賢者の冒険 作:賢者さん
アランが定例のお茶会に行きアバンとロカがネイル村で休んでいた頃、アバンの人探しに同行した僧侶レイラは悩んでいました。今までこの村で父である神父と共に教会で務めを果たしていたレイラですが、今回森を抜けて山奥までの案内とはいえ付近のモンスターだけでなく魔王軍の強敵と共に戦った事で思うところがあるようです。
アバンのパーティには戦士であるロカと魔法使いっぽいアランがおり、回復呪文も扱うアランがいれば僧侶の自分がいなくても…と思う気持ちと、パーティの盾となり前線に立つロカを心配する気持ちなど複雑な心境でした。アランからは「何かあったらロカを盾にしていいから」と言われていた通り、ロカはモンスターたちと戦う際には常に一番前で敵に立ちふさがっています。
そして自分に敵の注意が向かないようにしてくれている事がわかるからこそ、そんな戦い方を続けていれば傷つく一方だという事は言うまでもない事なのでした。もちろん戦いの最中だけでなくモンスターを倒した後にはアランも回復呪文をかけてくれたりしています。しかし攻撃呪文を多く操るアランはどちらかというと回復や補助よりも攻撃に偏っているのではというのがレイラの心配なのでした。
パーティ全体を見て敵に合わせて作戦を練るアバン、突然1人で修行したりどこかへ行ったりするけど攻撃呪文も回復呪文も操る賢者のようなアラン。その2人に比べると力任せで前線に立つしかできないと語りながらも常に周囲を見ていて、村人たちさえも気さくに話しかけるムードメーカーのロカは案外人たらしな一面があるのかもしれません。
そして自分ではまだ自覚していないまでも、レイラの中に何か今までに感じた事のない感情が湧き上がっているのも事実なのでした。
まだまだ魔王軍が倒れたわけでもない、森のモンスターの凶暴化の元凶を突き止めただけ…しかしアバンたちに任せて自分たちは村を守るだけでいいのか…そんな考えがレイラの頭の中で渦巻いている中、そこにやってきたのはカール城からルーラで戻ってきたアランです。
「よっと、あれ?レイラこんなところで何やってるの?」
「アラン、あなたどこに行ってたの?」
「いやぁ、ちょっと冒険のお話を聞きたい人に話してきただけだよ」
ちょうどルーラの着地点にいたレイラにちょっとビックリしたアランですが、流石にお姫様に勇者の冒険譚を話してきたとは言いません。こういうのはアバンとフローラ王女が結ばれて、生まれた子供に寝物語のように聞かせてあげるのがアランの中にある様式美なのです。そしていずれ本にして世界中に『勇者アバンの冒険』と『勇者と姫君の恋物語』を知らしめるところまでがセットなのです。
ちなみにレイラはアバンのみ『様』を付けて呼んでおり、アランとロカは呼び捨てで呼んでいます。これはロカもアランもそのように呼ばれる事を嫌ったからです。アランとしては『賢者様』とか呼ばれるのであれば気にしないのですが、さすがに自分の名前に『様』を付けられるのは違和感がすごかったので普通に呼んでくれと頼んだのでした。
そんなアランの思惑なぞ考えも及ばないレイラは深く問う事をせず、しかし少しだけアランに気持ちを打ち明けてみて意見を聞く事にしました。それに対するアランの答えは簡単です。今は自分とアバンとロカの3人なわけですから、そこに回復呪文が得意な僧侶が入ってくれればついに4人パーティになるわけです。
「よし、それじゃあレイラも今からパーティの一員だね!」
「ちょっと!なんでそうなるのよ!?」
「だってレイラはロカが心配、この村がまたモンスターに襲われるかもしれないのも心配なんでしょ?だったら一緒に行ってさっさと魔王を倒すしかないじゃん」
「でも、もし私がいない間にこの村がモンスターに襲われたら…」
思い悩むレイラですが、アランはこの話を聞いた瞬間に勘付きました。いくらアランでも『アバン様はこれから危険な旅をするから』や『アランはフラフラしてるし何を考えてるのかわからない』などと言う傍らで『ロカはちゃんと見てないとすぐに傷だらけになる』とか『人の事はよく見てるくせに自分の事には無頓着』だとか文句を言うフリをして心配しているのが丸わかりなロカ評で気付かないわけがありません。
その結果アバンとフローラ王女をくっつけようとしているアランの悪い虫が騒ぎ始め、魔王討伐の旅の帰りを待つ女性は2人いらないという身勝手な考えのもと、アランはレイラをパーティに誘うという行動に出たのです。もちろん僧侶であり共に戦える事がわかっているからこその誘いなので、お姫様のように戦いの場に連れて行くわけにはいかないという理由があるわけでもないのも要因の1つです。
しかしまだ悩むレイラに対して、アランは1つの賭けに出ることにしました。
「まぁ村が心配な気持ちもわかるよ。とはいえ俺たちも魔王を倒すって目的で旅をしてるから、もしかしたら途中で力尽きてしまう事だって有り得る事なんだよね」
「…っ!」
「もちろんそうならないように頑張るけど、俺の回復呪文だけじゃ足りないかもしれないし…どこかに一緒に戦ってくれるような心優しくて心配性で回復呪文が得意な人いないかなぁ?できれば僧侶とかだったら言う事なしなんだけどねー」
「…そうよね。魔王を倒せばモンスターが暴れる事もなくなるし、そんな危険な相手を倒すんだからアランしか回復できないなんてダメよね」
アランと話した事で考えが固まったのか、レイラは早々に教会へと戻っていきます。それを見送ったアランですが、考えるまでもなくアバンとロカがいるのは教会なので遅れながらも同じ道を歩いて行くことにしました。
そして翌朝、村の入り口で住人に見送られるアバン、ロカ、アラン、そしてレイラ。
レイラは昨晩教会へ戻ってから父親である神父さんに自分の考えを話し、そしてアバンたちの旅に同行する事を許してもらったのです。最初は愛娘が魔王を倒す旅に出るという事に渋っていましたが、森のモンスターがより凶暴化する原因が巨大な植物であったのと同じように世界中でモンスターが暴れている元凶が魔王であるという事…そしてその魔王を取り除く事が村だけでなく世界の平和に繋がると力説されては頷かないわけにはいきません。
そしてその結果を翌朝アバンとロカに告げ、アバンからは歓迎を…そしてロカからは内に秘めた喜びをアバンに告げ口されていました。アランは自分が誘った側でもあるのですが、この結果に「案外言ってみるもんだなぁ」と半分他人事のように考えていました。
レイラがロカを特に気にしているのがわかったとしても、さすがに仲間になってくれればラッキーくらいだったのです。アバンが誘えばまた違ったかもしれないと思いつつも、余計なお節介根性が働いた結果だったのでした。
少々レイラの心配を煽るような物言いをしたのは事実ですが、アランの中では誰かが力尽きても教会で生き返るし…という楽観的な考えがあります。自身はまだザオラルも覚えていませんが、いずれはザオリクまで覚えてしまえば安心できますし、旅の途中でそのうち手に入れるであろう『せかいじゅのは』などといった蘇生アイテムだって世界のどこかにはあるはずという考えです。
村人たちから見送られ、アバンたちは次の目的地であるパプニカ王国南西部にある古代遺跡を目指します。ルーラで行ければ楽だったのですが、アランはまだパプニカ王国に行った事がなかったのでルーラでも行くことができないのでした。
ロモスの港から船に乗り、パプニカ王国があるホルキア大陸を目指します。ロモスの港ではアバンがカール王国行きの商船の乗組員にフローラ王女宛ての手紙を託したりしていましたが、アランはこれから訪れる古代遺跡が待ち遠しい様子を隠しません。
その脇ではロカとレイラが話していたりアバンが何やら巻物を読んでいたりしており、各自が船旅の中で気負う事なくホルキア大陸までの海路を過ごしていました。
そうして海を越えてアバンたちが辿り着いたのは、様々な願いを叶える力があるとされながらも訪れる人が滅多にいない秘境・ヨミカイン遺跡でした。遺跡と呼ばれるだけあって周囲の建築物は崩れていたり苔や蔦だらけだったりとまさに秘境という言葉に偽りのない光景です。
そんな景色を眺めながら歩いていた4人に、遺跡の番人と言わんばかりにモンスターの群れが襲いかかってきました。人が寄り付かず朽ちた遺跡はモンスターたちにとって絶好の住処となるのか、それともこの遺跡にいることに意味があるのかバーサーカーの群れが一行へと群がってきました。
そんなバーサーカーの群れを撃退し、本格的に探索するのは少し休んでからにしようという事で休息を入れる事にしたアバンたち。アランもアバンの手伝いで木の実などを集めて軽食を用意してくれる様子を見ていたのですが、レイラの言葉によってロカがいない事がわかりました。
「アバン様、アラン、ロカがいないわ」
「トイレじゃない?」
「…それならいくらなんでも一言くらい声をかけると思うんですけどねぇ」
なぜか誰にも声をかけずにいなくなってしまったロカを探すため、3人は休憩を切り上げて行動することにします。アランはトベルーラで空中へと移動し、高所から探すことにしました。その結果しばらく進んだ先に丸く窪んでおり、雨で水が溜まったのか小さな湖のようになっている中央に明らかに周囲と様子が違う物体が存在していることがわかりました。
いくつもの四角いキューブを重ね合わせたかのような異様な物体を見つけたアランはそのまま戻り、そしてその話を聞いたアバンはそこが今回の目的地であるヨミカイン魔導図書館であると結論付けます。
つまりアランの本命もそこという事です。この遺跡に入るためにも仕掛けがあるようで、アバンはその仕掛けを持ち前の頭脳と知識で解き明かすことに成功しました。魔導図書館の中はその名に恥じないだけの本が所狭しと並べられており、アランはひとまずロカの捜索はアバンとレイラに任せて魔導書へと向かうことにします。
「ねぇ、ロカを探すのは任せていい?ちょっと新しい呪文とか覚えてくるね!」
「あっ!アラン、待ちなさい!」
レイラが止めるのも聞かずに言うだけ言って魔導書を探しに行ってしまうアラン。同じ建物の中にはいるんだし、自分たちはひとまずロカを探そうと落ち着いているアバン。レイラは自分だけがなぜか必死にロカを探しているという事には気付いていません。
「ここにある全部が呪文書ってわけでもないのか…なんだこれ?ピオラ?そんな呪文あったかなぁ?」
そしてアランはというと、数々の本から呪文書を探しては契約してみるという行為を繰り返すことになります。中にはアランの知識にない魔法もあったりするのですが、ひとまず契約しておけば困ることはないだろうという考えのもとでまずは契約していくのでした。
アランの頭にあって契約していない呪文の中にはルカニやバイキルトなどといった補助呪文があるため、できれば今後のためにも契約しておきたいのです。レベルを上げて伝説の装備を整えたとしてもそれだけで圧倒できるわけではないと知っているので、ここで更にダメ押しの一手となる呪文を覚えたいというのがアランの考えなのでした。
数々の呪文の魔導書以外にも魔力の効率的運用法や底上げのための修練法など、魅力的で様々な魔導書が図書館内のいたるところに存在しているためアランはあっちこっちと忙しなくウロウロしていました。
そんな中、かなり地下深くの階層にいた突然の地響きの音と揺れがアランに襲いかかります。そして更には足元から少しずつ水が上がってきており、理由はわかりませんがこのままでは水没してしまう事は簡単に想像できてしまいます。
これらは上のほうでアバンと魔王軍の幹部が戦っていたためなのですが、道中でミイラっぽいモンスターしか見ていなかったためアランは気付かなかったのです。そして本来はいるはずのないモンスターたちのはずなのに違和感がなかったのは、こういったダンジョンっぽいところだからモンスターくらいいるだろうという先入観が仕事をしたせいでもありました。
この状況は本来ならばアバンたちに合流して脱出するのが最善です。しかしアランは先程読んだ魔導書の内容を思い出しました。そこには『水中で魔力を放出することで魔力運用の精密さを増すという修練方法』が書かれており、つまり「この図書館は知識だけでなく実践までできる場所なのかもしれない!」という明後日の答えを弾き出したのです。
普通に鍛えるのだって空気中よりも抵抗の大きい水中のほうが効果が大きいんだから、つまるところ魔力だって同じという事か…という考えに至ったアランは既に胸元まできている水を物ともせず魔力を呪文という形にせず纏わせる事を考えつきました。
この世界には闘気を身体に纏わせて戦ったりする戦闘方法も存在するため、魔力でも出来ないことはないのでしょう。事実として武術の神様はホイミで殴るという技を編み出しているので、魔力を使用した格闘術というものは周知されていないだけで存在しています。
しかし格闘戦に秀でていない非力な魔法使いが魔力を纏わせて近接戦をするという事の発想が思い浮かばないという事もあるのかもしれません。
そんな常識に囚われないアランは、この修練を乗り越えればまた一歩最強への道が近づくと信じて疑っていませんでした。その結果水没する遺跡の中に取り残された形となり、新たに大魔道士の助力を得たアバンたちはロカの次はアランを探すために水没した遺跡を探索することになるのでした。
「お前さんがあいつらの言ってた魔法使いのアランで間違いないみたいだな」
「…だれ?」
「アバンたちから聞いてた通りマイペースな野郎だな。オレはマトリフ…大魔道士マトリフ様だ」
水底で魔力を放出していたアランを探していたパーティ一行の中で、見つけ出したのは新しく魔王討伐の旅に加わった大魔道士マトリフでした。そのままアランを引っ張って地上まで出てきたマトリフはそのまま自己紹介と共に一緒に魔王討伐の旅をするという事を告げます。
いつの間にか新しい仲間が増えていた事に驚愕するアランでしたが、勝手に図書館に突っ走って行って魔法を契約するだけでは飽き足らず修練まで始めてしまっていたのでアバンたちに非はまったくありません。むしろ仲間が魔王軍の幹部と戦っていたのに気付かず階下のほうで本を読み漁っていたことを咎められる立場なのです。
そんなアランはマトリフに連れられてアバンたちの待っている場所へと戻って行きました。そこには軽食を用意しているアバンたちが待っており、アバンとロカはともかくレイラは確実に怒っている様子が見て取れます。ロカも普段なら怒る側なのですが、今回ばかりは自分も迷惑をかけた側なのでそこまで強くは出れないのでしょう。
「アラン!あなたどうして勝手な事ばかりするの!?今回だってあなたがいればあそこまで…」
「まぁまぁ、ロカもアランもきっと反省していますからレイラもそこまでにしておきましょう。ね?」
「しかしアバン様…」
どうやらアランがいなくなっていた間にレイラは随分とストレスが溜まっていたようです。マトリフに連れられたアランを見るなりお説教が始まろうとして、その様子を見たアバンになんとか宥められていました。今回突然いなくなったのはロカとアランだったので、アバンとしてもこの2人が反省しているからという事です。
しかしアランがまったく反省なんてしていない事をアバンは見抜いていました。だからこそロカの名前を出し、反省しているという言葉の前に『きっと』と付け加えていたのです。ロカもレイラも世話焼きの気質があるためか、たまにアランの言動に口を出す事があるので今回もその結果こうなってしまっただけでした。
「アラン、勝手にいなくなったおれが言うのも何だが、お前も同じ事やってたんだから何か新しい呪文とか使えるようになったんだろうな?」
「俺を甘く見てもらっちゃ困るよロカくん。まだまだ修行が必要だけどバッチリ契約してきたさ」
ロカの問いにも自信満々の表情で答えるアラン。とても頼もしい返事ですが、アランは今の自分のレベルに満足していないのでこの魔導図書館でまだ修練をしたいという気持ちがありました。そしてちょうど良い事にこのタイミングで新しい仲間が加入したというのもアランの考えを後押しする結果となったのです。
そのためアランはパーティメンバーに「俺ちょっとしばらくここで修行するから!」という事を告げました。まだしばらくは魔王討伐の前にアバンのレベルアップが必要でしょうし、その旅に付き添うよりも一旦別れて専念したほうが良いという判断です。そこに『勇者パーティはやっぱり4人じゃなきゃね』という考えもあったりなかったりするのですが、各々がレベルアップを必要としているという事は今回の魔王軍の幹部と戦った事で実感していたため思ったよりもすんなりと受け入れられました。
「しばらくここにいるから魔王と戦う前には絶対に教えてね」
「ええ、もちろんです。次に会うのを楽しみにしていますよ」
「お前がいなくても大丈夫なくらい強くなってやるさ」
「あなたのほうもサボったりしちゃダメよ?」
一時の別れとはいえ湿っぽい雰囲気など全然なく、魔導図書館に残るアランを見送るパーティメンバーたちは再会を約束しています。新たな仲間となったマトリフもこの光景は好ましいものだったのか特に口を挟むこともなく見守っていました。
「マトリフ、みんなの事よろしくね!」
「ケッ、あんまり遅ぇとオレが魔王を倒しちまうぜ?」
「まぁ頑張って間に合わせてみせるよ」
最後にマトリフにもアバンたちをよろしく頼み、アランはそのまま魔導図書館の中へと戻っていきました。アバンたち一行はそのまま魔導図書館を後にして次の場所へと向かいます。今回の敵だった魔王軍の幹部であるガンガディアと戦った事によって、大地斬だけでは倒せないとわかったアバンは次なる必殺剣を求めて旅を続けるのでした。