「いってきま~す!!!!」
私の名前は
学校に行く前に今日もジャージでランニング。
元気がありあまって、消費しなければいけないのだ。
この世界には、きっと秘密があふれている。
私達の知らない中で繰り広げられる戦い……秘密の組織が、この世界を脅かす存在と戦うお話。
人によっては「そんなものは作り話の中だけだ」なんて笑い飛ばすかもしれない。
でも、どうしてそれが「本当は無い」なんて言い切れるだろう。
だって私達が知らないからこそ、それは秘密の物語なのだ。
私はそんな秘密を探して、日夜、調査に励んでいる。
気分は名探偵といったところかな!!
今日もワクワク、キラキラしたものをたくさん見つけれたらいいなあ。
「今日も太陽サンサン!!!! まるで私を祝福してくれるよう!!!!」
空がさっと曇る。
辺りが闇に覆われる。
「は?? え??」
空には、ぐるぐると黒い渦。
こんなものを目にしたのは、初めてのはずだ。
これは恐らく……。
「世界の命運を託された戦いが始まろうとしている……?」
もしくはカタストロフィーか。
この事実を知らせることは民衆に混乱をもたらすから秘匿されていた……。
「あ、撮らなきゃ」
私はジャージのポケットに入れていたスマートホンを取り出した。
少なくとも後で見返すのに役に立つだろう。
後で超常現象を取り扱った雑誌に送るのもいいかもしれない。
取り立ててもらえれば、世界の秘密を追う取材班になれるかも……!!
「UFOの大規模転移の前触れだったら後世に残る貴重な資料になるかも……!! 綺麗に撮らなきゃ……!!」
カメラのズームをいじる。
画面を通して見るそれは、いまいち作り物感が出ていた。
私は端末を戻していた。
自分の目で見たかったから。
まるで上空だけ竜巻が巻き起こっているみたいだ。
画に黒い絵の具をぶちまけて、筆でかき混ぜているような。
見惚れるように、その光景を見ていた。
一瞬、閃光が走った。
空気が破裂する音。
全身を貫く程の衝撃。
私は瞬時に耳を閉じ、口を開け、身を屈めた。
まだ余波がくるかもしれない。
転移してきた宇宙人に攻撃された。
ある程度は納得のいく仮説だ。
衝撃が収まったのを確認して私は体を動かした。
空はまだ、真っ暗なまま。
あれだけの衝撃だと周りに怪我をした人がいるかもしれない。
そう思って十字路へと出てみると――。
道に見慣れないモノがいた。
慌てて身を隠し、ゆっくりと姿を確認する。
大きめの馬かと思ったが、全身は不自然なほど真っ黒で、頭には大きな角が生えていた。
これはまさしく――。
「ユニコーンだ……!! ユニコーンは宇宙人の尖兵だったんだ……」
そうだったのか。
これが世界の秘密。
UMAも恐らく宇宙人が送り込んできた種だったのだ。
だとしたら超古代文明は?
もしかすると宇宙人は元々は地球に住んでいたのかもしれない。
星を捨て流浪の民となった彼、彼女らは生物に品種改良を重ねて戦闘用に改造したのだ。
それが今になって帰ってきた。
この星は自分たちのものだと主張するために。
馬型の何かが壁へと突っ込んだ。
塀がばらばらと音を立てて壊れる。
あんなものが大量に放たれれば、怪我人が出る程度では済まない。
今、この状況に気づいているのは私だけ。
何とかしないと。
そう思い、もう一度スマートホンを手に取ろうとした。
その時だった。
黒い獣の奥で桃色と紫色の発光。
獣が何事かとその方向を向く。
桃の髪。
桃のドレス。
魔法使いが持つような先がグルグルと回った桃色の杖を持つ少女。
紫の髪。
紫の甲冑。
右手には紫の剣を、左手の甲にはこれまた紫色の盾を付けた少女。
この人たちは、恐らく――。
「ま、魔法少女だああああぁぁぁぁ!!!!」
紫の人が先陣を切る。
獣の角と紫の盾の応酬。
息を飲んで見守る。
やがて盾が少女の手を離れ、吹き飛ばされた。
獣が紫の少女へと突貫する。
少女は剣を投擲する。
獣はそれを、容易く払い落とす。
――あれじゃあもう武器が。
そんなものは素人考えの杞憂だった。
紫の少女がすっと身を引く。
桃の少女は、全身を輝かせていた。
バチバチと桃色のオーラが弾ける。
杖を正面へ構えた後、咆哮がこだまする。
「いっけええええぇぇぇぇ!!!!」
私は体を十字路の陰に隠した。
道を飲み込むような桃色の光の氾濫。
収まった後に、壁から顔だけ出すと獣だけ綺麗に消滅をしていた。
どうやら他の物は破壊をしないらしい。
桃の少女と紫の少女が熱い抱擁を交わす。
キャッキャウフフと互いを労り、労う声が聴こえてきそうだ。
魔法少女とは、そういうものなのだ。
「あ、撮らなきゃ。……、いや」
一瞬、魔が差すが私はスマホを引っ込めた。
魔法少女にも肖像権はあるだろう。
こうした見る側の良識をもって、魔法少女の
代わりに、自分の網膜にしっかりと焼き付けることにする。
「もうちょっと近づこう……」
私は電信柱から電信柱へ、最終的に少女たちの傍らの植え込みへと接近することに成功した。
名探偵の本領発揮である。
二人の会話が聞こえてくる。
「紫ちゃん、危ない役目だったけど大丈夫? 怪我はない?」
「ええ、桃美ちゃんがトドメをさしてくれて助かったわ」
互いを思いやる精神。
これこそが魔法少女なのだ。
きっとこの二人はこの街を人知れず守っていたのだ。
二人だけでずっと――。
「いやあ、息の合ったコンビネーションだったわね。作戦立案した私も褒めてほしいなあ~」
!?
私が恐る恐る顔を上げると、二人の間には緑色に発光する存在がいた。
これは恐らく……。
「妖精だ……。日本語しゃべれるんだ……」
いや、驚くのは今更なのかもしれない。
魔法少女あるところに妖精あり。
推理に修正は必要だが……。
紫の少女が不平を言う。
「学校が始まる前だから良かったけど、授業が始まったらどうするんですか?」
「大丈夫よ。もうしばらくは出てこないから。具体的には放課後くらいまで」
紫の少女はなおも納得してない様子だった。
話を聞いていると昨日はその予測が甘くて大変だったらしい。
桃の少女が傍らの少女と妖精をなだめる。
収まったのをみると、思い出したように言った。
「今日の放課後に教室で良かったよね。宿題もやってきたよー」
「ええ。そこでいろいろ説明するわ。ま、だいたい予定通りよ」
宿題? 説明?
どうやら学校で作戦会議をするらしい。
その情報を、頭の中の手帳に確かに書き込む。
辺りに桃と紫の光があふれる。
私が次に顔を上げた時にはもう周囲に人影はなかった。
後には取り残された私だけ。
私の推理には穴があった。
UMAが宇宙人の尖兵であるのなら、この星はとっくに滅んでいるに違いなかった。
そうなっていないのは、人知れず人々を守る存在がいるからだったのだ。
アニメで魔法少女をモチーフにしたものがあるのは、彼女たちの活躍をさりげなく伝えるため。
真実があらわになった時に混乱が起きぬよう、私達にその存在を刷り込む目的だろう。
古代文明、宇宙人、UFO、UMA、妖精、魔法少女。
全ては繋がっていたのだ。
壊れた壁のことだけ、よしなにして私はその場を後にした。
黄原黄依、普通の小学六年生。
胸の中はワクワクとドキドキで溢れていた。
今日の授業が終わり、放課後になった。
私は急いで教室を後にする。
あの二人を追わなくてはいけない。
隣のクラスの紫王紫さん。
隣の隣のクラスの桃原桃美さん。
この近くに住んでいるなら、もしや同じ学校では……? などと思ったらその通りだった。
休み時間に各教室を回ったところ、
二人とはまだ話はしていない。
行動には慎重を期す。
正体秘匿の魔法はないようだが、記憶を操作できないとは言い切れない。
私は隣のクラスの廊下にて、気のない振りで外を見ることにした。
ドアを開く音。
静かな靴音。
横目で確認できた。
紫王紫さんが、紫の長い髪を揺らしながら廊下を歩いている。
抜き足差し足。
紫王さんが教室に入るのを確認した。
授業が終わってそれなりの時間だから、他の生徒は帰宅したのだろう。
私は教室のドアへと耳を引っ付けた。
声が聞こえてくる。
――モンスターを倒すのミサイルとかじゃ駄目なんですか?
――駄目。モンスターの構成要素には実軸と虚軸があるの。本体は虚軸。魔法少女の攻撃でなければ虚軸要素に干渉できないのよ。
――虚軸?
――そのうち習うわよ。
どうやらあの妖精もいっしょだ。
新しく出現した敵の対策を話しているのだろうか。
――じゃあ魔法少女の攻撃で街にも被害は出ない?
――そういうこと。世界は実軸要素で構成されているからね。あなたたちのドレスや鎧も虚軸要素。虚軸要素同士なら影響をおよぼすというわけ。
――なら、いいんだけど……。
――ジツジク、ジジツク……ジジジグ。
――どんどん離れているわ桃美ちゃん。
私はふんふんとメモを取った。
モンスターが街を破壊できるのは実軸要素も持っているからだろう。
また、魔法少女の魔法は虚軸要素が主だから、モンスターは倒せて街は破壊しない。
実軸は物質。
虚軸は魔法。
つまり、魔法少女が使う魔法と魔法も干渉するはずだ。
――はあ~、まあわかんないのは想定通りね。それより桃原さん。宿題はやってきたの?
――あ、うん!! やってきたよ!!
――気になっていたのだけど宿題って?
――桃原さん専用のスピードメニューよ。通常魔法、および浄化魔法に名前を付けてもらう。紫王さんは既にノリノリで言ってたから必要ないわね。
――な、なんのことかしら。
浄化魔法。
何だろう、聞き慣れないワードのはずなのに胸がトキメいている。
――ノートに書いてきたんだ~。
――すごいわ桃美ちゃん!! 素敵なセンスであふれている!!
――いや、うん。他人のセンスにとやかく言うのは良くないわね。この丸を付けたのが採用したやつ?
――はい!! 桃花彩光・スタブ!! 桃花彩光・シュート!! 桃花彩光・フル・シュートォォォォ!!!!
――今、叫ばなくていい。
必殺技。
必殺技だ。
必殺技の話をしてる!!!!
必殺技!!!! なんて甘美な響き!!!!
ガタッと音がした。
……私が態勢を崩したせいで。
――待って!! 誰かいるわ!!
――ええ!? もしかして聞かれちゃってたり!?
――おかしいわね。人はいないはず……。
まずい。
ぞろぞろとこちらに向かう足音が。
そう決心した私は自分から扉を開けた。
びっくりしている紫王さん、桃原さん、そして小さな緑の妖精。
こういうのは勢いが大切だ。
黄原黄依、一世一代の大勝負――。
「みなさん、お話は聞かせてもらいました……」
三人の訝し気な視線が突き刺さる。
変に動揺しては駄目だ。
堂々としていることが何より大切。
「この黄原黄依!! 日課はジョギング!! 特技は縄跳び!! 妹は三人!! 今、正義を燃やします!! 魔法少女、やらせてもらえませんか!!」
今こそ、自然な流れで追加戦士なるのだ。
……。
首を傾ける桃原さん。
訝し気な顔をする紫王さん。
まじまじとこちらを見詰める妖精さん。
掴みは、悪くないはずだ。
「名前は紫王さんに桃原さんだよね!! 原っぱ仲間だ!! あ、好きな食べ物は……」
「黄原さんって言いましたっけ。魔法少女はあなたが考えているような甘いものではないわ」
「ゆ、紫ちゃん」
紫王さんからの
こんな反応は想定内である。
とにかく会話を粘って、傍で戦いを見学できるまでの譲歩を引き出せれば――。
「何でいるのよ……」
妖精さんが独り、深刻そうな顔をしているのを私は見逃さなかった。
放課後だから、人はいないものと思っていたのだろうか。
それにしても教室で話すのは迂闊だと思う。
私なら誰かの家とか漁港の倉庫とか廃ビルの中とかいつもの採石場とか……。
その時だった。
カーテンを閉めたかのように、日差しが一瞬で消えた。
朝の時と同じだ。
だとしたら。
「伏せて!!!!」
私の叫びとともに、二人が身を屈める。
落雷。
そう勘違いする程度には、私もこの音に慣れていない。
「しばらくは出てこないんじゃなかったの!?」
「言ったでしょ!! 授業が終わるまでって!!」
「ふ、二人とも落ち着いて~」
三人が口々にしゃべっている。
私は思考する(出現位置の確認、避難経路の確保、敵の特徴の把握、被害が最小限となる効率的な作戦、速やかな――)
「想定内だけどかなり早いペースね……!! 予測を修正しないと……。あ、敵は屋上に現れたわ!! はい!! 出動出動!!!!」
「紫ちゃん……!!」「うん、行きましょう!!」
二人が教室を飛び出る。
「ああもう!! 私を置いて行かないでよ!! 全く……!!」
「ねえ妖精さん。私もついて行っていい?」
妖精さんが数瞬、黙する。
やがて溜息を吐くと諦めたように言った。
「駄目って言っても付いてくるでしょ……。あなた、そういうタイプよ」
「やりい!!」
妖精さんからの
空はやはり黒かった。
朝、見たのと同じ漆黒の一角獣。
それに相対するは紫の鎧と桃のドレスを纏う魔法少女たち――。
「変身シーン、見逃しちゃったよ!!」
「あの子たちはタップ一回で変身できるようになったわ。あと、もう少し下がりなさい」
屋上へと出る扉のところで引き留められる。
朝と同じだ。
紫の剣が獣の角を捌く。
いや、朝よりも優勢と言えた。
後方で力を溜めている桃の少女も、余裕のある様子だった。
必殺技、出すのかなあ。
「やっぱりもう少し近くで……」「危ないから離れなさいって!! 全く……」
近頃の若い子は、という口ぶり。
妖精さんがいくつなのかわからないが。
「それにしても……」
私は視線を戻す。
紫の少女が守り、桃の少女が必殺の一撃を構える。
「ねえ、妖精さん。宇宙人の尖兵ってあの種類だけなの?」
「宇宙人? 何を言ってるのあなたは……。種類はたくさんいるわよ。無数にね」
だとしたら。
敵は何でわざわざ同じ種を送り込んだのか。
紫の少女が一角獣を追い詰める。
そのまま横へと飛んで、号令を叫ぶ。
もう一人の、桃の少女の名前を。
構えた杖の先から閃光が発射される。
桃色に輝くそれは、一直線に一角獣の方へと伸びていき――。
黒い盾に弾かれた。
紫の少女と桃の少女が驚きの声を上げる。
一角獣の胴から盾が、まるで生えるようにくっ付いていた。
盾がもぞもぞと動く。
盾を持つ腕が。
腕を支える胴が。
もう片側の腕から槍が生えていく。
顔は、生えない。
変化が終わった時に現れたのは、一角獣に跨る首無し騎士だった。
漆黒の騎士を揺らしながら、馬が突貫する。
先には呆けた紫の少女が――。
「危ない!!」
紫の剣が角を弾く。
そして――。
槍は弾けなかった。
つんざく叫び声と、悲痛な叫び声がほぼ同時。
紫の剣は空中で数回転すると、そのまま屋上から地面へと落ちていった。
態勢を崩した紫の少女に、漆黒の騎士が近づいていた。
桃の灯りが走る。
杖の先が眩しく輝いていた。
漆黒の騎士の背後を取った全力の殴打。
桃の少女の顔が曇る。
攻撃は即座に反応した漆黒の盾に阻まれていた。
そのまま盾に乱暴に押し戻される。
桃の少女が床で数回転した。
「妖精さん!! このままじゃ二人ともやられちゃうよ!!」
「わかっているわよ!! 今、どうするか考えてるわ!!」
「妖精さん……魔法少女って今すぐなれるものなの?」
「……はい、って答えたらどうする?」
「決まってるよ。私が魔法少女になって二人を助ける」
「……」
「妖精さん!!」
「はあ……止めても無駄なんでしょ。それにしてもやけにあっさり決断したのね」
「目の前の苦しんでいる人を助けたい。それって
「……そうかもね」
妖精さんの周りに魔法陣が浮かぶ。
「特殊魔法力疑似誘発装置作動。機能圧縮。情報伝送。領域展開。第三セット内容確認……良し。合言葉は――」
決まっている。
女の子の憧れはいつだって――。
「魔法少女!!!!」
私の体が黄の光に包まれる。
服装をイメージする。
紫王さんが戦士で、桃原さんが魔法使い。
それなら私は、僧侶がいい。
漆黒の騎士は魔法少女二人を追い詰めていた。
後ろは屋上の手すり。
これ以上は下がれない。
「桃美ちゃん、私の後ろに隠れて!!」
「でも……それじゃあ紫ちゃんが!!」
じりじりと詰め寄る黒い敵。
しかしもう心配はいらない。
なぜなら――。
私がそこへ突っ走っているから。
「名乗っている暇はないよね……!!」
私は手にした棍棒によく似た武器を振り上げる。
「良いの、考えとくから!!!!」
敵が瞬時に振り向き、大楯を構えた。
とりあえずこちらに注意を向けれた。
私は手に思いっきり、
「
衝撃と共に、黄のしぶきが飛ぶ。
お互いが僅かに後ろに後ずさる。
反動を利用して、思い切り振りかぶる。
「もう一発!!!!」
今度は敵だけが、後ろへと跳ねた。
もう一度、回転するように振りかぶって一撃。
漆黒の騎士も退陣を余儀なくされたのか、私から距離を取る。
すかさず滑り込み、紫王さんと桃原さんの前を陣取る。
「初陣なんだから無茶な戦いはしないでよ!!」
耳元に助言が飛ぶ。
妖精さんは、私の肩に停まっていた。
私は止まらない。
敵が態勢を立て直す前に攻勢をしかける。
紫王さんが
それなら私は
棒の先は、煌々と黄の光が漏れていた。
応戦に繰り出される黒槍へと、弧を描くように。
私の棍棒は、跳ね上げられ、上空へ吹っ飛んでいった。
「だから言ったじゃない!!!!」
咄嗟に手を上空へと向ける。
力が伸びる様をイメージする。
「
手から黄色い線が生み出される。
ロープのようにするすると、どこまでも伸びていき――。
吹っ飛んだ棍棒を繋ぎとめた。
そのまま、直下。
「
敵からしたら完全に死角からの一撃。
手応えあり。
武器が私の手に戻ってくる。
隙を見逃さず、角と槍をへし折る。
漆黒の騎士がよろける。
敵の強みは潰してやった。
後は――。
刹那、黒い炎が燃え上がった。
そう勘違いするくらい、漆黒の騎士の周囲の黒は昂っていた。
そうだ、こいつの強みはまだ残っていた。
大楯。
もこもこと、音を立てて。
敵の姿が見えなくなる程に肥大化したそれを、こちらに構えて。
力を、最大限にまで燻らせていた。
「あいつ!! あなたを押し出すつもりよ!!」
「うーん、飛ぶ魔法とかあったりしない? 妖精さんみたいな羽根を出すとか」
「こんな時にふざけないで頂戴!!!!」
やっぱりないのか。
飛ぶ魔法。
ちょっと残念。
でも、大丈夫だ。
なぜなら――。
地響きとともに、脅威が突っ込んでくる。
離れていた少女たちの、私を心配する叫び声が聞こえた。
私は足に力を込めて、そのまま飛び上がった。
今までいた地点が、小さく見える。
耳元で妖精が、歓声にも似たうめき声を上げる。
翼なんかなくたって、人間は両の足でこんなにも飛べる。
敵が異変に気付き、大楯を真上に掲げた。
空中で二度三度。
回転しながら棍棒の先に、力を込める。
敵を捉えて、強みを断って、最期に行うのは――。
「
私の武器が身の丈を優に超える。
そのまま、力の限り叫んだ。
「
めりめりと。
大楯をかち割り、押し込んでいく。
戦いは単純に強度の上回る方が勝つ。
より大きく、より速く、より強かった黄の光は、黒い塊を完全に押し潰した。
漆黒の騎士と、漆黒の獣は、最後にはまとめて、この世界から
「決め台詞は……うーん、黄依ちゃん大勝利!! ぶいぶい!!」
「考え直した方がいいわね。戦い方もいっしょに」
息も絶え絶えな妖精さんに、「え~」と悪態をついてみる。
空が青く染まっていく。
黄原黄依、小学六年生。
今、この瞬間から、普通の魔法少女。
「黄原さーん!!」
戦いが終わり桃原さんが駆け寄ってくる。
ドレスはところどころ汚れているが、無事なようだった。
「すごかった!! すごかったよ!! それシスター? プリースト? 何でもいいや!! かわいい!!」
「桃原さんも無事でよかったー!!」
私達は両手を繋いで、メリーゴーランドのようにくるくる回った。
回転しながらもう一人の少女の様子を確かめる。
「紫王さんも無事そうだね~良かったら~いっしょに回らない~?」
「……これはどういうことなの?」
紫王さんのただならぬ様子に私と桃原さんが回転を止める。
一瞬、私に向かって話しているのかと思ったが違うようだった。
私の肩に向かって――つまり妖精さんに話していた。
「敵はどんどん強くなってる!! 出てくるのはこの辺りだけ!! 教えて!! 私達はいったい何と戦っているの!?」
妖精さんが私の肩から離れた。
難しい顔を作り、そして話し出す。
「そうね、それも今日、説明するつもりだったの。私達が戦っているのは言わばあのモンスターたちの親玉。私のいたところも、奴に襲われた。何とか追い返したけど同じように狙われているこの世界に危機を伝えにきたのよ」
妖精さんの言葉に私達はごくりと息を飲む。
宇宙人の尖兵はモンスターだった。
そして、その頂点に立つ存在がいる。
「深淵なる闇――それが奴の名前よ」
紫王さんと桃原さんが深刻そうな顔をする。
私の胸が少しだけワクワクしていたのは、内緒だった。