今日はおばあちゃんと二人で、雪山登山だった。
しかし、こんな最悪の事態になるとはあたしは思ってもみなかった。もう、春だというのに、突然大雪が降りだし、あたしとお婆ちゃんは、この高山で遭難してしまったのだった。
雪の中にほった横穴の奥で、毛布にくるまり、ふるえるあたしとお婆ちゃん。
お婆ちゃんが言った。
「毛布、用意しておいてよかったね」
「……」
お婆ちゃんと一緒に、ひとつの毛布にくるまる。あったかい。
あたしのお腹が、ぐうと鳴った。お婆ちゃんが言った。
「ごめんね。こんな吹雪になると思ってなかったから、食料はもうなくなっちゃったよ」
あたしは、こごえる手でリュックから小さな箱を取り出して、おばあちゃんに言った。
「おばあちゃん、これ、クッキー」
「んー?」
「おばあちゃんがね、バレンタインデーだから、男の子にチョコでもあげたらって、言ってくれて、それで上げたの。これ、そのお返しのクッキー」
「へー!」雪が凍り付いた小さな眼鏡をかけた、お婆ちゃんの顔が、少しほっこりした。
「よかったね、お返しもらえたんだね。じゃあ、絶対にここから、生きて帰らないとね」
「……、うん」
あたしはそのクッキーを、お婆ちゃんと食べた。でも、吹雪は収まらず、それから三日以上も、あたしはその雪山の横穴で、お婆ちゃんと二人で震えていた。
「おばあちゃん、もうだめ、指が、動かない」
「あきらめちゃだめ! これを飲んで!」
お婆ちゃんが、何かの管のようなものを、あたしの唇にくわえさせた。
え? これは何?
あたたかくて甘い液体。身体がほかほかしてくる。身体の中に、エネルギーがわいてくる。
「お婆ちゃん、これって……、何?」
「大丈夫、大丈夫だよ、しっかりお飲み」
「ありがと、お婆ちゃん」
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さらに数日後、あたしは山岳救助隊に、救出された。
あたしがお婆ちゃんに飲ませてもらったのは、お婆ちゃんの心臓からあふれでる、人間でいうと血液のような、体内潤滑材だった。旧式ロボットであるお婆ちゃんの潤滑油には、あたしの身体には流れていない、糖分が大量に含まれていたのだ。お婆ちゃんは、その糖分を、あたしに分けてくれた。それであたしは助かったのだった。
「お婆ちゃん……」
朦朧とする意識の中、あたしは毛布に寝かされた、お婆ちゃんを見つけた。お婆ちゃんの胸にはぽっかりと穴があいて、心臓がその穴からはみだしていた。
隊員の一人が、こんなことを言った。
「大丈夫です、この旧式ロボットも、助かります。むしろ旧式だからよかったです」
お婆ちゃんは、どうやら助かるようだ。あたしはほっとした。
お婆ちゃんが話せるようになったら、ちゃんとバレンタインデーのお礼を言おう。ありがとう、お婆ちゃん。
(おわり)