魔法少女Imagine   作:MOPX

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追放騒動(Debate)

私、桃原桃美は普通の小学生。

ワケあって(なし崩し的に)今は魔法少女をやっています!!

最初は不安もあったけれど、親友の紫ちゃんに新しく友達になった黄依ちゃんも加わって絶好調!!

 

今日もこの三人で、頑張って行きます!!

 

「黄原さん!! あなたとは一緒にいれないわ……」

 

「え~!! そんなこと言わないでよ。ゆかり~ん」

 

 

 

……。

 

今日もこの三人で、頑張って行きます!!

 

「こうなったら追放よ!! あと、あだ名で呼ぶのは……その……止めて!!」

 

「うーん、じゃあじゃあ。ゆかぽん、ゆかりーぬ、ゆかちん……」

 

「呼び方の問題じゃない!!!! とにかく!! あなたは追放されたの!! キックキック!!」

 

「え~、この雑誌に付いてた特性魔除けシール譲るから許してよ」

 

 

 

……。

 

「きょうもこのさんにんで がんばって いきま~す……あはは……」

 

「モモミー、めちゃくちゃ虚ろな瞳をしてる」

 

「あなたのせいでしょ……」

 

紫ちゃんと黄依ちゃんが、また口喧嘩(小競り合い)を始める。

今日は私が変身してから三日目の放課後。

他の人に聞かれぬよう、空き教室で話し合いをしていた。

 

こういう時に限って妖精さんはいない。

 

 

 

私達、どこですれ違ってしまったのだろう。

解れた糸は、二度と紡がれることはない。

無理に繕えば、絡まり、千切れ、元の形からどんどん離れていく。

必死に糸を辿って行っても、それは解決に結びつくとは限らないのだ。

 

そう、こんな事態になったのはつい15分前。

私達が空き教室に入ろうとするところから――。

 

 

 

 

 

「あ、紫ちゃん!!」「ふふ、桃美ちゃんも今出たのね」

 

私が空き教室へ向かうためドアを開ければ、ほとんど同じタイミングで紫ちゃんも出てきた。

授業は同じ時間なので別にあり得ることなんだけど、何となく嬉しい。

 

私は紫ちゃんへと駆け寄った。

今日も紫ちゃんの髪はさらさらで綺麗だ。

 

綺麗だと思っていた黒く長い髪は、紫に染まっても変わらぬ印象だった。

色自体はあまり関係なかったのかもしれない。

きっと私が好きなのは――。

 

思考を振り払おうと首をぶんぶん振っていたら紫ちゃんに笑われてしまった。

この想いが悟られて、壊れるくらいなら。

……今のままでいたい。

 

「そういえば髪のことって桃美ちゃんは聞いた? あいつから」

 

一瞬どきっとする。

以前に私が髪の色を気にしたことに思い至る。

 

紫ちゃんは優しい子だ。

 

「うーん、やっぱり治らないみたい」

 

「親には? なんて説明した?」

 

「最初は原因不明の奇病で……ってことにしたけど妖精さんが『それじゃあ病院へ連れていかれるでしょ!! はああぁぁ~、わかんないかあぁ~』って」

 

紫ちゃんが吹き出した。

妖精さんの物真似がウケたらしい。

 

「『グレて染めたことにした方があぁ~マシだったんじゃないのおぉ~』」

 

「ふ……ふふ……」

 

「『もおぉいいわぁ~私がぁ~なんとかするからあぁ~』」

 

「あはは!!!!」

 

ダムはついに決壊した。

これから鉄板ネタとして使っていきたいと思う。

 

ひとしきり笑った後に、私達はお互いをまじまじと見つめた。

たぶん、変わってしまった証を確認するために。

 

「私達、本当に魔法少女になったのよね」

 

「……うん」

 

昨日の戦いの後、聞かされたその名前。

 

深淵なる闇。

 

妖精さんの話では、ここ数日で動きが活発になっており、それに釣られる形でモンスターが湧いているのだそうだ。

ここ一週間くらいが勝負所とのこと。

 

紫ちゃんが足を止めた。

私も慌ててそれに合わせる。

 

「桃美ちゃんは怖くないの……?」

 

あと一週間近くも戦うのは正直、怖い部分もある。

でも――。

 

「大丈夫だよ!! だって紫ちゃんも黄依ちゃんもいるんだもの!!」

 

「……」

 

「……紫ちゃん?」

 

「そうね。私も……黄原さんも、いるわ」

 

紫ちゃんは再び歩き出す。

私達はそのまま特に話すことなく空き教室へと入った。

それが何を意味するのか、私にはわからなかった。

 

 

 

 

 

「黄依ちゃん、まだいないみたいだね」

 

「そうね」

 

普段は予備の机や椅子が置いてあるだけの場所だ。

私と紫ちゃんは端に並んでいた椅子へと腰かけた。

 

私はスマホを取り出した。

このアプリは常にバージョンアップ(突貫工事)が行われ機能が追加されている。

私達三人と妖精さんでメッセージを共有すること(おしゃべり)も可能になった。

 

私が黄依ちゃんに授業が終わったか聞こうと思ったら紫ちゃんに止められた。

たぶん、すぐ来るでしょうって。

それもそうかと思い、リアルおしゃべりへと移るのだった。

 

「いやあ、昨日の黄依ちゃんすごかったよねえ」

 

「……」

 

心なしか、紫ちゃんの眉がぴくっと動いた。

 

「いきなりあんなに戦えちゃうんだもん。やっぱり才能ってやつなのかな……?」

 

「……どうかしら」

 

思ったよりも、紫ちゃんの反応は悪かった。

理由はやはり、わからない。

 

私が次の話題に困って、ささやかな沈黙が流れそうな時。

紫ちゃんは猫の動画でも見よう、って言ってくれた。

猫は正直どうでもいいが、こういう時は役に立つのだなと――。

 

「ゆかりん、モモミー!! 遅くなったー!!!! ごめぇぇぇぇん!!!!」

 

「黄依ちゃん!! 私達も今きたところだよー!!」

 

「ゆか……? 今、何て言ったのあなた……?」

 

勢いよくこちらへ近づく黄依ちゃん。

手にした大きな手提げ袋が目についた。

 

「黄依ちゃん、それ何?」

 

「作戦会議に役に立つかと思っていろいろ持ってきちゃった!! ちなみにコックリさんセットはお気に入りのやつ!! ゆかりんとモモミーにも使い方、教えてあげるね!!!! モアイも並べてイースター島のアフ・アキビを再現しちゃおっと♪ 」

 

「その……あだ名について説明してほしいのだけれど」

 

黄依ちゃんが空いている机に領域展開(謎アイテムの陳列)をしようとしている、その時だった。

 

「人の話を聞いてるの!? あなた!!」

 

「え? 聞いてるけど……?」

 

「ゆ、紫ちゃん……?」

 

私が見たこともないような紫ちゃんの怒った顔。

あたふたとしている間に、二人の会話はずんずん進む。

 

「まずあだ名!! その呼び方は何!?」

 

「ご、ごめんゆかりん。ゆかりんがモモミーと動画を見るの邪魔したのは謝るからさ~」

 

「だからそうじゃないって……!!」

 

「ちなみにどの動画?」

 

「……これ。猫の動画。かわいいでしょ?」

 

「どれどれ……ん~? これって無断転載されてるのでは?」

 

「……!! あなた、猫にケチをつける気……!? さては猫アンチね!!」

 

「ん~。別に猫に思い入れはないけど……。そこら辺は守ってこその娯楽じゃないかな」

 

「もういいわ。やっぱり初手であだ名の人とは世界が違ったのよ……」

 

「あ、そうそう!! ゆかりんってあだ名、私は気に入ってるんだけど、どう!?」

 

「黄原さん、あなたに言い渡すわ……」

 

「お、なになに?」

 

「黄原さん……あなたを魔法少女から追放します!!!!」

 

「え!?」

 

私が間に挟まることもできず、こうして紫ちゃんと黄依ちゃんは袂を分かって(喧嘩をして)しまったのだった。

 

 

 

 

 

結局、あの後は会議どごろではなく、妖精さんも最後まで姿を現さなかった。

見慣れたはずの学校の帰り道。

それがいつもと違うように感じるのは気のせいではないのだろう。

 

私の隣にいるのは黄依ちゃんだった。

 

「モモミー、なんかごめんね。私がちょっと張り切りすぎたせいだ」

 

「ううん!! 黄依ちゃんは悪くないよ!! きっと誰も悪くない……!!」

 

だといいんだけど。

そう、黄依ちゃんはぼそっとつぶやく。

 

紫ちゃんはあの後、言い争いの勢いのまま一人で帰ってしまった。

追いかけようとも思ったが黄依ちゃんを残すこともできず、どうしたらいいのか、わからなかった。

 

だから私がそのまま教室にいたのは、それを選んだわけではなく何も選ばなかったから。

そしてしょうがなく、こうして黄依ちゃんと帰宅している。

 

「ほら、紫ちゃんもたぶん本気じゃないし……!! 追放されても元のギルドに復帰してハッピーエンドだよ!!」

 

「ハッピーエンド、ね。……うーん」

 

「黄依ちゃん?」

 

黄依ちゃんは何か考え込んでいるようだ。

やがて考えがまとまったのか、口を開いた。

 

「私だけ別行動なのはどうかなって。ほら、もともと二人は仲良かったんだし」

 

「え……」

 

黄依ちゃんはその後、戦闘でかっこよく助けに入るポジション!! って言って笑っていたけど、それが冗談であることは私にもすぐにわかった。

 

「そんなの駄目だよ!! モンスターは怖いんだよ!! 黄依ちゃんが一人でいたら黄依ちゃんが危ないよ!!」

 

「……。うーん、まあそうなのかな。先輩魔法少女がそう言うならね~」

 

私は頬をぽりぽりとかく。

先輩といっても一日だけだ。

 

十字路に差し掛かったところで黄依ちゃんが向きを変える。

どうやら家の方向が違うらしい。

 

「あ、じゃあねモモミー!!」

 

「うん!! 黄依ちゃんまた明日!!」

 

別れ際の黄依ちゃんは手を大きく振って、笑顔だった。

その様子を見ていると、ポケットが急に振動する。

 

端末を取り出すと、それは紫ちゃんからのメッセージだった。

妖精アプリではなく、二人で会話しているいつものツールだった。

 

『桃美ちゃん、今日はごめんなさい。

かっとなって帰っちゃった。

あの動画は確認してみたらやっぱり無断転載だったみたい。

黄原さんにありがとうって伝えておいて。』

 

「自分で伝えればいいのにぃ……」

 

黄依ちゃんの背中はもう見えない。

どうしてこんなにもすれ違うのか。

そんなやりきれない思いを抱えつつ、とぼとぼ家に帰るのだった。

 

 

 

 

 

「ふう~~~~」

 

夜。

お風呂から上がってパジャマに着替えた後。

スマホをチェックした私は安堵した。

 

『本日、敵襲なし』

 

妖精アプリからの通知に、短くそう書かれていた。

 

滑り込むようにベッドに倒れる。

久しぶりにモンスターも出なかったのに、こんなに疲れるとは。

気怠い動きで、無意識にスマホを掴むと時刻もそれなりだった。

 

今日はもう早く寝てしまおうか。

 

「……」

 

私は妖精さんの満面の笑みをタップした。

画面からから緑の光が溢れて、飛び出る。

 

「はいはい~。桃原さんね。呼んだ~?」

 

「妖精さん、人生相談お願いします……」

 

「ええ!! いいわよ!! 私、人生相談大好き!! あることないこと言ってマウントを取った気分になれるもの!!」

 

「妖精さんは親切(最悪)だなあ……」

 

「それほどでも~」

 

私は溜息を吐くと自分の考えを整理する。

 

「紫ちゃんと黄依ちゃんが……ええと、ソリが合わないみたいで私はどうすればいいのかなって……」

 

「ふ~ん。まあそんなこともあるんじゃない? 紫王さんは言葉を選べないし、黄原さんは……そうね、独りよがりなところがあるわ」

 

「な、投げやり……」

 

「真実よ。桃原さん、あなたは仲が良い子とそうでない子、どっちの数が多い?」

 

「え?」と私は声を出す。

仲の良い子、例えば紫ちゃん。

黄依ちゃんも明るくて良い子そうだし仲良くなりたい。

 

でも、そうでない子。

それは一体どこまでの範囲を指しているのだろう。

 

「わかんない……」

 

「わかんない、ってことはないでしょう。例えば40人のクラスだったら気の合う友達が何人かって話よ。友達が5人グループだったら35人は特に仲が良くないでしょう」

 

「それってつまり……?」

 

「仲良くなれるのなんて8人に1人程度ってことよ。もちろん、もっと少ないこともある。周り全員と気が合わないことだって、ね」

 

妖精さんの言わんとしていることが理解できた。

 

例えば友達と何をして遊ぶか。

買い物をしたい子もいれば、家でゲームをしたい子もいるだろう。

そもそも一人でいたい子もいる。

 

自分がどうするかは何かひとつしか選べない。

 

つまり、みんなが仲良くするなんて最初から無理だと言いたいのだ。

 

それでも――。

 

「私は紫ちゃんと黄依ちゃんに仲良くしてほしいよ……」

 

「だったら最初から答えは決まってるんじゃない?」

 

「え?」

 

「二人が仲の悪い原因を考える。それがなくなるよう努力する。私は最低限、連携してくれれば別にいいけど。あなたは嫌なんでしょ?」

 

私がどうしたいか。

これまであまり、深く考えてなかった。

 

紫ちゃんも黄依ちゃんも良い子で、ちょっとすれ違っているだけ。

それなら私ができることだってあるはずだ。

 

「ありがとう、妖精さん。何だか心が軽くなったかも……!!」

 

「いいってことよ。はあ~今日は向こうで忙しかったから良い気分転換になったわ~」

 

「あ、具体的にどうするかも良かったら相談を……!!」

 

「それは自分で考えて。じゃ、寝るわ。おやすみ~」

 

「……」

 

緑の光がふっと消える。

何だか言いたいことだけ言って帰ってしまった。

 

でも糸口は見つかった。

 

二人がすれ違った原因。

それは一体なんだっただろう。

あだ名……コックリさん……猫の動画……。

 

猫の動画、紫ちゃんには黙っていたけど私も興味ないんだよねえ……。

 

猫、猫、猫……。

 

ネコ――。

 

「……そうか!!!!」

 

思考が飛び起きる。

はやる気持ちを抑えて、黄依ちゃんに連絡を取る。

 

私の提案に黄依ちゃんも興味を持ってくれた。

倉庫にもひとつあったはずだ。

後は――。

 

「良し……自分で作ろう……!!」

 

机に向かい、材料の準備をする。

疲れと眠気はどこかへ吹っ飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふわふわもこもこ。

 

ちょきちょき。

 

ぺたぺた。

 

「……なさい……」

 

ふわふわもこもこ。

 

ちょきちょき。

 

ぺたぺた。

 

「……き……なさい……てば!!」

 

 

「起きなさいって言ってるでしょ!!!! 桃原さん!!!!」

 

「ひゃああああぁぁぁぁ!? 妖精さん!?」

 

私は机の上につっぷしたまま眠ってしまったらしい。

カーテンの隙間からは朝の日差しが覗いていた。

 

机の上に置かれたスマホはぶるぶると振動していた。

 

「モンスターが出るのよ!! 黄原さんと紫王さんにはもう伝えたわ!! あなたも朝のランニングという名目で早く現場へ向かって頂戴!!」

 

「え? でもお外、明るいよ」

 

「だ・か・ら!! これから出るの!! 今回は精度よく予測できたから!! はい、早く行く!!」

 

「ええ!? 一体どこに!?」

 

「この家と黄原さんの家と紫王さんの家のちょうど真ん中あたりね、これ」

 

「大変……!!」

 

私は急いで着替える。

荷物は最小限に――。

 

「……いや、でも入れておこう!!」

 

昨日作ったそれを私は丁寧に鞄へと入れた。

これは必要なものだ。

 

これはきっと、私と紫ちゃんと黄依ちゃんの友情の証となるのだ。

なかったら、三人の心がばらばらのままになってしまう気がした。

黄依ちゃんもそう思ってるなら、持ってきてくれるかもしれない。

 

急いで外へと出る。

 

走る、走る。

 

遠くに見慣れた影を見る。

 

あれは――。

 

「紫ちゃん!!」

 

「桃美ちゃん!? 良かった。一緒に行きましょう!!」

 

紫ちゃんが少しスピードを落として横に並んだ。

息を切らしながら紫ちゃんが口にする。

 

「着いた時に一人だったら……って考えたら少し不安で……。……二人なら大丈夫よね」

 

「確かに!! 黄依ちゃんも来てるしね!!」

 

「……」

 

「……紫ちゃん?」

 

「目的地はすぐそこのはず……あ!!」

 

空が暗くなる。

流石に慣れてきた。

 

紫ちゃんと顔を見合わせる。

 

「黄依ちゃんもいれば良かったんだけど……」

 

「黄原さんの家はここから一番遠いから。大丈夫よ……桃美ちゃんは私が守るもの……」

 

「紫ちゃん……」

 

耳元で妖精さんの声が高らかに上がる。

 

「さあ!! 万全を期してあらかじめ変身しておくのよ!!」

 

「うん!!」「わかったわ!!」

 

アプリの変身機能を起動する。

私達の体が桃と紫の光に包まれる。

 

衣服と荷物が私達の身を守るドレスと鎧(防具)に変化する。

 

終わった時には敵の姿も見えた。

50メートル程度先。

 

最初は真っ黒な土管が動いてるのかと思った。

良く見ればそれは幾つもの鋭い鱗で覆われ、うねうねと有機的な動きをしていた。

 

「蛇……かな?」

 

「ドラゴンっぽいかも……。手足は無いようだけど……」

 

「蛟竜ってやつかもね。相手がどんな攻撃をするかはわからないから注意して頂戴」

 

よし!! と私は(魔法)を込めた。

紫ちゃんが私の前に凛々しく立つ。

この距離ならば安全に攻撃できるはずだ(紫ちゃんのきりっとした横顔はかっこいい)

一撃で決めてやる(紫ちゃんの髪の毛はとても良い匂いがする)

 

紫ちゃんの脇から、標的を見据える(ダメだダメだ、集中しないと)

 

敵はその場を行ったり来たり。

こちらに気づいていないのかも?

そう思っていると鱗のひとつひとつが針鼠のように逆立った。

鱗の一つがこっちに向かって飛んで――。

 

「危ない!!!!」「ひゃわああああぁぁぁぁ!?!?」

 

紫ちゃんに勢いよく押し倒される。

 

天を仰いだ私の視界に、黒いものが高速で横切る。

発射された鱗は、ブーメランのように旋回して戻り、そのまま敵の体に挟まった。

 

「あ、ありがとう紫ちゃん……」

 

「ぶ、無事……? 心臓が止まるかと思った……」

 

「桃原さん!! 油断しないで!! 紫王さんは盾を使いなさい!!」

 

二人でばたばたと立ち上がる。

蛇は完全にこちらを敵視している。

 

さっきとはもう状況が全然違う。

もしも鱗をいっぱい飛ばされたらこっちに対抗する手段は――。

 

 

――うおおおおぉぉぉぉ!!!! 天知る地知る!! 正義と道徳の探偵!! 兼!! 魔法少女!!

 

 

「この声は……!!」「……もしかして」「名乗りはアレだけど来てくれたようね……こっちの切り札ってやつが」

 

黄の法衣に身を包み、光をまき散らしながら、向かい側からまっすぐに。

そこへ向かって紫ちゃんが大声を上げた。

 

「黄原さん!!!! 迂闊に近づいては駄目!!!!」

 

蛇が180度向きを変える。

逆立った無数の鱗が魔法少女(乱入者)へと飛ぶ。

 

「ダブルツイン・メェェェェイス!!!!」

 

黄の少女が両手を交差させる。

両の手には一対の棍棒が握られていた。

黄に輝くそれらが、扇状の軌道を描く。

 

黄の少女の目前まで迫った鱗は、吹っ飛んでいた。

一回、二回、三回。

 

見てるこっちが冷や冷やするくらい大胆で、無骨な策。

黄依ちゃんは全てを打ち落として敵へと迫るようだった。

 

「黄依ちゃん!!!!」「黄原さん!! 下がりなさい!!」

 

私達の心配の声を上げるころには、黄依ちゃんはもう敵を捉えていた。

 

「どおおおおりゃああああぁぁぁぁ!!!!」

 

同時に、二撃。

衝撃で鱗が四方八方へと飛ぶ。

蛇はのたうつように体をくねらせ、その姿を崩していく。

 

私達が苦戦していたそれを、黄依ちゃんはあっさりと攻略してしまった。

 

「黄依ちゃん……!! だいじょう」「黄原さん!!!! 何をしているの!!!!」

 

私の声は紫ちゃんの声にかき消される。

駆け寄る私達に黄依ちゃんは手を振って応えた。

 

「ゆかりん、モモミー、おはよー。敵、倒せて良かったね!!」

 

にこやかに答える黄依ちゃんに胸が痛む。

きっと紫ちゃんは別のことを考えていたから。

 

「良かったね……じゃあないのよ!! あんな戦い方したら危ないじゃない……!!」

 

「え……そう、かな」

 

「そうよ……!! 何で一人で突っ込んで行っちゃうの……!! もう……!!」

 

「わ、私は……早く敵を倒した方が……ゆかりんもモモミーも安全かなって……」

 

「……。そ、そんな瞳をウルウルさせてもダメなんだから!!」

 

また始まってしまった二人のすれ違い。

私はそれを止めようとして、微かな違和に気づいた。

 

敵は消えたはずなのに(敵を倒せていないから)、空が暗いまま。

 

「みんな気を付けて!!」

 

私の声に二人も反応する。

周囲に変わったものと言えば――。

 

鱗だ。

 

断末魔で散らばっていた鱗が空中で静止している、私達を取り囲むように。

 

「危ない!!!!」

 

鱗の一つが黄依ちゃん目掛けて飛んでくる。

紫の盾がそれを弾き、押し返した。

 

「あ、ありがとう。ゆかり~ん」

 

「た、盾、初めて使ったわ……。あと抱きつかないでったら!!」

 

「……」

 

私はすっと紫ちゃんの盾に入ると、安全確保のため紫ちゃんに引っ付いた。

 

「それにしても……妖精さん!! これってどういうこと!?」

 

「決まってるでしょ。この鱗ひとつひとつが今回の『本体』だったってこと。蛇は集合体に過ぎなかった!! とりあえず壁際に移動して頂戴!!」

 

紫ちゃんの盾に隠れながら私たちは壁を背に取った。

その間にも敵の攻撃は止まない。

このままだと――。

 

「……ごめんね、ゆかりん、モモミー。私のせいで……」

 

「……え。どうしたのよ急に」

 

「そうだよ。私達だって普通に倒そうとしてたし……きっとこうなってたよ」

 

黄依ちゃんが顔を上げる。

 

「……うん!! 責任を取ってあの鱗、全部叩き潰すね!!」

 

「それは止めなさいって!!!!」

 

「……」

 

私は静かに決意する。

私はどうしたいのか。

私は、何を選ぶのか。

 

今の私は、紫ちゃんと黄依ちゃんを守りたい。

 

「ねえ、二人とも。今日まだ、私は何もしてないんだ……!!」

 

「え、それってつまり……?」「つまり……?」

 

二人の不思議そうな声が返ってくる。

黄依ちゃんが敵を粉砕して、紫ちゃんが今こうして守っている。

 

つまり――。

 

(魔法力)が有り余ってるってこと!!!!」

 

私の体が桃の光で満たされる。

蛇口の水と同じだ。

魔法力は絞れば絞るほど出がよくなる。

 

この力を時間的に絞る。

 

盾から私が飛び出す。

敵は散らばっているが、高度はいずれも低い。

 

それなら――。

 

浄化コード認証(全部まとめて)……」

 

桃花極光・フル・シュートォォォォ(薙ぎ払う)!!!!」

 

右から左へ。

杖を思いっきり振る。

道を覆う極太の光が向きを変え、180度掃引される。

 

鱗のひとつひとつが、逃げ場を失い消滅していく。

 

光が収まった時には空も澄み切った色へと変わっていた。

安堵とともに、私は戦いが終わったことを確信した。

 

 

 

 

 

「桃美ちゃん!!」「モモミー!!」

 

私服の紫ちゃんとジャージの黄依ちゃんが駆け寄る。

私の服も元に戻っていた。

 

それはつまり、手にしていた荷物も。

 

「黄依ちゃん、もしかして……持ってきた?」

 

「うん、ってことはモモミーも持ってきたんだね!!」

 

「え、何? 何の話?」

 

不思議そうにする紫ちゃん。

黄依ちゃんが袋をガサガサと漁る。

 

「黄原さん……あなた、また変わったものを出すつもりじゃ……」

 

「モモミーに言われてね。私も考えたんだ。ゆかりんと仲良くするするためにどうすればいいかって。だから……」

 

「それは……ネコミミ!?!?」

 

黄依ちゃんは黒のネコミミを付けていた。

とてもよく似合っている。

 

私も袋からひとつ取り出した。

 

「紫ちゃん、私も実は猫の動画に興味がなかったの。でも、だったら猫の気持ちになるところから始めないとって」

 

「そ、そうだったの!? え、ってか桃美ちゃんのネコミミ!?!? ちょ、ちょっと……え、ちょっと……」

 

「いいでしょ~倉庫にあったんだ~。たぶんお母さんが使ってたんだと思う」

 

私のは白。

予想以上に大きな反応を示す紫ちゃん。

どうやら喜んでもらえているようだ。

 

「な、何が何やらなんだけど……。でも二人が付けてるなら私も持ってきた方が良かったのかしら……?」

 

「それなら大丈夫……これ!!」

 

「こ、これは……私の分……?」

 

「うん、夜なべして作ってきたんだ!!」

 

私の手には手作りのネコミミが握られていた。

紫ちゃんをイメージした紫のネコミミ。

 

「モモミー、器用だよねえ~。ちなみに私のはケット・シーをイメージしてみました!!」

 

「紫ちゃんを驚かせようと思って……どう、かな」

 

「こんなの喜ばないわけない……!! ありがとう桃美ちゃん!! 家宝にするわ!!!!」

 

私はうんうんと頷いた。

これで今回の件は解決だ。

 

「これで猫の動画の件は解決!! 紫ちゃんと黄依ちゃんも仲直りだね!!」

 

「え、そういう流れだったの?」

 

 

 

 

 

「……え?」

 

血の気が引くとは正にこのこと。

私は一体、どこで間違えてしまったのか。

 

「その……黄原さんにはいきなりあだ名で呼ぶのを止めてほしかっただけ。そういうの、仲良くなってからだと思うから」

 

「ええ!? そういうことだったの!? ごめんねゆかりん……あ」

 

気まずそうにする黄依ちゃんに紫ちゃんがくすくすと笑い声をあげた。

 

「いいわよ、もう。仲良くなりたいんでしょ? ……今回であなたのこと、わかった気もするし。その代わり私も好きに呼ぶわ……黄依」

 

「う、うわーん!! ありがとーゆかりん!!!!」

 

「よし!! じゃあ紫ちゃんもネコミミを付けよう!!」

 

「え!? この場で??」

 

「いいじゃん、みんなで付けようよ~」

 

「紫ちゃんのネコミミ、見たいよ……!!」

 

恐る恐るそれを手にする紫ちゃん。

今、頭へと付けられた――。

 

「にゃ、にゃ~ん……」

 

私達の笑顔で空間が溢れる。

桃原桃美、小学六年生。

 

今日もこの三人で、魔法少女頑張って行きます!!

 

 

 

 

 

「私のアドバイスが悪かったのかしら……。最近の小学生、わからん……」

 

 

 

 

 

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