メジロマックイーンだと思ってスカウトしたら、おばアサマの方でした。 作:風神・雷神
アビスすばらしかった。
トレーナーが拉致されてから、数分後
「……遅いですわね。あの人……。」
アサマは、スクールバックから携帯を取り出すと、時刻を確認する。
同時に、彼から連絡があるか見てみるが、ホーム画面に通知はなく、心の奥底で何かざわつく感覚に陥る。
それは、トレーナーの身に何かあったのではないかと言う考えによって生み出されていた。
だが、彼が飲み物を買って何処かより道をしている可能性もあるが、何も連絡が無く、こちらから送っても返信が帰ってこない。
出来るだけ連絡は早めに返すと言っていたトレーナーが、連絡に気付かないのも不自然に思う。
このトレーナーと別れた場所から自販機までの距離を考えると、明らかに時間がかかり過ぎている現状にアサマの中にある不安が、更に大きく膨れ上がる。
そして、アサマは一つの考えにたどり着いた。
「まさか……誘拐!!??いや、でも……こんな白昼堂々と、このトレセン学園で……」
アサマは、一人立ち尽くし考える。
(兎に角、今は情報が少なすぎます……。何か……!!)
そして、ふとあることに気が付いた。
それは、ここから少し離れた場所にある、切り株に座った制服姿のウマ娘に。
もしかしたら、自分がいない時に、何があったのか見ていたかもしれない。
アサマは、その座っているウマ娘に向かうのだった。
ライスシャワーは、切り株に座り俯いていた。
「はぁ……。」
前を向くことが出来ず、ぺたんと元気なく耳は垂れ、足元に視線を下げてしまう。
「やっぱり、ライスは……もう、走らない方がいいのかな……。」
ライスの眼から、自分の意思とは関係なしに、涙があふれ出す。
必死に堪えようとしても、思った様に止まらず、自分が出来ることは涙が頬を伝わないようにする為、下を向くことしか出来ない。
そんな、気づけばいつも現れては自分の言うことを聞かない厄介者は、彼女の感情が抑えられずに溢れてきたモノであり、今の自分と同じぐらいキライであった。
「みんなを不幸にするぐらいなら……ライスは……ライスは……。」
「あの、少しよろしいかしら?」
「わあぁぁ!!」
突然声を掛けられ、ライスシャワーは声に出して驚いてしまう。
そして、無意識に自分が何かしてしまったのではないかと思い、相手の顔を見る前に言葉が先に出てしまった。
「ご、ごめんなさい。ら、ライス、何かしちゃったなら、謝るから。だから……。」
「落ち着いて下さい。別に私は、貴女に謝って欲しいのではなく、お尋ねしたいことがあるだけですわ。ですから、顔を上げて下さい。」
聞いたことのない声の主に言われた通りに顔を上げると、そこには見慣れないウマ娘の姿があった。
明らかに名前も知らない初対面の相手のはずなのに、初めて会った感じがしない、不思議な感覚をライスは覚える。
そして、その感覚はライスの口から言葉となって発せられた。
「……綺麗。」
「……はい?」
予想もしていなかった急な言葉にアサマは聞き間違いかと思い、戸惑ってしまう。
そして、アサマの反応を見て、ライスは自分が言ってしまった言葉を思い出し、顔を赤くさせ頭を下げた。
「きゅ、急にごめんなさい!その、綺麗な人だったから……。ライスなんかが言っても、失礼だよね。」
シュンと俯いてしまったライスに、アサマは笑顔で答える。
「いえ。そんなことありません。お褒めの言葉感謝しますわ。それと、これを……。」
そう言って、アサマはバックからハンカチを取り出すと、ライスへ手渡した。
「あ、あの……。」
動揺しながらも受け取ったライスだが、そのハンカチで涙を拭うと彼女のものを汚してしまう。そのことへの忌避感から、ライスは固まってしまった。
そんな彼女を見て、アサマが続ける。
「乙女がそう簡単に人前で涙を見せてはいけませんわ。それは、もっと然るべき時に大切な相手へと見せるものです。ですから、使ってくださいな。」
「は、はい!あ、あ、ありがとう……ございます……。」
ライスは、渡されたハンカチで、目元を軽く拭った。
「では……。いえ。まずは、自己紹介からしましょう。私は、アサマと申します。貴女の、お名前を伺っても?」
「わ、わたしは、ライスシャワー……ッです。」
「ええ。ではライスさん。ではまず、こちらが聞く前に、どうして泣いていらっしゃったか、聞いてもよろしいですか?」
アサマの問いにライスは、直ぐには答えられず黙ってしまう。
「もしや、誰かにいじわるをされたとかですか?」
「ち、違うの。ラ、ライスはただ……。」
ライスシャワーは、話した。
自分が、レースで勝っても、誰も笑顔にならない。
自分が1着をとっても聞こえてくるのは歓声ではなく、罵声や笑顔とはかけ離れた妬ましそうにこちらを見る観客の姿。
走る自分の姿見て希望を与えたいのに、そんな風に疎まれてしまった自分への嫌気。
そんな邪魔者と言える自分が、このままレースに出続けてもいいのかと。
ライスは、そんな悩みを今初めて会ったアサマに打ち明けた。
「ラ、ライス。ライスが走るとみんなを不幸にしちゃうから。だから、もうライスは走らない方がいいのかなって……。」
「……事情は、大体分かりました。では、一つだけ言わせて貰います。」
「いい加減にしなさい!!」
「は、はひぃ!!」
急なアサマの声に驚き、背筋は伸び、変な声が出てしまう。
アサマは、そんなライスへお構いなしに続けた。
「さっきから聞いていればなんですかそれは。勝たなければ良かった?いいですか、ライスさん。貴女が今しているそれは、敗れていった子たちへの侮辱とも言える行為ですわ。」
「べ、別にライスはそんなつもりじゃ……。」
「レースとは、真剣勝負の舞台。勝者がいれば、敗者もいます。勝つか負けるかのシンプルで厳しい世界です。それが、勝った者の態度ですか!勝者なら、もっとドンと胸を張るものです。」
「じゃあ、どうすればいいの。どうすれば、ライスは……皆に……。」
「そんなの簡単です。敗れたウマ娘達が誇れるほどのウマ娘になればいいのです。」
「誇れるウマ娘……。」
「そうです。私は、あのライスシャワーに負けたのだと。言わせる位にです。そうすれば、周囲の反応も変わる事でしょう。」
そんな存在に、自分などがなることが出来るのか不安になり、ライスはまた視線を落としてしまう。
「ラ、ライス、なれるかな。そんな凄いウマ娘に……。」
「なれる、なれないのではなく、なるのです!貴女だけの、誇り高いウマ娘に。それが、貴女に敗れていった子達への礼儀ですわ。」
正直、ライスは考えもしなかった。
自分が変わると言う選択肢に。
そして、その闇の中に現れた一筋の希望は、彼女を明るく照らし出した。
「ラ、ライス頑張ってみるね。あ、ありがとう。アサマさん。」
「いえ。私も、すみません。偉そうなことを言えた身ではないのですが……。助けになれたなら幸いです。」
アサマは、思い出したかの様に、ライスに聞きたかった事を話す。
「本題ですが、その、少し前にあそこのベンチに座っていた男性を知りませんか?私のトレーナーさんなのですが、飲み物を買いに行ってから戻らないのです。」
ライスは、記憶を遡らせると、衝撃的な光景だった為に、直ぐに心当たりが見つかった。
「あ、それなら、ライス分かるよ!さっき、ゴールドシップさんとか、スピカの人達が、人を担いで行ってたから、多分だけどその人がアサマさんの探してる人だと思うよ。スピカさんの小屋があるあっちの方へ向かって行ったよ。」
人差し指をスピカの小屋の方へ向け、アサマに教える。
ライスの話、ゴールドシップと言うウマ娘の名前を聞いた瞬間、アサマのウマ耳がピクンと跳ねる。
「ゴールドシップ……。そう、あの方ですか……。」
そして、アサマの表情が静かに曇っていった……。
誇り高いウマ娘。
まだ、何をしていいか分からないけど。
心構えからなら、今すぐできるよね。
いつか、見てくれる人々に希望を与えられるウマ娘に。
でも、アサマさんって不思議な人。
初めて会った筈なのにそんな気がしなくて、何故かマックイーンさんを思い出しちゃった。
雰囲気が似てたりするのかな……。
名前にメジロって付いて無かったから、メジロ家の人じゃないし、きっと偶然だよね。
……よし!
ライス、決めた!
「アサマさん。ライスもう泣かな……ひいぃッ」
驚きの余り、変な声が出てしまった。
何故なら、今目の前にいるアサマさんからさっきまでの優しい感じがなくなって、近くにいるだけで冷たく凍えてしまうほどに変わっていたからだ。
「……フフッ。久しぶりです。ここまで、真正面からケンカを売ってくるとは……。いいでしょう、受けて立ちますわ。」
その言葉は私に向けられたものではないと分かっているけど、もし自分に対して言われていたらと思うと足が竦んだ。
そして、何よりあの笑顔。
目は一切笑っていなかった。
「教えて下さってありがとうございます。では、これで失礼します。」
もう泣かないと誓ったライスシャワーだったが、さっきまでとは明らかに違ったどす黒いオーラを纏い静かに怒っているアサマの姿を見て、その誓いも虚しく目から涙が溢れていた。
「助けて、お姉さま……。」
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次回は、いつになるかわかりません。
時間がね。