バイオハザードRTA 新B.O.W.ルート『グレーテルの怪物』END 作:血袋
スペンサー記念病院、その地下施設。アンブレラの生物兵器研究所。
命を救うための施設である病院の真下に、命を
現在地は倉庫区画の奥。前方に見えるエレベーターを利用して上の監視室を経由すれば、研究所内部へと入り込めるだろう。
……が、しかし。その監視室に一つの人影が居座っていたことを、私は見逃がしていない。
害意は無く、飽くまで高みの見物を決め込んでいるような気配。それ故にジルさんはスルーしてしまったようだが、こんな時のためにあるのが私の視力と生体感知能力だ。
十中八九、相手はアンブレラ側の人物だろう。であれば、先手必勝の一択しかない。
「……ジルさん、ちょっとグレーテルを頼みますね」
「え、イザベラ?」
グレーテルをジルさんに預けたら、一足飛びで監視室に目掛けて跳躍する。元から私一人であれば、この程度の高さはエレベーターに頼らずとも跳べる距離だった。
跳躍した勢いのまま体当たりでガラスを破り──私の眉間を正確無比に狙った標的からの射撃を右手のナイフで躱し──左の拳で標的の顔面をぶん殴り無力化しようとして──
「!?」
咄嗟に進路変更。顔面ではなく胸元を引っ掴み、そのまま床へと押し倒した。
そうした理由は一つ。標的の服装が、アンブレラの部隊であるU.B.C.S.──カルロスやタイレルさんと同じものだったからだ。
「ぐっ……ハッハッハ! えらいハリキリガールがやって来たじゃないか!」
「挨拶も無しの逆ナンで失礼しました。ですが教えて頂きます、貴方はU.B.C.S.……カルロスたちの仲間なのですか?」
質問し、観察する。雪原の狼を思わせるような銀髪の男だ。奇襲を受けておきながら余裕の表情を崩さず、ロシア訛りでタフな台詞を吐いてくる。まさしく幾つもの修羅場を潜ってきた軍人だ。
怪しくはあるが、もし本当にカルロスたちと同じ目的で行動しているのなら、願っても無い追加戦力になる──そんな私の希望的観測を嗤うように、男は返答した。
「あぁそうとも。俺とお前は仲間さ、
「──!!」
違う。違う違う違う、絶ッ対に違う!
この男は間違いなく敵だ。私のB.O.W.としての名前を知っている、それ以上に。
己の利益のためならば何であろうと裏切り、排除し、利用する……そんな邪悪さを否が応でも伝わらせる、その冷酷で残忍な笑顔が。カルロスやタイレルさんの笑顔とは、全く重ならなかった。
すぐさま右手の電熱ナイフを振り上げ、その柄を叩き付けようとして──
「──ぁうッ!」
相手を押し倒していた状態から攻撃へと移る……その拘束が緩む瞬間を狙われていた私は、男にあっさりと抜け出され、思い切り腹を蹴り上げられてしまった。
素早く体勢を立て直すが、それは向こうも同様。引き離されてしまった間合いを見て、私は最初の奇襲でこの男を仕留めるべきだったのだと後悔する。
……この男は強い。おそらくカルロスよりも。
もちろん身体能力は私が上だ。でも、それで私にできるのは基礎スペック差の暴力を押し付けるだけ。格闘における技術と駆け引きの経験値は、こちらが圧倒的に負けている。白兵戦を挑んでも巧みに捌かれて終わりだろう。
ならば銃で無力化? それも駄目だ、射撃の腕も間違いなく私が負けている。私には肉体の再生能力があるけど、痛覚まで無いわけじゃない。撃たれても死なないが、撃たれれば死ぬほど痛い。早撃ち勝負に負けて逃げられるのがオチだ。
となると電撃で痺れさせたいところだけど……既に私の名を知っている相手だ、対策されていると考える方が自然。
「……クールダウンできたか? じゃあ早速、商談に移ろう女神サマ。俺も時間が惜しいんだ」
結論、明確な隙を見せてもらわないと動けない。それ故にハンドガンを構えて威嚇するだけとなってしまった私を見て、男は相変わらずな笑みのまま、訳の分からないことを言いだした。
「商談? 私と貴方が何のビジネスをすると? 初対面ですが私は既に貴方のことが嫌いです」
「そう邪険にするな、お前は
「……商談相手の神経を積極的に逆撫でしていくなんて、とても斬新な営業スタイルですね。話は終わりです、後日に菓子折りだけ郵送してください」
「まったく、アンブレラも随分と人間様に反抗的な兵器を作っちまったもんだな」
要するに、大人しくB.O.W.として戦争とか金儲けの道具になれよ、って話だ。
当然ながら私が首を縦に振る訳もない、が。
「だが考えてみろ。実際、このラクーンシティを脱出できたとして、それからお前はどうする? 兵器の居場所、いや置き場所なんて戦場にしかない。加えてお前は兵器であると同時に生き物だ、維持には何かと金が掛かる。結局のところ、お前も金のために働く、俺の同類なんだ。それが理解できてないほど知能レベルは低くないだろう?」
誠に遺憾ながら、そこは否定できない事実である。
どうあれ兵器として生まれたなら、兵器として生きるしかない。人間を装うことはしても、人間として幸せに生きるだなんて、生物兵器として生まれた時点で許されていない。
「……とは言え。誰かの幸せを願うのは自由でしょう」
「なに?」
「私の妹の話です。いるのは知ってるでしょ? ──既に専属契約を済ませてるってことですよ。貴方とのビジネスはお断りです、営業マン」
せっかく心を持って生まれた兵器なのだから、その行動目的を自分で設定するぐらいは許されていいはず。
妹を守る。彼女に危険が迫らないよう、アンブレラを潰す。それだけが、私の戦う理由だ。
「……そりゃ残念」
男は落胆したようにわざとらしく腕を下ろし──流れるような手付きで取り出した手榴弾を放り投げる。
「やばッ──」
後手に回ってしまえば、もう遅い。床へと落ちた手榴弾──閃光手榴弾から音と光が溢れ出し、慌てて閉じた瞼を次に開いた時には、既に男を追うことは不可能だった。
相手が上手だったのだと気を取り直し、この監視室を見渡す。目に付いたのは電源が入ったままのPC画面。覗いてみれば……それは書きかけの調査記録。十中八九あの男が残したものだろう。
「──イザベラ、無事!? 炸裂音がしたけど!」
「お姉ちゃん!!」
と、そこで階下からのエレベーターが到着し、グレーテルとジルさんが追い付いてくる。かなり心配させてしまったようだ、引っ付いてきたグレーテルを抱き返す。
「私は大丈夫です。けど、残念ながら敵を取り逃がしまして……U.B.C.S.の隊服を着た銀髪の男だったんですけど、ジルさん知りません?」
「……ニコライね。U.B.C.S.を裏切った男よ」
「やっぱり敵でしたか。どうやら、ここが奴のビジネスの本拠地みたいですね」
調査記録を流し読みしてみた限り、あの男──ニコライはこの街でB.O.W.の実戦データを収集することが役目だったらしい。で、その対象として扱われたのが。
「……ジルさん、ここへ来るまでにB.O.W.と何度か交戦してます?
「ええ戦ったわ、お腹いっぱいになるほどね。 ……何か良いニュースが?」
「悪いニュースです。そのB.O.W.……ネメシスと言うのですが、私とグレーテルもアレに追われてまして。間違いなく別個体ですから、2匹いることになります」
「……返品を願いたいわ」
「腹を括りましょう。ニコライ氏の目的は、ネメシスを私たちと再び交戦させて更なる戦闘データを得ることのようですから」
と、ここで階下のエレベーターから駆動音。一応は警戒するが、そこに見えたのは味方の姿──タイレルさんだ。
「やったぞ、交渉が済んだ。政府は爆破を中止する! 条件は厳しいが……爆破までにワクチンを届けないといけない」
「残された時間は?」
「あって数時間てとこだ」
「ならぐずぐずしてる暇はない」
タイレルさんの先導に従い、グレーテルの手を引いて慎重に進む。
ロックされた扉は開かれ、ようやくワクチンがあるはずの研究施設内部へと侵入した──そんな勇み足を掬わんとするような、突き刺す殺気。熱と湿気を帯びた、不気味な執念。
──待っていたソレが、遂に形を伴って現れる。
「タイレルさんッ!!」
死角となった背後の通路、そこから伸びた死の剛腕。
最も近くに居たというだけの不運なタイレルさんを押しのけ、その暴威を抱き掴む。間一髪だ。
仕掛けて来た敵の顔を見てみれば、それは最早人型などとは呼べない、まるでコズミックホラー小説にでも出てくるような異形の怪物。だが、それでも分かる──こいつもネメシスだ。
「随分と拡張性の高い豊満ボディですね先輩! ジャパニーズたこ焼きにされたいですかァ!?」
膂力では向こうが上、このまま腕相撲と洒落込むのは不利だ。電熱ナイフを出力最大、その先端を切り落とした。
「──お姉ちゃんッ!!」
そこでグレーテルから呼びかけられる。大丈夫、言われるまでもない。
続けて弾丸のごとく飛び出して来た、もう一つの殺気。頭上から鉄槌のように振り下ろされる巨拳を、寸前の横転で回避。
「
「お久しぶりですね、会いたかったですよ先輩。それとも、お姉さまと呼んで欲しいですか?」
ようやく会えた。グレーテルを、大切な妹を傷つけたド畜生。これでようやく復讐できる──と、逸る気持ちは背後からの銃声で霧散する。ジルさんとタイレルさんの援護射撃だ。
ここは一本道の狭い通路。グレーテルという非戦闘員がいる今、巨大な敵を2匹同時に相手取るのは至難の業。で、あるならば。
「──このまま
「ああ、任せておけ!」
「隔壁を降ろせるボタンがあるわ! そこまで走って!」
三十六計逃げるに如かず。グレーテルをタイレルさんに抱えてもらい、私が牽制して後退。
研究施設の隔壁ともなればネメシスにも破壊はできない。ひとまずの安全は確保できる──が、しかしだ。一時しのぎに成功したところで、このままワクチンを入手するまでの間、ネメシスからの脅威に晒されたままというのも難しい。
──私の為すべき
「ジルさん、タイレルさん! グレーテルとワクチンは頼みます!」
隔壁を降ろすボタンの真横で一瞬、私だけが立ち止まる。
何が狙いか、伝えるにはそれだけで十分だ。躊躇なく、押した。
「お姉ちゃん!?」
「イザベラ!!」
隔壁は無情に、瞬きの内に降下する。これで断たれた。彼らに迫る危険と、私の退路が。
グレーテルには悪いと思っていたが……少し意外なことに、ジルさんからも悲痛な声が上がっていた。もしかしてだけど、何かあったのだろうか。例えば、
「ま、私は死にませんけどね。──さて先輩方、後輩と鬼ごっこで遊んでくださいよ」
返事は咆哮、相手が先攻。じゃんけん代わりに繰り出された触腕と拳打を潜り抜け、まずは背水の陣から離脱。二匹掛かりの猛攻を避けながら、とにかく仲間から遠ざかるように移動し続ける。もちろん、こっちからちょっかいを出すのも忘れてはいけない。
「ほらほらほらほら、よそ見なんて失礼ですよ海産物っぽくなった方の先輩! そんなにジルさんのお尻を追い掛け回すのが気に入ったんですかぁ!? いや確かにジルさんのお尻めっちゃ綺麗ですけど、ここは高望みせず私で妥協しておいてくださいよ! と言うか私みたいな小娘すら捕まえられずに“追跡者”なんて二つ名してるのは各方面に失礼、うわっとぉ!?」
跳んで避け、屈んで避け、転がって避ける。ひたすらに逃げ続けて、1時間は経ったかどうか、それすら判断が付かなくなった頃。
通路の向こうに見えた扉、その先。開けた空間だ。おそらくはゴミ処理エリアか。何であれ、駆けまわり続けるよりかは時間稼ぎもし易いはずだ。
鬼さんも痺れを切らしたのか、複数の触腕を一斉に伸ばして来た。むしろ好機だ、この後には大きな隙が生まれる。だから今は、とにかくその攻撃を避けることに集中して──
「──あッ?」
失敗した。気付かなかった。見過ごしていた。
脇道に待ち構えていた伏兵。取るに足らない活性死者、それに取り付いたNE-α寄生体。頭頂部から伸びる触手が、私の踏み出した右足を貫く。
初めから、この不意打ちを狙われていたというワケだ。
そこからはもう、坂から転げ落ちるかのように。
文字通り出足を挫かれた私は、忌々しいネメシスの突進を真正面から喰らい、吹き飛ばされ──ゴミ処理エリアのド真ん中まで叩き落された。
「く、ぁ……」
全身が痛いし、呼吸もままならない。
これだけで致命傷とはならないが、動けないというのが最悪だ。このまま動けないのであれば、降りて来たネメシスに頭を潰されて終わり。実質的に致命傷と変わりない。
そして、間もなく
──嫌だ。まだ死ねない。まだ死にたくない。
生物兵器として生まれた時点で、幸せに生きることはできない。むしろ、生きているだけで周囲に不幸を撒き散らすことすらあるだろう。
ここで自分は大人しく死んでしまった方が、グレーテルの今後にも面倒が無くて良いのではないか。そう考える自分もいる。
とは言え、もう遅い。だって、約束してしまっているのだ。
私が守ると。ずっと一緒だと。絶対に離れないと。
約束を破っては、失格だ。妹専属生物兵器としても、何よりお姉ちゃんとしても。
──嫌だ。まだ死ねない。まだ死にたくない。
「私はまだ、全力でお姉ちゃんを遂行し切れていない──!」
……そんな、シリアスなことを思っていたので。
眼前に迫る2匹のネメシスが、頭上から振るわれたクレーンにブッ飛ばされた時は、流石に変な声が出た。
「……ファッ!?」
「イザベラ!! 無事か!?」
そして、ポカンとする私の頭上から降ってくるのは、もう一つ──カルロスの声だ。
「無事だよなイザベラ! 立ち上がってくれ! 君がこの程度じゃあ倒れないタフなレディだってことは、俺がよく知ってるぞ!」
「……タフって言葉は、貴方のようなナイスガイの為にあると思うんですけど」
なんだか、気が抜けてしまった。憎たらしいネメシスも目の前に居るっていうのに。
いつの間にか身体のダメージも回復している。精神的な要因があるのかもしれない。多分ね。
「まぁ何でもいいですけどね。実際、私めっちゃタフですし。決着を付けましょうか」
絶体絶命のピンチだったかと思えば、気が付いたら理想的な展開だ。
立ち回りやすい広めのエリアに、カルロスの援護。反撃に出るならうってつけ。
そして何より、ツキの流れまで私の味方らしい。
「イザベラ!!」
「ジルさん!?」
睨み合っていたネメシスたちを貫いた2発の弾丸。そして降りて来る1つの勇敢なシルエット。
言うまでもないがジルさんだ。上階を見上げればグレーテルとタイレルさんも居た。
「待たせたわね。ワクチンは入手できたわ、みんな無事よ」
「何よりです、妹が怪我してたら恨んでました。……それよりも、良かったんですか降りてきて。戦いは
「そうかしら。……
「──タフですね、ジルさんも」
役者は揃った。文字通りの、一転攻勢。
「「さあ──次
言い訳はしません。失踪してました。申し訳ありませんでした。
既に書き溜めてはありますので、このまま最終話まで連日投稿します。
この小説の存在を思い出してくれた方に最期を看取って頂ければ幸いです。
ヴェルデューゴのオリジナル主人公を作ってRE:4のB.O.W.ルートRTAとか書けそうですよね。
ルイスとは同郷の旧友、みたいな設定を生やしても面白そうです。
……お前どう? 俺もやったんだからさ(同調圧力)