スーパー戦隊が大好きなので、デカマスターを目指そうと思います 作:ペペック
その後、いつも使っている宿に帰ってきたクルーガーは、ステータス画面を開きながら鏡に写る自分を見る。
「え~と………こんなものか?」
犬獣人と化したクルーガーの毛並みの色は髪や目と同じ扱いで色を変えられるらしく、納得がいくまで色合いや模様の位置を細かく微調整していく。
ようやく満足のいくカラーリングになり、改めて自分の姿をまじまじと眺める。水色と白の毛並みと境目に当たる黒いラインはまごうことなくドギー・クルーガーの配色そのものだ。
「よし、完璧だ!」
色の設定が終わってから、まず先のダンジョンで取得したスキルを確認してみる。
【アヌビス】
アヌビスの剣技を扱うことができる。
種族が人間でなくなり、魔法・MPに関するスキルを取得できなくなる。
取得条件
アヌビスを瓦礫から庇いつつ一度も死亡しない。
「そうか………このスキルの効果で姿が変わったのか」
アヌビスの剣技というと、ダンジョンで繰り出したあの技のことだろうか。つまりデカマスターの技をゲーム内で使えるわけで、クルーガーとしては嬉しい限りだ。魔法系スキルを今後取得できなくなるようだが、もともと【物理特化】と【頑強】の効果でINTとMPは上げられないので実質デメリットはない。
次に装備に付与されているスキルを見てみる。
【
一定範囲の相手に50%の確率で【即死】か【忍耐】のどちらかの状態異常を付与する。
使用可能回数は一日五回。
効果時間は十秒。
【地獄の番犬】
HPが10%を切った際、HP・MP以外の全ステータス数値が二倍になる。
【百人斬り】
攻撃する度にSTR1%上昇。
最大100%。
攻撃を弾かれると上昇値は消える。
「おお、いいなこれ!」
いずれもデカマスターに関連する用語のスキルばかりである。
【
【地獄の番犬】はHPが限界に入ることで発動するらしく、これに【物理特化】を合わせればステータス数値が実質四倍にまで強化されることになる。
そして【百人斬り】は攻撃すればするほどSTRが最大で二倍に上昇、すなわち最終的にクルーガーのSTRは八倍にまで強化できるわけだ。
そしてスキルをあらかた確認し終わったところで、クルーガーはついにアイテム一式を装備した状態で鏡を見てみる。そこには憧れてやまないヒーローの姿が立っており、クルーガーは十秒ほど眺めてからガクンと膝をついて崩れ落ちた。
「………かっこいい……!」
なるべくデカマスターの姿で醜態を晒さないように両手で顔を覆うも、溢れる歓喜は収まってはくれず肩を小刻みに震わせてしまう。
そうしてしばらくその場から動けなかったクルーガーだった。
クルーガーがダンジョンを後にしたのと同じ頃、運営ルームではスタッフの一人『シラトリ』がゲーム内の異常がないかを確認していた。宇宙空間をイメージしたスペースで浮遊しながら作業に没頭していた彼女だったが……
「シラトリいいいいいいいい!!」
「きゃあ!?」
ログインと同時に絶叫する青いアバターのスタッフに、ビクリとシラトリの身体が跳び跳ねてしまい危うく手元のデータを変なふうに弄るところだった。
「ど、どうしたんですか部長? そんなに慌てて………」
「どうもこうもない! お前が作ったダンジョン【冥府の地下神殿】のユニークシリーズを取ったやつが出たんだよお!!」
「……え!?」
『なにいいいいいいい!?』
シラトリは我が耳を疑い、たまたま近くにいた同僚達も青の言葉に驚く。
「ちょっと待て! あのダンジョンの攻略条件て滅茶苦茶難しいはずだろ!?」
「難しすぎてもはや攻略させる気ないだろってレベルのやつだ!」
湿地帯の隠しダンジョン【冥府の地下神殿】は運営の………というよりはシラトリの悪ふざけの産物だ。最奥に到達するまでの道中は大したことはないのだが、ここのボスモンスターであるアヌビスが一層でも屈指の強さを持っているのだ。
まず短剣使いでも追いきれないほどのAGIは、攻撃を躱すのも攻撃を当てるのも距離を取って逃げることさえできない。それでいてSTRも非常に高く、繰り出す攻撃の一つ一つは大盾使いでも一方的に蹂躙されてしまう。運良くそれらを凌げたとしても、時間経過で今度は即死攻撃を放ってくるので絶対に生き残れない。おおよそ一層のダンジョンとしては攻略不可能で、完全な初見殺しボスモンスターであるはずなのだ。
しかしそのボスモンスターが潜む【冥府の地下神殿】のユニークシリーズが取られた、つまりこのダンジョンを初見で攻略したプレイヤーが現れたということになる。運営側が驚愕するのも無理もない事態だ。
「誰が取った!?」
「こいつだ!!」
運営ルームの中空に攻略したとされる瞬間の映像が出た。
「クルーガー!? マジかよ!」
そのプレイヤーは先日『アルミラージの群れ』に単身で挑み、【物理特化】を取得したスタミナ化け物のプレイヤーだ。
「い、いやだってアヌビスの攻撃は食い縛りスキルがないと即死するクソゲー仕様のはずだぞ!?」
「あ、こいつ【頑強】を持っているぞ!?」
「それでかあ……」
どうやらいつの間にか取得していた食い縛りスキルの効果でアヌビスの即死攻撃をギリギリで生き延びていたらしい。
「で、でもアヌビスを倒してもダンジョンは攻略できないはずだ!」
しかし実は
イベント内容はアヌビスの頭上から瓦礫が降ってくるというものだが、ここで何もせずにいればアヌビスはそのまま圧死しプレイヤーの勝利となる。しかしその瓦礫が降ってきた天井から巨大なワニのモンスター『アメミット』が出現するのだ。このアメミットはボスモンスターというよりは破壊不能のダンジョンギミックに近いもので倒すことは出来ず、素早い動きでプレイヤーに襲いかかり、即死判定の丸呑み攻撃で満身創痍のプレイヤーに止めをさす。一応来た道を戻ってダンジョンから出れば生還することは出来るのだが、この方法ではダンジョンを攻略したことにはならないためユニークシリーズを入手できないわけである。
そんなダンジョンのユニークシリーズを入手する方法はただ一つ、『アヌビスを瓦礫から庇うこと』だけだ。しかしこの瓦礫も食い縛りスキルが無いと即死判定されるので、現在掲示板で【冥府の地下神殿】の攻略方法はいまだ記載されていない。ゆえにこのダンジョンは究極の初見殺しとして運営ルームでも名高いのだ。
しかしクルーガーはあろうことか、初見でアヌビスを迷わず庇ってみせた。
「な、なんでこいつ庇ったの………?」
しかも【頑強】の効果でギリギリ死んでいないため、見事【アヌビス】を取得している。これはダンジョンを制作したシラトリも相当ショックを受けただろうと、恐る恐る彼女の顔を見やる同僚達だったが……
「ふ……ふふ……ふふふふ」
「し、シラトリ?」
シラトリは俯いた状態で笑っていた。やや不気味なその姿にヒッと小さく身震いする同僚達は、彼女がショックのあまり壊れてしまったのかと本気で心配するも、当のシラトリの内心は全くの真逆だった。
(思った通り、やっぱり彼こそが『デカマスター』にもっとも相応しいプレイヤーだわ!)
特に身を挺してアヌビスを助けた姿、あれこそ紛れもなく彼女が大好きなヒーローだ。あの勇姿を見れただけでも、このダンジョンを作成した甲斐があったというものである。
「あははははははは!!」
『シラトリいいいいいいいい!?』
シラトリは感激のあまりつい高笑いをし出すも、事情を理解できない一同は恐怖からパニックになるのだった。
ダンジョン作成時
青「なあシラトリ……これいくらなんでも難しいすぎないか?;」
シラトリ「まあまあ、ちょっとした悪ふざけみたいなものですって」
シラトリ(このくらいの試練を乗り越えられないようじゃ、デカマスター装備を入手するなんて許さないもの♪)(^言^)