ダンまち×FGO ~ 許されよ 我らが罪を~ 作:はしゅまる
「今から私があなたをボッコボコにしてやります。覚悟しろ、この万年発情猿め!」
なんて言ったけど...。
『ガアァアッ!』
「...っ...!」
モンスターの攻撃を避けるだけで精一杯だ。片目が潰れているから、私との距離を正確に測れていないため被弾することはないけれど、この狭い場所で、そのでかい腕を振るわれるだけで脅威なのだ。
「やぁあああ!」
『グゥゥッ!?』
モンスターが剛腕を振り下ろした瞬間に、跳び上がりその攻撃を避け、モンスターの顔に杖を叩きつける。
本当なら魔術で遠距離から攻撃をしたい、けれどさっき何度か試してみたが全く効いてない様子なので、杖で殴ることにした。
私が持つ最高威力の魔術であるシャスティフォルならばあの身体を貫通できると思う、けど街中では危なすぎる。あれは短剣の先に『魔力』を集め圧縮し、限界まで溜めた『魔力』を鋭い光線として放ち、相手を貫く魔術だ。モンスターを貫通してもその光線はすぐには消えない。そのまま進み続けもしかしたら一般人をも貫いてしまう可能性があるため、地上では使わないと決めた。
それに今の私はただの時間稼ぎ、ベルが来るまで、モンスターをもっと広い場所まで誘い込む。そうすれば、ベルも戦いやすいだろう。
「はぁ...はぁ...っ......こっちだ!追いつけるものなら着いてこい!」
『グアアアアア!!』
正直言うときっつい。私だってあれは怖いのだ。今だって頑張れてることが不思議なぐらい。ベルー早く来てーっと思いながら私は、モンスターを誘う。...が。
『ガァアアアア!!』
「うそ!?」
私は見誤っていた。そのまま後ろから追ってくると思っていた。だから突進してくるとは思わなかった。
この狭い通路の中、その巨体で私に向かってくる。壁に体を擦りながら来る。逃げ道は後ろしかないがすぐに追いつかれる。そのため自分の体を『魔力』で補強し、その一撃を耐えるため防御を選択した。
「ぐッ!?」
だけど一撃に耐えきれず、私は後方へと吹き飛ばされる。幸いでいいのか分からないが、吹き飛んだ方向に壁はなく、私は勢いが消えるまで転がり続けた。
ダメージは思ったより少ない、全身に響いた衝撃のせいで体を自由に動かせない。転がり続けて辿り着いたこの場所は、東側のメインストリートだった。そこには大勢の人がいた。きっと私が『ダイダロス通り』に入るより奥の方にはまだ人がいたのかもしれない。
そして自分が出てきた方向を再度見ると白い影が見えた。そんな私を辺りの人は不思議そうに見るが、私が出てきたところから、シルバーバックが姿を現した。そしてメインストリートに悲鳴が上がり周りはパニック状態へと変わる。
『グゥ...』
「皆逃げて...!?」
シルバーバックは、周りを一切気にせず私目掛けて一直線、そのまま私の体を掴み、足が地面から離れるぐらい高く上にあげた。万事休す。このまま握りつぶされれば、私は死ぬ。そんな状態の私を見たシルバーバックはニヤケ顔をする。勝利を確信したのか...腹立つ。だから私も笑みを浮かべ挑発気味に言ってやった。
「これで勝ったつもりなんですか?なら随分とおめでたい頭をしてるんですね」
『グゥゥ...ガアアアァァッァア!!』
私に対して怒りの叫びを上げ、その手を強く握り始める。
「ぐっ!?...うぅッ......」
体が悲鳴を上げる。それでも笑みを絶やさず、目だけはモンスターを睨み言葉を紡ぐ。
「私の番は終わりです...上を見てみろシルバーバック!」
『グアァ?』
建物の上から白い影がこちらに近づいてくる、あの時に見えたのはシルバーバックではなく。
「トネリコをッ...離せぇぇええええ!!」
ベルだ。
建物の上からこちらに飛び降り、彼の握る黒い剣をシルバーバックの背中へと突き刺す。
『グガァァァァアアアアアッ!!』
今初めて攻撃らしい攻撃を受けたシルバーバックは痛みからか叫び、背中に張り付くベルを落とそうともがく。その際、右手に握られていた私のことを勢いよく放り投げる。
「嘘ぉぉ!?」
また私は転がるのかと、いずれ来る衝撃に備え体を丸める。......が。何か地面ではない物に体がぶつかり衝撃は全くない。
「......大丈夫?」
「...え?」
衝撃の代わりに、言葉をかけられる。そこにいたのは、アイズ・ヴァレンシュタインさんだった。どうやら投げ飛ばされた私を受け止めてくれたらしい。
「...はい、大丈夫です...助けていただきありがとうございます」
「...うん...これ」
そう言って渡されたのはポーションだった。
「え、いや......ありがとうございます」
「...?」
自前のものを持ってはいるのだけど、善意を無下にしたくないし、これを受け取らないと失礼だと思い受け取った。
「...じゃあここで待ってて」
「?」
渡されたポーションを飲みながら傷を癒していると、もう私は大丈夫だと判断したのか。ヴァレンシュタインさんが剣を抜きながら、シルバーバックの方へと向かう。って。
「ちょっと待ってください!」
「...?」
そう言って私は、彼女の腕を掴む。不思議そうに首をコテンと傾げるヴァレンシュタインさん。
「ベルに...やらせてください」
「...でも、危ないよ?」
ヴァレンシュタインさんは正しい。1週間前、ミノタウロスの時に私たちは助けられているしその時私たちは駆け出しということも見抜かれているはずだ。そんな駆け出しがシルバーバックと戦うことなんて無謀だと思われても仕方ない。でもこれは。
「ベルが...乗り越えないといけないことなんです。だから手を出さないでください」
「......」
少し困った顔をする彼女。ダンジョン内でのモンスターの横取りはご法度。だが今は緊急事態であり地上なのでこのルールは適応されないし、そんなことを言っている場合では無いことは重々承知だ。
「なら自分、あの兎を見殺しにするつもりなんか?」
私の後ろから、声が聞こえた。いやこの独特な喋り方は前に聞いたことがある。
「...ロキ」
私が振り向くのと同時にヴァレンシュタインさんは呟く。
こっちに近づいてくる赤毛の短髪...と思えば後ろに髪を束ねているそして男性用のようなラフな格好。そして開いてるのか判断できないぐらいの細目。彼女が...。
「神ロキ...」
「自分らどチビんとこの子やろ」
「どチビ...?」
「あー...ヘスティアやヘスティア...ぴったりなニックネームやろ」
「ええ...そうですけど」
「スルーかいな…まぁええ...あいつからちょっと聞いただけやけどな、まだ冒険者になって約3週間のやつがシルバーバックを相手にすんのはきついやろ」
神ロキの判断は正しい、ヴァレンシュタインさんが動けば一瞬のうちに片がつく。誰も傷つかず、1番安全な終幕だ。でも...。
「そうかもしれませんが、これは...ベルが超えなくちゃいけないものなんです」
私がそう言うと、神ロキの視線がさらに鋭いものへと変わる。
「...お前...あの色ボケとどんな関係や?」
「え...?」
今度は色ボケ?この神のネーミングセンスがよく分からない。多分的をえてるんだろうけど、誰のことなのか私には分からない。
「......関係はなさそうやな」
「...はい」
神ロキから感じる重圧が、すっと消えた。
「はぁ...アイズ、あの兎がピンチになったら助けてやりぃ」
「...わかった」
「いいんですか?」
恐る恐る聞いてみる。
「まぁ言ってしまえば他の派閥のことや、首を突っ込む訳にもいかんし...それに見てみぃ」
神ロキに促され、ベルの方に目を向ける...あれ?
「動いてない?」
私が投げられてからそれなりの時間は経っているのに、両者はお互いを睨むだけで、動いていない。
「あれを邪魔するのは無粋ってことや」
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ベルSide
僕は、建物の上を渡り、シルバーバックの元へと向かっていた。ようやく追いついた時、目に入ったのは、モンスターの大きな手に握られているトネリコの姿だった。その瞬間頭の中で何かが弾け。気づけば高さ6mはある所を飛び降り、
そして暴れるシルバーバックに振り落とされ、すぐに体勢を直し距離をとる。その際トネリコが投げられた方向を見るとそこにはアイズ・ヴァレンシュタインさんの姿があるけどトネリコが彼女の腕を掴み何かを言っている。そんな様子を一瞥しシルバーバックの方へと再度向き直す。
先程までの恐怖はない。それにあの背中にこの剣は傷を与えることができた。つまり倒せるということ。
シルバーバックは片目を閉じている...いや目が開けられないのかな?多分トネリコがやったのだろう。シルバーバックは残った片目で僕を見ながら動く気配がない。それでも視線はこちらを射ている。
僕は右手に持つ剣を握り直し、ここに来るまでの神様との会話を思い出す。
『いいかいベル君?』
『この剣には、ボクの『
『君たち『
『今のままだと紙すらも切れない貧弱な武器だ。でもボクの恩恵が刻まれている君達が持つことでこの剣はより強くなる』
『そうだ君が強くなれば、その剣は必ず君に応える。...あれ気づいたかい?その剣を打ってくれたボクの親友ってのはヘファイストスのことだよ。そうあのヘファイストスだ』
『......知ってたよ、ボクやトネリコくんがバイトで留守にしてる時、君は教会の掃除をした後、この都市の散策に出てることはね、それでいつもヘファイストスの店の陳列窓に置かれた武器を羨望の眼差しで見てたことをね』
『へ?お金?そんなのちゃんとヘファイストスに話をつけてきたさ、君達の負担になるようなことはしないよ』
『ボクはもう君達の帰りを待つだけは嫌だったんだ。そしてあの日の夜、君の思いを聞いた。それで君達の力になる為に何をしてあげられるか悩んだ結果、君達の進む道を切り開く武器が必要だと思ったんだ』
『強くなりたいんだろ?』
『大切なものを守りたいんだろ?』
『英雄を目指すんだろ?』
『言ったじゃないか、手を貸すってさ。これぐらいのお節介はさせてくれよ』
『ボクは君達の神様だぜ?いつだって頼って欲しい。必ずボクが力になると約束するよ』
『よしこれでステイタスの更新は終わりだ!...おいおい嬉しいのはありがたいけど泣いてる暇なんてないぜ?さぁほら顔を拭いて。こんなの君にとって冒険の内にも入らない。だって君の目標はもっと高い場所にある。あんなモンスターけちょんけちょんにして来るんだ』
『うんうん、とてもかっこいいよベル君。さぁ行くんだ!』
僕を信じて送り出してくれた神様...そして僕を信じてここまでシルバーバックを追い詰めてくれたトネリコ...ありがとう必ず...勝つよ。
「僕は、ヘスティア・ファミリア、団長ベル・クラネル!今からお前を倒すッ!!」
『...ガアァアアアアアア!!』
どうして名乗ったかはわからない。けど自然と口から出ていた。シルバーバックは僕の言葉に答えるように叫び、そして僕達は同時に目の前の敵へと走り出していた。
さぁ...勝負だ!
ベル・クラネル
Lv.1
力:E440→C625
耐久:F356→E400
器用:G280→E450
敏捷:E440→C660
魔力:I0
《魔法》【 】
《スキル》
【憧憬躍動】
・早熟する。
・懸想が続く限り効果持続。
・想いが続く限り効果持続。
・上記2つの丈により効果向上。
・走り続ける限りさらに効果向上。
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東側のメインストリート、摩天楼から闘技場へと続く1本の大通り。そこには異様な光景があった。
1人の白い少年と1匹の白い怪物の戦いを周りの人々は、逃げることも無く観戦していた。
ベルが黒い剣を振るい、怪物は剛腕を地面に叩きつける。なんの力もない一般人にとってそれは、恐怖の何物でもない。一目散に逃げるべきとそれぞれの本能が言っている。だが。
今戦っているベルの名乗りという雄叫びを聞いた時、そこにいるものは全て足を止めこの戦いを見ることに徹し始めた。
この戦いは先程まで闘技場で行われていたような魅せる闘いではない。それにベルは見るからに、経験不足だ。拙い足さばきでギリギリ攻撃を躱し。扱い始めたばかりの黒い剣を力いっぱい振るけれどモンスターとの距離が空いている為か、大きな傷を与えることはできず、ちょっとした切り傷をつけていくだけ。
それでも、目が離せない。ベルも怪物も自身の力を最大限引き出し相手にぶつけている。目の前の相手を倒し自分が生き残る為に。剣を振るい、腕を振るう。その全力のぶつかり合いにここにいるものは皆魅せられていた。
戦いはさらに苛烈を極めた。シルバーバックが自らの腕についていた手錠だったものから垂れ下がる鎖を武器として使い始めたからだ。剣と鎖がぶつかり合い火花を散らす。そして徐々にベルは押され始める。体格の差の影響というものがここで現れた。
その様子を見ていた1人の幼い男子は息を吐くようにぼそっと口から言葉を発した。
「...がんばれ」
戦いの音でかき消される程の声量だったため、周りのものには聞こえなかったかもしれない。だけどその思いは確かに周りへと伝播した。
『頑張れッ!』
『負けんな!もっと腰入れろぉ!』
『今日の分の酒全部お前に賭けてやるから勝てぇ!』
『いけぇ!兎ぃ!』
「うぉおおおおおおおおッ!」
周りからの声援に答えるかのように、ベルは雄叫びを上げる。鎖を剣で受けながら前に出てシルバーバックの胸元に剣を振るう。
『グオッ!?』
その一撃によって、鎧ごと切り裂かれた傷口から紫色の結晶の頭が姿を見せた。それはシルバーバックの魔石。モンスターであるものが持つモンスターたらしめるものであり、弱点になるもの。
(見えた!)
ベルの狙いは魔石を壊すことでの決着。胸元にあるのはエイナから聞いていたが、このような巨体の中にある魔石に当たるまで剣を刺し続けるのは今のベルには不可能だった。だが魔石が見えたことで勝利の道がより明確へと変わる。
『グオオオッ!』
「ッ...!?」
だがシルバーバックはそうやすやすと殺されるつもりは無い。まだ自分の懐にいるベルに向かって左拳を振り落とす。それを間一髪でベルは回避するが、シルバーバックの拳は地面を叩き周りに砂煙を発生させた。
「...!」
シルバーバックの姿をベルは視認出来なくなる。だが突如ベルは膝を曲げその場にしゃがみ込む。次の瞬間ベルの頭より少し上を鎖が勢いよく横断した。もし少しでも動くのが遅ければベルの上半身と下半身は分かたれていた。
ベルはこの戦いの中で、たまに不思議な感覚を味わっていた。頭の中にとある光景が瞬時に映し出されその通り動くと、相手の攻撃を避けることができた。そのことからこれはまるで最適解の行動を自分に教えているように思えた。そしてこの時も、その勘のような未来予知のようなものに身を任せその場にしゃがみ込む。その結果は上々。不可視からの一撃を避けることが出来た。
『勇者』フィン・ディムナが持つ「第六感」、親指の疼きに似て非なるこれは名ずけるならば『直感』。自らの行動の最適な未来を映し出す、ベルに目覚めた「第六感」。この勘のおかげで、ベルは未だにモンスターから直撃を受けていないと言ってもいい。
その理屈がわからない力を信じベルは戦う。目の前にいる敵に勝つ為ならば、ベルは使えるものはなんでも使うスタンスでいるから。
「はァッ!」
鎖が自分の真上を通過し、すぐにベルは駆け出す。そして砂煙を抜け、左に振りかざしたままでいるシルバーバックの右腕の肘を斬り裂く。
『グゥオッッ!?』
ベルは止まらず、シルバーバックの足元に滑り込み左足の膝裏を斬る。足を斬られ、体勢を維持できなくなった為か、シルバーバックの左足が地面に膝を着く。
『ガァ!』
シルバーバックはベルの姿を確認するために後ろを向くが、そこにはもうベルの姿はなく、直後に右足からの激痛。ベルはシルバーバックの足の関節を斬った。
遂にシルバーバックは自らを支える足の力を失い、両膝を地につけた。そして前を向けば、剣先を自分の胸に向けて無防備となった魔石を砕く行動に移ろうとするベルに姿がある。
『やれぇぇえ兎ぃー!』
『ぶっ刺せーッ!』
『お願い勝って!』
誰もが勝ちを願い、または勝ちを確信した。
シルバーバックにも雄としてのプライドがある。とある今まで見た事がない美しい存在から言い渡された使命。
『小さな
『そしてそれを守ろうとする小さな
黒髪の女神を見つけた時、その近くには自分の姿に恐れを抱き、震える矮小な雑魚がいた。敵ですらなかった。そいつからの攻撃は自分の毛鎧を通すことはなく、ただ蹂躙する対象でしかなかった。そのはずなのに。再び目の前現れたこいつは、雄の顔になっていた。ならば倒さねばならない敵だ。それに自分は己の運命を察している。目の前の雄を倒してもあの奥にいる金髪の雌に自分は何も出来ず殺されるだろう。そうだとしてもあいつに、ベルに勝ちたいとシルバーバックは思った。それがモンスターである自分に名乗り決闘を申し込んできたあいつへの礼儀でもあるから。
『ガアアアアアアアアアアアアアッ!!』
そしてシルバーバックは、周りの声援をかき消すように咆哮を放つ。今度のは威嚇ではなく攻撃。周りにいるものの鼓膜を震わせ一時的に行動不能にするもの。したがってギャラリーにいる一般人は耳を塞ぎ、シルバーバックの存在に恐れをなした。だけどこの場にいるにも関わらず耳を塞がずにこの戦いを見守るものが4人いた。『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン、女神ロキ、トネリコ、そしてようやくここまで追いついてきた女神ヘスティア。
「勝って!ベルッ!」
「行っけぇええ!ベルくん!」
「ぁあああああああああああああああッ!!」
ベルは止まらなかった。1番シルバーバックの近くにいたのでかなりの効果があるはずなのに、ベルはただ気合いのみで足を動かした。それに自分の大切な人達の声が聞こえるから。咆哮のせいで聞こえないはずの声援を糧に負けじと腹から声を張り上げて、剣をシルバーバックの胸に...魔石に向けて突き刺す。
『ガァッッ!!』
魔石が真っ二つに割れる。シルバーバックは力なくうなだれ、手が地に着く。やがて体がぼろぼろと崩れ始める。魔石が砕かれその体は灰へと変わっていく。そして完全にモンスターの姿を消えるのを見届けたベルは、剣を天に掲げる。
「うぉおおおおぉぉぉぉッッ!!」
『────────ッッ!!』
ベルは勝利を叫ぶ。人々は歓声をあげる。そしてその光景をとある家の屋上。ベルがいる場所を一望できる高い所。ふたつの人影が見下ろしていた。
「おめでとうベル。まだ不恰好だったけれど...ええ、格好良かったわ」
そうつぶやく彼女の顔は、誰もが見惚れる程美しいものだ。『美の女神』フレイヤ。今回のシルバーバックによるベル達への襲撃を企てた存在。だが理由はちょっとちょかいを出したかっただけ、そしてベルがさらに強くなるようにと彼女は試練を与えた。これが神なのだ。
「でも、1つだけ...たった1つだけ、あの子の輝きを邪魔している淀みがある。まるで枷のようにあの子を縛っているわ」
「......枷...ですか」
「ええ、貴方にはそれがわかったりするのかしら?」
「ねぇオッタル?」とフレイヤは振り返り意見を求めた。
同じ男の子なんだからわからない?、とでも言うように尋ねた。巌のような獣人でありこの都市最強の男『猛者』オッタルはしばし考え、フレイヤの問いに答えた。
「因縁かと思います」
「因縁?」
「はい...フレイヤ様がお話してくださった、そのベルという者と『ミノタウロス』との因縁......払拭できない程の過去の汚点が、本人の知らない場所で突き刺さる棘となり、苛んでいるのかもしれません」
オッタルにベルとミノタウロスの話を聞かせたことがある。フレイヤ自身、直接その話をベルの口から聞いたわけでもなく、あくまでそれらしい話が耳に入っただけだ。
「つまり、トラウマね......本当に
「......滅相もありません」
「もう少し乗ってくれると、退屈しないで済んだのだけど......」
礼儀を示す態度を崩さないオッタルに「まぁいいわ」と微笑し、再び彼を見る。
「それなら、あの子に取りついている棘を取るには、どうしたらいいのかしら?」
挑戦的に見える笑みを向け、フレイヤはオッタルに問う。
「因縁と決別するというのなら、己の手で打ち破る以外に、方法はないでしょう」
そしてオッタルもまた、フレイヤの問いを真正面から受け止め答える。
「ふふふ...ええ...そうね。そうやって貴方たちは今も尚強くなり続けている。きっとこのまま待てばあの子は、ミノタウロスを倒しその因縁を乗り越えるわ」
でも、と言葉を1度区切り再び口を開く。
「それでいいのかって思うのよ。ただあの子が強くなるのを待つだけなんて退屈でつまらない。私はもっとあの子の輝きが見たいわ。ねぇオッタル貴方はどう思う?このまま時間が過ぎるのを待った方がいいと思うかしら?」
「...いずれは因縁を乗り越えることは出来ると思います。ですが」
「......」
「冒険をしない者が殻を破れぬのも、また真理でしょう」
言い切った。
己の持論を。
いくども己の命を賭し現在の自分を築き上げた武人は、冒険しない者は高みへ至れないと、はっきりと言い切った。
それはフレイヤでさえ見通すことのできない少年の『未知』を引き出す可能性も示唆している。神では見通せず、同じ男である自分が見込んだ、少年の可能性。
「ふぅん...ならお願いがあるのオッタル」
少しぶっきらぼうにそしてちょっと拗ねたように彼女は従者へと命令を言い放つ。
「ダンジョンに行ってあの子にぶつける壁を用意しなさい。どれだけ高くしても構わないわ」
「...よろしいので?」
「ええ...あの子のことを私より貴方の方が今はわかってるみたいだし...貴方に任せるわ」
「それに...あの子...自分より格上相手と戦ってる時が...いいえ、あの大切な存在のために戦っている時が1番輝いてるんだもの」
ベルが知らないところで新たな災難が恋する神によって準備されつつあるのだった。
原作より早い段階で準備されるヒロイン...どれだけ強くなるのか楽しみですね