賢者の冒険   作:賢者さん

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ドラクエ5に行ってみた1

 

 

 

「ぬわーーっ!!」

 

「ほっほっほっほっ、子を思う親の気持ちはいつ見ても良いものですね」

 

「…リュ……カ………」

 

 

 

古代の遺跡……そこで魔物の策略によって1つの悲劇が繰り広げられていました。

 

王子が拐われてしまったことで助けに向かったある親子は、拐われた王子を取り戻したものの遺跡を出る前に魔物に見つかってしまいます。立ち塞がった魔物を何とか倒したと思ったのも束の間…なんと卑劣な魔物は子供と王子を人質に取ってしまいました。

 

とても強く勇敢だった父親も子供を人質に取られてしまってはどうすることもできません。そして最後には反撃することもできず魔物たちによって倒されてしまったのです。それだけでは飽き足らず、魔物は子供の前で父親の身体を炎で焼いて見せたのでした。

 

そして命だけは助かったであろう幼い子供と王子は魔物によって奴隷として連れ去られてしまいました…

 

 

 

……

………

 

 

 

「っ…きさまっ!何者だ!?」

 

「なんで気付いたら知らない場所にいるんだろ…?」

 

そんな悲劇など知る由もない賢者アラン…本人の認識では先程まで「強くなりたい」と願うアリーナ姫にシンシアちゃんと一緒に武神流の特訓をさせていたはずなのに、いつの間にやら知らない場所にいるのですから当然の思いでしょう。そしてもはや自分は夢遊病なのかもしれないとまで思ってしまうほどに状況がわかりません。

 

これはもしかしたらデスピサロを倒した事で下剋上を目論んでいたエビルプリースト的な魔物がアランを危険視してどこかへ飛ばしたのでしょうか。デスピサロの大切にしていたエルフを人間の仕業に見せかけて殺したまでは良かったのですが、まさか当のデスピサロが人間の勇者に容易く負けるとは思っていませんでした。そこから地獄の帝王やデスピサロを倒した立役者とも言えるアランを排除すべく何か魔界の秘宝的なもので追いやったという事も考えられます。

 

それともアリーナ姫にこれ以上強くなられると困るかもしれないどこかの神官の呪いなのでしょうか。デスピサロを倒した後に自国に戻ったアリーナ姫はそれ以降も強くなるための特訓を欠かさず、更にアランの使う武術まで欲し学ぶことにしたのです。そして良くも悪くも何かあれば「アランだったら…」「アランなら…」とその名をよく口に出すようになったため、嫉妬的な感情からアリーナ姫に淡い想いを寄せる神官が闇落ちした可能性も否定できません。

 

当然のことながらアランもアリーナ姫もお互いにそんな感情は一切持っていないのですが、姫に恋する若い男でもある神官にそんな事を言ったところできっと信じてもらえないのでしょう。お転婆で破天荒なお姫様と、そんな手のつけられないお姫様よりも強くてモンスターに対しても常に最前線で戦う勇者というのは神官から見れば自分よりも相応しいと思ってしまっても仕方ない事かもしれません。

 

まずアランにとってはアリーナ姫のお転婆など少しヤンチャなだけで可愛いものでしかありませんし、城を抜け出したり武闘会で優勝する程度などお転婆のうちにも入りません。仮にサントハイムの城にいる従者たちを叩き伏せて城を飛び出し、エンドールの武闘会で優勝した挙げ句に景品としてエンドールの姫を攫ったとしても他愛無いと思うでしょう。そんなアランのため神官は何でも受け入れる度量のある男と勘違いして焦ってしまったということも考えられます。

 

それとも実は神官の呪いではなく一緒に旅をした商人に「武器なんてなくても敵は倒せる」と言いながら徒手空拳で戦い続けた事が悪かったのでしょうか。ちょっとした悪戯気分でメドローアの消滅エネルギーを手に溜めて「種も仕掛けもありません」などと言いながら、その商人が必死に集めてきた武器を手のひらに刺すように見せて消したりなんてこともしていました。もしかしたらそういった行為が目に余り呪いのアイテム的なもので飛ばされたなんて可能性も捨てきれません。

 

それだけでは飽き足らず占い師と踊り子の姉妹に「占い師とか踊り子って遊び人とは違うの?」と聞いてしまった事もありました。仲間になった以上は何ができるかを確認しておくのは当然なのですが、占いや踊りと言われても戦闘に直結するとは考えられなかったため思わず言ってしまったのです。

 

少なくとも神官と姉妹と商人からは負の感情を向けられていそうなアランですが、そんな事は心当たりもありませんので突然の出来事に驚いてしまいました。しかしいくら驚いてしまったとはいえ歴戦の戦士でもあるアランにとってその原因を予想することなど造作もありません。

 

アランはソロくんたちと共にデスパレスにて地獄の帝王を倒し、その後に現れたデスピサロも倒しています。とはいえすべての魔物を駆逐したわけでもなく、当然ながら残党だってまだいるはずでしょう。そしてそんな残党たちが勇者であるアランに対して報復しようとするのは当然の事だと考えていました。

 

しかし勇者パーティを相手にするには分が悪いと考えた魔物たちは勇者であるアランだけを何かしらの方法で飛ばして、そこで待ち受けることによって倒そうと考えたのだと想像したのです。

 

どうやらアランがいる場所は何かの祈祷の場のようであり、そして目の前にはワニっぽい魔物がなぜか驚いた様子でこちらを凝視していました。自分で呼び出しておいて何を戸惑っているんだ…というアランの考えはさておき、その魔物は魔界の王がこの地上へと現れた後に人間界を支配する神として君臨してもらうつもりのために人知れず暗躍しながら神を崇める一大勢力を作り上げようとしていたのです。

 

そんな中で日課のような祈りの途中に突然1人の人間がどこからともなく目の前に現れたのですから驚くのも当然でしょう。

 

「とりあえず…さっさとお前を倒してアリーナちゃんたちとの特訓を再開しないとね。勝手にいなくなったら怒られちゃうよ」

 

アランにとって魔物が目の前にいて倒さないという選択肢はない上にデスピサロを倒した仕返しだと思ったため、魔物側からすれば「勝手に現れておいて…」と言いたくなるある意味被害者なのにも関わらず呆気なく倒されてしまいました。実はこの被害者とも言えるワニのような魔物はイブールという名であり、人間たちを裏から利用して操るために『光の教団』という団体の教祖を務める魔物だったのです。

 

もちろんアランはそんな事は知りませんし、仮に知っていても魔物である以上倒さない理由もありません。そのため先手必勝とばかりに閃華裂光拳を叩きつけられた魔物は何も事情も理由も知らないアランによってその企みを阻止されることになってしまいました。更にその魔物が倒れた後に、魔物が持っていたであろう指輪のようなものが床に零れ落ちたのです。

 

「お、何か落としていったのかな?」

 

そんなイブールを倒し戦利品を手に入れた後になって周りを見渡してみると、どうやらアランがいるのは地下室のようでした。アランは知らない事ですがここはセントベレス山の山頂にある大神殿の建設予定地であり、今はまだ大神殿も建設できていないため予定地だったのです。そしてこれから大勢の奴隷たちによって大神殿が完成していくはず…だったところにアランが現れてしまい、そして教祖という立場であったイブールは特筆する理由もなく倒されてしまったのでした。

 

地下室から外に出てみると確かに建設途中といった感じの建物があり、そして大勢の人間たちが老若男女関係なく石材などを運びながら働いています。そしてそんな人間たちを魔物が使役して、罵声を浴びせたり鞭を振るったりしながら無理やり働かせていました。

 

「なんだ貴様は!?どこから現れた!!」

 

地下室から出てきたアランを目敏く見つけた魔物が鞭を片手に叫びながらこっちにやってきますが、状況のまったくわからないアランにとってただの敵でしかありません。見ている人間たちからすれば鞭を振るうその魔物によって死んでいった仲間たちも大勢いたので、見覚えのない人物が現れてそんな憎き相手を倒すのを胸のすくような思いで見ています。

 

「俺は…伝説の勇者アラン!!」

 

ソロくんたちと一緒にそれなりに旅をしていたため、最近はすっかり賢者と名乗ることがなくなっていたアランは躊躇することなく『勇者』と名乗りました。シンシアちゃんなどは「ソロが伝説の勇者なの!」と張り合ったりしていましたが、ソロくん自身は「別に兄さんが勇者でも良くない?」と肩書に固執していない上にアランが進んで使用していることを気にしていなかったりします。

 

そんな『伝説の勇者』という名乗りは魔物たちにとっても、そして奴隷として働かされている人間たちにとっても驚くべきものでした。魔物にとっては『勇者』とは生まれさせてはならない存在であり、人間にとってはまさに希望と呼べるものだったのです。

 

「貴様が勇者だというのなら…今ここで貴様を倒せば問題ないな!」

 

「状況がよくわからんけど…とりあえず死ね!」

 

『勇者を倒そうとする』魔物と『魔物だから倒そうとする』アラン…どっちがちゃんとした目的を持って行動しているのかというと魔物側だったりしますが、普通の人間には敵わないようなモンスターを相手にする事が多いどころかそれしかしていないアランに雑魚モンスターたちは薙ぎ倒されてしまいました。

 

 

「「「勇者様が助けに来てくれたんだ!!!」」」

 

「「「勇者様バンザーーイ!!!」」」

 

今まで奴隷として働いていたはずの人間たちは魔物が駆逐されていく様子を見て喜びを爆発させ、そんな人間たちの様子を見てアランは「もしかしてソロくんたちと行ってない場所がまだあったのかな?」とまったく違うことを考えています。一応デスピサロは倒したもののもちろん魔物が全滅したわけではないので、自分たちが行ってない場所なら魔物がまだ猛威を振るっている場所があっても不思議ではないという考えからの予想でした。

 

アランはそのゲーム脳によってレベルやステータスなどはカンストを目指しているのですが、しかしそのゲーム脳は世界をくまなく探して旅をするほうには働いていないことによる誤解だったのです。

 

そんな喜びに溢れる奴隷たちの歓喜の声は、1匹の魔族が現れたことによって急激に萎んでいってしまいました。

 

 

 

 

 

「ほっほっほっほっ、ずいぶんと賑やかなようですね」

 

 

 

 

 

そこに現れた魔族…ゲマの登場によって再び奴隷たちは口を噤み、そして浮かべた表情は恐怖のそれでしかありません。もちろん一緒に現れた馬っぽいのと豚っぽいのへの恐怖も大きいのですが、その2匹の魔物に命令を下す…紫っぽいローブを身に着けた口調だけは丁寧な魔物への恐ろしさのほうが勝っていたのでした。

 

豚っぽい魔物であるゴンズの両脇には小さな子供が2人抱えられており、奴隷たちは「また連れ去られて来た子か…」とすぐにそれを察しています。アランはそんな事情などは一切わかりませんが、魔物が子供を抱えているのを見て攫ってきていないはずがないと思っているので奇跡的に奴隷たちの認識と一致していました。

 

「神聖な大神殿の建設を邪魔したおバカさんにはお仕置きが必要なようですね…ジャミ、ゴンズ。この不届き者をやっつけておしまいなさい」

 

 

 

ゲマの号令を受けジャミとゴンズが襲いかかったのですが、2対1という数的不利など無関係なアランによって返り討ちという結果になってしまいました。ジャミとゴンズも決して雑魚モンスターというほど弱いわけではありません…しかし大魔王どころか最近には地獄の帝王なども倒しているアランを相手にするには実力が足りなかったのも事実です。

 

アランがゴンズとジャミを倒したことで手強いと見たのか、ゲマが次に取った行動は奴隷たちを人質に取るという方法でした。これは先程連れてきた子供の親を殺した時にも有効な戦法であり、アランがわざわざこの場に現れ部下たちを倒した人間ということは人間たちを救出しに来たというのは明白だからです。

 

「ジャミ、ゴンズ。今のうちにやっておしまいなさい」

 

このゲマの卑劣な策略によって命を落とした父親…パパスと同じ結末を辿るだろうと下卑た笑いを浮かべていたゲマだったのですが、そこからアランは躊躇するどころか余計に強くなったかのように再度立ち上がったジャミとゴンズを倒してしまいました。

 

そして奴隷たちの首に死神の鎌を当てているゲマにまで高速で近づいて殴りかかってきたのです。

 

労働力である奴隷をわざわざ減らさないだろうとでも思っているのか…と、迷いなく攻撃してくるアランに「これは脅しではない」という事を知らしめるために奴隷の首を掻き切って見せるゲマ。奴隷たちに大きな悲鳴が上がり「これで少しは動揺するでしょう」と内心シメシメなゲマだったのですが、目の前にいる存在はそんな事で動揺するような人物ではなかった事がゲマの敗因でした。

 

 

 

 

 

 

「「「………………」」」

 

「もう聞こえてないだろうけどさ、伝説の勇者を甘くみないほうがいいよ」

 

アランにとって目の前にいる人質など人質足り得ないとでも言うかのように…まったく動揺どころか目もくれない戦いに、精神的優位に立ったと思っていたゲマのほうが反対に押されてしまったのです。そしてゲマはそのまま武神流の奥義によって破壊され、その場にいた魔物たちは1匹残らず倒されてしまいました。

 

アランの捨て台詞のような言葉を聞き…奴隷だった人間たちは喜びよりも先に恐怖が湧いているのですが、下手な事をすれば何をされるかわからないため動くに動けません。この場に伝説の勇者が来てくれたのは自分たちを助けるためだと思っていたのに、人質を見殺しにされてしまってはそう思うのも仕方ないことでしょう。

 

「んじゃ殺された人を生き返らせとこうか」

 

一応「人質として殺されたのは可哀想かな」ということで、見殺しどころか巻き込んでおいて後から蘇生させるアラン。巻き込んだのはゲマなのですが、アランに対する人質だったのでアランが巻き込んだと言えなくもないからです。

 

 

しかしアランの考えとは裏腹に、人間たちはそこで奇跡を目にしました。

 

 

奴隷として魔物に使役され、恐怖によって支配された毎日…それが伝説の勇者によって解き放たれたのです。そして人質として命を落とした者には再び生を与えられ、奴隷にされていた人間たちはまさに自由を取り戻したのでした。

 

更に魔物によって殺され、捨てられる予定だった仲間たちの蘇生を頼んでみれば…勇者の奇跡によって二度と会えないと思っていた仲間が蘇ったではありませんか。先程までの恐怖は一体どこへ行ってしまったのか…人々は歓喜に涙し、そしてアランが現れた奇跡を神に感謝するのでした。

 

なおアランが人質以外の死者まで蘇らせたのは慈悲でも何でもありません。

 

奇跡の熱によって浮かされた奴隷たちの頼み込んでくる目が血走っていて怖かったので「ま、まぁそれくらいなら別にいいかな」と、珍しく押され気味だっただけでした。あとボロボロの死体を抱きかかえて近づいて来られるのがちょっとだけ怖かったという理由もあったりします。

 

きっとこの光景を見たらアバンやバランたちだって一歩引いてしまうに違いありません。フローラ女王やソアラ王女などが見たら卒倒してしまうのではないでしょうか。

 

 

「ところでさ、ここってどこなの?」

 

 

ようやく落ち着きを見せてきた奴隷たちに現在の場所を聞き、セントベレス山の頂上ということがわかりました。しかし地名がわかってもアランの知識にそんな地名は存在せず、光の教団という名も聞いたことがありません。更に奴隷たちが言うには「光の教団は世界中に信者がおり、今も真実を知らず信じている者たちが大勢いる」ということでした。

 

アランにとってはよくわからないしどうでも良い事だったのですが、この場にいる人間たちは自分たちを解放してくれたアランの手助けをしようと言い出し…光の教団は名を改め『奇跡の教団』として新しく生まれ変わり勇者を支援するということになってしまったのです。そしてもちろんそのトップに立つのは勇者であるアランなのですが、かつてリンガイア王国でも似たようなことになって面倒だったアランがそれを受けるわけがありません。

 

「みんな聞いてくれ!これらの事は俺だけの力じゃないんだ!実は天女フローラ様のおかげだったんだよ!」

 

リンガイア王国でやらかしていて、フローラ女王から小言まで言われているのに同じ事を繰り返すアラン。よくわからない土地だしバレないだろうというアランの浅はかな考えによって、偶像の聖女フローラ様がここに誕生したのです。

 

これにより奇跡の教団は聖女フローラ様を祀り、そして勇者アランがその声を届けるという意味のわからない教団として再スタートを切ることになりました。奴隷から解放された人間たちはそれぞれ自分たちにできることを考え、建設予定だった大神殿をそのまま建設する者や奇跡の御業を布教するという者など細かく役割を決めて動くことにしていったのでした。

 

 

「これできっとソロくんたちにも俺のいる場所がわかるだろ」

 

 

なぜか盛り上がっている人間たちと自分との温度差を感じながらも、我ながら名案を思いついたものだと自画自賛のアラン。旗頭にされるのは何となく嫌だけど、自分の名前が広がればそれを聞いたソロくんたちがやってきてくれるだろうと考えたのです。そしてそれはそれとして当然のようにフローラ女王の名前を使用しているのでした。

 

フローラ女王がこれを知ったらどうなるのかはわかりませんが、確実に説教だけでは済まないでしょう。とはいえフローラ女王に見つかる可能性は低いと思っており、それがなんとなくわかっているからこそ出た言葉なのかもしれません。

 

そんな中、1人の子供がアランに近づいてきました。青紫っぽいターバンとマントを身に着けた小さな子なのですが、その目には強い光を宿しており何かを決意しているのは間違いありません。

 

「勇者様、どうかボクを強くしてくれませんか」

 

「…よくわからないけど、魔物に拐われてきたのならお家に帰してあげるよ?」

 

その子供…リュカくんというまだ小さな子は拐われる前、ゲマの手によって父親を殺されてしまったということでした。そして父の仇であったゲマをアランが倒した強さに感動を覚え、しかもそれが伝説の勇者だと名乗っているということで「この人に鍛えてもらえば父さんのように強くなれるかも」という希望を持ったのです。

 

 

 

父親の最後の言葉…父さんの代わりに自分が母さんを探し出すために…

 

 

 

本来ならさっさと家に帰すのが正しいのでしょう…しかしアランはリュカくんの目にディーノくんと同じ輝きを見ました。純粋でありながら力強い光を宿す目に懐かしい思いを感じたアランは、ひとまず「勇者様」という呼び名を訂正しつつ了承するのでした。

 

ソロくんたちがどこにいるのかわかりませんが、アランにとってはリュカくんのお母さん探しのイベントを進めていったらそのうち何かわかるだろう…というとても薄っぺらい理由でしかありません。

 

 

 

……

………

 

 

 

場所がセントベレス山の山頂という不便な場所ということもあり、また奴隷から解放された人間たちから「もしかしたら魔物たちがまた襲ってくるかもしれない」という不安からの頼みで1年と少しほど逗留していたアラン…ある日リュカくんから「1度サンタローズに戻りたい」と言われたアランは奇跡の教団の連中に後を任せ、そしてどうしても同行したいと言い出したヘンリーという少年も一緒に連れて行くことにしました。リュカくんにとってはゲマに敗れたことで二度と戻ることができないかもしれないと思っていた故郷だけに喜びは一入のようで、しかしそれを見るヘンリーのほうは悔恨の思いを抱かずにはいられませんでした。

 

ヘンリーにもヘンリーなりの思いがあったにせよ、パパスが死んだ原因は自分の行動にあったという後悔がずっと消えなかったのです。ラインハットの王子であるヘンリーにとって王城での生活に複雑な思いがあったのは確かだったのですが、だからといって自分を助けるために来てくれたパパスとリュカがこんな状況になってしまった事を思えば申し訳無さしかありません。

 

それでもアランがゲマたち魔物を倒してくれたことで奴隷として無為な時間を過ごすような事がなくなったのは幸運な事でしょう。子供である今の自分たちの力を考えれば最低でも10年くらいは奴隷として働かされていてもおかしくなかったのですから…

 

 

そんな後悔などを滲ませている表情のヘンリーにまったく気付かないアランはというと、どうやってサンタローズという場所に行こうかと悩んでいました。相変わらずルーラが不調でカール王国を思い浮かべても発動せず、ならばとソロくんたちの村やエンドールなどを思い浮かべてもやっぱり発動してくれないのです。

 

仕方なくいつも通り飛んでいくことにしたアランはその旨を告げ、リュカくんとヘンリーを抱えて山頂から飛び立つ構えを見せたところで2人の子供は気づきました。これはマズイやつでは…と。

 

「勇者様…!まさかここから飛び降りるんじゃないですよね…?」

 

「飛び降りるなんてするわけないじゃん。ただ飛ぶだけだよ。あと俺はアラン兄さんね」

 

「アラン兄さん、それなにもかわらないんじゃ?」

 

ここセントベレス山は人間の足で辿り着けるような高さではなく、そしてその山頂ともなれば世界を一望できると言っても過言ではないほどの高さを誇っています。本来ならばそんな場所を行き来するのであれば、例えばドラゴンの背中に乗るなどの常識では考えられないような手段を講じなければならないほどの場所なのです。

 

ここから飛び降りれば待っているのは死であり、そんな事は子供であろうと簡単に想像することができました。そして自分たちを抱えている恩人は背中に翼があるわけでもなく、見た感じ普通の人間にしか見えません。

 

そんな不安や落ちる事への恐怖でいっぱいだった2人ですが、その次には感動と興奮の表情へと変わっていました。

 

「ふわぁ~すごい…」

 

「え…?空飛んでる…?」

 

力の限りアランにしがみついていた子供たちも遥か上空から見渡す景色に心奪われたのか、不安などが消え去り今まで見たことのない光景に感動しているようでした。素直に感動しているリュカくんと違って空を飛んでいることに疑問を感じているヘンリーもいますが、こちらは景色よりも飛べることに驚いているのでしょう。

 

強力な魔物たちを1人で倒し、死んだ人を生き返らせ、空まで飛べるという事実は2人の子供の頭に『伝説の勇者』の凄さをしっかりと刻み込んでいるようです。アランにとっては日常の移動手段でしかないトベルーラなのですが、当然ながらソロくんたちだけでなくこの世界でも使い手など存在しません。

 

しかしアランはこの『飛んでいる事を驚いている』のは子供だから高いところが好きという認識でしかありませんでした。何せ自身の子供がいなくても子育て経験の豊富なアランなので、ディーノくんやシンシア王女たちを筆頭にトベルーラによる散歩はいつもの事だったのです。そして高いところが好きな子供たちだったのでよくせがまれていたりもしました。

 

そのため今回も似たようなものだと微笑ましく見ており、事実今だけは2人の子供も悲しい出来事を忘れ目の前に広がる壮大な景色に心奪われていたのです。

 

そんな感動の一幕が終われば、次にやってくるのは悲劇だとでも言わんばかりにアランたちを迎えてくれたのは歓迎ではなく戦いでした。サンタローズの村へと向かっていたアランたちですが近くまで来てみれば明らかにその村は攻め込まれており、しかも襲っているのは魔物ではなく人間の兵士にしか見えません。更にその兵士たちはラインハットの兵士であり、理由はわからないまでもヘンリーにとって自国の兵士がリュカの故郷を襲っているのは間違いありませんでした。

 

「どうしよう…このままじゃ村が…」

 

「おい!やめるんだ!」

 

今にも泣きそうなリュカくんと兵士たちを必死に制止しようとするヘンリー。しかし村を襲っている混乱はそんな小さな声などかき消すかのように届くことはありませんでした。この兵士たちもまたラインハット太后の命令によって苦渋ながら攻め込んでいたのです。彼らにも家族がおり、兵士たちは国よりもまず家族を守りたいという思いを持っている以上命令に反逆するような真似はできませんでした。

 

「2人ともよく見ておくといいよ。相手が話を聞いてくれないときにどうすればいいかを…ね」

 

何もできない2人に対してまったく焦ることなく対話の仕方を見ておけというアランに多少の苛立ちを感じるも、リュカくんにもヘンリーにもこの場をどうにかする方法など思いつかない以上アランに頼むしかないのです。アランのほうも言葉でどうにかできる状態でない以上、やれることはそんなに多くありません。

 

2人をその場に残してトベルーラで村の中心へと移動し、右手にプラスの魔法力を集めていけば…それは炎となり、そしてその炎は鳥の形へと姿を変えていきました。まるで神の御使いとでもいうような…神々しい火の鳥の顕現に兵士たちも言葉もなく見つめることしかできず、さきほどまで木霊していた悲鳴や騒音が一転し静寂が辺りを包み込んでいます。

 

本当はアランとしてはギガデインを放って登場したかったのですが、残念なことにアランはギガデインもライデインも使用することができません。そしてそれ以外に強力な呪文となるとメドローアになるのですが、これは殺傷力が高すぎて『村人たちや兵士たちを含め皆殺しにすることで争いを止める』というどこかの汚染された聖杯に平和を願った時のような結果になりかねなかったのです。

 

そこでアランの脳内に出てきたのはかつて戦ったバラモス枠こと大魔王バーンでした。

 

大魔王バーンはメラゾーマを火の鳥の形にして見た目にも拘っており、相手を倒すことしか考えないアランにはない発想だったのは確かだったのです。バーンと戦っていた時は意味がわからず混乱してしまいましたが、後になって振り返ってみれば巨大な火の鳥は視覚効果は抜群なため、そして何より「火の鳥ってカッコいいかも」という理由でアランもこっそり魔界などで練習していたのでした。

 

「その想像を絶する威力と優雅なる姿から、太古より魔界ではこう呼ばれる…カイザーフェニックス!」

 

兵士たちにとっては攻め込んでいる村の中心に突然飛び込んできて、巨大な火の鳥を作り出したと思ったら「魔界では…」などと語りだす人物に戸惑いしかありません。しかしその巨大な火の鳥が危険なものであることは一目瞭然であり、アランの乱入で争いが一時的に収まったのは確かでした。

 

「お前たち!一体何をしているんだ!?」

 

その静寂を破るようにヘンリーの叫びが兵士たちに届き、そしてヘンリーの存在を認めることでやっとラインハット太后の命令によって攻撃していたという事を知ることができました。その理由も『ヘンリーが行方不明になったのはパパスのせい』というものであり、原因はすべてラインハット太后であるという事を知ったのです。更に追い打ちをかけるようにラインハット王は少し前に亡くなってしまったということで、現在は異母弟であるデールが王に即位したものの、まだまだ幼少の子供には荷が重いと実際の実権は太后が握っているということでした。

 

ヘンリーはリュカくんへの償いも含め一緒に旅をするつもりでいたのでラインハットに戻らないつもりでしたが、そんな話を聞いてしまっては自分の勝手な都合で何もしないというわけにもいきません。もし仮にヘンリーが行かなくてもアランが行くので何も結果は変わらないかもしれませんが、それでもヘンリーの有無はラインハットの被害のほうに大きな影響を及ぼすでしょう。

 

 

……

………

 

 

本来ならば兵士たちで固められた城内に簡単に入ることができないため抜け道を通って潜入するつもりだったヘンリーでしたが、アランの「王子だったら堂々と自分の城に戻ってみせろ!」という言葉を受け自分のあるべき立場と役目を思い出しました。正面から堂々と…そして力尽くで突破する様子は敵襲でしかありませんが、自分の家に戻るのに許可などいらん!とでも言うような佇まいに兵士たちは手を出すことができません。

 

「そなたたち、一体どこから…ぎゃっ!」

 

そしてそのまま玉座へと突き進み、自分たちを見て驚き慌てる太后をアランは問答無用の会心の一撃でぶっ飛ばしてしまったのです。

 

これにはヘンリーやリュカくんだけでなく、その場にいた兵士や大臣たちの誰もが驚きました。

 

行方不明の王子が無事に帰還したことでラインハット太后の行いを諫めてくれるものだと思っていたところに、まさか何も言わずに鉄拳制裁とばかりにいきなりぶん殴るなど考えるはずもありません。ヘンリーのほうもいくら自分を疎ましく思っていた相手であろうと命まで奪うつもりはなく、轟音を響かせて勢いよく壁までぶっ飛ばすというアランの突然の暴走とも言えるような行動をただ見ている事しかできませんでした。

 

アランとしては今までに聞いていたヘンリーの境遇やサンタローズで兵士たちから聞かされていた太后の評判の悪さなどを考え、とりあえず思い切りとは言わずともぶん殴っておこうというつもりでした。とはいえ当然殺すつもりなど皆無ですし、ヘンリーの義弟であるデールという幼い子供もいるということで会心の一撃ならぬ改心の一撃のつもりだったのです。

 

しかし今まで魔王ハドラーや大魔王バーン、天界では竜の神の力を吸収した魔の神に地獄の帝王エスタークという数々の強敵と戦ってきたアランの一撃は並の魔物や人間には重すぎるということを自覚していませんでした。ラーハルトと模擬戦を行ってその身を貫いているというのに、まったくその経験を活かせていなかったのです。

 

壁にぶつかった後に音もなく崩れ去りピクリとも動かず横たわる太后を全員が見ている事しかできませんでしたが、後妻とはいえ王族の殺害など即処刑になっても不思議ではないほどに重罪なのは間違いありません。何よりもまずは即刻捕まえるべきなのでしょうが、しかしこれによってアランたちが牢屋に入れられるような事にはなりませんでした。

 

理由はたった1つ…アランが殺したと思われた太后の死体が人間ではなく醜い魔物の姿へと変わっていったからです。今まで誰も気付けなかったのですが、実はラインハット太后は魔物が姿を変えてたものだったのでした。更に太后を殺したと思っていたアランが実は『伝説の勇者』であり、自分たちも魔物の手から助けられたのだとヘンリーから知らされたことで疑念が一転し讃えられることとなりました。

 

勇者の眼は真実を見抜く…魔物による策略を打ち破ったアランの行動は後の世にそう吟遊詩人たちに謳われることになり、更に魔物に取って代わられた本物の太后を見つけることもできたためラインハットには明るい空気が流れています。

 

城下の人々は知らないことなのですが…実は本物の太后は牢屋に幽閉されており、しかし本物の太后なのかを見定めることのできなかったラインハットの面々は偽物の太后を見破ったアランに本物かどうかの判断を頼んだのです。何せ城の大臣などから言わせると「魔物の側から考えれば本物の太后を生かしておく必要などまったくなく、牢屋に入れておいて見つかる可能性を考えればむしろさっさと始末しておくほうが普通だろう」という事からでした。そう考えれば万が一表に立っているニセ太后が見破られた場合の保険として、更にニセ太后を牢屋に入れて二段構えで準備しておくと言われたほうが魔物らしいとも思えたのです。

 

とはいえそんな事を言われてもアランだって見るだけで本物か偽物かをわかるはずもありませんが、それはそれとしてそこまで複雑な策略を魔物たちが行うとも思えませんでした。

 

この場でヘンリーの異母弟であるデール幼王が「不思議な鏡の伝説を読んだことがある」と言ってくれればよかったのかもしれませんが、まだまだ幼い年齢のデール王にそんな事を言えるはずもありませんでした。母親が突然殺されたと思ったら実は魔物だったという衝撃だけでもかなりのものなのに、そこに自分は本物だという母親が現れたなど幼い少年にとっては状況を頭で整理するだけでもいっぱいいっぱいでしょう。

 

もしここにアバンがいれば何か良いアイデアを出してくれたかもしれませんが、真実を映し出すラーの鏡の存在をすっかり忘れているアランが出した答えは「殴ったらもとの姿が戻ったのなら同じ事すればいいんだ」という短絡的なものでした。つまり本物の太后は一度アランの手にかかっていたのです。とはいえ魔物のように命を落としたわけではなく、ただ偽物と同じように殴られたというだけですが…

 

やっと助けが来たと思ったら偽物を疑われ、そして本物か確認するという理由でアランの拳を受けた太后…ほっぺを引っ張る的な方法で平和的に確認する方法など誰も思いつくはずもなく、アランの拳は太后の鳩尾に突き刺さることになってしまいました。そこにはヘンリーの件を聞いていたが故にお仕置き的な意味も込められていることを太后自身は知る由もありません。

 

今まで暴力に晒される事もなく生きてきたはずの女性がアランの一撃に耐えられるはずもなく、地獄のような苦しみに様々な液体を撒き散らしながら蹲って自らの行いを後悔する羽目になってしまったのでした。一応偽物じゃないだろうというアランの憶測があったので十分に手加減はされているのですが、それでも心を折るのには十分すぎる一撃によって本物の太后であると認められることとなったのでした。

 

 

 

こうしてラインハットの乱は勇者の手によって解決し、ヘンリーはラインハットに残りデール王の補佐をしながら協力して国を良くしていくという事になりました。まだまだ子供である2人ですが特に蟠りなどはないようで、むしろ今のこの状況を乗り越えるためにも兄弟で力を合わせていけないと感じたのかもしれません。それだけでなく魔物が太后に成り代わっていたり、父親が知らない間に亡くなっていたことなどで思うところがあったのでしょう。決して「自分程度ではアランについていけない」などと諦めたわけではないはずです。

 

アランにとっては『よくある展開』であろうと当事者たちにとっては他人事ではありません。何せラインハットが水面下で魔物によって支配されていたという事実は「他の国でも魔物の手が及んでいるかもしれない」という懸念事項にもなったのです。更にこのラインハットは王が死去し太后が魔物だったことで、残された王族は幼い王と義兄である少年だけとなってしまいました。

 

本物の太后は生きているのですが、アランの中の太后像は「自分の実子を王にするためにヘンリーを行方不明にするような外道」となっているため信用などあるはずもありません。本物の太后と魔物がどこですり替わったのかわかりませんが、いつまた太后が変心しヘンリーを疎ましく思い排除しようとするかだってわかったものではないのです。そのためアランはしばらくリュカくんと一緒にラインハットでヘンリー兄弟の子守りしてあげることにし、そして「君たちもこんな風になれよ」という意味も込めて自分の中でよく知る立派な王族たちの話を聞かせてあげるのでした。

 

今回加害者でもあり被害者でもあった太后本人はアランの行動によって既に心が折られており、自らの行いによって国を危機に陥れたという事以上に地獄の苦しみを味わったというのが大きいようでした。そのため国政に口を出すどころか、アランの前に現れることはなくなってしまったのです。

 

しばらくはラインハットで逗留しつつ子供たちにアラン式の教育をしていたのですが、ラインハットの問題を解決したその顛末を「サンタローズの村人たちにも知らせたい」というリュカくんの希望で報告に戻り「もう問題ないよ」という事を伝えました。するとその際に村人たちからパパスはよく川沿いにある洞窟へと向かっていたことを聞かされたのです。

 

そしてその言葉に従い洞窟へと入ってみると、そこには1本の剣が刺さっており隣には手紙も置かれていました。

 

その手紙はパパスからリュカくんへと宛てられた手紙であり、中身は『自身の妻でありリュカの母であるマーサが魔界へと連れ去られた』ということだったのです。そして『魔界へ行くためには天空の武具を身に着けた勇者が必要』ということも合わせて書かれていました。

 

アランはパパスの事をまったく知りませんでしたが、リュカくんが幼少期からパパスと一緒に旅をしていたのはリュカくんのお母さんを探すための旅だったということだったのです。残念ながらパパスはゲマの卑劣な策により最後は炎に焼かれて他界してしまいましたが、パパスが探していた伝説の勇者が自分を助けてくれて一緒にいてくれている事にリュカくんは父の導きではないかと物思いに耽っていました。

 

確かに光の教団での出来事やラインハットでの出来事を考えれば、アランはまるで不思議な力でもあるかのように向かう先向かう先で人心を集め得ていると言っても過言ではありません。リュカくんの中で圧倒的なまでの力で魔物を倒し、人々を慈しむ心によって失った命すらも取り戻してみせるアランの光景はまさしく伝説の勇者に相応しいものに見えているのでした。

 

しかし残念ながらそれらはリュカくんの勝手な思い込みに過ぎません。

 

アランは手紙の内容を聞き「魔界に行くのにそんなのいらなかったけどなぁ…」と、天空の武具が必要という部分に関して疑問に思っていました。これが『ロトの剣』などであれば「そんな設定なんだ」と持って行ったかもしれませんが、見た感じ明らかに戦闘に向いてなさそうな儀式用っぽい剣など欲しいとも思いません。

 

しかしその戦闘に向いてなさそうという部分がアランにヒントを与えてくれたのです。この天空の剣というのは戦うためにあるのではなく、一種のイベントアイテムなのではないかと閃いたのでした。つまりこれはラーミアを復活させるためのオーブと同じような位置にあると思えば、パパスの言う『魔界に行くために必要』というのは非常に理解できるものです。

 

とはいえアランは剣を使わないため「この剣はリュカくんが持っているといいよ。きっとお父さんもこの剣を通して見守ってくれてるはずさ」という…リュカくんにとって伝説の勇者だと思っているアランがある意味剣を自分に託すような事を言い出したのです。

 

アラン兄さんが持っていたほうがいいんじゃ…と内心思うものの、リュカくんのほうもアランがそう言っているのなら強く反対することはありません。アランが武器を使って戦っているところすら見たことがないため「伝説の勇者ともなると強すぎて魔物と戦うのに剣すら必要ないってことかな」と明後日の方向で納得していたのでした。

 

ひとまず刺さった状態の天空の剣にパパスの冥福の祈りを捧げ、ルーラで行けない魔界に行くために天空の装備というものを探すことにしたアランたち。情報を集めようにもどこに行けばいいのかわからなかったため、ひとまず奇跡の教団と名を改めたセントベレス山の山頂へと戻ってみることにしました。そこならば協力的な人間しかいないため、何かしらの情報を得られるかもしれないと思ったのです。

 

 

 

「勇者様、おかえりなさいませ!!」

 

「「「「おかえりなさいませ!!!」」」」

 

 

ほんの少しばかり留守にしていただけだというのに、戻ってみれば大神殿の建設は着々と進んでいる上に盛大な出迎えを受けてしまいました。確かにラインハットでもそれなりに時間を過ごしていましたが周囲を見渡してみれば明らかに人が増えており、歩いてではやってこれないだろうというこの場所にどうやって人が集まったのか疑問しかありません。

 

そして更にラインハットでの出来事はもう彼らの耳に届いているらしく、アランが太后の正体を見破って打ち倒したという事も知っていました。しかしやはり魔界への道などについては何か知っている者など当然おらず、ならばと『天空の防具』について聞いてみれば「この神殿の横に不思議な鎧がありましたよ」との事で何もせずに天空の鎧を手に入れることができました。

 

その後「世界中から情報を集めるので少しだけお待ちを」ということでリュカくんを鍛えつつ待ってみることにしたアラン。その姿に今まで育ててきた子供たちの事を思い出し、きっと今頃変わりなく元気にやっているだろうと少しの寂しさを感じつつも日々を過ごすことにしました。

 

しかしアランは知らない事だったのですが、この『奇跡の教団』は現在進行形でものすごく勢力を伸ばしていました。その活動内容は『勇者の支援』であるため平和な教団なのは間違いないのですが、勇者に助けられ奇跡を目の当たりにした人たちの熱心さは狂信と呼べるほどのものだったのです。

 

そこにラインハット事変が起こり、魔物に支配されていた国を救ったという英雄譚は人々に大きな希望を与えることになったのでした。そして魔物によって失ってしまった命すら蘇らせるという奇跡の御業を求めてセントベレス山を登る者たちも多く存在したのです。

 

彼らは蘇らせたい者を死体を背負い、過酷な道のりを進む事を試練だとすら思っていました。そしてそれらを乗り越えた先に神の慈悲があるのだと思えば、もう二度と会えない者との逢瀬が叶うのだと思えば道なき道などどうということはありません。

 

現在アランの前に列を作り、死体を抱きながら必死に懇願する者たちはそうやってセントベレス山を登ってきたのでした。

 

「「「勇者様!何卒我らにお慈悲をお与えください!」」」

 

それを聞いたアランは「生き返らせて欲しいのなら教会へ行けばいいのに…」などと思っていましたが、それと同時に「勇者パーティでもなければ生き返らせてもらえないのかも…」ということも考えに浮かびました。

 

マトリフやブロキーナが死んでも王様の前で蘇ることはなく、リンガイア王国でノヴァくんを生き返らせただけであそこまで騒動になったくらいです。ソロくんやシンシアちゃんの村でも村人たちが魔物にやられて生き返らせた時も確かに同じような反応でした。そう考えればここにわざわざ蘇生を頼みにやってくるのも納得というものです。

 

勇者たちを蘇生させたりしているのが神なのか精霊ルビス様なのかわかりませんが、少なくとも誰でもというわけではなく選り好みしているのは間違いありません。

 

とはいえ少々大袈裟ではありますが歓待してくれるわけですし、更に自分たちが求めている情報も世界各地から集めてくれるというのであれば手間賃代わりに動くことに否やはありませんでした。アランの蘇生呪文によって涙ながらに生き返った家族や友人などに縋り、そして喜びの表情でお礼を言っていく様子を見ていたリュカくんは「これこそ勇者様」と歪んだ勇者像を作り上げています。

 

そしてアランどころかリュカくんも知らない事なのですが…こうして慈悲を受けた者たちが更に各地に広がっていき、奇跡の教団の名が広まっていくという悪循環を作り出していたのでした。

 

 

 

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