メジロマックイーンだと思ってスカウトしたら、おばアサマの方でした。 作:風神・雷神
今年の夏も忙しい。
まさか、3体出てくるとは…
「……以上でこの学園の説明は終わりだ。何か質問はあるかい?青島トレーナー君。」
トレセン学園で毎年新人トレーナー達に、学園内の案内や説明をしてきた初老のトレーナーは、今年もその仕事の為目の前に立つ、今年からトレーナーとして勤める、青島と言う男に尋ねた。
「いえ。特にはありません。」
「そうか。それなら良かった。他に何かあったかの……あ、一応知っていると思うが……。」
初老の男の話を聞き始めた青島は、予期せぬ話の内容に焦り、聞き返してしまう。
「今の話……本当ですか!?、書類等には何も……。」
「確かに、書類には書かれてない。だが、これは言わば、ここに勤めるトレーナー達の間では、当然のルールとして知られておる。君も、もちろん対象だ。」
「……。」
アサマと別れた後、トレーナーとしての業務を務めていた矢先、先輩トレーナーから聞いた内容に驚きを隠せずにいた。
当の本人も、この点に関してはノーマークだった。
彼が昔勤めていたこのトレセン学園も、60年と言う時が進んでいるのだけあって、当時には無かった機材や設備、新しいトレーニング理論、上げればキリがないが、そんな中でも、決まり事や学園内でのルールなども当然変わっていた。
だが、それは不幸にも、今回彼はその変わってしまった学園のルールに牙を剥けられてしまう事態になってしまう。
「これは……まずい事になった……。」
彼の顔は青ざめ、額には冷や汗が流れていた。
アサマは、頭の片隅でアイドルについて話した日の事を思い出しながら、ターフコースの芝の上を歩く。
その影響か、レース前だというのに、アサマは自然とにやけてしまっていた。
最初は、否定的に考えていたアイドルと言うものも、今になっては彼女にとって、目指すべき目標へ変わっていた。
そんなアサマは、制服から体操服に着替え、ウマ娘のレース用の靴で芝の感触を楽しむ。
朝に、軽く学園の説明や、クラス内での自己紹介などが終わり、舞台はいよいよ数多のトレーナー達がウマ娘の実力や才能を見る選抜レースが行われようとしていた。
最初は、自分が着ていた体操着とはデザインなどが違った事に最初は驚いていたが、向かう先のゲートには、先にゲート入りしているウマ娘が何人か見え、アサマは気が引き締まる思いで、勝負の事で頭を一色に染める。
アサマは、今はメジロの名を名乗ってはいないが、それでもメジロ家の名に恥じない走りをすることを家族や自分自身、トレーナーである彼に誓う。
彼女の直ぐ隣のゲートに、この選抜レースを走るウマ娘達が揃う。
この瞬間、アサマは緊張感などは感じず、不思議と妙な懐かしさを感じた。
感覚的には、つい最近まで現役で走っていたはずなのに、久しぶりに走るような、そんな今まで知らない感覚に戸惑ってしまう。
だが、そんな感覚は直ぐに吹き飛び、本能なのか体の奥底から湧き上がる走りたいという欲望が、体中から溢れてくるのが分かった。
今の彼女の調子は、絶好調と言ってもいい。
そして、そんな彼女に勝てるウマ娘は、このレースにはいなかった。
そんな彼女のこの世界に来て初めてのレースの結果は、堂々の3バ身差の1着で勝利を勝ち取った。
アサマ自身、いい走りが出来たと満足し、尻尾は激しく左右に揺れ、軽やかな足取りでターフコースを後にする。
そんな実力を見せつけたアサマへ、彼ではないトレーナーがまるで磁石に吸い付かれた様に、彼女の元へ押しかけ周りを囲みスカウトし始め、彼等、彼女等が考える理想、夢、思いを各々、言葉に変えていった。
ある者は、彼女の圧倒的な実力が目当てのために。
ある者は、彼女なら自身に莫大な財を齎すと思ったために。
ある者は、その美貌に魅了され、完全なる下心で彼女を自分のモノにしたいと思ったために。
だが、そんなトレーナー達の声はアサマには届かない。
そんな周囲の人達から、気品に満ちたどこぞの令嬢の様に見られていたアサマは、周りを囲っていた人達のスカウトを断り、自分の荷物を置いていたベンチまで移動し、置いてあった自身の荷物をまとめ、座って待つ。
アサマは、来ると分かっている自分だけのトレーナーが迎えに来るのをただ静かに待った。
しかし、彼女の心の内を知らず、どうしても諦めきれない一部のトレーナーが、しつこく彼女を必死に説得する。
だが、あくまでも聞く耳を持たない姿勢でいるアサマに痺れを切らして、その強欲な指先が彼女の体へ伸びる。
あと少しで触れてしまう距離になった時、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた途端、アサマはベンチから立ち上がると、荷物を持ってその声の主の元へ急いだ。
勧誘を断られたトレーナーは、話していた時のツンとした態度から一変した、急な態度の変わり様に驚き、彼女の向かう先に目を向け、そこには、アサマにとっての、この世にただ一人のトレーナーである彼が立っていた。
アサマが、近くへよると、申し訳なさそうにトレーナーが口を開いた。
「すまん。ちょっとトラブって遅れた。」
謝るトレーナーに、アサマは満面の笑顔で答える。
「全然、問題ありませんわ。それにしても、そちらは大丈夫なのですか?」
「……あんまり大丈夫じゃないかもしれない。」
以外にも、何かあると言いたげな言い回しに、若干の不安が脳裏をよぎる。
「一体何があったのですか?」
その問い掛けに、トレーナーは少し目を閉じて、頭の中で伝えるべき言葉を最適化し、声のトーンを一段階下げて話した。
「……もしかすると、俺はお前を担当することが、出来ないかも……しれない。」
トレーナーになるはずである彼の言葉を聞いたアサマは、信じられずに一瞬、彼女の時が止まってしまう。
そして、直ぐに体を震わせ、感情が抑えられず、声のボリュームが上がった状態の声で、言い放った。
「ぜんっっっぜん、大丈夫じゃありませんわッ!?」
その悲鳴のような声は、学園中に響いていると思うほどの音量であったという。
「いったい、何があったらそんな事になるのですか!?ちゃんと説明して下さいまし!!」
急なトレーナーの言葉が理解できずパニックになり、アサマは彼の首元を掴み、前後に激しく揺らしていた。
「わ、分かったから。ア、アサマ、首元から……手を、離してくれ……は、話せない……。」
「!?し、失礼しました。私としたことが……。少々、冷静ではありませんでしたわ。す、すみません。」
「ゲホッ。まあ、家での話と違ったら、気持ちは分かる。それよりもだな……。」
トレーナーの言葉で、我に返ったアサマは、自分のせいで乱してしまったトレーナーのシャツやネクタイを直し、サッと離れた。
そして、どうしてそんな事になってしまったのかの理由を聞くことが、今の最善の行動とアサマ自身も分かっており、彼に尋ねる。
「ええ。分かっています。では、早速聞いてもよろし……。」
「オイ!そこの君!!」
だが、アサマが聞こうとしていた所に、横やりが入ってしまった。
声の主は、先ほどアサマを熱心に口説き落とそうとしていた、小太りの男性トレーナーであった。
「急に横から、搔っ攫う様な真似をしないでもらいたいね、全く。そこに居る彼女は今、私と話をしていたんだ。妨害行為はやめてくれないかい?」
男は、アサマの自分と彼の態度の違いに腹を立て、今感じていた苛立ちをぶつける様に、両手を広げて自分の正当性を訴え始めた。
そんな男の主張を聞きながらトレーナーは、『この人、知り合いか?』と目線を送ると、アサマは首を何度か横に振る。
「……であるからして、私は彼女と話す権利があるのだよ。ちゃんと順番を守ってくれたまえ。全く、失礼な奴だな君は。」
「……はい?」
男の話を聞き流していたアサマだが、最後の彼への侮辱とも取れる発言に、怒りが湧いてくる。
「では、アサマちゃん、だったかな?これからゆっくりカフェテリアでお茶でもしながら、ゆっくり話でも……。」
「あ、いや。彼女は……。」
男の問いに答えてくれようとした彼にストップをかけ、出来れば話したくなかったが、ここで言い返さなければ彼女の気が収まらなかった。
そしてアサマは、作った笑顔で答える。
「先ほど勧誘の件は、全てお断りした筈です。なので、あなたのお誘いも受けません。それと……。」
気づけば話していく内に、徐々に彼女から笑顔は消え、その代わりに鋭く、冷たい視線がギロッと男へ向けられていた。
「彼の事を何も知らないあなたが、彼を侮辱するような発言をしないでいただけます?。それと、これは個人的な事ですが、気安く私の名前を呼ばないでいただけますか?正直、とても不愉快ですので。では、私達はこれで。」
そう言って彼の手を引いてこの場を離れて行くアサマの姿を、口をポカンと開けてただ黙ったまま男は見ていたが、その様子を見ていたトレーナー達も唖然としていた。
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次回は、未定です。