狐ロリババアの泣き顔、気持ち良すぎだろ!

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続きません。そして短いです。


相棒に封印されて目覚めたら千年経っていた狐ロリババア

相棒に封印されて目覚めたら千年経っていた狐ロリババア

 

今はいつなのか、ここが何処なのかも分からない。ふわふわとした意識の中で、ふと鮮烈な記憶がよみがえった。

 

それは、だだっ広い草原のど真ん中。一人の人間と、一体の式神が話している。

 

——此度の戦いは中々歯ごたえがありそうじゃな。じゃが、安心せい。なんせお主にはこのワシが付いておるのじゃ! 大船に乗った気でいるがよいぞ、カッカッカッ!

(みやび)……そのことなんだが……。

——どうした、とーじ? いつになく静かではないか? まさか怖気づいたのかの?

ごめん……雅。

——なっ! おい、止めるのじゃ! 封印の札じゃと!? 何を考えておる!

君のためなんだ……本当にすまない。

——や、止めるのじゃ! ほら、今なら冗談で済ませてやってもよい! はよう、この封印の札を剝がすのじゃ!!

いや。きっと今回の戦いは、俺たちだって無事じゃ済まないだろう。そんなところに雅を道連れにするわけにはいかない。これは、馬鹿な人間同士の戦いなんだ……。

——今更何を言うんじゃ! この身はお主と共に散ると決めて……も、もう意識が……。おい! 本当に剥がせ!! ワシも連れて行ってくれ……頼む……。

今までありがとう、雅。さようなら。君といて、本当に楽しかった。

——ま、待ってくれ……。とーじ……

 

「とーじ!!」

 

その瞬間、雅の意識は一気に覚醒した。周囲には木々が生い茂っており、その枝葉の隙間からは強い昼の日差しが差し込んでいた。日の高さからして、自分が封印されてからあまり時間は経っていなそうだと雅は推測した。

 

自らが身にまとう巫女服と頭部の狐耳、そして自慢の尻尾に異常がないことを確認すると、周囲に目をやる。

 

「はて? ここは草原だったような気がするが……まあいい、とーじの奴めワシを置いていくとは生意気なやつじゃ。すぐに追いついてやろうぞ」

 

どうやら、(あるじ)の封印が失敗したものと判断した雅は、早速戦場となっているであろう場所へ向かおうと走り出した。さらさらとした金色の髪の毛が視界の端でふわりと舞う。木々を縫って走る彼女は、まるで弾丸のようであった。

 

しかし雅の走りはすぐに止まることとなる。彼女は、金色の瞳をこれでもかと見開いた。

 

「と、とーじ!? どうしたんじゃその姿は!」

「あっ!」

 

林を抜けたところで雅が目にしたのは、まるで子供のような姿になってしまった主だった。最後に目にしたときは四十歳を超えた壮年であったのに、今ではその三分の一程度しか生きていない童のような姿だ。おまけにいつもの水干(すいかん)姿ではなく、妙な衣服を身にまとっていた。

 

だけど雅にとって、()()()()()はどうでも良かった。走る勢いのまま、一も二もなく彼に抱き着く。彼が少し苦しそうにしていたけれど関係ない。ぎゅうぎゅうと抱きしめてやる。

 

「とーじ!! お主というやつは全く! それに、その姿はどうしたことよ。まるで童のようではないか。こうなれば最強の式神使いも形無しじゃな! 存分に笑ってやろうぞ」

「あ、あの」

「大方、敵方から呪いでもかけられたのだろう? 妙な呪いもあるものよな。安心せい、ワシがすぐに解いてやるからな。おや、そういえば……戦いはもう終わったのかの? ワシは何日間封印されておったのじゃ?」

「は、話を……」

「それにその妙な格好はなんじゃ? 都ではそれが流行っているのかの~? まあいい、それよりもう二度とワシを置いていこうなどと考えるなよ? ワシらはずっと共にいると誓った仲であろうに——」

「待ってください! ミヤビ様!!」

 

存外大きな主の声に、雅は驚いて口を噤んだ。それは真剣な時の主の声色だったから、一旦責めるのは後にしてやろうと思ったのだ。だけどその前に、雅にはどうしても言っておきたいことがあった。

 

「なんじゃ、“様”など付けおって。ワシとお主の仲ではないか。いつものように雅と呼べばよい。封印のことは……まあ、そこまで怒っておらぬぞ? とーじが無事だったのじゃからな」

「そのことも含めて、ミヤビ様にお話しなくてはいけないことがございます。どうぞこちらへ」

「じゃから、“様”などいらぬと言うておるのに。それに、お主は敬語なんぞも得意じゃなかろう?」

「いいえ。そこも含めて、今は何卒飲み込んでいただきたく」

「……分かった。とーじがそこまで言うのなら」

 

感謝します、と頭をさげる主に雅は違和感を抱いた。彼は良くも悪くもガサツな男で、こんなに丁寧な物腰は初めて見たのだ。時の帝に謁見した時だって、満足に敬語を扱えていなかった。

 

そんな風に首をかしげていると、二人はやがて黒い道に出た。黒い、というのは本当に文字通りの意味で、道の地面全体がなにやら真っ黒い石のようなもので覆われていた。そしてもう一つ驚いたことに、その黒い道の上には人の背丈ほどの四角い箱が置いてあった。

 

「何じゃこれは? 新しい式神かの?」

「ああ、これは車でございます。えっと……移動用の道具とでも申しましょうか。とにかく、式神ではございません」

「はあー、この地面にしても意味の分からぬものばかりじゃの。そこそこ長く生きてきたつもりだったが、初めて見るぞ」

「この地面は、アスファルトというものにございます。さあ、どうぞ車の中へ」

 

主はそう言うと、車の扉を開いて雅を迎え入れた。そして前方に座っていた黒服の男に「出してくれ」と声を掛けると、車は音を立てて走り出した。

 

後部座席で主の隣に座る雅は、興味深げに窓から外を見やる。

 

「何と……こんなに早く動ける道具があったとは。ワシの半分くらいの早さは出ておるぞ」

「流石は、神に連なる式神のミヤビ様ですね。これで半分とは……」

「なんじゃ、とーじも良く知っておろう? というか、そろそろその他人行儀な態度にも我慢の限界なんじゃが」

「も、申し訳ありません!」

 

雅が少し不快感をあらわにすると、前方で運転をしている黒服の男がビクリと震えるのが見えた。おまけに何故か、主も平謝りしてくる。

 

その主の態度でさらに雅の機嫌が悪化しそうになった時、雅は何かを手渡された。

 

「なんじゃこれは……本か? その割にはツルツルしていて面妖な……」

「はい。その本のこの部分を、どうか読んでいただきたく。あっ、文字は読めますでしょうか? 一応、出来る限りの注釈は入れましたが」

「なにやら風変りな文字じゃが問題ないわ。ワシを誰だと思っておる」

 

それは平安の世で見た文字とは大きく異なるものだった。だが、雅は難なく読み進めていく。主が入れてくれた注釈が入っているのも大きかった。

 

——————————

『伝記 蔵持統時(くらもちとうじ)』 著 時田瑠璃 発行 岩風新書

 

日本には伝説的な逸話を持つ人物が数多くいるが、蔵持統時(くらもちとうじ)は真っ先に名を挙げられる人物であろう。彼には、式神伝説や呪術伝説が数多く残っており、現代にも多くのファンが存在している。特に、彼の式神「(みやび)」は当時の朝廷に公式な記録として残されていることもあり、彼と雅を題材とした小説や映画が数多くみられる。

しかし当然のことながら、式神とは何らかの比喩であるとされている。恐らくは彼の後ろ盾であった神社の祭神がそのモチーフであり——

 

(中略)

 

ここまで、蔵持統時の人生には謎が多いという内容を書き連ねてきたが、その中でただ一つはっきりとしていることがある。それは、蔵持統時の最後についてだ。

 

「——っ!!」

 

彼は政治的混乱の間を狙った戦に対して、朝廷側として参戦し、そこで命を落としたとされている。これがはっきりと言えるのは、敵味方どちらの史料にも彼の立派な死にざまが描かれているからである。敵側からも立派だと表現されている史料は稀であり、その点で歴史的価値が高い。なお、その戦においてはあの「雅」は現れなかったとされている。多くの歴史学者の意見としては、恐らく彼の後ろ盾であった神社からの金銭的な援助が途絶えていたことを意味しているとされ——

 

(中略)

 

なお、2020年は彼の死後1000年に当たり、ドラマやアニメに大きな影響を与えている。また、彼の地元○○県の美術館では特別展を開催するようであるから、興味のある読者はぜひ足を運んでみてほしい。

——————————

 

雅は手に持つ本を破り捨てそうになりながら言った。

 

「う、嘘っぱちじゃ! こんなもの! とーじが死んだじゃと? 今目の前におるではないか、なあ?」

「いえ、ご先祖様は既に……。改めて自己紹介をさせていただきます。僕は蔵持統時の子孫で、倉持俊也(くらもちしゅんや)と申します。」

「……は」

 

喉に息が詰まって話せなくなるのを雅は感じていた。目覚めたと思ったら既に千年が経っていて、愛しの主はもういないと言う。そういわれて見れば、目の前の少年は確かに主と似てはいるものの、細部が微妙に違っている。

 

何もかも、気がつかなかったのか? あの「雅」が?

いいや違う。気づこうとしていなかった。目を逸らしていたに過ぎなかった。

 

「……ああ」

「あの日、あなたが封印された日、ご先祖様は戦に出られて……そこで敵方の大部分と相打ちになったと伝えられています。そしてご先祖様は、ミヤビ様を封印した場所と、その封印が解ける日を文献に残しておられました。だから今日、僕がミヤビ様を迎えに参ったのです。それが蔵持家一族に代々受け継がれてきた責務にございます」

「……そうか」

 

今の雅には何も考えられない。いや、何も考えたくなかった。その姿は、かつて日本中を恐れさせた式神には到底見えない。ただ打ちひしがれる、年相応の少女のようだった。

 

その姿を気遣わしげに見ながら、俊也はおずおずと口を開いた。その様子がどことなくかつての主を彷彿とさせるのも、雅には辛かった。

 

「それでですね……今向かっておりますのが、その本の最後に書かれていた『特別展』でございます。今回の展示には蔵持家が全面的に協力しましたので、今日だけは貸し切りで展示を見ることができます」

「……」

「ぜひ、ミヤビ様に見ていただきたく——あっ、着いたようです。どうぞ」

 

ガチャリと開けられた扉から、雅はことさらにノロノロと下りる。正直、もう動く気力も無かった。

 

——いっそのこと、あのまま永遠に封印されておったら……。

「さあこちらです」

「……うむ」

 

だけど、展示室に入ればそんな考えは吹き飛んでしまった。

 

「こっ、これは! とーじがずっと使っていた弓矢! こっちはお気に入りの鈴! あっ、これはワシが作ってやったお守りではないか!」

「やはりこれはミヤビ様が作ったものだったのですね。どおりで未だに霊力を放っているわけです」

「まあ、そこそこ気合を入れて作ったやつだしのー。千年たっても色褪せんか」

「ささ、こちらの部屋に目玉の展示が集められてございます」

「うむ!」

 

そう言って連れられた部屋は少し薄暗く、展示一つひとつに優しい光が当てられていた。この部屋には外の雑音も届かず、ただ静寂が場を支配していた。広い空間に、二人分の足音だけが響いていく。

 

雅はまず、一番手前のショーケースに触れた。ヒヤリとしたガラスの感触が手に伝わる。

 

「……なんと。折れなかったのか」

「はい、こちら『統時の刀』は最後の戦いでも折れることなく、使命を全うしました。今でも、この切れ味は一級品とのことです」

「このお札も、残っておるものじゃのう」

「ええ、そっちは『退魔の札』ですね。強い霊力が宿っておりますから。あいにく普通の人は霊力を感じ取れませんが、それでも何かしらの力は感じるようで、刀と合わせてパワーアイテムとして有名なのですよ」

「ぱわーあいてむ?」

「あー、えっと、力の宿った品という意味です」

「なるほどのう」

 

そんな会話をしながら、展示室を進んでいく。そして展示室の一番奥に差し掛かるところで、俊也は雅の前に立った。

 

「ミヤビ様。この先にあるのは、ご先祖様がミヤビ様に残した手紙でございます」

「手紙じゃと? あやつがそんなものを残すようには思えんがのう」

「ええ。ですから、とても短い手紙です。あの、それで、どうかご先祖様を嫌わないでくださいませんか。あの方は、ミヤビ様を——」

「どけ」

「!!」

 

分かっている、分かっているからこそ雅はやり切れない思いを抱えているのだ。

 

雅は俊也を強制的にどかし、一人で最後の展示へと向かった。最後の展示は、紙を傷めないためか一層光量を絞っていた。傍に置かれたプレートには『雅への手紙』と書かれており、その下に長々と解説が書かれていたが、雅は気にせず手紙を読み始めた。手紙に付着した赤い血痕が妙に気に障った。

 

——————————

雅へ

 

君はきっと私を恨んでいることだろう。当然だ。私は最後に君を裏切ったのだから。だから、読み終わったらこの手紙を破り捨ててしまっても構わない。

 

「……何を言うか」

 

君はどうだったか分からないけど、私は君との人生にこの上なく満足している。私の生まれは最悪だったけれど、君と出会って、一緒に過ごしたあの十余年間は、間違いなく私の人生で最良の時間だった。

 

そんな君は私の師匠であり、相棒でもあった。でも、だからこそ君が傷つくことが、私は最後の最後になって怖くなってしまったんだ。

 

すまない。知っての通り私は文章が上手くない。長々と書いても言い訳にしかならないだろうから、一言でまとめようと思う。

 

ごめん、雅。愛している。

 

蔵持統時

——————————

 

「……なんじゃ。自分だけ言いたいこと言いおって」

 

雅はガラスケースに縋りつくようにもたれかかった。ガラスの冷たさが火照った体に染みる。

 

「ワシだって、楽しかったさ! ああ、楽しかったよ! でも、お主は、もう……なんで」

 

手紙がケースの中にあったのは幸運だったのだろう。もし雅が手紙を手に取って読んでいたら、今頃はぐっしょりと濡れてしまっていただろうから。

 

 

 

 

 

●△●

 

 

 

 

 

「ミヤビ様……」

 

いつまでそうしていただろうか。雅が落ち着いた頃、俊也がゆっくりと近づいてきた。その心配しているような瞳が、ひどく統時に似ていた。

 

「俊也」

「はい、何でしょう」

「これはワシあての手紙じゃよな?」

「……? ええ、そうですが?」

「なら、ワシが持っているべきじゃな」

 

雅はそう言うと、ガラスケースの中にするりと腕を透過させ、中の手紙を取り出してしまった。そして俊也が止める間もなく、巫女服の懐に隠してしまった。

 

「え! ミヤビ様!?」

「こればっかりは、とーじの子孫の頼みでも聞けぬ。……これはワシのものじゃ」

「……はぁ。仕方がないですね」

 

どう言い訳しよう、なんて俊也は呟いていたが、雅から手紙を取り返そうとはしなかった。それは単純な力量の問題というよりも、彼自身、手紙は雅が持つべきだと思ったんだろう。

 

雅は懐を優しくさすった。どこか温かい感触があるような気がして、雅は薄く微笑んだ。

 

そして建物から出た後、外の風を感じながら雅は言った。

 

「さて、俊也よ。お主ら一族は、現代でもあやかしを狩っているのかの?」

「はいその通りです。一般の人々には見えないあやかし——今では妖魔と呼んでいますが——を狩っております。ですが、平安の頃に比べてあやかしが見える人間は減っており、さらに狩れる人間となるとごく一部でして。僕も頑張ってはいるのですが、まだ若く——」

「よいよい、皆まで言うな。ワシが力を貸そう。日本のあやかしを全て狩りつくしてやるわ」

「あ、ありがとうございます!」

「良いのじゃ。他ならぬとーじの子孫が困っているのなら、助けるに決まっておろう。ついでに、敬語も“様”もいらぬ」

「いえ、そういうわけには……」

「カカッ! 真面目じゃの~。とーじとは大違いじゃ」

 

夕焼けのオレンジ色の光が二人を照らし、春の暖かな風が雅の頬を撫でていった。ひとしきり笑った後、雅は突然真剣な顔に戻って言った。

 

「だがのう……その前に一つだけ『契り』を結んでもらうぞ」

「『契り』ですか……?」

 

雅の雰囲気に、俊也も顔を引き締める。式神との「契り」は絶対であり、単なる約束などとは全く違う。時には命をかけるほどに、重いものなのだ。

 

「ああ、そんなに身構えるでない。簡単なことじゃ」

「……何なりと」

「うむ。ワシが望む『契り』はただ一つ——絶対に、ワシを置いて戦うな。勝手に死ぬなど許さぬと思え」

「——!」

 

雅の言葉を聞いた俊也は、今日会ってから初めての笑顔を見せた。朗らかな笑い声が周囲に響く。

 

その態度に、雅は少しムッとして声を上げる。

 

「なんじゃ? 笑うことでは無かろうに」

「あっ、いえ。申し訳ありません、馬鹿にしたわけではないんです。ただ——」

「?」

「ご先祖様も僕も幸せ者だなと、そう思いました。これから、よろしくお願いします()()()

「——そうか、うむ! ワシを存分に頼ると良いぞ! 俊也!」

 

今ここに、「契り」は交わされた。夕日の中で、二人の重ねた手のひらが優しく光る。

 

——見ておれよ、統時(とーじ)

 

手のひらと胸元の二つの温かさに、雅はこれ以上ない笑顔を浮かべた。










以下、読まなくても良い裏設定。

※雅と出会った時、統時は既に三十歳。もちろん(当時としては珍しくもなく)妻も子供もいました。雅もそれを知っていたので、二人の関係はあくまで「最高の相棒」でした。師弟愛とかそんな感じです。

※ですが、俊也はまだ十三歳。雅と俊也が今後どんな関係を作っていくのかは未知数。

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