メジロマックイーンだと思ってスカウトしたら、おばアサマの方でした。 作:風神・雷神
サイゲ様、トプロちゃん実装はいつ……
【前日 夜】
「……スピカのメンバーもそうだが、一番警戒するのが、『ゴールドシップ』って奴だ。俺もだが、お前も余り近づくな」
反対側に座る彼からゴールドシップへの名前を聞いた途端、私はつまらなそうにそっぽを向きます。
「……随分、そのゴールドシップさん?という方を、気にかけているんですね」
頭では分かっているのに、どうしてもイジワルな聞き方をしてしまう。
「いや、だから……。ってか、何で機嫌悪くなってんだよ」
「いえ。別にそんなことはないです。ただ、先ほどからそのゴールドシップさんの話ばっかりしていらっしゃる様ですが……。そんなに警戒する必要があるんですか?」
「お前はまるで分かってない。アイツのヤバさが。思考がぶっ飛んでるから、アイツならもしかすると、俺達の正体を……」
確かに話を聞くと、注意しなければいけないウマ娘だと私も思います。
だとしても……。
「まあ、アナタの考えは分かりましたが、しかし……」
「……なんだ?」
「……いえ。別に何もないです。明日は早いのでこれで失礼します。おやすみなさい。」
立ち上がりそう言い残して、話していたリビングを後にする。
自室に着いて直ぐにベットに横になり、意識が落ちるまで彼との会話が頭の中に蘇る。
……何度も、何度も、その見知らぬウマ娘の名前を私に言います。
(……気に入らない)
彼が、そういう意味で気に入っている訳ではないと分かっていても、そのウマ娘を特別に扱っていると思うと、何故か心の奥底でモヤモヤとした何かが湧いて出てきました。
ゴールドシップ。
彼にそこまで思わせる彼女が、どの様なウマ娘なのか一度じっくりと話してみたいものです。
こちらに干渉しないのであればそれまで、ですが……。
もし……。
あちら側から距離を詰めてきた時には、容赦はしません。
あの人の特別枠は、私だけで十分なのですから……。
ざわつく心を鎮めるように、静かに目を閉じて眠りにつきました。
【スピカ部室周辺】
「はい。では、先ほど話した通りに……はい、こちらこそよろしくお願いします。では、失礼します」
電話を切ると、自然と安堵の溜息が出る。
これは、思わぬ収穫だ。
こちらが出した条件を全て飲んだ上で、週に2日間休みまで貰えるなんて。
下積みという形で、奴隷の様に酷使されると思っていたが、その心配はしなくても大丈夫そうだ。
だけど、スピカの面々がやけに焦って表情が硬いと思ったら、まさか沖野Tが過労で入院しているとは思いもしなかった。
電話越しに話しただけだが、ホントに話せばわかる人って感じでいい人そうだった。
後でこのことをアサマにも教えてやらないと。
俺は、代理のトレーナーをやるのかをスピカの面々に伝える為、彼女達が待つ部室へ向かった。
(……一体これはどういう状況だ……。)
スピカの部室に帰ってきたトレーナーが目にしたのは、軽い地獄であった。
立ったまま気を失っている者、それを盾にするかのように怯えた様子で後ろに隠れる者、いつも破天荒なイメージで、弱っている姿が想像できない様な奴が、力なく座り込み泣き出している。
そんな修羅場の中心に、見覚えがある後ろ姿があった。
禍々しいオーラを纏い、正に世界の終焉を望む魔王の様に立ち尽くす彼女が、誰なのか直ぐに分かった。
「お前、何やってんだよ?」
「……!!」
トレーナーの声で、絞られていた耳はピンと真上に向き反応すると、振り向きトレーナーの顔を見た途端、彼女から放たれていた凍えそうな圧が一瞬で消え去った。
「あな……。と、トレーナーさん!無事ですか!心配したんですよ!」
ひと睨みで相手を縮み上がらせそうな表情が、今は瞳を輝かせ柔らかく微笑む姿に変わり、自身の手でトレーナーの頬に触れられる程の距離までトレーナーへ駆け寄り、両手を握った。
「心配?……ああ、そういえば、連絡するの忘れてた」
「私、連れ去られたと聞いて心配で居ても立っても居られなくなって……」
アサマから想像すれば、麻布顔に被せられて連れて行かれたと聞けば、ただ事ではないと思うのが普通である。
「……殴られた跡等も見当たりませんし、元気そうで何よりです」
トレーナーの頬に触れ、大丈夫そうなトレーナーの姿を見て、アサマは胸をなでおろし安堵した。
優しく頬に手を添えられ、視線を右へ左へ動かされながら、アサマに部屋の現状について聞いた。
「お前、アイツらに一体何したんだよ」
「……特には何もしていません。ただ、少しお話し合いをしただけですが?」
アサマは聞かれた途端、ばつが悪そうに視線を逸らした。
「それ、話し合いじゃなくて一方的な脅しじゃ……」
「……そんな事より、まず私に言うことがあるのではないのですか?」
「え?」
アサマは、ジト目でトレーナーに視線を送り聞く。
「……ああ、よくわかったな」
聞くタイミングが悪くトレーナーは、アサマがスピカのサブトレーナーの件を知っていると思ってしまった。
「分かるも何も、トレーナーとして、尚更人として当然なのではないかと」
当然、アサマ自身サブトレーナーの事などは知らず、彼女の求めていた言葉はもっと別であった。
都合よく進む話に若干の違和感を覚えながらも、トレーナーが言おうとする言葉にアサマの耳や尻尾が自然と動いてしまう。
「そうだな。話が早くて助かる。今後俺は、チームスピカのサブトレーナーになる。もう、スピカのトレーナーには話を付けてある」
「……はい?」
トレーナーの言葉に目をぱちくりさせると、直ぐにピコピコと動いていた耳は後ろに絞られ、上下に揺れていた尻尾は一瞬で止まり、同時にアサマの怒号が部室に響いた。
「……全ッ然違いますわ!まず、『心配かけてすまなかった』ぐらい言ったらどうなんですか!!私、トレーナーさんに何かあったと心配で心配で……って」
話しながら少し冷静になってトレーナーに言われた事を思い出し、急な予定変更に言いたかった事は引っ込んで消え去った。
「……今の話、本気なんですか?」
「ああ、本気だ」
「……はあ。昨日の話と大分違いますが……よろしいんです?」
「ああ、大丈夫だ。問題ない」
「……分かりました。トレーナーさんが問題ないと言うなら従います」
多く語らないトレーナーに、アサマは渋々納得する。
本来、チームスピカには近づかないと決めていたのに、それがサブトレーナーになると言い出すからには、それなりの理由があるのだとアサマは思った。
「世話をかけるな。他にも色々と話したいことがあるが、それよりも……」
(この部室の現状を何とかしなければ……)
部室の散々な状況を見てトレーナーはそう思った。
「アサマ。ホントに話しただけか?流石にこうはならないだろ」
「まあ。捕まったと聞いていたので警戒して少々威嚇を……」
「お前なあ……」
今後のスピカの面々と上手く良好な関係を気付いて行けるのかと思うと、トレーナーの口から深いため息が出る。
さて、これからどうするか考えていると、背中に軽くぶつかった様な衝撃が襲った。
何事かと思い後ろを見ると、必死に涙を堪えて体をブルブルと震わせているゴールドシップが、背中から顔を覗かせていた。
「お、おい!オマエの知り合いか!コイツいきなり部室に入ってきやがって……なんなんだよぉ!」
背中を掴み隠れながらゴールドシップは、弱々しくアサマに言い放つ。
「おい、引っ付くな。しかし、この怯え方普通じゃないぞ。俺がいない間にどんな話をして……!?」
トレーナーが話すのを途中でやめてしまう程、目の前のアサマに変化があった。
その変化とは、いつも大体彼女がお怒りの時に出てくる独特の空気感。
トレーナーから見ると、彼女の周りにどす黒いオーラを纏っている様に錯覚するほどだった。
そんな、アサマが口を開くと出てきたのは怒号ではなく、乾いた笑い声であった。
「……フフフ。全く。よくもまあ、そんな被害者面が出来るものですね。私のトレーナーを一方的に攫うような蛮行をしておきながら、挙句の果てに、『私を守って下さい♡』とでも言わんばかりに、彼の背中にくっ付いて隠れる。ここまでされたら、もはや清々しいと感じてしまいますわ。ですが……」
まるで猛禽類の様な鋭い眼光が、ゴールドシップを再び襲った。
「彼は私のトレーナーさんです。今すぐ彼から離れなさい。さもなければ、こちらも容赦しません」
「ひ、ひぃ」
「アサマ、落ち着いてくれ。話が進まないだろ。あと、ゴールドシップ。お前もいい加減背中から離れろ!」
アサマへの恐怖からか、無理やり引きはがそうとするトレーナーを、後ろから抱きしめる様にホールドし、自分を守る盾にする。
その様子を見て、アサマの手がゆっくりとトレーナーへ伸びる。
(だ、ダメだ。どういった訳かアサマの奴、キレて声が届いていない……)
これ以上のトラブルはさすがに不味い。
このままだと、これが問題となり、チームスピカに入る話もない事にされるかもしれない。
何かしらのきっかけがあれば……。
「これは、一体なんの騒ぎですか!!」
開きっぱなしの入り口から聞こえた声には聞き覚えがあった。
紫がかった芦毛のロングヘアー、右耳には緑のリボンが付けられ、気品に満ちた雰囲気、何処か自身の愛バと重ねてしまう存在は、まさしくメジロの名を受け継いだ彼女であった。
「マックイーン、何かあったの……って!?ナニ!この状況!?」
その後ろには、トウカイテイオーが驚いた様子で部屋の中を覗いていた。
「ゴールドシップ!あなた、また何かしでかして……」
この部室の現状を見て、ゴールドシップが原因と思い問い詰める。
すると、耳をぺたんと折り曲げ、震える声で、アサマへ指先を向けながら話し出した。
「ゴ、ゴルシちゃんは何もしてないぞ!やったのは、こ、コイツだ!」
ゴールドシップに言われ、その彼女が言う犯人の顔を見ると、驚きで目を見開いてしまった。
マックイーンは、直ぐに彼女の事を思い出すのが容易であった。
忘れもしない、喫茶店で店の都合で相席になり、そこで一緒になったウマ娘である。
自身の目の前で繰り広げられる、ドラマや恋愛漫画の様な2人の姿を見て、恥ずかしさが原因なのか胸の内がむず痒くなる感覚に襲われたほどだ。
そんな店で会った彼女が目の前にいた。
「あなたはもしや……アサマさ……!?」
本人である確認の為に、店で教えてもらった名前を口にした途端、アサマがマックイーンの元へ向かって歩く。
目の前にいたトレーナーとゴールドシップを素通りして、真っ直ぐにマックイーンへ近づくと。
マックイーンを思いっきり抱きしめた。
「また、会えましたね。私の……」
「……可愛い。可愛い。
そう言ってマックイーンを抱きながら、愛おしそうに頬擦りをし始めたのだった。
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ギム爺すこ