魔法少女Imagine   作:MOPX

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破壊者(Hero)

機関の一室は、文字通りの真っ白だった。

少しの汚れもないそれは(相変わらず味気のない)些細な間違いも許さないようだ(どうもワクワクが足りない部屋だ)

ここにいる人達にも(秘密の基地なら)文字通り完璧で瑕のない清廉潔白さ(秘密のアイテムのひとつやふたつ、)を求めているのか(飾っておいてほしい)

 

 

真っ白で、綺麗。

それでいいか。

 

しかし、せっかく表向きは学校ということになっているのだから、一捻りはほしいところだ。

教室が変形するとか、プールが海割りの如く真っ二つに開くとか……。

 

「待たせたわね」

 

声と共に、待ち人は来た。

普通に、扉を開けて。

 

「……」

 

「何? 不服そうな顔をして? 待遇ならもっと上の人に言って頂戴」

 

「アレ、やらないんですか? 初めて会った時の……」

 

はあ? と目の前のその人はわかりやすく怪訝さをあらわにする。

この人は、木村鏡(魔法使い)さん。

 

文字通り、突然に家の玄関に現れた人。

何もないところから姿を現した時は正直、興奮した。

 

私のジョウシに当たる存在らしいのだが私の中では魔法使いさんで通っていた。

その方が、――楽しい。

 

「ま、あなたも面倒だと思うけど付き合って頂戴。一時間程の、まあ……面談ね」

 

――面談。

 

「私、どこか悪かったんですか?」

 

思わず口に出た。

体調なのか、行動なのか。

言ってから両方に取れることに気づいた。

 

「いやあ、全然。健康そのもの、働きも理想的なまでに万全。でも最近は面倒な世の中でね。あなたみたいな年齢の子を戦わせて大丈夫なのか? って声が上がっているのよ。それで魔法少女全員のメンタルチェックの時間が義務付けられた」

 

魔法使いさんは、対面の椅子にどかっと座った。

私はその様子が何だかおかしくて、ちょっと吹き出してしまった。

 

正直な人は、好きだ。

 

「ま、大人の罪悪感を紛らわすためと思って協力して頂戴。クソ忙しいのはこっちも一緒よ」

 

「モンスター、やっぱり増えてるんですか?」

 

「進行はこっちに握らせてほしいんだけど……。まあ世界各国てんやわんやね。でも我が国が一番多いわ。初めて確認されたのもそうだし、巣でもあるんじゃいかって話よ」

 

目の前の女性は他人事みたいに言った。

魔法使いは俗世に興味を持たないものなのだ。

 

だからこそだ。

 

世界を救うのは魔法少女だと相場が決まっている。

 

 

 

「そんなに義務感を背負わなくてもいいわよ」

 

「え?」

 

自分でも気づかず、目線を落としていた。

拳は固く、握られていた。

 

「でも――戦えるのって魔法少女だけなんですよね? じゃあ戦わなくちゃいけないんじゃないですか? それが普通じゃ、ないんですか?」

 

「普通の定義を合理性とするならそうかもね。でも、それだと世の中に普通の人間は、ほぼいないでしょうね」

 

ケラケラと笑い声が上がる。

白い部屋を支配するように、反響する。

私は少しのワクワクを感じながら、その真意を聞くのだった。

 

「簡単な話よ。私達は主観でしか世界を認識できないから。客観的なデータも判断基準を与えているのは人間よ。客観を主観の共通部分としても、サンプルの取り方で無限に答えは変わるでしょうね」

 

「……それって人によって正義が違うって話ですか?」

 

「あればいいんだけどね、正義」

 

緑の結んだ髪をたなびかせ、立ち上がる。

何かと思えば、部屋の隅にあるポットからお茶を淹れるらしい。

私も自分の分を淹れようと立ち上がったが、制止されてしまった。

 

まあ、無視するのだが。

 

「あなた、こういう時は私の顔を立てなさい。逆に失礼よ」

 

「いいじゃないですか。何か楽しいですよ」

 

「なにそれ」

 

お茶を淹れながら考える。

私はポットがそこにあると認識していなかった。

 

確かに、主観だ。

 

 

 

 

 

紙コップに淹れたお茶をゴクゴクと飲み干す。

おかわりをしようかと思えば、対面ではコップに口も付けず見つめる姿。

 

その唇は、ついに容器には付かず、言葉を紡ぐ。

 

「黄原さん、あなたは器についてどう思う(器ってなんだと思う)?」

 

器。

コップとかのことだろうか。

 

どう? と聞かれてもよくわからないので、好きに考える。

聖杯――聖人に纏わり、歴史と共に神秘性を重ねたそれは今、いずこに……。

 

 

「何やら目を輝かせているけど、質問が悪かったかしら……。私が言っているのは人間の器ってやつね」

 

人間の器。

確かに器が大きい人、と言ったりする。

でも、何かと言われたら、確かに難しいかもしれない。

 

「人間にも注ぐのかな。何か……うーん」

 

「ふふ、私の答えにある意味近いわね。個人的な見解だけどね、人間に注ぐものは……」

 

ふんふん、と私は身を乗り出した。

こうした受け答えをする時の木村鏡(魔法使いさん)は神秘さを宿している。

私のワクワクを、刺激してくれる。

 

魔法使いの唇から、漏れ出た言葉。

それはさながら呪文のようで。

 

人間に注がれるもの。

それは――。

 

「人の意志よ」

 

心がふっと温まる感触。

 

「意志? 心を人に注ぐんですか?」

 

心は形のないものだ。

もしも、人に注いだりしたら――。

 

その人は、どうなってしまうんだろう。

 

「比喩よ。習ってない? まあいいわ。イメージとしてはそうね……どれだけの人の意見を受け止めることができるか」

 

「それってそんなに難しいんですか? 意見を聞くのなら時間さえあれば――」

 

「あなたはそうかもね」

 

ふふっと意味あり気に女性は笑みをこぼした。

そこに一抹の寂しさを感じたのは、気のせいだろうか。

 

「大きくなっても……いえ、大きくなってからの方が難しいことよ。今の時代、やれ承認欲求だと10万人、100万人……もっと多くに自分の考えたことを発信したいって言う人もいる。でもその度に私は思うのよ。10万人、100万人に耐えうる器は果たして存在するのかって。仕事で数人に意思伝達するのも大変なのにね」

 

その言葉の真意は、私にはわからなかった。

 

だって魔法使いの言葉だから。

 

私には、わからなくて当然なんだ。

 

でも、それが意図をもって伝えられたのはわかるから。

だから、私は聞き返した。

 

「何でそんな話をするんですか? 免許皆伝的な……?」

 

「わかんないかしら? 非常に不安定な時代……十年後には人類は滅んでいるんじゃないかって悲観的な憶測もまかりとおる状態よ。人々はヒーローってやつを求めているわ。……さて、ここで問題よ。ヒーローに求められているものって何かしら? 自分の身を犠牲にすること? 違うでしょう。ヒーローには生き残って、がんがん人を助けてもらいたい。だとすれば?」

 

「それが……器?」

 

「そういうことよ。人々の善意を、願いを――注ぎ込めれたそれを、こぼさず、できる限り取り込み、吸い上げる器。でも、これも幻想よ。だって全ての人間(欲望)を受け止められる人間()なんてものは、この世界に存在しないもの。もしそんなことをすれば、願いが溢れて漏れ出すか、あるいは――」

 

魔法使いは、こちらを睨んだ。

 

「器が壊れるか、ね」

 

私は首をひねった。

どうやら、自分にはまだ早いらしい。

 

でも、魔法使いの――木村鏡さんの一言一言を、私は胸にそっと刻んでいった。

自分に対してのものだと、それだけはわかったから。

 

「よくわからないけど、ヒーローはすごいってことですね!!」

 

「……。あなた、察しの良い時と、悪い時の差が激しすぎて心配になるわ。ま、なるようにしかならないから気負わないでってこと。……特別カリキュラムがある小学校という体。そんな場所に編入されて、主要都市への被害が連日報告されている――」

 

ふうっと溜め息が聞こえた。

 

「全部を受け止めれる人間なんて、普通じゃない。そんなものは、目指さなくていい」

 

「――」

 

木村鏡さんの言う通りだ。

自分の力を、可能な限り他人のために尽くす人間。

辛いこと、悲しいことを人に背負わせず、代わりに抱える人間。

 

それを成そうとする人間。

 

そんなものは、普通じゃない()

 

「心配しないでください。私、普通でいますよ」

 

「なら、いいんだけどね。……そうそう、言い忘れてたけど、本来なら真っ先に聞かないといけないことがあったわ」

 

そもそも、この部屋に来たのは何のためだったか。

思い出すよりも、質問が先に飛んできた。

 

「最近、悩んでいることとか、困っていることはない?」

 

少し思案してから答える。

 

「妹の――黄穂のお気に入りの配信者さんが最近音沙汰ないみたいで……どうしちゃったと思います?」

 

はああああ……。

 

今日一番のクソデカ溜息に見舞われてしまった。

私は何か変なことを言ったんだろうか。

 

「物騒だからどこかへ避難してそれどころじゃない、嫌なことがあって辞めた、思ったより人気が出なくて辞めた、好きなのを選んで頂戴。あと――」

 

魔法使いさんは、心なしかバツが悪そうに言うのだった。

 

「たまには自分のことを考えなさい、あなたは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分。

 

その簡潔な概念(キーワード)で意識は戻ってきた。

 

場所は、学校の屋上。

 

学校(世界)には、誰もいないことを知った後。

 

私は――。

 

 

黄原黄依、魔法少女。

この世界の悲しみを全て破壊する。

 

 

空を見上げる。

真っ暗な空は、クリームをかき混ぜるように渦巻いている。

 

地を見下ろす。

遠くでこちらに向かっている少女の姿が見えた。

 

ずきんと、頭が痛む(記憶が疼く)

 

そうだ、もう思い出してしまった。

あるいは、最初からあったものを私が認識できていないだけだったのか。

相談室に置かれたポッドみたいに。

 

自分がどうして、ここにいるのか。

その意味を問いかけるために、今一度、空を見上げた。

 

不意に後ろ髪を引かれる想いが湧いた。

 

これも、私を形作る要素に違いなかった。

きっと、心にずっと引っ掛かっていたに違いない。

私は、この世界の悲しみを消し去りたかった。

でも、結局、みんなが納得する選択というものは存在しなくて――。

 

大切だったはずの存在を、悲しませてしまった。

 

私の意識がまたしばらくの間、まどろう。

まるで紙切れが風い吹かれて飛ぶみたいに。

空間を無造作に漂流していった。

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

モンスターとの戦いが佳境になる中、私は一日だけ家に帰ってきた。

 

「黄依姉~!!」「お姉ちゃん!!」

 

玄関へ入るなり、黄穂と黄乃が飛びついてくる。

 

「二人とも、足が汚れちゃうよ。もう~」

 

二人を両手で抱えたまま、ゆっくり進む。

久しぶりの我が家、久しぶりの感触。

 

日々、平和のためにモンスターと戦う魔法少女。

今日は一日だけ、自由にしていいと言われた。

大きな戦いが控えているから、その代わりに、ということだ。

 

外では木村鏡さんが車を停めて控えている。

一応、監督役らしいけど家までは立ち入らないと言っていた。

本人は面倒を見るのが嫌だから、主張していたけど。

 

でも、おかげで、こうして妹達との時間を過ごせている。

 

……まあ、まだ靴も脱げていないわけだけど。

 

「二人とも、お姉ちゃんは靴を脱ぎたいなあ……」

 

「……ダメ!! お姉ちゃんはここにいるの!!」

 

「玄関に!? くつろげないや……!!」

 

「いや、待て黄乃……!!」

 

黄穂がはっとした顔をする。

不思議そうに首をかしげる黄乃に提案をするのだった。

 

「このままだと黄依姉、またどこかに行っちゃうんじゃない……? 靴を奪え!!!!」

 

「……!!!! 頭、良い……!!!!」

 

「ちょ、ちょっと二人とも!?」

 

足に小さな体が二つ。

無理やりに触ってくるものだから、何だかくすぐったい。

 

「奪えー!!!!」「奪えー!!!!」

 

「もう、黄穂も黄乃も……元気そうで良かった」

 

自分の声が少し震えているのがわかった。

安堵で気が抜けたのかもしれない。

 

それに、もう一人。

奥に見えた影に、私は手を振った。

 

「黄結も、ただいま~」

 

「……」

 

二つ歳下の黄結。

私がいない間は一番のお姉ちゃんだったわけだから、いろいろと大変だったのではと思う。

 

黄結は私の顔を見ると、軽く溜め息を吐いてそそくさと奥へ引っ込んだ。

ぽりぽりと頬をかく。

黄結の態度は良くも悪くも変わっていなかった。

もしかすれば、と淡い期待を寄せていたのだが……。

 

(それもまあ、平和な証拠かな)

 

足に嚙みつきそうな勢いの、黄穂と黄乃を抑えて、何とか靴を脱いだ。

 

私の居場所は――。

 

懐かしさが、足を通して伝わる。

踏み入れた()は、間違いなく私の記憶の通り、優しさに溢れていた。

 

 

 

帰ってくるなり、私は居間へと黄穂にエスコートされた。

何やら準備……というか企てがあるようだ。

 

部屋に入った時に、私の目に飛び込んできたのは――。

 

机の上に並んだ大量のお菓子だった。

スナック菓子にチョコ、煎餅の袋が中央の机に所狭しと並んでいる。

 

「黄穂、これって……」

 

ふふん、と黄穂が鼻を鳴らす。

 

「ご飯の代わり? ちゃんとご飯食べないとダメだよ?」

 

「ち、違う!! それにちゃんと一日三食ご飯も各五杯食べてるよ!! これは黄依姉の分!!」

 

「え……? 私の?」

 

「そう、題して……黄依姉がホームシックになってお家に戻ってくる大作戦!!」

 

「……」

 

とりあえず、黄穂は相変わらず良く食べているようで安心した。

黄穂の食べっぷりは我が家の食卓の象徴だ。

 

「お姉ちゃん、私も……」

 

「黄乃? どうしたの?」

 

「これ、黄乃の宝物……あげる」

 

「いやいや、受け取れないよ!!」

 

黄乃が差し出してきたのは、魔法少女のアニメのカードだった。

これは、グミのおまけで付いてくるやつのはず。

 

カードには黄色のドレスに身を包んだ魔法少女が描かれていた。

黄乃のお気に入りの子だ。

 

私は黄乃の手を握って、そっと戻した。

 

「どうして? お姉ちゃん嫌だった?」

 

「ううん、黄乃が自分の大事なものを渡そうとしたのは……嬉しいよ。でもこれは黄乃にとって宝物でしょ? だったら自分で大切にしなきゃ。きっとこの子も、その方が喜ぶよ!!」

 

私はカードに映った黄色い魔法少女を指さした。

黄乃はわかってくれたのか、静かに頷いてくれた。

 

好きなものを、好きでいる気持ち。

それはとても尊いことだから。

 

色とりどりのドレスを纏う、個性豊かな少女達。

デザインでも、性格でも、ちょっとした台詞でも。

好きになったのなら、その人なりに琴線に引っ掛かるところがあったはずだから。

 

だから黄乃には黄乃の、好きになった気持ちを大切にしてほしい。

 

 

「黄乃~、だからグミをあげた方が喜ぶって言ったじゃん。黄結姉もほら、プレゼントプレゼント!!」

 

「……」

 

「え? 黄結も何かあるの~?」

 

部屋の隅でスマホを弄っていた黄結。

大きな溜息を吐き出すと立ち上がり、机の端に置いてあった籠を指さした。

 

どうやらガチャガチャのカプセルが大量に入っているらしい。

中身は――。

 

 

モアイ。

 

 

「アアアアァァァァ!?!? ほしかったフィギュアのやつ!?!? どうしてここに!?!?」

 

基本全六種。

イースター島の個性豊かなモアイを匠の業で再現したシリーズ。

モアイは一体一体、高さも顔つきも微妙に違うし、被り物をしていたりするのだ。

現存する全てのモアイを再現する試みは、玩具を越えて一大事業だと言っていい。

私が機関に編入されてから新弾が出て、コンプリートは諦めてたのに……!!

 

「……別に。たまたま見かけたから」

 

「あ、開けて良い……?」

 

私は籠のカプセルを掴むと、ひとつ開封した。

きゅぽっ、という音が何ともたまらない。

 

「お……!!」

 

アフ・トンガリキに並ぶ十五体のモアイ像。

その内の一体が、今、私の手の平に……。

 

「いやあ~出来もさることながら、このカプセルを開ける瞬間のワクワク感がたまらないんだよね~」

 

「へへ、私は開けてから渡せばって言ったんだけど黄結姉が『自分で開けた方が喜ぶから』って!!」

 

「そうなの? 黄結、ありがとう!!」

 

「……別に。開けるのが面倒だったから、そう言っただけ」

 

「べつに~。べつに、べつに、べつに~」

 

「黄乃!! 真似するのは止めなさい!!」

 

「ふふ……!!」

 

思わず笑みがこぼれてしまった。

何だか懐かしささえ、感じてしまった。

 

黄乃がちゅうも~く、と手を叩いた。

私と、黄結と、黄穂の視線が向く。

今度は一体、何だろう。

 

「これから黄依お姉ちゃんのお誕生日会を始めます!!」

 

「ええ!? そういえば今日は私の誕生日……!?」

 

改めて日付を思い出す。

今は10月。

 

今日は私の誕生日――。

 

 

ではない。

 

 

「――誕生日の1か月くらい前だ!!」

 

「んにゃ? お誕生日会って誕生日じゃなきゃダメ?」

 

曇りなき瞳でこちらを見詰める黄乃。

この純粋無垢な妹に、真実を突き付けるのがどれほど残酷か――。

 

こちらを見詰めてフリーズしてしまった末っ子に、黄穂が助け船を出す。

 

「まあいいじゃん。誕生日の前夜祭、前々夜祭、ぜんぜんぜんぜんぜん夜祭……」

 

「ぜんがいっぱいやさい!!!!」

 

「あはは!! うん!! いいかも!!」

 

何だかノリで決まってしまった。

黄原家の誕生日会は、1か月前から。

もうそういうことに、しちゃおう。

 

それにしても、と私は黄穂に声をかけた。

会話を良い感じの着地へと導いてくれた妹に。

 

「黄穂も、もう立派なお姉ちゃんだね」

 

「……」

 

「黄穂?」

 

「私も黄依姉にはどこか行ってほしくないから、それだけ!! これから1か月誕生会!!!!」

 

妙にはっきりとした口調。

いつも柔和でムードメーカーな黄穂にしては珍しい――いや、初めてかもしれない。

 

私が見ていない間に、やっぱりいろいろあったのだろうか。

 

胸に湧いたのは、少しの冷たさ(寂しさ)

 

そんな思いを片隅に残して、私の誕生日の前々々々々……夜祭は行われた。

お菓子を食べたり、大きなディスプレイで映画を見たり。

 

私は久しぶりの妹達との時間を大切に過ごした。

その間も、黄結は憮然としてあまり話そうとはしなかった。

 

 

 

 

 

楽しい時間は、あっという間に過ぎるものだった。

日が沈みかけ、部屋の光も心なしか影を帯びる。

私は黄乃といっしょにパソコンに向かい合っていた。

 

「お姉ちゃん、次はこれ見よ!!」

 

膝の上で黄乃がマウスを操作して、カチカチと音を鳴らす。

さっきから間髪入れずに、検索をかけたり、適当にクリックしたり。

 

私としては、黄乃が楽しそうならそれでいいんだけどね。

 

ふと、視線が下がった。

何故なのかはわからない。

 

目に入ったのは、パソコンの隅に映った数字の羅列。

それが意味するものは――。

 

「お姉ちゃん!! こっちを見て~!!」

 

「あ……うん」

 

現在時刻。

 

「お姉ちゃん~!! 見て見て見て~!!!!」

 

今は一体、何時何分だっただろう。

 

「見てってば!! お姉ちゃん~!!」

 

約束の時刻は、いつだっただろう。

 

「お姉ちゃん……お姉ちゃんってば……」

 

妹達、過ごせるのは後――。

 

 

私は、ばたばたする黄乃を膝から降ろした。

 

 

黄乃が大きな声を上げる。

相変わらず端末を見詰めていた黄結も、ごろごろしていた黄穂もこちらを向く。

 

「やだー!! お姉ちゃんはここにいるのー!!!!」

 

私は困ってしまった。

こればっかりは大事な妹の頼みでも聞けない。

 

「行かなくちゃ、もう。黄結も、黄穂も、黄乃も今日はありがとう!! おかげで楽しく――」

 

しゃくり上げる声に私の言葉は遮られていた。

 

黄乃は泣いていた。

 

 

 

「私が魔法少女みたいって言ったから……お姉ちゃんが魔法少女になって……どこかで戦わされてるんでしょ!! お姉ちゃん!!」

 

戦わされてる。

 

ショックだった。

 

何よりも黄乃の口から出てきたことが。

 

「私は自分の意志で……じゃ、なくて、あの組織には協力をしているだけで……その……」

 

「バレバレだよ黄依姉。今だってはっきり否定しないじゃん。嘘、つけないんでしょ」

 

「黄穂……?」

 

黄穂の目は真剣そのものだった。

まるで、こちらに食って掛かるような勢いで。

それだけ必死だというのが伝わってきた。

 

「もういいじゃん。黄依姉、頑張ったよ。後は他の人に任せてさ」

 

「そんなことは……。大丈夫だって、これ秘密だったけど戦いは後ちょっとだから。そうしたら、戻ってくるから……」

 

「……モモミン」

 

「え?」

 

「モモミンだよ!!!! モモミンだって急にいなくなっちゃった!!!! きっとモンスターに襲われたんだよ!!!! 不安なんだよ!!!! ニュースを見る度に!!!! 黄依姉がどうなっているのかって!!!!」

 

私は言葉を返せなかった。

いつだか、木村鏡さんの言っていたことを思い出していた。

 

物騒だからどこかへ避難してそれどころじゃない。

嫌なことがあって辞めた。

思ったより人気が出なくて辞めた。

 

好きなのを選んで頂戴――。

 

そっか。

 

彼女は。

 

本当に、一番怖い可能性は私には言わなかったんだ。

 

 

 

「……どこへでも行っちゃえばいいのよ、姉さんなんか」

 

「……黄結」

 

「黄結姉!! 今のは怒るよ!! 喧嘩なんて後でいいじゃん!!!! 今は何とかして黄依姉を……!!!!」

 

「知らない!! もう知らない!! いつもそうやって一人で何でもやろうとする!! お節介も大概にしてよ!! だからせめて、自分のことは自分でやりたかったのに、構ってきて……」

 

私は黙ってしまった。

知らなかった。

 

いや、もっと正確に表現するべきだ。

 

私は知ることができなかった(わかってあげれなかった)

 

「ごめん、ごめんね、黄結……」「あやまらないでよお!!!!!!!!」

 

黄結の叫び声が部屋にこだまする。

黄穂は、俯いて黙ってしまった。

黄乃は、いよいよ大声で泣き出してしまった。

 

黄依()はそこに突っ立っていた。

まるで故障したロボットみたいに。

 

「良い子をこじらせて世界を救うだなんて笑わせないでよ!!!! そんなに行きたきゃ行けばいいのよ!!!!」

 

傍にあったカプセルが投げつけられる、私に。

 

球状のそれは、音を立てて転がった。

 

楽しかった思い出(日常)が崩れていく。

 

でもこれは自業自得だ。

 

黄結も、黄穂も、黄乃も。

私には見えていなかった。

私が見たいように、見ていただけだった。

 

「魔法少女なんて大嫌い!!!! なんで何人かで世界を救わなきゃいけないのよ!!!! なんでそんなこと押し付けられないといけないのよ!!!! お父さんもお母さんも姉さんもいなくなって!! 私は普通の家でよかった!!!! ヒーローも魔法少女も大嫌い!! 姉さんだって!! だい……き……ら…………」

 

言葉はそこで途切れた。

代わりに涙が落ちる音が、ぽたぽたと。

 

私は黄結を抱きしめた。

 

黄穂も黄乃も小さかったころは、二人で魔法少女のアニメを見た。

毎週、戦いのシーンで手に汗握った。

終わったらそのまま、変身ごっこをして遊んだ。

 

あの時の瞳の輝きは、歓声は、楽しさは、私の思い込みじゃない。

 

だから、黄結がこうしたことを言ったのは。

それは、黄結が優しい子で――。

 

誰よりも、魔法少女が大好きだったから。

 

「黄依姉!!!!」「お姉ちゃん!!!!」

 

黄穂と黄乃が私に抱きつく。

 

温かい。

久しぶりに、本当の意味で――。

 

姉妹四人、いっしょだ。

 

 

時間は来た。

 

わかったことがある。

 

私の居場所は間違いなく、この家だ。

 

――でも。

 

魔法少女の居場所はここじゃない。

 

自分の器がどれくらいの大きさなんて、わからないけれど。

 

三人分あれば十分だ。

 

例え妹達に止められたって。

 

私は黄結と黄穂と黄乃の未来のために戦う。

 

 

 

――行かなくちゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、私はここにいいる。

黒い雲渦巻く場所、その一番近くに。

 

鮮明になってきた記憶を、もう一度辿る。

 

あの時、私はモンスターとの最後の戦いに赴いた。

 

モンスターにはそれぞれ『()』と『()』の関係がある。

怪物が周囲の物を取り込み、力を蓄えると分裂するようにその個体を増やす。

 

元になった存在が『上』、生み出された存在が『下』。

『下』の存在もやがて大きくなれば、更に下を形作る。

枝分かれしていくツリーのように。

そうして怪物たちは無尽蔵に、数を増やしていった。

 

だが、この形態(システム)にこそ、あいつらの弱点があった。

 

『上』の個体を消せば『下』の存在は根こそぎ消えていくのだ。

 

子を残すためではなく、『一番上』の手足。

だからこそ奴らは、やはり我々とは相容れない。

命ある生き物ではない。

 

侵略者で()だった。

 

そして、これこそが人類の見出した勝機。

 

『一番上』と思われるエネルギー源の察知。

虚数エネルギーの密度から近付くことさえ難しい。

 

対抗できるのは、強い魔法力(負の虚数エネルギー)を持つ魔法少女だけ。

 

最強と謳われた魔法少女を送り込み、(私は最終決戦へと臨み)最後の望みを託した(妹達の未来を祈った)――。

 

 

怪物の親玉との戦い。

最後(未来)を賭けた一撃。

 

その瞬間に――。

 

少女の泣き顔を、見た気がしたのだ。

 

 

 

そうだ。

 

やっと思い出した。

 

私が、ここにいるのは――。

 

紫王紫。

 

彼女を――。

 

 

 

 

 

――こんな『特別』、私は嫌だった。

 

――お願い、誰か私を――。

 

――どこへ行っても、同じ。またこいつに、奪われて、苦しむことになる。

 

――終わらない、永遠の悪夢が続くの。

 

 

 

――それが、あなたの願い?

 

――ごめんね、私には壊すことしかできないの。

 

――だから、せめて。

 

 

 

――その悲しみを破壊する。

 

 

 

どんなに遠くへ行っても(時空を超えて)どんなに時間が経っても(未来永劫)

 

あなたを探しだして、いつか必ず苦しみから救う。

 

あなただけの破壊者(Hero)であり続ける。

 

 

特別だった私が、特別だったあなたのために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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