ムウ・ラ・フラガ現在2周目   作:八段腹おじさん

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SEED逆行が流行ってると聞いて


舞い戻る鷹

コズミック・イラという時代は酷い時代だった。

その時代、人類はナチュラルとコーディネイターという2つの〝種族〟に分かれて互いの根絶を目指して戦いを開始した。

当初は誰も種絶など望んではおらず、宇宙コロニーであるプラントにてコーディネイター種の独立と利権を確保せんが為の独立闘争である筈だった。

しかし、全てはやがて激化し、憎悪は加速し、もはや利権や尊厳の為ではなく、お互いの種への憎しみから根絶を願う戦争へと突き進み続ける。

第一次連合プラント大戦。

第二次連合プラント大戦。

二度の世界大戦の後も、二つの種は大規模な戦いを続けて、戦乱の時代は結局の所、少年が老人になるのに充分な年月の間続いたのだ。

その間、多くの悲劇が生まれたのは想像に易い。

 

(そうだ…だから、俺のこんな有様も、よくあることなんだ…こんな時代じゃあさ…)

 

二度の世界大戦を乗り切って、愛する人と結ばれ、信頼する仲間達と共に隠棲を決め込みたかった金髪の男…ムウ・ラ・フラガは、残骸の中で血だらけになりながら独りで呟いた。

大破炎上したMSのコクピットから這いずり出て、霞む視界で辺りを見回せば、そこは混沌とした地獄だった。

とはいえ、それはこの時代ではありふれた戦場の光景でしかない。

爆散したストライクフリーダムの残骸。

四散したインフィニットジャスティス。

船体が半ばから千切れ、船首を地面に埋没させた愛しき母艦、アークエンジェル。

不敗の鬼神と、不沈艦達の無残な死骸。

もはやその搭乗者達の生存は絶望的なのは明らかだった。

 

かつて三隻同盟と言われた自分達の勢力は、戦後は連合とプラント双方から睨まれて、そしてとうとう今時大戦にて二大勢力はアークエンジェルとストライクフリーダムを真っ先に潰しにかかった。

第三次連合プラント戦争が勃発し、またも世界が泥沼の大戦争に突き進む中、どちらつかずの強力な〝テロリスト〟を排除する為の第二次エンジェルフォール作戦。それはより念入りに、より大規模に。

ザフトと連合の様々な新鋭機が大挙して押し寄せては、さすがのスーパーコーディネイター・キラもやがて力尽き、そして次々に仲間達も堕ちていく。

天使達は堕ちて、もう二度と飛ばなかった。

 

ムウのヘルメットは砕け、顔面半分が焼けただれて、潰れた片目からは涙の代わりに血が流れた。

這いずる彼をよく見れば、下半身はもう無いが、重傷過ぎる彼は感覚が麻痺していて幸か不幸かそれに気づくことはない。

血と共に全身の力も抜けていく。もはや言葉も紡げない。

口から出るのも、もはや血反吐だけだった。

 

(俺はいい。俺は…こうなって当然の男だ。軍人である事を自分で選択した。…シン・アスカとの口約束だって反故にした…あの三人を…ステラ達を使い潰した…然るべき報いを受けただけさ……だが――)

 

愛する妻であるマリューは軍人の道を選んだ女だった。

母性に溢れた優しい女だったが、相応の覚悟はあったのはムウも知っている。

妻も自分も軍人だ。相手の死も自分の死も織り込み済みだ。

だが、少なくともキラは戦う人ではなかった。

彼が初めて人殺しになる瞬間に立ち会い、そして共に戦い続けてきたあの少年の本質は、余りにも優しく、戦いに向かない。

キラ以外にも、余りにも多くの少年少女が戦争の犠牲者になっていった。

 

「ぐ…がはっ」

 

一際大きな血の塊が口から漏れて割れたバイザーを赤く濡らす。

視界が鮮血で真っ赤に染まって、とうとうムウは仲間達の残骸を見ることすら諦めた。

と同時になんとか持ち上げていた首からも力が抜けた。

ドシャリと土に頭を突っ伏して目を閉じる。

 

(とうとう俺の番が来た……)

 

少年兵達を戦争に巻き込み、死に追いやり、その挙げ句に自分はマリューと結ばれてのうのうと生き延びて、そう長くはないとはいえ幸せを噛み締めた。

こんな自分勝手で汚い大人ながら、過分な幸せを掴んだ人生だったろうとムウは振り返る。

忌まわしきフラガの血を引く自分にしては、最高のアガリじゃないか、と…そう思うと同時にどうしようもない罪悪感も押し寄せるのだ。

 

(は、はは…ステラ…スティング…アウル………俺を迎えに来たのか…?)

 

血みどろになった三人の年若い強化人間が、血で染まった腕をムウへと伸ばしてくるが彼には見えた。

他にもムウを迎えに来た者達がいるのがムウには解った。

メビウス・ゼロ隊の戦友達もいる。

そして、おぞましき半身…宿業の血縁たるラウ・ル・クルーゼすらも、そこにはいた。

死にゆくムウにはそう見えたのは、脳が死に瀕して見せる幻覚だろうか。

 

不出来なお前にしては、よくもった方だ。

 

父親と瓜二つの金髪の男は、仮面の下の瞳を弧にしてそう笑っていたような気がして、ムウは消える意識の中で「くそったれ」と、そう呟いて命の鼓動を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

目を開けたムウは、己の意識が一瞬暗転(ブラックアウト)していたのに気付いて、僅かに頭を振って操縦桿を引く。

良く知っている握り心地であり、そして背を預けるのは良く知っている座り心地のシートだ。

間違いなくムウが座っているのはメビウス・ゼロのパイロットシートだった。

 

(なんだ!?状況は…!俺は夢を見ていたっていうのか!?)

 

それにしてはやけに長く、そして詳細な夢だ。

 

(それとも…こちらが夢か!だが…とにかく――っ!)

 

メビウス・ゼロのセンサーが赤く光りながら警報を発すれば、ムウは歴戦のエースらしく瞬時に反応してみせる。

 

「今は敵を叩く!」

 

敵はジンタイプ1機。

たとえ乗機が(夢に比べて)旧式のMAだとしても、今更ムウにとってMSへのディスアドバンテージにはならない。

 

「そこだろ…!」

 

ガンバレルを一基だけ展開し牽制すると、僅かに見せた隙をついて主武装であるリニアガンであっさりとコクピットを撃ち抜く。

ガンバレルの火力ではMSの装甲を前にすると関節等の弱点を狙わねば有効打は叩き込めないが、固定式の対装甲リニアガンならば直撃させれば致命となる。

本来はリニアガンを直撃させる行為は高難度であり、エンデュミオンの鷹と謳われるムウでもガンバレルの牽制射を数度繰り返してから命中させるのがセオリーだ。

しかしムウが意識の狭間で体験した未来が夢であっても、ムウ・ラ・フラガが長々と見ていたそいつはあまりにもリアルで、膨大な経験をムウへと還元し困難を可能とする。

フラガの血族は様々な異能を持つが、それは絶大な空間認識能力や、同じ血を持つ者を感じ取る超感覚であったりして、アル・ダ・フラガなどは予知めいた芸当すらしてみせた。

ならば、夢としてそういう予知のような事をムウがしてみせても、別段不思議という事はないのだ。

 

(俺が視続けたあの夢はっ!確かに俺にMS戦を経験させた!そしてこの状況…やっぱり俺は予知夢でも見たっていうのか!)

 

あきらかに自分はこの状況を知っている。

ムウにとっては忘れがたい、忘れてはならない忌まわしき出来事の一つ。

 

「ヘリオポリス襲撃!こいつは…クソッ!」

 

かつても、或いは夢の中でもそうだったが、とにかくこのG強奪事件は混乱の極致だった。

せめて夢を見るタイミングがマルセイユⅢ世級輸送船の中であったなら、旧知の艦長や送り出した正規のGパイロット達に何らかの干渉が出来たかもしれない。

そうやってヘリオポリス市民の被害も軽減できたかもしれない。

Gの強奪も回避できたかもしれない。

だが、全ては所詮〝かもしれない〟だ。

ムウ・ラ・フラガは現実的な軍人だから、損得勘定と救うべき者と捨てる者の取捨選択力にも優れている。

 

(今の俺にはヘリオポリス全部を救うなんて出来やしないし、強奪を全部防ぐなんざ無理だ!なら…あの夢が確かだというのなら…!!)

 

共に出撃したはずのメビウス乗りだった部下二名は既に墜ちているらしいが、ムウはかつてとは比べ物にならない手際でジンを討つ。

ここらに展開していたジンの小隊は、かつてない最短記録で全滅する。

それ程に今のムウは強かった。

 

「邪魔は消えた…なら、せめてGの一機でもなんとか出来りゃあキラの負担を軽くできる!」

 

そう判断し、〝夢の中での数年前の記憶〟を叩き起こす。

 

(思い出せ!あの時、クルーゼはどこから来た!ナスカ級はどこにいた!奪われたGはその軌道にいる!

もうすぐラウ・ル・クルーゼが出てくる…!いや、前よりも大暴れしたぶん、もっと早く来るかもしれん!

素早く仕留める…!)

 

メビウス・ゼロをフルスロットルで走らせれば、四つの光点がヘリオポリスから飛び出し、暗い宇宙に瞬くのがムウには見えた。

 

「見えたぜ!そいつは俺達のだ…せめてどいつか返して貰う…!」

 

単純な加速力ならばMSを凌駕するメビウス・ゼロだ。

躊躇う事なくベタ踏みのスラスターで加速するMAの出現は、何とか動かせる程度にOSを書き換えただけのザフトの赤服達を驚愕させる。

 

「なんだ…?MAが突っ込んでくる?一機でだと…?」

 

ディアッカが嘲笑いつつ言えば、イザークも笑って答えた。

 

「ほう?俺達を追ってきたのか?しかしあちらにはガモフの部隊が展開していた筈だがな」

 

「なら、あれはガモフ隊を突破したって事でしょう。只者じゃありませんよ」

 

そう言ったのはニコルだ。

 

「でも、所詮はナチュラルだろ?この新型のテストには丁度いいんじゃないか?」

 

「はっ!ナチュラルの、それもたった一機のMAなぞテスト相手にもならん!」

 

ディアッカとイザークはそう言い合って互いに笑ったが、慎重派であるニコルはその慢心を諌めた。

 

「戦闘はダメですよ。この新型はクルーゼ隊長のところまで無傷で届けるって言ったのはイザークでしょ?万が一掠り傷でも付けたらどうするんです」

 

「それもそうだな。おい、ここは任せるぞ!」

 

ニコルに諌められ、イザークは護衛として三機のGに同行していた先導のジンへと命令を下せば、ジンはするりと陣形を抜け出して急接近するMAへと向かっていく。

ガモフのジン隊が抜けられたのは運が悪かっただけ。そういう確信的な思い込みが年若いコーディネイター達にはあった。

イザークとディアッカ…そして温厚なニコルでさえもナチュラルに対する絶対的な優越感が存在するから、極々自然にジン単機で片付く問題だと意にも介さない。

しかしそんな思い込みは早々に砕け散る事になる。

 

「っ!?な…!!」

 

「嘘だろ!?どんな手を使いやがった…!接敵して2秒程度だぜ!?」

 

「あ、あいつは…マズい!イザーク、ディアッカ、先に行ってください!ここは僕がっ!」

 

ディアッカが驚愕とともに漏らした言葉通り、ジンは出会い頭にコクピットをリニアガンで撃ち抜かれて四散していた。

ガンバレルによる牽制射撃からの、まるで回避先を知っているかのような予測射撃によって決着は一瞬でついていた。

イザーク達が乗り慣れたジン系にでも搭乗していれば、彼らの連携でどうにかなったかもしれないが、タイミングは最悪だった。

何とか通常機動だけは出来るように即興で書き直した敵性の不完全OSに、未知の敵新型MSに乗っているのだ。

戦闘機動など土台無理な話だろう。

 

「何を言っている!俺達三機でかかればあんな奴!」

 

「イザーク、冷静になれよ!

OSの調整だって最低限動かせるようにしただけなんだ…こんな状態じゃただの的だぜ!

あいつの腕を見ただろう!今は全速でヴェサリウスにまで戻るしか無いだろうが!」

 

踵を返しかけたイザークのデュエルの腕をバスターが掴むと、イザークが激昂し弾けたように怒鳴り散らした。

 

「貴様はニコルを捨て石にするというのか!ナチュラル風情相手に!」

 

「そのナチュラルのMAに瞬殺されたMSを見りゃあそうも考えるさ!

それにニコルだって赤服だ!やるべきことをやっているだけだろ?

あいつが殿(しんがり)を買って出てくれたのは陣形の最後に陣取ってたからだ…最後が俺だったら俺がそうしたさ!お前だってそうだろうイザーク!」

 

常に軽口と憎まれ口を叩きながら、ある種皮肉気に戦場を見渡すディアッカは、狡猾とか残忍とか陰口を叩かれる事もある男だが、その実仲間思いで熱い男だ。

優勢に立っている時は〝ナチュラル如き〟と必要以上に見下す悪癖があったが、これは何も彼だけの悪癖ではない。

ザフト全体に蔓延する悪い流行病のようなものだった。

だがディアッカは、一旦己が不利と理解するとクールなリアリストとしての面が強くなる。

 

「それに、このPS(フェイズシフト)装甲ってのはビーム兵器以外には滅法強い。

俺らが急げば間に合うかもしれないんだよ…!」

 

「っ…く!ニコル!すぐ戻る!時間を稼いでおけ!」

 

「了解!…とはいっても、いったいどうすればいいのか…僕にもさっぱりですけどね…!」

 

去りゆく同僚を後眼に見送りながら、ニコルは急ぎPS装甲を展開。慣れない攻盾システム・トリケロスを構えさせる。

一連の動きは並のナチュラルにはスムーズに見えるが、普段のニコルからは考えられないくらいにぎこちないもので、見る人によっては解る。

そしてムウ・ラ・フラガは並のナチュラルではなく、おまけにこの時代では有り得ないMS戦の経験を持っているからその隙を瞬時に見て取った。

案の定、ブリッツが放つビームライフルは全てが空を切ってしまう。

 

「奴らのあの動き…今ならやれる!

あの夢じゃあ、未来の味方かもしれんが…アークエンジェルの逃避行だって予知夢通りとは限らないんだ。

今の俺にあいつらを排除出来るって言うなら…やらせてもらうさ!」

 

一瞬、ムウの脳裏に(予知夢内での)()()の事が思い起こされた。

Gを奪ったコーディネイター達の情報はもちろん閲覧していた。

それによればブリッツを奪ったのはニコル・アマルフィという名の優しい目をした少年で、戦場を知るには若すぎると思っていたキラ・ヤマトよりも更に若い。わずか15歳だ。

 

(俺は…キラには返しきれない負い目がある…!あいつに全部背負わせちまった…俺は情けない大人だ!

だけど、俺はキラ程優しくはない。非情になれる…!そこだけが、戦場では俺の利点だろうが!)

 

メビウス・ゼロがガンバレルを展開する。

ブリッツが放ってくる拙い射撃を最低限の動きで回避しつつも速度を落とさず前進。

リニアガンをブリッツのコクピットへ命中させながら弾き飛ばすと、

 

「ぐぅ…!PS装甲でも衝撃までは…!」

 

ニコルが呻き吹っ飛んでいる間に、ガンバレルで先行した二機のGのスラスター部へピンポイント射撃を敢行した。

さすがに避けて見せたイザークとディアッカだが、それでもスレスレに掠ってくる射撃に脅威を覚える。

 

「な、なんなんだコイツは!こんな動きィ…!ナチュラル風情がするものかよ!?」

 

「くっそぉぉ!」

 

即席OSでジグザグの回避を繰り返しながらも逃避行を続ける二機のG。

さすがにザフトの赤服は伊達ではないし、GATシリーズのフェイズシフト装甲の有用性を改めて教えられる。

ムウは舌を打った。

 

「チッ…メビウス・ゼロの火力では!一機に絞るしかない…ならば、ブリッツをやらせてもらう!」

 

錐揉み回転を立て直し終えた直後のブリッツへ向けて的を絞るメビウスは、四基のガンバレルと対装甲リニアガンで追撃を執拗に繰り返せば、連続した衝撃がニコルを襲ってろくに移動すらできない。

 

「ぐ、うぅぅ!つ、強すぎる!このままでは時間稼ぎすら…!」

 

操縦パネルのエネルギーゲージの目減りが加速する。

フェイズシフト装甲は実体弾を無効化するが、喰らえば喰らうだけエネルギーを消耗する。

おまけに衝撃までは無効化できずにパイロットを軽くない衝撃が襲うから、ニコルは急速に追い詰められていた。

コクピットをしつこく狙ったムウの攻撃は、ブリッツのフェイズシフトダウンと共にニコルの失神をも狙ったものだ。

リニアガンの一撃の重さはMSの装甲を持ってしても馬鹿に出来ないレベルだから、PS装甲であろうと衝撃も大きい。

ニコルはがくんがくんとコクピット内で激しく揺さぶられ、

 

「う、ぐぅぅっ!っ!あぁぁ!がはっ!!」

 

制御バーニアで射線軸をずらそうが、まるで弾丸が意思を持っているようにブリッツのコクピットへと直撃し続けて、とうとう揺さぶられるニコルは当たりどころが悪かったか、意識を刈られた。

 

(思ったよりも弾薬を食ったな…さすがはフェイズシフトだ。

だが、パイロットは上手く気を失ってくれたか)

 

稼がれた時間は30秒程だろうか。

逃走中の2機の追撃は可能…。そう判断したムウだったが、その時、彼の脳裏に嫌な閃きのノイズが走って追撃の手を止めさせた。

宇宙の寒空に漂うのみとなったブリッツを放置し、ムウとは切っても切れぬ因縁の男の気配へと意識を集中させる。

 

「――っ、この感じ…奴が来た。

やはり前よりも早く来たような気がするが…遅かれ早かれだな!」

 

どんなタイミングで因縁の男…ラウ・ル・クルーゼがこの戦場に姿を見せたかまでは、さすがに覚えてはいない。

ムウ・ラ・フラガの時間の体感としては、ヘリオポリス戦はもう5年近く昔の事だ。

 

白いシグーが高速で己へ向かってくるがムウには視える。

速い。

予知夢の中で第3ステージのMS群の速さを知るムウにとっても、やはり速い。

メビウス・ゼロの性能限界が今のムウの腕に付いてきていないというのもあるが、侮れない敵なのは間違いなかった。

 

「ムウ・ラ・フラガ!また貴様か!私の部下を可愛がってくれているようで何よりだよ!

本当にいつも嫌なタイミングで私の邪魔をしてくれる男だな、お前は!」

 

「クルーゼ…!世界に悪意を振りまく貴様が…今いなくなってくれれば!」

 

ラウ・ル・クルーゼはムウの動きを知っている。

グリマルディ戦線にて両者は邂逅し、その実力は互いに良く理解していたのだが、それはあくまでフラガの異能(予知夢)を視、未来からMS戦のノウハウを吸収する前のムウの腕前だった。

今のムウとはもはや次元が違う。

少年兵達へ向ける敵意とは比べ物にならぬ鋭い殺意が、ラウ・ル・クルーゼを貫く。

 

「っ!な、なんだこの気配は…!本当に貴様なのか、ムウ!?」

 

「お前はここで死ぬべきだ、ラウ・ル・クルーゼ!

親父の業は、この俺が全て清算するっ!!」

 

生かしておいては後の世の災い。

リニアガンを撃たれ再度弾き飛んだブリッツへアンカーワイヤーを絡まらせ、今度こそPSダウンに追い込んだ停止したブリッツの動きを更に封じるという念入りの良さを見せ、同時に無理矢理機首を振り向かせたメビウス・ゼロが、リニアガンを白いシグーへ放つと、シグーはひらりとそれを躱す。

常ならばここでクルーゼによる反撃が始まる。

しかし、ムウの連撃がクルーゼの反撃を許さず、ザフトのエースを防戦一方へと追い込んだ。

 

「ちぃ!この短期間でこうも腕を上げたというのか!」

 

ガンバレルが四方から攻め立て、シグーの肩部翼へと掠める。

今までならば掠る事さえ無かったような攻撃が、今この瞬間にもラウを追い詰めた。

ムウ・ラ・フラガの急激な成長とも変貌ともとれるレベルアップに、ラウは戦慄し、そして心のどこかでは狂喜にも似た感情が走る。

 

「ッ!くっ、くはははは!やるじゃないか、ムウ!」

 

遺伝子としては己の息子とも言える男。

この世で最も愚かな、思い上がった天才であるアル・ダ・フラガの血族。

アル・ダ・フラガのクローンである自分を否定するのは、アルダが失格の烙印を押した息子こそが最も相応しいのかもしれない。

 

「やってみるがいい!或いは貴様ならばッ!!!」

 

「言われなくともやってやるさ!!」

 

コクピットを狙ったリニアガンがシグーの腕を吹き飛ばし、ラウのシグーも残った腕でライフルを速射。

急速に離脱し、そしてすぐに取って返すメビウス・ゼロの凄まじい動きは、コクピットのムウに相応のGをかけてムウは奥歯を噛みしめる。

そして、今度こそ、とシグーの胴体ジェネレーター部へ狙いを定めた。

 

ここでクルーゼを殺せる。

 

そう思ったムウの意識がシグーへと集中し過ぎた時、その横槍は入ったのだった。

 

「隊長!!」

 

「させるかよ、ナチュラル如きに!!」

 

離脱しようとしていた筈のデュエル、バスターの二機が、拙い動きのままに戦場へと帰ってきていた。

クルーゼが戦場に到着したのを好機とみて戦域へ戻ったか、それとも年下の戦友だけでなく、尊敬する隊長までが危機と見て二人が救いに舞い戻ったか…どちらにせよ予想できた事だ。

 

「くそ…イザークとディアッカの性格を考えりゃ解りそうなもんだった…!」

 

クルーゼを仕留める千載一遇の好機だ。

だが、手負いが一機とヨタヨタ歩きが二機とはいえ、パイロットは皆エースで、そして何よりメビウス・ゼロの残弾数もエネルギーももはや心許ない。

この戦域に辿り着く前に、ジン部隊を殲滅していたし、ブリッツをPSダウンさせる為の集中砲火も大きな消耗だった。

そう考えればムウの決断は素早い。

 

「こいつは最後っ屁だぜ、受け取っておけ!」

 

今まで節約して使っていたガンバレルとリニアガンの残弾全てを豪勢にばら撒く。

 

「ぐっ!」

 

「こなくそぉ!!」

 

「隊長、俺達の後ろに!」

 

ばら撒いたとはいえ、あわよくば、とばかりに狙って見せた弾幕がデュエル達のPS装甲をしとどに打った。

その直後。

 

「あ、あぁ!あいつ、ニコルを!!」

 

ガンバレルのワイヤーが、動かぬブリッツに絡み、そして急速に連れ去っていくのがイザークには見えた。

「ちっ!」と舌を打ちながらバスターがランチャーを構え、ビームを放つ。

が、当然のようにその一撃はメビウスに掠りもしない。

加速し追おうとするイザークと、それに続こうとしたディアッカだが、もちろん止める者がいた。

 

「ニコルはまだ死んだわけではない。

捕虜にはなるだろうが…奴らが獣でなければ、そうそう殺される事も無かろうよ。

これ以上は無駄に犠牲が増えるだけだ。

イザーク、ディアッカ、残念だが帰投するぞ!」

 

「し、しかし!」

 

「…っ」

 

口惜しそうに呻く若者二人に、ラウは己を冷静そうに見せながら更に言う。

 

「すまないと思っている…隊長である私の責任だ。

正直に言えば、今回の作戦をどこか甘く見ていた事は否めん。

今は引き、態勢を建て直さねばミイラ取りがミイラになる。

これ以上…私の迂闊さで優秀な君達に被害を増やすわけにはいかん」

 

煽て、宥め、己のせいだと振る舞って見せれば、若く直情的な若者二人の思考に冷水を浴びせるのは容易かった。

仮面で素顔を隠し、言動もどこか胡散臭さを感じさせるクルーゼだが、クルーゼ隊の面々からは信頼を勝ち取っている。

純粋にザフトの強者として尊敬しているザフト一のエースであるクルーゼがこうも言えば、然しものイザーク達も歯向かわない。

それだけの分別は少年達にもあった。

 

三機の機影は宇宙を滑って、彼らの母艦・ヴェサリウスへと帰っていった。

最後に、イザークとディアッカは連れ去られたブリッツを唇を噛みながらチラリと振り返ったが、彼らの隊長はその後一瞥もくれなかったのには気付いていない。

 

(ムウ…お前は、アルダの意思を否定する男になろうというのか…?だとしたら…)

 

クルーゼはコクピット内で独り静かに笑う。

世界への復讐以上に面白い事があるかもしれないと、そう思い始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつてムウが知る〝過去〟の中では、メビウス・ゼロがクルーゼのシグーに敗退し、その流れの中でアークエンジェルとストライクがコロニーの被害を拡大し、最後には崩壊していったわけだが、今回はそうはなっていない。

そうそうにクルーゼを撃退し、またジン部隊の大多数も撃破された為にヘリオポリス内での戦闘は小規模なもので終わっていたからだ。

この程度の被害ならば、たとえ避難に失敗したヘリオポリス市民がいたとしても生き残れるだろう。

だが、それはそれとしてアークエンジェル内には、やはり多数の市民が逃げ込んでいて、そこにはムウの記憶通りの面々がいたし、コロニーの隔壁の一部には穴が空き空気流失も始まっているから、警報レベルは依然高いままで避難シェルターは解放には至っていない。

 

(やはり巻き込んじまったか)

 

ブリッツを伴い、メビウス・ゼロを着艦させたムウの視界に真っ先に入ったのはGAT-X105ストライク。

そして、そのコクピットから顔を覗かせている少年とやり取りをしているマードック軍曹もいたし、整備班の幾らかの面々は第三次連合プラント戦争で全滅するまで運命を共にした者達だ。

 

「キラ…みんな…」

 

顔見知りだらけの整備班と、保安も兼任する正規クルーの何名かが銃を構えながらブリッツを取り囲み作業に勤しむ横で、ムウは開け放ったキャノピーでヘルメットを脱ぎながらキラを見た。

誰もかれもが懐かしい顔で、何もかもが懐かしい光景で、匂いで、雰囲気だった。

大人連中は大して変わりもしない顔だが、キラは夢で見たよりも少し幼い。

ムウは今すぐに駆け寄って肩でも抱いてやりたい衝動をぐっと抑える。なんなら、今すぐに全員と肩を組んで酒でも飲み交わしたい。

 

そんな感慨深さに沈んでいると、メビウス・ゼロのキャノピーが開いた事に気付いた者達がワッと湧いた。

 

(なんだ?キラが何かやったか?)

 

一瞬、ムウはそう思う。

かつては、いつだってとんでもない事をしでかして、やってのけて、大エースとして話題の中心に来るのはキラ・ヤマトだ。

ムウだって、そうやってキラを持て囃す輪の中に入って彼をもみくしゃにする側だった。

自分だって一応のエースとしての矜持はあったから、少しの羨望とジェラシーもキラには抱くが、それ以上に純粋に腕前を尊敬したし、仲間として全幅の信頼を置いていた。

何より、彼の人格…優しさや純心さは、人として余りにも尊く眩しくて、そんな優しいキラの姿を、ムウは5年もの間見続けてきた。

スレた所のあるムウには、とても太刀打ちできないもので、一個の人間として、遺伝子云々の全く関係のない場所…精神とか魂とか心といったところで、ムウはキラを尊敬していたのだ。

だから今回も、ストライクを初めて動かし、敵を撃退した事でクルーが湧いている…そう思っている。

 

(確か…前はどうだったっけかな…。なにせもう5年近く前だもんなぁ…細かいとこまで覚えちゃいねぇや)

 

体感時間にして、もう5年前。まだ5年前。

どちらともとれる刻の経過は、もともと大雑把な所のあるムウから仔細の記憶を奪っていたが、一つ、しっかりと覚えているのは、この後「君、コーディネイターだろ?」という己の発言のせいでキラに嫌な思いをさせてしまう事だ。

 

(どうすっかな…ここで皆に気付いて貰った方が後々の爆弾にならずに済む気はするが)

 

考え事をしながらコクピットから飛び出て、ラダーを降りる。

そこで、先程騒いでいたクルーがムウに駆け寄ってくるのが、ようやく彼にも気付けた。

 

「な、なんだ!?」

 

突然の人垣に気圧されるムウに、友軍の者達が口々に喝采を浴びせ、まるで()()()()()とでも言うように肩を触ったり金髪の頭を雑に撫でたり、背中をどついたり、腹に軽いパンチを何発も、入れ代わり立ち代わり喰れてくれる。

 

「エンデュミオンの鷹のご登場だぜ!!」

 

マードック軍曹が開口一番そう言うと、皆がそれに続いた。

 

「さすが連合が誇るエースだ!!」

 

「エンデュミオンの鷹の異名は伊達じゃないっすね!!」

 

「俺、もう感動しちゃいましたよ!!」

 

「メビウス・ゼロでジンを7機撃墜!しかも奪われたGを捕らえて連れ戻すなんて!」

 

これにはムウ・ラ・フラガも戸惑った。

かつてここまでの出迎えを受けた事はないからだ。

有り難い異名を賜ったエンデュミオン・クレーターでの戦いでは、惨憺たる戦果から目を背けさせる為の()()()()()()()()()()の色が濃かったし、何よりも称賛で出迎えてくれる筈の戦友は皆、サイクロプスで弾けて死んだ。

仲間を全て喪っての孤独な帰投だったから、歴戦のムウにしてもこの出迎えは新鮮だった。

 

「あ、ああ…ありがとう」

 

戸惑いがちにムウが一言返せば、そこから更に出迎えは加熱した。

軍隊特有の手荒い歓迎が一頻り続いて、ようやく群れから飛び出たムウは、こんな光景をポカンと眺める少年と目が合って、ムウはとうとう笑顔が抑えられなくなった。

 

「よ、よお!坊主!」

 

努めて冷静に。

ストライクに歩み寄って、MSの足元からキラを見上げながら声をかけた。

自然、早足になってしまったし、声にも歓喜が滲むのは仕方ない。

いきなり名を呼ぶのも不自然だからと、坊主と呼ぶのもいつぶりだろうとムウは思う。

 

「あ…」

 

そんな懐かしい、未来で死んでしまった筈の少年が、まだあどけない顔を見せながらムウを見た。

 

「その…えーと、げ、元気か?…なわけないよな。こんな事に巻き込まれちまって…。

あー…スマン。俺は何言ってんだろうな、初対面のやつ相手に。

俺はムウ・ラ・フラガ。………君は?」

 

「僕はキラ…キラ・ヤマトです」

 

控えめな少年の手を半ば無理矢理攫ってムウは固く握手し、屈託ない笑みを向ければ、少年もどこか安堵したように微笑んだ。

 

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