大学生、上杉風太郎。インフルエンサーでホストやってます 作:れろれーろ
一花と再会を果たした会合は夜通し続き、明け方にようやくお開きとなった。
食器やらグラスを片付け、満杯に詰まったゴミ袋を縛る。クラブを出てゴミ捨て場に向かう為に、早朝の歌舞伎町を歩き出した所で、ふと声を掛けられた。
「上杉君。ちょっといいかな?」
あ。と思わず声が出た。
途中から姿を消したので、一足先に帰宅したものだと思っていたアロハの髭男がそこにいた。
昨夜は照明が暗くしばらくの間は気付かなかったのだが、一花と一緒に来ていたこのアロハシャツの髭男は、一花の所属事務所の社長であり、俺とも面識があった。たしか妻と離婚した後、娘の菊を男手一つで育てている苦労人という設定を背負っていた筈だ。
彼は窓ガラスにスモークを入れた黒塗りの車から降りてきて、妙に芝居がかった調子でサングラスを外してウインクを送ってきた。こういう所は変わってねぇな…。
「昨夜はありがとう。一花ちゃんはまだ寝ているかな?」
「まだ熟睡してますね…すみません。調子に乗って飲ませすぎちゃって…。起こしに行きましょうか?」
「いや、いいんだ。どのみち今日はオフだ。お店の迷惑じゃなければ、気の済むまで寝かしておいてやって欲しい。ここだけの話、彼女は最近仕事のストレスなのか、殆ど眠れていないみたいでね。本当に久し振りなんだ。こんなに深く眠っている一花ちゃんは」
「は、はぁ。店が開くのは夜なので、全然構わないですが…その、逆に良いんですか?」
「良いのさ。彼女にも息抜きは必要だ。起きたら私に連絡する様にメールも入れておいた。…それより上杉君とは昨日はまともに話せなかったしね、どうだい?そこで一杯コーヒーでも」
クイっと何故か小指を喫茶店の方に向けて、俺に微笑みかける社長。外で待ち構えていた辺り、なにか俺に話でもあるのだろうか。
「…勿論、お付き合いします」
俺はゴミを捨て、社長と共に喫茶店に入った。社長は開店直後のまばらな客層をキョロキョロと見回すと、回りに人のいない隅の席に着く。
「やっぱり芸能事務所の社長ともなると、周囲の警戒しちゃいますか?」
「あはは。やっぱり分かる?最近色々と物騒な事があってね。少し過敏になってしまうのさ」
そう言って困った様に笑う社長。
その笑顔は、前に会った時より幾分雰囲気が柔らかくなり、そして少し老け込んだ印象を受けた。
「あーなんか…大変そうですね。芸能界って」
「ふふふ。君も人の事言えないだろう?クイーンから聞いたよ。君もSNSではちょっとした有名人になっているみたいじゃないか。それでクイーンにスカウトされたんだろう?」
「まぁ…そうですね。なんかフォロワー数多くてクイーンの目に止まった奴に片っ端からスカウトDMを送る事務所みたいなのがあって、何の偶然か俺みたいなのにも声が掛かりましてね」
「うんうん。クイーンの眼力はたしかだね。なにせ君には僕も以前から目を着けていた位だからね」
「あぁ。ウチのプロダクションに入る決心はついた?とか、あれ、マジで言っていたんですか?」
「大マジさ。今からでもどうだい?いや、むしろ今の方がずっと魅力的だね。以前より深みが増して脂が乗ってるよ君は」
「人の事をそんなマグロか鮭みたいな表現しないでくださいよ」
ハハッ。と軽く笑い合いコーヒーを飲む。
久し振りに話したが、やはりなかなか話しやすいオッサンだ。
「いやー少し調べさせてもらったけど、面白い活動しているね上杉くんは。最近じゃ、地上波の番組から熱いラブコールを送られてるって聞いてるよ?」
「昔の知り合いがTV局内部にいて、そいつの権限で、体よく安い人材を使いたいってだけの話ですよ」
「いやいや、自分を軽く見てはいけない。頭が良いってだけじゃ出演してくれなんて話までは、なかなか行かないよ?華があるんだよ上杉君には。全くの無名から成り上がった覇気もある」
「褒めすぎですよ。本当に運が良かっただけなんですから。俺一人で始めた事でもありません」
「ん?協力者がいるのかい?」
「協力者というか———
——そう。切っ掛けは妹の撮った一本の動画であった。
家事上手の気配り上手。我が家の貧乏生活の家計を管理する気苦労を掛抱えているにも関わらず、腐らず明るく前向きな笑顔を失わない心の美しさを誇る我が妹、らいはであるが残念な事にあまり勉強ができる方ではなかった。
数学や理科などの術理があるものならともかく、英語や社会などの暗記力を問われる科目は、どうにも苦手だったのだ。
「お兄ちゃんはどうやって覚えたの?」
と言われて俺はそれぞれ名前を付けた自分の両手両指に担当分けさせて、そいつに覚えてもらうという俺の暗記秘奥義を懇切丁寧に教えたのだが、「お兄ちゃん、気持ち悪い」とのお言葉を頂き撃沈した。
だからと言って諦める訳にもいかず。
かと言って「ひたすらノートに書いて覚える」等という前時代的な教え方をしたくない。
———だから俺は歌ったのだ。ラップを。
渾身の熱唱であった。Youtubeで無料で学んだ韻踏みの概念と、小学生の心を鷲掴みにするプリキュアのバックビートに英単語とイカした和訳ジョークをリリックに乗せて妹の前で俺は三つ指を立てて踊った。
歌い始めこそ絶対零度の冷たい視線を送ってきたが——結果はバカウケだった。
「こんなお兄ちゃん一生忘れられる訳ないよ!」と汗だくで歌い切った俺に笑いかけながら涙を浮かべていた。
録画したいからとお代わりまで要求され俺は再び熱唱。翌日、万全の状態でテストに向かう妹を俺は送り出した。
テストの結果がどうあれ、いつもニコニコで帰宅する妹に珍しく、その日はなんとも浮かない表情で帰宅した。
「お兄ちゃん、どうしよう。ごめんね」
震えて消え入りそうな、らいはの声。
申し訳なさそうに俯いた顔を見て、俺は作戦の失敗を悟った。
なんだ…やはりあのラップ英語は役に立たなかったのか。心までラッパーになる為に金髪のウィッグを被りジーンズに穴まであけた馬鹿な兄の努力の甲斐なく、良い結果を出せなかった事を悔いているのだろう。なんて優しい子なんだ。らいは、違うんだ。俺が浅はかだったんだ。やはり別の暗記法を——
「お兄ちゃんの動画ね、バズっちゃったの…」
——————ん?バズ…?なんだそれは…
ピコン。ピコン。ピコン。
らいはのスマホの通知が鳴り止まない。
左手に握られたらいはのスマホの画面には、さっきからハートマークが乱れ飛んでいて、画面上部のバナーもひっきりなしに更新されていた。
たんじろう さんが、いいね!しました。
ナツカ さんが、いいね!しました。
黒のキリト さんが、いいね!しました。
アケルン さんが…
———
「…ってな感じで、気付いたら収益化の申請を妹がしていて、金になるならもうちょっとやってみるかって、なって…」
「アハハハっ!!そうかそうか!そんなスターのなり方もあるんだ!時代だねぇ。今時の波に乗りに乗ってしまった訳だ!」
社長は何が面白いのか、腹を抱えて笑っていた。たしかに妹の失敗から始まるバズり街道というのは新しい形態なのかもしれないが。
「よっぽど面白い動画だったんだろうね。僕も検索して見させてもらおう」
「恥ずかしいんでやめてください」
社長は喉の奥でくつくつと笑いスマホを操作し俺の動画を閲覧しだすのを俺は微妙にむずかゆい気分で黙ってコーヒーをすすっていると「ふふっ。良い動画だね。なるほど。一花ちゃんが気にいる訳だな」と呟いたので、思わず咽せ掛けた。急に何言いだすんたこのオッサンは。
「そういえば…一花ちゃんからは…聞いたかい?」
「何をですか?あ。あぁ次の映画で純粋無垢な田舎娘が上京してキャバ嬢する役をもらったって話ですかね。昨夜はクイーンに接客のイロハを教えてもらうつもりだったとか…」
「その話はそうなんだけど、いや、そうだね…僕の方から話そうか。そして、話を聞き終わったら、良かったら一花ちゃんの友人として、彼女の味方となって…心のケアをしてあげてほしい」
「心の…ケア…?」
真剣な表情から発せられた、ただならない単語に思わず息を飲む。なんだ。なんの話をする気なんだ。このオッサンは。
社長は辺りをもう一度チラリと見ると、椅子を浅く座り直し、身体をこちらに寄せた。耳を寄せろという合図だった。
「…来月、彼女は週刊誌に特集が組まれる。それは…悪意と偶然によって撮られたある一枚の写真を根拠にして…だ———
——————
目を覚ましたそこは見覚えの無い場所だった。仄暗い照明はピンク色の怪しい色合いをしていて、換気扇の回る小さなノイズ音が聞こえてくるほど、ガランと人気の無い一室。
「あたた。頭いったぁ…」
何故こんな場所で私は眠りこけていたのか。昨夜の記憶を掘り起こそうとしたタイミングで、お酒を飲み過ぎた次の日特有のツヨツヨ頭痛さんが、開幕ダッシュで私をお迎えに上がっていた。なるほど、これはダメだ。
ひどく喉も渇いていて、掛けられた毛布をとり、赤い絨毯の上に素足を乗せて、机に手を掛けた。そこで私は気づいた。一目で分かる、懐かしい文字。
「起きたら、これ飲め」
ミネラルウォーターの入ったペットボトルの下に差し込まれた、一枚の簡素な書き置き。色気も何もあった物じゃない、ぶっきらぼうな優しさ。
「ここは、起きたら微笑みながら側にいるってシチュエーションであるべきじゃない?女の子一人置いて、どこ行っちゃったのさ。まったく」
そんな事を呟きながら、ありがたく一気にお水を仰って一息ついた。渇いた身体に染み渡る冷たい感触が身体と頭をほぐしてくれたおかげで、私は昨夜の出来事を苦も無く思い起こす事が出来た。
「フータロー君。変わってなかったな…」
呟いてからふと気づく。
いや、変わったよ。すっごい変わってたよ。
あんな子慣れた手つきでシェイカーを振ったり、こっちの欲しい言葉を直球で投げてくれる男じゃなかったよ!と自分の中の誰かが激しくツッコミを入れてくる。そうだ、フータロー君は変わった筈なんだ。多分変わってなかったのは私への接し方。
「一年ぶりに出会う男女って、もうちょっとこう距離感の変化とかあってもよくない…?」
一年だ。あの五つ子とお父さんとフータロー君で行った卒業旅行から一年。仕事に追われる毎日で気づいたらあっと言う間に一年が経っていたという感じだ。
「それに普通女優の顔を鷲掴みにしたり、頭グリグリ掴んできたりするかなー?」
ムカッとくるぜ。なんて懐かしくもヒドイ言葉も言われたし、クイズ番組で不正解を出しまくって新人女優チームの足を引っ張ってしまった事をネチネチとほじくり返された。「漢字クイズでお前が米俵を自信満々にコメヒョウと叫んだ時は、飯が喉に詰まって死ぬ寸前になったぞ」なんて、そこまで言わなくてもいいよね?
「もう。ほんとデリカシーないよ」
その癖、私の出演した映画はなんだかんだ全部見てるし。振り返る笑顔は良かった。あの男を殴る手に怨念すら感じた。とか、たくさん褒めてもくれた。
でも同じシーン上で傘を持つ手がカットによってコロコロ変わってたりする雑さは気をつけろ。なんてお叱りも受けたりして。一回見ただけで、そんな事気づくかなぁ…いやフータロー君ならあり得るか…。
「最後は…頭撫でてくるし」
お陰でそっから先の記憶がないよ。
寝る寸前に私なんか変な事やっちゃってないかな。フータロー君の手が妙に気持ちよくて、変に甘えてしまった記憶が夢なのか現実なのか分からない。
「近づき過ぎだよね…冷静に考えたら五月には申し訳ない事しちゃったなぁ」
フータロー君は文化祭の夜、五月ちゃんと付き合った。
入試の為に勉強を頑張る二人の目指す大学は両方とも東京にあるし、付き合った後の事を考えるとお似合いのコンビかと思われた。
まさかのダークホースの一着優勝。フータロー君は露骨に追っかけられると冷めるタイプなのか?いやいや、もしかしたら私達の知らない間に2人にドラマがあったのかも。等と議論になった事もある。なんとか顔面を取り繕い、祝福もした。卒業旅行も和やかに楽しく終わらせた。
それでも、心のどこかで私達は、五月の事をずるく感じていた。五月だけは、フータロー君に想いを寄せている素振りはなかったからだ。正直、フータロー君が選んだのが、他の五つ子だったら素直に自分の完敗を感じれたと思うのにと、特に三玖は納得していない様子だった。
「いやそれは二乃も、私もか」
だから、なんとなくスッキリしない気持ちも抱えながら月日を重ね、一年が過ぎていた。
気持ちを凍結させて、仕事に邁進した。新生活の一年目はやる事、慣れるべき事が多い。
他の五つ子も同様だろう。ようやく今の生活に馴染んできて、周りを見る余裕が生まれたのは。
「今なら聞けるかな。フータロー君に」
どうして。五月ちゃんを—————!
——ガチャッ。
「やっぱり、まだ寝てやがんのかコイツ」
鍵を明け、扉を開ける音。近づく足音。瞼の隙間から入る光で、照明を明るくされた事に気づく。
「あれ。水減ってんな。て事は…二度寝かよ。こいつはダラシない時は本当にアレだな…。普通こんな訳分からん部屋でもう一回寝直すか?危機意識どうなってるんだ。鍵かかる部屋とはいえ…」
フータロー君がブツブツと独り言を言いながら、私の近くに腰を下ろす。あぁー。なんで私、また寝たフリなんて…!もう何回目これ?
「…お前。最近眠れてないってな?信じられないぜ、こんなグースカ寝てるのに」
そう言って、私の髪を軽く撫でてくるフータロー君。あ、これ。やっぱり寝たフリしてて正解のやつ…。
「社長から色々聞いたぞ。頑張ってんなお前」
そうだよ。私頑張ってるの。だからもっと撫でて。甘やかして?
「さって、どうすっかな。ほっといて帰る訳にもいかねーしな。まだ喫茶店で仕事してるだろうし、社長やっぱり呼ぶか」
えぇぇ。もうちょっと。もうちょっとぉお。
「んん…」
私はこのまま眠っていた場合に予想される身入りの少なさを察して、緩慢な動作でたった今起きましたよ演技のルーチンを発動した。
「起きたか。寝すぎだぞ一花」
「え?あれ?フータロー君?…夢か」
私は今ここが何処だろうとボケーっと考えている様な寝ぼけ演技を入れつつ、そのまま夢って事にして、フータロー君の膝の上にダイブした。いつかの構図とまったくの逆だ。
「夢じゃねーし、もう一回寝ようとすんな馬鹿。もう昼回るぞ」
「あ、え?フータロー君!?あ…そっか。昨日…」
パシパシと軽く頬を叩かれ、私は飛び起きる。近い距離で、フータロー君と目が合う。
ウィッグを外した黒髪のフータロー君。明るい所でよく見ると、髪型も基本的には変わってないけど、妹ちゃん作品じゃなく明らかに美容院仕様の髪型になっていて、昔より肌艶も良くなっていた。これ、アレだ。今流行りの韓流アイドルっぽいんだ。
「フータロー君。今モテるでしょ?」
「起き抜けに何言ってんだお前は」
呆れられてしまった。たしかに、お昼にいきなりする話題ではなかった。まだ昨日の余韻が残ってしまってるらしい。
「とりあえずスマホ見ろ。社長から連絡来てる筈だ」
「あ、うん。ありがとう」
私はスマホを操作して連絡を見る。
いつも通りの合流方法の指示。パパラッチに気をつけろ。そんな感じ。
「車、回してくれるって」
「だな。俺はお前の後で少し時間差付けて、ここ出ればいいか?」
「えぇー。一緒に帰ろ?」
「待て待て。何処に帰るんだよ何処に。」
「フータロー君のお•う•ち♡」
なーんちゃって。
「…今日は俺も疲れたからやめろ」
「…え?え?今日じゃなかったらいいの?」
え?え?冗談だったのにほんとにいいの?
「お前しばらく東京だろ?家の場所くらい教えるから困った事があれば、暇なら助けてやるよ」
「う…うん…って、暇じゃなくても助けてよ」
「気が向いたらな」
ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべるフータロー君。
「もう、そんな言い方して。こんなぞんざいな扱いされるの久しぶりだよ本当」
「一花。お前、ぞんざいなんていう言い回し分かるのか…?」
「なにそれ!バカにして!」
ハハハっ!と笑いが起こる。
くっそー。笑い方まで邪気が抜けてちょっと爽やかになってるぞ。
「で、でも家まで行っちゃうのは五月ちゃんに悪いかな…?どう、最近元気でやってる?」
つい返答に困って、昨日はあえて避けていた五月ちゃんの名前をつい出してしまった。あぁ私のバカ…聞いたら聞いたでモヤモヤするんだろうなってなんで分かんないのかな…。
「…ん?あぁ。あいつは元気だが、なんでそこで五月の名前が出てくるんだ?」
フータロー君は心底不思議そうな顔でこちらを見てくる。
もうニブチンだな!いくら姉妹でも一人暮らしの家に行ったら変に思われちゃうじゃん!
「え…?だってフータロー君の彼女じゃん、五月ちゃん…。姉妹でも流石にアレかなーなんて…」
「え…お前…聞いてないの…?」
なにを?なんでそんな顔してるの、フータロー君。
そんな、なんて説明しようか迷ってる調子で…腕なんか組んだりして…「そっかぁ…うーん。いや言うべきだよな、うん」
悩んでる表情。浮かない表情。気乗りしてない顔で上を仰ぐフータロー君は、急に顔を引き締めて決心した表情を私に向ける。
そこから察される、重大な事実の発表の前振り。
「なにを…言ってるの?フータロー君」
緊張で心臓の鼓動が上がっていく。
不安?期待?焦り?なんなの。
なんで?このタイミングて何を言い出す気なのフータロー君。
そして私は…一体今何を考えているんだろう。
「俺たち別れたぞ。ていうか俺がフラれた。卒業旅行の最後に」
時が止まった。
呼吸が止まり、脳が酸素を求めてグルグルと周り出す。
電流が頭にバチバチと走り、身体は、背中に氷の棒でも差し込まれた様に固くなり、大量の汗が吹き出てくる。
強く殴られた頭に散らばった過去の情景のパズル。
急速にバラバラとなっていたピースが絵柄を変えてまた組み上がっていく。
そう。おかしいんだ。
今までだって、違和感があった。
旅行の帰りの飛行機も今考えたら、不自然な光景がたくさんある。
「あー、五月から話すもんだと思っていたんだがな。俺とあいつ、うまくいかなかったみたいでな。今でも仲は良いんだぜ?2週間に一回はなんだかんだ会って飯食ったり、勉強を見てやってる。俺が見てないとあいつ、単位を落としかねん」
なにそれ。なにそれ。聞いてない。
私聞いてないよ。
私だけ?他のみんなは知っているの?
「やっぱり、初恋がそのまま上手くいくなんて漫画みたいな事、なかなか難しいんだな」
なんでなんでなんで。
その言葉もおかしい。
フータロー君の初恋は四葉の筈。
初恋とかそういうの関係なく、なにかの理由があって五月ちゃんを選んだんじゃなかったの?
なんでここまで食い違う。話が違う。
たしかに、文化祭の最終日。
私達は誰も詳細を知らない。
ただフータロー君は五月に繋がる教室の扉を開けた。ただそれだけしか分からなかった。
二人の間でどんな会話がされたのか。
そんな事は知らなかった。
「私たちは別れます!別れますけど、大学卒業してだーれもお互い良い人がいなかったら婚約しましょう!だ、なんてアイツも変な気を使いやがって」
おかしいよ。なんなのそれ。
中途半端だよ。なんなのそれフータロー君をキープみたいに扱ってるじゃん。
どうしちゃったの五月。
なにがあったの?
これをみんなは知ってるの?
五月ちゃんは隠しているの?
言い出すタイミングが掴めないだけなの?
知らないなら…
もしこの事を誰も知らないなら———
「…へぇ。じゃあ今は誰とも付き合ってないんだ…」
「あぁ。そうなんだよ。正直、女心が本格的に分からなくなってな…勉強のつもりで。この仕事のスカウトを受けたって所もある。今なら俺もまずい所がいっぱいあった事が…。てか、再来月には、あとの二人も東京に引っ越してくるな…。あぁくそっ。俺から言わないとダメかこれ…?ダセェなぁ、まったく…」
——この事を私以外はまだ知らないのなら、もしかしたら今なら———