賢者の冒険   作:賢者さん

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アバンの冒険6

 

 

 

アバンたちと別れて魔導図書館で呪文の研究や修練を繰り返しているアラン。すでに数ヶ月の月日が過ぎ去っているのですが、図書館で引きこもりのような生活を続けているアランには既にそのあたりの感覚が薄くなっていました。

 

アラン自身は比較対象がいないため自分がどこまで強くなっているのかもわかっていないのですが、既に魔力の運用という点ではかなりのレベルまで達していました。そして今まで覚えていなかった呪文たちも使用できるようになり、今や自分のイメージしている賢者という人物にとても近くなっているという手応えも感じています。

 

そこに久しぶりに…そして以前の別れ以来の見知った顔がやってきました。

 

「久しぶりだな。お前…随分とレベルアップしたみたいじゃねぇか」

 

「お…?マトリフ!てことはいよいよ魔王と戦うって事だね?」

 

「間違っちゃいねぇが…ちっとばかし事情があってな。まぁ詳しい話は向こうで聞きな」

 

全員で移動するのは効率が悪いからマトリフが1人で呼びに来たようですが、しかしマトリフの話し方は決戦のための呼び出しのそれではありません。更に何か理由があるらしく、ここでは話せないから行ってから聞けという事でした。

 

ロカあたりが死んだかな?でもそれなら生き返らせればいいだけだしなぁ…と見当外れな上に縁起でもない事を考えているアランを余所に、マトリフはアランを連れてルーラで移動していきます。既にこの修練漬けの生活で蘇生呪文も習得しているアランは、僧侶であるレイラならばザオラルくらい使えるようになっているだろうと勝手に決めつけていました。

 

「「「アラン!」」」

 

「みんな久しぶりだねぇ。元気そうだけど何かあったの?」

 

マトリフにルーラで連れられた先にはアバンたち懐かしい顔が揃っており、棺桶を引きずっているわけでもないので誰かが死んだという事もなさそうです。とはいえしばらく共に旅をした仲間に久しぶりに会うのは嬉しいものなのでお互いが笑顔で再会を喜んでいました。

 

そしてそこでアランが聞かされたのは…これから魔王と戦いに行く、けれどここでパーティを解散するということ、理由はレイラ懐妊というおめでたい内容でした。これにはアランもビックリです。そしてそれは心の声がそのまま口から出ていました。

 

「子供ができた…?いやはえーよ!!」

 

「アラン…?突然どうしたんです?」

 

「なんなのこの前仲間になったばっかじゃんなんでもう子供ができてるのさいやおめでとう元気な子供がお子さんだね名前は何ていうの?」

 

「アラン!しっかりしなさい!」

 

アランは突然聞いた内容に驚きを通り越して混乱しています。アランの脳内計画では共に旅をしている中で少しずつお互いを意識するようになり、そしてレイラの窮地をロカが救うなどで一気に恋に落ちて結ばれるというものでした。

 

もちろんアランがいない間にそんな急展開があったのかもしれませんが、魔王討伐の旅の途中に戦士と僧侶が子供を作ってパーティ解散とか信じたくないという気持ちなのかもしれません。そんな結果、アバンに気付けされるまで混乱してしまったのでした。

 

ロカのほうは最初は一緒に行くと言っていたのですが、アバンによってレイラを置いていく事を窘められ最後は気絶させられてしまいます。そのため離脱する仲間の代わりにと呼ばれたのがアランでした。

 

ロカはアバンの子供の頃からの親友であり、そんな親友を1人で魔王討伐に向かわせられないと一緒に旅をしていました。そしてレイラはネイル村で出会い、村がある程度安全になったのとロカたちを放っておけないというところから仲間になっています。つまり2人とも魔王を倒すというよりも魔王を倒す目的のアバンたちを助ける目的で仲間になっていたため、アバンとしても子供を宿したレイラと生まれてくる子供の父親となるロカを危険な旅に巻き込みたくないという気持ちがあったのです。

 

その点でアランは最初に出会った時から魔王を倒す事を念頭に置いて修練などを重ねており、それは今も変わっていなさそうなのでアバンとしてもマトリフとしてもロカとレイラの代わりとして魔王と戦うのに気兼ねしない相手だったのでした。

 

「アラン、そういうわけで魔王を倒す旅に付き合ってもらえますか?」

 

「もちろんさ。ところであの2人の事も後で聞かせてよね」

 

「マトリフ、あなたは…」

 

「皆まで言うな。オレは約束は守る男なのさ」

 

改めてアバンから魔王討伐の旅への同行を頼まれ二つ返事で引き受けたアランは、それよりもロカとレイラの進展のほうが気になっている様子です。これはお姫様に良い土産話ができたなぁ…と、魔導図書館に引きこもっていたせいでまったく顔を出す機会のなかったフローラ王女とのお茶会の話題にしようと考えていました。

 

マトリフのほうも魔王を倒すまでは付き合ってやるという言葉を反故にする気はないようで、このまま一緒に旅を続けるという事です。

 

ロカとレイラをネイル村へと残し次の目的地を問うアランに、マトリフの故郷であるギュータで得た古代の秘術の事を伝えるアバン。もちろん普通に戦って倒せれば言う事はないけれど、もしそれでも倒せなかった場合に最悪でも封印する事ができるという事でした。

 

そしてその封印する事のできる秘術を使用できるのは数百年に1度の皆既日食である今日という事でした。しかし今のパーティメンバーはアバンとアランとマトリフの3人です。そして今まではロカが担っていた前衛としての役割を果たせるのがアバンのみとなってしまうため、アランにとってその点だけが懸念なのでした。

 

しかしここで思わぬ相手が現れます。それは以前山奥に武術の神様を探しに行った際に出会ったおじいさんがアバンたちの前に現れ、そして一緒に行ってくれるというのです。

 

「おじいさん病気なのに大丈夫なの?確か膝枕すりすり病とかいう病気なんじゃなかったっけ?」

 

「そんな名前の病気でしたっけ?」

 

「ワシって……そんなに頼りない?」

 

2人して病名を覚えていませんでしたが、その後アバンの説明によりこのおじいさんが武術の神様本人という事がわかります。つまりアバンは以前武術の神様の教えを受けて技を編み出す事に成功していたのだと知ることになります。

 

そしてこれにより武術の神様であるブロキーナに前線での撹乱を担ってもらい、アランとマトリフが攻撃や補助・回復に至るまで対応することができる事で魔王との戦いも有利に進める事ができるというのがアバンの考える布陣でした。

 

どうやら魔王はアランが思っていたよりも積極的に前線に出てくるタイプだったらしく、アバンの感想は本拠地で座して待つ感じでは無かったという事です。

 

それはつまり戦略により魔王をこちらが迎え撃つという計画を立てる事も可能という事で、アバンはパーティを解散し1人で立ち向かう事も視野に入れていたのです。そして倒せずとも封印の虜囚とすることで魔王の邪悪な波動を抑え、世界各地のモンスターたちの動きを鈍らせることもできるだろうと思っていました。

 

 

 

……

………

 

 

 

アバンは自らの頭脳を活かし、魔王ハドラーを誘い出す作戦は成功となります。今までは戦闘で相手の弱点などを見抜く事に使われていましたが、戦略を練るという事においてもアバンの頭脳はしっかりと働いてくれたようです。周囲に人里などがない場所を決戦の地として一気に魔王を倒してしまおうという計画が見事に功を奏し、更に魔王の性格なのかアバンの交渉力なのか場所だけでなく今日この時間を指定できたという最善の結果を齎す事になりました。

 

今はまだ自身の最高の必殺技を習得しきれていないアバンにとってはまさに幸運というしかありません。この日この時間でなければ全滅も有り得たのですから、人間たちの敵でありこれから倒そうとしている相手とはいえ微かな敬意を抱いていました。

 

「あれが魔王?」

 

「ええ、あれこそが私たちの倒すべき相手…魔王ハドラーです」

 

今まで魔王の姿を見た事がなかったアランは確認のため聞き、かつてカール城でフローラ王女を狙ってきた頃から幾度と相対してきたアバンがその質問に是と答えました。アバンは「そういえばアランは魔王を見た事がなかったのでしたね」と呟いていましたが、どちらかというとアランの想像していたものと全然違っていたための言葉なのです。

 

実はアランは魔王の姿をバラモスで想像していました。しかし目の前にいる魔王は思っていたよりも人に近い形をしていたのです。フード付きのローブのような格好のため中身はわかりませんが、見た感じネコミミのような突起が頭の上にあるのも特徴でした。実際にその突起は尖った耳なので間違っていないのです。しかしアランは思った以上にネコミミのためネコミミ魔王という感想しか出てきませんでした。

 

「アラン、わかっていると思いますが、油断できる相手ではありませんよ」

 

そしてそのアバンの懸念は現実のものとなります。数では圧倒的に多いモンスターたちを率いていた魔王ハドラーに対し、こちらは4人のパーティなのですからやはり多勢に無勢の戦況へと陥ってしまいました。それでもマトリフが攻撃と回復を、アランは攻撃回復に新たに会得した補助呪文などを、ブロキーナはその補助を受け撹乱を攻撃を繰り出していきます。

 

次々と襲いかかってくるモンスターに負けじと4人は戦いますが、途切れる事のないモンスターの群れと背後に控えている魔王の事を考えた結果…アバンはこのままではジリ貧になると感じ次善の札を切る覚悟を決めます。

 

「みなさん、私が魔王を封じますので援護お願いします」

 

このアバンの言葉によってそれぞれがアバンが魔王に仕掛けるために動き出しました。今までは長期戦を覚悟しながら戦っていましたが、一瞬の好機を生み出すべく今まで以上に連携しモンスターたちを葬り魔王へと挑んでいきます。

 

「ピオリム!スクルト!バイキルト!ルカナン!…いけアバン!」

 

「へぇ…よくそこまで覚えたもんだな!くらえ…マヒャド!」

 

「ホッホッ…ワシも負けてられないねぇ…閃華裂光拳っ!!」

 

アランとマトリフが魔王への道を切り開くと共に周囲のモンスターを寄せ付けないように牽制し、ブロキーナがアランによる補助呪文の恩恵を活かし体術で翻弄します。そしてその活躍によりアバンは秘術である『凍れる時の秘法』を使用し、魔王と共に動かぬ身となってしまいました。

 

「…どうなった?」

 

「魔王だけ封印されたって感じじゃなさそうだね…マトリフは何か知らないわけ?」

 

「オレだって使った事のない秘術だ。だが、どうやらアバンは封印に巻き込まれたと見るのが正しいだろうな」

 

「ふむ…見た感じアストロンのようにも見えるけど少し違うようだね」

 

アバンの秘術によって魔王とアバンが止まってしまい、アランもマトリフも状況が飲み込めていません。その中でいち早くブロキーナが止まっている2人に近づき触って確かめていますが、そんな中で出された結論は秘術の効果はあったがアバンも同じく秘術にかかったというものでした。

 

この間に魔王だけでも倒せないものかとマトリフは攻撃呪文を、ブロキーナは自身の最高の技を魔王に放ってみますが何も変わっておらずまるで効果があるようには見えません。

 

「メラゾーマ!…マヒャド!」

 

「ふむ…ならば、閃華裂光拳!!」

 

「…やっぱり変わってないかな?」

 

外側からの力には何も変化が起こらない状態ですが、周囲の残っているモンスターたちが攻め立ててこないところを見るに魔王の邪悪な影響は少なくとも軽減できているようでした。そのためこの場では対策が立てられないと考えた一同はアランが修行していた魔導図書館へとアバンを連れて帰ることにし、そこでこの秘術を解除する方法がないか探すという結論に至ります。

 

本当はアバンが使用した『凍れる時の秘法』を解除するのに、これを覚えた場所であるギュータという案も出ました。しかしこれを聞いたマトリフから「数百年に一度しか使えない以上安易に解除できるとも思えん。それならまだ魔導図書館のほうが少なからず得られるものがある可能性が高いだろう」と言われたため3人は動かぬ勇者を連れて魔導図書館へと向かうことになったのです。

 

 

 

「そうですか…アバンが魔王と…」

 

「今はみんなで文献を読み漁ってるところだから安易なことは言えないけど、なんとかできるように頑張ってみるよ」

 

ひとまず魔王による脅威が去ることになったのでアランはカール王国に戻り近況だけを簡単に説明しています。もしこの秘術が正しく機能しているのであれば次にアバンが意識を取り戻すのは数百年後になってしまうため、アバンとフローラ王女が生きて再会することは不可能となるでしょう。それはアランも望むものではありません。

 

立場が反対であれば『目覚めぬ姫を取り戻す勇者』というドラマチックでアランもニッコリの王道展開になります。しかし今回は勇者の帰りを待つお姫様が生きて再会する可能性のない勇者を待ち続けるというバッドエンドになりかねない状況のため、これをニヤニヤと見守るようなことはできなかったのでした。

 

「きっとアバンは帰ってきてくれます。それまで私たちは彼が作ってくれた時間を無為にするわけにはいきません」

 

「そうだね。お姫様が信じてくれてたら舞い戻るのが勇者ってやつだ。アバンの事は俺たちがなんとかするから、お姫様は成功することを祈っててよ」

 

それでも旗頭である魔王が動けぬ状態となったことで魔王軍の勢いが急激に鈍くなった今、失意に暮れるわけにもいかず国を立て直すことを決めるフローラ王女に力強くアランは声をかけます。そして「また来るからその時は吉報を持ってくるよ」と約束し、アランは魔導図書館へと戻るのでした。

 

 

「ただいま!」

 

「おう、どうだったよ王女さんのほうは?」

 

「ちゃんと説明してきたよ」

 

マトリフとブロキーナが待つ魔導図書館へと戻り、ひとまずカールでの出来事を報告したアラン。水浸しになっている魔導図書館の中でそれらしい文献を探すという大変な作業をしていたマトリフとブロキーナからも進展のない状況を聞かされます。

 

そんな中、今回の戦いで思うところのあったアランからマトリフとブロキーナに対して1つの頼み事をしたのです。

 

それは「自分を鍛えてくれ」というものでした。

 

普段ならば戦士は戦士、魔法使いは魔法使いという職業に合った戦い方をするものという考え方を持っているアランが、自分よりもかなり年配にもかかわらず軽やかにモンスターたちを翻弄するブロキーナやいくつもの呪文を同時に使いこなしているマトリフを見て「自分にも頑張ればできるのでは?」と思ったのです。

 

未だにダーマ神殿が見つからず転職どころが自分が何の職業なのかもわからない中、マトリフは自分で大魔道士って名乗ってるし職業にこだわるのはやめようとなった瞬間でした。各々が魔王との戦いの結末に思うところがあったマトリフとブロキーナはこれを承諾し、そしてこれによりアラン魔改造計画がアバン復活計画と平行して行われることになったのです。

 

 

そこからはまさに地獄の特訓という言葉が似合うほどの修練の日々が始まりました。

 

 

いくつもの月日が流れ、進まないアバンの復活とは裏腹に体術や知識を深めていくアランたち。そんな特訓の成果はアランだけでなくマトリフにまで及んでいました。魔王との結末に悔いを残す形となったマトリフはアランへの修行だけでなく、今もまだ動けぬ魔王を葬り去るために新たな呪文を開発していたのです。

 

その結果できあがった究極の呪文もまたアランに受け継がれることになり、僧侶と魔法使いの魔法を使いこなし武闘家の武術までも吸収した武闘派の賢者が誕生することになったのです。武神流とされるブロキーナから閃華裂光拳を教えられ、本来はホイミで相手の細胞を崩壊させる技を自分で昇華させたアラン。他の呪文を使えるアランが使う事で閃華裂光拳は更に破壊力を増した技となっていました。

 

 

 

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