バイオハザードRTA 新B.O.W.ルート『グレーテルの怪物』END 作:血袋
誰が生めと頼んだ? 誰が作ってくれと願った?
私はお前たちの人形になど成りたくない。
私は何を為すために在るのか──いつか必ず、それは自分で見つけたい。
私は兵器、そう作られた。それで「ハイ終わり」と結論付けられるぐらい自分が阿呆だったら、どんなに気が楽だろうか。
兵器に知能など与えるな。私は声を大にして、そう言いたい。言わないけど。
そんな発言をしても、研究者の連中は第二第三の私を作り出し、当の私には「NE-α」とかいう寄生生物を埋め込んで終わりだろう。皮肉な話だけど、自分の兵器としての有用性は、自分が最も理解できている。そんなのは御免だ。
知能の無い私は、間違いなく気が楽だろうが──幸福にはなれないだろう。そう思うから。
実際のところ、私が何のために生まれたかは考えるまでもない。命を殺傷するためだ。
善い本を読むと、知識を得られる。発見を得られる。感銘を得られる。必然、理解する。
……誰かを傷つけるのは望ましくない。人を殺してはならない。多くを殺しておきながら多くに賞賛される、などという話は現代じゃありえない。……そんなこと、嫌でも理解できる。
それでも想像するのは、いつか、生きた人間を殺害する瞬間だ。
私という生物兵器は、人間に擬態して社会へと溶け込んでの軍事任務を想定して生み出された。すなわち、期待されるのは街中での暗殺や敵地での破壊工作──相手を騙して、殺すこと。
私が今までに
その時の私は、物言わぬ兵器として在れるのだろうか。正直、自信は無い。
知能ある相手を兵器として教育したいのであれば、読書なんて私の自主性に丸投げしてないで、ちゃんとした洗脳と言うか調教を施した方が確実だと思う。私が表面上は従順な様子を見せているというのもあるけど、研究に没頭し過ぎな白衣の人間たちは、そこまで頭が回らないらしい。
まぁ、本当にそんなものが始まったら流石に従順じゃいられなくなるだろうけど。
……白衣の連中の話を盗み聞いたところでは、もうすぐ私という生物兵器の量産体制を築くための動きが始まるらしい。
私にティシポネーという名前を付けた事から考えると、第二第三の私はアレークトーやメガイラとでも名付けられるのだろうか。どうでもいいけど。
私は兵器、そう作られた。
──本当に、それしか私には無いのだろうか?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
9月28日、間もなく29日へ移り変わる深夜帯。億劫な日々に、変化は突然訪れる。
何やら自室の外が騒がしい。気になる。いっそ全力放電で扉を焼き切ろうかと本気で考え出したタイミングで、運良く扉は開かれた。
「お前の体内にある爆弾を起爆させられたく無かったら、俺を無事にこの研究所から出せ!」
そう言って私なんかをアテにした白衣の男は、運悪く死んでしまったけど。
ゾンビ犬は敵意を向けられる前に素早く処理し、状況を考察する。と言っても、何が起きたかは火を見るよりも明らかだ。
バイオハザードの発生。
このゾンビ犬を観察した限り、おそらく原因は私の誕生にも用いられているウイルスの片割れ、T-ウイルスの予期せぬ流出だろうか。
何とも大変な事態だが、それよりも私には気になることがあった。
「爆弾か……」
どうやら私の体内には爆弾が埋め込まれているらしい。(自分で言うのもアレだが)相当な怪物である私の制御を目的にしている以上、きっと相当な威力だろう。
そりゃそうかと納得できる話ではあるが、流石に不快だ。せっかくこの事態に便乗して狭苦しい世界から逃げ出せそうだというのに、未だ足枷が残っているのだから。
まずは、それを取り除ける方法を探すとしよう。
人間を怪物へと変貌させるT-ウイルスだが、最初から怪物の側である私に当面の危機は無い。
であれば、考え無しに脱出を優先するより、思い残しを潰していくことに専念するべきだ。
……行動の際に何かしら目標を欲しがってしまうのは、兵器としての
死体の白衣からカードキーを拝借しつつ、そう自虐した。
活性死者どもを無視しながら探索していると、目新しい相手に遭遇した。
ソレは人型だが、人型であること以外の要素は、ソレが私の
全身を発達した筋肉と鱗に覆った、巨大な両腕と先端のカギ爪が特徴的な姿。ガワだけ人間を装った私に比べれば、随分と兵器らしいシルエットの怪物だ。いっそ羨ましい。
でも、こちらの進路を邪魔しているのはいただけない。向こうも敵意丸出しだ。関係ないけど。
「
相手が仕掛けるよりも先に、電流を放って動きを縛る。
そうしたら遠慮なく接近して、零距離で電撃を叩き付ける。これで終わりだ。
……今まで、耳に
とても幸運なことに、入った部屋には私にお誂え向きの武装が用意されていただけでなく、私という生物兵器に関するデータが纏められているようだった。
放置されている資料やパソコンの画面に、これ幸いだと目を通せば──1人の女性、その名前と顔写真に目が留まった。
イザベラ・シュミット。どうやら私は、この女性のクローンを素体として生まれたそうだ。
私の頭髪を銀色から栗色に、瞳を青色から琥珀色へと変えれば、私の容貌はこの女性と瓜二つになる。素体の外見がこれほどまで残っている生物兵器というのも珍しいのではなかろうか。
本人は今年の2月に死亡しており、その享年は16。私の肉体の外見年齢とも一致している。
資料の記述から読み解いた限りの情報を整理していこう。
イザベラには、歳の7つ離れた妹がいる。両親は昨年に交通事故で亡くしており、他に身寄りは無い。そんなところを、ウイルスの被検体を集めていたアンブレラ社の手先に騙され、この研究所まで妹と共に拉致されてきた。
しかしイザベラはそれなりに聡い女性だったようで、移送される道半ばで真実に気付き、妹だけでも逃がそうと大いに暴れた。
そして不運なことに、この移送の護衛を担っていた傭兵の一人が短気な輩だったらしく、事態の弾みでイザベラは射殺された。慌ててアンブレラの人間がDNAサンプルを採取し、鮮度の観点から最優先で実験対象に定め──この私、ティシポネーの存在に至るというわけだ。
騙されてしまったのは愚かだったかもしれないが、最後に肉親のため足掻いたという姿には敬意を表したい。そう思うが──やはり、私の中に想起できる光景は無い。当然だ、私はあくまで彼女のクローンから生まれた存在なのだから。
記憶が人格を形作る、という考え方がある。それに倣うのであれば、私にイザベラ・シュミットを名乗る資格は無いようだった。
少々気落ちする出来事もあったが、情報収集の成果は上々だ。体内の爆弾を取り除くことが可能な手術室、そして手術に必要な薬品2種の存在。探索に明確な道標ができた。
もう見落としは無いだろうと部屋を出た──ところで、無意識に耳が悲鳴を聞き取った。
年齢までは特定できなかったが、声の主は人間の女性だ。間違いない。
放っておけばいい。どうせこの施設の職員なのだから、助ける義理は無い。
そのはずが──私の歩みは無意識に、悲鳴の聞こえた方角へと向かっている。
(何故だかわからないけど……私は助けに向かわなければならない気がする)
不思議と、その衝動に従うべきだと思った。
きっと、この先には何かがある。何もかも空っぽな怪物であるはずの私が、それでも追い掛けるべき、掴もうと足掻くべき──私のとっての、光が。
脇目も振らず、その光の方へと走り出して──見つけた。活性死者に追われる小さな人影。
気付けば、またもや無意識の内に身体が動いている。こちらへ走り来る少女を素早く抱き留め、勢いのまま眼前の活性死者へ電撃を放つ。私がそれをやったのだと、一呼吸遅れてから自覚した。
やはり間違いない。先ほどから私を突き動かしている衝動の根源は、この少女の存在にある。
一体この
「お姉ちゃん!」
──お姉ちゃん?
「やっぱり、やっぱりお姉ちゃんだっ!! 髪の色が全然違ってたから、すぐにはわかんなかったけど……あれ、よく見たら眼の色も変わってる? あぁ、何てこと! お姉ちゃん、ここの変な人たちにずっと変なことされてたんでしょ!? アタシ、今まで心配で心配で……でもね、信じてたの! お姉ちゃんは必ず、こういう絶体絶命のピンチにはアタシのところまで駆け付けてくれるに違いないって! お姉ちゃん、助けてくれてありがとう!!」
……よく喋る娘だ。パニック状態にあるのか、こんな非常事態でも快活さを失わない精神性を持っているのかは判別できないが、とにかく圧倒されて情報を整理できない。
「……? ちょっと、お姉ちゃん? どうしたのよ、変な顔して。せっかく髪と眼の色が変わって美人さもアップしてるのに、そんな表情じゃ台無しよ? アタシとお揃いの色をやめちゃったっていうのは、すこ~しばかりショックだったりもするんだけど~……あっ、もしかして! しばらく離れ離れになっちゃってただけで、アタシの顔を忘れちゃった、なんて寒いジョークを言うつもりじゃないでしょうね! そんなのお断りよ!
グレーテル。この娘の名前だろうか。しかし、その名前を聞いて真っ先に思い浮かぶのは、かの有名なグリム童話『ヘンゼルとグレーテル』だ。
童話の中のグレーテルは、自分たちを騙し兄ヘンゼルを喰らわんとする魔女に、知恵と勇気を以って立ち向かった、ヘンゼルの妹──
「アタシたち、これからどうなっちゃうのかな」
栗色の髪と琥珀色の瞳をした少女が、涙声で呟く。
「わからない。でも、絶対に大丈夫だよ」
その呟きを否定せず、しかし勇気付けるように、
「たしかに、父さんと母さんはいなくなってしまった。とても悲しいよ、心細いさ。……だけど、ここにまだ遺されたものがある。そうでしょう?」
「……アタシと、お姉ちゃん?」
「その通り。私たちは2人なら最強だ。どんな困難もヘッチャラさ!」
「じゃあ……約束してくれる? アタシとお姉ちゃん、ずっと一緒にいるって!」
「うん、約束しよっか。ずっと一緒だ、絶対に離れない。──ほら、もう何も怖くないでしょ?」
そう、約束を交わしたんだ。
きっと、生まれ変わっても忘れない、2人の約束を。
「……ねぇ、ちょっと? お姉ちゃん、アタシの声は聞こえてる?」
心配するような声に呼び起こされ、現実に回帰する。……ああ、そうか。そういう事なのか。
先ほどの部屋で得られた私に関する研究データの中に、ソレは明記されていなかった。だけど、今ならわかる。根拠は無くとも、私の内に在るモノが教えてくれる。
グレーテル・
我ながら信じ難い話だが、どうやら私の中には、未だイザベラの記憶が残っていたらしい。
所詮、自分はクローンから作られた兵器に過ぎない──そう思い込んでいたが故、無意識に封印していた温かな記憶が、グレーテル本人との邂逅によって溢れ出したということだろう。
だからこそ、理解もしている。さっき幻視した光景はイザベラの記憶だ。
イザベラは既に死んだ。
──でも、そんな結末お断りだ。
「──っ! お、お姉ちゃん! バケモノがまた来た! 今度は多いよ!」
亡きイザベラの意志を継げる者は、私以外に存在しない。
何より既に、もう私自身が、そう在りたいと願ってしまった。
ならば、やはりこの衝動に抗う必要など無い。……約束を、守り続けよう。
「あいつらね、めっちゃアホそうな見た目してるのに、なんでかアタシばっかり狙おうとしてくるの! もう怖くて怖くて──お姉ちゃん?」
「──うん、大丈夫だよ。安心して、私に任せて」
……これは、原作の童話でしか見られないようになった設定だが。
『ヘンゼルとグレーテル』において、魔女に言いつけられ兄を煮るための鍋を沸かすしかない己の運命を嘆き、神に苦しみからの解放を祈ったグレーテルは──そんな神から返ってきた助言によって、魔女が内心に秘めていた企みの詳細を知ることができたのだ。
で、あるならば。
神よ。人間であることを奪われた怪物の私が、初めて祈る。
我が名に宿られし女神、殺戮へ復讐する者、ティシポネーよ。我が身に加護を与え給え。
「グレーテルは私が守る。私は──」
兵器として持たされた、忌まわしくも頼もしき、この力を復讐の刃と化し。
「──全力で、お姉ちゃんを遂行する!!」
ひとまず切りの良いところまで一括投稿しましたが、ここからは不定期更新になります。
兎にも角にもエタらないことが目標です。
感想・批評よろしくお願いします。