大空の影になりたい夜の子の話   作:雪の細道

24 / 31
23:勧誘とお客様

「さて、そろそろ行かないと」

 

並盛中への転校初日、早めの支度を済ませた桜は新しい制服に身を包み立ち上がる。

 

転入届けを出した日に受付の女性から遅刻欠席に関する注意をされたが、まさか初日にそんなことをするわけにはいかない。

 

気を引き締め玄関を出ようとドアノブに手をかけると、ポケットに入れたスマホから微細な振動が伝わる。

 

不思議に思いつつ通知を開くと、そこにはリボーンからただ一言「ツナにトラブルだ」とだけ記載されていた。

 

”風邪をひいたのかもしれない──。”

 

とっさにそんな心配事が頭をよぎり、桜はすぐさま学校へと連絡を取る。

 

「もしもし 今日転入予定の……はい、はい

えぇ、ちょっと身内にトラブルがありまして……はい、ご迷惑おかけします」

 

何も嘘はついてないので罪悪感などはまるでないが、大好きな兄に一大事とあっては、たとえ転校初日と言えど桜にとっては後回しにする他ない。

 

連絡している間にも沢田家へ全速力で向かうと、ほど近い距離の登校ルートにリボーンの姿を視界に捉えた。

 

「おはようございます、リボーンさん」

 

静かに息を整えつつ挨拶をするとリボーンはニヤリと口角を上げた。

 

「ずいぶん早かったな」

 

「もちろんです。それでトラブルとは……?まさか発熱とか──」

 

「いや 寝坊だ」

 

あっさりと言われ思わず肩のカバンがずり落ちる。

 

「……寝坊?」

 

「そうだぞ。今頃はママンに叩き起されてる頃だろうな」

 

一大事だと思って駆けつけたにも関わらず、まさかの内容をしれっと宣う赤ん坊に呆れの感情を抱いてしまう。

 

しかしただの寝坊で良かったと何とか思い直し、全速力で走ったために乱れた前髪を梳いて何事もなかったように平静を装った。

 

リボーンの言葉に一喜一憂して感情を乱されていてはこれからの人生きっとついていけないだろう。

 

はらわたで沸き上がりかけた仄暗い気持ちを抑えながらも、ツナの普段のスケジュールを脳内で思い浮かべつつ溜息混じりに言葉を返す。

 

「まあそれはそうですよね……ここの道を5分前に通ってないと間に合わない時間ですから」

 

腕時計をチラリと見ると普通に遅刻してもおかしくない時間を指していた。

 

全力で走れば間に合う可能性もあるが、今からやっと起床するとなればそれも難しいだろう。

 

「それで……リボーンさんはここで何を……?」

 

「オレか?オレは10分後に通るツナを待ち伏せしてるんだ」

 

わざわざ待ち伏せするとは何を企んでいるのか。

 

数秒ほど思考を巡らせ、行き着いた予想に”ああ”と嘆息を漏らす。

 

「死ぬ気弾を撃つおつもりですか」

 

「よく分かったな。アイツのことだ、間違いなく遅刻を確信して諦めモードでちんたら歩いてくるだろうからな」

 

そんなことするなら起こしてあげればいいのに、と言いそうになるのを堪え、それもリボーンの教育方針なのだろうと無理やり納得する。

 

「ところでお前、死ぬ気弾のことはどこまで知ってる?」

 

唐突に質問を投げかけられ桜は驚いたようにリボーンの顔を見た。

 

「どこまで、と言われましても。実はこんな影響が~とか新発見がなければ全て勉強済みですよ

……まさか、もうすぐ十発目とか?」

 

答えつつも脳内でリボーンが家庭教師になってから使ったと思われる死ぬ気弾のアレコレを思い出すと、ひとつの事実を思い出す。

 

着任してからの日数と予想できる頻度から察するに答えはそれしかないだろう。

 

「そうだ。死ぬ気弾をあと二発ぶち込めばちょうど十発目だ。明日か明後日あたりにツナの身に何かが起きる」

 

死に目には呼んでやるよ、と不謹慎な言葉を付け加えたリボーンに爪の先ほどの殺意を覚える桜。

 

「……分かりました。とりあえず死ぬ気弾を打つのは確定でしょうから、その”何か”が起きたらすぐ呼んでください」

 

思わずため息が出そうになるのを我慢し静かに言い放つとリボーンはやや驚いた表情を浮かべる。

 

「思ったより冷静だな。命をかけても守りたい家族なんだろ?」

 

「それはもちろんですよ。でもリボーンさんが預かった生徒なんですから、そこは何か起きても腕利きの医者を呼ぶとか、何とかしてくれると思ってますので」

 

リボーンへの信用と責任を口にする桜に再び口角を上げるリボーン。

 

「言ってくれるじゃねーか」

 

「リボーンさんからよく学ぶようにと、九代目のお墨付きをいただいてるので

そしてこんなことを話してるうちにそろそろ10分が経ちますよ。リボーンさんの予想通りツナの足音が聞こえてきました」

 

沢田家の方角を見つめ、立っていた塀からひらりと飛び降りる。

 

「やっぱりツナには会っていかないのか」

 

「もちろんです。あくまでも転入生としてあの教室で会うのが本来の計画(シナリオ)なので」

 

それでは、と一礼すると桜はスタスタと学校の方へと歩いていった。

 

「計画(シナリオ)か……九代目は桜に何の任務を与えてるんだ」

 

訝しげに眉をひそめているとツナが気怠げな様子で歩いてきた。

 

「はーあ 始業式からねぼーだよ

こりゃーどう急いでも遅刻だな」

 

完全な諦めモードでぶつぶつと呟くツナにやれやれといった様子で銃を構える。

 

「やってみなきゃわかんねーだろ?」

 

「げっ おまえ! ちょっタンマ!」

 

気づいたツナが慌てたように身構えるものの、時既に遅く死ぬ気弾が放たれた。

 

恒例の下着一枚になり爆走する途中で声をかけた笹川了平を気づかずに引っかけ、無事に学校へたどり着いたのを遠目に桜が見つめる。

 

「ツナは間に合った、と……なんかついでに他の人引っかけてるみたいだな」

 

スマホに報告書の過程を打ち込み、ツナの右手にぶら下がる笹川了平を半ば感心したように観察を始めた。

 

死ぬ気モードで爆走するツナに振り切られず、しっかりと手を掴む握力とフィジカルに興味をそそられたのだ。

 

「確か二年のボクシング部主将だっけ」

 

生徒のデータを脳内で思い出すタイミングで、ちょうど笹川了平がツナを勧誘し始めた。

 

妹から聞かされる話に食指が動いたらしい。

 

可愛らしい声が響き、笹川了平が呼応して出てきた名前にツナが振り向くと、兄のカバンを抱きかかえて笹川京子が走り寄る。

 

「あ……ツナ君おはよ!」

 

会話の流れでどうやら兄妹だと知ったツナは驚愕するが、遠目に観察する桜も驚きに口を開けていた。

 

「あの熱苦しい笹川了平とあの子が兄妹……へえ……」

 

しかしツナと桜が驚くのはそれだけではなかった。

 

熱い自己紹介をした勢いのまま、笹川了平はツナへボクシング部の勧誘を超えて歓迎の挨拶をしたのだ。

 

戸惑うツナを置いてきぼりにさっさと話を進めた了平は、ひとり満足気に放課後また会えることを楽しみに去っていく。

 

断り損ねたツナを他所に、笹川京子も嬉しそうに兄を自分のことのように喜ぶ様子を見せた。

 

片思いの相手がそこまで喜んでいてはツナはますます断りにくいだろう。

 

困惑しているツナに気づくこともなく、笹川京子はお先に!と教室へ向かっていった。

 

「ツナ、そんなに運動も得意じゃないもんね……」

 

チャイムの音を聞いて慌てて予備の制服を手にして着替えに走っていく背中を、憐れむように見つめる。

 

「何をそんなメソメソした顔してんだ」

 

しれっと横に居座るリボーンが桜の変わった表情を不思議そうに眺める。

 

「……もしかしてですけど、こういうのも見越して死ぬ気弾撃ったんですか?」

 

「さーな ただ遅かれ早かれ、笹川了平がツナに目をつけるのは必然だっただろうな」

 

のらりくらりと交わされ桜はいまいち納得のいかない様子だ。

 

「そんな顔すんな。オレも笹川了平は気にかけてたからな あの性格は後ろ向きなツナを良い方向に引っ張ってくれるだろうと思ってるんだ」

 

「リボーンさんがそこまで言うなら信頼のおける人物なんでしょうね とにかく放課後を待って期待しますよ」

 

並盛に来たばかりで並中生の全てを把握しきれないため、リボーンの発言を信用して賭けてみようと桜はひとり納得した。

 

 

───…………

──………

 

「不味いことになったなぁ……」

 

渋い顔で呟く桜の視界に四人の来客が入り込む。

 

この学校という場には到底似合わない、下卑た笑いを浮かべる客人に桜は面倒くさそうにため息を零した。

 

「なぁ、嬢ちゃんよぉ あんたカタギじゃねえだろ」

 

「オレたち、あっこにいるボンゴレ十代目候補に用があるんだが、ここを通しちゃくれねえかい?」

 

各々が手にする獲物と風貌からしてどうやら裏社会の人間のようだ。

 

しかしそれよりも、桜がまず気になったのは先ほどのセリフだ。

 

客人は”ボンゴレ十代目候補”と発言した。

 

「あなた方、ここにボンゴレ十代目候補がいることをどこで知ったんですか?」

 

答えようによっては殺さず吐いてもらうことになる。

 

そんな桜の思惑を見透かしてか、客人はニタリと口角を上げた。

 

「気になるかい?そうだな……嬢ちゃんが相手してくれるってんなら答えてやってもいいぜ」

 

相手の実力や立場も知らずに交換条件を出してくるその無能さに、桜は呆れたように肩を落とす。

 

「困りましたね、私これから大事な用があるのに」

 

想定外の刺客ではあるものの、こういう緊急事態に備えて装備は整えてあるため桜も愛用の武器を構えた。

 

「いいねいいねぇ!そうこなくっちゃあ!」

 

「オレたちは通してくれるだけでいいのになぁ

見た目によらずやる気満々で嬉しいぜ」

 

「何の用事だか知らねえが、本当に命知らずな嬢ちゃんだ!!」

 

楽しそうに笑いながら一斉に飛びかかる刺客達に、桜は再びため息を零した。

 

「全く、命知らずは一体どちらでしょうね。

仕方ありません、愛しい愛しい”お兄ちゃん”のためにも吐いていただきましょう」

 

 

 

───…………

──………

 

「うぅ……」

 

砂埃が舞う校内の一角で三人の男達が呻き声を上げ伏していた。

 

その傍らには、真っ黒な猫耳をぴろぴろと動かす少女が佇んでいる。

 

「くそっ……嬢ちゃん……やけに強いと思ったらアレだろ、”ギルティネ”だな」

 

変身を解いて先ほどと同じ姿になる桜に、男の一人が息も絶え絶えに呟いた。

 

「……なんですか、それ?人違いじゃないですか」

 

「どうだろうな。オレの出身でもある東欧では、ギルティネっていう死の女神のようだと恐れられた殺し屋の少女がいるともっぱらの噂さ」

 

「ご大層なお噂ですね。でも私はそんな大それた二つ名をつけられるほど実力はありません。

それより大事な用事あるんでしばらく寝ててください」

 

部室に仕掛けた盗聴器から通じるイヤホンを耳につけると、どうやら死ぬ気弾を打たれたツナと笹川了平がボクシングで決着をつけているところのようだ。

 

想い人に嫌われるのを恐れて死ぬ気弾を撃たれるのを拒否するかと思っていたが、リボーンは一体どんな手を使ったのかと双眼鏡で覗き込むと何故かゾウの被り物をしている。

 

「何してんのあの人……」

 

日本に来る前、九代目から手紙で聞く”リボーンさん”はコスプレが趣味という印象を受けたものだが、まさかこういう時にコスプレしてるとは予想外だった。

 

しかもコスプレしたリボーンの正体に気づいているのはツナだけのようだ。

 

それが何の意味を持つのか桜には分からず、きっとこれも教育の一環なのだろうと自身を無理やり納得させた。

 

よくよく見ればツナだけではなく笹川了平も死ぬ気弾を打たれているらしい。

 

しかしツナと同じように額に炎を灯しているものの、笹川了平は特段何の変化も見られない。

 

どうやら普段から死ぬ気な人には死ぬ気弾を撃ったところで全く効果を発揮しないようだ。

 

予想外の結果に興味本位で撃ったらしいリボーンも面白そうに口角を上げた。

 

「笹川了平 たいした奴だな」

 

ツナの死ぬ気になったきっかけは、やはり入部を断れなかったのが後悔の原因のようだ。

 

入部を断りたい一心で凄まじいスマッシュを交わすツナと、とにかく入部させたい笹川了平の猛攻で周囲のギャラリーは驚くようにざわめく。

 

「かわすツナもすげーが、あのラッシュも常人のもんじゃねーな……」

 

「ありゃあ殺し屋のそれだ……」

 

「そんなことある?」

 

山本武の感想に乗ってやや違う方向から呟いた獄寺隼人に、その場にいないはずの桜が思わず素でツッコむ。

 

激しい攻防の末、決着はツナの右ストレートであっさり決まる。

 

その勢いで飛ばされた笹川了平は窓ガラスを突き破ってしまった。

 

「わぁ、ツナすごい!ていうか笹川了平は大丈夫なの……?」

 

双眼鏡で笹川了平の姿を探すと、出血しながらもツナを気に入ったらしく、迎えに行く宣言をしていた。

 

つくづくタフな人間のようだ。

 

殴って流血までさせたのに逆に好かれてしまったことにツナは違う意味で引いている。

 

「まあスポーツ好きで前向きな人は好感持てちゃうんだろうな」

 

ファミリーに入らないかと逆スカウトするリボーンに苦笑しつつも、これで一件落着したと安心しイヤホンを取り外す。

 

「さて、余計な邪魔が入って半分ほど見逃したけど、無事にちゃんと終われて良かったな」

 

「で?オレたちはこれからボンゴレに回収されて拷問を受けるってことかい?」

 

それなりの重傷を負いながらも喋り続ける男に桜は呆れたように肩を落とした。

 

「そんな拷問なんて物騒なことしませんよ。ちゃんと丁重におもてなしして喋っていただきます」

 

「そうか。そりゃ残念だったな」

 

「?どういうことでしょうか」

 

合点のいかない顔をする桜に男は愉快そうに口元を歪ませる。

 

「オレたちは敵に捕まったとしても情報が吐けないように仕組まれてるのさ」

 

「あー、拷問に耐えられるようにそういう訓練を仕込まれてる的なあれですね。ほんと拷問じゃないんで安心してください」

 

「そんなありきたりな話じゃねえよ。まあいい、そのうち分かることだ」

 

男の話に耳を傾けながらもボンゴレの回収班に連絡を済ませ、桜はテキパキとその場の後片付けを始める。

 

「なあ、ギルティネ……」

 

出血で弱まる男の声が桜の背中を優しく撫でた。

 

人違いを指摘するのもいい加減疲れ、チラリと視線を投げると東欧人種特有の青い瞳とぶつかり合う。

 

「あの世界最強のヒットマンにも、よろしく言っといてくれ……」

 

ゆっくりと閉じられていく目に桜の訝しげな表情が反射する。

 

「リボーンさんがいると分かっててわざわざ襲ってきた……?」

 

無謀なことをあえて狙ったとも思えず、ひとつの疑念が桜の心中に居座った。

 

そのイレギュラーは果たして偶然か、それとも必然か。

 

喉に刺さる魚の小骨のような違和感を覚えつつ桜は一日を終えるのだった。

 

 

 

 

___to be continued.




*後書き*
約2ヶ月ぶりの更新です。唐突な告知ですが、来たる2月22日土曜日にジュゲムジュゲ夢というオンラインイベントに出ることになりました。
開催日が猫の日(にゃーにゃーにゃー)なのでこれはもう出るしかないと思い、本編と同時進行でヒィヒィ言いながら参加することにしました。
内容はほぼ既刊になりますが、新作(非夢)をアンケートのリクエストにお応えして出す予定です。
あと余力があればネップリに挑戦します。詳しくは活動報告にて後ほど上げます。

それではここまで読んでいただきありがとうございました!
よろしければ感想に"(ノ*>∀<)ノをお送りください。泣いて喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。