賢者の冒険   作:賢者さん

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アランの冒険13

 

 

アランが立てた作戦をベースにしてアバンたちが再度考え、それに合わせできる限りの準備も行ったところで大魔王の居城へは翌日の朝から向かうという事になりました。

 

決戦前夜ということで全員が王城で休むと決まり、和やかで賑やかな夕食を取りつつもやはり気持ちは明日というものに向かっているのでしょう。それも仕方のない事かもしれません。あとたった数時間も経てば、この地上の平和が保たれるか破壊されるかが決まると言ってもいい状況なのです。いくら決戦に向かうアバンたちが普段通りに振る舞っていようと、それを理解し戦地へと赴く仲間を見送るというのは歯痒い思いに駆られているのかもしれません。

 

特にフローラ女王だけは二度目なのです。

 

現在いる者たちは基本的にアバンたちが魔王ハドラーを倒した後に知り合ったか、共に倒した者しかいません。騎士団の面々や現騎士団長のホルキンスすら当時からカール王国にいたとは言えどもアバンやアランの旅立ちを見送ったわけではないのです。アバンが魔王を倒す旅にアランと共に出るとなり、ロカが「あいつらだけじゃ心配だ」と騎士団長を辞めて一緒に行くということを許し、必ず魔王を倒して戻ってくると小さな約束を交わしその背中を見送ったのは15年も前の事でした。

 

そして今もまた大魔王が現れ地上の平和が脅かされることとなり、フローラ女王はまたアバンを見送るのです。フローラ女王がアバンとその仲間たちの力を疑った事はありません。それでも決戦の地に向かう夫と友人たちの事を考えると、信頼と心配が胸の中で同居してしまうのは当然でした。

 

アランとはもう長い付き合いになります。たまに色々と問題を起こしてこちらに丸投げしてくる事もありますが、戦いという面に一点特化したような非常に優秀で心強い賢者なのです。それに魔王を倒した後にアバンとフローラ女王の結婚に一役買ってくれましたし、生まれてきた娘をとても可愛がって面倒を見てくれていた上に色々と教えてくれてもいました。

 

そして旅の途中で仲間になった大魔道士マトリフと拳聖ブロキーナ…共に老齢ではありますが、つまりそれだけの知識と経験を有している人物たちでありフローラ女王も面識がなかったわけではないのです。アランが時折子供たちと共に孫の顔を見せに行くかのように会いに行ったりしている事も聞いていましたし、その逆に突然王城へ連れてきた事もあります。彼らはフローラ女王を国の元首ではなく『仲間の妻』として接してくれ、それが心地よかったという気持ちもありました。

 

そんな得難い友人たちが夫と共に大魔王との決戦に向かうのです。

 

それを止める事はフローラ女王にはできません。これは地上の平和を懸けた戦いであり、穏やかに暮らす人々の明日を守るための戦いなのです。せめて今だけはいつも通りの日常を…そう願う事だけがフローラ女王にできる事なのでした。

 

 

……

………

 

 

そして決戦の朝…皆が見送ろうとした時には既に勇者たちは出発してしまっていました。

 

これはマトリフやブロキーナだけでなくアランまでもが「そういうのは柄じゃない」とコソコソ城を出ていたためです。寝所をアバンと同じくするフローラ女王だけが、奇しくも15年前と同じくアバンを見送るという形になりました。

 

「こうしていると何だか昔を思い出しますねぇ」

 

「ええ、あの時も私はあなたの無事を祈りながら背中を見送るだけでした」

 

「……なるべく早く帰ってきますよ」

 

「ふふっ、アバン……どうかご武運を」

 

いつも通りの態度でかつての旅の出発を思い出しながら、当時を振り返る2人……アバンにとってそれは誓いなのか縁起を担いだのか、なるべく早く帰ってくるという言葉は15年前に出発する時にフローラ女王に伝えた言葉なのでした。

 

 

 

そんな2人のやり取りを、声は聞こえないまでも見守っているという名目の野次馬3人がしっかりと見ていました。なんとアランに至っては2度目です。本人的には「なんかこう…旅立ち!って感じで何度見てもいい場面だねぇ」とまったく悪いと思っていませんし、そこに便乗しているマトリフとブロキーナも大概なのでしょう。

 

「で、おれたちは良いとしてもお前は良かったのか?」

 

「別に今生の別れじゃあるまいし、あんな風に感動的に見送ってくれる相手もいないしね」

 

「お前もよくわからんヤツだな…」

 

それにアランは自分で言っていたように、特定の相手がいるわけでもないため感動のシーンを演出することができないのです。もし今アランに意中の相手がいたのであれば「大魔王を倒して帰ってきたら結婚しよう」と言っていたかもしれません。もしくは「お父さんは大魔王を倒した伝説の賢者だったのよ」と後に生まれた子供に誇らしそうに、それでいて寂しそうに語る残された女性…というのも悪くありません。

 

この場合どちらにしてもアランは帰らぬ人になっているのですが、残念な事に今のアランにはそういう王道展開になる予定はないのでそんな考えは持っていません。何せアランの周囲に同年代の独身女性などほとんどいないのですからアランだけで解決できる問題でもないのでしょう。ちなみにかつて多くあった縁談は全部権力争いみたいなものの一環でしかないため、アランの中ではお見合い騒動についてはカウントされていません。

 

そういう意味ではマトリフに女性を紹介してもらう前に、アランがフローラ女王に頼んで紹介してもらったほうが良いというところまで有り得ます。その時は今までアランから色々と丸投げされていたアバンとフローラ女王でも、まさかアラン自身の結婚についてまで丸投げされるとはと驚くことでしょう。

 

 

そんな遠い未来の事は考えても意味がないと思考の外に追い出し、そしてフローラ女王の見送りを受けたアバンが合流しました。考えられるだけ作戦を練りできる限り必要なアイテムを揃え、大魔王と戦う準備は万全です。もちろん本命と戦う前にも敵はわんさかと出てくるでしょうが、この4名にとってそんなものは15年前に地底魔城で経験済みの事のため今更臆する事もありません。

 

唯一飛べないブロキーナを抱えトベルーラで大魔王の居城へと向かう4人…途中誰かに阻まれることなく空高く浮かぶ城の上空へとやってきました。下から見上げていたときにはわかりませんでしたが、トベルーラで上から全体を見下ろす事でその巨大な全体像を見ることができたのです。

 

きっと普通であればその先端に降り立ち進んでいくものなのでしょう。それも1つの様式美というものかもしれませんが、しかしここには敵となるとまったく容赦のなくなる賢者がいたのです。

 

「ねぇ、あそこがそれっぽいから一気にあそこに飛んでいこうよ」

 

アランが指したのは鳥であれば胴体であり心臓部…そこにそびえ立つまさに大魔王の座する場所だったのでした。それっぽいという何の根拠もない指定ではありますが、言われて見てみれば確かにそれっぽくはあります。アランからすれば座して勇者たちを待つ大魔王が、実はコソコソ隠れて違う場所にいましたー!なんてするはずがないとある意味大魔王を信頼していると言っていいような考えからの発言でした。

 

一応魔王であったはずのハドラーがフットワーク軽く度々勇者アバンの前に出てきていましたが、地底魔城ではちゃんと玉座の間にいたのでやはり『それっぽい』というのはどこの世界でも通用する守らなければならない何かなのでしょう。

 

アバンたちもそれっぽいというアランの意見に納得したのか、それとも中枢のような場所から奇襲したほうが仮に間違っていても消耗などを抑えられると判断したのかわかりませんが中心部に直接向かうという案に異論はないようです。

 

 

……

………

 

 

「フフフフフ…ようこそ、大魔王様の居城へ…まさかここまでやってくるなんて思わなかったよ」「わざわざ死にに来るなんてバーカバーカ」「………」

 

 

そこに待ち受けて出迎えてくれたのは死神キルバーンと1つ目ピエロ、そして魔影参謀ミストバーンでした。今となっては魔王軍は壊滅状態となっているためミストバーンは新たな魔軍司令と言ってもいいかもしれませんが、ミストバーンにとってはそのような肩書などあってないようなものです。

 

彼らにとってもまさか人間の勇者たちが直接この大魔王の座する場所までピンポイントで飛んでくるとは思っていませんでした。決して「ちゃんと入り口から順番に攻略してこいよ」などとアランなら言いそうな事を考えたりはしていませんが、軍団長であったクロコダインすら知らないこのバーンパレスで一目散にこの場所に向かってきたのですから勇者たちを侮れないと考えてしまうのは仕方ありません。

 

しかしこの場に大魔王の側近2名がいたのは勇者たちの迎撃のためではありませんでした。そしてそれはミストバーンから語られる事になります。

 

「一同、控えよ…大魔王バーン様がお会いになられる」

 

その言葉と同時に空間が歪み、そこから魔族の老人が姿を現しました。

 

その老人から発せられる威圧感とでも言うべき圧力は、同じ魔族の老人であったザボエラとは比べ物にならないほどです。まさか大魔王も『魔族で老人の姿である』という見た目の共通点だけでザボエラと比較されているなんて夢にも思わないでしょう。もしかしたらそんな事を言えば「あんな愚物と一緒にするな。本当の姿はこれではない」と一緒にされたくないあまりに口を滑らせて情報をくれたかもしれませんし、反対に怒りを買っていたかもしれません。

 

「よくぞここまで来た。地上の勇者たちよ」

 

そんな事はわからない大魔王サイドは意外でもありませんが即時交戦とはならないようです。魔王ハドラーもアバンに「仲間になれ」とかつて勧誘していたことから、大魔王もやはり前口上は様式美として備えているのでしょう。老人故の落ち着きなのか、それともやはり大魔王なだけに絶対の自信があるのか…間違いなく後者でしょうが、決戦の前に互いに歩み寄れないという確認は魔族であろうと人間であろうと必要だというのは同じなのかもしれません。

 

ちなみに大魔王の考えではこの場に現れるのは人間の勇者と共に、竜の騎士バランも一緒に来ているだろうと予測していたのです。それは当然の予想であり、戦力というものを客観視したときにバランが大魔王討伐メンバーに入らないなど考えられません。

 

そのため本来はこのバーンパレスを覆っており外部からは侵入できないようにしている超魔力の障壁をあえて消しておき、地上に存在する中でも選りすぐりの戦士たちを迎え入れたのでした。このバーンパレスは大魔王の超魔力によって外部から誰も侵入できない強固な障壁が張られてはいますが、宮殿としての造形にも拘る大魔王としては入口を作らないというのは考えられません。そのため魔宮の門という入口が先端に用意されているのです。

 

もし今は亡き魔軍司令ハドラーがオリハルコンに禁呪法を使用することで生まれたかもしれない僧正の駒がいれば「何百年も開いたことのない上に竜の騎士でも破れない」と、なぜ生まれてから日の経っていないオリハルコン生命体がそんな事を知っているんだというような事を教えてくれたかもしれません。ハドラーでさえ大魔王の配下に入って十数年程度しか経っていないので、無口なミストバーンは論外として意外とキルバーンあたりが『大魔王様の歴史』のような教育でも行っているのでしょうか。

 

大魔王陣営の内部事情などまったくわかりませんが、すべてが大魔王の判断によって決められるため大魔王がアバンたちを迎え入れると判断したのは間違いありません。

 

大魔王の最終目的を考えた時に、黒の核晶をただ地上で爆発させれば良いというわけではありません。六芒星の星なる部分で爆発させることで六芒魔法陣の魔力によって破壊力が増し、地上そのものを確実に吹き飛ばす必要があったのです。

 

そしてその仕掛けに気付かれ邪魔をされてはたまったものではありません。そこを伏せておくために、最後の確実な一手とするために邪魔になるであろうアバンやアランたちを招き入れることにしたのです。もし大魔王の超魔力によって誰もバーンパレスに入ってこられないとしても、この大地を消滅させることができなければ大魔王にとっては何の意味もありません。

 

ならば…と大魔王の知謀によって齎された策略は『地上の本当の強者への勧誘と誘い込み』と『黒の核晶に気付かせない』という事を同時に果たすことができるとしてバーンパレスへ足を踏み入れることを許したのです。そしてその上で大魔王はかつて頓挫した小さな目的を果たせればと地上に1つの布石を打ってもいました。

 

そんな大魔王の思惑によって、そんな事は知る由もないアバンたちは目的の相手と対峙することができていたのでした。

 

「あなたたちにどのような道理があるのかはわかりません。しかし、地上に生きる人々の平穏を脅かす者を黙って見過ごすわけにはいきません」

 

アバンとしても大魔王バーンや魔王ハドラーが本当に何の目的もなく、ただ地上で暴れているなんて思っていません。しかしだからといってそれを黙って受け入れるわけにもいかないのです。

 

「ならば冥土の土産に教えてやろう…」

 

大魔王バーンの口から語られたのは「今の人間たちの平和は神々の力によって支えられてきたものだ」という神話のような話でした。魔界とはアバンたちが過ごす地上の遥か地底に存在し、太陽の光が届かない不毛の大地だということです。そしてその魔界に魔族や竜を押し込め、人間に地上を与えたという事でした。

 

アバンたちはその話を聞き、この世界の…人間たちの始まりを知ることになります。いくらアバンが学者の家系とはいえ流石にそんな何千何万年前の事など伝わっているはずもありません。アランだけは「アレフガルドだろ知ってるよ」と当たらずとも遠からずといった感想を抱きましたが、それでも他のモンスターの時と違いきちんと話を聞いているのは相手が大魔王だからでしょう。

 

「そして地上を消し去り、魔界に太陽の光が降り注ぐのだ!その時、余は真に魔界の神となる」

 

そして大魔王バーンは遂に己の目的を語って聞かせました。それは地上を征服するのではなく、地上そのものを消し去り地底にある魔界が地上となるというものです。大魔王であれば闇を好みそうなものではありますが、どうやらこの大魔王バーンは光を欲する大魔王のようでした。

 

「そんな真似を許せるはずがありません!そして何より…力ですべてを解決しようとするのが間違っているのです!」

 

「力こそがすべてを司る真理だ。人間だけがそこに理屈をつけて目を背けておる…が、最後に行き着くのはやはり力なのだ」

 

そう大魔王は語り、更に続けて「どれだけ否定しようが最後には力に頼ることになるものだ」と魔王軍と人間たちの戦いについても言及してきました。大魔王バーンは何も昨日今日思いついて地上を滅ぼそうと考えたわけではありません。数千年の時間をかけて力を蓄えるだけでなく、それと同時に地上の事も観察してきたのです。

 

神々が魔族や竜よりも脆弱だという理由で地上を与えた人間もまた、力という真理には抗えないのでした。地上が人間たちしかいなくなれば、結局人間同士で戦いが起こるのです。そこには魔族も竜も人間も関係なく、やはり力で示すという結末には何も変わりませんでした。

 

そうと知れば魔族と竜を魔界に押し込めるのなど神々の傲慢な行いでしかありません。そんな身勝手なまでの行動を、神々の力を振りかざして行ったのですから大魔王の中には神々や人間…そして地上というものに対してまで憎しみが降り積もってしまっているのでしょう。

 

人は人を思いやることができる…時には力が必要な事はあれど、優しさや愛といったものもまた人に備わっている…そういった事をアバンがどれだけ言葉を重ねようときっと大魔王に届く事はないでしょう。憎しみとは怒りとは違い、時間が経てば昇華されるのではなく時間が経つほどに蓄積されていくものなのですから……

 

「それにお前たちも勇者とまで呼ばれる者たちだ。敵と戦う時、鍛え上げて身につけた力で思うようにあしらう時気持ちよくはないのか?優越感は感じないのか?」

 

「めっちゃ感じるに決まってるじゃん」

 

「アラン…?」

 

アランとしては大魔王の言う事は非常に理解できるものだったのです。もともとアランが『ぱふぱふ』してレベル99にしようとしていたのも、賢者として修行したり特訓したりヨミカイン遺跡に篭っていたりしたのも全部大魔王の言う通り敵を圧倒して倒すのが楽しいという理由からでした。

 

とはいえそこは否定するべき場面だったのでしょう。アランとしては別にわざわざ嘘をつく理由もなかったので思った事をそのまま答えたわけですが、まさかの味方からの大魔王への厚い援護射撃がくるとは思ってもみませんでした。

 

「クックック…やはりそうか…お前だけは違うと思っておったのだ。賢者アランよ」

 

「…俺?」

 

「悪魔の目玉を通して見ておったよ。お前は魔王軍がカールを攻めた時、命乞いをしている相手すら迷いなく殺した…モンスターはすべて敵と定め、そこには一片の慈悲すら持たん非情さ…どうもお前は人間よりも我ら魔族の気質に近いと言ったほうが納得できるのだ」

 

何やら大魔王から目を付けられていたアラン。しかも魔王軍がカール王国を攻めていた時の様子までも悪魔の目玉によって観察されていたようでした。大魔王が言っているのは鳥人がスカイドラゴンの命乞いをしていた件のようです。

 

ちなみにアバンたちもそれは初耳でした。

 

王城に侵入した魔族が命乞いをしたにもかかわらず破裂させていた事は知っていましたが、どうやらアランはそれ以外にも命乞いをされた相手を殺していたようです。もし仮に命乞いをしていた鳥人が反対の立場になり人間から命乞いをされても嘲笑しながら嬲り殺すのでお互い様なのですが、もはやこの世にいないため「実は思慮深い優しい魔物だったのに…」と言われても反論できないのでした。

 

「アラン、その話は聞いたことがありませんでしたよ?」

 

「まぁわざわざ言うほどの事でもないからね。てか何があったとしても結果は変わらないし別に問題なくない?」

 

しかしアランにとってはそんな事は問題ではありません。大体その命乞いの対象だったスカイドラゴンのほうは人間の死体を咥えてグルルル言っていたので、そこだけを大袈裟に言われても困ってしまいます。もしかしたらこの大魔王の言葉自体が勇者パーティの仲に罅を入れるための策略なのかもしれませんが、しかし今更この程度で罅が入るような事はありません。ハドラーが復活してきても話している途中に消し飛ばすアランですし、アバンたちは仲間としてそれなりの時間を一緒に過ごしてきている大人でもあるのでそれこそ今更な話なのでした。

 

もしこれが年若い少年少女たちのパーティであれば非難されていたかもしれません。実は自分たちが知らないところで『自分の命を守るために土下座して命乞いしている魔族の老人を破裂させた』とか『自分の命を顧みず一緒に育った兄弟のようなモンスターの命乞いをしていたのに聞き入れず纏めて殺した』など聞かされたとなれば、割り切るとしてもきっとすぐには心の整理ができなかったでしょう。

 

「ククッ、やはり余の見立て通りのようだな。時に話は変わるがアランよ、そなた余の部下にならんか?」

 

「え?」

 

「先程も言ったがお前のその冷酷さや非情さ、気質は人間よりも我ら魔族に近い…人間たちがお前を疎み、邪魔に思うのに時間はかからんだろう」

 

大魔王からの思わぬ勧誘の言葉を聞きアランは考えました。

 

かつて共に戦った仲間が魔道に堕ち敵となって立ち塞がる展開…そしてかつての仲間たちと何度も死闘を演じ、最後には友情の力によって改心し大魔王を討ち倒す壮大な物語を…

 

ほんの少しばかり揺れ動いたりもしましたが、考えてみればハドラーも同じ事を言っていたので二番煎じを受ける気にもならないという結論に至ったアラン。大魔王バーンの勧誘は『ハドラーと同じ事を言ったから』というどうしようもない理由で拒否されることになったのです。それに大魔王が言う「人間たちがアランを邪魔に思う」というのもよくわかりません。

 

「別に人間たちが俺を邪魔だと思うのなんて関係なくない?どうしても文句があるのなら受けて立つだけだよ」

 

地上にある国々の中でアランの事をよく思わない国だってあるでしょう。事実としてアルキード王国もパプニカ王国もアランの事はよく思っていません。個々人で見ればそうでもないのかもしれませんが、アランは国に嫌われていると言ってもいいくらいの事は仕出かしてきているのです。

 

アルキード王国では跡継ぎである一人娘のソアラ王女を奪い去り、更に兵士たちとの戦いで暴れ力ずくで黙らせています。パプニカ王国ではマトリフがキッカケとはいえ、国内でも有数のはずだった賢者たちを鎧袖一触とばかりに薙ぎ払い力の差を見せつけています。

 

そしてアランのこれらの行動によりアルキード王国もパプニカ王国も1人の人間に国の面目を潰されていた事になるのです。

 

「まったく惜しい男よ…そこまでわかっていながら余と戦うというのか」

 

「別に困ったらアバンに丸投げするから問題ないしね。どうしても仲間にしたかったら力ずくでやってみなよ」

 

「クックック…それが魔族に近いというのだ」

 

言葉という意思疎通を以って説得し仲間にしようとする大魔王と、それを蹴り力で示せと答えるアラン。どうにもお互いの種族が逆のような気もする展開ですが、案外間違ったことを言っているわけでもないため仲間たちは言葉を挟めません。しかもアバンに至っては問題が起きれば丸投げされる事が決まっているようでした。

 

アバンにとっては確かに今までもよくある事だったわけですしそれを解決するのに尽力するのは構わないのですが、まさか堂々と大魔王にまでそんな宣言をされるとは思いませんでした。これにはそこまで頼ってくれている事を喜ぶべきなのか悲しむべきなのかわかりません。

 

 

交渉は決裂し、後は力で示すのみ…とはならず、大魔王は揺さぶりをかけるかのように語りだしました。

 

 

「そういえば…お前たちが戦うのに地上の人間どもが見ているだけというのは、些か不公平だとは思わんか?」

 

 

 

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