賢者の冒険   作:賢者さん

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アバンの冒険4

 

 

「…てな感じが今のところの土産話かなぁ」

 

「まさかこんなに早く近況を教えてもらえるとは思っていませんでしたけれど、順調そうで何よりでしたわ」

 

「手紙とかを届けてもらうっていうのも良いかもしれないけどさ、やっぱり気になる相手の事だし心配もあるだろうからこうして直接話しにきたってわけさ」

 

その日の晩、アランは1人ルーラでカール城に戻ってきておりフローラ王女に報告してあげていたのです。ネイル村の人たちの手伝いをして夕食を取った後、それぞれが明日の準備や特訓などをしている間にアランが思いついたのはお節介でした。

 

アバンの帰りを待っているだけのフローラ王女が余計な心配をしないように…というアバンにとってはありがた迷惑のような事を思いついたのです。それならばアバンを連れてカール城にルーラで移動すれば良いだけにも関わらず、あえて近況だけを伝えているのは『やっぱり魔王を倒して世界に平和を取り戻してから再会したほうがドラマチックだよな』というアランの大好きな様式美の感覚のせいです。

 

「気になるだなんて…」

 

「え?王女様ってばあんな態度しておいて、実は意中の相手じゃないとか言ったら思わせぶり半端ないよ?というか俺とは接する態度が違うんだから見てればわかると思うんだけど…気にならないんだったらもう報告しに来なくてもいい?」

 

「いえ、それはこれからも引き続き聞かせてください」

 

謙遜なのか、それとも王女としての立場のせいなのか曖昧なフローラ王女をアランはぐいぐいと詰め寄っていきます。アバンと話している様子とアランと話している様子では明らかにフローラ王女の態度が違うのはひと目でわかる事でした。しかしこれはアランの初対面の印象もあったのでそれは仕方のない事だったのですが…

 

しかし気になるか気にならないかと問われれば当然気になるフローラ王女。乙女心的にも王女という立場的にもあまり褒められた行為ではありませんでしたが、わざわざ教えてくれるものを断る理由もありません。よってこれからもアランによる『アバンの冒険』のお話は教えてもらうことにしたのです。

 

アランとしてもお節介できるのはルーラで戻れる町や村に寄った時だけですし、あくまでもアランが見た主観での話をお茶を飲みながらする程度なので大して負担にもなりません。アバンやロカにバレても別に構わないし…と、どうせアバンとお姫様は結婚するんだから無問題だと勝手に思っていました。

 

「それじゃまた来るよ。お姫様も知らない間に拐われたりしちゃ駄目だからね」

 

「ふふっ、これ以上アバンに余計な心労をかけないように気をつけますね」

 

ちょっと乙女成分が前面に出過ぎじゃないですかね…?と思いながらも口には出さないアランはルーラでネイル村へと戻っていきました。

 

 

……

………

 

 

翌日、アバンたち3人に案内人のレイラを加えた一行はモンスターたちを撃退しながら森を進んでいきます。倒しても倒しても現れるモンスターたちをそれでも倒しながら進んでいく中、1匹の亜人面樹という人形の人面樹とも言えるようなモンスターが立ちはだかりました。

 

レイラの打撃もロカの斬撃も効かず、更にはアバンのメラゾーマでも効果が薄いという亜人面樹を相手にピンチに陥るパーティ。そしてそんな4人を前にして亜人面樹は優越感に浸りながら、オーバーキルするのが楽しいという事を語ります。

 

3人が相手を倒すために傷つきながらも頭を回転させる中、アランだけは違う事を考えていました。

 

それはこの亜人面樹が言った内容に対して共感を覚えていたからです。亜人面樹の言う「オーバーキル」とはスライムにギガデインを使うような過剰攻撃を指すのですが、雰囲気的に言いたいのは『相手よりも遥かに強い力でもって苦戦する事なく圧倒的に勝つ』という事だと判断しました。なぜならこれこそアランが求めるものであり目指すものだったからです。

 

言いたい事には共感すれども「所詮は木のモンスターだし頭が悪いか言葉が不自由なんだろう」と亜人面樹の評価をひっそりと下げるアラン。

 

未だ『ぱふぱふ』してくれる相手すら見つからないためレベル99になっていない現状とはいえども、さすがに人面樹を相手に苦戦するのは納得できないという謎の自信と『燃えないなら凍らせれば良いじゃない』という逆転の発想に至ったアランは攻撃に出る事にしました。

 

「燃えないのなら冷やしてやらぁ!ヒャダルコ!バギマ!もういっちょヒャダルコ!」

 

「無駄さ!その程度の冷気でどうにかできるほど……何っ!?」

 

「今だ!アバン!」

 

超高温の樹液であろうと液体である以上冷やし続ければ凍り、そして動きが鈍くなります。最初のヒャダルコでは表面しか凍らなかったとしても、そこにバギマで表皮を剥ぎ更に冷気を当てる事で完全に凍らせることができなくとも樹液の防御力を下げて動きを鈍らせることになったのです。

 

そして動きが鈍ったところにアバンの渾身の一太刀が決まったのでした。

 

 

亜人面樹を倒したアランたちは這々の体ながらも山奥までたどり着くことができ、そこにポツンとあった山小屋に住むという老人と出会います。老人は『土ふまずぺたんこ病』という病に侵されているという事で、ゴホゴホと咳をしながらも4人を迎え入れてくれました。

 

しかし老人に話を聞いてみたところ武術の神様という人物の事は知らないそうで、残念ながらアバンの当てが外れてしまったようです。しかしこのままネイル村に帰るには危険なため、老人のご厚意もあり山小屋でしばらく休ませてもらうことにしたのです。

 

 

今回の亜人面樹との戦いによってまだまだレベルアップする必要を強く実感したアランは、アバンから聞いたことのあった魔法力の強化に取り組むことにしました。アバン曰く『呪文の威力などは魔力の強さによって決まる』という事だったので、つまり魔力を多く扱う事ができれば呪文の攻撃力や回復力なども上がるという事なのです。

 

アランは呪文の威力というのは誰が使っても一定だと思っていたのですが、その事を教えてもらったことによって魔力というステータスが存在することを知ったのでした。これはアランの勘違いなのですが、この世界にまりょくというステータスは存在しません。しかし魔力が高いと威力も上がるという法則はあるので、結局のところ魔力の絶対量を上げるというのは間違っていないのです。

 

そして呪文の威力が上がればアランが目指す呪文の即時効果にも反映されると考え、アランは「ちょっと修行してくる」と言付けし1人で森に入りモンスター相手に戦いを繰り返すのでした。ロカは危険だからと一緒に行こうとしてくれていましたが、この程度を1人でどうにかできなければ裏技を使う時にできるはずもない…と無駄に強い意思を秘めたアランに断られるのでした。

 

 

「アバン、なんかスッキリとした顔してない?」

 

「そうですか?」

 

アランが森の中でモンスター相手に大立ち回りをしてしばらく…やっと戻ってきたアランを出迎えたロカとレイラでしたが、モンスターと戦っていたアランよりも山小屋にいたはずのアバンのほうが何か雰囲気が変わっていたようです。

 

どうやら山小屋の老人と話す事によって何かコツを掴んだらしく、更には倒したと思っていた亜人面樹がまだ生き残っていた上にアバン1人を呼び出して襲ってきたところを返り討ちにしたということでした。倒したはずのモンスターが生きていたというのも驚きでしたが、アランは4人で苦戦しながら戦っていた相手を1人で倒せるまでにレベルアップしていたアバンに一層驚きを隠せません。

 

何がどうなってそうなったのかアランはしつこく聞き、山小屋の老人の助言があって1つの技を完成させることができたという事を聞き出すことができました。しかしアランが「じゃあ俺も何か助言もらってくる」と言って老人のもとに行こうとすると止められてしまいます。「私も具体的に何かを教えてもらったわけではありませんし、何よりこうして人里離れて生活しているのだからあまりあれこれ聞いたり詮索したりするようなものではない」というのがアバンの弁でした。

 

森のモンスターが凶暴化していた原因を突き止める事もできたのでロカとレイラのほうも探し人については気にしているような様子はなく、アランが武術の神様に会えなかった事について聞いてもアバン自身は「目的は果たせたのでもう大丈夫」との事です。もともと武術の神様を探していたのはアバンが幻の必殺技を完成させるためのヒントを得るためなので、それがどんな形であれ求めていたものを得ることができたので良かったのでしょう。

 

まだ武術の神様に会いたそうなアランへその代わりというわけではありませんが、アバンはこの後ネイル村にレイラを送り届けた後に向かうつもりの場所をアランへと告げました。そしてそれを聞いたアランは老人の助言のことなどすっかり忘れて次に向かう場所へと期待に胸を膨らませるのでした。

 

 

一行はネイル村へと戻り、村人たちに森のモンスターの凶暴化の原因や対処法などを説明していきます。その対処をロモス王国の兵士たちがやるのか村人たちがやるのかはわかりませんが、少なくとも凶暴なモンスターが徘徊するという問題を減らすことはできるでしょう。喜ぶ村人たちは祝杯を上げようとし、アバンたちも少しだけという事で村の喜ばしい出来事を共に祝うことにしました。

 

亜人面樹との戦いでは魔力の籠もった攻撃を受けたりもしていましたが、回復呪文を阻害する暗黒闘気が込められていたわけではなかったのでアランとレイラの回復で問題なかったのです。とはいっても回復呪文で即回復というわけにはいかなかったため、アバンたちは祝杯をあげた後は早々に退席しゆっくりと休むことにしていました。

 

アバンが言うには「明日にでも出発しないと魔王の配下たちが私たちを狙ってこの村を襲って来ないとも限らない」という事です。そういえば何でモンスターたちって村とか町は襲わないんだろ?という疑問がアランの頭に浮かびましたが、積極的に町や村を襲う魔王軍とかが存在したらとっくに人間は滅びているかもしれません。そんな世紀末的な世界は王道が好きなアランとしても望むところではないのです。

 

 

 

 

「……というわけで、明日にはネイル村を出発して古代遺跡を目指す事になりましたとさ」

 

「やはり魔王軍は手強いようですね。それでも森に潜みモンスターたちをより凶暴にしていた元凶を断てたのは僥幸でした。これでロモス王国も少しは持ち直せるでしょう」

 

「本当にあの手のタイプは厄介だから良かったよ。まぁ次があったら今後はこっちが圧倒してみせるけどね」

 

ネイル村で村人たちが祝宴を開き、アバンとロカは休んでいた頃……アランはまたもやフローラ王女のもとへとやってきてアバンの冒険を聞かせています。村にいた僧侶レイラを一時的にパーティに加え襲ってきた亜人面樹との戦いなどを聞かせていたのですが、やはりそこはカール王国を束ねる王女様……勇者アバンの心配もですが海を越えた隣国ロモス王国の心配もしていました。

 

アランとしては戦った亜人面樹が自分と同じタイプだったので、次にやってくる時は大幅に強化されてやってくる事は想像に難くないのです。しかし次に行く古代遺跡が魔法使いにとってとても好奇心に駆られる場所のため悲観はしていません。アバンが言うにはその場所は現代では失われた魔法や呪法などが多く眠っており、これからも戦いを続ける中で新たな力となる事は間違いないという場所らしいのです。

 

「それにしても森を案内してくれる僧侶がいてくれて、更にはそんな危険な山奥に住む方からも助言をもらえるなんてとても幸運でしたね」

 

「俺が助言もらおうとしたら止められたけどね…なんか難病みたいだったから仕方ないね」

 

「私も聞いた事のない病名ですが、本当にその方は大丈夫なのかしら?」

 

「たぶん大丈夫なんじゃないかな?意外と元気そうなおじいちゃんだったよ?」

 

「それならいいのですが…」

 

話を聞いたフローラ王女は他国の山奥に1人で住む老人の心配までしています。魔王軍に対抗するために病床の王に代わりカール王国騎士団を率いたりと忙しいのにも関わらず、アバンの心配だけでなくそこまで気にかける王女様はとても器の大きい女性なのかもしれません。アランのようなある意味失礼な相手に対しても普通に接してくれるだけでも十分に度量の大きい人なのは間違いありませんが……

 

アランとしてはフローラ王女はいずれアバンの伴侶となる人物だと思っているので、友人知人の将来の嫁程度にしか考えていません。むしろこれで破局なんてした日にはアランはきっとその原因が何なのか突き止めに奔走する事になるでしょう。そう思えるくらいにアバンとフローラ王女は思い合っているようにアランには見えたのです。

 

アランは明日には早々に次の目的地に向けて出発しないといけないというのに…そしてフローラ王女もまた魔王軍からの襲い来るモンスターたちから臣民を守るために先頭に立つというのに、2人は気にした様子もなくおしゃべりを楽しんでいました。これを捻くれた人間が見たら深夜に逢瀬だ何だと騒ぎ立てるような光景ですが、そこにいるのは『勇者とお姫様をくっつけたいお節介賢者モドキ』と『勇者の冒険を聞いて自身も負けないよう頑張ろうと思っているお姫様』でしかないので実際に問題になるような事はありません。

 

フローラ王女はそんな思いを決して表に出すような事はしませんし、カール王国の臣下たちもそんな事に勘付く事はないでしょう。アランの前でもそんな表情を見せた事はないのですが、アランは見ていたのです。アバンを見送った時のフローラ王女の切なそうな心配そうな、それでいて何かを渡して見送る健気な姿を…そんな姿を見られていたとは思ってもいないフローラ王女は澄まし顔でアランの話を聞いているのでした。

 

 

 

 

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