賢者の冒険   作:賢者さん

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本来の投稿予定日ではありませんでしたが、台風で在宅を余儀なくされそうな状況ですし暇つぶしにお読みいただければと思います。


アランの冒険12

 

 

その日、世界中の人間たちが空に浮かぶそれを見上げることとなりました。

 

バーンパレスと呼ばれるその空飛ぶ白亜の宮殿は優雅な鳥のようであり、大凡大魔王の居城とは思えぬほどです。本来であればこの宮殿が空を舞う時は魔王軍が地上の人間たちを駆逐し、最後の仕上げとして地上を消滅させる時だったのです。

 

ならばなぜ今その宮殿が空を飛んでいるのか…それこそが大魔王なりのここまで戦ってきた人間たちへの称賛の証でもあり、そしてこれまでの戦いを見てきて地上に巣食う人間たちの中で倒しておかなくてはならない者を見定めた結果でもありました。

 

魔王軍の全軍を地上の1つの国に差し向け、更には仮初の本拠地でもあり大魔王が少しだけ思い入れを込めた玩具であった鬼岩城まで持ち出したのです。そこに齎される結末はカール王国の滅亡以外にないと思われていたものを覆したのですから、強者に対しては敬意を払う大魔王としてもこの結果に対し称賛の意を表さずにはいられませんでした。

 

もちろんそこには竜の騎士がおり、そしてハドラーを倒した地上の勇者がいることは承知の上で大魔王は人間たちが勝利すると考えていなかったのです。更にザボエラが影で何かの謀をコソコソと行おうとしていたのも当然知っていましたし、好きにさせていたのも勿論大魔王が「人間にどこまで抵抗できるか」と放っておいたからです。それにより中枢から瓦解し飲み込まれるも良し、竜の騎士だけは残るかもしれないが恐るるに足らず…というのが両者の戦力を考え訪れるであろう未来図のはずでした。

 

しかしそこには魔王軍を裏切ったクロコダインの力も多少はあったのでしょうが、それでもそれら全てを跳ね除けカール王国は今もなお存在しているのですから大魔王としても認めないわけにはいきません。そしてそれは大魔王にとって人間という種が真に邪魔な存在であると認識を改める事でもありました。

 

『力』が何よりも優先される魔界において、力なき者など生きる価値さえ奪われるのです。小賢しい知恵をいくら振り絞ったところでそれすらも踏み潰していくのが魔界の在り方であり、数千年もの時間を過ごしていても尚変わらぬまさに不変の真理なのです。

 

大魔王にとっては人間などその真理に背き、自分たちの勝手な解釈で自分たちを正当に見せているだけの小賢しい存在でしかありません。今までは魔王軍という無くても困らないものをわざわざ作り、地上という遊技盤の上で駒たちが動くのを観ながら愉しむだけのつもりでした。勿論最後には自分が勝利することをわかった上で、大魔王は自らが人間たちへ教えてやろうとしているのです。

 

それこそが自然の摂理に背いた人間たちへの報いでもあり、同時に思った以上に愉しませてくれた事への褒美でもあるとさえ考えていました。

 

 

……

………

 

 

「みなさん、いよいよ決戦が近いようですよ」

 

カール王国の王城の一室にて、そこには魔王軍の大攻勢を退けた立役者たちが勢ぞろいしていました。音頭を取る勇者アバン、フローラ女王、賢者アラン、剣士ヒュンケル、シンシア王女、竜の騎士バラン、ソアラ王女、ディーノくん、クロコダイン、ホルキンスに城内警備の騎士……フローラ女王やソアラ王女は戦力ではありませんが、愛する夫や子供がそこにいるのに席を外す理由もありません。

 

大魔王バーンに関しては軍団長であったクロコダインもまったく情報を持っておらず、仮初めの本拠地であった鬼岩城を本拠地だと思っていた事からも空を舞う宮殿について何も知らないのは明白です。そのためアレが大魔王のいる場所ではない可能性もなくはないのですが、今この時に至っては大魔王以外に考えられず、よって大魔王の居城であると仮定して話していました。

 

その根拠はいくら魔法を使えたとしても、巨大な城を浮遊させる事など人間に出来るような事ではなく大魔王以外に考えられないからです。では逆に考えて天界の建物なら…と、もし『天空の花嫁』的な知識がアランにあればそう考えたところでしょうが、マスターなドラゴンがいたりというような事を知るはずもなく消去法で大魔王の城に決まりました。

 

更にその浮遊城がここカール王国にゆっくりと向かってきているのですから、都合の良い援軍ではない事は明らかだったのです。そしてアバンたちの目算では、恐らく明日の朝には浮遊城がカールの上空へと到達するだろうという判断でした。

 

「さて、全員で行くとこちらの守りも薄くなってしまうので、ここは戦力を分ける必要があるわけですが…」

 

「オレは行くぞ。この時のために、父さんの仇を討つために腕を磨いてきたんだからな」

 

「おれも!」「私も行きますわ」

 

アバンの「大魔王と戦いに行くか、王城で守りを担うか」という話に真っ先に立候補したのはヒュンケルです。養父であった地獄の騎士バルトスを失い、その仇として定めた大魔王を討つためにここにいるという言葉にその意志は固そうです。ディーノくんとシンシア王女も同じく声を上げ、アランが昔考えた次期勇者パーティに近いメンバー構成でした。

 

しかしアランはヒュンケルの言葉を聞き、とても大事な事を思い出しました。

 

言った当人はすっかりサッパリ記憶の彼方だったのですが、ヒュンケルは今も大魔王を養父の仇だと信じていたのです。原因は勿論アランであり、今まで忘れていて機会がなかったとはいえヒュンケルのそれを正さなかったのもアランなのです。

 

 

『お前が大魔王か!父さんの…地獄の騎士バルトスの仇!』

『なんのことだ?ワシがなぜわざわざハドラーの配下を倒さねばならん』

『なんだと…?お前が父さんを殺したんだろう!?』

『そんなはずなかろう。誰がそんなデタラメを言っていたのだ?』

『なん…だと…?どういうことなんだ…』

『ワシの明晰な頭脳が、犯人は大魔王と言ったヤツが怪しいと言っておる』

『どういうことだアラン!?』

 

アランの脳内でやけにリアルに再生されたヒュンケルと想像上の大魔王のやり取りに、もしヒュンケルを連れて行ったら面倒な事になると頭を悩ませることになりました。もしこうなってしまえばガイコツ剣士を倒したのが誰なのかわからないという『密室殺モンスター再び』です。アバンもアランも倒しておらず、魔王はアバンが倒している以上犯人はガイコツ剣士自身しか有り得ません。つまり死因は自殺だったということです。しかし今更得た答えがこれではいくらヒュンケルでもきっと納得しないでしょう。

 

本当の事実が『魔王を倒せば地獄の騎士も消滅することになるからヒュンケルを託しており、その後倒されたはずの魔王によって直接手を下されていた』などとは考え付きもしません。基本方針が『モンスターは倒すもの』で、モンスターが話すことを真剣に聞こうという気がまったくないアランの性格がこの結果を招いていたのです。これは複雑な要素が多数絡み合ってしまったが故の不幸な事故なのでした。

 

頭をフル回転させてアランが出した結論は、ヒュンケルと大魔王を会わせない…つまり自分たちでさっさと大魔王を倒してしまおうというものです。そうすれば真実は闇の中…そしてヒュンケルも仇である大魔王がいなくなった事で復讐を考えることもなくなるでしょう。ならばアランがやることは決まりました。

 

「ヒュンケル…悪いがお前を連れて行くわけにはいかない」

 

「ディーノとシンシアもだ。大魔王のところには私が向かう」

 

アランがヒュンケルを連れて行かないと告げたのに続いて、それに合わせるようにバランがディーノくんとシンシア王女にも駄目だと諭すように告げます。そしてその上でバラン自身が大魔王のもとへと向かうということです。

 

「アラン……どういうつもりだ!?」

 

子供たち2人は自分たちよりもバランのほうが強い事を理解しているので大人しく引き下がりましたが、ヒュンケルは暗に「仇討ちをさせない」と言ったアランを納得できないとばかりに睨みつけています。

 

しかしアランとしてもここは引くわけにはいきません。

 

これまでの10年以上の付き合いは伊達ではないので大魔王に唆されても敵対することはないと思ってはいますが、とはいえ当時まだ子供のヒュンケルに適当な事を言っていたなどと今更バレたくもありません。そのため「復讐などという感情で突っ走っても良い事などない」と表向きの大人の態度で言い包めようとしていました。

 

そしてこういう時だけ準備のいいというわけではありませんが、この時アランは既に手を打っていたのです。

 

「それに…魔王を倒した勇者パーティを差し置いて大魔王に挑むなんて、そんな順番抜かしはダメに決まってるだろ…マトリフもそう思わない?」

 

 

 

「……既に隠居したジジイに何無茶させようとしてやがる」

 

「マトリフ?」

 

そこに現れたのはパプニカ王国の外れで隠居しているはずの大魔道士マトリフでした。しかしアバンたち全員がここにマトリフがいることを疑問に思ったのも当然です。もちろん会話の流れからアランがこの場に呼んだのでしょうが、既に高齢であるマトリフを呼び出す意味がわからなかったのです。

 

「ワシもいるよん」

 

「老師まで!?」

 

更に驚くべきことにブロキーナまでもがマトリフと一緒にやってきました。突然来訪した2人に話を聞いてみると、両者とも「アランに呼ばれたから」だということです。もちろん2人ともカール王国への魔王軍の大攻勢の情報は知っており心配はしていたので、普段ならば腰が重い2人の老人も今回ばかりは何かあったのかとやってきてくれたのでした。

 

さすがにもうアランに『アバンがオルテガ役』などという認識はありません。ただアランの中に魔王を共に倒した勇者パーティというものがあり、やはり大魔王を倒すのならこのパーティで…という気持ちがあったのも確かです。

 

 

「んで?まさかこの老いぼれを捕まえて大魔王を倒しに行くなんて言うつもりじゃねぇだろうな?」

 

「話が早くて助かるよ。まぁ昔約束したしね」

 

「はぁ?何の話だ?」

 

冗談めかして聞いてみたマトリフですが、アランから返ってきたのは本当に自分を連れて大魔王を倒しに行くというものです。更にアランはなぜか一緒に大魔王を倒すと約束したとまで言い張っています。まったく心当たりのないマトリフとしては口先だけかとも思いましたが、次に放たれたアランの言葉にどういう意味か理解しました。

 

「マトリフが言ったんじゃん…『魔王を倒すまで付き合ってやるよ』ってさ」

 

昔の事を細かく覚えていないとはいえ、流石にアランが言った言葉には覚えがありました。かつてマトリフは魔道図書館で本に閉じ込められ、そこでロカやアバンたちと出会ったのです。その時に確かに「魔王を倒すまでは付き合ってやる」と言った事を覚えています。それは確かに言ったのですが、ハドラーは倒したわけなのでもうその約束は果たされているはずなのです。しかしアランの言い分はその言葉尻を捕らえるかのようなものでした。

 

「おい…ハドラーを倒すまで付き合ったんだからちゃんと守っただろうが」

 

「マトリフ…魔王も大魔王もどっちにしても『魔王』には変わりないよ。そんで魔王を倒すまで付き合ってくれるって言ってたんだから、ちゃんと約束通り最後まで付き合ってもらわないとね」

 

マトリフもブロキーナも率先して世界の平和のために動くタイプではありません。とはいえ旧知の間柄の人間たちの危機を見過ごして知らぬふりをするほど薄情でもありませんが、ハドラーと戦っていた頃ならまだしも既に老いた自分たちに何ができるのか…と考えると、そんな言葉の揚げ足取りのような事で納得できるはずもありませんでした。

 

もし自分たちが大魔王の居城に乗り込んで、運良く大魔王と戦いになったとしてもどこまで役に立てるのかわかったものではありません。そしてマトリフにとっては1つの懸念がありました。アランにも授けた極大呪文は大魔王にも効果があるだろうという自負はあります。しかし大魔王と名乗るだけに、もしその極大呪文を反射された時の事を考えると容易には使えないのです。呪文を反射する呪文も存在していますし、そういった効果を持ったアイテムも存在しているため大魔王がそれらを有していないとは限りません。

 

マトリフのその懸念は当然のものであり、それを軽々しく使いまくるアランがおかしいのです。しかしアランにとっては呪文は呪文でしかなく、覚えれば使えて当然でありそれを使わないほうがおかしいという認識のためお互いがその考えを理解することはないかもしれません。

 

仮に反射されたとして自分1人が消える分には納得できますが、万が一にも仲間を巻き込んでしまっては元も子もありません。そして運良くか悪くか自分1人が消えたとしたらその分の戦力の減少が決して少なくないということもわかっています。それにマトリフは攻撃呪文を放って反射されて自分に返ってくるという事の恐ろしさも身を以て知っていました。

 

「大体…こんなジジイよりもよっぽど役に立つのがいるだろうが…」

 

そして何よりも、ここには伝説に謳われる竜の騎士がいるのです。マトリフはその力を直接目にしたわけではありませんが、それでも自分などよりも余程強力な力を秘めていることくらいは最初に会った時からわかっていました。

 

事実として竜の騎士であり真魔剛竜剣を持つバランは大魔王討伐の筆頭戦力です。古の時代から数々の戦いを制してきた経験はバランの竜の紋章に蓄積されており、長きに渡り幾度もの戦いでその膨大な経験値は歴代の竜の騎士たちの助けになっていました。更にそこに自身の当代竜の騎士としての経験として冥竜王ヴェルザーを倒したというものまで加わっているのですからこれほど頼もしい戦力は他にないでしょう。

 

それらを正しくすべてを理解できているのはバラン自身しかいませんが、アバンたちも語られた断片くらいは知っています。よってここで『竜の騎士』というものを未だに知らないのは賢くない賢者1人だけなのです。アランはもともと戦力として連れてきたわけではないので、パパラッチのようにバランのことを詳しく聞こうなどとは思っていません。ソアラ王女と釣り合わないため駆け落ちしたという認識は「あっ…(察し)」ということで余計な気遣いによって躊躇われたのです。

 

しかしそんなアランの明後日の気遣いなどまったく知らないバランとしては自分を外して考えているという事が理解できませんでした。確かにアランと最初に話した時にはそんなような事も言っていたとは記憶していますが、かと言って今のこの状況で自分が戦わないなど考えられません。そこには竜の騎士としての使命も当然ありますが、人間としても大きく成長したバランは既にアバンたちを共に戦う仲間だと認識しています。

 

「アランよ、あまり無茶を言うものではない。私が代わりに行く」

 

「んー、バランにはこっちを守っててほしいんだよね。ヒュンケルだけだと不安だからさぁ」

 

バランがマトリフの代わりに行くと言ってはくれますが、アランとしてはできれば城の守りのほうを任せたいという気持ちもあります。そしてヒュンケルもまだ納得してはいないのですが、連れて行けないというところに納得せざるを得ない事情もありました。

 

それは単純で『武器が弱い』ということです。

 

大魔王の居城の出現がもう少しでも後であればその間に強力な武具を探すということもできましたが、既に上空を浮いている状態で大魔王が何もせずにただ待っていてくれる事など期待できないでしょう。つまりこれはもはや一刻の猶予も許されない状況とも言えるのです。

 

どこかに伝説の剣が刺さっておりその場所がわかっていれば取りに行くこともできますが、現時点で何も情報がない以上一から探す余裕などありません。それにバランが持っている真魔剛竜剣こそ神々の金属であるオリハルコンで作られた伝説の剣と呼ぶに相応しい剣です。

 

ならば同じようにオリハルコンで剣を作れれば…と思ってもオリハルコン自体を持っておらず、オリハルコンを扱えるだけの技量を持った鍛冶師もそうそういるものではありません。もしかしたらギルドメイン山脈の麓にあるランカークスの村の近くの森の中にそんな事ができる魔族がいたかもしれませんが、鬼岩城がその辺りを歩いてきていたので無事かどうかもわからないところですし誰もそんな情報を持っていません。

 

そして鬼岩城が攻めてきた時にザボエラが暗躍していたことで改めて理解させられたことですが、相手は力押しだけでなく策を弄し搦手も使用してくるのです。もし大魔王の城へ最大戦力で向かったとして、残された王城が落とされては意味がありません。そのため攻めと同時に守りにも強力な戦力を配置しておく必要があるとアランは説明しました。

 

このアランの言葉にはバランだけでなくヒュンケルとしても理解はでき、それでいてとても納得し辛いものです。言っている事は非常によくわかるものであり、確かに一度フローラ女王とソアラ王女が狙われているだけに警戒するのは当然の事でしょう。そしてミストバーンとキルバーンという大魔王の側近は決して油断できるような相手ではなく、事実としてバランは子供たちを人質に取られアバンが現れなければどうなっていたかわかりません。

 

ヒュンケルのほうも強力な武器がないというのは重々理解しており、カール騎士団の上質とはいえ数打ちの剣を使っているので結局消耗品でしかありませんでした。そしてヒュンケルは武神流を学んだり格闘戦に秀でているわけでもないので、大魔王と戦いに行って武器がなくなれば戦う手段を失ってしまうのです。もし大魔王の配下になっていれば鎧にもなる魔剣を賜っていたかもしれませんし、各国が手を取り合って大魔王に抵抗しようというのであればロモス王国で覇者の剣があることを知れたかもしれないのですが現状そうなっていないので誰にもわからない事でした。

 

そしてここで「世界中が一丸となり戦おう」とならないのは、自分たちだけで魔王を倒した勇者パーティや単独で戦ってきた竜の騎士の大きな欠点と言えるかもしれません。仮に地上の国の半分以上が滅んだり壊滅状態であれば、強力な敵を前にサミットを開いて団結していた未来があったかもしれないでしょう。しかし各国が壊滅状態になってから手を結ぶのは手遅れなのでどちらが良いのかは両方を経験しないとわからない事です。

 

アランの話した内容に嘘はありません。実際に武器の問題もありますし、後方に頼れる者を置いておくだけで後ろを気にせず戦えるというのは非常にありがたいことです。

 

しかし勿論ながらそれだけではありません。

 

アランの言ったこれらは非常に言い回しを変えてはありますが、かつてアバンがロカにやったことでもあります。ロカの時はアバンが物理ラリホーで眠らせたのですが、今ここでそんな事をやったら怒られるのは目に見えているためバランをカールへ誘った時と同じように減らず口の真骨頂を発揮したのでした。

 

アランにとってバランというのはソアラ王女と恋に落ちた騎士でしかありません。それまでは国家に忠誠を誓っていたのでしょうが、今は妻と子を守る事を誓いに生きている騎士という認識です。そしてその妻であるソアラ王女と子供であるディーノくんを置いて大魔王と戦おうとする姿は、かつて子供を宿した僧侶レイラを残して魔王ハドラーと戦おうとした戦士ロカと似ているのでした。

 

そんな15年も前の懐かしいと思えるような光景を思い出したためなのか、アランにはどうしてもバランを大魔王との戦いに連れて行く気にはなれなかったのです。もしこれを知ればロカもバランも「余計な世話だ」と一蹴するでしょう。

 

「それに俺たちはこのパーティで一度魔王も倒してるしね。最良のメンバーだと思わない?」

 

「アラン君……もしかして死ぬつもりかい?」

 

これを問うたのは静かに成り行きを見守っていたブロキーナでした。既に魔王との戦いから15年が経ち、マトリフと同じく自身も決して全盛期とは言えません。勿論アランによる補助魔法はそれらを補ってくれるでしょうが、今回も魔王との決戦の時のようにうまくいく保証も自信もありませんでした。

 

まさか大魔王相手にメガンテで自爆するという短慮はしないと思いたいですが、それなりに長い付き合いとなっているブロキーナでも「やりそう」と思ってしまうのがアランなのでしょう。

 

「いやいや、ちゃんと作戦とか考えた上で言ってるんだよ?これでも賢者だからね!賢い者だからね!」

 

「…ならその作戦とやらを聞いてから決めてやる。あとお前は賢くはねぇ」

 

ここでアランから出てきた作戦というのは非常に危険でありながら、しかし確かに効果があるだろうと断言できるものでした。そしてそれにはこの勇者パーティの仲間たちが絶対に必要だったのです。ロカとレイラが離脱してから魔王ハドラーを倒すまで、アバンとアランはマトリフとブロキーナと共に戦っていました。そこに積み上げられた戦いの際の連携は他の者が参加してもうまく回らないのです。

 

「……いいだろう。お前にしちゃ悪くない作戦だ」

 

マトリフは自身の持論として「魔法使いは後方で冷静に判断しなければならない」というものがあります。これはパーティの全滅を避けるため、そして戦いの中で仲間たちが興奮して熱くなりすぎないためにも冷静に一歩下がった場所から戦いを見るというものでした。

 

そのため冷静にこの場にいる顔ぶれの実力を判断し、自分やブロキーナという昔の仲間を連れて行こうというのが自殺行為に見えていたのです。しかしアランから告げられた作戦というのは自分たちにしかできず、それでいて大魔王をも倒せると思えるだけのものでした。

 

そのためマトリフもアランの作戦に付き合ってやろうと思ったのです。

 

「だが…こんなジジイを担ぎ出すんだ。終わったら美人の姉ちゃんくらい紹介しろよ?」

 

「そんなの朝飯前だよ!と言いたいけど俺にそんな知り合いいないからさ、悪いんだけどお姫様お願いしていい?」

 

「……え?私?」

 

マトリフも参戦すると決めてしまえばこれ以上言う事もありません。ただ終わった後に何もないのもなぁ…という軽い気持ちで軽口を叩いてみただけです。それを朝飯前だ軽くと言ってはみたものの、アランの知っている仲の良い女の子となるとマァムとかシンシア王女とかしか思い当たりません。しかも両者ともマトリフも知っている上に少女なので現実的に有り得ないのです。

 

そのためアランはいつもの手として、それをこの国の女王でアバンの妻でもあるフローラ女王に丸投げしてしまいました。

 

いつも通り友人に頼んでいるつもりなのでしょうが、一国の女王に女性の紹介を頼むというのは有り得ない事です。ある意味誰にもできない事を史上初やってのけた人物と言っても過言ではありません。マトリフのほうも女王に頼んだ事よりも、それをアバンの嫁に頼んだという事のほうに驚いていました。

 

「マトリフ…」

 

「オレじゃねぇ!言うならアランのバカのほうだろ!」

 

呆れたようなアバンの目に焦るマトリフですが、誰もが大魔王との決戦という舞台を前に緊張していたところには良い効果があったようでした。張り詰めた空気から緩和され誰もが口元を緩め笑いが起きている状況は狙っていたわけではありませんが、こういったところでも無駄に気負って身体を強張らせる事がないのが勇者パーティというものなのかもしれません。

 

それは魔王との戦いを経験していないフローラ女王やヒュンケルや子供たち、そして仲間と戦うという事のなかったバランには得られないものでした。

 

これが勇者たちなのか……その様子を見ていた者たちは知己でありながら、改めて『勇者たち』というものを知ることになったのです。

 

 

 

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