ムウ・ラ・フラガ現在2周目   作:八段腹おじさん

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神経接合うんぬんは、OSの文字列からそういう設定もあるのではと見たことがあったので、このSEED世界ではパイロットとMSが神経を同調させてある程度は思考操作で乗るものとしています。


G兵器達の戦場

大損害と言っても過言ではない損耗率を叩き出してしまったクルーゼ隊だが、隊の士気は未だ高い。

ラウ・ル・クルーゼとしても、士気が高いのなら〝脚付き〟の追撃をしたい所であったので渡りに船であった。

 

(ムウ…この短期間に、お前に一体何が起きた?

あれほどの殺意を…ドス黒い感情を私にぶつけられる男になるとは…素晴らしいぞ、ムウ・ラ・フラガ…)

 

仮面の下の瞳が歓喜の情で歪むのを抑えられないクルーゼは、副官のアデスらにバレぬように声を殺して笑う。

そんな折、アスラン・ザラが直談判にやってきて、ストライクとブリッツの再捕獲・または破壊を完遂したいというではないか。

クルーゼはもったいぶって、「国防委員長殿から預かった君達の命が大切だ」とか「君達は前途有望な若者なのだから名誉挽回を焦る必要はない」とかこんこんと言って聞かせてやって、そこで引き下がるならそれで良し。なおも食いつく程の情熱があるなら、その熱意でもってムウ・ラ・フラガの巣を啄いて貰う。そう判断したらしかった。

そして、クルーゼの秘かな希望の通りにアスランは食い下がった。

 

――幼馴染の友人が、非道なナチュラル共に騙されてMSに乗っている。

 

だから助けたいのだ、などという公私混同の極致も、このザフト軍ならばまかり通る。

なにせ、公的には軍隊ではなく義勇兵組織であり、戦場においても各個人のある程度の自由裁量権がある。

悪い点は、今回のような公私混同が許され、良い点では、柔軟で即効性の高い動きが出来た。

それもこれも、所属人員が皆コーディネイターであり、能力が優れているという自負故だろう。

 

特に、アスラン・ザラはアカデミーでも最優秀の卒業生であり、国防委員長パトリック・ザラの一人息子。

彼の熱意は、世界樹攻防戦で大戦果を挙げた英雄クルーゼでも無碍には出来ない。表向きには、だが。

 

「そうか…キラ・ヤマトというのか、君の友人は。

………………()()()()()()、か。

いいだろう、アスラン。私のシグーは、まだ修理で出られんからな。

君が指揮をとって〝脚付き〟の追撃任務を行いたまえ。ザラ隊の初陣、だな。

…今度こそ、その友人とやらを助け出してみせろよ」

 

「…っ!はっ、ありがとうございます!」

 

理解ある上司を装って微笑みの一つも浮かべてやる。

アスラン・ザラは、それを信頼と受け取って若い情熱を全身から迸らせてMSデッキへと駆けていった。

それを見送るクルーゼの、仮面の下の瞳はやはり弧を描いて愉悦に歪む。

傍らで、鉄面皮を装いながらも心配そうに見送る副官アデスとは真逆の温度であった。

 

(アスラン…君の、その友情が私とムウの役に立ってくれる事を願うよ)

 

ムウへの餌としては、これ以上無い上質なものだ。

クルーゼは、醜い世界を滅ぼすか、それとも己の醜さをも上回るドス黒い何かで塗り潰されたかった。

自分を消したい、消されたい。

そして、それをするのは赤の他人等では納得できない。

アルダの欲望から生み出される事になった、人類の欲望の権化…スーパーコーディネイターの()()()か、それとも――

 

(どれ程の絶望を見れば、あのような殺意を私に向けられるのだ?ムウ。

この短期間に、一体お前は何を視た。何を知り得た。

私と同じくらい…人の業を、人の愚かさを視たのか?

戦争は人を変える。ならば、お前もまた変わり始めたのかもしれぬな。

ふふふ…少し、お前のことが好きになってきたよ…ムウ・ラ・フラガ。

だが、まだ足りない。もっと…もっとだ。もっと地獄を見て来い、ムウ。

そして、あの時に見せた…いや、あの時以上の黒い心を…私に向けてくれ。フフフ…)

 

運命というのは本当におかしなものだとクルーゼは思う。

人類を滅ぼすのは、ムウ達を見届けてからでも遅くはない。

クルーゼの趣味が一つ、増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4機のMSが暗黒の宇宙を飛翔する。

ザフト軍であるそのMS小隊は、うち3機は敵勢力から奪った最新兵器であり、残る1機はビームランチャー(バルルス改 特火重粒子砲)を装備したD装備型のジン。

 

「エンデュミオンの鷹か。

だが、俺は前に奴と()り合った事があるが…

手強いは手強いが、メビウス・ゼロでジン7機、クルーゼ隊長のシグーを小破、

ニコルを捕獲ってのは…ありえないぜ?そんな化け物だったら、俺も生きちゃあいない」

 

小隊を率いるのはアスラン・ザラだが、その補佐として付けられたミゲル・アイマンは、クルーゼ隊の赤服達よりも少し年長である分、クルーゼに何か起きた際に、代理として彼らを率い指示を出す事がある程には経験を積んでいる。

ミゲルの言葉には、人を見下す癖のあるイザークやディアッカも、そしてアスランも良く聞き入れてくれるのは、プライベートでも彼ら赤服組の良い兄貴分をやっていたからだろう。

本来の運命ならば既に死んでいるミゲルだが、ムウの攻撃によって波状攻撃を仕掛けられなかったクルーゼ隊が早々に退いた為に、捻れた運命は彼の命を生き延びさせていた。

 

「あのエンデュミオンの鷹の事は、隊長も仰っていただろう。ミゲル。

恐ろしく腕を上げて、もはや別人だ…とな。

油断すれば〝黄昏の魔弾〟だって危ないだろうぜ」

 

ディアッカが言う。

自分達が、恐怖さえも感じる程に追い詰めてきた難敵を、実際に見もせずに「大した事はないだろう」などという評価が下されれば、ディアッカもイザークも面白くない。

いつも皮肉屋であるディアッカの慎重さは、ミゲルに少しの驚きを与える。

 

「…アスラン、お前はどう思う?」

 

急に話を振られても、アスランという男が気の利いた事を言えるわけもない。

 

「クルーゼ隊長がシグーにダメージを食らったのは確かだ。

エンデュミオンの鷹は、恐ろしい奴なんだろうな」

 

「ふーん…まぁそうなんだろうけどな」

 

いまいちミゲルは合点がいっていないようだ。

なまじ、自分にムウとの対戦経験があるだけにピンと来ないのだろう。

 

「ふん…ミゲルも、奴とやり合ってみれば解る!とにかく油断するなよ…!

ニコルの敵は…必ずとる!!」

 

「皆、雑談はそこまでだ。

脚付きの中にはニコルがいる…無事でいればだが。なるべく武装と艦橋に攻撃を集中させるぞ!」

 

敵の警戒網へと突っ込んでいく中で、少年兵達の意識にギアが入る。

と、そこで。

 

「ん…?」

 

脚付きの〝脚〟が開いて、MSが飛び出した。

しかし、飛び出した、というよりも投げ出された…とでも表現した方が似合いそうな発進で、ザフトのアカデミー訓練生1年目でもあんな酷い有様ではないだろう。

そんな無様な敵の機体は、ミゲルには見覚えがあるものだ。

素人同然の動きながら、脅威の装甲システムのお陰で全ての攻撃を跳ね除け、それでも動きの差から捕獲は可能と仕掛け続ける中で、突然目覚めたように動きが機敏になった敵の新型MS。

 

「へぇ…あれがミゲルをエマージェンシーに追い込んだ白い奴か。

エンデュミオンの鷹より、ミゲルはあっちの奴が怖いのかもね」

 

クスリと笑ったディアッカの言葉は、からかい半分だろうが立派な挑発だ。

そして、ミゲルは年長である自覚から落ち着き払っていたが、その性分はやはり熱血型なのだから、

 

「白い奴…!性懲りもなく!」

 

やはりカッとなった。

どうもクルーゼ隊は、精鋭揃いといえど若い兵士が多いせいか、血の気の多いパイロットが大半だ。

その中でアスランや、そして敵捕虜となってしまったが、ニコルは貴重な抑え役だった。

 

「見ろよ。あの白い奴…溺れているぞ!くっ、ははははっ。

おいおいミゲル、本当にあんな奴にやられたのか?」

 

「うるさい!あいつは突然動きが変わる!

俺との初手でも、最初は木偶人形同然の動きだった。

見ていろ…急に動きが鋭くなるぞ!」

 

よりバーニアを吹かせて、宇宙に溺れているストライクへと迫る4機。

しかし、ストライクは動きを滑らかにするどころか、ジタバタと無様に藻掻くのみだった。

 

(…っ、舐めているのか、あいつはぁ!

……い、いや、落ち着け…あの時も、それで頭に血が上って負けたんだ。

あれは、あの無様はきっと、あのパイロットのブラフ…!策略だ!)

 

あんまりなその醜態に、ミゲルの矜持は甚く傷つくが、それも敵の戦略だと己を叱咤する。

血気多めな彼とて、敵味方に異名を知られるエースだ。同じ失敗は繰り返さない。

折れかけている〝黄昏の魔弾〟の勇名を、ここで取り戻す。

そう意気込んで、ミゲルは闘争心を高めつつも冷静さを保ったままに臨戦態勢へと移行。

だが、横目でそれを見ていて生きた心地のしない男がいる。

もちろんムウ・ラ・フラガ…ではなく、それはアスラン・ザラだった。

 

(キラ、何をやっているんだ!あの機体、宇宙に対応できていないのか!?

それとも、あの艦のナチュラル達に機体に細工でもされて…!?

キラを見捨てて、そのまま自分達だけでも助かろうって算段なのか…脚付きの連中は!!)

 

G兵器強奪の時、垣間見たあの少年は間違いなくキラ・ヤマトだ。

あの時、あのままに白いG兵器に乗り込んでしまったキラを、ナチュラルは利用して未だに乗せている。

パイロットが変わっているとは思い付けず、ナチュラルの造った機体が不調なのだと、そう考えてしまうのはアスランの頭がキラでいっぱいなのと、そしてやはり〝血のバレンタイン〟で母を亡くしている事に起因する。

そう思い込んだら止まらないのがアスラン・ザラという少年で、乗機イージスを高速巡航形態へと変形させると、陣形を崩し、仲間を差し置いて一気に飛び越えて独走した。

 

「なんのつもりだアスラン!?」

 

部隊長の突飛な行動に、イザークが叫んだ。

 

「…っ!ニコルを捕らえられた仕返しだ!

溺れている敵MSを、俺のイージスで捕獲する!!」

 

「なにぃ!?アスラン!勝手なことをするな!おい!陣形を保て!貴様は部隊長だぞ!

溺れているのは演技だ!そいつに騙されるな!!アスランッ!!」

 

ミゲルは必死にアスランを制止する。

戦功を独り占めするつもりか、と怒るより前に、アスランの身を心配するミゲルは、やはり味方にとって良き兄貴分だろう。

後輩を止めようとジンを加速させたが、変形したイージスの加速力は抜群でありとても追いつけないものだった。

 

「チッ…ニコルの件で血が上っているのか、あのバカ!どう見ても罠だろうに!

イザーク、俺に続け!ディアッカはここで俺達を援護しろ!」

 

イージスに続き、ジン、デュエルが突っ込み、バスターが支援砲撃ユニットを展開。

あの白い奴は必ず何か仕掛けてくる。

ミゲルはそう思い、仲間を助けるために必死に加速したその時に、開いたままだった脚付きの〝脚〟から再び熱源が射出された。

MSが1機、新たに戦場に出現する。

 

「あれは…ニコルのMS!」

 

それを見たミゲルの言には、ムウや、そして連合の軍人からすれば「元々こちらの物で、ニコル・アマルフィの物ではない」と口を尖らせて抗議したいところだろう。

そんなニコルのMS…ブリッツは、溺れ続けているストライクとは雲泥の差の軌道を見せて、高速で迫る。

 

「ナチュラルにもMSをまともに動かせる奴がいたか!

まさか、エンデュミオンの鷹か?」

 

「ありえないぜ。いくら鷹でも、ナチュラルにはMSは動かせない。

特に、あんなOSじゃあな!」

 

イザークとディアッカは、言葉では強気だったが()()エンデュミオンの鷹ならばMSを動かせても不思議はないとすら思っているのは、ある意味でムウ・ラ・フラガという男の強さを認めたという事だ。

それ程に、ナチュラルのMAに好き勝手され、追い詰められたのは、若く自信に満ち溢れた二人には衝撃的な出来事だった。

無論、ミゲルも先述の通り、人生初の衝撃をヘリオポリスで味わわされた身であるから、次の瞬間、MSのメインカメラが捉えた映像への3人の若者の驚きは如何許(いかばかり)か。

 

先行するイージスが、どうやら目論見通りに4本のアームで白いMSを捕獲したと思えた時、奪い損ねた連合の黒い奴が、イージスのアームへ正確なビームを叩き込み溶断したのだ。

 

「っ!なんだと…!あのアスランが先制を食らった!?」

 

アカデミーを首席で卒業し、ザフト全体を見ても、クルーゼに次ぐエースとしての立場を既に築きつつある若きトップガンが、MS戦でいきなり遅れをとるという衝撃。

 

「こ、こいつは…!」

 

その呟きは誰のものか。

イザークも、ディアッカも、そしてミゲルも、この戦争が一筋縄ではいかない事を予感し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…!ハァ…!う…あ、あぁ…!」

 

少女は、今まで体験した事のない、極度の緊張状態にあった。

なんとか、連合の新型MSを動かせたのだから、このまま慣れれば自分にもMSを乗りこなせる。戦える。

あんな軟弱な男(キラ・ヤマト)にも動かせたのだ。

なら、自分はもっと強く戦える。

そう信じ切って少女は宇宙へ飛び出したのだ。

 

だが結果はどうだ。

整備されきったコロニー内のコンクリート上を歩かせるのと、四方八方が暗黒の宇宙は完全に別世界だ。

距離感が掴めない。

方向感覚が消える。

上下左右の概念が消え失せて、狭いコクピット内で少女は完全な孤独だった。

 

(私の…私の考えが、甘かった――)

 

想像を遥かに超える操縦難度。

このまま、どこまでも孤独に宇宙を流され漂流し…デブリの仲間入りをしないとも限らない。

 

少女の背をゾッとしたものが伝っていく。

 

今までは、安全なオーブで父の深い懐の内から叫ぶのみだった。

多少なりとも無茶をしてやろうとしても、影にはいつも父から派遣されたお目付け役のキサカがいた。

ようやく、キサカ達の目を盗んで不穏な噂(オーブが連合のMSを造っている)を確かめて、正義を白日のもとに晒してやろうとした。

ヘリオポリスで目撃した人の死や爆発の怖さも、少女は正義感と責任感で恐怖心を上書きしてみせた。怖くなど無かった。

そして噂が真実だと知ってからは、オーブの蒔いた種はオーブの人間である自分が刈り取るのだと息巻いて、この有様だった。

 

圧倒的な宇宙の広大さ。重圧。孤独。

 

MSの宇宙戦においては、諸々の感覚の喪失は、全てOSが補ってくれる。

ナチュラル用OSがストライクに備わっていれば、カガリもMSと同調してそれらの感覚を最適化してくれる筈だったが、現在のストライクのOSはコーディネイター用OSをキラ向けに最適化したものを、さらにムウ向けにカスタマイズしたもので、まるで増改築を繰り返した歪な館のようになっている。

並の人間では、無理矢理動かそうとし続ければ神経同調の過負荷で脳や心身に重大な副作用を残す可能性すらあるのだから、そもそもろくな訓練も積んでいないカガリに使いこなせるMSではなかった。

 

「あ、あぁぁ…う、ぅぅッ!」

 

それでも、神経接合の補助無しの操縦桿やフットペダル等だけの純粋な操縦で、ストライクの姿勢制御に挑み続けるカガリの根性と諦めの悪さは特筆ものだ。

しかし一向に態勢は立て直せない。

姿勢制御スラスターの微細な出力の違いが1kw、噴出箇所のミスが一箇所でもあれば、錐揉み回転は止められない。

やがて、コクピットの耐G機能始め、諸々のパイロット保護機能を、高速回転の不快感が上回ってきて、カガリは目の前を高速でチラツキ続ける星々の動きと遠心力に、頭痛と目眩と吐き気に猛烈に襲われた。

 

「っ!ぅぐっ!…、あ、ぅぅ…!ハァ…ハァ…!」

 

そんな中で、ストライクのセンサー系がレッドアラートを口喧しく叫びだせば、少女はいよいよ追い詰められる。

 

「て、敵…!あ…く、くそ…くそぉ…!止まれ!止まれって…!

なんで…なんで、こんな!」

 

恐怖と惨めさで、強気で勝ち気な少女の目に涙が溜まる。

ここには大きな背中の父はいない。口煩いが頼れるキサカもいない。

その時、

 

「っうわぁぁぁッ!!!?」

 

ストライクを強い衝撃が襲って、カガリの頭が揺さぶられる。

 

『――ラ!――なんだ――う!返――をし――!キ――!―――っ!』

 

敵MSが組み付いてきた。

そして何か言っている。

しかし今のカガリにはとてもそれを聞く余裕はない。

必死にレバーをやたらめったら動かし、ペダルを目一杯踏み込む。

 

「う…うぅぅぅ…!っ!」

(は、離せ…!離せ!離せ!は、離してよ…!)

 

目に溜まった涙はとうとう頬を伝った。

 

(お父様…!助けて…!!誰か――助けてっ!!!)

 

戦場では想いなど吹き飛ぶ。

願いなど叶えられない。

 

しかし、戦場は残酷だが気紛れだ。

稀に…極稀に、願いは叶う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリッツのOS。それの神経接合がムウの神経網を()()()いく。

 

「…っ!!ぐ…!!」

 

肉体にかかるGなど、メビウス・ゼロで無茶な制動をやってきたムウには慣れたものだったが、MS操縦の難易度は、カガリにとってだけでなく、ムウにとっても想像を超えていた。

だが、カガリとムウで違う事といえば、カガリは神経が蝕まれる程にMSと接合出来なかったが、ムウは無理矢理でも接合出来たという事だ。

凄まじい量の情報が脳に流れ込み、そして凄まじい量の操作を並列処理で思考していく。

 

(これは思った以上にヘビーだぜ…!けど…しょせん、物事は()()ってな!

クルーゼに出来たんだ…俺だってやってみせるさ!!)

 

まるで辞典を読み耽りながら、メビウス・ゼロの操作をやらされるような感覚だったが、この時代の誰よりもMS操縦の経験があるムウだからこそ…フラガの血を引くムウだからこそ、これが出来る。

クルーゼも、アル・ダ・フラガと同等の天賦を持ちながら、ムウが体験した5年間の戦争・MS操縦経験にも匹敵する程の〝死物狂いの努力〟をしたからこそ、プラントで誰にも疑われずにエースパイロットにまでのし上がった。

こんな芸当は、フラガの血族を始めとする、極一部の天才、鬼才にしか出来ぬ事だし、どんな超天才であろうとナチュラルならば生半可な努力では不可能だった。

脳を情報負荷に焼かれ、肉体をGに圧迫されながらも、ムウはブリッツを急加速させてストライクへと一目散に駆けさせる。

 

「ストライクを捕獲するつもりか…!やっぱりお前はそうするよな、アスラン!」

 

けれど、お陰で助かった。

言外にそう言いつつ、ブリッツのビームライフルが放たれると、それはイージスの動きを完全に読みきった上で、強襲形態のアームを一本、破壊する。

 

(よし!これで――)

 

そして即座に、ブリッツは左腕有線式ロケットアンカー(ピアサーロック)〝グレイプニール〟を撃ち出した。

アンカーの太い爪が、がっしりとストライクを掴む。

 

「嬢ちゃん、無事か!!」

 

『あ…あぁ…う、ぅぅ…あぁぁ…!』

 

少女の泣きじゃくる声だけが回線から聞こえて、それはムウを安堵させた。

泣けるだけの元気があれば、取り敢えずは大丈夫だろうと、そう確信できた。

安堵したはいいものの、次の瞬間には、もう人型へと再度変形したイージスがビームライフルを連射する。

それをブリッツは急激な横加速と上下運動を繰り返し、躱していった。

 

「ぐ、ぅぅ…!アスランの奴…相変わらず良い腕してるぜ!」

 

バチバチと脳が焼けるようだった。

その中で、ムウはフラガの先読みをも行使して、ザフトのエースの精密射撃を避け続けた。

しかも、左腕にはグレイプニールで掴んだストライクを維持したままでだ。

アスランから見れば、この事の方こそ脅威。

 

「な、なんて奴だ…!MSを抱えたまま、攻撃を全て避けている!?」

 

しかもイージスの攻撃に対して、ブリッツもビームライフルの返礼を忘れず、アスランもそれを避けるものの、際どい至近弾はイージスの方が多く食らっているのがアスランには解る。

 

「…強い!こ、これ程にMSを動かせるなんて…!」

 

アスランは、まさかキラは黒いMSの方に乗り換えているのか、と一瞬考えるが、まだ軽く一戦しかしていないがキラの操縦の癖のようなものを既に幾らか理解していたから、黒いMSの動きには違和感を覚える。

恐らくキラではない。

キラのような戸惑いや優しさを感じない動きとでも言えばいいのだろうか。

とにかくそういう動きのように感じられて、僅かな戦闘でそこまで見抜いてしまうのは、さすがとしか言いようがない。

アスラン・ザラという男は間違いなく麒麟児だった。

そこへ、強力な一条のビームが、先程までブリッツがいた場を貫く。

ムウはそれも先読みで知り得て、既に大きく後退して回避に移っているから当たりはしない。

 

「バスターか…!やっぱり良い腕だな、ディアッカ!」

 

「ちぃ…!あいつ、俺の攻撃を読んでいるのかよ!」

 

ディアッカの援護射撃に続けと言わんばかりに、イザーク、そしてミゲルまでがとうとうブリッツを近接距離に捉えた。

ブリッツとイージスとの距離が離れる度、デュエルとジンのライフルも火を吹く。

エース級による、四方からの射撃。

普通ならば生き残る術など無い状況だが、ムウには生存する力があった。

 

「上…!次は、後ろか!お次は…左っ!」

 

まるでサーカスの曲芸のように、ムウの指示に従ってブリッツはその身を踊らせる。

 

「嘘だろ…!?」

 

ミゲルは戦慄した。

自機とほぼ同質量の巨体を抱えた敵に、クルーゼ隊の包囲攻撃が通用していない。

これにはイザークですら畏怖を感じざるを得ない。

 

「こ、こいつは…クルーゼ隊長並みだっていうのか!?ナ、ナチュラルのくせにィィ!!!」

 

或いは、クルーゼ以上か。一瞬、そんな事すら思う。

イザークは恐れそうになる感情を消す為に激昂した。

そして、風に舞う木の葉のようにのらりくらりと宇宙で踊るブリッツへ、ビームサーベルを抜刀し、雄叫びをあげながら突き進み、そしてそれを見たアスランも「白いMSは渡してもらう!!!」と叫びつつ併せて連携。

腕部からサーベルを成形し、一気に距離を詰め始めた。

 

「同時か…良い判断じゃないの、坊主共!

――少し我慢してくれよ、嬢ちゃん!!」

 

『え!?っ!あ、うぁわぁぁああ!!!?』

 

接触回線でムウの声が聞こえて、その直後。

カガリの乗るストライクは、勢いよく投げ捨てられた。

それも、サーベルを振り上げて猛然と迫るイージスへ向けて。

 

「っ!?なっ!!あ、危ない!!!」

 

アスランの目的を知るムウは、こうしてやればイージスが攻撃できない事を知っている。

慌ててイージスはサーベルを消したが、イージスとストライクが勢いよく衝突して、パチンコ玉のように両者は弾け跳んだ。

これで対処すべきはデュエルだけ。

 

「そこ!」

 

「なに!?」

 

返す刃のブリッツの居合抜刀が、カウンター気味にデュエルの腕を切り裂く。

そして最小限のムーブで、サーベル発振器のすぐ下に取り付けられている超高速運動体貫徹弾(ランサーダート)を切り裂いた腕へ撃ち込めば、

 

「うぁぁあああっ!!?」

 

ランサーダートの質量攻撃と、着弾後の爆発はデュエルの内部機構にまで損傷が浸透し、イザークが衝撃に喚いた。

それによって肩までが誘爆し、胴部にまでダメージが伝搬してしまう。

 

「イザーク、下がれ!こ、こいつ、やらせるかぁ!!」

 

イザークへのトドメはやらせないとばかりに、ミゲルのジンが躍り出てビームランチャーを放つ。

だが、ブリッツのトリケロスの防御を貫くだけの威力は、大型でありながら初期のビーム兵器であるバルルスには無かったのである。

 

「くそ…!ジンの火力では!」

 

重装備を見て取ったブリッツは、トリケロスで身を守ったままにジンへ突進。

その速度を乗せた鋭い蹴りを、ジンのコクピットブロックに叩き込めば「ぐぅぅぅっ!!?」と呻くミゲルのジンが仰け反って、その反動でブリッツは跳躍、加速して、それらとほぼ同時に左腕グレイプニールを再度撃ち出し、明後日の方向に弾け跳んでいたストライクをまた掴んだ。

アンカーを高速で巻取り、己のバーニアも吹かせると、通常の機動速度を超えた速さでブリッツは戦場を飛び回れた。

そこへ、

 

「こ、このまま好きにさせるか…!!」

 

イージスがまたやってきた。

 

「キラを…キラを渡せ!!!」

 

強襲形態でストライクに接触したアスランだが、接触回線で聞こえた声は低く唸るだけのもので、未だに搭乗者がキラではないとは気付いていなかったから、今も必死に幼馴染を取り戻そうと躍起になる。

イーゲルシュテルン(頭部バルカン)とビームライフルを乱れ撃ち、イージスがブリッツへと挑むのを、バスターのディアッカは狙いをつけつつ観察していたが、戦場を飛び回り跳ね回るブリッツの狙撃は困難を極めた。

しかも、敵新鋭艦の脚付きは、ヴェサリウスと艦砲射撃戦を繰り返しながらも、バスターに対してもしつこく砲撃を行っていたから、ディアッカの援護射撃はすっかり封じられていた。

 

「く、くそ…狙うどころじゃない!脚付きめ…まるでハリネズミだぜ!!」

 

今までの連合の艦船とは比べ物にならない武装量。

艦長の指揮が良いのか、それとも狙撃手が優秀なのか、バスターに攻撃を許さず、優位に立たせない。

ようやくディアッカは決断した。

 

「アスラン…!アスラン、聞こえるか!」

 

『くぅ…!どうしたディアッカ!』

 

「分が悪い!イザークも被弾している!撤退の指示を!!」

 

『撤退…!?撤退するっていうのか!後もう少しで、キ――っ、あの白い奴を…!』

 

「無理だ!お前なら解っているだろうアスラン!

黒い奴は、俺達とはMS戦の経験がまるで違うんだよ!

あしらわれてるって気付いているだろうが!」

 

『…っ!』

 

そこまで言われてしまえば、アスランも現実を直視せざるを得なかった。

確かにそうだった。

4機がかりで、しかも相手はお荷物を背負って、対等以上に戦われているこの状況は、あまりにも形勢不利。

未だにこちらに戦死者が出ていない今が、退き際なのだとアスランの冷静な部分は告げている。

だが、どういうわけか白いMSを自在に動かせないらしい今が、キラを()()()絶好の機会なのは間違いなく、その事実がアスランに冷静な判断をさせてくれない。

 

「アスラン!」

 

決断をしろ、とディアッカは必死に訴える。

いくら個人の判断を尊重するザフト軍でも、指揮官の指示を無視して撤退するわけにはいかない。

その時、彼らのずっと後方…母艦ヴェサリウスがいるであろう方向から信号弾が上がった。

 

『あれは…!』

 

「撤退の合図…!ヴェサリウスまで脚付きに撃ち負けたってのか!」

 

正直、ディアッカは助かったと思う。

冷静な判断力を低下させているらしいアスランも、ようやく我に返ってくれたようにディアッカには見えた。

 

『全機撤退する!ディアッカ、ミゲルを拾ってくれ!俺はイザークをカバーする!』

 

「了解っ!」

 

そう判断すれば、アスラン達の動きは速かった。

ダメージの少ないイージスがデュエルを、そしてバスターがジンを守りながら、戦場から高速で離脱していく。

 

 

彼らの背を見送りながら、ブリッツはようやく忙しない動きを止めた。

ムウの額を、じっとりとした汗が幾つも浮かび、伝う。

この時点での、コーディネイター向けOS搭載機の操作は、ナチュラルのパイロットへの負担が尋常ではないのだと、ムウは身を持って知った。

同時に、ラウ・ル・クルーゼという男の真価を見た気がした。

 

「…先が、思いやられるが……ぶっつけ本番で、何とかなったか…。

しかし…本当に、俺は…俺達はキラ無しでやっていけるのか?」

 

己の身が削れるのは別にいい。

しかし、キラを守り切る前に自分が死んでしまえば、全てはそこで終わりだ。

ムウは未だ死ぬわけにはいかなかった。

 

『…っ…ぐす…ぐす……う…ぅ…』

 

抱え直したストライクから聞こえてくる啜り泣きを聞きながら、ムウは己の抱え込んだものの()()を改めて実感していた。

 

(取り敢えずは…帰ったら説教だな。…ナタルが)

 

今は、自分はとにかく少し休みたい。

さすがのムウも疲れ果てていた。

 

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