シリウスシンボリが、しがらみを捨て海外遠征に行くことを決意する話。

※史実を参考に書いた妄想小説です。

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決別

 

「・・・いい加減にしろシリウス!!自分が何をやってるのかわかっているのか!!」

 

 

室内に、怒鳴り声が響く。その日、トレセン学園の理事長室は1組のトレーナーとウマ娘によって重苦しい空気に包まれていた。

 

 

「・・・わかってなきゃ、こんなところにはいねぇだろ?元はといえば、アンタが原因なんだしな?」

 

「何だと・・・?」

 

 

その当事者であるウマ娘・・・シリウスシンボリは、目の前のトレーナーを真っすぐに見据えて言った。

 

 

「あ、あの・・・今日は理事長も不在ですし、また日を改めておいでになってはいかがでしょうか・・・?」

 

その場に居合わせた事務員が、恐る恐る口を開く。彼らの突然の訪問に、相当困惑している様子が見て取れた。

 

 

「チッ・・・申し訳ありません。すぐに連れて帰りますので。」

 

 

苦々しい表情を浮かべるトレーナー。しかし、そんな周囲の空気などお構いなしといった様子でシリウスは続けた。

 

 

「私は何が何でも海外に行く。アンタが許してくれないから、こうして直接学園に直談判しにきたまでだ。」

 

「・・・勘違いするな。もう一度言うが、今回の遠征はシンボリルドルフの為に計画されたものだ。お前はあくまで、先方のご厚意で帯同者の一人として選ばれたに過ぎん。本命のルドルフが行けなくなった以上、計画が白紙になるのは当然のことだ。」

 

「そっちの事情なんざ知らないね。奴が居ようが居まいが、私の意思に変わりはない。」

 

「ダービーを勝ったぐらいで何を自惚れてるのか知らんが、世界は甘くないんだ。大口をたたくなら、せめてルドルフ並みの実績を残してからにしろ!」

 

「実績なら、これから嫌というほど見せつけてやるさ・・・ともかく認めないってんなら、私はたった一人ででも行く。辞めろと言うなら、学園を退学してもいいんだぜ?」

 

「ほう・・・」

 

 

その言葉を聞いたトレーナーは、しばしシリウスをじっとにらみつけた後で問いかけた。

 

 

「・・・本気で、言っているんだな?」

 

「ハッ、人の話ちゃんと聞いてたのかよ・・・私は最初から本気だぜ?」

 

 

シリウスもまた、負けじとトレーナーをにらみ返す。

 

 

「・・・そうか。わかった。そこまで言うならもう勝手にしろ。海外でも、どこへでも行けばいい・・・その代わり、今この瞬間でお前との契約は『解除』だ。今後も一切協力はしないからな!!」

 

「・・・ふん、まあそうなると思ったよ。」

 

 

そう言うと、話は終わったとばかりにシリウスはトレーナーに背を向けドアに向かって歩き出す。

 

 

「おい、どこへ行く!まだ話は・・・」

 

「・・・世話になったな、トレーナー。」

 

 

そして、最後にそれだけ呟くと、周りの制止を振り切り理事長室を後にしたのだった。

 

 

「くそっ、誰が今まで面倒見てやったと思ってんだ・・・!」

 

 

 

その日の夜。グラウンドを見渡せる観客席の端で、シリウスは一人佇んでいた。そんな彼女に、とある一人のウマ娘が近付く。

 

 

「よかった・・・ここにいたのか、シリウス。」

 

「・・・怪我人は大人しく寝とけ。」

 

 

「具合は大分よくなってきたから心配ないよ。それに・・・・どうしても話をしたかった相手がいたものでね。」

 

 

そのウマ娘・・・シンボリルドルフは、そう言ってシリウスの横に立った。

 

 

「話は聞いた・・・まず、君には謝らなければならないね。まず私がこの時期に怪我さえしなければ、こんな事態にはならなかった・・・本当に申し訳ないと思っている。」

 

「・・・ったく、アンタもうちのトレーナーと同じで何もわかっちゃいねえな。私が海外に行くのは確定事項だ。アンタらの都合に振り回されるようなことじゃねえ。」

 

「・・・そうか。」

 

 

彼女の相当な決意を前に、ルドルフはしばし掛ける言葉を失った。シリウスは続ける。

 

 

「最初は、此処で頂点を目指すのも悪くないと思ったさ。結果を残せば、周りに振り回されてばかりだったそれまでの日々から解放されるだろうと思ったからな。」

 

「ならば、何故・・・」

 

「・・・だが、どうやら考えが甘かったらしい。結局この学園も、他所の学校と何ら変わらねぇ。大人たちがつまんねえルールで生徒を縛り付け、振り回す・・・挙句に勝手な都合でチームを移籍させておいて、手続きの不備でレース出走機会まで奪っちまうんだからよ。」

 

「・・・皐月賞の件は、本当に申し訳なかった。以後こんなことが起きないようにする。」

 

「・・・今更遅せえよ。」

 

 

そう言うと、シリウスは黙ってグラウンドを見つめた。その視線の先には、黙々と自主練習に励む何人かのウマ娘の姿があった。なかなか選抜レースで結果が出せず、未だトレーナーもついていない生徒達だ。

 

 

「アンタも知ってんだろ?・・・アイツら、色んな事情でこんな時間にしか自主練できないんだぜ?おまけに日中は、トレーナーのついてる奴らや強豪チームの奴らが幅を利かせてグラウンドを独占しちまうからな。恵まれた奴らと比べて、どんどん差が開いていく一方って訳だ。」

 

「・・・ああ、わかっている。生徒会としても、解決しなければいけない問題だ。この学園にいる以上、チャンスは等しく与えられなければならない。」

 

「・・・私はアイツらに道を作る。」

 

「道?」

 

 

シリウスは、ルドルフの方を向き直り言った。

 

 

「この学園に入ることが全てじゃない。他の道を進んでも、レースの世界で頂点を取ることはできる・・・私はこれから、結果でアイツらにそれを示して見せる。」

 

「・・・!」

 

「だからよ、“皇帝”サマ・・・」

 

 

言うなり、シリウスはルドルフの目前にぐっと顔を近づけた。

 

 

「いずれ帰ってきた時には、私と勝負してもらおうか?」

 

「・・・何?」

 

「そこで私はアンタを完膚なきまでに叩きのめす・・・そうなりゃ、おそらく世間様の見方も大きく変わるだろうなぁ。」

 

「・・・ほう。」

 

 

瞬間、空気が変わった。ルドルフの表情が、一気に険しくなる。

 

 

「・・・言うようになったじゃないか、シリウス。」

 

「さあどうする?別に怖いなら断ったっていいんだぜ?」

 

「面白い。ならば、こちらも楽しみにしておくよ。私もこれから君が帰ってくるまでの間は、無敗を守り続ける。そして・・・トレセン学園を今よりもっとより良い場所にしておくことを約束しよう。」

 

「・・・その言葉、忘れるなよ?」

 

「君の方こそ。」

 

 

しばし流れる沈黙。やがてシリウスは不敵に笑い、ルドルフから離れた。

 

 

「ハッ、こりゃ俄然やる気が出てきたなぁ!ま、せいぜい頑張ってくれよ“皇帝“サマ・・・」

 

 

そう言って歩き去るシリウスを、ルドルフは黙ったまま見送った。

 

 

(・・・必ず戻ってこい。シリウス。)

 

 

二人の結末がどんな物になるのか。それはまだ、誰にもわからない。

 


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