賢者の冒険   作:賢者さん

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アランの冒険17

 

 

「いかなる武器にも勝るはずの…余の腕が…」

 

数々の戦いを勝ち抜いてきた大魔王にとっても腕が消滅するなどまさしく初めての経験であり、そのため呆然となってしまったのは仕方のない事でしょう。しかし今戦っているのは地上の存亡を懸けた戦いであり、そんな大魔王の隙を見逃すような勇者たちではありませんでした。大魔王の奥義を食らったはずのアランとブロキーナはすぐに体勢を立て直し、呆然自失となった大魔王へと向かっていったのです。

 

大魔王の奥義によって繰り出された手刀と掌圧は当然ながら生半可な威力ではありません。たとえ重装備で身体を覆っていたとしても容易く打ち崩されてしまっていたのでしょう。ならばなぜアランたちはすぐに動けたのか…それはアランが戦闘前に使用していた補助呪文のおかげだったのです。

 

防御力を上げるスクルトは使用する者など見たことがないというレベルでお目にかかれない呪文でした。そのため大魔王の攻撃の威力は高くとも、それを受ける側の防御力が上がっていることで致命を免れていたのです。とはいえダメージが大きいことに変わりはなく、この機会を逃せば勝機は遠くなるということから気合と根性の行動だったのは間違いありません。

 

「いくよブロキーナ!」

 

「閃華裂光拳…!!」

 

「っ…舐めるなァァ!!」

 

正面と背後から同時に襲いかかる2人に、片腕を失うという形で最強奥義を封じられた大魔王とて黙って見ていません。ただでは食らわぬとばかりに正面から向かって来ているブロキーナに向かって渾身のカラミティウォールを放ち、背後から襲い来るアランには暗黒闘気を身体から吹き出すことで受けるダメージを弱めようとしたのでした。

 

そんな暗黒闘気の風に押されつつも、魔法力を放出し勢いを強め繰り出された奥義は大魔王の背中の中央…心臓部へと直撃し大魔王の心臓を破壊することに成功したのです。その衝撃で血を吐き己の3つある心臓のうち1つを破壊された事を悟るも、まだ心臓は2つ残っていると自身を言い聞かせてアランに向き合うのでした。

 

それに大魔王にとっては心臓1つと引き換えとなったとはいえ悪い交換ではなかったのです。カラミティウォールの直撃を受けたブロキーナのダメージは非常に重く、もはや立ち上がれないほどの状態となってしまっていました。どれだけ補助呪文によって能力を底上げしていたとしても持っている体力が上がるわけではありません。元々マトリフと同じく高齢であり、魔王ハドラーとの戦いの時よりも年齢を重ねることによって長時間戦えるだけの体力は持っていなかったのです。

 

「まだ生き残っていたとはな…だが今すぐ止めを刺してやるわ!」

 

大魔王は倒れているブロキーナを捨て置くことなく、追撃とばかりにカラミティウォールを放ちました。これは人間というものを鑑み、瀕死の仲間を助けないわけがないというある意味人間を信じた行動でもあったのです。この状況で倒れているブロキーナを助けようとすればカラミティウォールを耐える他無く、そこから訪れる未来は助けるためにダメージを負うか耐えきれず共倒れになるのかの二択だったのです。

 

「老師っ!!」

 

「アバン!今がチャンスだ!」

 

アバンは当然のように…大魔王の思惑通りにブロキーナを助けようとしたのですが、アランにとっては今こそ大魔王を倒す大きなチャンスだったのです。しかしだからと言って見捨てるという事を平然と行うことなどアバンにはできません。

 

ただでさえ仲間を…共に魔王を倒した仲間であるマトリフを失っているだけにこれ以上失いたくないと思うのは人として当然の思いでしょう。ここで仲間の心配よりも敵を倒すことを優先しているあたりも大魔王に魔族っぽいと言われる理由なのでしょうが、本人はそれをあえて選択しているのではなく無意識に行っている行動なので否定もできないのでした。

 

そんなアランはともかくとして、アバンの取った選択は…大魔王の思惑通りにブロキーナを庇うというものでした。

 

「アストロン!」

 

しかしアバンとて大魔王のカラミティウォールを身を挺して耐えきれると考えるほど甘く見ていません。こんな時を想定していたわけではありませんが、しかし瀕死のブロキーナを生かし自分もこの状況を切り抜けるための呪文を身に着けていたのです。

 

自身や仲間の身体を鋼鉄へと変えるアストロン…もし大魔王の直接攻撃を受けた場合であれば、たとえ鋼鉄の身体だったとしても砕かれていたでしょう。神々の金属と呼ばれるオリハルコンですら砕く大魔王に鋼鉄など紙と変わらない程度に違いなどありません。

 

ですが今自身へ向かってきているのは衝撃波なので、これであれば十分に耐えきれるという勝算があっての行動だったのです。その凄まじい衝撃に吹き飛ばされ転がるもなんとかカラミティウォールを凌ぐことができたのですが、今の状況は鋼鉄となったアバンとブロキーナに対して生身のアランが残された状態でした。そのためすかさず大魔王はアランに対して暗黒闘気を圧縮して放ち、分断されたアランは吹き飛ばされてしまいました。

 

「アバン殿…この老いぼれは放っておきなさい。それよりアラン君を…」

 

「わかりました…すぐに戻ってきます」

 

アストロンの解けたアバンはブロキーナの言葉を受けアランと合流することにしました。ここでブロキーナを回復させる時間を大魔王が与えてくれるはずもない事はわかっており、それならばアランと協力して少しでも早く大魔王を倒すことが最善だということも理解しているのです。

 

「アラン、いきますよ」

 

「いてて…はいはい任せときなって」

 

フェザーで魔法力を回復させ駆け出すアランと後ろから援護の姿勢のアバン…勇者と賢者の立ち位置が逆な気がしないでもない行動ですがこれが最適な行動なのです。アバンには無刀陣という大魔王の後の先の奥義に似た技も持っているのですが、これは相手の攻撃を食らってから必殺の一撃を叩き込むという技のため大魔王を相手に使うなど自殺行為でしかありません。

 

そのため魔弾銃やフェザーといったアイテムを持つアバンがフォローに回りながらも隙を見ては攻撃し、武神流を使うアランが前衛として大魔王と戦うのがベストな戦い方なのでした。大魔王としてもアランに接近戦で纏わりつかれ、そちらに意識を向ければアバンの魔弾銃が飛んで来るというのは厄介なものです。逆にアバンのほうに注視しすぎればアランの必殺の一撃を受けてしまうことにもなり、勇者パーティの連携はメンバーが減ってもその脅威は衰えないのでした。

 

実際にはアバンの持つ切り札であったメドローアの弾丸は一発限りのものであり、既に使ってしまった今のアバンにできるのはサポートが主となるのですが大魔王はそんな事はわかりません。

 

本来は弾丸を持って呪文を発動することでその呪文効果をその中に封じ込めるという魔弾銃の特性上、プラスとマイナスの魔法力を身体の外で合わせるメドローアを封じ込めるのは容易ではありませんでした。弾丸を両手で包むように持ち、そしてその中にプラスとマイナスの魔法力を注入するというのはまさに離れ業と言えるでしょう。それを1発だけとはいえ弾丸に封じられたのは編み出したマトリフだったからであり、まさに大魔道士と呼ぶに相応しいものでした。

 

アランが攻め立てアバンがフェザーや呪文や闘気技を使いサポートし戦いますが、しかし片腕を失い心臓まで失っているにもかかわらず大魔王は簡単には倒れてくれません。そんな戦いがしばらく続き、お互いに少なくないダメージが蓄積していく中で遂に均衡を崩す存在がその場に現れたのでした。

 

「お前たちィィ、そこを動くなァァ!!」

 

他に乱入者などいないはずの場にやってきたのは、まるで白銀のような金属の身体を持った者たちだったのです。その正体は大魔王がオリハルコンに禁呪法を使用し生み出したバーンパレスの護衛役であり、今は亡きミストからは掃除屋と揶揄されていた存在でした。

 

その中で声を上げていたのは十数体もの汎用駒と女王の駒を従え登場したのはマキシマムと名乗るキングの駒でした。

 

そんなオリハルコンで構成されている戦力など強力でありもっと早くに呼び出しても良かったと思うところなのですが、大魔王がこのオリハルコンの軍団を使わなかったのは存在すら頭になかっただけの事なのでした。このキングであるマキシマムは自信過剰で姑息であり、その性格はある意味ザボエラに近いものだったのです。

 

そして生きた駒であるそれはオリハルコン製ということで、もしかしたらこの世界ではゴールデンメタルスライムの親戚筋なのかもしれません。きっと大魔王に保護されるまでは希少金属のモンスターということで誰からも狙われるメタルキングやはぐれメタル的な『すぐ逃げる』モンスターとして認知されていたのでしょう。きっとその育ちと大魔王の手下になったという事実からザボエラ的な性格に変異していったのかもしれません。そしてそんな雑魚としか戦わないマキシマムを大魔王が重用するはずもなく、強者に敬意を持っても弱者に興味のない性格から大魔王の中ではいないものになっていたのでした。

 

「ガ~~ッハッハッハッハ!!バーン様!この通りこのマキシマムが人質を取った故、人間どもは動けませぬぞ!」

 

オリハルコン軍団は倒れ伏しているブロキーナを囲んでおり、兵士の1体が軽く殴るだけでも息の根を止めることができるでしょう。マキシマムはまさに自分の手柄で主の危機を救ったつもりでいますが、その飼い主である大魔王のほうは眉間にシワを寄せ「余計な事を…」と呟いてこの場に現れたことすら不快なようでした。

 

マキシマムはこの膠着状態に陥った事を自分のおかげだと勘違いし、更に自分は大魔王に重用されているオリハルコンの生命体でありこのバーンパレスの守護神であるとまで自慢気に話しています。しかし力こそ真理な大魔王にとって強者に挑まず弱者を嬲るしかできないにもかかわらず、まるで自身を助けたと言っているその言葉は大魔王にとって気分を害するには十分なものだったのでしょう。それは言葉に出さずとも大魔王の表情がそれを物語っていました。

 

敵はダメージが大きいとはいえラスボスである大魔王、そしてその配下のオリハルコン生物とその駒が十数体という数的不利の状況となってしまっています。たとえこの状況で大魔王がまた様子見に回ってくれたとしても、世界一強力な金属であるオリハルコンをそれだけの数討ち倒すのは至難の業でしょう。

 

「仕方ないか…アバン、後は頼むね」

 

そのためアランは自身の最強の奥の手を使う事を決意しました。

 

本当はこれを使うことなく大魔王を倒せれば良かったのですが、戦ってみればやはり大魔王と名乗るだけあってその力はまさしく凄まじいものでした。もはやアランの頭の中には「大魔王が仲間を呼んで手下が現れた」というようなゲーム脳的な考えが浮かんでいる余裕すらもなくなっています。

 

まずアランが大魔王と戦う理由は決して『地上の平和』などといった高尚なものではありません。

 

もともとこの世界を認識してから『魔王と大魔王を倒す』という理由のない目的のために戦っていたのです。更にそこに子供の頃のヒュンケルに言った適当な言葉を真実とするためや、友人である子供たちに格好良いところを見せたいなどという極めて個人的な理由で戦っていました。

 

アランとしては世界のためなどといった大層な理由はアバンに任せておけば良いわけですし、自分は自分の目的を果たすために強さを求めていればそれでよかったのです。

 

そのため魔王軍がカール王国に襲いかかってきた時にザムザという超魔生物を練習台にし、ようやく形ができてきたものをぶっつけ本番で使用することにしたのです。もちろんそれは諸刃の剣であり、そのためアランはいつものように後の事をアバンに丸投げしたのでした。

 

アランが声をかけてから行ったのはメドローアを使うための工程…炎と氷のエネルギーを両手に集め、そしてそれを胸の前で合わせることにより消滅のエネルギーとしたのです。本来であればそのまま弓のような姿勢で放つのですが、アランはその合わさった手を消滅エネルギーそのままに再度腰だめに構えオリハルコン軍団に向けて飛び出したのでした。

 

「ガ~ハッハッハ!そこまで死に急ぐのならば相手をしてやろう。ゆけ!我が駒たちよ!」

 

兵士が、騎士が、僧正が、城兵がアランに向かっていき……そしてアランの拳はそのすべての駒をまるで紙切れのように簡単に破壊していきます。たとえ大魔王でも不可能なほどにアランの拳は何の抵抗も受けずにオリハルコンを貫いており、その手刀は空振りかのように相手を切り裂いていました。

 

「貴様っ…止まれ!この人質がどうなっても良いのかっ!?」

 

これに慌てたマキシマムですが、対してアランは聞こえていないかのようにまったく止まるどころか鈍る気配すら伺わせません。今まで大魔王に背く者たちを葬ってきたマキシマムですが、まさかオリハルコンで出来た剣も魔法も効かないはずの兵隊たちが次々と壊されていくなどたちの悪い悪夢のようです。そうしてマキシマムがアワアワしている間も駒たちを屠り続けており、アバンはその威力の凄まじさに驚き……大魔王はアランの行動をつぶさに観察していました。

 

マキシマムの行動は何も間違ってはいません。人質を取り相手の動きを牽制し、まさに戦局を大魔王陣営の有利へと導く行為だったのですが…ただただその相手が悪かっただけなのです。マキシマムの目の前で暴れている賢者には「情けや愛の心で敗れるのならば、オレにはむしろ誇らしい」などといった心が備わっていなかった事が唯一にして最大の誤算と言っても良いでしょう。

 

すべてのオリハルコンの駒を蹴散らし、マキシマムの叫びすらも聞こえていないかのごとく何の感慨も湧かないかのように破壊したアラン…残っていた残骸がすべて爆発しその場にいたブロキーナも巻き添えになっているのですが、それすらも知らぬとばかりに勢いそのままに大魔王へと向かっていました。

 

まさに仲間を犠牲にした鬼畜のような所業ではあるのですが、この行動にはアランなりの事情があったのです。

 

当初アランが開発した武神流とメドローアの合わせ技…消滅エネルギーを拳に留め続けながら戦うという方法はまさに近接戦闘で最強と呼べるものでした。しかしその反動として消費魔力が尋常ではなかったのです。本来であれば一度魔法力を溜めれば放出するだけなのですが、その消滅エネルギーをメドローアとして留め続けることで常時メドローアを放出し続けているのと同じだけの魔法力を消費してしまうのでした。

 

そのためアランとしては「10秒程度の短期決戦しか使えないかな」と思っていたのですが、その短い戦闘時間を解消する方法があったのです。それは魔道図書館で得られた『生命力』に関する記述…そこに書かれていた生命力を魔法力へと変換するという方法で、文字通り命を削り魔法力とすることで継戦能力を手に入れたのでした。

 

アバンからの情報やヨミカイン魔道図書館で調べた結果、アランなりのゲーム脳で出した結論は『生命エネルギーを使用するということは、毎ターンHPを消費するようなもの』という考えでした。それなら『メガンテで全生命エネルギーを爆発させる』という事が『HPを全消費する』ことと辻褄が合いますし「もしかしたら『もろはのつるぎ』の反射ダメージって闘気を使って攻撃した反動だったりするのかも」という似た効果の武器などを知っていたことでよくわからない答えに行き着いていました。

 

そこで見つけ出した生命力を魔法力への変換という方法を実行することで『HPをMPに変換する』事ができ、その変換したMPを使用することで常時メドローアという破格の攻撃方法を行うことができるようになったのです。一応通常のメドローア連射も可能になるのですが…消滅エネルギーを作り出すための工程の間が大きな隙になってしまうため、作り出した消滅エネルギーを放出せず留めて武神流と組み合わせた接近戦闘がアランの考える最強の攻撃方法となったのでした。

 

そしてこのアランの使える最終奥義とも言える技を使用する以上、命を削り続けているためアランとしても最早中途半端に止まるわけにはいかないのです。

 

そんなアランは大魔王へと接近し、肉体はどれだけ強力でも武など修めているはずもない大魔王を少しずつ追い詰めていきます。大魔王もその身体能力を存分に発揮し必死の形相で抵抗していますが、腕を…足を…腰を…肩を…少し掠るだけでもその場所が消滅していくのですから大魔王からしてみれば反則もいいところでしょう。

 

フェニックスウィングという暗黒闘気を溜めた掌圧なら弾くことは可能でしょうが、大魔王は片腕の状態のため両手に消滅エネルギーを溜めているアランに手数で勝てるわけもありません。

 

そんな大魔王にとって精神を多大に削るような行動がいつまでも持つわけがなく…遂にアランの拳は大魔王の胸を貫いたのでした。既にアランは生命エネルギーを出し尽くしまるで痩せこけたかのような様相になっており、大魔王の胸に刺さった腕も枯れ木のようになっています。それでもそのまま横薙ぎに腕を振るえば大魔王にとって致命どころか敗北となるのですが、流石にそれはさせまいと必死の形相で残った片腕を使いアランの腕を掴む大魔王…まさしく大魔王を倒す寸前に、遂にアランにとって寿命を削り続けた代償として生命の限界が訪れたのでした。

 

「ハァ…ハァ……どうやら、ここまでの…ようだな…」

 

「…そう、みたい…だね…でも、まだ…終わってないさ!」

 

凄まじいまでの攻勢を凌ぎきり、余裕はないまでも笑ってみせる大魔王。しかし既に満身創痍の大魔王に更に追い撃ちをかけるかのように、アランはその身に残る生命力と魔法力を使い爆発させることにしたのです。今のアランにはもう魔法力も体力も生命力も何も残されていません。そのためこのまま瀕死となっても大魔王へダメージを与えることすらできないと瞬時に判断し、ならば最後にすべてを使い切って道連れにしようとしたのでした。このあたりはマトリフと同じ行動なだけに、本人たちは否定するかもしれませんがやはり似た者同士なのかもしれません。

 

しかもマトリフの時と違い、今回はアランの腕が大魔王の心臓を貫いた状態なのでダメージは計り知れないものでした。

 

猛烈な攻撃を加えてきて瀕死に追い込んだ挙げ句に自爆するというまさかの行動ですが、アランとしても決して死にたかったわけではなかったのです。ただ…これで大魔王を倒しきれるかなという希望とか、このまま死んだらフローラ女王のところに戻されて「あなた何死んでるんですか情けない」って怒られるのかなとか、生き返るってどんな気分なんだろとか色々な事が浮かんだ結果、このまま犬死にするよりは一矢報いてやるということで勢いのままに暴走してしまったのです。

 

一応シンシア王女にはヨミカイン魔道図書館でザオリクまで契約させていますし、きっと生き返らせてくれるだろうという打算もありました。しかしアランはマトリフの前例を見ておいて跡形も残らないという可能性を考えなかったのでしょうか。

 

きっと考えなかったまま突っ走ってしまったのでしょう。

 

しかしここまでの戦いの道筋が自爆する瞬間に走馬灯のように巡っていった事で、アランは今までの旅の意味を理解しました。かつて魔王ハドラーを討伐するためにアバンとロカと共にカール王国を出発したのですが、僧侶レイラが加入して大魔道士マトリフも加入したというのに早々にレイラが妊娠し2人が離脱しているのです。

 

聞かされた当初は混乱してしまいましたが、後々考えてみれば騎士団の頃は「生涯結婚しない」的な事を言っていたロカが女の子がパーティに入った途端孕ませてパーティを抜けるなどおかしな話です。最早利敵行為とすら思えるようなこの離脱劇も、しかし今のこの状況を鑑みれば納得できるものでした。

 

もしロカとレイラが最後まで一緒に戦っていたとしたらブロキーナはこの戦いにいなかったでしょう。マトリフだってハドラーとの戦いはともかく大魔王との戦いまで付き合ってくれなかった可能性が大きいです。しかしロカとレイラが離脱した事で魔王を倒し大魔王との戦いに一緒に臨むことができているのですから、そう思えばロカとレイラの離脱は必然だったのでしょう。

 

ロカとレイラが抜けた結果ハドラーとの皆既日食の日の決戦ではマトリフとブロキーナが加入してくれ、そしてアバンが凍った後アランはその2人から教えを受けることができたのです。そして今もこうしてマトリフとブロキーナを失いながらも大魔王と戦い追い詰めることができている以上、すべてが物語のように1本の道になり繋がって行ったのですからなるべくしてなった事なのかもしれません。

 

しかしこのアランの思いもよらぬ行動は大魔王だけでなくアバンにとっても信じられないものでした。後を任されたと思ったらオリハルコン軍団に特攻して全滅させ、更にそのまま大魔王を瀕死まで追い詰めたと思ったら自爆したのですから誰も予想などできないでしょう。

 

まさに一瞬の閃光のような激しい輝きでした。

 

しかも最後には大輪の花を咲かせるかのごとく自爆して消えていくのですから、まるで人間の生き方が凝縮されたような行動だったのです。もしこれが二代目大魔道士的な武器屋の息子の少年が発した言葉であればきっと「君に出会えて良かった」的な素晴らしい勇者への鼓舞になっていたのでしょうが、残念な事にあまり賢くない賢者であるアランは行動でそれを示しアバンを驚かせたのでした。

 

「ハァ……ハァ……ガハッ……」

 

爆発が晴れた時、マトリフと同じくアランの姿はどこにもなく大魔王はまさしく瀕死の状態でした。地面に膝を付き、血を吐き、片腕を失い、心臓も3つのうち2つを失って残り1つの心臓にもダメージが入っているのです。それでもまだ生きているのですから、その生命力は人間などとは比べ物にならないほどに差があるのでしょう。

 

「アラン…」

 

勝手に逝った仲間に文句の1つも言いたいところですが、仲間たちがここまで追い詰めてくれたのですから後は任された自分の役目です。アバンも大魔王との戦闘で少なからず暗黒闘気によるダメージを受けており、最悪の場合は仲間たちの後を追う事も視野に入れつつ剣と魔弾銃を構え自身にできる最大の攻撃の準備をしました。

 

「ハァ…ハァ…アランめ、凄まじいまでの、執念よな…」

 

「…ええ、彼らがいなければここまで辿り着く事はできませんでした」

 

「ならば…余も少しばかり、せめて、人間どもへ意趣返しをしておくとしよう…」

 

「っ…何をするつもりだ!?」

 

アバンの問いに答えることなく一方的に告げると同時に大魔王がどこかへと、残された数少ないであろう魔法力を飛ばしたのです。それはバーンパレスに搭載されているピラァ・オブ・バーンという名の地上破壊兵器を落とす命令を飛ばしたのでした。瀕死の状態に陥っている大魔王にすべてのピラァを落とすだけの余裕はありませんでしたが、それでも1つ落とせば真下にあるカール王国を消し飛ばすくらいの威力は持っています。

 

すると少し後にバーンパレスが空中にあるにもかかわらず地響きが起こり、そしてその振動が収まった事がピラァ・オブ・バーンが無事に投下された事を知らせることとなったのです。

 

その後すぐに真下から大爆発の影響による地響きが起こり出し、アバンはその大きさからカールが無事では済まないだろう事は考えるまでもなく理解してしまいました。

 

 

……

………

 

 

「ククッ、これで…カールは、貴様の仲間共は、消し飛んだだろう…」

 

「何ということを…」

 

大魔王によって今行われた行動の意味を聞かされ、守りたい者たちを失った事を理解したアバン…まさか大魔王がそのような行動に出るとは思わなかったなど言い訳にもなりません。ならばせめて大魔王だけでも…と、もはや地上の平和のためというお題目が悲しくなるような事態になってしまったのでした。

 

しかし大魔王は眼下で起こった爆発について、アバンに語ったその言葉とは裏腹に少しばかり訝しんでいました。

 

このバーンパレスはその素材と大魔王の魔力によって空中を浮いているのです。しかし魔力の源である鬼眼を失ったことで、バーンパレスの心臓部は大魔王からの魔力の供給を失ってしまっている状態でした。そのため魔力による制御が利いておらず、バーンパレスは実は徐々に高度を上げていたのです。

 

そんな中で真下のカールに向かってピラァ・オブ・バーンを投下し、起こった爆発の衝撃がバーンパレスにまで辿り着いていることに疑問を感じたのでした。もちろんそんな疑問をわざわざアバンに言うような真似はしませんが、微かな違和感が大魔王の中で渦巻いていたのです。

 

そしてその違和感の答えを持つ人物が現れようとは…瀕死の大魔王は予測できたはずなのに思いつかなかったのでした。

 

「まさか黒の核晶をカールに使おうとするとはな…」

 

「……バランさん?」

 

そこに現れたのはボロボロになっている竜の騎士バランでした。

 

バランはカールに攻めてきていたアルキード・パプニカの両軍を追い払った後…なぜか高度を上げているバーンパレスに疑問に思い、更に大きな力の奔流を感じ取った事から援軍として戦うために空を上がっていたのです。そしてその途中でバーンパレスから巨大な槍が投下されたので、このままでは真下にあるカール王国に…家族たちがいる場所に落ちると判断し急いで迎撃したのでした。

 

しかしまさかその槍に黒の核晶が搭載されているなど思うはずもなく、迎撃した攻撃に反応した黒の核晶の爆発に巻き込まれてしまったのです。普通の人間であれば間違いなく一緒に巻き込まれて消し飛んでいたほどの威力でしたが、バランには一度黒の核晶の爆発を受けた経験があります。

 

かつて冥竜王ヴェルザーが自身の支配する巨大な大陸を消し飛ばすほどの超爆弾を使用した時の相手がバランだったのです。そして今回の落下してきた柱に備えられていた黒の核晶はかなりの大きさでしたが、それでもヴェルザーが使用していたほどの大きさはありませんでした。

 

そんな黒の核晶が爆発する瞬間にその挙動によって爆発が来ることを悟り竜闘気を全開にして身を守ったことでなんとか事なきを得ましたが、その爆発がもし地上付近で起こっていたらカール王国は消し飛んでしまっていたでしょう。今回もその爆発を抑え込むのではなく空中で起こった爆発に対して身を守るだけだったので無事でいられたのです。もし仮にその爆発を後ろに意識のないディーノくんがいる状態で抑えるとなれば命懸けとなってしまっていたでしょう。

 

「ここで……ここで現れるか!神々の玩具めがっ!!」

 

そんなバランの登場は大魔王にとって看過できないものでした。地上に住む人間の勇者たちが想像すらできないほどの力を発揮しここまでの戦いを見せた後に、憎き神々の作り上げた戦闘兵器が良いところを掠め取るかのように現れたのですから最も許せない行為なのでしょう。

 

魔界を二分した冥竜王ヴェルザーも竜の騎士が倒した後に精霊たちがその魂を封じ込めた事からも、誰かに戦わせておいて最後に出てきて自分たちに都合の良いように勝手をする行動が余程我慢ならない行いとして大魔王には映っているのかもしれません。

 

そんな竜の騎士の登場は、神々を憎む大魔王にとって消えかけた戦意を再び燃え上がらせるものでした。

 

「バランさん、カールは無事なんですか!?」

 

「心配は無用だ。落ちてきたアレは私が撃ち落とすことでカール上空で爆発することになった。私はこの通り無傷とはいかなかったが…カールは無事だ」

 

「…良かった。ならば後は大魔王を倒すだけ…ということですね」

 

アバンにとって一番の不安材料であったカールの安否がわかり、これで後は目の前の大魔王を倒すのみとなりました。先程までの瀕死の状態から容態は変わらないはずなのに、今の大魔王は怒りの形相で瀕死とは思えないほどの圧力を放っています。しかしどれだけ猛ろうともアバンは刺し違えてでも大魔王を倒す覚悟を決めていました。ここで倒すことができなければ仲間たちに合わせる顔がないという理由からです。

 

「アバン殿、いくら瀕死とはいえ相手は大魔王だ。貴殿もかなりのダメージを負っている…アランたちの姿が見えないということと、大魔王のあの様子からかなりの無茶をしたのだろう?」

 

「ええ、だからこそ…だからこそ私がやらなければ、逝った彼らに申し訳が立ちません」

 

「これは私の考えだが…アランたちは間違いなく貴殿が後を追う事を望んでいまい」

 

バランに諭されてアバンは思い出しました。

 

マトリフもアランも「後は任せた」と言っていたことを…それは大魔王を倒す事を託されていたわけではなく、大魔王を倒した先の未来さえも託されていたのです。アランだけは「もし死んだら蘇生よろしく」の意味も入っていたかもしれませんが、包括的なよろしくだったためアバンの都合の良いよろしくとなっていたのでした。

 

ちなみにもし「死んだら蘇生よろしく」と言っていたとしても、アランの身体がない以上蘇生などできないのでどちらにしても結末は変わらなかったでしょう。

 

それに戦いにおいてアバンの中に『すべての戦いを勇者のために』という考えはまったくありません。もし地底魔城でハドラーとの決戦の時にロカやレイラたちがいてアバンをハドラーのところにたどり着かせるために死力を振り絞って道を切り開いてくれていて、更に次代の小さな勇者が大魔王と戦うというのであればそういった考え方を持っていたかもしれません。

 

しかし地底魔城の際にもアバンはアラン、ブロキーナ、マトリフという仲間たちと最後まで戦っているため、今回も仲間と最後まで戦うという意識しかありません。特にアランは不意打ちで相手が話していようと問答無用で消し飛ばしたりもしていたので、そこには勇者の一刀でなくとも敵を倒すことができればそれで良いという考えがありました。

 

そして今の状況を鑑みれば満身創痍な自分よりも、負傷していても竜の騎士であるバランのほうが大魔王と戦うのに勝率が高いとアバンも判断したのです。

 

バランの力をもってすれば今の瀕死の大魔王を倒すのなどそう難しいことではありません。いくら怒りを燃やしていようと、身体中を穴だらけで片腕を失い心臓まで失っている大魔王に勝利の目など皆無だったのです。

 

「まさかここまで大魔王を追い詰めるとは…見事だ」

 

バランにとってマトリフとブロキーナとは、息子であるディーノくんから話を聞くだけで会ったことのなかった人物でした。ディーノくんがシンシア王女と一緒にアランに連れられて出かけた先で紹介されたまに顔を出していたという事は知っていました。

 

マトリフとは大魔王が動き出した時にパプニカに救援に行った際に初めて出会ったのですが、自分たちが竜の騎士と知っても何も変わらずに接してくれたまさしくアランの仲間といった人物でした。ブロキーナとはカール王城で少し会っただけですが、こちらもディーノくんとシンシア王女と親しく話しており可愛がってくれているのがよくわかったものです。

 

そして何よりアランとは長い付き合いです。

 

初めて会ったのはアルキードからテランへと居を移し、そこで3人で静かに暮らそうと思っていたところに突然やってきたのです。なぜかそこからカール王国へと誘われ、そしてそこから3人の生活が一変しました。紹介された女王とその夫は暖かく迎え入れてくれ、そこから安心できる穏やかな生活が始まったような気がします。

 

アランはよく子供2人を連れ出すことが多いのが心配の種でしたが、それとは逆に「ちょっと子守よろしく」と2人の面倒を見る事を急に任された時などは焦ったものでした。妻であるソアラ王女に相談したり、アランと違いちゃんと出かける先を告げた上で町を散歩したりしてウロチョロする男の子と女の子を同時に見ないといけない大変さを実感したりもしました。

 

大魔王が現れたとしても自分たちが倒すから何もしなくていいとまで言われ、そしてその言葉の通りに大魔王をこのまま放っておいても死ぬのではないかと思うほどに追い詰めていたのですからバランにとっては感嘆しかありません。できれば生きていてほしかったという気持ちはありますが、まずはそんな仲間が残した心残りを晴らして安心させるべきと感慨に耽ることを止めて大魔王を倒すことにしたのです。

 

「おのれ…!」

 

「覚えておけ大魔王…お前を倒したのは、人間の勇者たちだ」

 

既に満身創痍の大魔王には竜の騎士と戦えるほどの力など残っていませんでした。本来ならば圧倒的に有利な状況だったはずの魔王軍が敗北しようとしているなど一体誰が予想できたでしょうか。持てる力を十二分に発揮していれば大魔王の勝利は揺るがなかったでしょうが、それでも敗因を上げるとすれば『慢心』というものが大きかったのかもしれません。

 

地上消滅を目論む大魔王にとって、最も警戒すべきは竜の騎士バランと勇者アバンの2名だけでした。

 

竜の騎士の力は冥竜王ヴェルザーを打ち倒したことからわかっていた事ですが、しかしそれは戦闘面における力が強大という事でしかありません。互いに全力で戦うのであれば大魔王にとっては難敵であったとしても強敵にはならなかったはずなのです。

 

しかし勇者アバンは単純な戦闘力ではないところに厄介な点がありました。ハドラーとの戦いの際には何と『凍れる時間の秘法』まで使用しており、ハドラーを数百年に1度の皆既日食の日に呼び出して使用しているのですからバランよりも警戒する必要のあった人物だったのです。とはいえ次の皆既日食は数百年後の事なので今後『凍れる時間の秘法』を使用される心配はなく、肉体強度で魔族に遥かに劣る人間に負けるなど微塵も考えていませんでした。

 

そしてその傲慢なまでの自負がこの状況へと導いてしまっていたのです。

 

大魔王にとってどれだけ勇者アバンや賢者アランの事を褒めたとしても、それは言葉の頭には常に「人間にしては」という意味が含まれているであろう事は想像に難くありません。所詮は100年足らずで死んでいく烏合の衆の中ではよくやっているほうだという考えが、今の魔王軍の結果へと結びついてしまっていたのでしょう。

 

もし大魔王が悪魔の目玉などを使い勇者パーティだけでも常に見張っていればこうはならなかったかもしれません。アバンが魔弾銃を持っている事を知り、アランがマホカンタを使う事を知っていれば大魔王ならば簡単に対処できたはずなのです。

 

ならば何故それを実行しなかったのか……常に動向を注視しているとなれば、それは神々が『魔族や竜より弱い』という理由で地上を与えた人間を冥竜王などと同等に手強いと見ていると認めるという事になってしまうためでした。自分が大魔王であるという矜持や「人間ごとき」という見下した認識…そして数千年を生きてきて魔界を治めるだけの力を手にしていた事が、神々への恨みもあり人間の強さを簡単に認めるということができなかった原因かもしれません。

 

そんなもはや動けぬ大魔王を前にしてギガデインを真魔剛竜剣に落としトドメこそ刺すものの、バランはそれで自分が倒したなどと思うことはありませんでした。地上の平和のためにその生命の一滴までも絞り尽くし、大魔王という強大な相手を倒したのは人間であることを告げて…必殺剣であるギガブレイクで大魔王を消し飛ばしたのでした。

 

「帰ろう…とはいえその身体ではトベルーラも厳しいか。捕まるといい」

 

その場で回復させることも考えましたが暗黒闘気の傷はすぐには回復しないため、それよりも早く待っている人たちに勝利を伝えてやったほうがいいだろうと考えたバラン。アバンに肩を貸し、浮上を続けるバーンパレスを後にカールへと戻ろうとする2人ですが…アバンはせめて仲間たちの形見でもと思いましたがアランとマトリフは自爆しており、ブロキーナもオリハルコン軍団の連鎖爆発に巻き込まれていて全員が遺体どころか何も残されていませんでした。

 

そのためバランと共に帰りを待つ者たちのもとへと戻るアバンの胸には、大魔王を倒し平和を取り戻したという達成感よりも仲間たちを失った喪失感のほうが強く残っているのでした。

 

 

 

 

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