魔法少女Imagine   作:MOPX

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少女敗北(Departure)

自分という存在を意識したのは、いつからだっただろう。

それまで普遍の基準だったそれが、音を立てて崩れる。

自己という存在に向き合うほど、取るに足らないものに思えた。

 

虹の光は私にとって眩しすぎた。

かといってモノトーンの静けさを享受できるほど、聡くもなかった。

 

変わりたい、と思った。

 

無為に終わってしまってもいい。

これから過ごすはずだった、別の無為がなくなるだけだ。

 

私は一歩を踏み出した。

この一歩も、多くの別の人が、経験したものに過ぎないのだろう。

 

けれど、私が一歩を踏み出したことで、一歩を踏み出した私に変わった。

 

私は光の中で、もがいていた。

 

 

 

 

 

「……」

 

「どうしたの? 桃美ちゃん」

 

何でもない、と私は首を振った。

こんな私にも、心配して声をかけてくれる。

 

やっぱり紫ちゃんは優しい。

 

「ううん、何でもないよー。ちょっと脳内で思索(詩作)をしてただけ」

 

「そうなんだ。……心配ごとがあったら相談してね。桃美ちゃん、気を遣うところがあるから……」

 

「そう……かな?」

 

「そうよ」

 

「そんな気がしてきた!!」

 

二人でクスクスと笑った。

自分がどんな性格かなんて、自分ではわからない。

 

だから、自分を見てくれる(想ってくれる)誰かがいるのは、こんなにも尊いことなのだろう。

 

私が一方的にそう思ってるだけだろうけど、紫ちゃんがほんの少しでも同じ気持ちなら、いいな。

 

「何だかこうやって一緒に帰るのも久しぶりね。ほんの四日……五日かしら?」

 

「うん、それくらいだと思う」

 

思えば妖精さんと会って、初めて変身した時もそうだ。

私が独りで宿題をしていて、紫ちゃんが声をかけて。

私たちは二人、並んで歩いていた。

 

「最近は黄依もいたしね。全く、思いつきで自由行動だなんて……無茶してなきゃいいけど」

 

「うん……。その……紫ちゃん……」

 

「どうしたの? 桃美ちゃん?」

 

「黄依ちゃんが自分の家に今度、遊びに来ないかって」

 

「……」

 

「黄依ちゃんの妹、どんな子たちなんだろうね」

 

「……私は黄依の家を知らないわ」

 

「私も。でも黄依ちゃんは知っているよ。きっと、もっと広い世界を」

 

「……。桃美ちゃん、私と一緒に帰るの……イヤ?」

 

「そんなことないよ!! そんなことない……」

 

「じゃあ、いいじゃない。こうやっていつまでも毎日……二人だけなら、誰も傷つかないじゃない……」

 

「紫ちゃん……」

 

 

――茶番はそこまでにすることね。

 

 

突如鳴り響いた()

 

私と紫ちゃんが辺りを見渡す。

ちょうどあの時のように、私達の視線は目の前の物体に釘付けになった。

 

私達の目の前には、妖精さんがいた。

 

 

「妖精さん? 今日はモンスターも出てないよね?」

 

「そんなことは今、どうでもいいわ」

 

私の声掛けを押し退けるように、妖精さんが近づいてくる。

今までに見たこともない、険しい顔で。

 

「紫王紫、あなたから魔法少女の権限を剥奪する」

 

「え……!?」「……」

 

頭がひんやりとした。

 

どうして。

 

何だかんだ、妖精さんは私達をサポートしてくれていた。

怪物も最初は怖かったけど、でも紫ちゃんと黄依ちゃんと三人でいれば怖くなくなった。

 

どうして。

 

紫ちゃんはずっと下を向いている。

まるで、こう言われるのがわかっていたみたいに――。

 

「何それ……私は特別にはなれないってこと? 魔法少女になっても黄依みたいな子が特別で――」

 

視線を下げれば紫ちゃんが拳を握っているのが、わかった。

小刻みに震えている。

 

恐怖なのか、怒りなのか。

 

どちらにしろ紫ちゃんらしくないと思った。

 

「あなたを魔法少女にしたのが私の最大の失敗よ。さあ、スマホからさっさとアプリをアンインストールして」

 

「ま、待ってよ妖精さん!! そんな急に……!! 理由を説明してくれないと……!!」

 

「……いいわ。聞けばあなたも協力してくれるわよ、桃原さん。話を遡るとそうね……私の世界、つまり――」

 

妖精さんがゆっくりとその単語を放つ。

 

「地球での話になるわ」

 

 

――妖精界(地球)

 

 

どうして。

 

どうしてなのだろう。

 

こんなにも懐かしい気持ちになるのは。

 

 

「さあ……今からあなた達の頭に映像を流すわ……精々、良いリアクションをして頂戴……」

 

「……」「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――時は幕末!!!! 世は激乱!!!!(何か始まったよ) 乱れ散る桜の華に、命賭けます!!!! 我らが乙女!!!!(私達は忠義のために戦った浪士だった……?) 悲鳴がでかい桃原(え……、ひどい……)!!!! 隠れ自堕落の紫王!!!!(紫ちゃんのお侍コスだああぁぁ!!!!) 孤高の天才剣士、黄原!!!!(間違えた、これは趣味で作った動画よ) 三人を待つ葛藤!! 裏切り!! 悲劇!! 果たして少女達は(気を取り直して)最期に何を見るのか(こっちよ)――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い空間の中に、球が浮かんでいた。

その球は蒼く、ところどころが白と緑で模様を描いている。

 

手に取ろうとしたが、無理だった。

 

やがて、これは星なのだとわかった。

掴めていないのはスケールだった。

 

これが星ということは、私の手などあまりに小さく取るに足らないものだ。

 

きっとどこかに見える緑の中の、一点にも満たないような存在なのだろう。

 

探しても無駄かな、そう思いつつ目を凝らしてみた。

 

 

妙だと思った。

 

 

星に黒い斑点のようなものがぽつぽつと浮かび出した。

 

一点、また一点。

 

星を覆うように、無数に。

 

視点(カメラ)が一点へと迫る。

タップして詳細が表示されるみたいに、そこの様子を映し出す。

 

逃げ惑う人々。

蹂躙される、モノ、モノ、モノ。

悠々と闊歩するは黒い獣の群れ――。

 

私達も知っている存在だった。

 

街はモンスターの大群(大軍)に襲われていた。

 

 

視点が宇宙へと戻ってくる。

もう一度、星を見る。

 

数え切れない程の斑点のひとつひとつで、悲劇が起こっているのだと悟った。

 

吐き気がした。

 

黒い点は動いていた。

一箇所に集まっているのだとわかった。

 

黒い物は山のように隆起していき、そして――。

 

 

まるでこの星に寄生するように、人型の怪物が生えてきた。

此方から見ても、すぐにわかるくらい。

小さい島国ならすっぽり覆いそうなくらい巨大な怪物――。

 

 

怪物がこちらを見上げた。

 

 

冷汗が流れたのがわかった。

さすがに演出なのだと言い聞かせた。

 

怪物が、何かに気づいて余所を向く。

 

それは黄色い光だった。

 

光はみるみる伸びていき、怪物の背をゆうゆうと越し――。

 

巨大な槌へと変わった。

 

遠くのどこが声が聞こえた(ぶっ潰れろおおおおぉぉぉぉ!!!!)

 

 

いとも簡単に。

 

こうもあっさりと。

 

 

槌は怪物を押し潰した。

 

 

そして星は、光に包まれていった。

どこまでも真っ白な光に――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の目の前にはいつもの光景(日常)が広がる。

 

私は反応に困って紫ちゃんの方を向こうとした。

でも、その行動が完了することはなかった。

 

すぐ隣から、耳をつんざく悲鳴が飛び込んできたから。

 

 

――いやああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!!!!

 

 

それは紫ちゃんから発せられていた。

 

「紫ちゃん!? どうしたの!?」

 

少女が背を向け走り出す。

みるみるその影が遠のいていく。

呆気にとられた私に、緑の発光体が促した。

 

「ふん……逃げたわね。追いなさい!! 桃原さん!!!!」

 

「う、うん!!!!」

 

私の肩に妖精さんが乗る。

紫ちゃんの走った方向へと全力で駆け出した。

 

「助かるわ、桃原さん。あなたは物分かりが良いわよね。最初からわかってたわ」

 

「……」

 

走っている途中でスマホが捨てられていた。

私はそれを掴み取るように手にした。

妖精さんが追って来れないように、紫ちゃんが捨てたらしかった。

 

何も考えれないくらい頭は混乱していたが、走っている内に落ち着いてきた(血の巡りが良くなった)

 

とりあえず、妖精さんの世界が大変だったのはわかった。

しかし疑問点があった。

 

「今のお話、紫ちゃんは特に関係してなかったのに何で……!?」

 

紫ちゃんに魔法少女を止めさせる。

そのための説明だったはずだ。

 

今のお話が本当ならばなおさら。

モンスターと戦う魔法少女はこの世界にとって重要な存在のはず。

 

妖精さんが耳元で淡々と話を続けた。

 

「ここからが本題だったのよ。あの戦いの後、私達は二つのことを調査した。一つに、巨大なモンスターは完全に消滅したのか、二つに、巨大なモンスターの出現した原因よ」

 

どちらも安全のため、と妖精さんは吐き捨てるように言った。

妖精さんには他にやりたいことがあったのかもしれない、漠然とそう思った。

 

「一つ目。あの戦いの直後、モンスターを構成するエネルギーは発見されなかった。私達は一人の魔法少女と引き換えに勝利を手にした――。美談たっぷりのエピソードとともにそう喧伝されたわ。でも最近になって真実が明らかになったわ」

 

「真実? それって……?」

 

「最近になって観測された時空――そこで見つかった星はモンスターに完全に滅ぼされていた。そして分析の結果、それは地球だとわかったのよ」

 

「え……!? でも地球って星は無事だったって……!!」

 

「私もそうだと思っていた。でもそれは、半分だけの真実だった。地球が白い光に包まれたその瞬間、別れたのよ。私達が勝利しモンスターが消滅した時空と、魔法少女だけが消滅しモンスターが勝利した時空とに」

 

――平行世界。

その単語が頭によぎった。

 

戦いの結末(終わり)がもたらす莫大な演算(負荷)に耐え切れなかった。

その結果、結末が存在する世界(容量)を増やすことで、なんとかその矛盾(エラー)を解消した――。

 

直感的に、そうなのだとわかった。

 

私は妖精さんに向き合った。

 

「じゃあ、二つ目は!? モンスターが来た理由があるってことは、それが同じように今あるってこと!?」

 

自分でも驚くくらい早口になっていた。

胸は早鐘を打っている。

 

もうわかっていたのかもしれない。

 

ここまで紫ちゃんの名前が出ていなかった。

 

だとしたら――。

 

 

「そう、私は……私達は必死に探したわ。あのモンスターが発生した理由を。それが姿を消した魔法少女に報いることになると思って……。そしてわかった。ある人間の魔法力があいつを引き寄せたということに……!!」

 

「ある……人間……」

 

「最後までそれが誰なのかわからなかった!! あいつがやってきてからすぐに被害は拡大したからね!!!! 大量の砂粒から、一粒の砂金……いえ、ノミかダニでも見つける行為!!!! でも!! もしかしたらと思ってあの子の魔法力を解析したらわかったのよ!!!!」

 

耳を塞ぎたかった。

きっとそれを聞けば、私達の世界は壊れてしまう。

 

私と紫ちゃんの世界は。

 

そして、心のどこかではわかっていた。

 

ずっと続くものなんて、どこにもないのだと。

 

 

「紫王紫……!! あいつの魔法力に別時空のモンスターを引き寄せる性質があった!! あいつこそが全ての元凶だったのよ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達は学校へと戻っていた。

紫ちゃんの行きそうな場所。

 

ずっと一緒にいたはずなのにわからなかった。

 

だから、行ったことのある場所に行くしかなかった。

 

そして、それは紫ちゃんも同じだったらしい。

 

紫ちゃんは、校門の前で、うずくまり、顔を伏せていた。

 

「紫ちゃん――」

 

返事はなかった。

紫の髪は、心なしかいつもより色を失って見えた。

 

動かない紫ちゃんに妖精さんは容赦なく言葉を浴びせかけた。

 

「そうやって逃げてればいいわ。何もかもから。でも魔法少女は止めなさい。暫定処置だけどそれで少しはマシになる――」

 

「うるさい!!!!」

 

 

『拒絶』

 

 

その概念が音に変わったかのような。

紫ちゃんの声は鋭く、獰猛で――なぜか悲しそうにも聞こえた。

 

私は妖精さんを遮った。

 

「妖精さん、そんな言い方ないよ……!! 妖精さんの世界は大変だったかもしれないけど。私達、何もしてないよ……!!」

 

「魔法力の性質は保有する少女に依存する。最近の研究よ。こいつの性根が世界を滅ぼした。そんな可能性だってあるのよ!?」

 

「知らない……私は何も……私は……」

 

紫ちゃんはずっとそう言っていた。

だったら、その通りだ。

 

少なくとも、紫ちゃんは悪くない。

 

「妖精さん!! それ以上言ったら怒るよ!! 私達の世界に来たのは妖精さんでしょ!? 勝手なこと言わないでよ!!」

 

「私達の世界、ね。言い得て妙だわ桃原さん」

 

嘲るように妖精が飛び回る。

私達を見下ろして、言い放った。

 

「たった二人しかいない世界。あなたと、あなただけの世界ね」

 

「――え?」

 

私は立ち尽くしていた。

紫ちゃんは独り言を繰り返しつぶやいていた。

 

妖精さんは「今は黄原さんがいるから三人だけど」と付け加えた。

その補足(フォロー)は私の胸に空虚に響いた。

 

「嘘だよ……。妖精さんだって私のお母さんを説得してくれて……。妖精さんがそう言った!!」

 

私は髪の色について妖精さんに相談したことを思い出していた。

流行り病ということにすると面倒だから、妖精さんがお母さんに説明してくれたはずだった。

 

私の知らないところで。

 

「表現は正確になさい。『妖精さんが説明をしてくれた』と、『あなたが』言った。私は何もしていない。何でも私のせいにしないで頂戴」

 

私はたじろいでしまった。

確かに、妖精さんの言った通りだった。

 

お母さん(論理的不整合)を何とかしてくれた、と私が言った。

 

「私だって驚いたわよ。人間の意識が二つだけの小時空。そこで当人達は何も違和感を感じず、平和な放課後だけを続けているのだから」

 

紫ちゃんはずっと独り言をつぶやいていた。

きっと考えを整理しているんだ。

紫ちゃんはクールで優しいから。

 

「今ならわかるわ。モンスターが時空を飛び越えるように、魔法少女の魔法力――つまり存在も時空を飛び越える。紫王紫、あなたが罪の重さに耐えかねて逃げ込んだ時空――それがこのちっぽけな世界よ。たった二人の世界でブイチューバ―だなんて、笑ってしまうわよね」

 

 

辺りは静かだった。

いっそこの静けさが続けばいいのに、と思った。

 

空が暗くなった。

晴れろ、そう念じてみたが無理だった。

 

怪異(来訪者)には私の(強制力)は通じない。

 

黒い稲妻が落ちる。

 

私達のすぐ前に。

 

 

黒鬼。

 

 

そうすぐにわかったのは、頭の角、手にした金棒、それに人間よりも一回り大きい骨格で特徴的だったから。

 

何もしなければ襲われる。

 

まずやらないといけないことは――。

 

「紫ちゃん!! これ紫ちゃんの!! はい!!」

 

そうだ。

途中で拾ったスマートホン。

これがないと簡易変身できない。

 

「……」

 

紫ちゃんはそれを黙って見つめて、静かに手にした。

まるで魅入られたように。

 

今は緊急事態だからおしゃべりする余裕がないのは仕方ない。

 

「変身!!」「……変身」

 

私の体が桃色の光に包まれる(紫ちゃんが紫色の光に包まれる)

包んでいた衣服が、ドレスへと変わる(長い髪をはためかせて、甲冑を身に纏う)

手に杖、胸にリボン、フリフリのスカート(剣と盾、いつものかっこいい紫ちゃん――)

 

「紫ちゃん、頑張ろうね……!!」

 

「……」

 

「……紫ちゃん?」

 

「ここは私と桃美ちゃん、二人だけの世界……誰にも邪魔なんてさせない……!!」

 

黒鬼が、ゆっくりと近づいてくる。

一歩一歩がずっしりと、重たい。

 

鬼が金棒を地へ打ち付ける。

舗装されている道路が、ひび割れて砕けた。

 

「……やっぱり予想を上回るペースで来ていたのね。それも計算に入れてない要因があったから」

 

妖精さんがの気勢の良い声が飛んだ。

 

「こうなってはしょうがないわ!! 迎撃して頂戴!! 絶対に捕まらないでよ!! 戦いが終わった後で紫王さんから力を――」

 

「やめろって言ったり……戦えって言ったり……」

 

「……紫ちゃん?」

 

紫ちゃんの口調は初めて聞くものだった。

 

「私は魔法少女よ!!!! 脇役でも悪役でもない!!!!」

 

「紫ちゃん!!」

 

紫ちゃんが猛然と敵へ突き進む。

剣を振り上げて、鬼を斬り付けた。

 

 

敵は――。

 

 

微動だにしていなかった。

 

焦る気持ちを抑えて、私は魔法力を溜めた。

一撃。

それに賭けるしかない。

 

 

今度は敵の番だった。

 

金棒が振り下ろされる。

 

 

紫ちゃんは――。

 

 

鎧が砕かれ、後ろにのけ反っていた。

 

 

「紫ちゃん!!!!」

 

「……勝負あったわね」

 

妖精さんが淡々とした口調で言った。

そこには敵意はなく、ただ事実を述べただけのようだった。

 

「紫王さん、あなたには無理な相手よ!! 桃原さんと逃げなさい!!!!」

 

「でもそれじゃあ、こいつはどうするの妖精さん……!!」

 

私の返答に妖精さんはこともなげに答えた。

 

「黄原さんを私が呼ぶわ!! それまで身を隠してなさい!!!!」

 

「また……あの子……!! 私にだって……!! うおおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

紫ちゃんが剣を振り上げる――。

 

その時にはもう金棒は紫ちゃんの体を捉えていた。

 

少女の悲鳴が上がる。

 

大丈夫だ。

 

鎧が残っている間は、紫ちゃんが直接傷つくことはない。

 

必死に自分に言い聞かせた。

 

 

今、自分にできること。

 

今、自分にできること……。

 

 

 

今、自分にできること……?

 

 

私は魔法力を溜めた。

 

「紫ちゃん!!」「……!! そうね……!! 桃美ちゃん、トドメをお願いするわ!!!!」

 

妖精さんが必死に何か(逃亡)を訴えている。

それも耳には入らない。

 

私がやるしかない。

 

 

金棒と剣が鍔迫り合う(剣は一方的に弾かれ続けた)

 

紫ちゃんが必死に食止めてくれている(少女は最早、ただの的だった)

 

陰になっていた紫ちゃんの体がふっと退いた(鬼の一撃で紫ちゃんの体が吹っ飛んだ)

 

 

私の魔法力が、溜まった(私の血管が、切れた)

 

 

浄化コード認証(紫ちゃんをいじめる奴なんて)……」

 

桃花彩光・フル・シュートオオォォ!!!!(嫌いだああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)

 

 

杖の先から桃の光が溢れ出る。

水道管が破裂したみたいに。

 

光が鬼を完全に飲み込んだ。

 

息が切れる。

 

敵のことなんてどうでもいい。

 

早く紫ちゃんを――。

 

 

「え……?」

 

 

鬼は微動だにしていなかった。

 

まるで、そよ風でも吹いたみたいに。

 

 

――認証失敗。

 

 

敵は無傷でそこに立っていた。

 

呆然とする私に、諦めたようなささやきが聞こえた。

 

「紫王さんはあの敵の攻撃を捌くことなんてできないし、桃原さんにはあの敵を倒せる出力はない」

 

それが事実だった。

 

「あなた達、お互いが見えていないのよ」

 

それが事実だった(それを事実だと認めたくなかった)

 

 

私ははっと気が付いた。

 

敵が無事で、そのまま歩いてくるということは――。

 

「紫ちゃん!!!!」

 

私は地に伏せる紫ちゃんの前へと出た。

黒鬼が私の目の前に迫っていた。

 

私が紫ちゃんを守る。

 

私が――。

 

 

金棒が旋回した。

 

「きゃあぁ!!!!」

 

杖で受け止めようとした。

でも、私の体は逆方向へ勢いよく弾かれた。

 

「っ……。まだまだ――」

 

金棒が振り下ろされた。

 

「きゃあああ!!!!」

 

ドレスの一部が瞬時にほどけ、振り下ろされた一点へと集まった。

衝撃でへたりこんでしまう。

 

ダメだ。

 

私が紫ちゃんを守るんだ。

 

私が――。

 

「あ……」

 

立ち上がった私の目の前には敵がいた。

自分よりも遥かに大柄な獰猛な。

 

顔の目玉のような部分がこちらに向いていた。

 

鬼の左手がこちらへと伸びた。

 

「っ……!!!!」

 

反射的に後ろに下がるも、少し遅かった。

胸のリボンは引きちぎられていた。

 

鬼が破れたそれをぞんざいに放り捨てる。

空中でその形をなくし、霧散していった。

 

私が紫ちゃんを守る。

 

私が――。

 

 

 

私じゃ、無理だ(それでも紫ちゃんを守る)

 

 

 

金棒が眼前に迫っていた。

 

「きゃああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!!!!」

 

何の防ぐ手段もなかった。

ただ、吹き飛ばされただけだった。

 

私の視界が数回転する。

痛みこそなかった。

 

でも、勝てないと思い知らされた。

 

私の体は地に伏せていた。

ドレスはもうボロボロだった。

 

鬼がこちらに迫るのがわかった。

血の気が引いていく。

 

このままじゃ、私は何もできないのかな。

魔法少女になっても、自分の大事な人も守れなくて――。

 

私は倒れたまま隣を見た。

そこに紫ちゃんがいるはずだと思ったから。

 

しかし事実は違った。

 

紫ちゃんはそこにはいなかった。

 

 

 

 

 

「止まりなさい!!!! 化け物!!!!」

 

顔を上げる。

少女(大好きな人)の背中があった。

 

だからこそ、叫んだ。

 

「紫ちゃん!!!! 逃げて!!!!」

 

紫の鎧は、ほとんどその体を成していなかった。

盾だけを前方に構えた防御姿勢。

 

紫ちゃんの足は震えていた。

 

「紫ちゃん!! 無理だよ!! 逃げてってば!!!!」

 

「……私だって、怖い。……でも」

 

紫ちゃんの声は、酷くしゃがれていた。

 

「守る側と守られる側が逆になったら、いけないから……!!」

 

鬼がこちらに迫った。

 

ダメ。

 

ダメだ。

 

「ダメええええぇぇぇぇ!!!!」

 

黒の金棒が、紫の盾を粉々に砕いた。

衝撃で、紫ちゃんの変身が解ける。

 

そこにいるのは魔法少女では、もうない。

普通の洋服を着た、普通の少女――。

 

「いや!! 放して!!!!」

 

紫ちゃんの体が鬼に担ぎ上げられる。

鬼はそのまま浮かび上がると、真っ暗な天へと昇っていった。

 

「紫ちゃああああぁぁぁぁん!!!!」

 

いくら叫んでも、もう届かなかった。

 

残された私に緑の光が近づく。

 

「どうやら最悪の事態になったようね」

 

私は思わず光を掴んでいた。

 

そんな……どういうこと?(他人事みたいに言うなよ!!!!)

 

「まあ落ち着きなさいよ。まだ、どうにかする手筈はあるわ。それよりもあなたのことよ」

 

「私のことなんてどうでもいい!!!!」

 

「本当に? 黄原さんと紫王さんは、そういうことだった。あなたは? 何であなたはここにいるの?」

 

 

何で?

 

何で私がここにいるのか?

 

もともと私と紫ちゃんの二人で、黄依ちゃんが仲間に入って――。

 

「事実は違った。だからこそ気になっている。二人の間に割り込んだあなたは何なのか。何でもないなら、別にいいんだけどね」

 

私は――。

 

 

 

 

 

私は一体、何なのか(何だった)

 

 

 

 

 

 

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