賢者の冒険   作:賢者さん

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アランの冒険2

 

 

ソアラ姫一家を連れてカール城へと戻ってきたアランは、迎えてくれたアバンとフローラ女王の私室で事の次第を説明していました。

 

なお、ここで説明している内容は事実ではなくアランが勝手に考えた『姫と騎士の恋物語』のほうなのは言うまでもありません。壮大に語られるソアラ姫と騎士バランの物語は感動を禁じえない良い出来だったのです。

 

そして普段なら話半分で聞いている2人なのですが、前例として『勇者とお姫様の恋物語』を知っているだけに今回は信じてしまいました。実際にはバランの力やソアラの夫という立場に対する嫉妬などによって自分たちの利己的な理由で大臣が魔物の疑いをかけたのでしたが、それを訂正する者は現在ここにはいません。

 

更にアランの言う政略結婚させられそうになって駆け落ちしたのも、バランが現れた事で地位を危ぶんだ大臣から「あいつは魔物かもしれない」と言われ危険視され駆け落ちした事実もそう大きくは変わらないので結果的には何も問題ないのです。

 

「…というわけでソアラちゃんたちを連れてきたんだけど、何か質問とかある?」

 

「場合によってはアルキード側から正式な形でソアラ姫たちを返せと言ってくるかもしれませんねぇ…何も知らせないというわけにもいきませんし、一応この国で預かっているという報せだけは送っておきましょう」

 

「なんか文句言ってきたらそこはアバンの腕の見せどころじゃない?まぁあんまりしつこいようだったら俺が直接お話しに行くけどさ」

 

本来ならば他国の姫を拐ってきたと言われても仕方のない事をしているのですが、アランのほうはアルキードが何かを言ってきてもアバンに丸投げするつもりです。アバンのほうもそうなるだろう事は未来視レベルで予想できているので特に動揺したりもしません。

 

そしてフローラ女王のほうもソアラ姫の境遇に心を痛め、自身の現在が幸せな事を考えソアラ姫を助ける事に躊躇などしませんでした。本来は国家間の問題に発展する可能性もあるため心もですが頭も痛めるような事態のはずが、自身の両隣には夫であるアバンと友人であるアランがいるためとても心強いのです。

 

「アラン、国家間の折衝などはこちらでやっておきます。それでソアラ姫たちは今どこに?」

 

「今はシンシアちゃんと一緒に遊んでくれてるよ。ちょっと呼んでくるね」

 

そうして別室にて待ちながらシンシア王女の面倒も見てくれていたソアラ姫とバランを呼びに行き、代わりにシンシア王女とディーノくんをアランが面倒を見ながら待つことになりました。

 

「バラン、ソアラちゃん。事情は説明してあるからお姫様たちとお話してくるといいよ。シンシアちゃんとディーノくんは俺が見てるからさ」

 

「あらー!」

 

「シンシアちゃん惜しいなぁ…あーらー…ん!」

 

ディーノくんを抱き、シンシアちゃんを膝に乗せて胡座の状態でゆっくりとトベルーラ移動するのが最近のマイブームなのです。子供にとってはふよふよ浮いているのが楽しいのか、シンシアちゃんやマァムには受けが良いのでアランも子守の時は率先して利用する移動手段なのでした。

 

 

アランがふよふよと浮きながら子供たちをあやしている頃、ソアラ姫とバランはアバンとフローラ女王とこれからの事を話していました。と言ってもこれに関しては話す事はそう多くなく「本当にいいのか」といった確認があった程度で後は世間話となっています。普通の会談であればこの状況は重苦しくなる状況だったでしょうが、アバンというムードメーカーがいるので和やかな雰囲気で話は進んでいきました。

 

ソアラ姫は現時点でアルキード王国にとって1人しかいない跡継ぎであり、立場的にはかつてのフローラ女王と同じ位置にいます。つまりアルキード王国に新しい子が生まれない限り次期女王なのです。そのため本来ならばカール王国としてはすぐに送り返すのが正しいとわかっていながら、すべてを投げ出し愛する人と一緒に生きるという選択をしたソアラ姫の幸せを奪うような真似をアバンもフローラ女王もしませんでした。

 

当然ながら王族として生きてきたソアラ姫自身も、自分の肩に乗せられているものの重さは理解しています。自分に注がれてきた愛情も理解した上で、城を飛び出せばどうなるかもわかっていないはずがありません。それでも尚、優しさを表に出せず口下手なこの人と共に…と思ってしまったのだから後悔はありませんでした。偶然とはいえアランというただの知人というには強力な力を持った人とテランで再会したのは何かの縁を感じずにはいられません。

 

そんな女性同士の和やかな様子を見たバランはソアラ姫をフローラ女王に任せ、魔王を討伐したという勇者アバンと2人で話をすることにしました。

 

「アバン殿、アランから聞いたが大魔王を倒すつもりというのは本当なのか?」

 

「ええ、私はまだ大魔王の事はアランから聞いただけですが、アランが行くのなら当然行くつもりですよ」

 

「ならばそう多くはないが大魔王について私が知る事を話しておこう」

 

そこから語られるのは、竜の神、人の神、魔の神が作り出し古より世界のバランスを保ってきた究極の戦闘生命体が竜の騎士であり、そして当代の竜の騎士がバランであること…そのバランがいるということは当然使命である天地魔界のバランスを保つためであり、魔王ハドラーと同じ頃に動き出し地上を我が物としようとした最後の知恵ある竜と謳われる冥竜王ヴェルザーとの死闘…そしてそんな冥竜王と同レベルの力を持つと言われる大魔王…ほとんどの人間が聞いたらおとぎ話や作り話だと思うような理解できないスケールの話でした。

 

しかしこれを聞いたアバンは疑うでもなく、ストンと腑に落ちる思いでした。

 

今までアランから「大魔王を倒す」という事は聞かされていましたしそれを信じていましたが、目の前のバランという男はアバンから見ても強大な力を秘めている事は理解できます。そしてそんな男が大魔王の存在を知っているのですから「やはり本当の事だったか」という納得が先に来ました。

 

「バランさんの今のお話で納得できました。やはりアランが言っていた事は間違っていなかったのですね」

 

「もし大魔王が地上を侵略するのであれば竜の騎士である私の役目だ。貴殿が無下に命を掛ける必要もあるまい?」

 

「私の個人的な打算で言えばバランさんに共に戦ってもらえるのであれば頼もしいのですが…アランが言っていたようにソアラ姫とディーノくんのために生きるのも良いと思いますよ」

 

バランの話を聞いてもアバンの答えは変わりませんでした。そして出てきた打算というものもバランに戦わせるのではなく共に戦うというものです。ここまで違いがあるのか…と、アルキードで見てきた自分を魔物扱いする人間たちとアバンやアランなどとの違いにバランは少々面食らう思いでした。

 

もちろんアルキード王国側にも言い分はあったのでしょう。魔王ハドラーが倒されたとはいえ、モンスターの軍団が齎した爪痕はそんなに簡単に取り除けるわけではないのです。モンスターが根絶されたわけでもない状況でソアラ姫が突然連れてきた誰も知らない男が1人…そしてその風体から戦う者だと感じ兵士と戦わせてみれば誰も敵わない腕前。国家の将来を考えてみたときに危険視して「相応しくない」と排除の動きが出るのはある意味当然でした。

 

そういった詳細まではわからずとも自身を追い出そうとしている動きを知り身を引こうとしていたバランですが、その時すでにソアラ姫のお腹の中には新しい命が宿っており…それぞれがそれぞれの思いで動いた結果この状況となってしまったのです。

 

勇者アバンと竜の騎士バランが…フローラ女王とソアラ姫がそれぞれ思いを伝え親交を深めている中、アランも小さな友人たちを連れて空中散歩していました。元々アランがシンシア王女を連れてウロウロするのはよく見られる光景だったため誰も何も言わず、そこに赤子が増えていても気にされないあたりにアランの肩書に『子守』が追加されているのかもしれません。

 

「アラン…なんでお前はいつも子守してるんだ?」

 

「おお、ヒュンケルか。こっちは新しい友だちのディーノくんだ。仲良くしろよ?」

 

「仲良くって赤ん坊じゃないか…」

 

なんとなく騎士団の訓練場までふよふよと移動していたアランに声をかけてきたのは訓練中だったヒュンケルでした。現在ヒュンケルは騎士団の訓練に参加しながら、たまに時間の空いたアバンに教えてもらったりと復讐の牙を研いでいる最中です。アランから聞かされた「犯人は大魔王」という言葉を信じて、彼は今日も熱心に剣の腕を磨いているのでした。もちろんそれを言ったアランはとっくにそんな事は忘れています。

 

アバン曰く「このまま成長していけば私よりも強い戦士となるでしょう」と言わしめるだけあって、まだ9歳か10歳くらいの少年ながらに騎士団の連中とも斬り結ぶことのできる実力を既に有しています。剣を使わないアランはあまりヒュンケルとの訓練はしないので知らない事ですが、大魔王を倒すために誰よりも強くなりたいと願うヒュンケルの打倒目標の中にアランはしっかりと入っているのです。

 

ヒュンケルとしては城内を子供連れでウロウロしている姿か、たまに一緒に城下に出かけたりする姿しか見る事がないため半信半疑なところはあります。しかしアバンと共に魔王ハドラーを倒した事実と「アランは私よりも強いですよ」というアバンの言葉もあるため、アバンより強くなってアランをも倒せるくらい強くならないと大魔王には勝てないという基準がヒュンケルの中にできているのでした。

 

「よしヒュンケルよ、ちょっと散歩に行こうぜ」

 

「はぁ?オレは訓練するんだから無理だぞ」

 

「そう言うなって。しっかり掴まってろよ?ルーラ!」

 

そんなヒュンケルの考えなんて気にしていないアランは赤ん坊と子供2人を連れてルーラでカール王国を飛び出してしまいます。実際のところカール女王の子供とアルキード王女の子供を連れて行き先も言わずに勝手にどこかへ行けるのはアランくらいのものでしょう。

 

いくらルーラとはいえ高速移動であって瞬間移動ではないので、常人であってもそれなりに風圧や抵抗はあります。赤ん坊や子供にとっては決して少なくない負荷がかかるはずなのですが、そこはヨミカイン遺跡の魔導図書館で水中特訓をしていたアランです。自身の周囲に魔力の膜を張ることで子供たちにも安全安心な移動を実現していたのでした。

 

ヒュンケルとシンシア王女が短い空の旅を満喫して辿り着いたのはネイル村でした。ディーノくんはキャッキャ言ったり寝ていたりしています。まだ頭の中に未来の勇者育成計画があるアランは、今のうちから将来共に戦う予定にされているマァムと対面させておこうと思ったのです。

 

「マーァームーちゃーん。あっそびーましょー」

 

「あっ!アランおじさんだ!」

 

「マァムちゃん、なんでおじさんて呼ぶの?せめてお兄ちゃんと呼んでくれないかな?」

 

ロカとレイラの家に向かって呼びかければ、ドタドタと足音がしてマァムが飛び出してきました。赤ん坊から幼女になったマァムは少しなら言葉も話せるくらいには成長しているようですが、なぜアランの事を「おじさん」と呼ぶのかわかりません。もしかしたら赤ん坊の頃のマァムにパパ嫌いの呪いをかけた事によるロカの仕返しなのかと思ってしまいます。

 

「とりあえず新しい友だちを紹介するね。こっちはシンシアちゃんで、こっちはヒュンケル。この赤ちゃんはディーノくんだよ」

 

「私はマァム、よろしくね!」

 

家の中に招いてもらって紹介だけすれば後は子供たちの領分です。シンシア王女とマァムはすぐに仲良くなって2人でよくわからない遊びをしていました。アランはロカとレイラに散歩ついでに遊びに来た事を告げたついでに子供たちの紹介をし、それを聞いた2人は子供とはいえ他国の王族を連れて来る事に呆れていました。

 

「そうだ、ヒュンケルはロカにちょっと鍛えてもらえば?こんなおじさんだけど騎士団長やってたから城のやつらより勉強になるかもよ?」

 

「おいアラン!誰がおじさんだ!」

 

「俺だってマァムちゃんにおじさんって呼ばれたんだぞ!ちゃんとお兄ちゃんて呼ぶように訂正しとけ!」

 

「誰がお兄ちゃんだ年考えろこのアホ賢者!」

 

「黙れポンコツ戦士!」

 

ヒュンケルが呆れて眺めている中で罵倒し合う2人は見かねたレイラが宥めるまで続きました。気を取り直してロカとヒュンケルが外に出ていった後…マァムとシンシア王女が遊び飽きたのかアランに「ふよふよやってー」とせがんできたので、ディーノくんをレイラに預けてアランたちも外へと出ていくのでした。

 

シンシア王女とマァムを膝に乗せて胡座トベルーラで浮いている様子を見ているレイラは内心溜息をついています。それもそのはず、ロモス王国にあるこの村にかつての仲間アランが連れてきたのは正真正銘カール王国の王女なのですから…更に自分が今アランから預けられて抱いているのはアルキード王国の王女の子供という事もあり、少し離れた所で地底魔城で拾ったという子供に稽古を付けている夫がちょっとだけ羨ましい気持ちです。

 

これってちゃんと行き先とか言って許可を得てここに来ているのよね…?

 

アランの行動を多少なり知っているレイラはその事が心配になりました。アルキード王女の子供までいるのにお付きの者が1人もいないというのもおかしな話です。むしろカール王国の王女様を連れてきているだけでも十分におかしいのですが、戦友のアバンの子供でもあるためそこは有り得るかもしれないと納得していました。レイラは決して王室に明るいわけではありませんが、それでもアランの立場から見ても他国の赤ん坊の世話をするのであれば乳母なり侍従なりがいてもおかしくないはずというのが率直な感想です。

 

もしこれをアランに問いただせば「ただの散歩だしわざわざ行き先とか言わないよ」とか「ちょっと遊んですぐに戻るんだから付き人なんていらないでしょ」という返事が返ってくるのは間違いありません。母親の勘なのか女の勘なのか…なんとなく嫌な予感のしたレイラは「きっとアランだって予め言ってあるに決まってるわ」と、自分の中の疑問に自分で答えを出しディーノくんをあやす事にするのでした。

 

 

夕暮れ時になり、遊び疲れたお子様たちを連れて城内へと戻ったアランを待っていたのはいつも通りの光景です。バランだけが「ディーノを連れてどこに行っていたんだ」や「どこかへ行くなら一言あってもいいんじゃないのか」と言っていましたが、アバンとフローラ女王は当然の事としてソアラ姫も動じた様子はありませんでした。

 

アバンとフローラ女王はアランの事を信頼しているため「城内ばかりじゃ飽きるから違う場所にでも連れて行ってるんだろう」と傍から見れば呑気にも見えるほど落ち着いており、それを聞いたソアラ姫も「あらあらそうなんですね」とこれまた気にした様子ではありません。

 

それを見たバランとしては「本当に大丈夫なのか…?探しに行かなくていいのか?」と心配する自分のほうがおかしいのかという心境にもなりました。この世界の世間一般的に見てもアランの行動は完全に誘拐犯のソレなのですが、妻であるソアラ姫までもアバンたちと同じ様子だったためバランも信じて待つことにしたのです。

 

しかし遊び疲れて寝ている子供たちと共に戻ってきたアランを見て一言二言苦言を言わずにはいられないのは親として当然の行動なのでしょう。

 

 

こうしてソアラ姫一家はカール王城での生活を始めることになったのでした。

 

 

 

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