スーパー戦隊が大好きなので、デカマスターを目指そうと思います 作:ペペック
ニードルの案内のもと、クルーガーはいつもの森とは反対方向の道を進んでいく。彼によればこの先には湿地帯のエリアがあるらしく、そこでしか取れない素材の情報が掲示板に書き込まれていたという。
「【シルクスパイダーの白糸】って言って、素材としてのレアリティが低いし作れる布もそこまで強くならない代わりに、布生地や裁縫糸とかの材料として汎用性の高い素材なんだ。裁縫系スキルの練習に使えると思って、なるべくたくさん欲しいんだよ」
「なるほどな」
シルクスパイダーの強さは森のムカデやキャタピラーとほぼ同じくらいではあるが、それ以外のポップモンスターがかなり厄介らしい。
その一つがカラフルフロッグ。赤青黄黒白といった様々な色の小型犬ほどの大きさのカエルのモンスターで、 口から体色ごとの球状の粘液を吐き出して攻撃してくる。強さ自体は大したことはないのだが、このカエルが吐き出す粘液弾に当たると個体の色ごとに様々な状態異常にかかってしまう。黒は毒、赤は炎上、青は睡眠、黄色は麻痺、白は氷結といった具合にだ。なのでここに挑む際には、ショップで販売されている状態異常耐性系スキルを取得することが推奨されている。
クルーガーはニードルのアドバイスで町を出る前にNPCショップに寄り、貯めた金でスキルを購入して一通りの耐性系スキルを取得してある。これならば万一カエルに遭遇してもそう簡単にはやられないだろう。
「ついたぞ」
しばらく道なりに歩き、二人は目的の場所についた。鬱蒼と繁った背の高い植物が生い茂っているというのはいつもの森と同じではあるが、あちらが山間に自生する木々が主体だったのに対し、ここに生えているのはジャングルの植物という趣だ。地面もしっかりした土ではなく、ところどころに泥で濁った水溜まりがあって歩く度に足が3cmほど沈んでいく。いかにも虫やカエルが出てきそうなエリアだ。
「足元、気をつけろよ」
「クルーガーもだ。見ての通りこの辺りは泥でぬかるんでいるから、AGIが高くても足を取られて思うように走れないからな」
ニードルが言うように先ほどから歩く度に沈む足を引っ張るように上げているので、なかなか前に進めない。それでもどうにか歩き続けること数十分後、幸か不幸かこの時はカラフルフロッグが出現しなかったおかげで、二人は泥地帯を抜けて目的の洞窟の前にたどり着いた。
「ここがそうか?」
「ああ、情報によるとシルクスパイダーはこの洞窟の中にしか出現しないんだ。攻撃力はないし、生産職の俺でも倒せるくらい弱いが、プレイヤーのAGIを下げる糸を吐き出してくるからそこに気をつけろ」
糸は普通の武器でも切れるそうなので、戦士職のクルーガーがシルクスパイダーの注意を引いている間にニードルが後ろから倒すという作戦でいくことにする。
互いに息を潜めて洞窟に入っていけば、早速目の前に白い甲殻を持つ大きな蜘蛛が奥から10体現れた。森で見かけたデフォルメされた緑の蜘蛛と違い、こちらはそこそこリアルな蜘蛛の姿をしている。
「フシュー!!」
敵を視認したシルクスパイダーは早速細くて白い糸を吐き出し、クルーガー達目掛けて吹きかける。
「下がれ!」
クルーガーはニードルを守るように両腕を広げて糸を浴びる。糸が身体に触れただけでいつもより動きづらくなるのを感じ、自身のAGIが下がったのを実感する。………最も、クルーガーのAGIは【物理特化】の効果で常に60を超えているので、対した弱体化になっていないが。
そうやって自ら蜘蛛の的に徹するクルーガーの影からこっそりと抜け出したニードルは、シルクスパイダー達の注意が彼に集中している隙に蜘蛛の腹部を後ろからナイフで突き刺す。
「シュルル!?」
驚愕の叫びを上げてポリゴンになる蜘蛛の後に残されたのは、綺麗に束ねられた白い糸だ。ニードルは続け様に他の蜘蛛もナイフで突き刺して倒していき、途中で蜘蛛に気づかれそうになってもクルーガーが蜘蛛にしがみつくことで彼から注意を反らす。10体目を倒したところで出現した蜘蛛は全滅し、後には白い糸が十束残るのみとなった。
「どうだ、足りそうか?」
「ん~……もう少しいいか?」
集めた糸束をインベントリにしまい、クルーガーの顔色を伺うように問うニードルに頷く。
「もちろんさ。ただその、今度は俺もシルクスパイダーを倒してみてもいいか?」
「え? それは構わないけど……」
言うが早いか、洞窟の奥からまたしてもシルクスパイダーが十体現れた。だがクルーガーは今度はニードルに後方へ下がるよう目線で合図し、剣を構えてそのままシルクスパイダーに向かって行く。
「はあああああ!!」
そして前の蜘蛛五体が糸を吐く間もなく、剣一閃で五体を倒した。その後ろの蜘蛛は糸を吐き出してきたものの、クルーガーはその場をジャンプして蜘蛛の真後ろを取りそのまま切り伏せる。
「ええ!?」
鮮やかとしか言い様のないクルーガーの速さと身のこなしに、ニードルは信じられないものを見るように驚きの声を上げる。ドロップされた糸束を拾いクルーガーはニードルに向けて投げて寄越す。
「やはり思った通りだな」
「お、思った通り……?」
「こいつらの糸を出す動きと速さ、顔の向きから計算して攻撃が来る角度を予測して動けば簡単に倒せる」
クルーガーは蜘蛛の糸を受けつつも彼らの攻撃パターンを観察し、糸を出す前の動き・糸が身体に届くまでの距離と速さ・次に糸を出すまでの貯めを全て覚えていたのだ。
「そ、そうか………」
さも当然と言わんばかりのクルーガーに、ニードルは唖然となるも頷く。
二人はその後も洞窟の奥に進み、向かい来る蜘蛛達をクルーガーが剣で切り払い、ドロップされた糸束を集めていくのだった。