スーパー戦隊が大好きなので、デカマスターを目指そうと思います 作:ペペック
次の日もクルーガーは『NWO』にログインした。三日連続で続けている時点で、クルーガーはすっかりこのゲームにはまってしまったのだった。
「森の蜂もだいぶ楽に倒せるようになったし、次の狩り場を探すとするか」
すでにレベルは20を超え、レベルアップに必要な経験値も比例して多くなってくる。そろそろより多くの経験値を取れるモンスターが出現するエリアに活動場所を移動させようと思ったのだ。
「ん~、しかしどこへ行くべきか………」
とはいえ『NWO』のフィールドの中で、現在のレベルで生き残れるエリアがどの辺りにあるのか、ゲーム初心者のクルーガーにはわからない。何か情報を知る術がないだろうかと当てもなく町を歩いていると、何人かのプレイヤーが二人以上に固まっている姿がちチラホラと見える。
「じゃあ護衛頼んだぞ! 俺はまだ生産職駆け出しだから、モンスターにすぐやられちまうし」
「おうよ、その代わり分け前はしっかりな」
「かっこいい装備作ってくれよ!」
その内の一組が話し合う声がクルーガーの耳に入り、なんとなくそのプレイヤー達の目的を察した。
「………そうか、生産職の護衛か」
理沙のメモによれば、MMOの職業には装備などの開発を専門とする『生産職』というものがあるらしい。取得したスキルの性能や素材次第では強力な装備を自由に作れる反面、武器スキルと魔法を一切覚えられない・武器攻撃でのダメージが減少と、単独での戦闘が難しいステータスになってしまうため、よほどモノ作りが好きな人種じゃなければ選ばないとのこと。なので生産職は戦士系のプレイヤーを護衛として雇うことで、生産に必要な素材を入手するのだ。
(装備の生産か………デザインとかも自由に出来るんだろうか?)
ふとクルーガーの脳裏を過ったのは『デカマスター』のスーツ姿。黒いインナースーツの上に胸に100のナンバリングが刻まれたスチールブルーの胸当て、犬耳とパトランプがデザインされたヘルメット、そして犬の顔の形をした鍔がデザインされた彼の愛刀『ディー・ソード・ベガ』だ。
「ボス装備………作ってみたいなあ……」
それを装備した自分の姿を想像してつい顔がニヤけてしまうクルーガーだったが、ふとある疑問が過る。
「………生産職が作る装備って、いくらぐらいかかるものなんだ?」
理沙のメモによればプレイヤーメイドの装備はNPCショップで購入できる装備よりも性能が高い分、予算はショップアイテムとは段違いに高いらしい。昨日のモンスターを倒して手に入れたドロップアイテムを売り、だいぶ金が貯まったクルーガーだがNPCショップの装備を買うには心もとない額だ。
「ん~……どうすればより多くの金を貯められるだろうか」
「クロム! 今日は地底湖の魚を釣りに行くわよ!」
「おい待てよイズ! 俺のAGIはそんなに高くないんだから早く走るなー!」
道行くプレイヤー達の話し声をよそに、考えごとをしながら町を歩いていたクルーガーだったが、
「………♪」
ふと彼の耳に、か細くも綺麗な歌声が聞こえてきた。
「……♪………♪」
その歌を聞いてクルーガーは驚く。急に歌声が聞こえたことではない、その歌の
「…♪…♪……♪」
その歌を、クルーガーはよく知っていた。なぜなら彼の好きな『スーパー戦隊シリーズ』に関する歌だったからだ。
「~♪、~~♪」
慌てて周囲を見渡して歌の出所を探してみると、町の中央にある噴水の縁に腰かける、黒髪の男の後ろ姿を見つけた。
「~♪」
おそるおそるその男のそばに近寄ってみると、彼は穏やかな笑みを浮かべて手に持つオレンジ色の布に針を刺し、小さく歌いながら裁縫をしていた。
「~~♪、~~♪」
年の頃は二十代中頃だろうか。少しクセのある黒髪の内、右側の髪を小さく三つ編みにしたヘアスタイルには少し既視感があった。
「~~~♪ ~♪」
彼は裁縫と歌に意識を向けているせいかクルーガーが近くに立っていることにも気付かず、黒い糸でオレンジの布に美しい蠍の刺繍を施している。
「~♪」
「………あの、君」
「うわあああああああああ!?」
刺繍が終わったタイミングを見計らい、ここで声をかけるクルーガー。対する青年はようやく近くにいたクルーガーの存在に気付き、びっくりして思わず大声を上げて飛び上がってしまった。
「あ、その、いきなり声をかけてすまない」
「いいいいいいつからいたんだ!?」
「その………君が今の歌を歌い出したあたりから、だったと思う……」
クルーガーの言葉に青年は身体が硬直し、みるみる顔が真っ赤になっていく。おそらく見ず知らずの他人に上機嫌で歌を歌っているところを見られて恥ずかしいと思っているのだろう。
「あ、いや、違うんだ! 俺、こういう細かい作業に集中すると、つい鼻歌とか口ずさむタイプで!」
必死に弁解しようとする青年に対し、クルーガーは構わずどうしても聞きたいことを質問した。
「その歌、もしかしてスティンガーの『サソリ座の歌』か?」
「………え?」
そう、青年が歌っていたのは『スーパー戦隊シリーズ』が一つ、『宇宙戦隊キュウレンジャー』のキャラクター、スティンガーのキャラソンである『サソリ座の歌』だったのだ。劇中で彼がよく歌っていたのを何度か見ていたため、クルーガーは歌詞もメロディも知っている。
「も、もしかして………キュウレンジャーを知っているのか!?」
クルーガーの口から歌のタイトルが出たことに驚き、青年は噴水から勢いよく立ち上がり、彼の両肩を掴んでずずいと顔を近づけてきた。
「ああ、俺はガオレンジャー以降のスーパー戦隊なら一通り網羅しているからな」
「てことは、アンタもスーパー戦隊ファンか!?」
「もちろんだ」
クルーガーが笑顔で頷けば、青年はキラキラした眼差しで笑顔を浮かべる。やはり彼も自分と同じでスーパー戦隊ファンだったようだ。
「すごい! まさかこのゲームで同じ趣味の人間に出会えるなんて思ってもみなかったよ! 名前はなんて言うんだ!?」
「俺はクルーガーだ」
「クルーガー? ………っ! もしかしてデカレンジャーの!?」
「ああ、『ドギー・クルーガー』の名字からとったんだ」
ちょっと得意げに話せば興奮気味の青年はおおっと感嘆の声を上げる。
「確かデカマスターはキュウレンジャーにも出演していたんだったな」
「ああそうだ。そういえば君の名前は?」
「ニードルだ。察しの通り好きな作品は宇宙戦隊キュウレンジャーで、キャラクターではスティンガーとスコルピオが好きなんだ」
思った通り彼の髪型はスコルピオの人間態を意識したものだったようだ。それからしばらくの間クルーガーは噴水に腰かけ、その青年・ニードルとスーパー戦隊シリーズに関する話題で多いに盛り上がっていった。
「つまりニードルは、スーパー戦隊のスーツを模した装備を作りたくて生産職になったのか」
「正直、スティンガーとスコルピオを意識して槍使いにするか迷ったんだが、どうせなら好きなキャラと同じデザインの装備でプレイしたいと思ってな……」
針仕事は蠍座の戦士の嗜みだし、と小さく付け加えるニードルにクルーガーはつい吹き出してしまう。
しかしニードルはゲーム開始から三日目になっても、なかなかレベルが上がらなくて行き詰まっていたらしい。生産職ゆえに与ダメージが少ないうえにINTもSTRも低めで、一番弱いリンゴウサギを倒すだけでも一苦労なため、いまだ素材が手に入らない。おまけに生産系スキルも低いために装備を作れないから現状レベルアップがしづらいのだ。
「素材集めのために戦士職のプレイヤーに護衛依頼をしようかとも思ったんだが、見ての通りどこも先約が入っているみたいで……」
広場を見渡して見ればいずれのプレイヤー達もすでに生産職と組んでいて、手が空いていそうなパーティーは見当たらない。途方に暮れたニードルはショップで買った生産職練習用の小さな布の切れ端で、手慰みに刺繍の練習をしていたところをクルーガーに見つけられたという。一通り彼の事情に耳を傾けた後、クルーガーはニードルの肩にポンと手を置く。
「だったら、俺が君の護衛をしようか? ちょうど暇だし」
「え!?」
バッと振り向くニードルにクルーガーは笑顔で頷く。
「い、いいのか?」
「俺も今後の装備作りのために素材と金が必要だからな。それに君は将来的にはスーパー戦隊系装備を作るつもりなんだろう? だったら是非とも一緒に素材採取をしたいんだ」
同じ戦隊ファンのよしみからの人助けと、念願のデカマスター装備が手に入るかもしれないというちょっとした企み。ニードルからすれば渡りに船な話で、頼もしく笑う彼の姿が救世主に見えたように感じただろう。
「ありがとう! だったら今から行きたい場所があるんだが、大丈夫か?」
「もちろんだ!」
スティンガーモチーフかと思った? 残念! スコルピオだよ!
サソリ座の歌、神曲ですよね………