とある島の子供たちの話

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しましまデイズ

 

 それはちょっとした町内会の集まりだった。

 真昼間から大人たちが呑んでいる間、子供たちもまた集まって時間を潰す。

 

 「ねぇねぇ、きいてきいて!」

 

 両腕が翼のハーピーの少女がワクワクと目を輝かせている。

 

 「ハピみちゃった! みちゃった!」

 

 桃色の羽を口元にあて、押し殺した声を跳ねさせながら続ける。

 興奮が伝わったのか、子供たちの手は止まり、ハピに視線が集まる。

 

 「海岸でね。見覚えのない島が動いてたの!」

 

 東の沖合いで、数百メートルはある島が動いているのを早朝に見たのだという。

 潮風に乗って居眠り飛行をしているとき、確かに見たのだと。

 

 「寝ながら飛ぶなんて器用だね」

 「それ寝ぼけてただけだろ。周りに島はねぇよ」

 

 銀髪の少年が優しく関心し、黒髪の少年が飽きれたように指摘する。

 ここは絶海の孤島であり、それは周知の事実だった。

 

 「周りに島がないはずなのに、島があったから驚いてるんだよ! しかも動いてたんだよ!」

 「ハピが寝ぼけてただけにゃ」

 

 近くの木の上から、黄色い猫耳猫尻尾の生えた少女が断言する。

 

 「ええー、見たんだもん! ハピ本当に見たんだもん!」

 

 なかなか信じて貰えず、ハピがその場でぴょんぴょん跳ねながら、悔しそうに翼をパタパタ動かしている。

 

 「草も木も生えていたから島だと思うんだよ!」

 

 見間違えじゃないと繰り返す。

 

 「あ、あと」

 

 思い出して、さらに情報を追加した。

 

 「動く島からは魔力を感じなかったよ」

 

 ***

 

 「魔力を感じない」

 「せやろ」

 

 海岸線の丘の上、そのさらに上空。

 静かに中空に静止したまま薄く青い長髪の青年が、この島の周りを周回している浮き島を警戒するように見下ろし確認していた。

 その肩には小さな小鳥が乗っている。

 

 「みんないうてんねん。あれはやばいて」

 「近づけば魔力を吸われる、か」

 「せや、うちらは翼があったから良かったが、あんちゃんらみたいな魔法で飛ぶタイプはやばいで」

 

 青年が小石に風を宿し、浮き島に投げる。

 一定まで近づいたところで、魔力の消失が確認できた。

 

 「……確かに迂闊に近寄るわけにはいかないな。落下しかねん」

 

 魔力の消失と同時に、風の魔法も消えていた。

 恐らく飛行魔法の効力も消えるだろう。

 

 この世界に魔力が篭められていないものはない。

 空気から、その辺の小石に至るまで、全てに魔力は宿っている。

 しかし、目の前の動く島は何の魔力も感じないどころか、周辺の魔力を消している。

 

 「戻ろう。もう町内会が始まっているはずだ」

 「だいぶ遅刻したな。けれどこれは必要な確認やったんや」

 「ああ、皆に周知し、警戒させねばならん」

 

 特に好奇心旺盛な子供達には厳重に注意しないと、何をするか判らなかった。

 

 ***

 

 「ねぇねぇ、見えてるー?」

 

 ハピが3人の乗った籠に通した蔦を足で掴み、桃色の両翼でバッサバッサと運んでいた。

 

 「流れ星ならさっき見えたにゃ。島の近くで消えたけれど」

 「そうじゃなくてー。ほら、あれだよあれー」

 

 海上に、草木の茂る塊があった。

 それは確かに島だった。

 

 「よく見えてるよ。本当に魔力を感じないね」

 「あの浮き島、確かに動いてるな」

 「お魚は好きだけれど、この海に落下は勘弁にゃ」

 

 銀髪の少年の声に驚きが滲み、黒髪の少年が島の動きを観測する。 

 猫耳少女は海面を気にして、黄色い尻尾を不規則に揺らしている。

 

 波は穏やかだったが、そのうねりは力強かった。

 あの浮き島の移動のせいだろう。

 

 「本当はそれぞれ飛んでいけると良いんだけど、魔法は大人になってからだからね……ハピは本当に凄いねぇ」

 

 銀髪の少年が完全に腕力で飛んでいるハピを改めて賞賛する。

 本来はハーピーだって魔法が使えるまでは飛べないはずなのだ。

 

 「ハピ凄い? 凄い? えへへー、滑空と羽ばたきを上手く使ってね、それで……うわッ!?」

 

 「わあっ!?」

 「うおっ!?」

 「にゃあっ!?」

 

 ハピが急にバランスを崩し籠が傾いた。

 が、すぐに体勢を立て直し安定する。

 

 「ご、ごめん。急に眩暈が」

 

 「いや、大丈夫だよ」

 「魔力が消えた!?」

 「にゃぁ……わたしも含めて、みんなから魔力が消えてるにゃ!」

 

 3人揃って元の島を振り返り、再び浮き島へ視線を戻す。

 

 「……ここまで来たからには、何が何でもあの島へ行こうぜ」

 「そうだね。魔力を感じないどころか、近づくだけで魔力を消す島だなんて興味深い」

 「魔力の通ってないお魚は味が違うのか気になるにゃ」

 

 「もしかして覚悟を決めてるの? 遅いよ遅い、ハピは生まれたときから覚悟を決めてるよ!」

 

 降り注ぐ能天気な桃色ハーピーの声に、3人は溜息をついた。

 

 「ハピはいつか焼き鳥になる気がするよ」

 「俺達で守ってやらないとな」

 「いつも4人一緒にゃ」

 

 「わーい♪ マオ、ユウ、ニャオ、大好き~」

 

 風で視界を邪魔する銀髪を片手で掻き上げながらマオが目を細める。

 

 「魔力を消す島だなんて、害悪にしか思えないからね。ボクも責任を持って当たらないと」

 

 風に吹かれるまま黒髪を靡かせユウがニヤリと笑う。

 

 「良いじゃん。これは俺達に対する挑戦だろ。原因を突き止めようぜ」

 

 ***

 

 「あー、ケーキたべたーい。お外でたーい」

 「無理をいうな。食料にはそもそも限りがある。あと常世のモノは空気でも絶対に体内へ取り込むなよ。帰れなくなるぞ」

 「判ってるよー……ああーーー」

 

 白衣の男女が計器の数値をチェックし用紙に記録をつけている。

 欲を剥き出しにした女性が座ったまま伸びをして愚痴ると、内側から膨らみの輪郭が白衣に浮き上がって、たゆんっと揺れた。

 男性がスッと目を逸らし、注意する。

 

 3人目の足音が近づいてきた。

 

 「例の島との距離はもう変わらないか」

 「はい。やはり生者でありながら、三途の川を渡るのは困難のようです」

 「あと一晩だけ延長する。残念だが黄泉比良坂が閉じる前には戻るぞ」

 

 「あっ、博士! 計器に異常がでたよ!」

 「どうした、またノイズか?」

 

 魔力量と書かれたゲージが急激に上昇していた。

 

 「……いや、これは異常ではない。映像をこっちに回せ! 地上に隠世の者が上陸した可能性がある!」

 

 監視カメラの映像が大きく映し出された。

 そこに両腕が翼の少女、動物の耳と尻尾を生やした少女、それに黒髪の少年と銀髪の少年の姿が流れる。

 4人は背丈よりも伸びた草を掻き分けて、地上を彷徨っているようだ。

 

 「博士! こ、子供です! 子供がいます!」

 「餓鬼か? 違うな、何だあれは。翼? 獣人? 地獄の番人か?」

 「博士! 魔力の充電が完了しましたぁ! もうこれ以上は魔力を吸えません! やったー、帰れるー! ケーキ!ケーキ!」

 「ロストエネルギーの採取だけで満足するな。それは本艦に上陸したあの4人から回収しただけだ」

 

 白衣の集団が食い入るようにディスプレイを覗き込む。

 恐らく採取したのは4人の体外に溢れただけの魔力だ。

 魔力そのものは身の内から沸き続けているに違いない。

 

 「可能なら生体も現世に持ち帰るぞ」

 

 濃い魔力の発生源さえあれば、その先も夢ではない。

 博士と呼ばれた男が、この場にいる人間達の目的を口にする。

 

 「古来に存在した『魔法』を復活させるのは、我々だ」

 

 ***

 

 「草が羽に絡むよう」

 「ハピは後ろにいってろ。前に出るな」

 

 黒髪の言葉に桃色が後ろへ下がる。

 

 「ハピはみんなを運んで頑張ったんだから、草を掻き分けるのはボクとユウにやらせてよ」

 

 銀髪が黒髪と並び道を作っていく。

 

 「役割分担にゃ。草をガサガサするのはマオとユウに任せとけば良いにゃ」

 

 黄色い猫耳をピンと立てて周囲の音を警戒しながら、ニャオがハピと並ぶ。

 

 「この草、どれも2メートル近くないか? 匂いも何か変だ」

 「うん。だいぶ成長してるね。しかも知ってる草と違う気がする。虫もいない」

 

 マオが額の汗を腕で拭うと、光に透け銀髪がキラキラと輝く。

 ユウは好奇心で目を輝かせながら、ぐいぐいと草を掻き分け進んでいく。

 

 暫く進むと開けた場所に出た。

 

 「止まるにゃ」

 

 目の前にあるのは土が露出した広場だった。

 

 「複数の呼吸音。地下に何かいるにゃ」

 

 4人の視線が地面に向く。

 

 「モグラかな?」

 

 ハピが首を傾げる。

 

 「あと厚い金属で囲まれた家みたいなのが埋まってるにゃ」

 

 3人に見守られながら、ニャオが広場を歩き回る。

 

 「男が8人、女が2人。全員わたし達より大きいにゃ。でも人間だと思う。マオやユウに近い体のタイプにゃ」

 「未知の生物だ! 外来種だ!」

 

 ハピのテンションが上がった。

 

 「地下か。酸素を取り入れるための管か何かが地上にでてないかな」

 「あっちとあっちの木、音の反響が地下と繋がってるにゃ」

 「話が早いじゃないか」

 

 銀髪が思案し、猫が特定する。

 黒髪が好戦的に目を輝かせた。

 

 「言葉は通じるかな。通じたらいいなっ」

 

 桃色の羽を揺らし、ハピは新しい仲間を島へ連れ帰るつもりになっていた。

 

 ***

 

 ガランと大きな音を立てて、金属の枠が床に落ちる。

 

 ピンク色の塊が換気口から飛び出し、空中でパッと翼を広げた。

 一瞬滞空し、その小さな背に腰に3人が続けてしがみ付く。

 

 「だっ」

 「わぷっ」

 「にゃっ」

 

 「そんなに高くはないね。降りるよー」

 

 何度か羽ばたき、ゆっくりと降りる。

 

 「10メートルくらいかな」

 

 ハピが侵入口を見上げ呟いた。

 

 「そうだね。でも換気用だと思ったんだけど、何で密閉してあったんだろう」

 「不思議にゃ」

 「ここが地下か」

 

 4人の子供が、キョロキョロと見渡した。

 壁も床も天井も金属だった。

 珍しい光景だった。

 

 「あっちから人の声がするにゃ」

 

 「よし、行くぞ」

 「ハピも行くよ!」

 

 黒髪と桃色が黄色いケモ手の指す方へ走っていく。

 

 「ボクらも行こう」

 「たぶん全員がこの先に固まってるにゃ」

 

 2人も駆け出し、足音が軽快に響いた。

 

 ***

 

 「侵入されましたぁ!」

 

 ケーキを夢見る女性が真顔で報告する。

 博士と呼ばれる男性がその内容に絶句しながら、ディスプレイをみつめていた。

 地上の子供達はうろうろ歩いていたかと思うと、現世で使用する換気口から侵入してきた。

 

 ミサイルの直撃でも受けない限り破られないはずの金属壁を蹴り壊して。

 

 「隔壁を5枚とも降ろしましたが、全部突破されましたぁ」

 

 すぐにもっと理解し難い報告が飛んでくる。

 その様子はずっと映像でも流れていた。

 

 黒髪の少年が殴る蹴るで、これまた火災や爆発から居住区を守る為の隔壁を素手で壊している。

 

 「博士!」

 「博士ぇ!」

 

 「……言葉が通じることを祈ろう」

 

 ここは調査船であり、研究者である彼らは武器を携行していない。

 衝撃音がここまで届き、2重のドアの外側も破られたのが判った。

 白衣たちが息を飲む。

 

 そしてドアが静かにノックされた。

 

 ***

 

 「この先に人がいるにゃ」

 「礼儀正しくしようよ!」

 

 「れ、礼儀ってどうしたらいいんだ!?」

 「焦らないで。大丈夫、入るときはドアをノックしたらいい。それで礼儀は完璧だよ」 

 

 「ハピがやりたい! ノックするよ! どうしたらいい!」

 「ハピは羽だから無理にゃ。生えてきた障害物を突破してきたのはユウだし、ユウで良い気がするにゃ」

 

 「お、おう。緊張するな。よし、いくぞ」

 

 コンコン。

 

 ……4人がじっとドアを見る。

 

 コンコン。

 

 ユウが2度目のノックをする。

 

 ユウが3度目のノックをしようとした所で、ガチャと音がしドアが内側へと開いた。

 

 子供達は知らない大人達をみあげて、ポカンとした。

 

 「まさかみんなで服をお揃いにしてるなんて」

 

 ハピが驚きを言葉にする。

 その声を聞いて、白衣集団がざわめいた。

 

 『キミ達は言葉を話せるのかい?』

 

 博士と呼ばれた男がハピに話し掛ける。

 

 「みてみて! ハピ話しかけられたよ! 何いってるのか判らないけれど!」

 「コイツら話せるのか。何いってるのか判らないけれど」

 「そうみたいだね、この大人達は言葉を話せるらしい。何いってるのか判らないけれど」

 「にゃ」

 

 子供達がざわついている様子を大人達が見守る。

 

 『うん、めっちゃしゃべってるのは判る。何いってるのか判らないけれど』

 

 さっきまで魔力計の確認も担当していた女性が博士の隣で大きく頷き胸を揺らした。

 

 『別の言語体系だ。当然といえば当然か。どうしたものか』 

 『拘束しようにも、あのパワーじゃ無理ですね』

 『欲を出し過ぎたな。生存を優先しよう……あー、我々はキミ達の敵ではない。だから……帰って貰って良いかな』

 

 「きいた!? たぶん友好的だよ! 島で歓迎しよう!」

 「ハピ落ち着け。帰って欲しそうな空気を感じる」

 「そんなことないよ!」

 

 ハピが桃色の羽を揺らし、ユウが片手で黒髪の頭を抱えた。

 どうしたものかと白衣のひとりがふと計器に目を向け、目を疑った。

 

 『はっ、博士! 島に近づいています!』

 『な、何? どうして今になって』

 

 「何みてるの? ハピにもみせて。あっ、島だ。島が近づいてるっ」

 「ホントだ。帰りは運んで貰わなくて済みそうだな」

 「ひょっとして、島まで送り届けてくれるのかにゃ?」

 「わっ、良い人たちだ! ハピは楽ができて嬉しいよ! 島についたら歓迎するね!」

 「魔力を消す島を近づけて大丈夫か少し心配になったけれど、いつの間にかボクらの魔力が戻ってるね」

 

 『あっ!』

 

 白衣の職員のうち一人が急に大声をあげた。

 13人の視線が集まる。

 

 『艦内に外の空気が入り込んでいます……』

 

 その指はディスプレイに映る、壊れた換気口を指していた。

 白衣集団が次々に膝から崩れ落ちた。

 

 『我々は死者認定されたのか……』

 

 博士と呼ばれる男がディスプレイに映る島が大きくなっていくのをみつめ、理解を口にする。

 

 「この白い人たち落ち込んでるにゃ」

 「うん、言葉は判らないけれど、ボクもそう思う」

 

 やがて浮き島は本島と合流し、陸続きとなった。

 島の大人達も珍しいだけで害のない来客をすぐに受け入れる。

 

 月日の経過で言葉も共通となり、浮き島の謎も判明した。

 

 「魔法がない世界から来たにゃ?」

 「魔法があった世界から、だな。昔、大きな戦争があって、魔力を使い尽くしたのさ」

 

 焼き魚を齧りながら、博士と呼ばれた男の話に皆が耳を傾ける。

 

 「消費された魔力の行方を探り、あの世……だと思う世界に到着し、そうだな、『魔力の蘇生』を目論んだのさ」

 

 魔力を元の世界に持ち帰り、仕組みを調べて増やそうとしていたのだと。

 しかし本島と繋がった辺りから艦の電源も完全に沈黙し、もう帰りようがなくなっていた。

 

 「ケーキだ! この世界にもあった!」

 

 子供のように喜んで生クリームをパクつく大人の女性の姿を眺めながら、博士と呼ばれる男もまた考えを改める。

 

 「よし、ここで研究を継続して、いつか元の世界に……みんなを招待しよう」

 

 わー、と挙がる歓声。

 

 「ハピ楽しみ! 協力するね!」

 

 新しい仲間も増えて、島はまた少し賑やかになるのだった。

 


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