賢者の冒険 作:賢者さん
「え?お姫様無事なの?」
「ええ、なんとか魔王を撃退することに成功しました」
「…魔王ってそんな弱かったの?」
「いえ、決して油断できるような生易しい相手ではありません。今回は相手がこちらを侮っており、その慢心があったからこその結果でしかありません。しかし外のほうはあなたがいてくれて助かりましたよ」
王城内が魔王襲撃により激戦となっていた中、アランが冒険の準備のために城下町へと向かおうとしていたところにもモンスターが突如として現れたのです。進軍してきた様子もなく、ルーラで飛んできたようにも見えないモンスターたちは出現と同時に暴れ始めました。
そのためアランも兵士たちの先頭に立って戦う事にしたのです。
どうやら今まで戦ってきたモンスターたちよりは強かったようで、兵士たちも同じように戦っていたものの戦況は押されている状況でした。アランは兵士が怪我を負えば回復してあげ、毒を受ければ解毒をしてあげ、合間に攻撃呪文で敵を攻撃しつつ八面六臂の活躍をしていました。
そしてそんな中、今までどこにいたのかアバンが現れモンスターたちを混乱に陥れたのです。モンスターたちは敵も味方も関係なく暴れまわるようになったため、そこからは遠距離からの攻撃呪文によってモンスターたちは倒されたのでした。
結果として負傷者は大勢出たものの、魔王の配下のモンスターたちは倒されることとなりました。暴れていたモンスターたちを退治し終わった頃にやってきたアバンに事の顛末を聞き、アランはお姫様が無事だった事や魔王を撃退する事ができたなどの話を聞いて驚いていたのです。
「アラン、私は今の力では魔王に勝てないと実感しました。魔王を倒すため…世界に平和を取り戻すために、私と一緒に戦ってくれませんか?」
「それはこっちとしてもありがたい話だけど、アバンって学者さんじゃなかったっけ?死ぬ度に教会で生き返らせるのとか棺桶を引きずって歩くのとかは嫌だよ?」
「あはは、私が学者の家系なのは間違いありませんが、これでも少しくらいは戦えますよ」
アランとしては本気で心配しているのですが、アバンから見れば冗談にしか聞こえません。しかしそんな冗談であっても魔王を倒すという目的の前に恐れることなく言えるアランはとても心強い仲間に思えるのでした。
アバンがアランを誘った理由は、アランと初めて会ったとき「魔王を倒す」と言っていたのを覚えており、そしてカール城にいるときも自身のレベルアップに余念がなかったのをずっと見ていたからでした。何気ない会話の中でもそれは感じ取ることができ、並々ならぬ決意があるのだと思ったのでパーティに誘ったのです。
アバン自身も回復呪文や攻撃呪文などを操ることができますが、今必要なのは魔王を退けた技をきちんと自分の物として昇華させること…そのためには自身と同じかそれ以上に呪文を操る仲間がいてくれるというのは非常に心強く、そして最初から打倒魔王を掲げているのだから共に旅をするのにアランはまさに適任と言えるのでした。
「魔王を倒す旅…ですか」
「ええ、アランも一緒に来てくれる事になりましたし、明朝にでも出発しようかと思っています」
アバンがフローラ王女に魔王討伐の旅に出ることを報告している中、アランはその様子を眺めています。見たところフローラ王女は魔王の襲撃を受けておきながらまったく無事のようで、少し前に会った時と変わらない美人なお姉さんのままでした。
ほんの少しだけ…本当に少しだけ『もしかしたら犬になったりしてるのかも』などとアランは思っていたのですが、何もなかったようで何よりです。フローラ王女はムーンブルクの王女ではないですし、この世界にはハーゴン教団もないのでいらぬ心配なのですが…
そんな無駄な妄想をしていたアランなどいなかったかのように、アバンとフローラ王女の話は進んでいきました。そしてやっとフローラ王女はアランに声をかけます。
「アラン、あなたも無事で戻ってきてください。そしてアバンの事を頼みます」
「心配しなくても魔王を倒してちゃんとお姫様のところに送り届けるさ。お姫様も信じて待ってなきゃ駄目だからね」
「ええ、必ず魔王を打倒し、戻ってきてくれると信じています」
ここまで2人のやりとりを見せられればいくらアランだって気づきます。『あ、これアバンが勇者じゃない?』という事と『この2人相思相愛なんじゃない?』という事です。さすがに「きのうはおたのしみでしたね」を邪魔するような下世話な嗜好をしていないアランは、しばらく会えなくなる2人のためにさっさとその場から離れるのでした。
そして明朝、フローラ王女に見送られたアバンをこっそり覗き見してから合流し冒険の旅に出発しようとするアラン。しかしそこにカール王国騎士団長であるロカが現れ、共に魔王討伐の旅に出る事を告げます。
「お前の光る剣に希望を見た!それに…モンスターと戦うのに盾になる戦士がいたほうがいいだろ?」
「ロカ…」
「確かに盾が居てくれたほうが楽だね。頑丈さは俺もよく知ってるから別にいいんじゃない?」
アランもロカとは何度も手合わせしており、その頑丈さは認めています。騎士団長がいなくなるのはカール王国としてはどうなんだろうという心配はありますが、アランは騎士団に属しているわけでもないので気にしないことにしました。
こうして3人となった魔王討伐パーティは、それぞれが自身のレベルアップを目指し旅を始めるのでした。アバンは魔王を退けた技を極めるため、ロカはそんなアバンを支え盾となるため、そして『ぱふぱふ』でレベル99になって魔王を蹴散らすために…それぞれが目標を胸に秘めてカール王国を旅立ちました。
…
……
………
3人で冒険の旅に出たアランたちは、雄大な自然が多く存在するロモス王国へとやってきました。このロモス王国の城下町で聞いた話では山奥に『武術の神』と呼ばれる人物がいるらしく、幻の必殺技を現実とするためにその人物に教えを乞いたいということになったのです。
武術という事はその人物の職業は武闘家でしょうし、その中でも神様とまで呼ばれるのであれば高レベルな武闘家という事なのでしょう。今まで武闘家は見たことがなかったのでアランも噂の神様に会えるのを楽しみにしていました。
そんなロモス王国ですが、城下町での情報だけを頼りに森の奥深くへとやってきてみればモンスターがウジャウジャと湧いて出るかのように出てきます。更にどうやらこの国のモンスターはカール王国のモンスターよりも少し強いようでした。
カール王国のモンスターが特段弱いというわけではないはずなのですが、どうやらロモス王国のモンスターは豊かな自然に育まれて栄養たっぷりだからなのかサイズも大きくなっています。周囲をモンスターに囲まれながらお互い背中を合わせつつ警戒していました。
さすがにターン制バトルのように順番に攻撃しあうような事はないので、アランは後衛から攻撃呪文でモンスターを狙いアバンとロカが前衛で戦うことになっています。スカラやスクルト、ピオリムにバイキルトとアランの知っている補助呪文を重ねがけすれば楽に戦えるのですが、まだ呪文の契約もできていないため今回は攻撃に比重を置いて戦っています。
「おいアラン!攻撃ばっかりしてないで回復してくれよ!」
「いや、ゆっくり回復してる暇がないだろ。相手が待ってくれるんなら回復してやるけどさ」
「そりゃそうか」
この世界ではホイミと唱えて即時回復とはいかないものなのか、それともアランのレベルやステータスが低いからそうなるのかわかりませんが呪文の効果が出るまでに時間がかかることがありました。そのため自分のイメージする『呪文を唱えて即効果発動』という事ができるようになりたいというのがアランの現在の目標でもあります。
「アラン、ロカ。このまま戦っていても埒が明きません。もらった地図ではもう少し進んだところに村があるはずなので、そこまで一気に突っ切りますよ」
「確かにこのままじゃジリ貧だな。よっしゃ!先頭は任せろ!」
「んじゃ突破口を開くぞ!ベギラマ!イオラ!」
さすがに大量のモンスターたちに囲まれては危険と判断したアバンによって村を目指すことにした一行は、アランの呪文で牽制しつつロカが退路を切り開いて走って撤退することにしました。追ってくるモンスターたちを呪文で攻撃しては退き、少しずつ数を減らしながら村にたどり着いた時には3人は疲労困憊といった様子です。
「もう大丈夫っぽいね。とりあえず…ベホイミ…あとよろしく…」
モンスターたちが村まで襲ってこない事を確認してから地面に腰を下ろし、ひとまずアバンとロカを回復させるアラン。この村に宿屋でもあってゆっくり休めるといいな…と思いながら疲れ果てたアランはアバンとロカに後の事を任せてその場に寝転がってそのまま眠りに入ってしまいました。
「ん…んー…なんかよく寝た気がする」
「アラン、目が覚めましたか?」
「うん、あれからどうなったんだっけ?」
地面に寝ていたはずが、起きてみればベッドの上で目覚めたアラン。どうやら建物の中にいるようで、そこには椅子に座ったアバンが剣の手入れをしていました。
状況がわからないので聞いてみると、この村の神父さんが教会の部屋を貸してくれたということです。そして神父さんのご好意に甘え、泥人形のように寝ているアランを運んでから村人たちから情報収集していたという事でした。
アバンはこの村がネイル村という名前である事、森には多くのモンスターたちが生息している事、目的としている山奥へ行くためには通ってきた森を抜ける必要がある事などを教えてくれました。ちなみに部屋にいないロカはというと、何かお礼でもできないかという事で力仕事を手伝っているという事です。
そしてこの教会のシスターが目指す山奥までの道案内までしてくれるという事でした。いくら善意で言ってくれているとはいえ、さすがにモンスターが蔓延る森を案内させるのはどうなんだ…とアバンに言ってみたのですが、それは当然アバンもロカも思っていた事で遠慮したけれど男も含め村人の中で一番腕が立つという事でご厚意に甘えることにしたそうです。
そのシスターの名前はレイラというらしく、今は食事の用意をしてくれているという事でした。アランはぐっすり眠れたので時間の感覚が狂っていたのですが、今はもうお昼前の時間らしくちょうど良かったと言われました。
「レイラと申します。まだまだ修行中の身の上ですがよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくシスター。危なくなったらロカを盾にしていいからね」
神父さんとレイラ、そしてアバンたちは朝食を頂きながら改めて自己紹介をしています。アランは眠ってしまっていたためこの2人とは初対面ですし、神父さんとレイラも眠っているアランしか見ていないのでちょうどよかったのです。
アバンとロカはアランが問題を起こすとは思っていませんでしたが、アランはたまに意味不明な事を言い出すのでそれだけが心配でした。なにせ2人の主君であるフローラ王女に対してすら「次のレベルまでの経験値いくつ?」と聞くようなアランですから、初対面であるからといってそういった面では油断できないのです。
そしてそんな心配は現実のものとなりました。
「おいアラン!おれを盾にするんじゃねぇよ!」
「大丈夫だって。もし死んでもちゃんと神父さんのところに連れて来て生き返らせてあげるからさ」
「…え?おれ死ぬまで盾にされんの?」
「むしろロカ以外の誰がやれるのさ?」
これがアラン流のジョークだと思っているアバンは気にしていませんが、ロカは死ぬまでは大袈裟でも瀕死くらいまでなら盾にさせられるのでは…と戦慄しています。そしてなぜか死者を蘇らせる役目にされている神父さんのほうもビックリしていました。
とはいえあまりにも現実的ではない話だったので、アランが幼少期に教会でお世話になっていたと聞いていた神父さんは『きっとその時にそんな冗談を言われて真に受けて信じてしまったのかもしれない』と頭の中で必死に辻褄を合わせています。
最終的に「あれは恐らくアランの冗談ですよ」というアバンのフォローによって神父さんとレイラはやっと安堵することができました。補足としてアバンはアランをパーティに誘った際に同じような内容を言われていたので、今回も同じような話の流れだったという事も伝えておきました。
アバンは剣や魔法や料理に雑学と非常に多才ですが、なんとアランに対するスルースキルまで獲得していたようです。アラン以外にこんな意味不明な事を言う人間が他にいないため、このスルースキルはアラン専用スキルといってもいいでしょう。
ムードメーカーのロカと気配りのアバンがいるお陰なのか元々の村の気質なのかわかりませんが、ネイル村の人たちは突然やってきた余所者の男3人を暖かく迎え入れてくれていました。その上いくら魔王討伐のための旅をしているとはいえ道案内までしてくれるのですからとてもありがたい話です。
しかし道案内をしてくれるとはいえ、今の時間から出発しまえばすぐに日が暮れてしまいモンスターたちが凶暴になるので明日出発するという事になりました。そのため各自が村の手伝いをしたりしながら明日に向けて英気を養うのでした。