賢者の冒険   作:賢者さん

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アランの冒険11

 

 

死神キルバーンと魔影参謀ミストバーンが撤退したことで決着がつき、今回の魔王軍の大襲撃とも言える攻勢はカール王国側が撃退したという形になりました。そこまでは良かったのですが、これから敵を追い詰めようという時になって突如発生した王城での爆発…そして去り際の死神の不吉な言葉にただならぬ状況を感じ取ったアバンたちは大急ぎで王城へと、そして愛する女性のもとへと文字通り飛んで行ったのです。

 

ミストバーンが子供たちを人質に取っていたことから考えられるのは、城で待っている自分たちの大切な人を害するか連れ去るという事でしょう。事実王城の壁は爆発によって崩れており、その崩れている場所はフローラ女王とソアラ王女がいる場所だったのです。

 

もはや不安で押し潰されそうなほどに逸る気持ちを抑え、泣きそうな顔をしている子供たちを宥めながら崩れた場所から室内へと飛び込む4人。そんな4人が目にしたのは……怪我もなく五体満足な、まさに4人が心配していた2人の女性の姿でした。しかしいつもならば優しく微笑んでいるこの2人の女性は少々顔色を悪くしているのと、そしてなぜかその場にいる賢者に対して何かを言っている様子です。

 

 

「アラン?」

 

「お姫様、違うんだ…言い訳を聞いて?」

 

「アラン様?」

 

「ソアラちゃん、お願いだから少し落ち着こう?ね?」

 

ひとまず状況の確認をと周囲を見渡せば屋内にはモンスターの死骸が散らばっており、更になぜか水風船が爆発したかのように真っ青な液体が飛び散っている場所まであったのです。何がどうなったのかまではわかりませんが、アバンたちはこの2人の女性に必死に言い訳しようとしている賢者が解決してくれたのだろうということはわかります。

 

「皆さん無事のようで何よりです。まずは怪我をした方の治療と残骸の片付けをしましょう。ところで…アランは一体どうしたのですか?」

 

騎士団長や騎士団の面々を含め命からがらながらも無事そうな事を確認し一安心なアバンは、改めて今の状況を確認することにしました。何せキルバーンからあれだけ意味深な事を言われ、爆発まで起こっていたのですから気になって然るべきです。

 

騎士団長ホルキンスが怪我の少ない部下たちに倒れているモンスターの片付けを指示し、ここでは何だということで崩壊し外が見えている状態の部屋を移動してから城内で起こった騒動の一連の報告を受けることになりました。そうこうしている間にヒュンケルとクロコダインも戻ってきて姿を見せており、多少の怪我はありながらも元気な様子だったので一緒に各地点の戦いについて情報の共有も行うことにもなったのでした。

 

「それでは城での状況から説明していきます」

 

まず話すのは騎士団長ホルキンスです。アバンたちが一番知りたいのはここ王城での出来事であり、マホカトールによる結界と騎士団が守っていた……一番多勢の場所であり、戦力的には一番不安のある場所の事でした。しかしいくら不安はあっても、こればかりはいくらカール王国でもどうしようもなかったのです。多方面から一斉に襲い来るモンスターを水際で抑え、敵の本拠地すら投入してくるところには見合った戦力を置き、本丸である王城には魔法の結界と王国騎士団を配置していたというだけでもすごいことなのですから…

 

ホルキンスの話では、敵の本拠地をバランが討ち倒すあたりまでは何事もなく皆が油断することなく戦況を見つめていたということでした。しかしまるで本拠地の破壊が合図だったのか、それと同時に城内に大魔王の片腕と語る魔族が現れたということです。その魔族の目的はフローラ女王とソアラ王女であるということで、大人しく引き渡せば何もせず帰ってやるとまで言ってきたそうでした。

 

しかしフローラ女王はそれを拒否し、魔族は業を煮やしたのか魔法の筒からモンスターを呼び出し戦闘となったのです。騎士団も勇敢に戦いましたが次々と迫り来るモンスターたちの攻撃に膝をつき始め敵の魔の手はフローラ女王たちの目の前まで迫ってしまったのでした。

 

フローラ女王も抵抗しようとしましたがその魔族のマホトーンによって呪文を使うことを封じられてしまい、ホルキンスも邪魔だとばかりに敵の攻撃呪文に吹き飛ばされその様子を見ているしかできない状況となってしまったのです。

 

そんな危機的状況を覆したのは西側でモンスターを抑えているはずの賢者アランでした。アランはそのまま立ちはだかるモンスターを鎧袖一触とばかりに殲滅し、そのままフローラ女王に手をかけようとしていた魔族までも倒したということでした。何をしたのかはホルキンスにはわかりませんでしたが、ホルキンスは魔族の侵入を許してしまった事や自分たちで撃退できなかった事を悔いている様子です。

 

「ホルキンス、あなた達はよく戦ってくれました。敵の策略を見抜けなかったのは私たちも同じなのです。次は期待していますよ?」

 

「はっ!必ずや守り抜いてみせます!」

 

そんな後悔の表情を滲ませながら話すホルキンスに、フローラ女王は優しく労りの言葉をかけています。敵の本拠地まで動員した大攻勢に対して目が行くのは当然の事であり、更にそこに搦手としてもう一手打たれているとまで見抜けなかった事を悔やむのはフローラ女王やアバンのほうなのです。もし今回の魔王軍の…ザボエラの奸計が成功していた場合の事など考えたくもありません。

 

「それでは次はアランの話を聞いてもいいですか?」

 

少々重くなってしまった空気を一新するように、アバンはあえてアランに話をしてもらうことにしました。ムードメーカーというほどではありませんが、ある意味マイペースとも取れるアランの言動は深く考えすぎる者たちにとっては力を抜くのに丁度良いのです。

 

「でも俺は話すような事なんてそんなにないよ?」

 

「それでも構いませんよ。あなたから見た王城の状況を教えてください」

 

アランが話したのは本当に簡潔な内容でした。言ったのは「西で敵をぶっ殺して城に戻ったら敵がいたからぶっ殺しただけ」という一息で終わるものです。しかしそれだけでフローラ女王やソアラ王女がああなるでしょうか?フローラ女王たちの絶体絶命の危機を救ったのは間違いないのでしょうが、それ以外に何かやらかしている事も間違いありません。

 

「アラン、よ~く思い出してみてください。他に何かいつもと違う事はありませんでしたか?」

 

「他に?何かあったかなぁ…なんか命乞いしてきたけど殴ったら破裂しちゃったくらいしか思いつかないよ」

 

「それですね」

 

答えはすぐに見つかりました。なるべく詳細に語ってほしいというアバンからの要望を受け、その時の様子を思い出しながら少しずつ語っていきます。

 

それによるとアランはカール西側でモンスターたちを相手に大立ち回りをした後、その成果に満足しながら次の場所へ行こうとしていました。ちなみに襲いかかってくるモンスターを全滅させたわけではありません。城下では騎士団が警備しているので、彼らにもお仕事をあげないといけないという善意から適度に倒していたのです。しかしどこに誰がいてどうなっているのかわからないアランはとりあえず実験した生命エネルギーの回復を兼ねて王城に戻って戦況を聞こうと考えたのでした。

 

そのためルーラで王城へ戻ってみるとなぜか屋内でモンスターが暴れていたため、それらを打ち倒していたら見知らぬ老人がフローラ女王の前にいたのでとりあえず殴ったということでした。ここでザボエラ側にとって不幸だったのはアランが西側の戦いの時に自身に補助呪文をかけていたことです。素早さも攻撃力も上がっている状態で突然現れて自分に向かって殴りかかってくるなど思わないザボエラはそれをまともに食らってしまったのでした。

 

あまりのダメージに痛む身体とそれを癒やす間もない状況を瞬時に悟り、ザボエラの脳内を過った次の考えは『何とかしてこの場を逃れる』というものでした。このザボエラという魔族の恐ろしいところは、武人などと違い『最後の最後に勝てばそれで良い』というそれまでの手段は一切問わないところなのです。そのために今回取った手は人間の甘さを利用した『命乞い』というものでした。

 

「ひぃぃ…ワシは大魔王に命令されただけなんじゃ!これからは大人しくするから命だけは許してくれ!」

 

頭を床に付けてまで助命を願う姿を見て、ザボエラの思惑通りにフローラ女王たちだけでなく騎士団の面々も戦意は失せてしまったのです。そこには魔族ではあるものの老人の姿をしているというのも理由の1つとしてあったのかもしれません。もはやそこにいる全員が見逃すという方向で考えており、きっとアバンたちがいたとしても同じ意見になるでしょう。

 

「アラン…」

 

「はいはい、わかったよ」

 

しかしいくらフローラ女王たちがそう決めたところでアランがそれに従うとは限りません。まず敵がフローラ女王とソアラ王女を目的として侵入し暴れていたのは確かな事であり、そしてそれを打ち破り戦況を覆し生殺与奪を握っているのはアランなのです。これが仮に騎士団が返り討ちにしたのであればフローラ女王の判断のみで決定することができたのですが、アランは騎士道精神など持ち合わせていないため説得という形を取ったのです。

 

そして友人であるフローラ女王がそう決めたのならば、余程でない限りアランがわざわざ文句を言うこともありません。とはいえこのまま何もせず帰すというのもなんとなくモヤモヤしたものが残りそうです。そこで少しだけ考えたアランは、この土下座している魔族を実験とお仕置きのつもりで一発だけ思いっきりぶん殴っておくことにしました。

 

「じゃあこれで……チャラだ!」

 

アバンたちにとっては周知の事ながら、賢者アランは拳聖ブロキーナから伝授された武神流の使い手でもあります。それは一部の動きだけなどといった断片的なものではなく、奥義である閃華裂光拳まですべてを受け継いでいるのです。そして今まではブロキーナの教え通りに閃華裂光拳はホイミで使用していたのですが「別の呪文で試したらどうなるんだろ?」という事はブロキーナから技を伝授された頃から考えていました。そしてそれをハドラーに使うことは終ぞなかったため、なんとなく「どうせだしコイツに使ってみよう」と軽い気持ちでイオナズンのエネルギーを込めた閃華裂光拳をザボエラに罰として見舞ってしまったのでした。

 

もしかしたら普通にイオナズンのエネルギーを込めた一撃であれば身体中の骨が砕ける程度で済んだかもしれません。どこか別の世界では馬面の金属生命体が「ライトニングバスター」などと命名していた大技だったかもしれないのですが、アランにとっては閃華裂光拳の亜種程度の認識です。

 

そしてその閃華裂光拳はホイミでマホイミの効果を出すほどであり、今回のその拳は普通にイオナズンを使用するエネルギーを凝縮し威力が上がった状態で繰り出す事ができたのです。つまりザボエラは『魔族に対する実験』として『補助呪文で能力を底上げされた』状態のアランに『結果のどうなるかわからない』イオナズンのエネルギーを込めた閃華裂光拳を罰として与えられたのでした。

 

「ぐぎゃっ…」

 

こうした数々の不幸が偶然にも重なった結果……残念ながら閃華裂光拳(イオナズン)を受けたザボエラは水風船の如く破裂し、魔族の証である青い血を撒き散らして死んでしまいました。アランの言った「これでチャラ」というのは死を以って許してやるという意味に受け取れないことはありません。アランとしては「やっちゃった」程度にしか思っていませんが、その一連の行動は見る者によっては余計な恐怖を与えてしまうことだって有り得るのです。

 

フローラ女王とソアラ王女は生粋の王族の人間ですので、人から向けられる感情の機微についてはよく理解しています。そのためアランが行った行為は相手が敵であったとしても畏怖の感情を向けられかねないものだと危惧したのです。そのことについて暗に苦言を呈し、アランがそれを必死に宥めている場面でアバンたちが帰ってきたのです。

 

つまりアバンたちが帰ってきた場面でフローラ女王やソアラ王女がアランに言っていたのは「やりすぎ」という内容の事を言っていたのでした。一応フローラ女王のほうは魔王ハドラーの侵攻の際に騎士団の先頭に立ったりもしているので少々くらいなら耐性がありますが、王室で育ち戦場に足を踏み入れたこともないソアラ王女はそうではありません。普通ならば老人が破裂するというあまりの光景に気を失ってもおかしくないところを、顔色が悪いまでもしっかりと意識を保っているのですから大したものでしょう。

 

そんな女性2名や騎士団の目の前で魔族とはいえ『老人が平身低頭の姿勢で助命を求め、それに応じたはずなのに殺害した』というのは客観的に見てあまりにもひどい光景に見えたのです。ザボエラが実は『フローラ女王とソアラ王女を連れ去った後に人体実験や改造を施して、その惨たらしい有様で再会させ人間と戦わせたりしよう』などと考えていた事を知れば彼女たちの考えは変わるのですが、今はもうそれを知ることは叶いません。

 

フローラ女王たちだってアランがやったことについては、今は魔王軍との戦時ということもありますのですべてが綺麗事だけで済むはずがないと理解はしています。魔王ハドラーだって魔界の神の生贄をするためにフローラ王女を拐おうとしたことがありましたし、今回だってフローラ女王とソアラ王女を連れ去ろうとしていたのは事実なのです。

 

そんな危ない状況を助けてもらったことは皆が感謝も理解もしているのですが、それでも少しくらいはお小言を言っておきたい気持ちにもなってしまうのも仕方ありません。あるいはそれが彼女たちが心の平常心を保つために、いつも通りにアランを呼ぶことでいつもと同じ日常の空気になると無意識に出てきたものだったのかもしれません。

 

少々グロテスクな場面を見ることになってしまいましたが、結果的にフローラ女王もソアラ王女も無事で済み襲ってきた魔王軍を撃退することもできたわけです。

 

ヒュンケルとクロコダインのほうも数は多かったけれど…といった内容でした。もちろん数というものを馬鹿にすることはできません。結構な被害が城下町に及んでいたりしていましたが、それでも騎士団が勇敢に戦ってくれたりしていたので王城まで魔の手が届かなかったのは幸いといえるでしょう。広範囲を殲滅するような技を持っていない2名は騎士団とも協力し次々と襲いかかってくるモンスターの群れにそれなりに苦労したという事でした。

 

何せ主戦力となっている面々の中で強力な武器を持っているのは竜の騎士であるバランだけなのです。アランとシンシア王女は格闘と呪文が主体なので問題ないのですが、それ以外の者たちにとっては武器が弱いというのは致命的な問題でした。それでもカール王国にある上質な剣を使用してはいるのですが、これからの戦いの事を考えればやはり不足感は否めません。

 

武器の事も早急な問題であれど考えるのは今回の魔王軍の事です。敵の本拠地を破壊したにもかかわらず、結局大魔王は出てきませんでした。そしてミストバーンとキルバーンがどこかへ帰っていったということは、その場所こそが大魔王のいる本当の本拠地という事でもあります。今回の戦いで敵の幹部とも言える大魔王の側近が出てきた以上、決戦の日はそう遠くないでしょう。

 

アランが考えているように地下世界に大魔王の居城があるのかどうかはわかりませんが、来たるその日に向けて入念に準備を行っていくのでした。

 

 

 

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