わたしはリュイスちゃんとユティルの尾行を再開する。当然のようにジャイールくん、ヴィドくんもついてくる。
リュイスちゃんとユティルの二人は相変わらず仲睦まじく会話しながら歩いていき、やがて一軒の露店の前で止まる。売ってる商品を見るに、アクセサリーなんかの小物かな。あまり一般的なおしゃれに興味のないわたしには、縁のないお店だ。
彼女たちは商品を指さしては楽しそうに笑みを浮かべ、いくつかは実際に手に取って品質を確かめている様子だった。お互いに近づけて似合うかどうかを比べているようにも見える。その様は、まるで……
「これって、デートなんじゃ……リュイスちゃん、ユティルのことが好きなのかな……」
「そうか? 単に仲がいいダチって感じに見えるが」
「デートじゃなきゃ、あんな風に似合うかどうか確かめないでしょ……!?」
「それは多分にアレニエ嬢の偏見が混じっているのではないか?」
「そんなこと……あ、また移動するよ……!」
あくまで小声で抗議しながら、わたしたちは再び二人を追う。
二人はその後も装飾品や雑貨を売っているお店に立ち寄っては、真剣に商品を眺めていた。その親しげな様子を眺めているだけで、心に謎のダメージを負っていく。
「わたし、人に執着しないほうだと自分では思ってたんだけど、結構束縛するタイプだったのかな……前にポルトの街で二人が仲良くしてるの見た時は平気だったのになぁ……」
もしくは、リュイスちゃんに同行を断られたショックを引きずっているのかもしれない。
「この程度のやきもちは一般的な感性だとも思うがね」
「そうかなぁ」
「お前みたいなのにも人並みの感情あったんだな」
「うるさいよ」
「まぁ、我々の目から見ても、アレニエ嬢とリュイス嬢は親密だったからな。それが離れてしまうかもとなれば、耐え難いだろうさ」
「それもあるんだけど……」
「けど?」
「なんか、ユティルがあんな顔見せてるのもモヤモヤするというか、寂しいというか、わたしにはあんな表情見せた憶えないからさ……これ、わたし、リュイスちゃんに嫉妬してるのかな」
「ほほう? 今少しその話を詳しく聞かせてもらってもいいかなアレニエ嬢?」
なんでよ。
「いや、そんな暇ないからね? あ、なんかお店に入った。あそこは……食堂だね」
基本食事はうちで済ますからたまにしか外食はしないけど、あのお店は何度か入ったことがある。この辺りでは結構高級に分類される食堂だ。あくまで下層の中では、だけど。
店には入らず、窓の陰から中の様子を窺う。リュイスちゃんとユティルの二人は小さめの丸テーブルに向かい合って座り、料理が来るのを待っているようだった。
二人はここでも和やかに談笑している。出会った頃の険悪な雰囲気が嘘のようだ。それは喜ばしいことでもあるのだけど、わたしの知らないところでこうして仲良くしてるのを見るのは、やっぱり寂しさが……
そこで、不意にユティルが腰を浮かせ、リュイスちゃんに顔を近づけ、彼女の髪に手を伸ばす。
「……!」
ユティルったら、こんな人の目があるところでそんな大胆な……!
寂しさか、嫉妬か、胸が締め付けられるような心地を味わいながら、身を乗り出すように窓に顔を近づけ凝視していると……
不意にユティルが窓のほうへ振り向く。咄嗟に陰に隠れる。
隣を見れば、ジャイールくんとヴィドくんも窓枠の下に隠れているところだった。ただし身体の大きいジャイールくんは、少しはみ出してしまっている。これ、お店の中からも見えちゃってるんじゃ……
「――気は済んだか、あんたら?」
案の定、こちらに気づいて店の外に出てきたリュイスちゃんとユティルの二人に、わたしたちは見つかってしまったのだった。というか、ユティルは台詞的にとっくに気づいてたけど泳がせてたなこれ。
「アレニエさん……? それに、ジャイールさんにヴィドさんまで……どうしてこんなところに……」
「ごめん。リュイスちゃんを尾けてました」
「え!?」
どうやらリュイスちゃんは気づいてなかったらしい。ユティルは一人でふらっと商品を仕入れに行っては平気な顔で帰ってくる、ある意味手練れの旅人で、周囲の気配にも敏感だ。そのあたりの経験の差が出たのかもしれない。
「リュイスちゃん……わたし、リュイスちゃんに迷惑かけてたかな」
「へ? なんでそんな――」
「だってわたしを置いていくし、ユティルとあんな楽しそうにしてたし、なんかお互いアクセサリーが似合うか確かめ合ってたし……わたしが嫌になったから、ユティルのほうに行って……それで、デートしてたんじゃないかなって」
「デ、デート!? いえ、それは誤解で、その……」
「わたしの普段の行動が問題なら、直し……うーん、やっぱり根本から直すのは難しい気がする。いや、ごめん、それでもリュイスちゃんが嫌ならちょっとずつでも直すから、だから――」
「~~違うんです、アレニエさん! あの、これ!」
わたしの反省(?)を強く否定すると、リュイスちゃんは懐から何かを取り出して見せてくる。
「……? これ、髪飾り……?」
それは銀色を基調とし、小さな赤い宝石をあしらった、綺麗な髪飾りだった。
「……私、こういうの選ぶの不慣れで分からないので、ユティルさんに見立ててもらってたんです。どんなのが似合うか、何を贈ったら喜んでくれるのか、想像しながら選んで……だから……」
そう言って、リュイスちゃんは顔を赤くしながら、その髪飾りをこちらに差し出してきて……
「……え? これ、わたしに?」
リュイスちゃんはコクコク頷く。
「アレニエさんの髪色に似合うと思って……いつもお世話になってるお礼に……」
「わたしに、プレゼント……なーんだ、そっか、そういう……」
わたしがどれだけ空回りしてるか分かり、安心すると共に一気に気が抜けてしまう。お礼なんて、わたしのほうが、いつもリュイスちゃんに貰ってばかりなのに……でも……わたしは笑顔でその髪飾りを受け取る。
「ありがとう、リュイスちゃん。……つけてみてもいい?」
「はい、もちろん」
普段こういうの使わないから慣れてないけど、なんとかつけてみる。大体おでこの右側くらいの位置に。
「こんな感じ、かな……? どうかな?」
「似合ってます。可愛いです、アレニエさん」
うわー、さっきまでとの落差もあってリュイスちゃんに褒められるのめちゃくちゃ嬉しいー、気持ちいいー。
ついでに他の面々にも見せびらかしてみる。
「どう? 似合う?」
「ああ、似合ってるよ。あたしの目利きの
「黒髪に銀と赤が映えているな。リュイス嬢もユティル嬢もセンスがいいじゃないか」
「俺はこういうのはよく分からねぇが、ま、いいんじゃねぇか?」
褒められて気を良くしたわたしは、普段の作り笑いじゃない自然な笑顔がこぼれ出していた。顔がにやけちゃう。
「いやー、よかったよかった。安心したらお腹減っちゃった。ちょうどいいからなんか食べて帰ろうか――」
「――ところでアレニエさん?」
そこで、リュイスちゃんの雰囲気が変わる。笑顔なんだけど圧が凄いというか額に青筋立ってるように見えるというか。
「尾行してたってなんですか? 私、宿で待っててくださいって言いましたよね?」
「あ、えーと……それは、その……」
助けを求めるように周りを見るけど……
「目的は果たせたみたいだし、ここで解散でいいよな、リュイスの姉ちゃん。あたしは飯食ってから帰るよ。イチャつくのもほどほどにしろよー」
「我々も行くか。二人の邪魔をしては悪いし、そもそも依頼を探しに行く途中だったのだからな」
「おう、そうだな。じゃあな、リュイスの嬢ちゃんに〈黒腕〉」
口々にそう言うと、三人はそそくさとこの場を立ち去ってしまう。くそう、薄情者たちめぇ……
「――それでは、アレニエさん? ちょうど座れる場所に来たことですし、じっくりお話を伺いましょうか?」
「はい……」
こういう時のリュイスちゃんは怖いし強い。というわけで大人しく叱られるとしよう。
本日の教訓。親しい人の尾行はほどほどにしましょう――