学校だりぃよぉ。
なんて、原付に乗りながらあたしは独り言ちた。
冷えた風がブレザーの隙間から入り込む。まだまだ寒い。
なんなら眠いし。
「あぁ、めんどくさーい!!!」私の叫びは、小さく街にこだました。
「到着ぅ」
うっわ、嫌そうな声。自分で言ってわかる程度には嫌な声出たよ。びっくり。
なんて。
まぁ、朝のこの静かな校舎は嫌いじゃないけど。
「おはざいまー」
適当な挨拶をしながら、職員室の扉を開ける。教室の鍵と、屋上の南京錠の鍵を二つ取って、
「しつれーしやしたー」
なんてこれまた適当な挨拶で職員室を出た。
「さて、とー。」
人気のない校舎の渡り廊下。私は自動販売機を目指して歩いていく。
指先でちゃりちゃりと小銭を弄ぶ。はてさて、今日は何を飲もうか、と頭を悩ませた。温かい飲み物ということだけは確定しているけれど、一体どうしたものか。
むぬぬと悩む私の横で、ふと声がした。
「買わないなら、先、良い?」
ぶっきらぼうな声。隣を向くと、ボブカットに紅いメッシュを入れた女生徒が立っていた。
「ああ、どうぞ。」
そう言うと女生徒はこちらをちらりと一瞥した後、颯爽とコーヒーを買って立ち去っていった。
「ありがとうくらい言えよ・・・」
半ば呆れながら私は100円を自販機に入れて、ポチリとボタンを押した。
梅昆布茶。寒い朝にはやっぱこれだよね、とか年柄でもないことを思いながら、私はさっきの少女の逆方向へと足を進めた。
梅昆布茶を飲んで、一服。ほぇーと緩んだ口から出た吐息は、白くゆるゆると空へ溶けていく。
じんわりと温まった体で、私はギターを取り出した。ゆっくりと曲を奏でる。切ない朝にはぴったりの曲だ。
『だれも いない道路で 両手を広げ歩いた 目を閉じてから私はそっと心の中で ちいさな 賭けをしたんだ』
白線から落ちたら負け。昔、そんなのやってた。
あぁ、嗚呼。
なんか懐かしいな・・・
優しく、しかし激しく、ギターをかき鳴らそうとしたその瞬間・・・
ガチャ。
金属室な音とともに、ローファーの硬い足音が響いた。
反射的に振り向いて、音の発生源を見つめる。茶色のローファー。少し緩めの靴下。膝上丈のスカートに、所定外のカーディガン。白みかかった灰色の髪は朝日を柔らかく反射して、キラキラと輝いていた。
どきりとした。私を見るその双眸は鮮やかな空色で、まるで心を見透かされているような気さえした。
「あれー、蘭じゃなかったかぁ〜。」
彼女は私を見た第一声で、そう言った。
「えっと・・・誰?」
言葉を絞り出せた私を、どうか褒めてほしい。