メジロマックイーンだと思ってスカウトしたら、おばアサマの方でした。 作:風神・雷神
終わらないで……。
面白いのはいんだけど、たまにクリティカルヒットするのあるんだよね。
お店入れずグルグルするのと夏休みはガチ
ゴールドシップは、部室に運んできたトレーナーをパイプ椅子に座らせると、意気揚々に頭に被せていた麻布を取る。
突如として暗闇から解放され、蛍光灯の眩しさで目を細める。
「ここは……。」
段々と目が慣れてくると、自身の目の前には、自分を攫った犯人であるウマ娘達が佇んでいた。
室内には、彼女たちとトレーナーしか見当たらない。
そして4人のウマ娘達は、互いに向かい合い、ヒソヒソ声で話し始めた。
「(あの……ゴールドシップさん。今更何ですけど……大丈夫ですよね。こんなことしても。私、何も聞いて無いんですけど……)」
「(まぁ、何とかなんだろ。こいつがどんな奴なのか知らんけど。)」
「(ええ!?ちょっと待って下さい。ゴールドシップ先輩!!知り合いじゃないんですか!?私は、てっきり……。)」
「(オレも、スカーレットと同じで、知ってる奴だと思ってた。)」
「(あんな奴、アタシは知らん。)」
「「「(えぇぇ……。)」」」
ゴールドシップの答えに、3人は絶句する。
驚きながらも、今のゴールドシップの言葉に疑問を持ち、スぺシャルウィークが聞いた。
「(じゃあ、何であの人を、選んだんですか?)」
「(……理由か。いや、なんかアレだな。気分的な……アレ?)」
「「「(えぇぇ……。)」」」
思っていた以上にひどい理由に再び3人は絶句する。
「(じゃあなんだけどさ、コレ結構まずいんじゃないか?オレ達、無関係の人を、ただ拉致しただけなんじゃ……。)」
「(そうでもないわよウオッカ。フリーのトレーナーならまだ可能性はあるわ。)」
「(そうですね。ただでさえ、うちに入ってくれるウマ娘はおろか、トレーナーさんなんていませんからね。)」
「(そうそう。スぺ先輩の言う通りね。多分だけど、もう新人のトレーナー達には、私たちの事は知られているに違いなし……。)」
「(……ああ。だからみんな、オレ達って言うか、ゴールドシップさんを見た途端、蜘蛛の子を散らすように……。)」
「(……よし!今決めた!この際だ!コイツにしようぜ!アタシ達のトレーナー!)」
「「「えええ!?」」」
3人を他所に、「よし!」と意気込んでゴールドシップは、様子を伺って座っているトレーナーの前へ向かった。
「……と言う訳で今日からアンタは、このゴルシちゃんが所属する、チームスピカのトレーナーになるってわけだ!良かったなぁ!この幸せ者め!」
「……どうしてなる前提なんだよ。言っとくがその誘いの話は無理だ」
ゴールドシップの提案を断る。
すると、断られた事が信じられないのか数歩後ずさりし、たじろいでしまう。
「え?う、嘘だろ!断るのか!?この、超絶美女のゴールドシップ様が所属するスピカのトレーナーになれるんだぞ!いったい何が不満なんだよ?あ、もしかしてアレか!年に一度の旅行の事心配してんのか?それなら大丈夫だ。ちゃんと行き先は月で月面旅行だからな!」
「本当に何を言ってるんだ……」
「……あの。」
ゴールドシップとのやり取りを見ていた3人が、申し訳なさそうに話ってきては、並んで一斉に頭を下げ始めた。
流石に予想出来ていなかったのか、驚きの余り目を見開いてしまう。
「私からもお願いします!少しの間でいいですから!」
「頼むよ!オレ達にはもうアンタしかいないんだ!」
「無理なのは承知してます。でも……お願いします!そうしないと、チームスピカが……」
ゴールドシップは兎も角、それ以外のスぺシャルウィーク、ウオッカ、ダイワスカーレットらの行動にトレーナーは動揺を隠せずにいた。
「……何故、そこまでして固執する?それに、スピカにはもう沖野トレーナーがいるだろ」
そんな、トレーナーの言葉にスペシャルウィークが表情を曇らせながら答える。
「トレーナーさんは……今はいません」
スペシャルウィークの思いもよらぬ発言に、目を見開く。
学園の関係者からそんな話は聞いていなかったし、当然チームスピカには沖野トレーナーがいるものだと思っていた為に、彼女の言葉を直ぐには信じられなかった。
「まさか。そんな訳が……」
「ですから、お願いします!他のトレーナーさん達はまともに取り合ってもくれないんです」
「……分かった」
「!?ほ、本当ですか!そしたら……」
「いや、まず今このチームに何が起こっているのか聞かせて欲しい。聞いてからこっちも考える」
「はい。実は……」
「――そういう訳なんです」
スぺシャルウィークから話されたチームスピカの現状を聞くと、トレーナーの中で最初から決まっていた答えに迷いが出てきてしまう。
「……そっちの事情は分かった。取り合えず、沖野トレーナーに少し聞きたいことがあるから、少し待っていてくれ」
そう言い残し、トレーナーはスマホを片手に部室の外へ出て行った。
トレーナーの様子を見守っていた4人は、ひとまず話を前向きに聞いてくれる姿勢にほっとしていた。
だが、そんな中でもウオッカは、表情を沈ませたままだった。
「……スペ先輩。オレ達これからどうなってしまうんでしょうか?このままだと、スピカが解散なんて話にも……」
「大丈夫です!きっと、あのトレーナーさんなら、事情を分かって誘いを受けてくれます!」
「そ、そうですよね!全く、どうしてこんなややこしい事に……。いいこと思いつきました!事態が落ち着いたら事の元凶にスイーツバイキングでも奢って貰いましょう!スペ先輩!!」
3人はお互いに励ますと、徐々に明るさを取り戻していった。
「ま、安心しろお前ら。そん時は、アタシが一肌脱いでやるよ。最悪、抜群のスタイルを持つ、このスーパー美少女のゴルシちゃん直々にパイルドライバーを……」
「それは、随分興味深いお話ですわ」
スピカの面々は、聞き慣れない声がした入口の方を振り返ると、そこには彼女達が誰一人見覚えのないウマ娘が立っていた。
そして、不思議な事にそのウマ娘を見た途端、彼女達はある人物を思い出した。
身長、髪質、スタイルなどで明らかに別人だと分かっていても、何故か一瞬そうではないかと思ってしまった。
「……マックイーン」
その名前が自然とゴールドシップの口から零れてしまう。
「いや、違う。誰だお前」
直ぐに別人だと気づき、目の前のウマ娘に4人の意識は自然と集まる。
だが、そんな事を気にする素振りを見せず、カツカツ鳴らしながら歩く音が部屋中に響く中、他のスピカのウマ娘達には目もくれず、ゴールドシップの目の前にまで迫る。
「あの……あなたは……ヒィッ」
向かう途中でスペシャルウィークが声をかけると、目を合わせただけで背筋が凍りそうな程の睨みが1人に留まらず、後ろで見ていた2人にまで届いてしまった。
そして、恐怖の余りウオッカとスカーレットは、身を震わせながらスペシャルウィークを盾にする。
「なあ。スペ先輩。誰だよ、あの人。尋常じゃないほど怒ってるぞ。何やったんだよ。スカーレット」
「なんで、私がやらかした前提なのよ!知らないわよ!スペ先輩は知って……?す、スペ先輩!?」
「……」
「「き、気絶してる……」」
スぺシャルウィークは、人生で一度も経験したことがない程の睨みを真っ向から喰らい、立ったまま気を失ってしまった。
そんな姿を横目に見ながら、スぺシャルウィークの身を案じている二人に言った。
「一応、あなた達も共犯者ということをお忘れなく。後でたっぷりお話を聞かせて貰いますので」
話を聞いた二人の顔が青ざめた事に見向きもせず、再びゴールドシップの方へ歩き始めた。
そして、目の前に迫ると、観察する様にジッと頭から足の先まで、まるで何か値踏みをするかの様に細目でじっくりと見る。
「!?」
見られている間、ゴールドシップにも同様に、今まで感じたことのない恐怖からか腕には鳥肌が立っていた。
そんな異常な状況でも、自身に平常心を保つように心の中で言い聞かせ、何とか冷静さを欠かずにいつも通りに接しようとする。
観察が終わると、今度はゴールドシップに目線を合わせ、にこやかに微笑んだ。
だが、そんな彼女だが、笑顔の裏でゴールドシップを見た時から感じていた疑問を気にしていた。
それは……。
「……一つ聞いてもよろしいかしら」
「な、なんだよ」
「貴女……メジロ家のご息女だったりします?」
彼女は、本能的に何故かそう感じ取った。
「いや、全然違うけど。いきなり何だ?急に。マックイーンなら兎も角」
「……そうですか。どうやら私の勘違いだったようですわ。お気になさらず」
そう言うと、今から全力でお話する相手がメジロ家に関係ないウマ娘ということに安堵し、再びにこやかに微笑む。
「……では貴女が、ゴールドシップさんですね。噂通りの独特なお考えをお持ちだとか」
「へ、へえー、おまえ。アタシを知ってんのか?まぁ、当然か」
「ええ。存じております。人の担当を誘拐とも言える強引な方法で、自分たちの部室に連れてくる尖った方だと」
「人の担当?……あーわりぃ。アイツはこのチームスピカのトレーナーになってもらうんだわ。だから、もうアタシらのトレーナーなんだよなー」
「冗談がお好きなのですね。生憎貴女に構っているほど、私達は暇ではないのです。なので、彼をここに連れてきて下さいます?そうすれば、今回の事は水に流して……」
「わりいな。こっちも引けない理由があるから無理なもんは無理なんだ。トレーナー……いや、うちの『とれぴっぴ♡』はもうチームスピカのモノになったから……!?」
話しの途中で、特に『とれぴっぴ♡』と言った途端、ゴールドシップは自身を襲ってきた違和感に気付く。
レースなどでもかかない手汗、寒いわけでもないのに全身が震え、この一帯の重力が倍になったと思うほどのプレッシャー。
だが、その中でも一番ヤバイと思わせていたのが。
「……
目の前にいるウマ娘から今までとは違う、低い低音の声と共に放たれた本物の『殺気』だった。
(コイツ、マジでヤベェ。こ、殺される……)
「あ、ごめんな……イヤ、あ、あ、ああ……」
ゴールドシップは、生まれて初めて死への恐怖を感じ、全身をブルブル震わせ、耳は力なく倒れ、目から大粒の涙が零れた。
今年もお疲れ様でした。