いつかに英雄の隣にいた誰か   作:幽 

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幕間の話になります


待ち人

 

「・・・・それは、たぶんセイアッド姫じゃないのかな?」

 

藤丸立香とマシュ・キリエライトを前にロマニ・アーキマンは首を傾げた。

モードレッドの好きなもの、という話を聞いた後、立香はその抽象的なものの正体が分からずに困惑していた。

けれど、それがいったい何なのか、彼女に問いかけることも出来なかった。

その、好きなものについては語る時、モードレッドはあまりにもらしくない表情で、静かで、寂しくて、悲しい顔をするものだから。それがなんなのか、聞くことは出来なかった。安易に触れるには、あまりにも宝物を愛でるかのような、真摯な顔をしていたのだ。

とはいえ、さすがにそれが何か分からぬままというのも収まりが悪い。そのため、彼女にとっての頼れる後輩、マシュに見当がつかないかと聞くことにしたのだ。

そして、それに応えたのは、丁度マシュと廊下で立ち話をしていたロマニであった。

 

「セイ、アッド?」

「うん、まあ、けっこう有名なお姫様だね。アーサー王関係で、星屑の髪に、満月の瞳は彼女ぐらいだと思うけど。」

「はい、セイアッド姫はアーサー王伝説を読んだ方なら大抵知っているかと思いますが。先輩こそ、なぜ、そんなことを?」

「う、うん。実はさっき、モードレッドに好きなものについて聞いたら、そう答えてくれて。」

 

その言葉に、ロマニとマシュは、何とも言えない顔をした。それに、立香は嫌な気配を感じながらも再度問いかけた。

 

「えっと、そのお姫様、何か嫌な逸話でもあるの?」

 

それに対して、セイアッドについて知っている二人は何とも言えない苦みの走った顔を合わせた。そして、ロマニはうーんと唸りつつ首を振った。

 

「いや、そう言うわけじゃないんだ。セイアッド姫自体はどちらかというと素敵な逸話を持った人なんだよ。」

「それじゃあ、何でそんな顔するの?」

「・・・・・そうだね。そこら辺は少し長くなるけどいいかな?」

「それは、構わないけど。」

ロマニはそれに、廊下から茶でも飲みながらと医務室を指さした。

「じゃあ、お茶でも飲みながら話そうか。少し、長くなるだろうから。」

 

その言葉に、マシュと立香は頷いた。

 

 

 

 

 

少し消毒液の臭いがするそこで、三人は向かい合わせに座り、ロマニが常備している紅茶を啜った。そして、おもむろにロマニが話し始める。

 

「ええっと、そうだね。セイアッド姫はアーサー王伝説の中でも結構有名な存在なんだ。」

「そうなの?」

「はい、といっても、物語の中でセイアッド姫が直接出て来るのは一度だけになります。」

「それでも有名なんだ。」

「・・・・うん。まあ、確かにね。彼女はね、サー・モードレッドとセットで語られる存在なんだよ。話の中では、セイアッド姫はそれはそれは美しい姫でね、求婚者が絶えなかったんだけど、彼女を奪われることを恐れた父である国王に魔術師が作った塔の中に閉じ込められていたんだ。」

「・・・・それで、モードレッドが塔の中から連れ出すとか?」

 

立香は自分の予想に少々わくわくした。そうだというなら、まるでお伽噺の様で素敵ではないか。アーサー王伝説の話において、立香が知っているのなんてランスロットの不倫ぐらいしか知らないのだ。

 

「そうだね。その予想は八割方あってるよ。」

「八割方なの?」

「はい、実際はセイアッド姫は塔から出ることなく生涯を閉じています。彼女は呪いによって塔から出ることは出来ず、モードレッドさんが通うことによって逢瀬を重ねたそうです。」

「そんな彼女はサー・モードレッドが冒険の旅へと出るたびに数々の助言をしていたんだよ。軽い予言のようなものをし、行く先々での困難について助けになるようなものも渡していたから、優れた魔術師としての側面も持っていたようだね。」

「ここまで聞いたけど、セイアッド姫に何か話しにくいことはないように聞こえるね。」

 

それにロマニとマシュは頷き、言いにくそうにまた話し始めた。

そうだ、セイアッド姫とモードレッドの話は、アーサー王の話の中でも有名な恋物語として伝えられている。

そう、悲恋の物語として、何よりも。

 

「・・・・物語の中では、結局国は滅びてしまうのですが。その原因は数々にあります。けれど、最後の、というか一番の一押しはモードレッドさんの反逆にあります。その、反逆の原因がセイアッド姫にあるんです。」

「え、そうなの!?」

 

立香が驚いたような顔をした。それに、ロマニは頷いた。それを横目に、またマシュが話し始める。

 

「・・・・はい、それはセイアッド姫が実際に話の中で語られる唯一の場面です。一人、塔の中に残った彼女を女性が訪ねて来ます。女性の名はモルガン。アーサー王の宿敵です。彼女は、セイアッド姫にいいます。モードレッドこそが、王に相応しい。けれど、モードレッドは今の立場に甘んじている。モードレッドを愛しているならば、彼の目を覚ますために説得する様にと。そうした暁には、お前と私で彼を支えようと。」

「・・・・セイアッド姫は、それになんて?」

 

固唾を呑んでマシュの語りに立香は聞き入った。それに、マシュも頷いて答える。

 

「セイアッド姫は、それに悠然と微笑み、答えます。もしも、モードレッドが本当に王に相応しいというならば、己の力だけでそこにたどり着くでしょう。私の力なんてなくとも、あなたの力なんてなくとも。誇り高き彼の人は、いつか行きつくべき場所に行きつくのでしょう、と。そして、モルガンの怒りを買ったセイアッド姫は、彼女に殺されてしまいます。」

「え?」

 

セイアッド姫の話は、円卓の騎士たちの居る場所では語りにくいものが在る。

何故なら、ある意味ではセイアッド姫の死によって、モードレッドの反逆が決まってしまった部分があるためだ。

彼女が死んだことでモードレッドは、深く後悔することになる。しばらくの間、剣も手につかなかったほどの嘆き様であったそうだ。

そんな彼女はモルガンに囁かれるのだ。

あなたが守れなかったがゆえに、彼女は死んでしまったのだ。もしも、もっと、あなたが早く王位につき、彼女を塔から連れ出していれば、違った結末があったでしょうに。

そして、こうも囁いた。

彼女も、あなたが王位を取ることを望んでいたはずだ。あなたが望んでいた通り、アーサー王に認められる、つまりは王位を取ることを彼女もきっと望んでいるはずだ。

セイアッド姫の死因を知らなかったモードレッドは、それから王位というものに執着するようになった。

 

 

「・・・・・そして、モードレッドさんは、アーサー王に反逆することになった、というわけです。ですが、アーサー王を殺した後に、セイアッド姫の真実を知り、モルガンを恨むことになります。」

「といっても、話が語られる系統では、実はセイアッドはモルガンが化けた姿だった、なんて話もあるけれど。でも、彼女の話はアーサー王の中では、詳しい記述はなくとも、恋人を信じ続けた女性として有名なんだよ。」

 

立香は話し終わったそれらに、何と言えばいいのか分からなかった。

ただ、モードレッドの好きなものだと語った時の、あの顔の意味が分かった気もした。

 

「・・・・・モーさんは、お姫様の事が好きだったのかな?」

 

掠れた声で、思わずそう呟いた。

けれど、それにロマニもマシュも応えられなかった。

ただ、立香の脳裏には、彼女らしくない静かな、美しい笑みが焼き付いて離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・あれ?」

 

何の因果か、原因か、無人島にたどり着いてしまったという一生に体験することはない事件の最中、立香は夜、寝付けずに外に出た。すると、何故か海の方に向かうライダーのモードレッドの姿が目についた。

 

「どうしたんでしょうか、モードレッドさん。」

 

一緒に拠点から出て来たマシュの言葉に、立香は頷いた。ナイトサーフィンという予想もついたが、彼女の性格からして一言ぐらいは残していきそうなものなのだが。

気になった二人は、その後をつけることにした。

 

 

「・・・・何だよ、マスターに、マシュ。」

「あ、ばれてたの?」

「ばれないわけないだろ、この俺だぞ?」

「そうですね、モードレッドさんの実力からして、私達の尾行なんて簡単に気づいてしまいます。」

「そーいうことだ。お前らも、こっちに来いよ。」

 

波打ち際に呼ばれた二人は、同じようにモードレッドの隣りに立った。そして、不思議そうに立香は彼女に問いかけた。

 

「というか、モーさんこんな夜にどうしたの?」

「そうです、いくらモードレッドさんに実力があるといっても一人での行動は危険かと。」

「あー?いいだろ、別に。少し、一人で海を眺めたかっただけだからよ。」

 

モードレッドはそう言って、ぼんやりと海を眺めつづける。その様は、やはり、昼の彼女とは大違いで、なんだからしくなかった。

それに、立香はなんだか今のモードレッドを一人にしてあげた方がいい気がしてきたのだ。

 

(・・・・・もう少し話したら、マシュを連れて拠点に帰ろう。)

 

気分に一区切りつけて、彼女はそうなんだ、と頷いた。

 

「でも、まあ、早めに切り上げた方がいいよ。今日は何だかんだで拠点づくりで大変だったし。」

「そうですね、モードレッドさんは鉄製の家を希望されていましたが。」

「当たり前だろ、家ってのは頑丈であればあるほどいいんだろ?」

「だからって、あんまりにも極端な気がするけどね。」

「・・・・・そっちのほうが、ましだからな。」

 

唐突に、妙に静かな声で、モードレッドは呟いた。それに、周りが、一瞬、しんと音をなくした気がした。波の音さえ遠いように思えたその時、立香は思わずモードレッドを見る。マシュも同じように、驚いた顔でモードレッドの方を見ていた。

 

「・・・どんなにみっともなくたって、極端だって、奪われちまうよりもずっとましさ。」

 

思わず、押し黙ってしまうような重苦しくて、そのくせ風に攫われてしまいそうなほど掠れた声だった。

 

「いつも通り、当たり前みてえに、それこそ犬みてえに俺のことを待ってるって思ってた。でも、二度と、あいつは俺に微笑みかけることはなかった。奪われて、もっと、どうにかなったんじゃねえかなんて考えても、全部がすでに遅かった。」

 

モードレッドはそう言った後に、二人の方に顔を向けた。けれど、その視線は確かにマシュの方を見ていた。

 

「・・・・・お前は間違えるなよ。お前は、俺と違って戦うものじゃなく、守るものだ。お前が、己が宝と決めたものを守り切れば、それだけでお前の勝ちだ。俺みてえに、前ばっか見て、後ろのやつを置いてきぼりになんてすんなよ。」

前にも言ったかもしれねえけどな。

 

静かで、穏やかな、あの時と同じ、月光のような微笑みにマシュは言葉を失った。けれど、震える声で頷いた。

 

「はい!」

 

それに、モードレッドは満足したように頷いた。

立香は、その表情に思わず、問うてしまった。

 

「・・・・・・どうして、海が見たくなったの?」

 

立香の言葉に、モードレッドは少しだけ体を震わせた後に、苦笑交じりの声を上げた。

 

「・・・・・・前に、海の話が好きだった奴がいたんだよ。」

「海の話?」

「ああ、海の話に関わらず、森の話も、湖の話も、キャメロットの話も、獣たちの話も、花の話も、何かもが好きだったけどな。だが、海の話は一等気に入ってた。話のうまくねえ俺のも、嬉しそうに聞いてたよ。つって、上手く話せねえから、さっさと切り上げちまうことがほとんどだったけどな。」

「・・・・その人、モーさんの話、聞くのが好きだったんだね。」

「・・・・どうだろうな、あいつは籠の鳥みたいなもんで。話すことが無いから、俺の話を聞くしかなかったのかもしれねえし。でも、まあ、そうだな。俺も、そんなに話すことが好きだったわけじゃねえけど。でも、あいつに一方的にでも、話すのは好きだったよ。」

 

モードレッドは、幼いころの思い出話を話す様に照れくさそうに笑った。

そして、屈みこみ、海にちゃぷちゃぷと手を入れた。

 

「海は、塩辛いんだっていうと、スープを作るのに便利そうだなんて言ってたっけっなあ。魚も取れるから、ついでに具が用意できるとかも。ここにあいつがいたら、きっと喜ぶだろうな。」

 

その横顔は、本当に幼くて、普段の粗野さを感じる印象とはまるで違い、繊細な少女のような顔をしていた。

 

「泳げるぐらい広いんだっていっても、あいつ泳ぐこと自体知らなかったから。一から教えてやんねえと。でも、それよりも砂遊びのほうが喜ぶかもな。」

 

くすくすと、少女のようにモードレッドは笑って、そして、ゆっくりと立ち上がって夜空を見上げた。

 

「話したかったのに、話せないままのことだってあるのによ。」

 

はははははは、と波の音と一緒にモードレッドの笑い声が響いた。そして、それと同時に、ひどく、ひどく、小さな声も混じって聞こえた。

 

「・・・・もっと、望む通りにしてやればよかった。約束なんて無視して、行きたいところに、見せたいものを見せてやればよかった。」

 

掠れた声は、ざーざーと、ざーざーと、波の音に攫われて、遠くに消えてしまったように立香には聞こえた。

それに、また、思わず立香は口を開いた。

 

「なら、会えるまでお土産話、たくさん用意しておこ!」

「は?」

「カルデアで、再会できた人たちだっている!なら、その人と会える可能性だってあるから。だから、それまで話せることをたくさん用意しておこうよ。再会できないって、決まったわけじゃないんだから。」

 

モードレッドは、それに虚を突かれたような顔をする。けれど、その後に、ふっとまた、あの静かな笑みを浮かべて、頷いた。

 

「そうだな、そんなことも、期待してもばちは当たらねえのかもな。」

 

三人の間を吹き抜けた潮風は、そんな言葉を攫ってどこかに届けようとしているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ほかに、やることはもうないですねえ。」

 

セイアッドは、いつからいるのかも、いったいどれほどの時間が経ったかもわからないが、自分の育った塔の中にいた。

モルガンに殺されたことは覚えているのだが、それから気づけば塔の中にいた。

どうも、そこは英霊の座というものであるらしいのだが、それがどういうものなのかセイアッド自身知りはしない。ただ、自分がいけるのは、塔の中と、そして何故か窓から出入りの出来る美しい花畑だけだった。

塔での家事が終われば、その花畑を散歩する。

セイアッドは、ぽつんと窓辺に置かれたテーブルと、その近くに置かれた椅子に座った。向かい置かれた椅子は空のまま。

塔の唯一の出入り口である扉から出ようとは思わなかった。

そこから出る気はなかった。

 

(・・・・あそこから入って来るのは、一人だけ。私が出る時は、あの子と一緒じゃないといけない。)

 

それが、約束だった。

ぼんやりと、時間が過ぎるのを待つ。いつか、いつも通り、飯、なんて言葉と一緒に訪れる誰かを待ち続ける。

彼女が好きだった食事、体を拭くためのお湯を沸かし、また服を破いて帰って来るかもしれないと裁縫の道具を用意して、彼は待つ。

一度だって、誰も訪れないドアの前で、待ち続ける。

きっと、またたくさんのお土産話を、自分に聞かせてくれるだろうと。

自分は、それを聞くことしか出来ないけれど。でも、それに感想ぐらいは言える。そんな時、外を駆けまわる自由な獣のような彼女と、籠の鳥のような自分の世界が交わるようで嬉しい。

代わりに、自分は家の中で起こる些細な話をしよう。些細で、退屈なそんな話をそれでも彼女が耳を傾けて聞いてくれる日々が好きだった。

 

(・・・・・暇だし、刺繍でもしようかな。)

 

ぼんやりとそんなことを考えていると、こんこん、とノックの音が響いた。それに、セイアッドは飛び起きる様に扉に近づいた。

そして、扉を開ける前に、待ち人がノックをするような性質でないことを思い出し、扉の向こうの存在への興味をなくした。

そして、また部屋に戻ろうとする。けれど、外の存在もその気配に気づいたのか慌てて声を上げる。

 

「ねえ、無視しないでくれないかな!?」

「・・・・ですが、見ず知らずの人間を中に上げるわけにはいかないのですが。」

 

困り切った声に、外の存在は嬉々として名乗った。

 

「それなら安心しなよ、私はマーリン。みんなの頼れるお兄さんだよ!」

「その言葉で、あなたを部屋に入れないことが決定してしまいました。」

「なんでだい!?」

 

コントのようなやり取りだなあと考えながら、セイアッドは申し訳なさそうに答えた。

 

「マーリン様は目が合っただけで子が出来てしまうような人でなしだから関わるなとモードレッドに言われているんです。」

「く!ちゃんと釘を刺してたか、モードレッド!」

「そういうわけで、あなたに会うわけにいかないので、お引き取りをお願いしたいのですが。」

「いや、私もそう簡単に帰るわけにはいかないんだよ。」

 

マーリンはそう言うと、セイアッドの返事を聞かずに話し始める。

いわく、今、世界は滅びそうになっているそうだ。マーリンも、世界が滅びないようにそれを止める為に頑張っている少女を手助けてしているそうだ。

セイアッド自身、分からない単語も多かったため、ざっくりとしているがそう言うことらしい。

 

「はあ、そうなんですか。」

「いや、君淡白しすぎやしないかい?」

「マーリン様のような偉大な魔術師に出来ることが少ないというのに、私のような魔術師もどきが出来ることなんてないですから。滅びるなら、滅びるのを待つしかないかと。」

「うーん、これは思っているよりも数倍は手ごわいというか。」

 

マーリンの困ったような声を聞きながら、気が済んだなら帰ってくれないだろうかとセイアッドは首を傾げる。

 

「いや、君にも出来ることがあるんだ。協力してほしいんだよ。」

「はあ。」

 

セイアッドは相変わらず、のんびりとした声を上げた。

 

「実はね、モードレッドを止めてほしいんだよ。」

「モードレッド?」

「ああ、そうだ。今回の特異点では、円卓のものたちが召喚される。君には、彼女を止めてほしいんだ。」

「お断りします。」

「え?」

 

予想外の返事に、マーリンの間抜けな声が聞こえた。けれど、セイアッドはあくまでのんびりと事実を告げた。

 

「どんな理由があろうとも、私は、モードレッドの敵にはなりません。それだけは出来ないのです。」

 

断固とした言葉に、マーリンは少しの間沈黙した。セイアッドはそれに立ち去るかと期待したが、すぐにマーリンは言葉を発した。

 

「・・・・いいのかい?このままでは、モードレッドは永遠に。」

 

続けられた言葉に、セイアッドは動きを止めた。そして、震える手で、ドアに手を掛け、そして自ら扉を開いた。

彼女にしか、開けぬはずだった扉を、初めて開けた。

なぜか、ひどく悪いことをしている気分になる。

扉の向こうには、見たことも無いような、美しくはあったが奇妙な服装の男が一人立っていた。

 

「・・・・・ふむ、これは、なんとまあ。男だというのが残念だ。」

 

セイアッドは、そんな台詞など聞いてもいないというように、マーリンに向けて微笑んだ。

 

「それでは、マーリン様、お話を、御聞かせていただきたいのですが?」

 

そう言って、セイアッドはどんな姫君でも裸足で逃げ出すような、優雅な礼をしてみせた。

そして、きっと、どんな人間でも、脳に叩き込まれてしまう様な美しい顔で持って、彼は月光のような美しい微笑みを浮かべた。

 

 


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