剣を覚え呪文を覚えて立派になっていく姿を見てきているのです。

 

歴代の竜の騎士たちが誰も得られなかったであろうそういった経験によって『人の心』を十分に育んできたバランにとって、その暖かな場所を守るという事に躊躇などありません。仮にこの場で竜の騎士の真の姿をさらけ出したとしても後悔はしないと言い切れるほどにバランは仲間たちを信じていました。

 

 

そんな『竜』と『魔』と『人』のすべてを十全に兼ね備えた究極の戦士の戦いは、目の前にある絶望を振り払い多くの人たちに希望を与えるのでした。

 

 

 

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