所属する事務所の社長から《D-HEROデストロイフェニックスガイ》をデッキに入れるか、引退かを迫られる。
なんとかそれを断りつつ引退せず試合に臨む約束を交わすが、代わりに持ち出された条件は「ダメージ9999オーバー」。
主人公は条件を達成し、ワイトデッキを守りながらプロを続けることはできるのだろうか。
確かに最近の私は、戦績が奮っているとは言い難かった。
「さあ、どっちにするか選びなさい」
所属事務所社長の馬鹿みたいに偉そうな机の上には、《D-HEROデストロイフェニックスガイ》のカード。
私は今、自分のデッキテーマを捨てるかプロデュエリストを諦めるかの二択を迫られている。
* * *
私はどこにでもいるしがないプロデュエリスト。大好きなワイトテーマにこだわりすぎて、最近の戦績はだいぶ黒星が多い。
ただそれでも、強いだけがプロデュエリストじゃない。テーマにこだわって観客を沸かせるタイプや、ニッチな人気のテーマにすがって生き延びてるプロだって、デュエルで食べていれば立派なプロデュエリストだ。
人気があって集客ができて、もっとあけすけに言えばお金をかき集められればプロデュエリストとして成功していると言える。強さはその手法のひとつにすぎない。
「それであんたが人気出てるなら文句言わないわよ」
社長が呆れた様子で椅子に座る。いいクッションなんだろう、人間一人が座ったのに音もしない。
「確かにあんたはどんな手段を使っても強くなって頂点を目指すタイプのデュエリストじゃないけどね? 限度ってものがあるの」
机上のタブレットには、私の基本的なプロフィールとともに今期リーグの戦績と現在のランク及び特記事項が情け容赦なく表示されていた。
次負けたらブロンズへ降格。
ブロンズとは、プロテストを合格したひよっこが、実質研修のようなルーキーランクの次に上がってくるランクだ。ここまで落ちることを嫌ってその前に引退するプロも珍しくない。そう、ちょうど今の私のタイミング。
栄枯盛衰の激しいプロデュエリスト界だ、一時は栄華を極めたトップデュエリストが勝てなくなりどんどんランクを下げていくことは珍しくない。それでもシルバーでしばらく踏みとどまって限界を感じ引退コースが一般的だ。
だから引退時のランクが「シルバー」か「ブロンズ」では与える印象がかなり違うし、セカンドキャリアにも影響してくる。
次の決闘が、デュエリストとして私の人生悪い意味で賭かってると言っていい。
「いやあ、まさかここまで落ちるとはさすがに思ってませんでしたけど」
つい30分前、各自の最新ランクが告知され、私のランクを見た事務所社長が頭抱えながら他のスタッフたちと社長室に引きこもった。
その後しばらくしてスタッフが社長室から出てきて、即座に私が呼び出されて、今に至る。
「愛用するデッキテーマを大切にするのは悪くない、あんたの場合それ込みでファンもついてるし」
「それ込みというか、私のファンって実質ワイトデッキファンしかいませんよね」
社長が般若の面になる。怖い。
「わかってるなら! お前自身にファンをつけないと!!」
理屈はわからなくもないのだ。ワイトデッキで勝ち星を重ねれば、間違いなく今より人気は出る。でも、
「そのためにコレって言うんですか?」
机の上に置かれた紫のカードに目をやる。
《D-HEROデストロイフェニックスガイ》
融合・効果モンスター
星8/闇属性/戦士族/攻2500/守2100
レベル6以上の「HERO」モンスター+「D-HERO」モンスター
このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手フィールドのモンスターの攻撃力は、
自分の墓地の「HERO」カードの数×200ダウンする。
(2):自分・相手ターンに発動できる。
自分フィールドのカード1枚とフィールドのカード1枚を選んで破壊する。
(3):このカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。
次のターンのスタンバイフェイズに、自分の墓地から「D-HERO」モンスター1体を選んで特殊召喚する。
少し前に解禁されたデスティニーヒーローの融合モンスター、デストロイフェニックスガイ。
いまや、このカードをデッキに入れていない方が少数派ではないだろうか。
「そう! どのデッキにも3枚の関連カードとエクストラデッキにこの子と融合補助リンクモンスター《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》を入れるだけ! 保険程度とも言えないくらいの強さ!」
《
リンク・効果モンスター
リンク2/闇属性/植物族/攻 500
【リンクマーカー:左下/右下】
効果モンスター2体
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターはターン終了時まで闇属性になる。
(2):2000LPを払い、
「融合」通常・速攻魔法カードまたは「フュージョン」通常・速攻魔法カード1枚をデッキから墓地へ送って発動できる。
この効果は、その魔法カード発動時の効果と同じになる。
この効果の発動後、ターン終了時まで自分はモンスターを特殊召喚できない。
社長の語気が強くなる。
「幸いあんたはもともと融合モンスターも《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》もエクストラに入れてるし、メインは《隣の芝刈り》前提の六十枚デッキ。メインデッキに三枚入れるだけならいくらでも自由が効くでしょう」
「さっきから言ってますけど相性悪いんですってば」
《隣の芝刈り》通常魔法
自分のデッキの枚数が相手よりも多い場合に発動できる。
デッキの枚数が相手と同じになるように、自分のデッキの上からカードを墓地へ送る。
《隣の芝刈り》が発動した場合、だいたい20枚前後が墓地に行く。60枚のうちの20枚だ。その中に《D-HEROデストロイフェニックスガイ》を出すために必要な《フュージョン・デステニー》 や融合素材がいたら、もう召喚できなくなるのだ。
《フュージョン・デステニー》通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分の手札・デッキから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
「D-HERO」モンスターを融合素材とするその融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは次のターンのエンドフェイズに破壊される。
このカードの発動後、ターン終了時まで自分は闇属性の「HERO」モンスターしか特殊召喚できない。
あまり相性がいいとは言えない。あと
「今猫も杓子も《D-HEROデストロイフェニックスガイ》じゃないですか……嫌いなんですよそういうの」
「お黙り。好き嫌いで勝てるなら誰も苦労しないのよ」
社長の言う事も間違ってはいない。
「そして勝てないプロデュエリストに発言権はない」
豪華な社長椅子に座っていた彼女がガタッと勢いよく立ち上がる。ただでさえ高めに身長にハイヒールを合わせるものだから、私より目線がだいぶ上だ。
「選ばせてあげるわ。このカードをデッキに入れてプロを続けるか、純正ワイトにこだわってアマチュアになるか」
私はおそらく、苦虫を噛み潰したような顔をしていただろう。そんなもの選択肢は一つしかない。
「……勝てばいいんでしょう?」
そのカードに手を伸ばす。
「わかればよろしい」
事務所社長は満足げに微笑んだ。
「つまり、勝てれば純正ワイトにこだわってもいいと?」
《D-HEROデストロイフェニックスガイ》へ伸ばしていた手を引っ込める。事務所社長は驚きとまた怒りの表情を浮かべる。
「もし私が、ちょっとマイナーでギミックもシンプルなわかりやすいテーマデッキファンだとします。応援してたデュエリストが、勝てないからってリーグ採用率50%を越える超強いカードをデッキに入れだして、おまけにそれが愛用テーマと相性が良くないとなればかなり幻滅します」
淡々と推測を述べる。
「ただでさえ少ないファンを裏切るようなことはしたくありません」
事務所社長が口を挟んでこないところを見ると、話を聞き続けてくれる程度には説得力があるらしい。
「かと言って、確かに負け続けてブロンズまで落ちたプロデュエリストを抱える余裕はこの事務所には無いでしょう」
事務所側のメリット、と言えるほど多くもない提案を続ける。
「だから、あと一回だけ、ワイトでデュエルやらせて下さいよ。そのデュエルで負けたら引退します。代わりに勝ったらまだしばらく純正ワイト……いやワイト中心アンデットくらいならやるかもしれませんが、まあワイトでもう少し頑張ります」
やり手の女社長の目は、ブレない。
「これは結構あなたのためを思っての提案だったのだけど」
机に置かれたままの戦士族融合カードを手にとる。
「そこまで覚悟を決めてるなら無粋ね、好きになさい。ただし今回に限らずブロンズ落ちしたら即引退よ」
もちろんだ。むしろそこまで待ってもらえるのなら、かなり寛大な処遇だろう。
「一応聞くけど、負けて引退したあとの人生プランは?」
「戦う前から負けたあとのことなんて考えるもんじゃないですよ社長」
「ノープランとはね」
まるで舞台の上のように、大げさに肩をすくませる。
「言っておきますが、ワイトしか回せずブロンズ落ちまでした元プロに、プロデュエリストマネジメント会社の社員の枠は事務員ですら存在しないわ」
「えっ」
正直に言えば、少しあてにしていたからちょっと焦る。
「いやいや、アンデットなら一通り回せますから」
「あら、負けたあとのこと考えていたの?」
なんだかんだ決闘を愛する人間には甘いこの女社長も、そこまでは助けてくれないらしい。
「へいへい、要するに次のデュエル勝てばいいんでしょう」
頭をかきながら、負けられない決闘には代わり無いのだと思う。私の頭は改めて見直すデッキ構築でいっぱいだ。
「それだけではダメ」
「ふぇっ?」
急にダメ出しを食らい、頭に浮かんでいたデッキ構築は吹き飛んでしまった。
「あなたが使うのはワイトデッキ。《ワイトキング》の効果『墓地にあるワイトもしくはワイトキングのカードの数×1000の攻撃力となる』を使った高い攻撃力で、相手のライフを削り取る派手なビートダウンが持ち味」
私の使うワイトデッキの説明を懇切丁寧にされた。内容は百も承知だが、今から何を言い出すのか。
「相手プレイヤーへのダメージ9999オーバーで勝ちなさい」
それは、ワイトキングの攻撃力を10000あるいはそれ以上にしろと同義。いや、前者の場合それだけでは足りない可能性の方が高い。攻撃力を10000にした上でダイレクトアタックを決めなければ、相手モンスターの攻撃力に阻害され9999ダメージは出なくなってしまう。
「ワイトデッキでファンを獲得し続けたいなら、これくらいやれないとうちの事務所で面倒見きれないわ」
自分もすでに条件を出しているのだ、断ることはできないだろう。厄介な条件を背負わされたものだ。
「……わかりました」
女社長のうっすらとした笑みが見えた。
「で? 私の次の相手が決まるのっていつなんです?」
頭の痛い上乗せ条件を考えたくなくて、別の話題を振る。
「あら、知らなかったの?」
健気にも、私の情報を表示させ続けていたタブレットはとうに画面が消えていた。社長が長ったらしいパスワードを打ち込んでロックを外し、しばらく操作する。
「さっきこの試合が終わって、あなたの次の相手は決まったばっかりよ」
どれどれと覗き込む。勢いだけのルーキーか、シルバーから上がれない自称中堅かはたまた
「あー……これ私のお仲間ですねえ……」
「あなたと同じ扱いはかわいそうよ」
「ひどいです社長」
同じくブロンズ行きがかかってしまった元ゴールドプロデュエリストの名前と写真が表示されていた。
* * *
ランクの低いプロデュエリスト同士の決闘など、昨日の今日でスケジュールが組まれ息つく間もなく当日を迎えるなどよくあることだ。有名なトップデュエリスト同士の対戦なら長い宣伝期間をとり関係各所の調整もそう簡単には終わらないのと大違いだ。今日はマスコミと言えばせいぜい決闘専門ネットチャンネルが一社とデュエルニュース記者が一人な、ブロンズ落ち寸前デュエリスト同士の対戦である。
ちょっとやりにくいなと思う。
もうあとが無い人間は何をやるかわからない。もちろん事前に相手の使用デッキテーマや使う頻度の高い戦術は調べてきているが、プロにすがりつきたい一心でプライドもへったくれもなく強いテーマへ持ち替えている可能性が高い。それこそ、私がうちの社長から提案されたようなデッキ構築だ。
ちら、と観客席を見る。まばらな観客は見慣れた光景。そこに、相手の親類縁者や親しい人間らしき姿はない。
つまり、相手もまだ引退セレモニーのつもりはなさそうだ。
「お前もブロンズ行きがかかってるんだってな」
対戦相手に声をかけられた。私よりも歳下だろうか、緊張で声はこわばり汗も見えた。
「ええ、お互い悔いのないように頑張りましょ」
仲良くするつもりも無い。通り一遍の定型句を返せば、チィッ、と舌打ちが飛んでくる。おいおい、下調べした限りでは癖のない好青年デュエリストだったぞ。
「俺は絶対勝つ。悪いがお前には引退してもらう」
はあそうですかと思う。ブロンズ行きへの焦りはここまで人を捻じ曲げてしまうものなのだろう。
* * *
事務所の社長から言い渡された条件『相手への9999オーバーダメージ』。これを達成するためにはほぼほぼ《隣の芝刈り》が必須だ。
相手のデッキは眺めた限り40枚の可能性が高く、私はもちろん60枚デッキなので、発動に必要な最低限の条件は整っていた。あとはひたすら、手札に《隣の芝刈り》あるいはそれを持ってくるカードが来ることを祈るだけだ。
ざっと自分の最初の手札を眺める。
「……これは無理かもなあ」
思わず自分のプロデュエリスト人生にサヨナラを告げそうになった。
私の運命を左右する五枚の手札。左から《ワイトプリンセス》《生者の書》《生者の書》《ポルターガイスト》《ワイトメア》。
《隣の芝刈り》はもちろん、それを引き込むためのカードもない。
《ポルターガイスト》通常魔法
相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
その相手のカードを持ち主の手札に戻す。
このカードの発動と効果は無効化されない。
《ポルターガイスト》は後攻の今回あって悪いカードではないが、問題はもう一種類の魔法カードだ。
《生者の書-禁断の呪術-》通常魔法
(1):自分の墓地のアンデット族モンスター1体と相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。
その自分のアンデット族モンスターを特殊召喚する。
その相手のモンスターを除外する。
《生者の書》は墓地にいるアンデットモンスターを場へ特殊召喚するカード。《隣の芝刈り》で墓地へ大量にアンデットモンスターが送られたあとならともかく、一枚もない今どうしろというのか。
おまけにそれが二枚。ため息が出る。
後攻になったので最初のドローに賭けるしかない。手札から相手を妨害するカードもなく、私は先攻の対戦相手がカードを次々召喚していく様を眺め始めていた。
* * *
「絶対勝つの中身がこれなんですか?」
先攻の相手がメインフェイズに移行してだいぶたった。相手フィールドには、何体かのモンスターが召喚されている。
墓地にある2体の効果モンスターと2体のD-HERO。フィールドには《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》と《D-HEROデストロイフェニックスガイ》。
「こういうの親の顔より見たフィールドって言うんでしょう?」
「うるさい黙れ!」
相手がターンエンドを宣言した。おいおいおいおい、ここからさらに展開しなくていいいのだろうか。
相手のエンドフェイズ時に起きる処理は無かった。
「私のターン」
スタンバイフェイズ。
運命のドローフェイズ。《隣の芝刈り》あるいはそれを呼び込めるようなカードをひたすら祈っていた。
「ドロー!」
私の右手に握られていたのは《ワイトベイキング》。《隣の芝刈り》でも、それを呼び出せるカードでもない。
さようなら、私というプロデュエリスト。
思わず本当に別れを告げてしまったが、他の手札と合わせ6枚のカードを眺めてふと気がつく。
もしかしたら、なんとかなるかもしれない。多少相手にも手伝ってもらわないといけないし、妨害のタイミングによってはそこでターンエンドだが。
さて、どこまでいけるかな。
ずっとカードを見ていたが、取る戦略が決まり視線を上げて対戦相手を見る。
目が合った。おいおい、そんなに恐れおののかないでくれよ。
まるで幽霊でも見たような顔しやがって。
「手札から《ポルターガイスト》を発動。相手フィールドの伏せカードを相手手札に戻す」
とりあえずは伏せカードの撤去だ。対戦相手が何を企んでいようとも、相手の場のカードは減らしておくにこしたことはない。相手は悔しそうな顔をしているから、こちらにとってまあまあ悪くない結果だったようだ。
「次に、手札から《ワイトプリンセス》を通常召喚」
《ワイトプリンセス》効果モンスター
星3/光属性/アンデット族/攻1600/守 0
(1):このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「ワイトプリンス」1体を墓地へ送る。
(3):自分の手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。
フィールドの全てのモンスターの攻撃力・守備力はターン終了時まで、そのレベルまたはランク×300ダウンする。
この効果は相手ターンでも発動できる。
薄いピンク色のドレスをまとった、小さな女の子。センター分けのミディアムヘアーが可愛らしいお姫様だ。
「《ワイトプリンセス》が召喚されたことにより(2)の効果発動。デッキから《ワイトプリンス》を墓地へ送る」
私が王子様を墓地に送ろうとデッキに手をかけた瞬間
「手札から《灰流うらら》の効果発動! その効果を無効にする!」
《灰流うらら》チューナー・効果モンスター
星3/炎属性/アンデット族/攻 0/守1800
このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):以下のいずれかの効果を含む魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、
このカードを手札から捨てて発動できる。
その効果を無効にする。
●デッキからカードを手札に加える効果
●デッキからモンスターを特殊召喚する効果
●デッキからカードを墓地へ送る効果
対戦相手の《灰流うらら》により、デッキから王子様を呼ぶ効果は無効にされてしまった。残念だ。
「では、《ワイトプリンセス》(3)の効果を発動。お姫様を墓地へ送り、フィールドのモンスターの攻撃力及び守備力をそのモンスターのレベル×300ダウンさせる」
場には《D-HERO デストロイフェニックスガイ》と《捕食植物ヴェルテアナコンダ》。ヴェルテアナコンダはリンクモンスターでありレベルを持たないため効果を受けないが
「レベル8のデストロイフェニックスガイの攻撃力は、2400下がる」
もともと2500だった《D-HEROデストロイフェニックスガイ》の攻撃力は、たったの100になってしまった。
相手はまた悔しそうな顔をしているが、まだだ。まだ全然足りない。
「手札から《生者の書》を発動。相手の墓地に眠るモンスター1体を除外し、自分の墓地のアンデット族モンスターをフィールドへ特殊召喚する」
相手墓地にあったD-HEROモンスターを1枚除外する。私の墓地に眠るアンデット族モンスターは1枚しかない。
「《ワイトプリンセス》を特殊召喚」
可愛らしいお姫様が、また場に現れた。
「《ワイトプリンセス》の特殊召喚に成功したため、(2)の効果発動。デッキから《ワイトプリンス》を墓地へ送る」
相手がギョッとしていた。
「残念ながら《ワイトプリンセス》の効果は1ターンに1度の制限がなくてね。条件が満たされれば何度でも使える」
一方で、さきほど相手が使った《灰流うらら》は1ターンに1度しか使えない。手札にもう一枚《灰流うらら》を持っていたとしても、もうこのターンには使えないのだ。
墓地に王子様が1枚送られた。
《ワイトプリンス》効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 0/守 0
(1):このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。
「ワイト」「ワイト夫人」1体ずつを手札・デッキから墓地へ送る。
(3):自分の墓地から、「ワイト」2体とこのカードを除外して発動できる。
デッキから「ワイトキング」1体を特殊召喚する。
「墓地に《ワイトプリンス》が送られたことにより(2)の効果発動。デッキから《ワイト》および《ワイト夫人》を墓地へ送る」
《ワイト》通常モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 300/守 200
どこにでも出てくるガイコツのおばけ。
攻撃は弱いが集まると大変。
《ワイト夫人》効果モンスター
星3/闇属性/アンデット族/攻 0/守2200
このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
また、このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、「ワイト夫人」以外のフィールド上のレベル3以下のアンデット族モンスターは戦闘では破壊されず、魔法・罠カードの効果も受けない。
墓地へ、ワイト扱いされるカードがさらに2枚送られた。
「フィールドの《ワイトプリンセス》を墓地へ送り(3)の効果を再び発動。《D-HEROデストロイフェニックスガイ》の攻撃力はさらに2400マイナスされて0だ」
真っ赤な鎧を身にまとった戦士が、重力に耐えきれないかのようにこうべを垂れた。
「そして手札から、二枚目の《生者の書》を発動。あなたの墓地からD-HEROを除外、私の墓地から《ワイトプリンセス》をもう一度特殊召喚する」
相手デュエリストの顔がひきつる。
「《ワイトプリンセス》が特殊召喚されたことにより(2)の効果をみたび発動、デッキから《ワイトプリンス》を墓地に送る。そして墓地に送られた《ワイトプリンス》の(2)の効果発動、デッキから《ワイト》と《ワイト夫人》を墓地へ送る。さらに《ワイトプリンセス》の(3)の効果をみたび発動。お姫様は墓地へ行く」
みるみるうちに、墓地にワイト扱いされるカードが溜まっていく。でも、これだけでは無意味なのだ。場に、あのモンスターを呼び出さなくては。
「墓地の《ワイトプリンス》(3)の効果発動! 墓地にある《ワイトプリンス》《ワイト》《ワイト夫人》を除外することで、デッキからモンスターを特殊召喚する!」
せっかく墓地へ送られたワイトたちが、3枚も除外されてしまった。でも今はそれでいい。
デッキの中、光るカード。それを1枚引き抜きデュエルディスクへ叩きつける。
「墓地に集いし同胞の力を得て、むくろの王は全てを叩き潰す! 来い! 《ワイトキング》!」
《ワイトキング》効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 ?/守 0
このカードの元々の攻撃力は、自分の墓地に存在する「ワイトキング」「ワイト」の数×1000ポイントの数値になる。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地の「ワイトキング」または「ワイト」1体をゲームから除外する事で、このカードを特殊召喚する。
しゃれこうべの頂に立つ骸骨の王が、両手を広げてうなり声を上げた。
墓地に集まったワイト及びワイト扱いされるカードは4枚。ワイトキングの攻撃力は4000だ。
「な、なんだたったの4000か!」
対戦相手が叫ぶ。確かに、攻撃力4000ならそこまで高くない。攻撃力3000の《青眼の白龍》は倒せるが、《サイバー・エンド・ドラゴン》なら相打ち、そうでなくても攻撃力を変化させるモンスターなら4000を越えることなどたまにある。
「でも《ワイトキング》にとって攻撃力4000なんてまだまだ序の口!」
手札にいる、また新たなワイトモンスターを見せる。
《ワイトメア》効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 300/守 200
このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
また、このカードを手札から捨てて以下の効果から1つを選択して発動する事ができる。
●ゲームから除外されている自分の「ワイト」または「ワイトメア」1体を選択して自分の墓地に戻す。
●ゲームから除外されている自分の「ワイト夫人」または「ワイトキング」1体を選択してフィールド上に特殊召喚する。
「手札の《ワイトメア》を墓地へ送り効果発動! 私は『ゲームから除外されている自分のワイトまたはワイトメア1体を選択して自分の墓地に戻す』効果を選択! 除外されていた《ワイト》を1枚墓地に送る!」
墓地には、ワイトモンスターが6枚、《ワイトキング》の攻撃力は6000になった。
「《青眼の白龍》2体分の攻撃力、《ワイトキング》としては及第点」
相手の場には、三度にわたる《ワイトプリンセス》の効果により攻撃力が0となった《D-HEROデストロイフェニックスガイ》がいる。
「バトル! 《D-HEROデストロイフェニックスガイ》に攻撃!」
祈るような気持ちだった。使え、使え、そのモンスター効果を使え!
「俺は《D-HEROデストロイフェニックスガイ》の効果発動! 《ワイトキング》と《D-HEROデストロイフェニックスガイ》を選んで破壊する!」
焦った顔の対戦相手を見て、私は自分の勝利を確信した。
「手札から《ワイトベイキング》(2)の効果を発動! このカードを墓地に送ることにより、フィールドのレベル3以下アンデット族モンスターは戦闘および効果で破壊されない!」
《ワイトベイキング》効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 300/守 200
このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードのカード名は、墓地に存在する限り「ワイト」として扱う。
(2):自分フィールドのレベル3以下のアンデット族モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、
代わりに手札のこのカードを捨てる事ができる。
(3):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから以下のモンスターを合計2体手札に加える(同名カードは1枚まで)。その後、手札を1枚選んで捨てる。
●「ワイト」
●「ワイトベイキング」以外の「ワイト」のカード名が記されたモンスター
「なにぃ!?」
《ワイトキング》はレベル1アンデット族モンスターだ。憐れ、《D-HEROデストロイフェニックスガイ》は王を道連れにすることなく墓地へ落ちていく。代わりに私の墓地へ行ったのは《ワイトベイキング》。墓地のワイトモンスターは《ワイトベイキング》によって1枚増え、場の《ワイトキング》の攻撃力は7000へ上がっている。
「《ワイトベイキング》(3)の効果発動! 墓地へ送られたとき、デッキからベイキング以外のワイトモンスター2種類を1枚ずつ手札に加え、手札から1枚を捨てる! 私がデッキから選ぶのは《ワイトプリンス》と《ワイトプリンセス》!」
手札にお姫様と王子様が加わる。
「墓地に送るのは《ワイトプリンス》!」
王子様が一枚、墓地に落ちる。《ワイトキング》の攻撃力は8000。
「墓地に送られた《ワイトプリンス》(2)の効果発動! デッキから《ワイト》および《ワイト夫人》を墓地へ送る!」
墓地には、《ワイト》が3枚・《ワイト夫人》が2枚・《ワイトプリンス》が2枚・《ワイトプリンセス》が1枚・《ワイトメア》が1枚・《ワイトベイキング》が1枚ある。合計10枚。
《ワイトキング》の攻撃力は10000になった。
「攻撃対象がなくなったことにより、戦闘は巻き戻り再び戦闘対象を選び直すことができる!」
攻撃力10000のワイトキングが顔を向けるのは、《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》。攻撃力は500だ。
「バトル!」
もう対抗手段も無いのだろう、真っ青になっている対戦相手には悪いが、私にはまだやらねばならないことがある。このままではダメージ9999オーバーにはならない。
《ワイトキング》が《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》に殴りかかった。
「ダメージ計算時、手札からこのカードを墓地へ送り、フィールドのモンスターの攻撃力をレベル×300ダウンする!」
私の右手には《ワイトプリンセス》が握られている。(3)の効果を使うのはこのターン4回目だった。
「な、なぜだ! 《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》はリンクモンスター! それで攻撃力が下がらないことなんてお前もわかってるだろう!」
そう、レベルを持たないリンクモンスターには《ワイトプリンセス》の効果は効かない。
「フィールドにはもう1体! モンスターがいる!」
私の《ワイトキング》だ。お姫様の効果は敵味方関係なく及び、レベル1《ワイトキング》の攻撃力は300下がる。
「な、なんでだよ……」
しかし、画面上に表示される《ワイトキング》の攻撃力は10700。
「忘れた? ワイトキングの効果」
このカードの元々の攻撃力は、自分の墓地に存在する「ワイトキング」「ワイト」の数×1000ポイントの数値になる。
「王は墓地の同胞の数だけ強くなる! 《ワイトプリンセス》ももちろん《ワイト》扱いされるカードだ!」
最後の《ワイトプリンセス》を含め、墓地の《ワイト》カードは11枚。
「行け! むくろの王よ!」
そこから300引いても、結果的に攻撃力は700アップする。
「
《ワイトキング》が《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》を殴って大穴を空ける。王の拳はそのまま対戦相手を殴りつけ、相手のライフポイントはゼロになった。
相手へのダメージ10200ポイント。私の勝ちだ。
* * *
シルバーランクの対戦など、インタビューもそこそこに対戦フィールドから追い出されてしまう。だから、顔色悪く膝から崩れ落ちた対戦相手がその後どうなったか、私は知る由もない。
事務所のソファーにどかっと座り、帰りがけコンビニで買ってきたビール缶を開ける。
「ああ〜〜うま〜〜〜い」
「なぁに事務所で酒飲んでんじゃ!」
怒り心頭で入ってきた事務所社長に缶を奪われる。
「私のビール!」
「帰ってから飲め!」
私の缶ビールは社長の後ろに控えていた事務員が持っていってしまった。ちゃんと冷蔵庫に入れておいてくれるかな、などと心配していたら、私のタブレットから事務所内チャットのピコンという通知音がした。
『本日の決闘がネットニュースになっていました。目を通しておいて下さい』
「お! 社長、私が記事に取り上げられたみたいですよ」
怒ってる社長に別の話題を振りたくて、ためらいなくチャットで案内されたリンクへ飛ぶ。
記事のタイトルは『宣言! 今後すべて9999オーバーダメージで勝利!』
「ん? んん? んんん?」
なぜ、ネット記事に社長と私の約束内容が漏れている? あと今後すべてとは?
「ああ、あいつちゃんと記事にしてくれたみたいね」
私のタブレットを覗き込みながら社長がふんふんとうなずく。
「え、これどういう意味で」
嫌な予感しかしない。
「文字通りよ。あんたが今後もワイトでやっていきたいなら、これくらいのパフォーマンスは必要でしょ? まあ、負けたらその瞬間引退だから、気軽にね~」
言ってる意味が全くわかない。
「は? ちょっと!? 社長!?」
「これくらい大げさに言わないとネット記事にすら拾ってもらえないのよあんたは!」
どう考えても無理な条件を私に無断で宣言したくせに、全く後悔していない様子だ。
首の皮一枚繋がっていたはずの私のプロデュエリスト人生、やっぱ無理そう。
「まあまあ、デュエリストなら対戦前から諦めなさんな!」
自社のデュエリストが少しでも注目を浴びたのが嬉しいのか、社長が私の背中をバシバシ叩く。……よく見ると社長の顔が少し赤い。
「社長は、あなたのデュエルが恐ろしくて見ていられないとアルコールを少しずつ口にしながらご覧になっていたのです」
私のビール缶をどこかへやってきた事務員さんが教えてくれた。
「はあ!? 人には事務所で飲むなとか言っておいて自分は仕事中に!?」
ニコニコニコニコ、表情を見れば今の社長に説教しても無駄だとわかる。
「最後あなたが勝ったとき、大喜びでグラスをあおったんです。おそらくインタビュー中もアルコールは回っていたでしょう」
つまり、この大言壮語は酔っ払った社長のせいなのか。
「は、はぁ~……?」
今日の対戦相手ではないが、膝の力が抜けて腰からへたりこんでしまった。
「まあ頑張ってください。事務所一同応援はしていますよ」
「それって応援しかしてくれないって意味だよね」
ぺこり、と事務員さんは表情も変えずお辞儀をして出ていった。
「私のプロデュエリスト人生、どうなっちゃうの……」
とりあえず、ビールを飲み直そう。それか、もっと度数の強い酒を買ってきてもいい。デッキとか対戦相手とか、そういうのを考えるのは明日以降にしよう。
どちらにせよ、今日なんとか勝ったおかげで、私はまだプロなのだから。
終