怪異蔓延る世界より贈るボーイミーツガール風バトル物。
なおヒロインは死ぬ。

趣味と勢いのみで書ききったリハビリ作です。



1 / 1






書くのは楽しいぞ。




夜の帳に灯る星

 

 

いつからだろう、それが視えるようになったのは。

 

記憶は定かでは無い、

無意識な自己防衛だろうか、覚えていないのだ。

 

記憶がはっきり残り始めたのは、預けられ先の萬屋のじいさんに眼鏡を貰ってからだろうか。

"怪異"と呼ぶそれへの認識阻害や装着者への魔眼殺しとやらを恒常的に発動し続ける『目線刈(めせんがり)』。

 

お陰で、精神が削られ続ける生活とはおさらばである。

曰く、『視えているから脅威となるのが殆どだ。視るな、識るな、聴くな、応えるな。それが一般人がするべき対抗策であり、絶対だ。霊が視えるということは、同時に障られるということでもあるのだから。』

 

知らなければ、怪異は生者に干渉するほどの力を持つことはない、(さわ)られない.....らしい。

しかし、『目線刈』で視えてないとはいえ、怪異に知らぬ存ぜぬで歩くのに慣れることに大変時間がかかったものだ。

 

『怪異にとって、認識、恐怖、共に餌だ。それに向ける思念が丸ごと餌だと思っていい。そんじょそこらの奴ら(怪異)は餌を持ってない者を襲わないからな、いいか?』

 

"いるかもしれない"という不安感すらも下手すれば危ないと言うのだから、なんというか理不尽である。

 

だけど、

 

 

だけど、じいさんは言っていた。

 

どこにでも例外が存在すると。

 

 

 

 

_______眼鏡が割れる。

 

 

()()()に出てみれば、この有様だ。

 

体は投げ出され、両手で地面を搔くように掴み、体勢を直し走る。

運動靴がキャリリと磨り減る音。

指には石が刺さって痛い。

地面に投げ出された眼鏡は置いてけぼりだ。

確かウン十万円の代物だがそれで命は買えはしない。

広がる視界。上がる明度、セカイの彩度。

夜の街にオーブが舞う、はははそりゃあ明るいわな!

 

忘れかけていた過去の恐怖がちらつき____今の恐怖に握りつぶされる。

 

 

殺される。死んでしまう。

 

何なんだ、あれは。

 

 

この街の夜は、命に関わるレベルで物騒。

ああ、過言では無かった。

 

眼鏡越しに視えてしまったもの。

眼鏡が、目線を刈り取れなかったもの。

つまり、眼鏡に込められた性能以上の存在規模か、『目』に関する特殊な能力を持つ上級怪異。

 

道路の脇のカーブミラー、

全力で通り過ぎる其処に映っているのは、

 

紛れもない化物(例外)だ。

 

 

 

荒い吐息。むき出しの歯の隙間から溢れる粘性の液体。

それぞれの顔から零れ落ちそうな程の目を回転させながら、無数に張り付いた口が、パクパクと餌に群がる魚のように蠢いている。

 

圧倒的オーラ。変動し続ける輪郭。むき出しの食欲。

 

多顔猪。それもヒトの顔。

老若男女全て生え揃った巨大怪異。

醜悪極まりない気配、音、見た目。

 

飛来する嫌な予感、眼と直列した感覚を頼りに横っ飛ぶ_______吹き荒れる風。電柱が落ち、自動販売機がメキメキと()()()

 

 

スパーク。ふっと街頭の光が消えた。

火花が落ちる。その一瞬の明かりが、ゆうゆうとこちらを見つめる化物を映す。

 

ヤバい。

 

一枚、続いて二枚御札を切り、振り返らない。走る。

 

実体化した怪異。あの移動速度と破壊力。

あれでは、呪い殺されるとか、生気吸われて死ぬ以前に潰されて死ぬ。蹴られて死ぬ。

 

心臓が煩い。

汗がシャツに張り付く。

嘔吐きが酷い、畜生、これでもじいさんに言われて鍛えているというのに!

 

気配。この気持ち悪い気配のせいか?

避けるのに役立っているものの一つだが、体力....生気を削って_____気配に飲み込ッヤバッ!!!

 

砕かれたブロック塀の欠片が頬を打つ。

真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに気配は僕を飲み込み、

そのまま直線上に破壊を撒き散らす。

 

目と鼻の先。

尻もちをつくように避けた僕を、あの多顔は横目に捉えていた。しかし、現に止まらず、微細な突進方向の調整すらせず。無駄に夜の商店街を壊しまくっている。

 

もうもうと上がる砂ホコリ、月明かりに光る多眼、ボロロロロロキャキャキャキャキと鳴り響く超常の()

 

つまるところ___

 

 

「猪だから速度がつくと止まれない......?」

 

 

それは少々、人間の思い込み(迷信)に影響されすぎてないか?

 

 

認識。記憶。感情。

怪異から神仏まで、かたや人に至るまで、

この糞超常的裏世界を支配する複数の要素、法則である。

 

神霊の構成要素の一つ、信仰を例えとするならばわかりやすいだろうか。

他には、土地や空に定着し、時の経過で増減する神秘なども重要だが、今は人から供給される要素に絞るとする。

 

怪異となるとそれらの要素の重要性は顕著だ。

別に神域やら巫女やらの手で存在規模を維持される神仏と違い、怪異は自分自身で存在を維持しなければならない。それは例えパワースポット、霊脈直上でも同じことが言える。人が栄養だけあっても空気がなければ生きていけないのと同義である。

 

故に、どうしたって怪異は怪異を考える人間の思念に9割近く在り方が影響される。それこそが、怪異を構成する存在基盤、最重要要素だからである。

 

怪談に度々表れる約束事。してはならないこと。

怪異に出会ったらすべきこと。撃退方法。

苦手なもの。その正体に至るまで。

 

全ての情報群は、全ての物語は、奴らは、

俺たち人間に影響され続けている。

 

 

 

 

そこまで、思い出して、考える。

猪にかかる"在り方の制限"。

これをどうにか活用して________ッ!

 

 

 

スパーク。街頭の最後の悲鳴。

全ては月明かりのみとなり。

暗闇に焼き付いた残像。

映し出されたヤツの全体像。

 

 

そこで、気づい(視え)た。

 

気づいてしまった。

 

僕が、怪異が活性化する危険な夜に、

商店街を訪れていた理由。

曰く付きの街故に、

夜に()()()()()()()()()()()出た理由。

 

()()()()()()()()()()()()の手がかり。

 

いや、その目的そのもの。

 

 

夜の闇に阻まれ、

オーブの光に阻まれ、

多顔のスピードとプレッシャーで捉えられていなかったその事実。

 

 

多顔に含まれる顔の一つに、彼女の顔があった。

 

 

 

てめえ。

 

 

寒気だろうか。怒りだろうか。

諦めだろうか。合点を得てしまったからだろうか。

 

 

冴えたのは肉体。

余りあった恐怖から生まれていた強張りが抜ける。

垂れる唾液。

脚を軽く曲げて。

 

 

飽きるほど避けた突進________ブラフか。

突進の慣性が効いたまま横に振るわれる致死の前右足を後ろに避ける__気を抜くなまだ!!

コンクリートの道を削りながら来る左足!!

 

左右の後ろ足はその体重と突進の慣性制御に必要、右前足は横に振った影響でバランスを崩し、左前足はアッパー気味に空中。

 

 

故に、前へ。

 

 

人体の動体視力を越えた左の蹄の振りあげ、アッパーもどきに()()()()()()()。右前足のバランスを崩している間、どうしたって振り下ろす場所、タイミングは制限される。

 

つまり、ここが一瞬の空白。

 

風圧で破れる皮膚と、飛び散る血、髪の毛。

歪む視界。弾け飛ぶ赤色の布切れ。確かな質量の凶器に、背筋がゾクリと震える。

だが、ギリギリで避けた分。

仕込む時間を生み出せた。

 

足が振り下ろされる場所を予想、予測、測定、観測。演算、解析。その結果(認識)を、捉える。

 

 

ここっ!!!

 

 

ラスト、3枚目の御札をポイントに投げ捨てて、

振り下ろされる致死を全力で避け転がる_____逃げろッ!

 

 

衝撃波を伴い振り下ろされたヤツの左脚の底が、キラリと光って。

 

 

 

爆発した。

 

 

 

背を向けていた僕も持ち上げられるように吹き飛ばされて、べチャリと全身をどっかの壁に投げ出される。

 

 

 

いたい

 

 

 

霞む視界。バラバラの思考をつらつらと回転させる。

血が止まらない。何もかもがボロボロだ。

 

だけど、まだ、いける。

 

三枚目の御札が確かに()()()

ならば、ならば、漬け込む隙はまだ生み出せる。

 

 

瓦礫に埋まり、薄く長い光の拘束具で雁字搦めにされた後ろ姿を直視しながら、じりじり下がる。

 

ぷちりぷちりと霊糸が千切れていく嫌な音。

盛り上がる筋肉、溢れ出る穢れ。

 

時間稼ぎも限界に近い。

 

いや、

 

考えろ。わかったこと。予想できること。推理できること。既知のこと。ぐるぐると、はらはらと、眼に力を込めて、()()()()()()()

 

今まで見聞きしたことのなかった多顔の猪という人食い怪異。怪異の特性上、噂は必ず立ち上る筈なのに、僕の眼にも耳にもそれは届かなかった。何故か?

 

それほどまでにてめえは弱かったんだろうよ。

人に知られ恐れられなければ怪異は弱体化する。

弱体化すれば人を更に襲いづらくなる。すれば更に忘れられ、弱体化する。その循環の果ては消滅だ。

 

だが、てめえはここまで強大になった。

じいさんの『目線刈』を突破し、魔眼という異能を持つ僕(生贄、餌として極上のもの)を襲える程に。それは何故か?

 

なるほどな、いのりちゃんを喰いやがったな。

 

隣家___神代(かみしろ)の家は代々の異能持ち。

末端と言えど、若き少女の血肉を喰い、それを着火点に現界すれば、こうなるか。

 

賢い。どこまでも賢いな、てめえ。

 

異能持ち、視える人が通りがかるまで存在規模を限界まで縮小し休眠、耐久し、ついに餌が来れば、本性を表し喰らい尽くし、次の餌が来るまで休眠する。実体化できる程度に地力が高まれば、現界し、異能持ち一般人関わらずの暴食。その果てに僕を見つけたか。

 

 

 

やってくれたな。

 

 

 

時間稼ぎは済んだ。

 

眼の奥で、ぴしりと何かが割れる音がした。

 

血でも溢れたかのように、

生暖かい感触が眼から流れ落ちている。

 

パランと視界に罅が這入って、端から零れ落ちていく。

 

月明かりに輝く、硝子状の透明な膜。

 

コンタクトレンズに偽装された特化型複合封印霊装、魔眼潰しの封印膜を突破し、激情のままに燦めくは_______ただ、見鬼の才と評されるもの。幻燈の魔眼。

 

人ならざるものを視る、聴く、知るだけの魔眼が、

翡翠の輝きを灯しだす。

 

 

ああ、そうだ。僕は無力にすぎない。

 

封魔や破邪の効果を持つ霊装もろくに扱えぬし、

もう御札一枚すら持ってはいない。

 

一枚は報せに、一枚は位相ずらしに、一枚は威力皆無の衝撃に。

 

だから、精々が逃げ回ることしか出来ないけれど。

 

 

「窮鼠猫を噛むってね!!!」

 

 

構える。

 

猪が瓦礫と即ち煙の中から表れる。

 

集中しろ。

 

蹄がコンクリートを刻む。

 

______来た。

 

 

風。音。そして殺気(赤色)

 

身が竦む命の危機。

 

 

()()()()()()()

 

 

認識を、砕く。

 

視えていた夢幻が意味を成さなくなる。

 

多顔の猪を、僕は知らない。

 

風は無い。音は無い。殺気など無から生まれぬものか。

 

砕かれたブロック塀などない、

街頭の灯りがいつものように点灯している。

 

いつも通りの夜。平和な街________

 

 

にいさん。

 

 

 

ッッッなわけあるかッ!!!

 

 

仮想が否定される。

 

過去は戻らず、また命も戻らない。

 

その事実は、否定しようがないほど鮮烈で、

 

自分の認識(現実)が、ネジ曲げるのを拒絶した。

 

 

 

無理矢理霊体化させた猪が実体化し___僕の後ろの壁に突き刺さっている。

 

舌打ち一つ、逃走を再開する。

 

ヤツの気配は健在だ。

 

 

失敗した。

自分を抑えることが出来ず、強制霊体化は破却された。

ヤツの存在を否定できなかった。

だって、ヤツによって失われたものが多すぎて、丸ごと全てをなかったことにするなんて、自分が自分を許せなくなるから。

 

ああ、だからこれは仕方がないこと。

 

次は逆だ。自分の戒め、奥の手といこうじゃないか。

 

使うたびに、自分を嫌というほど嫌いになるけど。

 

振るうたびに、自分の弱さに打ちのめされるけど。

 

だからこその戒め。

 

本当の最後、生き延びるための術。

 

幻燈の魔眼に込められた保存神秘。

 

 

天峰、御代の剣。

 

 

 

ここは、位相が意図的にずらされた簡易結界内、実体化できる怪異による現実での被害を抑えるための亜空間。

いわば術式上の仮想空間。境界の隙間に作り出される虚構軸。

そこに生き物は一つも居らず、いるのは術者である僕ただ一人のみ。

だから、可能なはず。

この空間において、僕だけに充てられた情報の海、有無の狭間を漂う器のサルベージの実行。

認識(現実)をネジ曲げ、仮想を幻燈する。

 

複数の生物が向ける意識の柱が存在せず、

現実性が不安定なここなら、ずるだってできるはず。

 

 

.......はずだよね?

 

 

不安を振り払う。

興奮しっぱなしの頭を無理矢理纏め上げる。

 

 

『何も持たない手』

 

『重さなき透明な■。』

 

『鋼の重さ、武具の長さ。』

 

『藍色の、断ちの刃』

 

 

連想、仮定、想像、創造、()()される遠い伝承。

 

ただ持つだけのみで儀式となる破邪の剣。

 

あり得ざる仮想の神秘。

 

決して傷つかず、また何かを傷つけることのないもの。

 

光の象徴。脱出の術。世界を斬るのみの刀剣にて。

 

模造剣・御形天式天峰御代剣

 

カタンと瞳の裏で剣が鳴る。

 

切り裂くは、この亜空間。

 

「ごめん、待ってて。助けを読んでくるから。この牢獄は、三日は持つ。それまで、待ってて。」

 

何も有効な対抗手段を持たない僕ができる最後の手段。

牢獄に怪異を閉じ込め、仲間を呼ぶこと。

 

とても情けないけど。

とても悔しいけど。

 

これが、最高最善のやり切れること。

 

だから、

 

 

「一時の別れだ、猪野郎。」

 

 

見慣れた突撃を横目に、

空間を切り払った勢いのまま、

隙間へと、僕は現実に向かって滑り落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

逃走、逃亡、脱走、高跳び、つまり、()()

 

したくなかったこと。

きらいなこと。

 

ただ、それでも、これはれっきとした力だって、

自慢できる力だって、アイツは言ってくれた。

 

だから、これは機会だ。

今度こそ、ヤツを倒すための、絶対の約束を。

 

 

 

 

 

現実境界面。

その少し外側部分を落下している。

 

ここは狭間の地。

断じて人が踏み入れてはならない禁所。

 

天式の導きを信じて、落下姿勢を修整。

気分はスカイ・ダイビング。

落下時間と比例してサラサラと自分が希釈されていく嫌な感覚が付き纏う。結構、マズイ。

 

 

「......!」

 

 

見えてきた、光。間違いない、基底現実世界の入口だ。

天式のアーキタイプが脱出の力を持つと言っても、所詮偽りの力、破綻しないギリギリの出力調整に、とてつもなく体が強張っていた。

思わず気が抜けそうになって、再度気を引き締める。

チクチクと体の痛みがぶり返してくる。アドレナリンが切れいてててててて......

 

さ、さっさと脱出して病院とじいさんに助けを求めよう。

 

っさあ!

 

 

「輝け、天式。」

 

 

白き光が、路を織り成す帯を生む。

薄く細く解けていく光の糸が、世界の傷へと殺到する。

 

ゲートオープン.....よしよしよし。

 

 

未だ体は落下中、時空的概念すら定かではない異界とはいえ、薄皮一枚向こう側は現実世界であり、その影響は無視出来ない。着地失敗でのさらなる怪我は断固阻止!

 

 

「エントリィッ!!!」

 

 

その瞬間、

現実世界の入口、世界の傷に足先が触れる一つ前であった。

 

傷を支える天式が()()()()からの高エネルギー反応を観測。警告_______されたってもう間に合わんわー!!

 

 

空気が変わる。

音が増え、匂いが生まれ、温度を感じる。

マグロの一本釣りが如く、傷を貫いた何かに足首を捕まれ、母なる大地に投げ出される。

 

 

 

ぐべっ

 

 

 

 

 

 

 

「対象αを確保。」

 

固有現実性の流出(UR-O)存在規模の損傷(ES-D)、精神汚染を懸念しサイトB14へ搬送します。」

 

「改変器官を確認。固定フィールド発生装置の稼働....問題無し。」

 

「命の別状はありません。ただ裂傷や擦過傷が特に酷いです。皮膚表面の消毒と保護を優先的に、点滴します。」

 

「あのー.....どちら様ですか....?」

 

「「「.......。」」」

 

「協力者の関係者だ。最低限の情報開示を認める。」

 

「了解。簡潔に説明します。人為的な神隠し現象を観測し直ちに現場に直行したところ、エリアDZ-34(商店街)にて出力過多な『人払い』『位相ずらし』の結界術式を発見。バイパスは内側より伸びていましたので術者は内部にいると推測されました。強力な結界は時に時空を歪めます。結界周囲に発生した歪んだ空間点を観測中、高位神秘性を()()()()より発見。霊体識別により術者本人と特定。結界術式の破却及び術者保護を名目に確保、拘束を行いました。」

 

「め、迷惑をおかけしました。境武サン...。」

 

「珍しく大事だこの野郎。何があった。残らず吐け。」

 

「も、もちろんですとも。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日後、街の大半を破壊しつくした多顔猪は休眠状態へと移り、極限まで存在規模を縮小、霊体化し、消耗を抑えていた。とある眼に関する異能を持つ猪は、それ単体だけで破格の隠密性能を持ち、生半可な異能持ちでは発見出来ない状態にあった。

 

この規格外の結界は長くは持たない、長くて一週間、良くて三日。結界と直列している術者の場所はすぐ解る、のこのこと這入ってきたところを喰い、回復に努めよう。

経験と本能、感覚に導かれるように朧気に思考する猪。

 

 

その背後に、

薄く波紋する、

空間の裂け目が生まれていて。

 

その奥。何もない暗黒の中で光る鋼の色があった。

 

細長い黒の包。

冷たい気配。何かを殺す意思。

貫かれる予感。

 

それを鈍感にも今まさに感じ取った猪は、後悔した。

 

 

ああ、これは死ぬな、と。

 

 

 

『穿け、黒鉄。』

 

 

 

吐き出される赤黒い電雷と共に、音速を越えて、弾丸が飛ぶ。

 

世界を、次元を、境界を越えて、

空間を螺旋に捩じ切りながら、飛翔するそれは霊体化した猪の一部を強制実体化させ、頭蓋の半分を抉り取っていった。

 

 

 

gaaaaaaaaaaa!

 

 

 

千切れ飛ぶ顔の塊。叫ぶ猪。

 

砲手は舌打ち一発、空間の裂け目から愛機を抜いて言う。

「触媒は触れさせた、後はお前らだ。もう次元間狙撃なんてやらせんじゃねえ。」

 

「あいよ。助かった。任せとけ。じゃ、結界解除よろしく!」

 

「わかりました。.....天式、頼む。」

 

白き柱が裂け目から立ち昇る。

くるりと結界を一周、二周、三周とないでいく。猪も建物も、何もそれでは傷つかず、なのに____未だ見えぬ規格外が、背筋を凍らす。

 

 

「結界半解除、空間融合開始。境界性歪曲。認識転換。現実照合。神代回帰、承認。」

 

『此れ即ち、神説の一つ、災厄の麓、地の御剣にて、天は龍を想起する。』

 

 

御覧、雲蛇薙剣

 

 

 

 

それは災害の如く。

街を横断せし八つの刃の一刀に、猪は消し飛ばされ______死んだ

 

 

「なんてね。」

 

 

ことは無かった。

 

傷つけることも、傷つけられることも許さぬ御剣故に。

 

しかし、怪異神仏共々の核、己が存在の基盤を担う領域は、確かに()()()()()()()()()

 

偽り。虚構。仮想。歪められた現実。誤認識。

 

その果てに、痴呆とも言える大きな隙を晒してしまう。

 

 

「ラスト頼んます、境武さん!」

 

「あいよ!」

 

 

崩れかけの世界、荒廃した街が零れ落ちていく、そんなまさに神秘的な光景の遥か上空にて、()()()()()()()

 

まるで絵画、まるで宇宙そのもの。

 

黒、紺、藍、紫、青、白、黄、赤。

 

月より明るく、そして鮮やかに、星々に質量が増していく。

 

「現実世界に影響がねーってことで、久しぶりに大判振る舞いだ! 未観測宇宙の神秘、食らっとけ!」

 

星芒術、その一つの顕れ。

衛星軌道から墜ちる星の力。

光の収束、またの名を、大出力レーザー(サテライトウェポン)

 

星の渦(青の八)天の形(黄の三)神の瞳(赤の二)刻の定め(黒の十二)人の見上げる天あらば(天津蛇口九重腕)星は意味を産むだろう(空穿狐石永火龍珠)!』

 

 

白色に染まる世界。穿たれる星の咆哮。

 

 

星芒(十三之空)天軌天(てんきあめ)

 

 

上がる大気中温度、空気の膨張により吹き飛ぶ周囲一体。

立ち上がる砂煙すら貫いて、

棒立ちの猪に天井より真っ直ぐ突き刺さった星の光は、

 

瞬時に対象を蒸発、

役目を終えたとばかりに、

光の柱のような残滓を残しながら、

星空とともに消えていく。

 

 

「対象の反応消滅を確認した。」

 

「討伐完了。基底現実に帰還する。お疲れ様。」

 

「...お疲れ様でした。」

 

 

残されたのは、分断、融解、崩壊、廃墟と化した偽りの街のみ。

 

怪異に喰われたものは戻らない。

逆に、喰われた者が怪異にならないように、徹底的な封印処置が行われる。

 

現代、日本。

生ける者の想念が、死んだ者の末路が蠢く、裏世界。

大切な誰かが消えた、そんな今日のことは、

静かに、そして呆気なく、

社会の影に消えていく。

 

 

それが、僕には、苦しく思えた。

 

 

 

 

 

 

説明して、謝って、泣かれて、お別れをして、泣く。

 

遺体は届かず、

死の実感は無く、

涙の意味を知ることが出来ず、

激情を向けられることも無かった。

 

時が経ち、新しい眼鏡をかけ、

墓を訪ねても、僕には何もわからない。

親の愛の形が其処にある。

偽りといえど意味が其処に立っている。

忘れゆく記憶の中で輝く、確かに生きていたという証明。

 

沢山のものを見せつけられて、

沢山の時間が過ぎ去って、

けれどもいのりちゃんが居なくなったという実感はない。

 

だって、

 

『そう自分の墓をジロジロ見られるのは、恥ずかしいなあ。』

 

 

マジで幽霊として出てくんのやめてもらっていいですか?

封印処置はどうした。やつに喰われたんじゃないの?

 

 

『ま、抜け道はあるもんだよ、特に異能者に限ってはごまんとね。実際、神の溢れ子たるアイツに時間稼ぎできたのは誰のお陰ー?』

 

ぐ.....いのりちゃんのお陰です。

 

『わかってるならよろしい。私の体ごとぶった斬った責任取ってね。』

 

最後に焼き尽くしたのは境武さんですよね?!

 

『星芒術者は()()()()()()()()()()のみしか殺せないじゃん、その前に私達ごと文字通り()()()()にしてくれちゃったのはー?』

 

なんでもいうことききます。

 

『ん、改めましてよろしくね。にいさん。』

 

 

 

 

死んだ実感は無い。

されど彼女は確かに死んでいた。

死者に訪れる未来はない。

少女らしい夢もはたと消えた。

 

どれほど笑い、泣き、怒り、その声で名前を呼んでくれたとしても。

彼女は世界に取り残されたまま。

死者たる停滞は、今まさに始まったばかりであり、

 

彼女の笑顔は、その永遠を微塵も思わせなかった。

 

 

薄く、透ける少女の背に、紅い彼岸が揺れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






キチゲ解放。
生活が辛い。



・御形天式/天峰御代剣/雲蛇薙剣

天叢雲剣にして、草薙剣。
日本神話における三大神器の一つ。
災害の化身、八岐大蛇の尾から引き抜かれた神剣、の真っ赤な偽物。
神話の再現術式とかでもない、()()()()()()()()()()()
傷つけることも傷つけられることも出来ない?
そりゃあそうだ、そんな大層な剣なんて元から持って無いのだから。
外部、または自身の認識に強く依存する怪異や低位神霊に効果を発揮する、子供騙し的な一回限りの自滅誘発術式。


・朔月黒鉄

月影の概念霊装。
空間と精神を司る偶像武装。

今回は狙撃銃の形を取り、次元貫通、精神汚染を担当した。猪の頭蓋を撃ち抜いた時、思考力、判断力、現実認識力を低下、誤認識しやすくする術式を展開していた。影の貢献者。月の狂気は有名なもの。


・星芒術

星芒、星の光にまつわる儀式系統の霊術。
観測宇宙、未観測宇宙の2つに大きく分類され、観測宇宙分野では言霊、未観測宇宙分野では秘匿を扱う。
長距離高威力攻撃や、時空観測を得意とする。


・多顔猪

多数の人間の顔を持つ人面猪。
幸運にも異能持ちの少女を食い散らし、現界。
不運にも、異能持ちの主人公に出会い、一時封印される。
空と山、瞳に関係する異能を保有するが、前二つは亜空間に閉じ込められた時点で意味をなさなくなり、最後の一つは主人公を見つけ出すのに使用されている。
とある山の神から派生した怪異。神の溢れ子。
その格位は失墜し、存在は穢れ尽くされた末路の姿。


・幻燈の魔眼

視る、聴く、嗅ぐ、味わう、触るの五つの感覚を含む『認識』を司る高位魔眼。
通常現実において、霊視や見鬼の才と同じ性能を持つだけの瞳であるが、一度現実性が少しでも揺らぐ場所であればその本質が顕わとなる。

実際として、現実改変能力、または認識歪曲能力に特化した魔眼であり、主人公の保有する魔眼出力では、自分自身の認識に依存した改変、歪曲現象を発揮できる。
怪異の回避方法にしても、『自分から怪異を見えなくする』=『怪異からも自分が見えなくなる』だけであり、『怪異から自分を見えなくする』ことは出来ない。
しかし、自己暗示を含む瞬間強化を多重に敷くことで、一時とはいえ世界すら騙す認識歪曲が可能となる。
作中では多顔猪の存在を否定することで強制霊体化を一時的に成功させたが、猪の被害者の存在まで否定出来ず失敗した。逆にとある神代の武器を肯定し、顕現に成功したが、そのスペックは主人公は想像、認識ができる範囲までであり、大幅な能力制限が課せられた状態であった。
燃費は言わずもがな最悪であり、幼年期では無意識に発現させて昏倒、または痴呆症に似た症状に苦しめられ、今のじいさんの家に預けられた。



・目線刈

眼鏡型封印霊装。
怪異神霊への認識阻害や装着者への魔眼殺し、霊的防御を恒常的に発動する高位霊装。『認識』なんていう怪異神霊共々喉から手が出るほど欲しい概念を操作する魔眼故に用意された特殊霊装。これをかけてないと毎夜の如く神隠しにあう。下手すると目玉だけの存在に改造される。幻燈の魔眼はいわば神秘増強装置だからである。
ウン十万円と主人公は語っているが、実際はウン千万円。じいさんが内緒で払っている。
魔眼より霊力を吸収し、一時的に神の眼すら欺く効力を発揮している。


・魔眼潰し

コンタクトレンズ型特化型複合封印霊装。
失明するレベルの効力を持つが、幻燈の魔眼には相性が悪かった。
眼鏡が運良く外れたり壊れたりすればこっちのものかと思えばそうではない。こちらは魔眼を封じることに特化した高位霊装である。感情の起伏による魔眼の発現を阻止し、魔眼がバカ食いしようとする霊力を遮断している。謂わば二重防壁である。


・三枚の御札

一般的で安価で量産された使い捨て霊装であるのだが、主人公がじいさんの戯れの付き合い時に作成時、無意識に魔眼と連結した挙げ句、認識が捻じ曲げられた結果、過剰効果を保有するに至った。
一枚目、救難信号発信術式。
二枚目、位相置換式結界術式。
三枚目、存在基盤を固定化し、強制的に吹き飛ばし、更に拘束する遅延術式。※威力はほぼ無い。

『自分が作った。』という認識がキーとなっている信仰霊装。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。