スーパー戦隊が大好きなので、デカマスターを目指そうと思います 作:ペペック
まずクルーガーの視界に入ったのは、落ち着いた色合いの青い光だった。
そこは先ほどの気味の悪い橋とうって変わり、荘厳な空気を放つ美しい水色の鉱石を切り出した古代の神殿のような場所だ。扉の内部へ一歩足を踏み入れれば、バタンとクルーガーの背後で扉が閉じてしまう。おそらくここがダンジョンの最奥なのだろうが、等間隔に設置された太く大きな柱が天井を支えている景色に、クルーガーはふと既知感を抱く。
「ん? なんかこの場所、どこかで見たことあるような……」
どこだっただろうかと記憶を紐解いてみれば、すぐ答えは出た。
「………あ、そうだ! ここって例の地下水路に似ているんだ!」
特撮ファンならば知らぬ者はない、特撮撮影のロケ地として有名な
内心やや感動しつつ、もう少し観察しようと柱の一本に近づこうとしたクルーガーだったが、
『何者だ』
突然かけられた、低い男性の声にビクリと身体が跳ねる。
「!」
慌てて片手剣を構えて声のした方を向けば、壁の一部がゴゴゴと地響きを立ててシャッターのように上へ上へと動いていく。その下からポッカリと空いた黒い通路が現れると、カツンカツンと靴の音を鳴らして人影が歩いてくる。クルーガーは柄を握る手に力を込めて警戒するも、神殿の青い光に照らされた影の姿がハッキリすると目を見開いて驚愕した。
「………!?」
それはエジプトの神官のような服装をした、水色の体毛の大型犬の頭部を持った獣人だ。
「ぼ、ボス………!?」
そう、彼が憧れるヒーロー。『ドギー・クルーガー』と瓜二つの。
「なぜ生者がこの地下神殿にいる」
刃物のように鋭い眼差しでクルーガーを睨む犬獣人は、腰に携えた剣に手をかける。
「ここは清らかなる死者達のみがたどり着ける安住の地。生者はお引き取り願おう」
犬獣人の頭上にHPバーが浮かび上がったと同時に、彼の姿が一瞬消えたかと思えばクルーガーの腹部にダメージエフェクトが散った。
「がっ!?」
慌てて背後を身やれば剣を振り抜く構えで固まる犬獣人の後ろ姿があり、たった今目にも止まらぬ速さですれ違いざまに攻撃されたのだとクルーガーは理解した。すぐに距離を取ろうとするも犬獣人は素早くクルーガーに向き直り、地面を蹴って追撃が迫るのを見て剣でそれを防ぐ。金属音を響かせてなおも繰り出される連撃を必死に受け流そうとするも、あまりの速さにいくつかは当たってしまう。
(は、速い……!)
自身のHPバーを見れば今の攻撃ですでに七割も削られており、このままでは死んでしまうだろうと確信したクルーガーは、一度剣で犬獣人を吹き飛ばして自身から離す。中空で一回転しながら地面に着地した犬獣人のわずかな隙に、クルーガーはインベントリからポーションを取り出すも再び犬獣人の一閃が襲う。
「うぐっ!!」
披ダメージの大きさからあわや死んだかと思われたが、ここで【頑強】が発動しHPは残り1になった状態で止まる。どうにかポーションの回復が間に合って全回復し、クルーガーは負けじと攻撃を開始する。
しかし犬獣人は卓越した剣技でクルーガーの攻撃を全ていなし、目にも止まらぬ早業でカウンターを繰り出す。
「強いな………さすがボスをモデルにしただけのことはある!!」
ダメージすら与えられず、犬獣人の強さを体感したクルーガーにはある確信が持てた。間違いない、この犬獣人は『ドギー・クルーガー』を元にしたモンスターであると。憧れのヒーローそっくりのNPCと相対している現状に感動しつつも、改めてその強さを計ってみる。
物理特化の効果でVITが100近いクルーガーでもHPを削られてしまうほど一撃一撃が強いSTR、距離を取って様子を伺うのも難しいほど素早いAGI、攻撃しても器用に受け流してダメージを受けつけない剣技。どれを取っても最高としか言い様がないスペックはまさにデカマスターそのものだ。
それでも【頑強】とポーションを用いてギリギリ食い下がっていくと、ここで犬獣人の動きが止まる。
「………驚いたな。俺の剣を受けてここまで長く持ちこたえる生者がいるとは」
一度剣を下ろしクルーガーを見つめる眼は、先ほどまでの侵入者を警戒する眼差しから敵を称賛する色に変わっている。クルーガーは攻撃が止んだタイミングを見計らいHPポーションとMPポーションを砕く。
「ならばこれはどうだ?」
すると犬獣人は剣を頭上に掲げ、ゆっくりと円を描くような動作をしてから刀身が水平になるように横に構えた。
(あの構えは!)
『デカマスター』のファンである彼はその構えを何度も見ていた。
「はあああああああ!!」
脇に構えて滑るように突進し、すれ違いざまに切り裂く。
「ぐあああああ!!」
防ぐために構えていた片手剣が粉々に砕け、満タンだったクルーガーのHPは一気に1にまで減ってしまう。【頑強】がなかったら今の一撃で間違いなく即死だっただろう。
「まだ立っていられるのか………!?」
犬獣人どころかダメージを受けたクルーガー本人も自身がいまだ生きていることに驚いている。しかしインベントリを見ればHPポーションは残り一つ、【頑強】発動のためのMPポーションにいたっては全て使い切ってしまっている。
絶体絶命、勝ち目のない戦い。だがクルーガーの心中は喜びで溢れていた。
初めてのダンジョン攻略は敗北に終わるだろうが、大好きなデカマスター似のモンスターに倒されるならば本望というものだ。いつかこの戦いを姪っ子に自慢しようと思いながら、最後のポーションで回復し予備の片手剣を装備し直してから再び構える。
「見事だ。お前は俺の全力をぶつけるに足る存在だと認めよう」
犬獣人はクルーガーに対し敬意を込めた視線を向けてから、再び剣を頭上に掲げる。その刀身は先ほどよりも光り輝くと、刃のリーチが倍以上に伸びる。
おそらくデカマスターの必殺技『ベガインパルス』をもとにした技が来るのだろうと確信し、もうここは潔く受け入れようとクルーガーが武器を下ろした瞬間だった。
突如、犬獣人の頭上の天井が崩れたのだ。
「「!?」」
ほぼ同じタイミングで頭上を向く二人。次いで先に動いたのはクルーガーだった。
「危ない!!」
地面を蹴って犬獣人に駆け寄り彼を突き飛ばしたクルーガーの頭上に、轟音を響かせて瓦礫が降り注いだ。
「っ………」
身体を圧迫する瓦礫の重さに歯を食い縛りながらも、クルーガーはなんとまだ生きていた。最後の【頑強】が発動したおかげでHPは1を保ったままだったが、瓦礫に挟まって動けそうにない。瞼を開ければ必死の形相で犬獣人が駆け寄る姿が見える。
「おい! 大丈夫か!?」
(……ああ、よかった)
犬獣人が無事なのを見届け、ホッと胸を撫で下ろす。
(NPCとはいえ……大好きなヒーローが傷つくのなんて、見たくないもんな……)
憧れのヒーローを守れたことを誇りながら、大ダメージからくる痛みにクルーガーの意識は遠退いていったのだった。
『スキル【アヌビス】を取得しました』