メジロマックイーンだと思ってスカウトしたら、おばアサマの方でした。 作:風神・雷神
「君の走りに感動した」
今、一人のウマ娘をスカウトしようとしている。
彼女の名前は、メジロマックイーン。
名門メジロ家の大令嬢であり、落ち着いた淑女的な物腰と気品、自身の血筋に強い誇りを持っているウマ娘だ。その姿はとても気高く、学園の生徒たちから羨望の的となるほど。
そんな、新人トレーナーの自分にとっては高嶺の花である彼女に、俺は今、猛アタックを仕掛けている。
学園での授業が終わり、帰宅しようとしていた彼女の後ろ姿を見つけ、背中から声をかけた。必死すぎて周りの状況が目に入っていなかったが、その特徴的な髪型から本人だと断定して、今がチャンスとばかりに言葉を重ねる。
「流石メジロ家のウマ娘だと思ったが、俺にはそれ以上だった。君のあの走り、まさしく日本一の称号を取るに相応しい」
自分の意思とは裏腹に、熱い言葉が勝手に口から飛び出していくような感覚だった。
「君と一緒なら、世界だって取れるかもしれない。だから頼む! 俺に君を担当させてくれ!」
「この心の中の気持ちを表現するなら、感動を通り越して――これはもはや『愛』と言ってもいい!」
これほど熱心になるのには理由がある。
何を隠そう、俺のナンバーワンの「推しウマ娘」が、メジロマックイーンだからだ。
熱烈な言葉に、彼女がゆっくりとこちらを振り返る。
その容姿は、ゲームやアニメで何度も見たメジロマックイーンその人だった。
綺麗な長い髪。片耳にはリボンを付け、ワンポイントの毛先が優雅にロール状に巻かれている。
……ん?
何か、妙だぞ……?
目の前にいる彼女を見て、ふと疑問が浮かぶ。
後ろから声をかけたのと、スカウトに必死すぎて気づかなかったが……マックイーンって、こんなにスタイルが良かっただろうか?
こう、何とは言わないが、違いすぎるというか。明らかにBが70以上――いや、トレセン学園の基準でもかなりの「豊満なモノ」を持っている。それに、どこか制服のデザインや着こなしも、記憶にあるものより少しクラシカルな気がする。身長も、設定より少し高いような……。
(……いや、まぁ、俺の記憶違いによる気のせいだろう。こんなマックイーンに瓜二つのウマ娘が他にいるなんて聞いたこともないしな)
彼女は、ジッとこちらを鋭い双眸で見つめると、呆れたようなため息をついて口を開いた。
「……何です? あなたは。選抜レースで勝っていた他の子たちになら分かりますが、不慣れな短距離とはいえ、後ろから数えたほうが早い順位だった私に声をかけるなんて。何か企んでいるのではなくって?」
ピ、と耳を後ろへ向け、怪しい不審者を見るような目でこちらを観察してくる。その眼光の鋭さは、淑女というよりは、どこか峻烈な武人のそれだ。
このままでは不審者扱いされてまずい、と何か弁解しようとした時、彼女が再び口を開いた。
「ですが。……まぁ。今日……いえ。この学園に入って、あなたが初めて私をスカウトしてくださいましたし、メジロ家のウマ娘として、その熱意を無下にするような真似は出来ませんので……」
最初はどうなることかと思ったが、意外にも前向きな反応が返ってきた。
「それは、嬉しい! 良かった……!」
滅茶苦茶運が良いらしい。マックイーンほどのウマ娘が、まだ誰にも声をかけられていなかったなんて。これはもしかしていけるのでは、と胸が高鳴る。
目の前の、マックイーン(仮)は、ほんのりと頬を染めながら話を続けた。
「なので、一度家に帰り、今回の話を検討します。お返事は明日でも構いませんよね?」
「ああ、もちろんそれで構わない! だから今回の話、ぜひ前向きに検討してくれ。よろしく頼む!」
「そうですか。では……。あ、それともう一つ」
話を終えて帰ろうと正門へ歩き出した彼女が立ち止まり、もう一度こちらに鋭い視線を送ってきた。今度は、心なしか耳がパタパタと細かく動いている。
「これは、スカウトとは関係ありませんが……。気安く『愛』などの言葉を使わない方がよろしいかと思います。私とあなたは、学園の生徒と、それをサポートするトレーナーなのですから、それ以上の関係になることは余りよろしくありません。それを聞いて勘違いをしてしまう破廉恥な生徒が出てきてしまう可能性もあります。まぁ、私は、そのような勘違いなどしませんし、爛れた関係などにはなりませんが……! なので、その点はお改めになった方がよろしいかと」
「え。あ、はい。すいません……」
お嬢様の説教とは思えないほどの圧倒的な威圧感(プレッシャー)に、思わず気圧されて敬語になってしまった。
話し終わったと思ったが、彼女は「では、最後に……」と言葉を続けた。
まだ何かあるのだろうか?
「自己紹介が、まだでしたわね。知っているとは存じますが、念のために私は……」
彼女が俺に対する礼儀として、改めて名前を名乗ろうとする。
その気品ある態度に、俺はすかさず言葉を被せて答えた。
「いや、知ってるよ! 君はメジロマック――」
「メジロアサマと申します。以後お見知りおきを。では、また」
ペコリと、非の打ち所がない完璧な気品に溢れるお辞儀をして、メジロアサマさんは優雅な足取りで帰路についた。
え????????????????
そして、俺はある答えにたどり着いた……。
おかしいと思ったんだ。
色々と不可思議な点、違和感があったのに、なぜ今になって気付いたんだ。
俺はなんてバカなんだ……!
彼女――いや、メジロアサマさんがその場から離れた後、冷静になって考えれば考えるほど、恐ろしい事実が脳裏をよぎる。
メジロマックイーンだと思って必死にスカウトしてたけど……。
メジロマックイーンだと思ってスカウトしてたけど、全くの別人じゃね……。