ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
ずっとお待ちいただいていたみなさんが、少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。
イッセーSIDE
「……さて、頃合いの様ですね」
俺達が小型の邪神もどきをひたすらぶっ飛ばし続ける中、いよいよ先輩が動き始めた。フェンリルの背に乗り込んだ先輩は邪神の本体を真っすぐに見据えながら、右手に持つ分厚い剣の切っ先を向ける。その姿に、俺は内心テンションがブチ上がっていた。緊迫した場面なのは変わらないのに、あそこだけヒーローショーやってるみたいだわ。
(はえ~~~、マジで画になるなぁ)
くそ、こんな状況じゃなけりゃ思いっきり声を張り上げて応援したいのに。……あ、よく見たらサイラオーグさんも曹操も、ドラゴンモードの匙までもみんな小型種をいなしながら先輩に目線を送ってる。多分……というか、絶対俺と同じこと考えてんだろうな。
「小猫ちゃん、俺の分までしっかり先輩の力になってあげてくれよ!」
俺は気合いを入れ直し、ゆっくりと動き始めた三頭の神喰狼を横目に進路上の邪神もどきに狙いをつけようとしたが、そんな俺よりも先んじて飛び出す奴らが三人。
「神崎殿! 貴殿の道はこのサイラオーグ・バアルが切り開こう!」
「いや、神崎君の王道を阻む者はこの俺、曹操が打ち倒してみせよう!」
「待て待てぇ! 先輩をお助けするのは、あの人に”一番”期待されているこの匙 元士郎だぁぁぁぁぁぁ!」
サイラオーグさん、曹操、そして匙の野郎が我先にと邪神もどき共に突っ込んでいく。きっと先輩のために何かせずにはいられなくなったんだろう。わかる。その気持ちは俺もすっごくわかる。だから……俺も行くぜ!
「お前ら抜け駆けすんな! ……あと匙! てめえはちゃっかり記憶を捏造してんじゃねえぞ!」
神崎先輩に一番目をかけてもらっているのはこの俺、兵藤 一誠なんだからな! ……だよな?
≪うおぉぉぉぉぉぉ!!!≫
「は?」
俺がブースターをチャージし、一気に突っ込もうとした瞬間、雄叫びと共に俺の横を通り抜けていったのは、一人の死神だった。邪神もどきに対し、そいつは振り上げた鎌を勢いのままに一閃させる。数瞬の後、邪神もどきの体は左右に真っ二つとなった。……って、ちょっと待て。なんでこいつがいきなり参戦してんだよ!?
≪ふーっ……ふーっ……答えろ、羽つき≫
今の一撃に相当な力を込めたのか、死神は肩で息をしながら俺に鋭い視線を向けながら口を開く。
≪アレは……あの男は、本気でペルセポネ様をお助けするつもりなのか? 矮小な人間の分際で 、ハーデス様ですらお助けする事が出来ず、封印という手段を取らざるを得なかったあのお方を≫
「……だから今、あの人はあそこにいるんだよ」
コイツ、お仲間が先輩達にぶちのめされまくっていたのに矮小とかよく言えたもんだな。
あの邪神が出現してから今までずっと俺達はそのつもりで動いていたんだ。俺達を手伝うことも、邪魔することもなくただつっ立っていただけの奴らに、今更答える必要なんざなかったけど……俺はつい口を開いてしまった。それは、目の前の死神が疑惑、困惑が宿しながら、どこか縋る様な目を向けてきていたからだ。
≪何故だ? あの人間とペルセポネ様に関りは一切ない。それに、我らは直前まで殺し合いをしていたのだぞ? なのに何故だ? 何故あの男が、我らを助けようとする!?≫
「あの人にとっちゃ、見ず知らずだろうが、敵の身内だろうが関係ねえ。助けるべき相手が目の前にいるなら全力で助ける。それが先輩だ」
こいつらの価値観じゃ、先輩の事は一生理解できないだろう。元の世界で守るべき人達のために、俺達なんかじゃ想像すら出来ない程の壮絶な戦争を命を捨てる覚悟で終わらせたあの人は、ただ死神として生まれただけのお前らなんかよりよっぽど命の大切さを理解してるだろうぜ。
命だけじゃない。部長の”誇り”やアーシアの”居場所”。相手が大切に思っているものならどんなものだって、どんな時だって手を差し伸べる。それが、神崎 亮真という俺の憧れなんだ。
≪それでも、人間にそれだけの力があるとは≫
「その人間にさっきまでボッコボコにされてたくせに?」
俺の指摘に押し黙る死神。まあいい。ここまで言って先輩の力を疑っているならもう何言っても無駄だろうし、これ以上コイツの相手をする必要もねえ。
「俺が知る限り、先輩が誰かを助けようとして失敗した所は見たことねえ。今回だって、そのペルセポネっていう女神様も絶対助けられるだろうさ。わかったか? わかったらさっさとお仲間の所にでも下がってろよ」
ったく、コイツのせいで出遅れちまったじゃねえか。見ればサイラオーグさんを先頭に曹操と匙もめちゃくちゃ暴れまくってやがる。ちくせう、これじゃ後輩の面子が立たねえ! 早く合流しねえと!
≪……ならば≫
急に口を開いたと思ったら、死神は俺に背を向け、邪神もどきの群れに向かって鎌を向けた。
≪ならば、この一時……あの人間がペルセポネ様を取り戻すその時まで、私も手を貸そう≫
「は?」
まさかの共闘の申し出に面食らう。そこへまた新たな死神達が姿を現した。そいつらは信じられないといった表情で俺の前に浮かぶ死神へ声をかける。
≪ま、待て! 羽つきに手を貸すなど正気か!? ペルセポネ様をあのような姿に変えたのはこいつらなのだぞ!≫
≪わかっている。我ながら愚かだと承知している。だがそれでも、あのお方を……ペルセポネ様をハーデス様の元へお返し出来る可能性があるのならば、私はそれに懸けたい!≫
≪それは……≫
≪いつからだ! ハーデス様が『裁神者』としてのお姿から戻らなくなったのは! ペルセポネ様を失った悲しみを怒りで抑え込もうと必死なお姿を見てこの身の無力さを何度恨んだことか!≫
絞り出すような声で、死神はフェンリルへ目線を向ける。正確にはその上に乗る先輩だろうが。
≪私にも理由がわからない! そして決して認めたくない! だが……だが! この羽つきに言われ、そしてあの人間を見て……私は言葉に出来ない高揚感と共に希望を持ってしまった! 同時に、ペルセポネ様をお助けする機会は、これを逃したらもう二度と訪れないことも!≫
ええっと……つまり、先輩を見てテンションブチ上っちまったって……コト!? まんまさっきまでの俺じゃねえか!
≪私は羽つきに手を貸すのではない! あの人間に手を貸すのだ! そしてもしあの男が失敗したら、その時は私の手であの男を殺し、我が命も絶つ! 覚えておけ羽つきぃぃぃぃぃぃ!!!≫
叫びながら邪神もどきへむけてすっ飛んでいく死神。すると残された死神達も互いに頷き合いながらそいつの後を追って行った。
≪仕方あるまい。古参である彼奴にあそこまで言われてしまってはな!≫
≪我々とて、ペルセポネ様を想う気持ちは同じ!≫
次々に邪神もどきへ迫る死神達。……すげえぜ先輩。声すらかけずにただその姿だけであいつ等をこっちへ引き込んじまった。俺も、いつかそんな風にいるだけで希望を与えられるでっかい男になりてえな。
「そのためにも……今は全力であいつ等をぶっ飛ばす!!」
今度こそ邪魔するものがいなくなった俺は、ブースターを最大限に噴かせ、先を行く死神達を一気に追い抜きながら邪神もどきの群れへ拳を突き出した。
「うおるぅあぁぁぁぁぁぁ!!!」
「アギャアァァァァァ!?!?!?」
邪神もどきの腹部には女性をかたどったような場所がある。無表情だったその貌が迫る俺を見ておぞましい形相へと変貌するが、そんなもんは関係ねえとばかりに俺はその顔面を勢いのままぶん殴り、背中と拳のブースターをさらに噴かせ、俺は邪神もどきのどてっぱらに風穴を開けてやった。
「まだまだぁぁぁぁぁぁ!!!」
二体目、三体目、四体目……目の前に迫る邪神もどき達の腹を、さらなる加速をかけながら次々にぶち破る! 向こうから突っ込んできてくれるから追いかける手間が省けて楽だなぁオイ!
『『『アォォォォォォォォンッ!』』』
大地を揺らし、咆哮をあげながら、フェンリル達が邪神本体の元へ駆けていく。へっ、流石に近づかれるとまずいとでも思ったのか、邪神は自ら引き剝がした部分からさらなる分身を生み出し接近を阻止しようとする。……けどよ。
「数だけ増やしたところでなぁ、今の俺達を止められると思ってんじゃねえぞぉ!」
ヤツが分身を生みだすよりも、俺達がそれをぶっ倒す方がずっと速い! せっかく生み出した邪神の分身は瞬く間に沈んでいく。そうして、ついにフェンリル達が邪神の元へ辿り着こうとしたその時……。
≪おい、羽付き!≫
「あ? って、お前さっきの死神じゃねえか」
似た格好ばかりの死神達だが、こいつは高そうな銀色の眼鏡をしているので判別しやすい。
≪一番大事な事を聞いていなかった。ヤツは一体どうやってペルセポネ様をお助けするつもりなのだ?≫
どうやってって、そりゃあ……。あれ? そういえば先輩、邪神に近づいた後の事は何も言っていなかったけど、どうするつもりなんだろう。邪神に混ざってしまった女神様を先輩の力で元に戻すらしいけど。
『『グルアァァァァァ!!!』』
フェンリルの前を走るスコルとハティが邪神の体にその牙を突き立てた。その痛みに耐えられなかったのか、邪神は下半身にある醜い口を全開にし、耳を塞ぎたくなるような悲鳴をあげた。
そしてその瞬間、頭を振ったフェンリルの上から、小さな影達がその口へ次々と飛び込んでいった。……え、あれ、もしかしなくても先輩達……だよな? まさか……取り込まれた女神様を直接探しに行くんですか!?
≪オイィィィィィィ!!! 喰われた! 喰われたではないか羽付きぃぃぃぃぃぃ!!!≫
俺の肩を鎧越しにつかみながらガックンガックン揺らしてくる死神。つーかこいつ、さっきから馴れ馴れしすぎんだろ!
「うるせぇぇぇぇぇ! 眼鏡カチ割んぞテメエ!!」
先輩! このウザ絡みしてくる死神と一刻も早くサヨナラしたいんで、すぐに戻ってきてくださいね!
イッセーSIDE OUT
IN SIDE
偽ヴォルクルスからペルセポネさんを助け出す。そのためにはまず元の彼女を構成する物を一部でもいいから見つけ出さなければならない。そうすれば、そこから『復活』を使ってペルセポネさんを完全に”個”として戻せる。それが今回の作戦のキモだ。
そこまで考えたはいいけれど、そもそもその一部を見つけるのはどうすればいいかが問題だった。だが、博士曰く、取り込まれたといえど、女”神”を称するのならば完全に消滅するのではなく、どこかに彼女の構成物が残っているはずとのこと。それが身体なのか、権能なのかはわからないが、それさえ見つけられればこっちの勝ちだ。
「みなさん、私はこれからあのヴォルクルスもどきの内部に侵入し、女神ペルセポネを探します。あなた達は……」
「当然、ついていくわよご主人様」
「ええ、黒歌の言う通りです」
「私達の力が微々たるものであるとは承知していますが、こればかりは譲れません」
「もう、おいて行かれるのだけは嫌っすから」
「私も、グレモリー眷属として部長達に託されたんです。だから、最後までお手伝いします」
見渡せば、迷いなど一切ない目で俺を見上げる黒歌達。そんな中、オーフィスちゃんだけがマイペースに俺の右腕にぶら下がりながらゆらゆら揺れている。
「……ここまで連れてきておいて愚問でしたね。ならばみなさん、絶対に私から離れないように。ではフェンリル、私が合図したらあの邪神に向かって思い切り私達を飛ばしてください」
『がうっ!』
「―――今です!」
そして、先行するスコルとハティが邪神の隙を作ってくれた瞬間、俺はオーフィスちゃんを抱えなおし、フェンリルに指示する。放り出される勢いで大きく開いた奴の口へと黒歌達と共に飛び込んだのだった。
………
……
…
「……ねえ、私達、確かに邪神の体内に飛び込んだのよね?」
目の前に広がる光景に、黒歌が確認するかのように口を開いた。無理もない、俺だってちょっと混乱している。
「これが生物の体内? まるで洞窟じゃない」
その内部はまさにレイナーレさんの言うとおりだった。壁も、そして今俺達が立っている場所も、まるで岩のように堅く無機質なものだった。足踏みすれば、カツンと甲高い音が周囲に響き渡る。
「邪神などという理解不能な存在です。我々の常識など通用しないと考えていたほうがいいでしょう」
「……どうやら、カラワーナさんのおっしゃる通りのようです」
突如として俺達の前方の地面が波打ち始めた。警戒する俺達の目前で、急速に地面が盛り上がり、やがて数匹の獣の様な存在が生まれた。邪神の肉体から生み出されたそいつらは、ぬらぬらとした液体を滴らせながら唸り声と共にじりじりとこちらに近づいてくる。
「いきなりの歓迎ってわけっすか!」
「ッ……! 先輩、あっちからも来ます!」
小猫の指す方へ眼をやれば、同じように波打つ地面から、今度は人型の何かが生まれた。獣型の奴と同じように、グロテスクな肉の色を全身に纏いながら、各々に剣や斧のようなものを掲げながらこちらへ走ってくる。
「ご主人様、こいつらもしかして……!」
『取り込んだ者たちの情報を元にコピーを生み出しているようですね。ククク、世界は違えども、小賢しい所は瓜二つですね』
ハッとする黒歌と同時に、博士が俺にそう伝えてくる。なるほど、アイツらを使って俺達を先に進ませないつもりのようだな。けどな……今の俺は容赦なんか一切する気はないんだ。使える物は何でも使ってやる!
一斉に迫りくるコピー体の群れ。それを迎え撃とうと構える黒歌達を尻目に、俺は静かに力を解放する。―――刹那、眼前に群がるコピー体達は一匹残らず圧し潰され、地面に染みを広げるだけとなった。
「「「「「へ?」」」」」
瞬く間に消え去った敵の最期に、みんなは呆然と立ち尽くす。俺がやった事はシンプルだ。俺達の周りに重力による障壁を作り出し、侵入した対象を超重力で圧壊させる。元ネタに肖って、『グラビティ・テリトリー』とでも呼ばせてもらおう。
「フューリー……今のは……?」
「そうですね、簡単に言えば、重力によるバリアです。……余計な真似かもしれませんが、今の私は少々過保護気味なので。大切なあなた達への攻撃など絶対に許すわけにはいかないんですよ」
兵藤君の件を通じて、俺は自分の甘さや間抜けさをこれでもかと痛感した。もちろん、彼女達の強さは俺だってよく知っているし、さっきの奴等だって彼女達にかかればきっと一蹴できるレベルだったろう。それでも、しばらくはこの心配癖は抜けそうにない。
(大切……でへへ、大切ですって……)
(黒歌、アンタ今ひっどい顔してるわよ)
(そういうお姉さまも人の事言えないっすよ)
(お前こそ鏡を見ろミッテルト)
(……耐えなきゃ……この人達と同じレベルに落ちたくない……)
「我は、フューリーにとって大切?」
「ええ、もちろんです。大切な、大切なお友達ですからね」
「そう……。それは、いいことなのかもしれない……」
……おろ? 今一瞬オーフィスちゃんが笑った様な。と思ったらいつもの無表情。見間違いか?
「さて、みなさん。そろそろ先に進みましょうか」
「「「「「は、はい!」」」」」
『グラビティ・テリトリー』を展開したまま、俺達はペルセポネさんの手がかりを求めて先に進み始めた。道中、何度も何度も様々なコピー体が襲い掛かってきた。人型、獣、なんとも形容のしがたい存在。そんな連中が謎のビームや炎、冷気のようなものまで向けてくるが、その悉くが重力の障壁に阻まれ、俺達の元へ届く事はなかった。
「……ここまでくると、敵が哀れね」
「あっちの攻撃は届かないのに、ウチ等の攻撃はバリアを抜けて向こうに届いてるっすからね。仕組みとかどうなってるんでしょう」
「ふむ……お望みでしたらご説明しましょうか?」
「い、いえ、遠慮するっす」
そっか、残念。博士の重力講座、最初はマジで何言ってるか理解できなかったけど、繰り返し聞いてると面白くなってきて理解できるんだけどなぁ。
「……む」
「どうしたのカラワーナ?」
「いえ、あそこ……なにやら見覚えのある姿が……」
「んー? ……って、あら、サマエルじゃない!」
目を凝らすと、確かに少し離れた場所にサマエルのコピー体が浮かんでいた。ふむ、神殿の崩壊のどさくさに取り込まれてしまったって事か。……それにしても、なんか様子がおかしい。こちらを見つめながら、他のコピー体と違って襲ってこない。
「なんだか変ね。気のせいでなければ、あのサマエル、震えてないかしら?」
あ、ホントだ。なんか可哀そうなくらい全身が震えてる。なんていえばいいか……二度と見たくないものを見てしまった時のような、あの絶望感に全身が支配されたかのような……。
「……あ、ひょっとして」
「姉様?」
「あくまで予想でしかないけど、コピー体ってさ、体だけじゃなくて記憶もコピーしてたりするかもしれないにゃ。だとしたら、あのサマエルのコピーにはさっき神殿でご主人様に体を弾け飛ばされた挙句、これでもかと追いかけまわされてた記憶がコピーされているわけで……」
「「「「……ああ、なるほど」」」」
? どうしてみんな真顔で頷くんだろう。……それはさておき、ひょっとして、これは使えるのではないだろうか。俺は周囲のコピー体の群れの出現が落ち着いたところで、サマエルのコピーへオルゴン・クラウドによる跳躍を利用して一気に近づいた。
『オォォォォォォォ!?!?!?』
「ククク、そんなに怖がらなくても。何もしませんよ。今はね」
『ヒュッ―――!』
最早声すら出なくなったサマエルコピーに俺は一つの提案をもちかけた。
「私達は女神ペルセポネを取り戻しにここへやって来ました。どうでしょう。もしあなたがその手がかりまで案内してくださるというのでしたら……見逃してあげますが?」
『オオ! オオ! オオォォォォォォォォ!!!』
首どころか全身で頷くかのように体を縦に蠢かすサマエルコピー。よし、これでやみくもに探す手間が省けたぞ!
「先輩、いきなりいなくなったと思ったらどうしたんですか……?」
追いかけてきた小猫達に俺の考えを伝える。
「本体の体と記憶を持つコピー体ですが、あくまでその体は邪神の肉体から生み出されています。つまり、コピー体も逆に邪神の情報や記憶を持っているのではないかと考えましてね。もしそうならば、コピー体に案内させれば女神ペルセポネの元へ辿り着けるのではないかと……」
「な、なるほど。ですが、コピー体の支配権も邪神が有しているはず。私達を油断させて罠に嵌めるつもりではないでしょうか……」
「……その心配は無さそうだけどね」
黒歌が見つめる先で、サマエルコピーは俺達の周りをグルグルと回りながら手や尻尾を大げさに動かしていた。
「自分は役に立つから殺すのは最後にしてと言っている」
「……なんなんでしょう。オーフィスに訳してもらう前からわかってしまった自分がいるっす」
「恐怖が……支配を凌駕したというのか……」
背後でカラワーナさんが戦慄した様子なのにも気づかず、俺は案内役をゲットした事に浮かれていた。そして、改めてコピー体の先導の元、ペルセポネさんの捜索を再開したのだった。
そこからはとにかく複雑なルートをひたすら進み続けた。前に進むだけではなく、上に空いた穴へ飛んで行ったり、かと思えばたった今通って来たばかりの道をすぐに引き返したり、こんなの情報なしじゃ絶対にたどり着けないわな。あそこでサマエルのコピーを見つけられて正解だった。
やがて、周囲の様子が洞窟のような無機質な空間から、気色の悪い肉が蠢く場所へと変わり始めた。これは、ひょっとしてここが本当の邪神の体内なのだろうか。
「さっきまでの場所は侵入者を惑わせるための場所だったようですね」
「ええ。みなさん、ここからが本番のようです。警戒を怠らないように」
肉に触れると何か起きそうなので、みんな揃って飛びながらさらに奥へと突き進む。そうして辿り着いたのは広々とした空間だった。そして、そこには肉の塊に包まれ、顔だけ露出させられた生物達の姿があった。
「ここは……まさか、邪神に取り込まれた者達が囚われて……!?」
「そのようですね。ほら、あそこの肉塊を見てください」
「ッ……! あれは、本物のサマエル……!」
全員に視線が注がれるその先には、肉塊に包まれたサマエルの姿があった。
『オ、オオ!? オオォォォォォォォ!?!?!?』
さらに次の瞬間、俺達をここまで案内してくれたサマエルコピーが突如として苦しみ始めたと思ったら、その体がドロリと崩れ落ち、落下した肉の床にあっという間に飲み込まれてしまった。
「いったい、何が……」
「おそらく、ここまで侵入者を連れてきてしまったから邪神側が強引に排除したんでしょうね」
「ふむ、しっかり案内してくれたので見逃すつもりでしたが、結果的には約束を破ってしまいましたね」
飲み込まれた場所を見やりながら、俺は独り言のように呟いた。
「ん~~~~~?」
「どうしたミッテルト?」
「いやぁ、なんかこういうシチュエーションの映画を最近『昼のロードショー』で観たような……」
うんうん唸るミッテルトさん。すると、おもむろにオーフィスちゃんが傍にいたレイナーレさんの腕をギュッと掴んだ。
「お前は最後に殺すと約束したな……あれは嘘だ」
そして、しゃべり終わると同時に、手をパっと離した。
「うわぁぁぁぁぁーーーーー!!! ……って、何やらせるのよ!!!」
「ッ! ああ、思い出したっす! ほら、あれっす! 元特殊部隊の主人公がドッカンドッカン銃やらバズーカやらぶっ放すアレ!」
「……ああ。筋骨隆々の元軍人の女性が、誘拐された息子を助けるために大暴れする映画だったな。そういえば、たまたまオーフィスが遊びに来ていたので一緒に見た記憶が……」
え、なにそれ超見たいんですけど。もしかしなくても、アレですよね。なんか性別とか若干違うっぽいけど絶対面白いやつじゃん。
「もう! もう! だからオーフィスがいる時は変なもの見せるなって言ったじゃない! どうすんのよ! このままオーフィスが変な語録ばかりしゃべりまくるようになったら!!!」
「あ、あははー。その時はあの『無限の龍神』に映画の語録を覚えさせた初めての堕天使って記録でもされそうっすね……」
「いらないわよそんな記録!」
「も、もうこの話は終わりましょう。それよりも、この者達はまだ生きているのでしょうか?」
「死体だけです」
「オーフィス、アンタはもう黙ってなさい!」
「……姉様、レイナーレさん凄いですね」
「ええ。すっかりとけこんでいるとはいえ『無限の龍神』にあんな口のきき方するなんてなかなか出来ないわ」
『ククク。なんともまあ、賑やかな眷属をもっていますね、あなたは』
博士、それは褒めて……いや、やっぱり何でもないです。
『さて、おしゃべりはこの辺にしておきましょう。あなたから見て、ここに囚われている者達はどう見ますか?』
そうですね。これは、完全に吸収するというよりも、個別にその情報や力を管理して、必要に応じてそれを利用していると……待てよ。それなら、ひょっとしてペルセポネさんも。
『ええ、似たような状況の可能性もあります。そうであれば、こちらが思っていたよりも楽に救出も出来そうですね。見れば、奥の方にさらなる道も確認できますし、おそらくあの先に囚われている可能性が高いでしょう』
なら、さっさと先に……と言いたいところだけど、ここに囚われた人達ってどうしよう。助けた方がいいんだろうか。
『ふむ、この者達はすでにこの邪神の一部となっています。彼らを解放することは即ち、己を構成するものを奪われると同じ。ならば、彼らを解き放つことで、邪神本体の肉体へダメージを与える事となるでしょう』
おっし、まさに一石二鳥じゃないですか! なら、先にここの人達を助けましょう!
「黒歌達、聞いてください。女神ペルセポネはおそらくこの先にいます。ですが、その前にここに囚われているみなさんを解放します。そうすれば、邪神本体にもダメージが入り、外で戦ってくれている兵藤君達に有利になるはずです」
「それはいいけど……ご主人様、これ、全部?」
「ざっと見渡すだけでも、百や二百ではきかない数ですが……」
「いいえ、
突如として空中に空く穴。俺が呼び寄せたそれから幾重にも枝分かれした緑色の光線が肉塊と本体を繋ぐ管のようなものを瞬く間に貫き飲み込んでいく。数瞬遅れて、固定部分がなくなった肉塊達が床に落下していく。このままでは再び取り込まれてしまうので、冥界であのデカブツにやったようにワームホールを通じて全員を外に送り出す。とりあえず、戦場からうんと離れた場所に一旦避難させておこう。
時間にして十秒もかかることもなく、あれだけあった肉塊は一つ残らずこの場から消え去った。……これで、とりあえず救出は完了だな。
「お待たせしました。では先に進みましょうか」
「あ、あれだけの数を一瞬で……」
「あ、あはは。もう笑うしかないっす」
「これが、神崎様の本気……」
「ん? いえ、今の私なら最大で65535の目標を同時に攻撃できますから。まだまだ余裕ですよ?」
これな、初見の時はすげえとか通り越して馬鹿じゃねえの! って笑っちゃったよな。
「……じょ、冗談……だよね?」
「よければ、今度アザゼル先生にお願いしてシミュレーターでお見せしましょうか?」
「「「「「結構です!!!」」」」」
ひえっ。そ、そんな力強く言わなくてもいいじゃないか。俺自身、実際どんな感じになるかちょっと興味あるし……。
「いい、みんな。今のは忘れるのよ? 私達は何も聞かなかった。OK?」
「「「「OK!」」」」
頷き合い、並んで飛んでいく黒歌達。そんな彼女達の背中に向けて、オーフィスちゃんはピストルの形にした右手を向けると……。
「……ズドン」
と、一言発するのだった。
………
……
…
ついに辿り着いたそこは、きっと最奥なのだろう。俺達が今通って来た道以外先のないそこには、一人の女性が壁に磔姿で埋め込まれるように存在していた。おそらく……いや、彼女こそが。
「あれが……女神ペルセポネ」
上半身だけが露出し、下半身は肉の壁に完全に飲み込まれている。おそらく、飲み込まれた部分はすでに彼女のそれではなくなっているのだろう。
「いやデッッッッッッッ!!!!」
そんな中、場違いな程の声量で黒歌が叫ぶ。いや、ざわつき始めたのは彼女だけではない。
「 やっぱ豊穣の女神と呼ばれていたデメテルの娘だから、アレも母親譲りなんですかね」
「ああ、ペルセポネ神といえば春、植物、農耕を司ると聞くが……実は彼女自身も母と同じく豊穣の女神であるとされているからな。あれだけのモノを持っていても不思議ではない」
あごに手を当てながら、まるで探偵が推理するかの様な口調のミッテルトさんと、至極まじめな表情で頷くカラワーナさん。
「……ここは、他の神話体系について少しでも勉強していた事を褒めるべきか。それとも、豊穣の部分を真っピンクのマーカーで塗りつぶしているであろう脳内辞書を納めているその頭を思いっきりどついてやるべきかしら……」
「部長……ううん、朱乃先輩すら超えているかも……」
ミッテルトさん達の背後でチベットスナギツネのような顔をしているレイナーレさん。何やら小声で何やら言っているが、上手く聞き取れない。その横の小猫は小猫で、何やら愕然としている。
……うん、まあ。彼女達が何について言っているのか俺もわかっている。なるべく視界には入れないようにしているが……突き出された上半身を見ればいやでも目に入る。ペルセポネさんはその……ずいぶんと立派なモノをお持ちのようだった。これ以上は本人の名誉のために言及はしない。
「おほん。ようやく見つけられましたね。では、すぐに彼女を邪神から切り離して、ここから脱出を―――」
だがその時、俺達の前に最後の障害が立ちはだかった。床、壁、天井。ありとあらゆる所からコピー体達がものすごい勢いで生まれ始めた。なるほど、途中から全く襲い掛かってこなかったと思ったら、俺達がここまで来ることを見越して全戦力をここに投入してきたか。
「やれやれ、ようやく出番ね」
「正直、覚悟してついて来たのに、出番がないのではと思っていました」
ワームホールより剣を取り出しながら、俺は最後の号令をかけた。
「みなさん、これが最後です。始末をつけましょう」
「「「「「了解!」」」」」
SIDE OUT
イッセーSIDE
先輩達が邪神の体内に突入してどれくらいたっただろうか。ふと気づくと、ヤツの動きが目に見えて鈍くなってきていた。これは、先輩達が中で暴れまわってたりしてんだろうか?
「ッ!? な、なんだ!?」
突如として戦場からはるか東の方角。そこの上空に巨大な穴が開いた。あれは……先輩が俺をアシストしてくれた時のヤツか!
さらに、その開いた穴からおびただしい数の何かが大地に落下していくのが確認できた。なんだありゃ? たぶん、先輩が邪神の中からこっちに送り込んで来たんだろうけど、さっぱりわからねえ。どちらにしろ、あの距離じゃ確かめに行くにも時間がかかる。なら今は無視しておこう。
異変はそれだけに留まらなかった。邪神本体の体に細かなヒビが入り始めたと思ったら、急速に崩壊を始めたのだ。それだけじゃない。生き残っていた分身達もその体を瞬く間に崩れ始めさせた。
「……はっ! 先輩は? 先輩達はまだ中なのか!?」
未だ先輩達の姿は見えない。だが、そんな俺の心配など無用の長物だった。俺達や死神達が崩壊を見守る中、再び空に漆黒の穴が展開し、そこから六つの人影がゆっくりと俺達の方へ向かって降りてきた。よーく目を凝らせば、そこには誰一人かける事無く戻って来た先輩達の姿があった。突入時と違うのは、先輩にくっついていたオーフィスを小猫ちゃんのお姉さんが俵を持つように抱えていて、先輩本人は先輩のであろう上着で覆われた紫色の髪をしたとんでもない美女をお姫様抱っこしている。
「あれが、女神ペルセポネ……」
え、マジ!? マジであのクソ骸骨野郎の奥さんがあんな美人さんなの!? ちくしょう! 認めねえ! 俺は認めねえぞ!!!
「リョーマ!」
部長や朱乃さんが一直線に先輩の元へ飛んでいく。やべ、俺も急いで合流しねえと。
「せんぱーーーーーーーい!!!」
俺が辿り着くころには、すでにサーゼクス様やアザゼル先生を始めとする面々もそろっていた。フェンリル達もいる。先輩は一人ずつに見渡すと、最後に俺に目を向けてきた。
「兵藤君、あなたにも苦労をかけましたね」
「へへ、あんなやつらどうって事ないっすよ! とにかく、女神様も助け出しましたし、これで一件落着ですね!」
「―――いえ、まだです」
「へ?」
これで一段落とばかり思っていた俺の言葉を否定し、先輩はゆっくりとその顔を向こうへ……崩壊を続ける邪神の方へ向けた。
「このまま何もせずとも、アレは崩壊するでしょう。……ですが、万に一つ、肉片の一片でも残っていれば、再び災厄となる。そうさせないためにも、アレは確実にここで消滅させます」
あ、あ、なーんか嫌ーな予感がビンビンしてきたぞぅ! 俺だけじゃない。部長やサーゼクス様など、何人かも俺と同じものを感じ取ったのだろう。慌てて先輩を止めようと口を開いた。
「リ、リョーマ? それは私達がなんとかするから大丈夫よ。ほ、ほら! 私の”滅び”をもってすれば絶対に消滅させられるはずだから!」
「う、うん。そうだね。リーアの言う通りだ。魔王である私も協力するからさ。それに、ご婦人を抱えたまま戦うわけにも―――」
「兵藤君、この方をお願いしますね」
「アッハイ」
言われるままに先輩からペルセポネさんを受け取る。うわー、近くで見るとやっぱりすげえ奇麗だなー。それに、上着の上からでもわかるくらいスタイルもいいし。ハーデスの野郎が羨ましいなー。
「ちょ、ちょっとイッセー! なに言われるままにしてるのよ! あなたもわかってるならちょっとは引き止めるくらい……」
「ハハ、無理っす」
「お、今度はなにやらかすんだフューリー? いいぞいいぞ。俺が許す。好きにやっちまえ」
「アザゼル!?」
ニッコニコで煽るアザゼル先生を見て思いっきり仰天するサーゼクス様。ピンと来ていなかった他の奴らも俺達の焦りが伝わったのか次第に顔色を悪くし始めた。……ちなみに、先輩の眷属のみなさんはとっくに諦めていたし、オーフィスは相変わらず何考えてんのかわかんねえけど、先輩の姿をずっと目で追いかけている。
「さて、ではそろそろ本当に終わらせましょうか」
そう先輩が呟いたと思った次の瞬間、俺達の周囲を闇色の何かが覆いつくした。
「今から使用するものは衝撃が激しいですからね。みなさんを巻き込まないように少々細工をさせていただきました。なに、バリアのようなものだと思ってくださって結構です」
そっか、バリアかぁ。さすが先輩。こんな時でも気遣ってくれるんだなぁ。よく見れば、死神達にもちゃんと張ってやってるし。
「これ……バリアって言うか牢g……」
「言うな匙! 言うんじゃねえ!!」
それ言ったら終わる! 色々終わるから!!!
そうして、俺が頭に浮かびそうになる単語を追い出すのに必死になっている間に、先輩は音もなく滑る様な動きで俺達から離れていった。ブースターも吹かさず、まるで先輩の周りだけ重力が存在しないかのようにスルスルと。
―――ガコン!
―――何か、起こしてはいけないものが眠りから目覚めたのを感じた。
「……事象の地平に近づけば、相対時間が遅くなります」
―――先輩の鎧の胸部が開き、何やら得体にしれないモノが静かに収束を始めた。
「あなたにとっては一瞬でしょうが、こちらでは永遠です」
―――それは瞬く間に大きさを増していき、充分に膨れ上がったソレに、先輩は何かをささげるかのように両手を差し出した。
「事象の地平に消え去りなさい」
―――大地が裂け、激しく鳴動する。突き上げるような衝撃に立っていられなくなった。
「―――ブラックホールクラスター、発射!」
―――そうして、天に掲げたその闇を、先輩はまるで大切なものを差し出すかのように、邪神に向けて静かに放った。
「うおぉぉぉぉぉ!?!?!?」
最早先輩の周囲は完全に崩壊していた。それだけじゃない。放たれたその闇は進路上の砕け散った岩や大地を飲み込みながら一直線に邪神へと迫る。
―――クキャァァァァァァァァァ!!!
助けを乞うような甲高い悲鳴、それすらも闇は飲み込んでいった。直撃を受けた邪神はその勢いをとどめる事すら出来ず、闇と共に冥府の上空へとひたすら飛んでいった。見下ろせば、そこには自分が封じられていた神殿の跡地が見えるだろう。もっとも、今のやつにそんなもんを確かめる余裕なんざないだろうが。
ふと、邪神の動きが止まった。それは、あの闇もまた止まった事を意味する。まさか、あれで終わり? ……なわけがなかった。
「や、闇が……!」
誰の声かはわからない。けど、その震える声が言うように、闇はさらにその姿を巨大化させていく。
そうして、邪神の巨体をも飲み込むほどに成長したその闇は邪神だけではなく、崩壊したハーデスの神殿すら吸い上げる様に飲み込み始めた。
「う、うそ……まさか、本物の……」
「ブラック……ホール……」
最早何が起こっているのか理解できない。凄まじいという表現すら生温い衝撃と音にかき混ぜられながら、俺はひたすらペルセポネ様を庇いながら地面に伏せてこの時が終わるのを待っていた。
広がり続ける闇。だけど、終わりの瞬間はあまりにもあっけなかった。まるでため込んでいたかのような極大の閃光と爆発が周囲を巻き込んでいく。―――そしてその光は、バリアで守られながらも、誰一人立っている事すら出来なかった破壊の渦の中、何事もなかったかのように、ただそこに立つ神崎先輩を照らしていた。
………
……
…
五分? 十分? 三十分? それとも一時間? 時間の感覚がまるでない。誰も彼もが声すら出さず微動だにもしない。さっきまで目の前で起こっていた何もかもが現実味を感じられない。まるで、悪夢でも見ていたかのようだった。
けれど、崩壊した大地、飲み込まれた神殿、そして……チリ一つ残さずこの世から消滅した邪神。それらがここが現実だと嫌でも理解させてくる。
「は……はは……。もう、笑うしかねえや」
それ以外にこの感情を発する方法がわか……。
「……何がですか?」
「ひょわぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
いつの間にかバリアは解除され、俺のすぐ横に先輩がいた。この時、漏らさなかった俺を誰か褒めてください。
「せ、せせせせ先輩ぃ!?」
「はい?」
「ファッ! フェッ! しょ、しょの……そう! そうだ! 俺、どれくらい固まってましたか!?」
「固まって? ……ああ、確かに、声をかけても返事がないので気になっていましたが、せいぜい数分程度でしたよ」
「そ、そうですか。……スー……ハー……」
……よし、大丈夫。落ち着け俺。兵藤 一誠はやれば出来る男の子なんだ!
「と、とにかく! これで完全に完璧に間違いなく終わりですよね!? ね!?」
「ええ。あの邪神は責任をもって私が”処理”しましたのでご安心ください」
「ヒェッ……」
「それにしても……みなさん、座り込んで動こうともしませんね。やはり、相当無理をさせてしまったようで申し訳がありません」
「そ、そうっすね。もうちょっとそっとしておいてあげましょうよ」
「ええ。どうやら向こうも同じようですから」
向こう? ……ああ、死神のやつ等か。……うわ、もう先輩を見る目がやばい事になってる。死んだ目とかそういう次元じゃねえ。奥の方にいる何人かが腰を抜かしながらそれでも逃げようとしてるし。
その後、みんなが完全に立ち直るまでマジで一時間近くかかってしまった。それでも全員どこかフワフワした気分が抜けて無さそうだったが。そうして、場が整ったところで、いよいよペルセポネ様をハーデスに返す時がやって来た。
≪おお……おお……!! ペルセポネ! 我が愛! 我が半身!! 冥府の花よ! まさか、まさか再びこの手でキミを抱ける日が来るとは!≫
感極まった声でペルセポネ様をかき抱くハーデス。次の瞬間、信じられないことが起こった。
「うえ!?」
ハーデスの野郎の顔が、骸骨のそれから紫の肌の超イケメン顔に変貌した。え、アレがヤツの素顔だってのか!?
≪見よ! ハーデス様が『裁神者』のお姿から戻られたぞ!≫
≪うう、あのご尊顔を拝する事が出来たのはいつ以来だろうか……!≫
……そういえば、眼鏡の死神が『裁神者』がどうとか言ってたような……。
「え、何……!?」
驚きの声をあげる部長。その理由は、彼女の足元に突如として咲き乱れた奇麗な花だった。部長のところだけじゃない。さっきまで草すらなかったはずの俺の足元にもたくさんの花が咲き誇りはじめた。
「これは……ひょっとして、春の女神であるペルセポネの権能によるもの?」
「だな。っつーことは、そろそろ眠り姫様がお目覚めするだろうぜ」
みんなが見守る中、ペルセポネ様わずかな身じろぎの後、その瞼をゆっくりと開いた。
「う、ううん……」
「ペルセポネ!」
「……旦那様?」
「そうだよ! 僕だよペルセポネ!」
「旦那様」
「ペルセポネ!!」
「旦那様!」
「ペルセポネ! 我があ……」
「―――歯ぁ食いしばれやオラァァァァァァァァ!!!!」
ドバキャァ!!!!
「ぶべら!?!?!?」
「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」」」」」
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ。目覚めたペルセポネ様は、号泣するハーデスにそれはもう見事な顔面パンチを叩き込んじまった。じゃれつきとか、照れ隠しとか、そんなチャチなもんじゃぁ断じてねえ。もっと恐ろしい怒りの込められた一撃だったぜ。
寝起きだとか、邪神に取り込まれていた事なんか関係ねえとばかりに、ペルセポネ様はぶっ飛んだハーデスに馬乗りになると、その首元をキリキリと締め上げ始めた。
「……おい旦那様。アタシ言ったよな。アタシの事は気にせずあの気色の悪い肉塊をアタシごとぶっ壊せって、取り込まれる直前に、確かに、ハッキリと、目も合わせて言ったよなぁ?」
「そ、それは……」
「ああ!?」
「はい! 確かに聞きました!」
「ならなんで言うとおりにしねえんだボケが! あそこで始末してりゃ全部終わってたんだよ! テメエは嫁のお願いも叶えられない甲斐性なしなのかああ!?」
「うぐ」
「挙句の果てには、逆恨みして他の勢力のみなさんに迷惑までかけやがって! まあ、あんなもん放り込んできやがったあのジジイは絶対許さねえけど、それで悪魔のみなさん全体を恨むのは筋が通らねえだろうが!」
「な、何で知って……」
「全部聞こえてたんだよヌケサク! 自分らの住処の下に封印するとか馬鹿じゃねえのかテメエ!」
そこでハーデスから手を離すと、ペルセポネ様は今度は死神達へと鋭い目を走らせた。……どうしてだろう。あんな爆乳美女に馬乗りされてるのに、ちっとも羨ましくねえや。
「テメエらもテメエらだ! この陰キャが極端から極端に走るのは、嫁いできたアタシよりテメエらの方がよっぽどわかってんだろうが!」
≪で、ですがペルセポネ様! あなた様を失ったハーデス様の悲しみと絶望はそれほどまで深いもので≫
「……わかってる。わかってんだよそんな事。こいつの泣き言もずっと聞こえてたんだからよ。でも、その、なんかもっといい方法があったろ。それこそ、悪魔のみなさんに事情を話すとか、それに抵抗があるならこいつの兄貴らに相談するとかそういうのがさぁ」
≪……あ!≫
その手があったかとばかりに目を見開く死神。それ見て青筋を立てるペルセポネ様。
「あ! じゃねえんだよ、あ! じゃ! プルートは!? プルートはどうした!? アイツがいてなんでこんな間抜けな事に……」
≪プ、プルート様は、その……冥界に侵攻した挙句、現地の悪魔に返り討ちにあったそうでして≫
「ぐ、ぎ、ぎぃ……!」
あ、やべえ。そろそろ落ち着かせないとペルセポネ様の血管が切れそう。
≪お、落ち着いてくださいませペルセポネ様! ……そ、そうだ! 今は冥界より羽付き達も来ております故、彼奴等も交えて話を……≫
「あん?」
うわ、とうとう俺達まで出汁につかいやがった。それはそうと、ペルセポネ様は死神の指さす方、つまり俺達の方へゆっくりと振り返った。
「やあ、女神ペルセポネ。目覚めたばかりで心配していたが、元気そうでなによりだ」
「……なるほどねぇ。滅多に人前に出てこねえ理由が何となくわかっちまったなぁ」
「……」
サーゼクス様やアザゼル先生の言葉に反応しないペルセポネ様。どうしたんだろう。まさか、今になって体のどこかに不調が……?
「……こ」
「こ?」
「……こ、怖かったですわ、旦那様ぁ~ん」
先ほどまでのドスの効きまくった声と同じ声帯から発せられたとはとても思えない、甘ったるい声色と共にハーデスにしなだれかかるペルセポネ様。―――その時、俺達の心は一つになった。
「「「「「「「「「「いや遅い(わ)(よ)(です)(だろ)(っす)!!!!!」」」」」」」」」」
ありったけの声で、俺達はそうツッコんだ。
「……や〇え姉さん」
その時、先輩も誰かの名前を呼んでいたのだが、俺達の声にかき消され、誰の耳にも入ることはなかった。
………
……
…
「……それで、これからどうすんだ」
ペルセポネ様が体調が優れないとの事でその場から離れた所で(絶対元気だと思うけど)、アザゼル先生が死神達を見遣る。
「邪神なんつーイレギュラーが出てきたが、そいつも片づけた。どうする? お前らとフューリー……改めてやり合うか?」
……そうか。この戦い、元々は先輩と死神達のものだったんだっけ。邪神の出現から今までの怒涛の流れですっかり記憶から消えてたわ。
「……いや、その必要はない」
美男子モードのハーデスが静かに頭を振る。そして、ヤツは武器である鎌をその場に置くと、次の瞬間目を疑う行動をとった。
「っ……!?」
ハーデスが先輩の前に跪く。ハーデスだけじゃない。他の死神達も、まるでそうするのが当然とばかりに主と同じように跪いた。
「……人の子。いや、騎士殿。邪神を滅ぼし、再びこの冥府に花を取り戻してくれた貴殿の偉業。このハーデス、最早貴殿に贈る相応しい言葉さえ紡ぐことはできません。……故に、今この時をもって、我ら冥府は貴殿の元に下ります」
冥府の主神、ハーデスによる全面降伏。たった一人の人間に恭順を示したその宣言は、神崎 亮真という人間が、三大勢力どころか、あらゆる神話体系にその影響を及ぼし始めるきっかけとなったのだった。
なお、当然のごとくカテレアによる撮影によって、わずか数分後には冥界に「速報、フューリーこと神崎 亮真氏に対し冥府が全面降伏する」とニュースが流れることになります。
にしても、我ながらやり過ぎたかな。けど、この章は最初からブチ切れオリ主に自重させないのと決めていたので、こんな感じになってしまいました。
そして、後半少しだけしゃべったオリキャラのペルセポネ。最初はアイマスのあずささんみたいなおっとりキャラだったのですが、ハーデスについて検索したら隠キャって出たので、なら違うかと考えた末にあんな感じになってしまいました。