シン・ウルトラマン対シン・ゴジラ 作:イマジンカイザー(かり)
前回掲載分に一部加筆を施しました。そちらで描いたものを前提に話を進めるので、
出来れば一度前回を見返していただければ幸いです。
あ、それはそれとして、次回が実質最終回です。
※ ※ ※
「神永さん……無茶苦茶だよ……」
滝はかのサーモグラフではなく、カメラの側を見て思わずそう呟く。『彼』は無傷だ。放射性物質の拡散もない。
だが、その姿は今までとは大きく異なっている。ガス欠間近を示す緑のラインはオレンジ色に変貌し、元々銀だった体表の各所に水疱瘡めいた緑が差し込まれている。
「こんなのは付け焼き刃だ」滝は極めて深刻そうな口調で続ける。
「あの姿がたとえパワーアップだとして、あんなものが長く続く筈が無い。いわば元気の前借りですよ。揺り返しが来たとき何が起こるか!」
彼は、解っていてこれをやったのだろうか? きっと承知の上なのだろう。事実あの瞬間、出来たことといえばそれくらいだ。選択肢なんて他になかった。
「僕たちは、また、全部任せなきゃいけないのか……?」
彼があれだけ身体を張っているのに。自分は外野であまりに無力。滝は諦念から肩を落とし、目を伏せた。
※ ※ ※
(これなら……やれる!)
ウルトラマンは右拳を固く握り締め、ギドラ目掛けて駆け出した。肥大化した筋肉による重さはない。むしろ先程までより足取りが軽い。全身に拡散した緑色の水玉が、動くごとに体内を跳ね回ることを除けば何の問題もない。
(堕、ち、ろぉおおお)
ギドラの斜め下に達したところでウルトラマンは跳んだ。地表を支えるアスファルトが亀裂を走らせ陥没し、跳躍による風圧で周囲の窓ガラスが割れんばかりに叫び倒す。
『GI……GHA……!?』
急ぎ三つ首からの光波で対応するギドラだが、向こうはそれさえ物ともせず、振り下ろした拳の一撃を背に喰らい、左に大きくバランスを崩す。
飛行状態を保てず、横倒しになって墜落するギドラ。ウルトラマンは着地と同時に軽く仰け反り、戻って来る反動を用いた回し蹴りを奴の腹に叩き込む。数十万トンはあらんかというギドラの巨体が、横倒しのままもんどりを打って撥ね飛ばされた。
体格差そのものは先程と何ら変わらない。大人と子どもほど、しかも向こうは踏ん張りの効いた四つ足だ。なれどこのウルトラマンは、その筋力だけで力量差を覆したのだ。
『GI……GRURORRRRRR!!』
いい気になるなよとばかりに首をもたげ、ギドラは三つ首全てを一点に集束させ、強力な光波を解き放つ。不意を突いての必殺の一撃を、ウルトラマンは躱すことなく逞しい胸筋で受け止めた。
(今更。こんなものが、効いてたまるか)
大気圏外まで容易に引っ張り上げるかの攻撃を受けてなお、ウルトラマンは小揺るぎもしない。代わりに、胸筋に弾かれ拡散した光波『だったもの』が、周囲の瓦礫や車を無秩序に浮かび上がらせている。
(もっとだ……もっと力を)
ウルトラマンは光波を物ともせず接近し、右腕を振り上げる。そこにはスペシウムエネルギーで産み出した鋭利な光輪が浮き上がっていた。放つために生じさせたのではない。手首のもとで固定し、回転させたまま留まらせている。
(もっとだ……まだ足りない、もっと!)
神永の意思に呼応するように、光輪の隣に同じ光輪が生じ、一つ目とは逆回転をしながら手首に固定。そこからさらにひとつ。計三つ。それぞれ互い違いに回るさまは、さなざらスケールの大きな芝刈り機だ。
(喰、ら、え!)
まさかりで薪を割るように。バットを振り抜くように。整ったフォームと滑らかな体重移動を伴って、振り上げた右腕を振り下ろす。狙うは奴の右端の首。光輪を伴った必殺のチョップは、風切る勢いと同時三回転する鋸との相乗効果に乗って、首の真中から真っ二つに引き裂かれた。
『GU……GIGAGGGG……!?!?』
文字通り首が飛び、金粉めいた血液が街の周囲に飛散する。ギドラとしても予想の範疇を越えていたのか、残る二本の首から金切り音めいた悲壮な雄叫びを上げている。
(凄まじいな……これは……)
『元気の前借り』とはまさしく言い得て妙である。単独では打つ手の無かった展開からの大逆転。これ程までの力を行使した先には一体、何が待ち構えているのだろうか――。
だが、今はそんなことを考えている暇はない。背にひりつく殺気を感じ、ウルトラマンは咄嗟に右に側転を打った。
(なん……だと……?!)
躱した彼の目に信じがたい光景が映る。今の今までそこに居たはずのゴジラの姿が無い。否、『いなくなった』のではない。どういうわけだと首を上向けたその先で、奴が百メートル近くの高さで宙に
(こんなことが……あり得るのか……?)
浮いているという言葉も適切ではない。長い尻尾を地表に叩き付け、その反動でその巨体を持ち上げている。
だとすれば、狙いはどこに? 分かりきっている。『敵』は今ここにしかいない。二つが同じ場所にいて、的がこれだけ大きければ、ターゲットはひとつだけだ。
数十万トン近いゴジラの巨体が、重力に従い落ちてくる。邪魔な障害物を飛び越え、ギドラ目掛けて一直線。首を切断されてよろけるギドラに、この質量攻撃を躱すだけの余裕はない。
『GIROARRRRR!?!?』
接地の瞬間、六本木周辺をマグニチュード九相当の地震が十秒間巻き起こった。周辺半径五百メートルのアスファルトが醜くえぐれ、そびえ立つ高層ビルの殆どは左右斜め三十度ほどに折れ曲がる。
"落下"したゴジラの足は左端の首の根本に直撃。石膏をハンマーで割ったかのような音を響かせ、ヒトでいう頸椎を一撃で砕いた。
『g……guo……ou……oo』
右の首は切断、左の首は折られてだらしなく垂れ下がり、あの悍ましくも美しい姿は見る影もない。ウルトラマンの『覚醒』からわずか一分弱。最早、ギドラに勝ち目はない。
(まずい……)
ゴジラの体表を走るラインが赤から紫に変わった。口内に強大なエネルギーが迸っている。ここで勝負をつける気か。だが、都心のド真ん中でそれを許せば、この国は二度と立ち直れなくなってしまう。
(僕がやらなければ)
ウルトラマンは空中バック転でギドラを飛び越え背後に回った。力なく横たわる二股の尻尾を両腕で掴み、脚と背筋にあらん限りの力を込める。
全身に飛び散る緑色が両脚に集中し、彼の背中に縄のような筋肉が浮かび上がる。力を、もっと、力を。神永は念じるようにそう唱え、ギドラの巨体を持ち上げた。
後は野となれ山となれ。持ち上げた巨体を振らし、一回転、二回転、三回転。ここに遠心力が乗った。勢いがつき、加速が加わり、あのギドラが砲丸投げの金槌めいて六本木の街を駆け回る。
その最中、背後のゴジラをちらと見る。計算通り、奴は狙いを定められず右・左と首を振っている。
(い、ま、だっ!!!!)
回転が頂点に達した瞬間、それまでの遠心力を借り、その超常ともいえる膂力でギドラの身体を解き放つ。彼の身体はマッハの速度で空を翔け、地球の重力圏から離脱してゆく。
『GUAAAAAA……!』
ゴジラの内包するエネルギーが極限に達した。対象は海上。空には今、誰もいない。
ウルトラマンは左腕を目の前で縦に、右腕をぴんと伸ばし、それぞれの手首にスペシウムエネルギーを集束させる。先程までとは比べ物にならない量なのか、身体を走るオレンジのラインが夜空を染める程に発光している。
(奴の放射線流と、光波熱線……試してみるか!)
かつて、滝明久は一つの懸念を示していた。放射線を体内に内包するガボラに、ウルトラマンがスペシウム133を撃ち込んだら、一体どんな反応が起こってしまうのか。
ギドラはこれまでとはけた違いの禍威獣だ。イチとイチをそのまま放っても、完全に消し去れるかどうかわからない。この姿でいられる時間はもう長くない。今ここで確実に仕留めるために、それぞれを重ねて二以上にしてみせる!
(喰らえ!)
『GUAAAAAAAAAAAAAA』
紫色の熱線と、青色のスペシウム133光波熱線が全く同じタイミングで放たれた。狙いは同じ空中のギドラ。光波と熱線は雲の上で一所に重なり、紫と青が混ざり合い、それらはマグマが如き深紅に染まった。
『GI……?!?! GAAAAAAAAAAA』
ギドラの身体が地球の重力圏を抜けた瞬間、赤色熱線が奴の身体を貫いた。地球の核エネルギーとスペシウム133が交わった正しく激ヤバ光線。ギドラの身体の細胞一つ一つにまで滲み渡り、その身体を粉々に打ち砕いた。
まるで夕方に時間が戻ったようだった。爆散とその余波は関東上空から雲という雲を遠くへ追いやり、日本の空を真っ赤に染めた。
※ ※ ※
「あは、はは……は……神永さん、やった、やり抜いた……」
「激ヤバ光線消失を確認。空中、地上、大気圏。どこにも危険物質の拡散は認められません」
禍威獣・ギドラの爆散は、浦安ネズミーランドに陣を敷く禍特対の面々も当然目撃していた。
結果的に、ではあるが。かの激ヤバ光線が地上の自分たちに与えた被害は現状ゼロ。地球外に放り投げたのも効いただろうが、ウルトラマンは最適解を取って倒したことになる。
「待って。けど、まだ終わりじゃない」
「ああそうだ。本丸がまだ残ってる」
これで丸く収まれば良かったが、現実はそう甘くはない。力の限り光波熱線を放ち、肩で息をするウルトラマンのすぐ隣に、紫に発光する恐るべき巨大禍威獣が立っている。
『GUORRRRRRRRRRRRRR』
奴にとっては、斃すべき敵が一体減っただけ。ギドラが消えたところで、ゴジラに止まる意志など無い。
戦いはまだ終わらない。疲弊しきり、限界近いこの状況で、第二ラウンドがはじまる。
次回、『たった一つの冴えたやり方』
ご期待ください。