大空の影になりたい夜の子の話   作:雪の細道

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26:風紀委員長へご挨拶

転校四日目。

 

初日と二日目で多少のトラブルがあったものの、三日目の昨日は特に何もなく平和で穏やかな一日で終わった。

 

「今日も平穏だといいなぁ……」

 

学校までの道程でぽつりと呟いた桜の横から悪魔の囁き、もといチャーミングな声が響く。

 

「ちゃおっす」

 

「おはようございますリボーンさん」

 

メールを寄越すでもなく、わざわざ出向いてくるとは ──。

 

(「なんだか悪い予感がするなぁ……」)

 

その感情がうっすら出てしまったのか、表情の機微を読み取ったリボーンがニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。

 

「お昼休みにツナ達連れて応接室に行くぞ」

 

「そんなところに何の用があるんです?」

 

「なんだお前、覚えてないのか」

 

「??」

 

不思議そうに首を傾げる桜にリボーンは呆れたように見つめる。

 

「まあ一ヶ月も前のことだしな。オレに雲雀恭弥の話してただろ」

 

「あっ」

 

転入届を出した一ヶ月補ほど前に、リボーンに雲雀恭弥に関する情報をさりげなく漏らしていたのを忘れていた。

 

「そういえばそんなお話もしましたね」

 

「あぁ。それで昨日の放課後にあった委員会の様子を探ってきた」

 

「……!それで、どうでしたか?見たんですよね彼を」

 

「おもしれー奴だ。ファミリーに一人は欲しいタイプだなアレは」

 

愉快そうに口角を上げるリボーンに桜は苦笑する。

 

「勧誘もいいですけど、あんまりツナに怪我させないでくださいよ」

 

「それはあいつ次第だ。まぁ骨折程度には収めてやるよ」

 

相変わらずスパルタな姿勢に思わず小さく身震いをさせた。

 

(「応接室行く辺りのタイミングで緩衝材でもあげようかな……」)

 

静かに決意を決めて桜は校門をくぐるのだった。

 

 

ーーー…………

ーー……

 

「準備してたら遅くなっちゃった……ツナ達まだ屋上いるかな」

 

綱吉が怪我をしないようにと、普段の男装と装備に加えて緩衝材や簡単な救急用品を入れるのに手間取ったために、お昼休みはすでに半分を過ぎている。

 

静かに息を整えて屋上に出るとリボーンは何故かイガ栗のコスプレに身を包み綱吉にチクチクと攻撃していた。

 

「何やってるんですか……」

 

「ちょうど朔夜も来たとこだ。ファミリーのアジトを作るぞ」

 

「はぁ!?」

 

素っ頓狂な声を上げる綱吉に反して山本はいつも通りのポジティブさで受け止める。

 

「へー、面白そうだな。秘密基地か」

 

「子供かおめーは!」

 

未だリボーンのマフィア絡みの話をゴッコ遊びの一環としてしか認識していない山本に、事情が分かっている獄寺が鋭いツッコミを入れた。

 

しかしそんな彼もアジトを作るという事に関しては前向きなようだ。

 

ただ一人、マフィア関連には後ろ向きな綱吉を置き去りに話はとんとん拍子に進んでいく。

 

そしてアジトの選出場所としてリボーンが応接室の良さを説明すれば、二人は完全にアジト作りに魅了されてしまっていた。

 

「まずは机の配置変えからだな」

 

「オレ10代目から見て右手の席な」

 

もはや肝心の綱吉など忘れてしまったかのように連れ立って応接室へ向かう一向。

 

「あれでいいのですか?もっとご自分の意見を言っても獄寺様ならお聞きしてくれるのでは……」

 

「いや~……二人が楽しそうだし、わざわざ水を差すのもなって……」

 

助け舟を出そうと声をかけるが、やはり心優しい綱吉は二人の邪魔はなるべくしたくないということだろう。

 

「では私がお力になれそうな時は全力を尽くすので、いつでも声をかけてくださいね」

 

「うん、ありがとう」

 

へにゃりと眉尻を下げて笑う綱吉に釣られて微笑むと背後からリボーンの声がかかる。

 

「おい朔夜、あんまりツナを甘やかすなよ。コイツのためにならなくなる」

 

「なっ!余計なこと言うなよリボーン!」

 

「ご心配なさらずとも大丈夫ですよリボーンさん」

 

そうこうしているうちに一行は早くも応接室の前にたどり着いた。

 

先を歩いていた山本と獄寺が中に入ろうと扉の前まで来たところで、後方の桜がある気配に気づく。

 

室内から漏れるその並々ならぬ気配に鳥肌が立つのを感じ、桜は隣を歩いていたリボーンにこっそりを耳打ちをした。

 

「あの、リボーンさん……どうやら中にどなたかおられるようですが……?」

 

「あぁ分かってるぞ。関係ない、続行だ」

 

誰もいないものだと思って向かったのに、まさか先客がいる上にそれも知っていたとは思わず、桜はドン引きするように冷や汗を垂らす。

 

そして桜はこの一連の流れであることに気づいた。

 

(「今朝の応接室の話と雲雀恭弥……そしてリボーンさんが先客がいるのを分かってて接触させたい人物……まさか、中にいるのは」)

 

悪い予想が脳裏を掠めるよりも早く山本と獄寺が不用心にも扉を開ける。

 

「へ~~、こんないい部屋があるとはね──」

 

中の先客に気づいたのは先に一歩入った山本だった。

 

「!」

 

「君 誰?」

 

学ランを羽織る黒髪の少年に、山本はある噂を思い浮かべていた。

 

《風紀委員長でありながら不良の頂点に君臨する》

《”ヒバリ”こと雲雀恭弥──》

 

その噂は並中生なら一度は耳にし、教師も含めた誰もが畏怖の念を抱くほどの有名な人物だ。

 

”これはやばい”

 

瞬時にそう悟った山本は、相手が誰かも知らず入ろうとする獄寺を思わず制止した。

 

「リボーンさん、なんかまずそうな雰囲気ですけど……」

 

「続行だな。なんならお前は手出し無用だぞ」

 

見えずとも分かる、そのただならぬ空気に助言を仰ぐがリボーンの答えは先ほどと変わらない。

 

そればかりか手出し無用という、まるで行動を制限するかのような指示まで出される。

 

しかしその一方では雲雀恭弥は獄寺の喫煙に目をつけ、タバコだけを的確に仕込みトンファーで消し飛ばしたことでその圧倒的な強さと身のこなしを見せつけていた。

 

雲雀恭弥の殺気に空気がピリつき山本と獄寺が恐怖に駆られたところで第三者の明るい声が響く。

 

「へーはじめて入るよ、応接室なんて」

 

ただ一人危うい空気を純粋に分からない綱吉が警戒心ゼロで応接室へ踏み込んだ。

 

「まてツナ!!」

 

「え?」

 

(「まずい!」)

 

背後の隙間から様子を窺っていた桜は、雲雀恭弥の動きで次に何をするかを察する。

 

しかし山本の制止も間に合わず綱吉はトンファーの一撃を頬に食らってしまった。

 

それに激昂した獄寺と山本が向かっていくが、不良の頂点に立つほどの雲雀恭弥には全く歯が立たない。

 

「ごっ……獄寺くん!!山本!!なっ、なんで!!?」

 

ほんのわずか気絶している間に二人が倒れていることに驚きを隠せない綱吉はただ混乱するばかりだ。

 

「起きないよ。二人にはそういう攻撃をしたからね」

 

「え”っ」

 

困惑する綱吉に雲雀恭弥は不敵な笑みを見せる。

 

「ゆっくりしていきなよ。救急車は呼んであげるから」

 

綱吉は孤立無援と同等のピンチな上に、山本と獄寺は倒されてしまっている。

 

(「こんな状態になってるのに手出し無用って……しかもリボーンさんはさっきの今でもういないし、どこに行ったの!?」)

 

いつの間にやら姿を消していたリボーンを探しつつチラリと応接室を覗き込むと、ちょうど窓の外からブランコのような物に乗ってリボーンが降りてくるのが見える。

 

「死ね」

 

そのまま構えた拳銃から、驚く綱吉に死ぬ気弾を打ち込んだ。

 

「うおぉおぉっ!!死ぬ気でおまえを倒す!!!」

 

「何それ?ギャグ?」

 

下着一枚の状態で現れた綱吉に雲雀恭弥は何かの冗談だと思ったのか、半笑いで単調な攻撃をひらりと躱す。

 

鈍い衝撃音と共に顎へ反撃を食らい綱吉が倒れる様を桜はまたも眺めるしかできなかった。

 

しかし手出し無用の命令を破るわけにもいかず、桜は焦るように向こう側のリボーンを見つめた。

 

(「リボーンさん……まだダメなんですか?」)

 

アイコンタクトで許可を促すが、リボーンからの応答はやはり”No”である。

 

それはきっと自分の生徒が成長する機会を邪魔をされたくないのでろう。

 

しかしこのまま家族が不本意に傷つけられるのも桜にとっては耐え難い苦痛でもあった。

 

もどかしい状況に焦る桜の頭に、ふいに小さな紙飛行機がコツンと当たる。

 

”ツナの反撃はこれからだ。余計な心配すんな”

 

リボーンの字で綴られたその文にやっとほんの少しの安堵を抱く。

 

そしてリボーンの言った通り、事態は目に見えて好転していた。

 

不意を突いた反撃から、さらにレオンを変形させたスリッパで漫才のツッコミの如く頭をはたく。

 

軽く脳震盪でも起こしているのか、フラフラと足元がおぼつかない雲雀恭弥。

 

「…………ねえ……」

 

スイッチが入ったかのように鋭く睨みつける彼の眼力に綱吉はピクリと身構えた。

 

「殺していい?」

 

ふざけた戦い方が気に触ったのか、それとも自身が劣勢になったことへの苛立ちなのか先ほどまでとは違う雰囲気の雲雀恭弥へ第三者の声が響く。

 

「そこまでだ」

 

(「やっとお出ましか……」)

 

今か今かと待ち望んでいたヒットマンの登場に桜は密かにため息を零した。

 

「やっぱつえーな、おまえ」

 

虫の居所が悪い雲雀恭弥はリボーンを黙らせようとトンファーで一撃を入れるものの、それはリボーンの十手によりあっさり阻まれてしまう。

 

予想外の展開に楽しげに雲雀恭弥は笑うが、リボーンの手には既に導火線に火がついた爆弾が握られていた。

 

「おひらきだぞ」

 

それを合図に桜もサッとサングラスをかける。

 

こうしてアジトを作るための応接室訪問は、強烈な爆発音と共に終わりを告げた。

 

「けほっ……”合図したら後は頼んだ”なんて、随分な御方だなぁ……」

 

先ほど受け取った手紙の指示通り、後を任され残ったものの桜はげんなりとした様子だ。

 

「まさかとは思うけど、この後片付けのことじゃないよね?」

 

桜の見渡す先には先程の爆発で、ガラスの破片や校舎内の破損した壁の一部などが散らばっていた。

 

とは言っても、ここが学校であることを考慮してかなり軽めの爆弾だったため、被害は最小限に抑えられている。

 

「まあいいや。せっかくだし雲雀さんにも転入の挨拶しておこう」

 

しかしふと窓ガラスに映る自身を見つめ、ある違和感に気づいてしまう。

 

それは学生証の写真と今の姿が違うことだ。

 

沢田綱吉の影武者として登録してしまったがゆえに、クラスメイトに種明かしをした後の変装を解いた姿と一致していないのだった。

 

「これはまずいな」

 

急いでウィッグを取り出し整え、いざ応接室の扉を開けようと手をかけたところで中から独り言が響く。

 

「あの赤ん坊 また会いたいな」

 

よほどリボーンのことが気に入ったのだろう。

 

期待を含んだ声色に思わず笑みがこぼれる。

 

桜もリボーンと出会ってからまだ日は浅いが、それでも実力を目の当たりにして”もっと勉強したい”と思うには十分な経験をした。

 

「とても強いですよね。私も尊敬してるんですよ」

 

抑えきれぬリボーンへの尊敬を口にしながら桜は応接室へと踏み入る。

 

先ほどリボーンがいた窓辺で名残惜しそうに外を眺めていた雲雀恭弥は、思いもよらぬ二度目の来訪に口角を上げた。

 

「ワォ。今日はお客さんが多いね」

 

他の生徒とは違う空気を感じ取ったのか、既にその手にはトンファーが握られている。

 

しかし逆光のためか桜の顔は認識できていないらしく、愉快そうな口元とは裏腹に目には若干の不審さが窺えた。

 

(「本当に昔と変わらず好戦的だよなぁ」)

 

かろうじて残る過去の記憶で思い出される小さな彼と、目の前で臨戦態勢になる彼を重ね合わせ懐かしそうに顔を緩ませる。

 

コツコツとローファーを鳴らし、近づくほどに肌でピリピリと感じる雲雀恭弥の気配は昔と変わらないものだった。

 

「初めまして、風紀委員長さん。私の名は──縹 朔夜と申します。遅ればせながら転入のご挨拶に参りました」

 

恭しくお辞儀をしたものの、顔を上げると何故か首元にはトンファーが突きつけられている。

 

「君、何のつもり?」

 

先ほどの機嫌が良さそうな雰囲気から一転して何故か雲雀恭弥の眉間には皺が寄っていた。

 

明らかに何かお気に召さない様子に桜は戸惑う。

 

「えっと、”何のつもり”とは一体……?」

 

「とぼけてるの?そのふざけた格好と名前のことを聞いているんだ」

 

瞬時に変装を見抜かれたことに内心焦るが、正式な手続きがあった証明として懐から学生証を出してみせる。

 

「ふざけてなどいませんよ。ほら、こうして学生証にもしっかり名前と写真が──」

 

「そんな作りの甘い偽造で僕の目が誤魔化せるとでも?」

 

依然として首元を押さえるトンファーの力は全く弛む気配もなく、雲雀恭弥は鋭い目つきで睨みつけている。

 

「それでは風紀委員長さん、貴方には私の何が見えておられるのですか?」

 

半ば煽るように問いかけると、雲雀恭弥はまるで愚問かと言わんばかりにフッと鼻で笑う。

 

「どう見たって丸わかりでしょ。君の髪はウィッグで、しかも男に見せかけてるけど女だ。……それに名前も偽名だね。本当の名前は沢田 桜だろ」

 

「……これは困りましたね、全て正解です」

 

桜があっさり事実を認めると雲雀恭弥は満足したようにトンファーを下ろした。

 

「さて、およそ十年ぶりの再会というわけだけど。説明はするんだよね?」

 

気圧されるような眼力に根負けした桜は今までのことをかいつまんで語った。

 

しかしあくまでも裏社会のことは伏せ、表向きに用意した経緯までのことだ。

 

(「マフィアのことはリボーンさんが話してくれるし、ね」)

 

「ふぅん それであの赤ん坊が保護者としてついてるわけか」

 

気になる要素があるのか何か考える素振りを見せるが、概ね納得してくれた様子に桜はホッとため息をこぼした。

 

「それにしても、まさか雲雀さんが私のことを覚えててくれてたとは思いませんでした。てっきり忘れてるものかと」

 

「何?僕のことバカにしてる?」

 

記憶力は悪くないからね、と不満げに漏らす雲雀恭弥にくすりと笑みを浮かべる。

 

「まあ風紀委員なんて大変なお仕事、記憶力が悪かったら務まりませんもんね」

 

やれやれと爆発で擦り切れたソファーに座る桜に、雲雀恭弥は驚愕の発言をする。

 

「じゃあ君もやるといい」

 

「……今なんと?」

 

「風紀委員の仕事を君にもやらせるよ。制服はあとで副委員長に届けさせる」

 

「あの、私はやるとは一言も言ってませんが」

 

「そうだね。僕が今決めたから」

 

唖然とする桜を置いて雲雀恭弥は早くも次の行動に移している。

 

「あの~……拒否権とか」

 

「あるわけないでしょ。君の用事はもう終わったよね?早く帰りなよ」

 

どうやら本当に拒否も文句も受け付けないのか、散らかった書類を片付けつつ雲雀恭弥は素っ気なく言い放つ。

 

「えっと……じゃあお世話になります……」

 

「うん。赤ん坊によろしくね」

 

雲雀恭弥が自身を覚えていたことに嬉しさを感じながらも、前途多難な学生生活の始まりに桜は人知れず深いため息を零すのだった。

 

 

 

___to be continued.




*後書き*

ここまで読んでくださりありがとうございました!
ついに桜が雲雀さんと感動(?)の再会をしました。雲雀さんって、自分以外のことに関してはあんまり記憶に留めておかないタイプだろうなとは思うんですが、原作見てるとリング争奪戦とか未来編あたりとかなんだかんだ周りを気にしてたりするから、まあある程度認めた人間は覚えていそうだな〜と思って桜のことも覚えてる流れにしました。
ていうか1人くらい覚えててくれてる人欲しいし()

そんなこんなでやっと26話でした。更新が遅くて大変申し訳ないです。
ちょっと執筆ペースが早くなったので、今月か来月あたりには月2回更新にするのが目標です。ぜひお楽しみに!
それではまた次回!ありべでるち!
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